(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248098
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】溶液中の物質の吸光度を測定する方法並びに装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/31 20060101AFI20171204BHJP
G01N 21/33 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
G01N21/31
G01N21/33
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-514515(P2015-514515)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公表番号】特表2015-518157(P2015-518157A)
(43)【公表日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】EP2013061212
(87)【国際公開番号】WO2013178770
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年5月18日
(31)【優先権主張番号】1209738.2
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】アーリング,ハンノ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーヘデ,フレドリック・ラース
(72)【発明者】
【氏名】オストルンド,エリック
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−168478(JP,A)
【文献】
特開2008−286522(JP,A)
【文献】
米国特許第05408326(US,A)
【文献】
特開2007−225337(JP,A)
【文献】
国際公開第01/053803(WO,A1)
【文献】
特表2009−517641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/83
G01N 33/48−543
G01N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の物質の吸光度を測定する方法であって、
i)第一の波長を有し第一の発光ダイオード(LED)光源から出力される光を伝達するステップと、
ii)LEDから出力される光を溶液中の物質を通るように導くステップと、
iii)溶液中の物質の濃度の指標を得るために溶液から伝播する光の強度を定量化するステップと、
iv)定量化した光の強度から物質の吸光度を求めるステップと、
v)吸光度の変化が閾値に達する時点を決定するステップと、
vi)閾値に達した吸光度の変化に応じて、第一の波長とは異なる第二の波長の出力を有する第二のLED光源を用いてステップi)〜iii)を繰り返すステップと
を含む方法。
【請求項2】
第一のLED光源から伝播する光が、第一の波長に対応する第一のバンドパスフィルタを通るように導かれ、第二のLED光源からの光が、第二の波長に対応する第二のバンドパスフィルタを通るように導かれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第一及び第二のLED光源からの光を、ビームスプリッタを通して伝播させて該ビームスプリッタからの光の第一の部分を基準検出器へ向けて導くとともに光の第二の部分を溶液の内部に導き、ステップiii)が、さらに、基準検出器で光の第一の部分の強度を定量化して参照値を得るステップと、溶液を透過した後の光の第二の部分の強度を定量化して標本値を得るステップと、標本値及び参照値から溶液の吸光度(A)を算出するステップとを含んでいる、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
第一及び/又は第二のLEDが紫外(UV)LEDである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
溶液が、細胞抽出物、細胞溶解物、細胞培養物及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
