特許第6248060号(P6248060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248060β−Ga2O3系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法、及び局所的な導電性領域を備えたβ−Ga2O3系単結晶体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248060
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】β−Ga2O3系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法、及び局所的な導電性領域を備えたβ−Ga2O3系単結晶体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/425 20060101AFI20171204BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20171204BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   H01L21/425
   C30B29/16
   H01L21/265 602A
   H01L21/265 602Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-92979(P2015-92979)
(22)【出願日】2015年4月30日
(62)【分割の表示】特願2013-532499(P2013-532499)の分割
【原出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2015-179850(P2015-179850A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2015年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2011-196434(P2011-196434)
(32)【優先日】2011年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年〜平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/超高耐圧酸化ガリウムパワーデバイスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/035465(WO,A1)
【文献】 特開2008−156141(JP,A)
【文献】 特開2004−056098(JP,A)
【文献】 特開2008−303119(JP,A)
【文献】 特開2009−302257(JP,A)
【文献】 特開2007−254174(JP,A)
【文献】 特開2009−049198(JP,A)
【文献】 特開2001−110746(JP,A)
【文献】 特開平01−286308(JP,A)
【文献】 特開2004−311696(JP,A)
【文献】 特開2004−269338(JP,A)
【文献】 特開2005−235961(JP,A)
【文献】 特開2007−317794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/425
C30B 29/16
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のドナー濃度を有するβ−Ga系単結晶基板あるいはβ−Ga系結晶膜よりなる上面及び底面を有するβ−Ga系単結晶体を形成する工程と、
前記β−Ga系単結晶体の前記上面に所定の形状の開口を有したマスクを形成する工程と、
前記マスクの前記開口を通して前記β−Ga系単結晶体にSi、Sn及びGeから選択された元素のイオンを前記底面に達しないようにβ−Ga系単結晶体に注入する工程と、
前記β−Ga系単結晶体に所定の熱処理を施して前記イオンの注入時に発生した結晶のダメージを修復するとともに前記β−Ga系単結晶体の前記イオンの注入領域に前記第1のドナー濃度より高い第2のドナー濃度を有する導電性領域を形成する工程と、
を含むβ−Ga系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法。
【請求項2】
前記所定の熱処理は、不活性雰囲気下で800℃〜1100℃の熱処理を含む請求項1記載のβ−Ga系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法。
【請求項3】
前記所定の熱処理は、酸素雰囲気下で800℃〜950℃の熱処理を含む請求項1記載のβ−Ga系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法。
【請求項4】
側面及び底面を有し、所定のドナー濃度に制御された導電性領域と、
前記導電性領域の前記側面及び底面を包囲し、前記所定のドナー濃度より低いドナー濃度に制御された包囲領域と、
を含むβ−Ga系単結晶基板あるいはβ−Ga系単結晶膜よりなる局所的な導電性領域を備えたβ−Ga系単結晶体であって、
