特許第6248096号(P6248096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248096高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法及び該方法により検出された遺伝子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248096
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法及び該方法により検出された遺伝子
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20171204BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20171204BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20171204BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20171204BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 F
   G01N33/53 M
   G01N33/574 A
   G01N37/00 102
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-511331(P2015-511331)
(86)(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公表番号】特表2015-518706(P2015-518706A)
(43)【公表日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】KR2012003899
(87)【国際公開番号】WO2013168842
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2015年1月13日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0049588
(32)【優先日】2012年5月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】502043352
【氏名又は名称】コリア ハイドロ アンド ニュークリア パワー カンパニー リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒ ソン
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ム ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ボン ジン ゾン
(72)【発明者】
【氏名】シン ソク チョル
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 RADIATION RESEARCH,2010年,vol.174,pp.341-346
【文献】 Genomics,2011年,vol.97,pp.358-363
【文献】 岩川真由美ら,日放腫会誌,2005年,vol.17,141-147
【文献】 Roudkenar MH et al.,J Radiat Res,2008年 1月,vol.49,29-40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12Q 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
I)胸腺癌が誘発されたAKR/Jマウス及び正常のICRマウスに、高レベル放射線としてガンマ線(Cs−137)を0.8Gy/分の強さで最終的に4.5Gyの放射線量で照射するステップと、
II)前記AKR/Jマウス及びICRマウスから胸腺を採取するステップと、
III)前記胸腺に対してマイクロアレイを行うステップと、
IV)前記マイクロアレイから、配列番号11に記載のPpargc1a(NM_008904)、配列番号12に記載のAcsl1(NM_007981)、配列番号13に記載のLipe(NM_010719)、配列番号14に記載のScd1(NM_009127)及び配列番号15に記載のScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる脂肪酸代謝関連遺伝子を分類するステップと、
V)前記遺伝子を増幅し、且つ、発現量を測定するステップと、
を含み、
癌誘発個体で発掘され、正常個体で検証される高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法。
【請求項2】
前記方法は、胸腺癌診断用キットの製作、癌患者の癌進行及び治療程度の評価、産業及び医療従事者の放射線被曝と発癌との間の相関性評価、放射線と癌発生との間の因果関係評価、放射線被曝に対する生物学的線量評価または高レベル放射線による胸腺癌発生及び進行度評価の指標として活用されることを特徴とする請求項1に記載の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法。
【請求項3】
前記ステップII)の胸腺の採取は、癌によって斃死が始まる時点で行われることを特徴とする請求項1に記載の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法。
【請求項4】
前記Ppargc1a(NM_008904)遺伝子は配列番号1及び2に記載のプライマ、Acsl1(NM_007981)は配列番号3及び4に記載のプライマ、Lipe(NM_010719)遺伝子は配列番号5及び6に記載のプライマ、Scd1(NM_009127)遺伝子は配列番号7及び8に記載のプライマ、且つ、Scd3(NM_024450)遺伝子は配列番号9及び10に記載のプライマによって増幅されることを特徴とする請求項1に記載の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法。