物質が、タンパク質若しくはペプチド、又は核酸である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第一の波長でのステップi)〜iv)とその後の第二の波長でのステップi)〜iii)をすべて循環的にさらに繰り返す、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
各ステップの循環的な繰り返しが所定の時間尺度に従って行なわれる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
溶液中の物質の吸光度を測定する装置であって、
a)既知の路長を有し溶液を収容するための少なくとも1個の標本セルであって、所定の波長スペクトルの光に対して少なくとも部分的に透明な標本セルと、
b)各々異なる波長の光を出力し、光路に沿って所定の波長スペクトルの範囲内で光を放出する少なくとも第一及び第二の発光ダイオード(LED)光源を含むLED光源構成と、
c)以下のステップi)〜vi):
i)第一のLED光源から出力される光を伝達するステップと、
ii)LEDから出力される光を溶液中の物質を通るように導くステップと、
iii)溶液中の物質の濃度の指標を得るために溶液から伝播する光の強度を定量化するステップと、
iv)定量化した光の強度から物質の吸光度を求めるステップと、
v)吸光度の変化が閾値に達する時点を決定するステップと、
vi)閾値に達した吸光度の変化に応じて、第二のLED光源を用いてステップi)〜iii)を繰り返すステップと
を実行するようにプログラムされた制御器と
を備える装置。
【請求項10】
光路に設けられたバンドパスフィルタをさらに含んでいる、請求項9記載の装置。
【請求項11】
iv)経路に沿って伝播する光源からの光を、第一の部分及び第二の部分に分割するビームスプリッタであって、第一の部分を基準検出器へ向けて導くことができ、第二の部分をセルの内部に導くことができる、ビームスプリッタと、
v)該ビームスプリッタにより導かれる光の第一の部分の強度を検出する基準検出器と、
vi)セルから伝播する第二の部分の強度を検出する標本検出器と
をさらに含んでいる、請求項9又は請求項10記載の装置。
【請求項12】
LEDの少なくとも1つが紫外(UV)LEDである、請求項9乃至請求項11のいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
LED光源構成が、複数のLEDを支持する可動LED支持体であって、LEDの各々の光路の内外への移動を可能にする可動LED支持体をさらに含んでいる、請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
支持体が、各々のLEDを支持する回転式カルーセルであって、当該カルーセルの回転により各々のLEDを順次光路に向ける回転式カルーセルを含んでいる、請求項13記載の装置。
【請求項15】
支持体が、光路に沿ってUV光を与えるために、線形運動により各々のLEDを順次光路に向けるアレイを含んでいる、請求項13記載の装置。
【請求項16】
LED光源構成が、複数の光源の各々の選択された一つの光源と光路との間に光学的整列を与える可動反射面を含んでいる、請求項9記載の装置。
【請求項17】
LED光源構成が、各々のLEDに付設された光ファイバ、又は単一の光ファイバをさらに含んでおり、いずれの場合も該光ファイバが各々のLEDからの光を光路に伝播させる光学的経路を与えるように構成されている、請求項9乃至請求項16のいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
各々のフィルタが、当該各々のフィルタを光路の内部に移動させる可動式の支持体に装着されている、請求項16記載の装置。
【請求項19】
各々異なる光路を有する2個以上の標本セルをさらに含んでおり、各々の光路には関連するLEDからの光を供給することができ、各々の関連するLEDはそれぞれの標本セルに異なる波長の光を与える、請求項9記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の物質であって特定の1以上の波長の光を吸収する能力を有する物質の吸光度を、可視光又は不可視光を用いて測定する方法並びに装置に関する。これらの方法並びに装置は、例えばタンパク質又は核酸が液体クロマトグラフィの際に精製される場合に、かかるタンパク質及び核酸の濃度を検出するのに特に有用である。
【0002】
本発明は、溶液中の物質、典型的には400nm以下の波長に紫外(UV)光吸収を呈する物質の吸光度を測定する方法並びに装置に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの物質は、当該物質の化学組成によって紫外光又は可視光を吸収する。物質による光の吸収は、かかる物質の存在を検出する及びかかる物質の濃度を測定するための基礎として多年にわたり利用されている。物質の濃度は、ランベルトベールの法則(Beer Lambert Law)すなわちA=Ebcの利用によって決定することができ、式中、