前記導電性領域は、前記所定のドナー濃度としてのドナー密度とアクセプタ密度の差(Nd−Na)が、5×1017/cm以上である局所的な導電性領域を備えたβ−Ga系単結晶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−Ga系単結晶及びβ−Ga系単結晶体、特に優れた導電性を有する領域を形成することができるβ−Ga系単結晶及びβ−Ga系単結晶体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のGa単結晶の形成方法として、Ga単結晶を成長させながらSiやSn等のIV族元素を添加して、Ga単結晶に導電性を付与する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の他のGa単結晶の形成方法として、サファイア基板上にSn等の不純物を添加しながらβ−Ga結晶をヘテロエピタキシャル成長させ、導電性を有するβ−Ga2O3結晶膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、SiC結晶にイオン注入により不純物イオンを導入する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−235961号公報
【特許文献2】特許第4083396号公報
【特許文献3】特許第4581270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、Ga単結晶等の酸化物単結晶に導電性を付与するための不純物の導入に、イオン注入法を用いることは難しい。これは、酸化物にはイオン注入によるダメージが発生しやすく、イオン注入後のアニール処理でもダメージを十分に回復させることが難しいことによる。酸化物単結晶においては、イオン注入の際に酸素が欠損することにより、結晶のダメージが大きくなるものと考えられる。
【0007】
しかしながら、イオン注入法には、母結晶の形成後に不純物濃度を制御することが可能であることや、比較的容易に不純物を局所的に導入することが可能であること等の利点がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた導電性を有する領域を形成することのできるβ−Ga系単結晶及びβ−Ga系単結晶体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、[1]〜[]のβ−Ga系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法、及び局所的な導電性領域を備えたβ−Ga系単結晶体を提供する。
【0010】
[1]第1のドナー濃度を有するβ−Ga系単結晶基板あるいはβ−Ga系結晶膜よりなる上面及び底面を有するβ−Ga系単結晶体を形成する工程と、前記β−Ga系単結晶体の前記上面に所定の形状の開口を有したマスクを形成する工程と、前記マスクの前記開口を通して前記β−Ga系単結晶体にSi、Sn及びGeから選択された元素のイオンを前記底面に達しないようにβ−Ga系単結晶体に注入する工程と、前記β−Ga系単結晶体に所定の熱処理を施して前記イオンの注入時に発生した結晶のダメージを修復するとともに前記β−Ga系単結晶体の前記イオンの注入領域に前記第1のドナー濃度より高い第2のドナー濃度を有する導電性領域を形成する工程と、を含むβ−Ga系単結晶体に局所的な導電性領域を形成する方法。
【0011】
[2]前記所定の熱処理は、不活性雰囲気下で800℃〜1100℃の熱処理を含む[1]記載のβ−Ga系単結晶体。
【0012】
[3]前記所定の熱処理は、酸素雰囲気下で800℃〜950℃の熱処理を含む[1]記載のβ−Ga系単結晶体。
【0013】
[4]側面及び底面を有し、所定のドナー濃度に制御された導電性領域と、前記導電性領域の前記側面及び底面を包囲し、前記所定のドナー濃度より低いドナー濃度に制御された包囲領域と、を含むβ−Ga系単結晶基板あるいはβ−Ga系単結晶膜よりなる局所的な導電性領域を備えたβ−Ga系単結晶体であって、前記導電性領域は、前記所定のドナー濃度としてのドナー密度とアクセプタ密度の差(Nd−Na)が、5×1017/cm以上である局所的な導電性領域を備えたβ−Ga系単結晶体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた導電性を有する領域を形成することのできる、β−Ga系単結晶及びβ−Ga系単結晶体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】イオン注入工程の一例を示すβ−Ga系単結晶体の断面図。
図1B】イオン注入工程の一例を示すβ−Ga系単結晶体の断面図。
図1C】イオン注入工程の一例を示すβ−Ga系単結晶体の断面図。
図1D】イオン注入工程の一例を示すβ−Ga系単結晶体の断面図。
図2】イオン注入後の窒素雰囲気下でのアニール処理の温度とβ−Ga単結晶膜の導電性との関係を表すグラフ。
図3】イオン注入後の酸素雰囲気下でのアニール処理の温度とβ−Ga単結晶膜の導電性との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施の形態〕
本実施の形態によれば、イオン注入法を用いてドナー不純物をGa系単結晶体に導入し、所定の条件下でアニール処理を施すことにより、優れた導電性を有する高ドナー濃度領域をGa系単結晶体中に形成することができる。以下、その実施の形態の一例として、β−Ga系単結晶体のドナー濃度制御方法について詳細に説明する。なお、本実施の形態のGa系単結晶体はβ−Ga系単結晶体に限られず、α−Ga系単結晶体等の他の構造を有するGa系単結晶体であってもよい。
【0021】
図1A〜1Dは、イオン注入工程の一例を示すβ−Ga系単結晶体の断面図である。
【0022】
まず、図1Aに示すように、β−Ga系単結晶体1にマスク2を形成する。マスク2は、フォトリソグラフィ法等を用いて形成される。
【0023】
