【実施例】
【0023】
(比較例1)イチゴの加工後品質低下の検証
(a)試料
  原料果実としてアメリカ産イチゴを用いた。
【0024】
(b)方法
  流水下で洗浄し、ヘタを除いたイチゴ4個(60 g程度)を250 g容積のゼリーカップに入れた。ゲル化剤を砂糖等とともに水に混ぜ、加温して溶解させ、そこへ果汁や香料などを添加しゼリー調製液(pH3.70±0.10)とした。このゼリー調製液をイチゴ果実の入ったゼリーカップへ満注充填(190 g程度)した。アイロンシールで密封したゼリーカップを、85℃のお湯に30分間浸漬する加熱殺菌処理を行った。カップを5℃にて冷却後、カップ内部のゼリーが固まったことを確認して遮光したのち35℃下で保存した。
【0025】
  7日後にカップゼリーからイチゴを取り出し、5℃で1時間以上冷却後、果実の官能評価、物性評価を行い、さらに外観の色について画像解析を行った。一般的に賞味期限が6か月程度の常温流通の果実入りカップゼリーは、調製後3週間程度でゼリー内部果実の品質変化が生じ、周囲のゲル部分と果実成分等の置換が完了し、以降は果実品質は比較的安定する。保存試験を行う上で常温の3倍の加速試験を行える35℃で、7日間の保存試験を行うことで、常温流通において特に変化の大きな初発3週間の果実品質について、迅速に評価できる。
【0026】
  官能評価は、十分に訓練を積んだパネル4名によって、果実の食感、甘さ、風味、外観の4項目について生鮮イチゴ果実をスコア10としたときの評価を行い、中央値を算出した。物性評価は、落下果汁滲出量割合の測定を行った。果実表面の水気をよく除いたイチゴを60 cmの高さから横向きで90 mmろ紙(アドバンテックNo.2)に落下命中させ、ろ紙に滲出した果汁重量を測定し、もとの果実重量に対する割合で算出した。値が大きいほど、果実が軟化し果汁が滲出しやすいものと考えられた。画像解析は、果実表面の水気をよく除いたイチゴを一定条件下でデジタルカメラを用いて撮影したのち、撮影画像のイチゴ果実部位のみをトリミングし、市販画像解析ソフト「Feelimage Analyzer」(ビバコンピュータ株式会社)を用いてトリミングされた果実全体に対して色相が赤に分類される「赤系色」と、赤以外に分類される「非赤系色」の割合を解析した。「赤系色」割合が高く「非赤系色」割合が低いほど、イチゴ果実本来の赤みが保持されており、退色が抑制されているものと考えられた。
【0027】
(c)結果
  官能評価の結果、食感、甘さ、風味、外観の4項目いずれにおいても、生鮮イチゴ果実と比較して、ゼリー加工後の果実は品質が低下していた(表1)。特に、噛んだ際の硬さである「食感」と、見た目の色合いや張りである「外観」が損なわれていた(表1)。物性評価の結果、生鮮果実と比較してゼリー果実では有意に果汁滲出割合が高く、果実が軟化していることが示された(
図1)。これは官能評価における「食感」の結果を裏付けた。画像解析の結果、生鮮果実と比較してゼリー果実では、有意な赤系色の減少および非赤系色の増加が認められ、イチゴ果実本来の持つ赤みが失われていることが示された(
図2)。これは官能評価における「外観」の結果を裏付けるものだった。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例1)栽培時の温湯処理による生鮮イチゴへの効果
(a)試料
  原料果実として日本産イチゴの「とちおとめ」と「やよいひめ」を用いた。
【0030】
(b)方法
  ビニールハウス栽培下の「とちおとめ」と「やよいひめ」の2品種のイチゴそれぞれにおいて、着果後の果実最大径が10±5 mmのものを選定した。1週間に1度、選定した果実の半数に対して50±5℃のお湯に20±5秒間浸漬する温湯処理を行い、温湯処理を開始した週を0週目として4週目に成熟した果実を収穫した。温湯処理区の果実は合計4回の温湯処理を実施した。
【0031】
  収穫した果実を、流水下で洗浄しヘタを除いたのち、官能評価を行い、さらに外観の色について画像解析を行った。官能評価は、果実の食感、甘さ、風味、外観の4項目について、温湯処理を行っていない生鮮イチゴ果実(生鮮非処理)のスコアを5としたときの評価を十分に訓練を積んだパネル4名で行い、中央値を算出した。画像解析は、比較例1に記載の方法で行った。さらに、収穫後の果実を凍結させたのち破砕したものを試料として、アントシアニン含量および抗酸化活性を測定した。アントシアニンは、イチゴ果実の代表的なアントシアニンであるペラルゴニジン-3-グルコシドを定法に従い高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によって定量した。抗酸化活性は、イチゴの主要な抗酸化指標であるH-ORAC(親水性酸素ラジカル吸収能)を定法に従って定量した。
【0032】
(c)結果
  官能評価の結果、「とちおとめ」と「やよいひめ」のいずれの品種においても、非処理果実と比較して温湯処理した果実は、食感は同等である一方で、甘さ、風味、外観の3項目は品質が向上していた(表2、表3)。特に「とちおとめ」で温湯処理による甘さの向上が認められた(表2)。画像解析の結果、「とちおとめ」の温湯処理果実では、有意な赤系色の増加および非赤系色の減少が認められ(
図3)、「やよいひめ」でも同様の傾向が見られた(
図4)。これは官能評価における「外観」の結果を裏付けるものだった。代表的な果実の外観を
図5(とちおとめ)および
図6(やよいひめ)に示した。
図5および