Aは吸光度であり、
Eは、Lmol
-1cm
-1の単位でのモル吸光係数であり、
bは、cmで定義される標本の光路長であり、
cは、mol
-1で表される溶液中の化合物の濃度である。
【0004】
Emaxは、所与の波長における物質の最大吸収を表す。
【0005】
UV領域は、1nmから400nmの領域の波長の光から成るものと看做すことができ、180nmから300nmの波長の光は「遠紫外光」として知られる。遠紫外(UV)領域を吸収する物質を検出する殆どの分析機器は、水銀灯、重水素ランプ又はキセノンフラッシュランプを光源として用いている。かかる機器の一例は、1以上のUV吸収物質を含有する溶液を、UV光源(例えば水銀灯)とUV検出器(例えば光電子増倍管又はフォトダイオード)との間に通過させるフローセルであり、検出器に達したUV光の強度の変化が溶液中のUV吸収物質の濃度に関係付けられる。
【0006】
タンパク質、核酸及びペプチドの検出は、環境科学、生物学及び化学を含めた多くの分野で高い重要性を持つ。タンパク質は、遠UV領域に主に二つの吸収ピークを有し、一つは約190nmに最大を有する極めて強い吸収帯であってペプチド結合の吸収によるものであり、もう一つは約280nmの比較的弱いピークであって芳香族アミノ酸(例えばチロシン、トリプトファン及びフェニルアラニン)の光吸収によるものである。
【0007】
核酸は、260nmの辺りのUV光を吸収し、核酸の小単位の幾つか(プリン)は260nmを僅かに下回る箇所に最大吸光度を有し、他のもの(ピリミジン)は260nmを僅かに上回る箇所に最大を有する。
【0008】
殆ど全てのタンパク質は、吸光性の芳香族アミノ酸を含有するので約280nmに最大吸光度を有する。タンパク質濃度を検出して測定するのに用いられる分析システムの検出器の光源は、従来は水銀輝線灯である。水銀は、280nmでなく254nmの波長の光を発生するので、水銀灯によって発生される254nmの光をさらに長い波長へ変換する蛍光コンバータが必要とされ、またバンドパスフィルタを用いて280nmの辺りの領域を切り出す。水銀灯は、寿命が比較的短く、また時間と共に不安定化し得ることが判明している。さらに、これらのランプの廃棄が環境問題を招き得る。紫外光を発生するのに用いられる重水素ランプ及びキセノンフラッシュランプのような他のランプは、高電圧を必要とし、複雑な電子回路を必要とし、時間と共にしばしば不安定化することが判明しており不利である。現状で用いられている紫外光源の全てが比較的大型であり、結果的に分析機器の小型化のためには不適当である。また、これらのランプの全てが、動作に必要とされる高電圧のためかなりの量の熱を発生する。
【0009】
近年、AlGaN/GaN型の発光ダイオード(LED)であって250nmから365nmの範囲で発光する発光ダイオードが開発されている。Sensor Electronic Technology, Inc.(米国サウスカロライナ州Columbia)は、これらのUV発光ダイオード、特に生物学的汚水のような流体を照射して滅菌するUV発光ダイオードの開発及び利用の先駆けである(例えば米国特許出願第2005/0093485号)。他のグループも浄水システムにUV発光ダイオードを利用している(例えばPhillips Electronicsの国際公開第2005/031881号)。
【0010】
スペクトルの可視領域で発光する発光ダイオード(LED)は、キャピラリ電気泳動における物質の間接光度検出(Johns C., et al. (2004) Electrophoresis, 25, 3145-3152)及び蛍光検出(Tsai C., et al. (2003) Electrophoresis, 24, 3083-3088)に用いられている。また、King等は、379.5nmにおいて発光するUV発光ダイオードを無機陰イオンの間接光度検出に用いる用法を報告している(Analyst (2002) 127, 1564-1567)。
【0011】