【請求項5】
胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子である、配列番号11に記載のPpargc1a(NM_008904)、配列番号12に記載のAcsl1(NM_007981)、配列番号13に記載のLipe(NM_010719)、配列番号14に記載のScd1(NM_009127)及び配列番号15に記載のScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の塩基配列を含む放射線敏感性または放射線発癌診断用マーカーを検出するための核酸を備える放射線敏感性または放射線発癌診断用キット。
【請求項6】
胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子である、配列番号11に記載のPpargc1a(NM_008904)、配列番号12に記載のAcsl1(NM_007981)、配列番号13に記載のLipe(NM_010719)、配列番号14に記載のScd1(NM_009127)及び配列番号15に記載のScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の塩基配列を含む放射線敏感性または放射線発癌診断用マーカーを検出するための核酸を備える放射線敏感性または放射線発癌診断用マイクロアレイ。
【請求項7】
I)ヒトを除く胸腺癌を有する哺乳動物に放射線を照射するステップと、
II)前記放射線が照射された哺乳動物から摘出した胸腺組織と試験物質を接触させるステップと、
III)前記胸腺組織から、胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子である配列番号11に記載のPpargc1a(NM_008904)、配列番号12に記載のAcsl1(NM_007981)、配列番号13に記載のLipe(NM_010719)、配列番号14に記載のScd1(NM_009127)及び配列番号15に記載のScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の発現変化を測定するステップと、
を含む放射線敏感性または放射線発癌を治療若しくは抑制する薬物の検索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法及び該方法により検出された遺伝子に係り、さらに詳しくは、癌誘発マウス及び正常マウスに高レベル放射線を照射して胸腺から正常マウス及び癌誘発マウスから共通して特異的に観察される脂肪酸代謝関連遺伝子を分類する高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業及び医療的放射線の活用の増加とあいまって、人体影響への取り組みが盛んに行われており、主として放射線照射を用いた癌治療に関心が寄せられている。高線量電離放射線は、DNA損傷、遺伝的変形、癌をはじめとする疾病を引き起こすが、200mGy以下の線量と6mGy/時間以下の線量率放射線は免疫反応を活性化させて癌発生を抑制することが知られている。
【0003】
一般に、放射線と癌発生との間の相関性、特に、遺伝子反応への取り組みが行われてきたが、その結果の信頼性を阻害する交絡変数が多数介入されていた。しかしながら、これまで、ほとんどの研究では、遺伝子の一部を変形したり癌細胞株を用いたりしたため、身体を構成する細胞、組織、臓器、そして、身体段階で観察される様々な反応を説明することができなかった。すなわち、一般マウスを用いて遺伝子反応を評価したため、発現遺伝子が様々であっただけではなく、癌発生が特定の臓器に限定されていなかったため遺伝子反応を解析することが困難であったという問題がある。
【0004】
癌研究のために細胞を利用する従来の方法では、遺伝子を変更したり、癌発生で重要視されるp53が欠如した癌細胞に放射線を照射したりしたため、正常細胞の反応とは根本的に異なる結果、その結果を個体に適用することができないという問題があり、このような欠点を補うために、ヒトと遺伝子が95%以上同じマウスを用いて放射線に対する癌発生への取り組みを行っている。しかしながら、一般マウスは自然癌発生率が非常に低いため、様々な癌研究用モデルマウスが用いられている。
【0005】
従来の研究では、電離放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子を発掘するために種々の方法を利用した。しかしながら、本発明において提示した脂肪酸代謝関連遺伝子は、過去に高レベル電離放射線に対して敏感な遺伝子であることが知られていない。
【0006】
本願発明の遺伝子プロファイルの発掘に先行された技術は、下記の通りである。
【0007】
(1)Ppargc1aは生体周期調節機構の構成因子として知られており、生体リズム及びエネルギー代謝に重要な役割を果たすことが知られている(Liu C et. al., Nature 2007; 447:477-481)。
【0008】
(2)Ppargc1aは第1型子宮体癌でミトコンドリア生合成を活性化させた(Cormio A et. al., Biochem Biophus Res Commum 2009; 390: 1182-1185)。
【0009】
(3)脂肪細胞において、Acsl1とFATP1との相互作用により長鎖脂肪酸の流入を増大させた(Richards MR et. al., J Lipid Res 2006; 47: 665-72)。
【0010】
(4)アデノウィルスに挿入したAcsl1を注入したC57BL6マウス及びWistarラットの肝で脂肪蓄積を増大させた(Parkes HA et. al., Am J Physiol Endocrinol Metab 2006; 291:E737-744)。
【0011】
(5)Lipeは、脂肪細胞においてジアシルグリセロールとコレステロールエステルを加水分解する過程で、速度を制限する反応酵素として知られている(Holm C et. al., Science 1998; 241: 1503-1506)。
【0012】