次に、図1Bに示すように、イオン注入によりドナー不純物をβ−Ga系単結晶体1に注入し、β−Ga系単結晶体1の表面にドナー不純物注入領域3を形成する。このとき、β−Ga系単結晶体1のマスク2に覆われた領域にはドナー不純物が注入されないため、ドナー不純物注入領域3はβ−Ga系単結晶体1の表面の一部の領域に形成される。ドナー不純物注入領域3のドナー不純物濃度は、β−Ga系単結晶体1のドナー不純物を注入していない領域のドナー不純物濃度よりも高い。
【0024】
なお、マスク2を用いずにイオン注入を行い、β−Ga系単結晶体1の全表面にドナー不純物注入領域3を形成してもよい。また、イオン注入の条件を調整することにより、ドナー不純物注入領域3の深さや濃度分布を制御することができる。
【0025】
次に、図1Cに示すように、マスク2を除去する。
【0026】
その後、図1Dに示すように、800℃以上のアニール処理を施すことにより、ドナー不純物注入領域3のドナー不純物を活性化させ、ドナー濃度の高い高ドナー濃度領域4を形成する。また、このアニール処理により、イオン注入により生じたβ−Ga系単結晶体1のダメージを回復することができる。具体的なアニール処理の条件は、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気下で800℃以上、酸素雰囲気下で800℃以上950℃以下である。
【0027】
β−Ga系単結晶体1は、β−Ga単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたβ−Ga単結晶からなる。例えば、Al及びInが添加されたβ−Ga結晶である(GaAlIn(1−x−y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0028】
β−Ga系単結晶体1は、例えば、β−Ga系単結晶基板や、支持基板上に形成されたβ−Ga系結晶膜である。
【0029】
β−Ga系単結晶体1にイオン注入法により導入されるドナー不純物として、Si、Sn、Ge等のIV族元素が用いられる。
【0030】
図2は、イオン注入後の窒素雰囲気下でのアニール処理の温度とβ−Ga系単結晶体としてのβ−Ga単結晶基板の導電性との関係を表すグラフである。図2の縦軸は、β−Ga単結晶基板の高ドナー濃度領域の単位立方センチ当たりのドナー密度とアクセプタ密度の差(Nd−Na)、すなわちn型半導体であるβ−Ga単結晶基板の高ドナー濃度領域の導電性の高さを表す。図2の横軸は、窒素雰囲気下でのアニール処理の温度を表す。アニール処理は、各々30分間実施される。
【0031】
この高ドナー濃度領域は、深さ200nmのボックス型の領域であり、ドナー濃度が3×1017/cmのβ−Ga単結晶基板に、濃度1×1019/cmのSi又はSnをイオン注入することにより形成した。また、この高ドナー濃度領域は、(010)面を主面とするβ−Ga単結晶基板の主面に垂直にドナー不純物を注入することにより形成した。
【0032】
図2中の■及び▲は、それぞれドナー不純物としてSi及びSnを注入する場合のNd−Naの値を示す。また、○は、ドナー不純物を注入しない場合のNd−Naの値を示す。
【0033】
図2に示されるように、Siを注入する場合、Snを注入する場合ともに、800℃以上のアニール処理によりNd−Naの値が高くなる。すなわち、イオン注入後に窒素雰囲気下で800℃以上のアニール処理を実施することにより、β−Ga単結晶基板に高い導電性を付与することができる。なお、ドナー不純物を注入しない場合は、アニール処理の温度を上げてもNd−Naの値が大きく増加することはない。
【0034】
図3は、イオン注入後の酸素雰囲気下でのアニール処理の温度とβ−Ga系単結晶体としてのβ−Ga単結晶基板の導電性との関係を表すグラフである。図3の縦軸は、β−Ga単結晶基板の高ドナー濃度領域の単位立方センチ当たりのドナー密度とアクセプタ密度の差(Nd−Na)、すなわちn型半導体であるβ−Ga単結晶基板の高ドナー濃度領域の導電性の高さを表す。図3の横軸は、酸素雰囲気下でのアニール処理の温度を表す。アニール処理は、各々30分間実施される。
【0035】
図3中の■及び▲は、それぞれドナー不純物としてSi及びSnを注入する場合のNd−Naの値を示す。
【0036】
図3に示されるように、Siを注入する場合、800℃以上950℃以下のアニール処理によりNd−Naの値が高くなる。また、Snを注入する場合、800℃以上1100℃以下のアニール処理によりNd−Naの値が高くなる。すなわち、イオン注入後に酸素雰囲気下で800℃以上950℃以下のアニール処理を実施することにより、β−Ga単結晶基板に高い導電性を付与することができる。
【0037】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、イオン注入法を用いてドナー不純物をβ−Ga系結晶体に導入し、所定の条件下でアニール処理を施すことにより、優れた導電性を有する高ドナー濃度領域をβ−Ga系結晶体中に形成することができる。イオン注入法を用いて高ドナー濃度領域を形成するため、β−Ga系結晶体の形成後に高ドナー濃度領域のドナー濃度を制御し、所望の導電性を付与することができる。また、マスク等を用いることにより、高ドナー濃度領域をβ−Ga系結晶体中に局所的に形成することができる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0039】
1…β−Ga系単単結晶体、2…マスク、3…ドナー不純物注入領域、4…高ドナー濃度領域
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3