核酸用検出システムの光源としての遠UV発光ダイオードの用法が米国特許出願第2005/0133724号に開示されている。しかしながら、LEDを採用した検出システムが開示されているものの、提案されているシステムを用いてポリメラーゼ連鎖反応測定法において核酸量を測定して実際に成功したことを示す実験データは存在しない。所載のシステムは、バンドパスフィルタ又はビームスプリッタ及び基準検出器を用いていないため感度、直線性、及びダイナミックレンジが不十分である。LEDは微小な温度変化に極めて敏感であり、摂氏100分の1度程度の変化でもベースラインのドリフトを生ずる。さらに、このシステムには帯域幅を狭める作用及びスペクトルの可視領域の光を遮断する作用の両方を果たすバンドパスフィルタが存在しない。標本の本来の帯域幅に比較して、好ましくは1対10の比で狭い帯域幅であれば、良好な応答直線性及び広いダイナミックレンジを与える。(Practical Absorbance Spectrometry. Ed. A Knowles and C. Burgess, Chapman and Hall, New York)。
【0012】
特開2002−5826号は、オゾン濃度を測定するシステムを開示している。しかしながら、直線性及びダイナミックレンジを示す実験データは掲げられていない。このシステムは、ダイヤモンド半導体薄膜で構成された固体発光素子を用いて、発光ピークが240nmから270nmの波長にある紫外光を放出している。UVピークの半値幅における発光スペクトルは、オゾンの吸収スペクトルのピーク(最大発光は約254nm)の半値幅よりも幾分狭い。しかしながら、このことはオゾン濃度を測定するのであれば十分かも知れないが、帯域幅を例えばオゾン吸収ピークの半値幅の10分の1に縮小し得るバンドパスフィルタが存在しないため、検出器の直線性及びダイナミックレンジを著しく低下させている(Practical Absorbance Spectrometry. Ed. A Knowles and C. Burgess, Chapman and Hall, New York)。また、このシステムには参照用光検出器も存在しないため、放出された光の強度の測定が行なわれない。つまり、温度変化による発光強度のばらつき補償が不可能である。
【0013】
国際公開第2007/062800(本明細書に援用する)は、液体標本内の物質の濃度の分析のための光源としてのUVLEDの用法を記載しているが、標本を様々な波長で照射し、これにより様々な波長での吸収特性によってさらに正確に又はさらに迅速に物質を画定するためには、光のスペクトルがさらに広い方が望ましいことが判明している。しかしながら、公知のLEDは、限られた光波長出力範囲しか有しない。
【0014】
本発明は上述の課題に取り組み、現状で入手可能な光源を分析システムに用いて溶液中の物質の濃度を検出し且つ/又は測定するためのものである。
【発明の概要】
【0015】
本書で用いられる「物質」との用語は任意の化学的実在物を指すことが理解されよう。具体的には、この用語は有機化合物及び無機化合物を含む。有機化合物の例としては、限定しないがタンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸、タンパク質核酸、薬剤候補及び生体異物等がある。無機化合物の例としては、金属塩(例えば硫酸第二鉄、塩化銅、硝酸ニッケル)等がある。
【0016】
本発明の第一の観点では、物質のモル吸光係数Eを既知として又は未知として、溶液中の物質の吸光度を測定し、選択随意で引き続き物質の濃度を決定する方法であって、物質は光吸収を呈し、当該方法は任意の適当な順序で、
i)第一の波長を有し第一のLED光源から出力される光を伝達するステップと、ii)LEDから出力される光を溶液中の物質を通過するように導くステップと、iii)溶液中の物質の濃度の指標を与えるために溶液から伝播する光の強度を定量化するステップとを備えており、当該方法は、ステップi)からステップiii)が第一の波長とは異なる第二の波長の出力を有する第二のLED光源を用いて繰り返されることを特徴とする方法が提供される。
【0017】
本発明の第二の観点によれば、溶液中の物質の吸光度を測定する装置であって、i)既知の路長を有し上述の溶液を収容するための標本セルであって、予め画定されている波長スペクトルの光に対して少なくとも部分的に透明な標本セルと、ii)光路に沿って上述の予め画定されている波長スペクトルの範囲内で光を放出するLED光源構成と、選択随意でiii)光路に設けられたバンドパスフィルタとを備えており、当該装置は、上述のLED光源構成が、各々異なる波長光出力を有する複数のLEDを含んでおり、上述のLED光源構成が、予め画定されている波長スペクトルの範囲内で選択自在で異なる波長を有する光を光路に沿って与えるように動作可能であることを特徴とする装置が提供される。
【0018】
第三の観点によれば、本発明は、タンパク質、ペプチド及び核酸から成る群から選択される物質の濃度を決定し又は測定するための第一の観点の方法又は第二の観点による装置の用法にある。
【0019】