(6)脂肪細胞において、EPKシグナル伝達活性化は、HSLリン酸化を通じて脂肪酸分解を促した(Greenberg AS et. al., J Biol Chem 2001; 276: 45456-454561)。
【0013】
(7)HSL発現が抑制された膵臟島でインシュリン分泌を減少させた(Larsson, 2008)。
【0014】
(8)Scdは、飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸の合成に関与する速度制限反応酵素として知られている(Ntambi JM, Miyazaki M, Prog Lipid Res 2004; 43: 91-104; Flowers MT, Ntambi JM, Curr Opin Lipidol 2008; 19: 248-256)。
【0015】
(9)癌細胞は、糖と連結された脂質合成を調節するためにScd1を活性化させた。しかしながら、Scd1機能に問題が生じるとき、AMPKを用いてアセチルCoAカルボキシラーゼの活性を抑制し、飽和脂肪酸の合成を抑制して蓄積を抑制した(Scaglia N et. al. (2009) PLoS One 4: e6812)。
【0016】
そこで、本発明者らは、高レベル電離放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子プロファイルを発掘することにより本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法及び該方法により検出された遺伝子を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、I)癌が誘発されたAKR/Jマウス及び正常のICRマウスに高レベル放射線を照射するステップと、II)前記AKR/Jマウス及びICRマウスから胸腺を採取するステップと、III)前記胸腺に対してマイクロアレイを行うステップと、IV)前記マイクロアレイから脂肪酸代謝関連遺伝子を分類するステップと、V)前記遺伝子を増幅し、且つ、発現量を測定するステップと、を含み、癌誘発個体で発掘され、正常個体で検証される高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子であるPpargc1a(NM_008904)、Acsl1(NM_007981)、Lipe(NM_010719)、Scd1(NM_009127)及びScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の塩基配列を含む放射線敏感性または放射線発癌診断用マーカーを提供する。
【0020】
さらに、本発明は、上記のマーカーを備える放射線敏感性または放射線発癌診断用キットを提供する。
【0021】
さらに、本発明は、上記のマーカーを備える放射線敏感性または放射線発癌診断用マイクロアレイを提供する。
【0022】
さらに、本発明は、I)ヒトを除く胸腺癌を有する哺乳動物に放射線を照射するステップと、II)前記放射線が照射された哺乳動物から摘出した胸腺組織と試験物質を接触させるステップと、III)前記胸腺組織から胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子であるPpargc1a(NM_008904)、Acsl1(NM_007981)、Lipe(NM_010719)、Scd1(NM_009127)及びScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の発現変化を測定するステップと、を含む放射線敏感性または放射線発癌を治療若しくは抑制する薬物の検索方法を提供する。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
放射線に対する人体影響のうち癌発生への取り組みが盛んに行われてきたが、癌細胞若しくは遺伝子が変形された細胞株や一般マウスを用いたが故に様々な人体反応(遺伝子反応)を説明することが困難であった。特に、個体次元で電離放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子プロファイルを発掘して機能を説明したことがない。この理由から、本発明では、1)正常的なICRマウスと胸腺癌を発病するAKR/Jマウスに高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射(癌発生刺激因子)した後、胸腺で特異的に発現する高レベル放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子プロファイルを発掘して機能を分析した後、2)胸腺癌発生段階を診断する脂肪酸代謝関連遺伝子プロファイルの構成因子として使用しようとした。
【0025】
本発明は、I)癌が誘発されたAKR/Jマウス及び正常のICRマウスに高レベル放射線を照射するステップと、II)前記AKR/Jマウス及びICRマウスから胸腺を採取するステップと、III)前記胸腺に対してマイクロアレイを行うステップと、IV)前記マイクロアレイから脂肪酸代謝関連遺伝子を分類するステップと、V)前記遺伝子を増幅し、且つ、発現量を測定するステップと、を含み、癌誘発個体で発掘され、正常個体で検証される高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法を提供する。
【0026】
本発明の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法において、前記高レベル電離放射線は、ガンマ線(Cs−137)を0.8Gy/分の強さで最終的に4.5Gyの放射線量で照射することが好ましく、本願発明の前記方法は、胸腺癌診断用キットの製作、癌患者の癌進行及び治療程度の評価、産業及び医療従事者の放射線被曝と発癌との間の相関性評価、放射線と癌発生との間の因果関係評価、放射線被曝に対する生物学的線量評価または高レベル放射線による胸腺癌発生及び進行度評価の指標として活用されることが好ましい。
【0027】