図6ともに、湯温処理したイチゴ果実が非処理のイチゴ果実より外観が赤いことを示している。成分分析の結果、「とちおとめ」と「やよいひめ」のいずれの品種でもアントシアニン、および抗酸化活性において、温湯処理果実における20%以上の含有量増加が認められた(
図7、
図8)。栽培時の果実成熟期間における温湯処理によるストレス負荷に対し、抗酸化活性を有する色素成分(アントシアニン)が多く産生されたものと推察された。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
(実施例2)イチゴ栽培時の温湯処理による加工後品質への影響
(a)試料
  原料果実として日本産イチゴの「とちおとめ」を用いた。
【0036】
(b)方法
  ビニールハウス栽培下の「とちおとめ」において、着果後の果実最大径が10±5 mmのものを選定した。1週間に1度、選定した果実の半数に対して50±5℃のお湯に20±5秒間浸漬する温湯処理を行い、温湯処理を開始した週を0週目として2週目に成熟した果実を収穫した。温湯処理区の果実は合計2回の温湯処理を実施した。
【0037】
  収穫した果実を、流水下で洗浄しヘタを除いた。スチーム区は非温湯処理のイチゴを低温スチーム機(福島工業株式会社QTS-23HTA)を用いて50℃で5分間の蒸気中の加温処理を行った。イチゴ4個(60 g程度)を250 g容積のゼリーカップに入れた。ゼリー調製は比較例1記載の方法で行った。加熱殺菌処理後のカップゼリーを5℃で遮光保存した。1日後にカップゼリーからイチゴを取り出し、比較例1記載の方法に準じて果実の官能評価、物性評価を行い、さらに外観の色について画像解析を行った。
【0038】
(c)結果
  官能評価の結果、食感、甘さ、風味、外観の4項目いずれにおいても、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、ゼリー加工後の温湯処理果実は品質が良好で、より生鮮果実に近い品質であった。これに対して、ゼリー加工後のスチーム処理果実はゼリー加工後の非処理果実と同等の品質であった(表4)。物性評価の結果、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、生鮮果実およびゼリー加工後の温湯処理果実は有意に果汁滲出割合が低く、果実が軟化していないことが示された(
図9)。一方で、ゼリー加工後のスチーム処理果実は軟化抑制は見られなかった(
図9)。これは官能評価における「食感」の結果を裏付けた。画像解析の結果、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、生鮮果実およびゼリー加工後の温湯処理果実は有意な赤系色の保持および非赤系色の増加抑制が認められ、イチゴ果実本来の持つ赤みを有していることが示された(
図10)。ゼリー加工後のスチーム処理果実の赤みの保持効果は小さかった(
図10)。これは官能評価における「外観」の結果を裏付けるものだった。
【0039】
  これらの結果から、イチゴ果実に対して加工後の物性および色の品質保持を担保する加温処理は、収穫後の処理よりも栽培時の処理が効果的であることが示された。
【0040】
【表4】
【0041】
(実施例3)イチゴ栽培時の温湯処理による加工後品質への経時的な影響
(a)試料
  原料果実として日本産イチゴの「とちおとめ」を用いた。
【0042】
(b)方法
  ビニールハウス栽培下の「とちおとめ」において、着果後の果実最大径が10±5 mmのものを選定した。1週間に1度、選定した果実の半数に対して50±5℃のお湯に20±5秒間浸漬する温湯処理を行い、温湯処理を開始した週を0週目として4週目に成熟した果実を収穫した。温湯処理区の果実は合計4回の温湯処理を実施した。
【0043】
  収穫した果実を、流水下で洗浄しヘタを除いたのち、イチゴ4個(60 g程度)を250 g容積のゼリーカップに入れた。ゼリー調製は比較例1記載の方法で行った。加熱殺菌処理後のカップゼリーを5℃にて冷却後、カップ内部のゼリーが固まったことを確認して遮光したのち35℃下で保存した。7日後にカップゼリーからイチゴを取り出し、比較例1記載の方法に準じて果実の官能評価、物性評価を行い、さらに外観の色について画像解析を行った。
【0044】
(c)結果
  官能評価の結果、食感、甘さ、風味、外観の4項目いずれにおいても、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、ゼリー加工後の温湯処理果実は品質が良好で、より生鮮果実に近い品質が保持されていた(表5)。物性評価の結果、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、ゼリー加工後の温湯処理果実は有意に果汁滲出割合が低く、果実が軟化していないことが示された(
図11)。これは官能評価における「食感」の結果を裏付けた。画像解析の結果、ゼリー加工後の非処理果実と比較して、ゼリー加工後の温湯処理果実は有意な赤系色の保持および非赤系色の増加抑制が認められ、イチゴ果実本来の持つ赤みを有していることが示された(
図12)。これは官能評価における「外観」の結果を裏付けるものだった(
図13)。
図13は、湯温処理したイチゴ果実が非処理のイチゴ果実より外観が赤いことを示している。
【0045】
  これらの結果から、イチゴ果実に対して加工後の物性および色の品質保持を経時的に担保する処理として、栽培時の加温処理が効果的であることが示された。
【0046】
【表5】