本発明は、特許請求の範囲にさらに詳細に画定されている。本発明は多くの方法で実施されることができ、以下、この実施の例について図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】溶液中の物質の濃度を決定する装置の第一の実施形態を示す概略図である。
【
図2】溶液中の物質の濃度を決定する装置の第二の実施形態を示す概略図である。
【
図3】溶液中の物質の濃度を決定する装置の第三の実施形態を示す概略図である。
【
図4】溶液中の物質の濃度を決定する装置の第四の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明による装置の一実施形態の概略図である。装置10は、各々スペクトルの紫外部分の光を放出する複数の発光ダイオード(UVLED)から成る構成20と、入口32及び出口34を有するフローセル30と、UV感受性光電子増倍管又はUV感受性フォトダイオードの何れであってもよい光検出器40、42とを含んでいる。装置はさらに、着目するUV波長について低い吸収係数を保ちつつ不要の波長を拒絶して他の波長の通過を許すバンドパスフィルタ22から成っている。フィルタの帯域幅は、良好な直線性及び広いダイナミックレンジを与える半値全幅とし、好ましくは10nm未満である。装置はさらに、コリメート用レンズ70とビームスプリッタ24とを含んでおり、ビームスプリッタ24はLED構成20からのコリメート済みの光の一部を参照用光検出器42に分流させ、残部をフローセル30の内部の溶液Sを通過するように導く。ビームスプリッタ24及び参照用光検出器42を用いて、UVLED構成20に強度変化が少しでもあればこの変化を追尾し、このようにしてLED構成20の複雑な恒温制御の必要性を回避する。但し、比較的低性能の装置が許容可能な場合には、ビームスプリッタ及び基準検出器を省いてもよい。フローセル30は、サファイア、石英又は合成溶融シリカのようなUV透明材料で製造される窓36及び38を有し、既知の路長bを有する。ポリマーのような他の材料を用いてもよい。
【0022】
溶液Sは、入口32及び出口34を介して矢印Fの方向にフローセル30を通過し、溶液Sは、300nm以下に光吸収を有する物質、例えばタンパク質又は核酸を含有し得る。LED構成20からのUV光を用いて、フローセル30の溶液Sを照射し、光は点線で示すようにUV透過窓36を通ってフローセル30に入る。次いで、溶液を通過して窓38から出た光は検出用光検出器40によって検出される。
【0023】
UVLED構成20はカルーセル21を含んでおり、カルーセル21は軸Rを中心とした回転式であり平歯車対23を介してステッピングモータ24によって駆動される。カルーセルは複数のUVLED、この場合には2個のUVLED26及び28を支持している。制御器25を用いてステッピングモータ24を駆動し、このようにして各々のLEDをフローセル30の標本Sを照射するための正しい位置に移動させる。標本を照射するのに用いられるUV光の波長は、特定の波長のUV光を放出する適当なLEDの何れか、例えばUVTOP(登録商標)260nm及び280nmLEDの利用によって選択され得る。UVTOP(登録商標)LEDは、米国サウスカロライナ州のSensor Electronic Technology Inc.から入手可能であり、例えば250nmから365nmの範囲で発光するダイオードである。
【0024】
一旦、溶液の吸収が測定されたら、物質のモル吸光係数Eが既知である場合にはランベルトベールの法則の利用によって溶液中の物質の濃度を決定することができる。このことは手動で行なわれてもよいし、コンピュータ又は設けられている制御器25を用いて行なわれてもよい。代替的には、物質の濃度を、当該着目物質について所与の波長例えば280nmで事前に生成しておいた用量応答曲線の利用によって決定してもよいし、様々な波長で生成される多数の応答曲線を用いてもよい。かかる決定は、コンピュータを用いて制御器25へのデータリンクを介して行なわれ得る。幾つかの応用では、例えばクロマトグラフィカラムでのタンパク質の分離の際には吸光度の変化に着目するので、物質の濃度を決定する必要はない。この場合には、モル吸光係数(E)を知る必要はない。また、二つの周波数の光を用いると吸光度変化をさらに綿密に監視することができ、吸光度が閾値に達したときに、比較的吸収され難い第二の光への切り換えによって吸収の変化率のさらに良好な分解能を与えることができ、結果的に濃度値の最大又は最小の手掛かりを与えることができる。
【0025】
カルーセルを回転させて、予め決められた時間、通常は約0.25秒間から3秒間にわたりLEDを照射位置に停留させるLEDの段階的移動を行なうこともできるし、LEDの軌道が照射可能区域を通過すると同時に所定の照射時間を与える約1rpmから20rpmの辺りでの連続回転も可能である。