また、本発明の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法において、前記癌は、胸腺癌であることが好ましく、前記ステップII)の胸腺の採取は、癌によって斃死が始まる時点で行われることが好ましい。
【0028】
さらに、本発明の高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法において、前記脂肪酸代謝関連遺伝子は、Ppargc1a(NM_008904)、Acsl1(NM_007981)、Lipe(NM_010719)、Scd1(NM_009127)及びScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子であることが好ましく、このとき、前記Ppargc1a(NM_008904)遺伝子は配列番号1及び2に記載のプライマ、Acsl1(NM_007981)は配列番号3及び4に記載のプライマ、Lipe(NM_010719)遺伝子は配列番号5及び6に記載のプライマ、Scd1(NM_009127)遺伝子は配列番号7及び8に記載のプライマ、且つ、Scd3(NM_024450)遺伝子は配列番号9及び10に記載のプライマによって増幅されることがさらに好ましい。
【0029】
前記マイクロアレイから脂肪酸代謝関連遺伝子を分類する前記ステップIV)においては、放射線照射前の癌誘発個体に比べて放射線照射後の癌誘発個体で過剰発現または低発現された遺伝子をマイクロアレイを用いて検出した後、配列番号1番〜10番のプライマを用いて検証し、遺伝子の機能検索法を用いて前記過剰発現または低発現された遺伝子の本質を究明することを特徴とする。マイクロアレイ分析の詳細については、下記の実施例において説明しており、遺伝子の機能検索は、下記の実施例において、DAVID生物情報データベース(http://apps1.niaid.nih.gov/david/)及びPubMedデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を用いて行ったが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明において使用する「高レベル電離放射線に敏感な遺伝子」とは、放射線を照射する前の癌誘発個体と比較して、放射線を照射した後の癌誘発個体で差別的に過剰発現または低発現される遺伝子のことをいう。すなわち、癌誘発個体で放射線の刺激によって発現パターンの変化が誘導される遺伝子を意味し、特定の癌と関連したターゲット遺伝子、すなわち、腫瘍形成遺伝子または腫瘍抑制遺伝子であってもよい。このような癌特異的な遺伝子を検出することにより、癌患者に対する放射線治療の分子的な機序を確立して放射線治療効果の増大に寄与することができるだけではなく、新たな腫瘍形成または腫瘍抑制遺伝子を発掘してこれらの発現を調節することにより、分子生物学的レベルにおける癌治療剤または治療方法の開発のための基盤を設けることができる。
【0031】
また、本発明は、胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子であるPpargc1a(NM_008904)、Acsl1(NM_007981)、Lipe(NM_010719)、Scd1(NM_009127)及びScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の塩基配列を含む放射線敏感性または放射線発癌診断用マーカーを提供する。
【0032】
さらに、本発明は、上記のマーカーを備える放射線敏感性または放射線発癌診断用キットを提供する。
【0033】
さらに、本発明は、上記のマーカーを備える放射線敏感性または放射線発癌診断用マイクロアレイを提供する。
【0034】
さらに、本発明は、I)ヒトを除く胸腺癌を有する哺乳動物に放射線を照射するステップと、II)前記放射線が照射された哺乳動物から摘出した胸腺組織と試験物質を接触させるステップと、III)前記胸腺組織から胸腺癌悪化に関与する脂肪酸代謝関連遺伝子であるPpargc1a(NM_008904)、Acsl1(NM_007981)、Lipe(NM_010719)、Scd1(NM_009127)及びScd3(NM_024450)よりなる群から選ばれる遺伝子の発現変化を測定するステップと、を含む放射線敏感性または放射線発癌を治療若しくは抑制する薬物の検索方法を提供する。
【0035】
本発明では、胸腺癌研究モデルであるAKR/Jマウス及び正常的なマウス種であるICRに対して高レベル(0.8Gy/分)ガンマ線(Cs−137)を照射し、AKR/Jマウスが胸腺癌によって斃死し始める時点(100日目)で胸腺を採取した。採取した胸腺に対してマイクロアレイを行った後にDAVID生物情報データベースを用いて高レベル(0.8Gy/分)放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝関連遺伝子を分類し、高レベル(0.8Gy/分)放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝関連遺伝子を核酸増幅し、且つ、発現量を測定した。
【0036】
その結果、本発明により、高レベル(0.8Gy/分)放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝(Ppargc1a、Acsl1、Lipe、Scd1及びScd3)に重要な5個の遺伝子を発掘し、高レベル(0.8Gy/分)放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝(Ppargc1a、Acsl1、Lipe、Scd1及びScd3)関連遺伝子の機能を理解しやすいように提示した。なお、胸腺癌によって斃死が観察される100日目を規定して胸腺を採取することにより、高レベル放射線に反応を示す脂肪酸代謝遺伝子反応を高い一貫性で観察できるようにした。
【0037】