【0026】
上述の実施形態ではカルーセル21が示されているが、LEDの非回転運動を用いて、
図1の点線で示す光路にLEDを整列させてもよいことが認められよう。例えば、LED26及び28を、これらLEDの上下運動を行なって上述のように整列させる線形摺動路に装着してもよい。
【0027】
本発明によるもう一つの実施形態の装置110を
図2に示す。
図2では、
図1に示す実施形態と共通の特徴は同じ参照番号を有するが、「1」の数字を先頭に添える。
図2の実施形態にはLED構成120が示されており、このLED構成120は複数のLED126、127及び128と、上述と同様に動作可能な共通のビームスプリッタ124とを含んでおり、複数のLED126、127、及び128は、各々がそれぞれの光学的結合(実際には光ファイバ)156、157及び158を有し、これらの光学的結合156、157及び158は、各々が近傍で、それぞれのバンドパスフィルタ166、167及び168を介して標本セル130を照射するのに適当な区域において終端している。
【0028】
この実施形態は
図1に示す実施形態と同様の態様で作用するが、制御器125が、LEDを物理的に移動させるのではなく適当な時刻に各々のUVLEDに電力を供給する点が異なる。この電力によって対応する一つ一つのLED126、127又は128が励起し、望まれる波長の光を関連する光路に沿って進めて、上述のような態様で標本セル130を照射する。ビームスプリッタ124及び参照用光検出器142を用いて、LED光出力に強度変化が少しでもあればこの変化を追尾し、また補償する。
【0029】
フローセル130の溶液Sを通過して窓138から出る紫外光は、標本光検出器140によって上述と同様に検出される。当業者には、路長が未知のフローセル130を有する同等の装置を用いて、単に物質の存在及び物質の濃度変化を検出してもよいことが理解されよう。溶液中の物質の濃度の決定又は測定は、路長の知識を必要とする。ランベルトベールの法則を参照されたい。
【0030】
第二の実施形態は、UVLEDを1個ずつ作動させることを要求しているが、UVLEDを同時に作動させることも可能である。加えて、第二の実施形態のフィルタ166、167及び168は、光ファイバが全て収束する狭い区域に一つのフィルタのみが存在するように回転させられてもよく、これにより、全てのLEDが点灯されていても特定の周波帯のみの通過を許すことができる。
【0031】
本発明によるもう一つの実施形態の装置を
図3に示す。
図3では、
図1に示す実施形態と共通の特徴は同じ参照番号を有するが、「2」の数字を先頭に添える。
【0032】
本実施形態では、装置210が示されており、異なる周波数のUV光が3個の(又はさらに多い)UVLED226、227及び228によって与えられる。各々のLEDからのUV光はそれぞれのバンドパスフィルタ266、267、268を通って伝播する。ここから、UV光は可動反射面290まで伝播することができる。この場合には、可動反射面290は所謂微小電気機械システム(MEMS)鏡であって、制御器225の制御の下で鏡を少なくとも一つの軸を中心として傾斜させることが可能な単一のチップ構成要素に装着された鏡であるので、上述の光は、順次各々のLEDからそれぞれのフィルタ及びレンズを介して正確にフローセル230へ向けて反射される。MEMS鏡は、例えばMirrorcle Technologiesから入手可能である。この装置は他では、要求に応じて望まれるUVLEDから望まれる波長の光を与えることにより上述と同様に作用する。
【0033】
図4は、本発明によるさらにもう一つの実施形態装置を示す。
図4では、
図1に示す実施形態と共通の特徴は同じ参照番号を有するが、「3」の数字を先頭に添える。
【0034】
装置310はここでも、複数のUV光発生LED326、327及び328を有するものとして示されている。LEDから放出された光はそれぞれのバンドパスフィルタ366、367及び368によって別個に濾波され、次いで各々のフィルタからの光が光ファイバ356、357、358に伝播する。各々の光ファイバはまとめられてバンドル370を形成している。バンドル370の末端は、LEDの1以上から僅かに拡散する態様で、当該バンドル370から隔設された受光用光ファイババンドル372へ向けて光を放出し、光が受光用バンドル372の各ファイバにわたって実質的に均等に拡散するようにしている。バンドル370及び372では3本の光ファイバが示されているが、この手法は各々のバンドルに異なる数の光ファイバを許容することは明らかであろう。また、図面は分かり易くするため隔設されたファイバを示しているが、実際にはファイバは緊密にまとめて保持されている。バンドル372において光は分割されて、この場合には2個のフローセル330及び331まで進み、また基準検出器342にも進む。
【0035】
本実施形態では、フローセル330及び331を流れる流れFは並列であっても直列であってもよいが、何れの場合にも、溶液中の物質の濃度が変化するのに伴ってさらに広い範囲の吸光度値を与えるように、異なるUV周波数を用いて流れを逐次的に又は同時に監視することができる。一変形例では、2個のフローセルは相異なる光路寸法を有していてよく、これにより装置の範囲をさらに増強することができる。例えば物質が第一の周波数に低い吸光度を有する場合には長い光路を用い、同じ物質が第二の周波数に高い吸光度を有する場合には短い路長を用いることができる。
【0036】
動作について述べると、実施形態の各々が、制御器25、125、225、325に頼って標本が照射される瞬間を制御する。それぞれのUVLEDが標本セルに光を与える時間点を変化させることは単純明快な仕事であり、用いられる装置は堅牢で低費用であるので、図示の実施形態は、吸光度を測定することにより液体内の物質の濃度を決定するための適応自在で信頼性が高く低費用の液体装置を提供する。タンパク質、ペプチド、核酸、細胞抽出物、細胞溶解物、細胞培養物又はこれらの組み合わせの溶液中での濃度の測定には、400nmまでの光を放出するUVLEDが用いられると好ましいが、本発明は他の光波長、具体的には700nmまでの波長にも応用される。2個又は3個のLEDが示されているが、3個よりも多く用いてもよく、例えば4個又は5個又は6個又はこれよりも多いLEDを用いることができ、また追加のLEDが可視光を放出してもよい。各実施形態において、バンドパスフィルタは標本セル30、130、230、330、331とそれぞれのLED光源との間に位置しているように示されているが、図示の装置はこれらのフィルタが標本セルの後方で検出器40、140、240、340、341の前方に載置されていても同等の実効性で作用する。この場合には、正しいフィルタが正しいLEDと共に用いられるようにフィルタを変化させる必要がある。基準検出器42、142、242、342は、当該基準検出器に入射する光が濾波されていない場合でもLED出力強度の変化を検出するように依然作用する。
【0037】
図示のLEDは概略で表されており、LEDの形態が図示のものと異なっていてもよい。例えば、図示のものよりも全体的に平坦であり、平坦なコリメート用レンズを取り付けた表面装着型LEDを用いてもよい。また、隣り合った半導体区域から相異なる周波数の光を発生する所謂多光源LEDを用いてもよく、この場合には図示の装置の規模は小さくなるが、動作原理は同じである。
【0038】
通常の動作態様は全ての実施形態について、複数の波長の間を循環的に変化して性能を最適化するものとなるが、幾つかの物質については、低濃度であっても第一の周波数の光を容易に吸収するような物質の低濃度については第一の周波数で探索し、次いで濃度が増すにつれて、然程容易に吸収されない第二の波長に切り替えて、これによりさらに広い範囲の動作及び感度を提供することが可能である。
【0039】
以上の例は本発明の特定の観点を例示するものであって、如何なる観点でも発明の範囲を限定するものではなく、限定するものと看做されるべきでない。以上に記載されている本発明の教示の利点を享受する当業者は、多くの改変を施し得る。これらの改変は特許請求の範囲に記載されているような本発明の範囲内に包含されるものと看做されるべきである。本開示の範囲を決定するために、一つの実施形態の任意の特徴をさらに他の特徴(1以上)と組み合わせたり、1以上の他の実施形態の複数の特徴と組み合わせたりしてよいものとする。
【符号の説明】
【0040】
10、110、210、310:装置
20、120、220、320:発光ダイオード構成
21:カルーセル
22:バンドパスフィルタ
23:平歯車対
24、124、224:ビームスプリッタ
24:ステッピングモータ
25、125、225、325:制御器
26、28:UVLED
30、130、230、330、331:フローセル
32:入口
34、134、234:出口
36、38、136、138、236、238:窓
40、140、240、340、341:検出用光検出器
42、142、242、342:参照用光検出器
70、270:コリメート用レンズ
126、127、128、226、227、228、326、327、328:LED
156、157、158、356、357、358:光学的結合(光ファイバ)
166、167、168、266、267、268、366、367、368:バンドパスフィルタ
290:可動反射面
370:バンドル
372:受光用光ファイババンドル