このため、本発明は、1)胸腺癌診断用診断キットの開発のための脂肪酸代謝関連遺伝子プロファイルとして活用することができ、2)高レベル放射線環境下で生活する産業及び医療従事者の癌発生因果関係評価の指標として活用することができ、3)癌患者の癌発生を診断し、且つ、治療対策を立てる情報用遺伝子プロファイルとして活用することができ、4)放射線被曝と胸腺癌発生との間の因果関係を区別する指標として活用することができ、5)高レベル放射線被曝に対する生物学的線量の評価のための新たな遺伝子指標として幅広く活用することができ、しかも、6)電離放射線に敏感な脂肪酸代謝シグナル伝達は、高レベル放射線被曝に対するターゲット治療に適用することができる。
【発明の効果】
【0038】
上記の構成を有する高レベル電離放射線に敏感な遺伝子の検出方法は、胸腺癌診断用キットを製作するための高レベル放射線敏感性脂肪酸代謝関連指標遺伝子プロファイルとして活用することができ、癌患者の癌進行及び治療程度を評価する高レベル放射線敏感性脂肪酸代謝関連指標遺伝子として活用することができる。また、産業及び医療従事者の放射線被曝と発癌との間の相関性を評価する高レベル放射線敏感性脂肪酸代謝関連指標遺伝子として活用することができ、放射線と癌発生との間の因果関係を評価する高レベル放射線敏感性脂肪酸代謝関連指標として活用することができる。さらに、放射線被曝に対する生物学的線量の評価のための新たな指標として活用することができ、高レベル(0.8Gy/分)放射線による胸腺癌の発生及び進行度を評価する脂肪酸代謝関連指標遺伝子として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射して胸腺癌に悪化させる脂肪酸代謝(Ppargc1a、Acsl1、Lipe、Scd1及びScd3)関連遺伝子の機能を理解しやすいように図式化した図である。
図2図2は、高レベル(0.8Gy/分)放射線が照射されたAKR/Jマウスを飼育しながら胸腺癌によって斃死し始める時点(100日目)を規定し、胸腺の重さを計測し、これを指標として放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子の反応を分析したグラフである。
【発明を実施するための最良の態様】
【0040】
以下、本発明を実施例を挙げてより具体的に説明する。しかしながら、下記の実施例は本発明を説明するためのものに過ぎず、下記の実施例によって本発明の権利範囲が限定されることはない。
【0041】
<実施例1>
日本SLC社から6週齢の胸腺癌研究モデルである雌性AKR/Jマウス及び正常の雌性ICRマウスを購入した。ガンマ線発生装置(IBL 147C、CIS bio international、France)を用いて前記AKR/Jマウスに高レベル放射線を最終線量が4.5Gyに達するように照射(137Cs、0.8Gy/分)した。高レベル放射線を照射し終わったマウスは放射線が遮断された無菌飼育施設に移して100日間飼育しながら胸腺癌の発生を観察した。遺伝子分析のために同じ実験条件下で別途に飼育した正常マウス(ICRマウス)に高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射し、100日後に採取した胸腺は液体窒素を用いて急速凍結させた後に遺伝子分析を行った。
【0042】
<実施例2> マイクロアレイ及び遺伝子分析
前記実施例1の結果、癌研究用モデルマウス(AKR/Jマウス)を用いて高レベル(0.8Gy/分)放射線に敏感な脂肪酸代謝関連遺伝子を発掘し、これを正常マウス(ICRマウス)で証明した。すなわち、高レベル(0.8Gy/分)放射線が照射されたAKR/Jマウス及びICRマウスの胸腺で特異的に高レベル放射線に反応する脂肪酸代謝関連遺伝子を発掘し、且つ、機能を解析した。DAVID生物情報データベース、定量的核酸増幅法及び統計プログラムSAS(ANOVAとt−test)を用いて分析した。
【0043】
その結果を確認するために、前記遺伝子を核酸増幅した。具体的に、高レベル(0.8Gy/分)放射線が照射されたAKR/Jマウス及びICRマウスから採取した胸腺に対してマイクロアレイを行い、高レベル放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝関連遺伝子に対して発現量を計測するために下記表1に記載のプライマを用いて増幅した。
【0044】
【表1】
【0045】
また、AKR/Jマウス及びICRマウスに高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射した後に飼育しながら、AKR/Jマウスが胸腺癌で斃死し始める時点(100日目)で胸腺を採取した。採取した胸腺に対してマイクロアレイを行い、高レベル放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝関連遺伝子を分類した後、核酸を増幅して発現量を測定した。その結果、高レベル放射線が照射されたマウスでは、脂肪酸代謝関連遺伝子(Ppargc1a、Acsl1、Lipe、Scd1及びScd3)が高レベル放射線に敏感に反応した。その結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
また、図1に、高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射して胸腺癌に悪化させる脂肪酸代謝(Ppargc1a、Acsl1、Lipe、Scd1及びScd3)関連遺伝子の機能を理解しやすいように図式化した。高レベル放射線の照射は、Acsl1の発現を増大させて胸腺細胞内への長鎖脂肪酸の流入を増大させた。Scd1及びScd3の発現増大は飽和脂肪酸の蓄積を抑制し、Lipeの発現増大は脂質毒性を減少させた。Ppargc1aの発現が増大されてミトコンドリアの合成を増大させ、且つ、胸腺癌を悪化させた。
【0048】
さらに、図2は、AKR/Jマウス及びICRマウスに高レベル(0.8Gy/分)放射線を照射した後に飼育しながら、AKR/Jマウスが胸腺癌で斃死し始める時点(100日目)を規定して胸腺を採取した。本発明により、胸腺癌によって斃死が発生する癌発病の初期段階を規定して胸腺を採取し、重さを比較することにより、高レベル放射線に対して敏感な反応を示す脂肪酸代謝関連遺伝子を常に高い一貫性で測定することが可能になった。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]