特許第6248104号(P6248104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248104航空交通を管理するためのスケジュール管理システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248104
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】航空交通を管理するためのスケジュール管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 5/00 20060101AFI20171204BHJP
   B64F 1/36 20170101ALI20171204BHJP
【FI】
   G08G5/00 A
   B64F1/36
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-520257(P2015-520257)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公表番号】特表2015-527644(P2015-527644A)
(43)【公表日】2015年9月17日
(86)【国際出願番号】US2013045655
(87)【国際公開番号】WO2014004101
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月3日
(31)【優先権主張番号】13/786,858
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/666,801
(32)【優先日】2012年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(73)【特許権者】
【識別番号】399129342
【氏名又は名称】ロックヒード マーティン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】スッブ,ラジェッシュ・ヴェンカット
(72)【発明者】
【氏名】チャン,デイヴィッド・ソ・クン
(72)【発明者】
【氏名】ブルックスビー,グレン・ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】クルースター,ジョエル・ケネス
(72)【発明者】
【氏名】トレス,セルジオ
【審査官】 倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−170502(JP,A)
【文献】 Miwa Hayashi, Richard A. Coppenbarger, Doug Sweet, Gaurav Nagle and Gregory L. Dyer,Impacts of Intermediate Cruise-Altitude Advisory for Conflict-Free Continuous-descent Arrival,AIAA Guidance, Navigation, and Control Conference,米国,2011年 8月,AIAA 2011-6216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 5/00
B64F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定義された空域内にあって、到着空港に接近しつつある複数の航空機を含む航空交通を管理するためのスケジュール管理システムであって、
前記複数の航空機の各々は、3次元位置および速度を含む既存の飛行経路パラメータを有し、
前記スケジュール管理システムは、
前記複数の航空機と個別に関係し、航空機飛行経路および前記航空機飛行経路に関係する前記航空機の飛行に特有のコストデータを決定するように適合される航空機搭載飛行管理システムと、
前記複数の航空機をモニターするように適合されるが、前記複数の航空機のいずれにも搭載されない航空交通管制システムと、を含み、
前記航空交通管制システムは、意思決定支援ツールを有し、
前記航空交通管制システムは、前記飛行管理システムから前記航空機飛行経路および前記飛行に特有のコストデータを取得し、前記到着空港への進入路に沿った少なくとも1つの位置について前記複数の航空機の各々の予定到着時刻(STA)を生成するように動作可能であり、
前記複数の航空機のいずれかが前記少なくとも1つの位置で前記複数の航空機の前記いずれかの前記STAに遅れて、それによって、前記少なくとも1つの位置に向かって飛行している前記複数の航空機の第2の航空機により遅いSTAを課すために、前記第2の航空機を遅延させる場合には、前記航空交通管制システムは、前記意思決定支援ツールに前記航空機飛行経路および前記飛行に特有のコストデータを送信し、前記より遅いSTAと関係する前記遅延を吸収するために、特別の飛行経路変更が前記第2の航空機にとってより経済的かどうかを決定するために前記意思決定支援ツールを用いて、前記意思決定支援ツールによって容易にされた人間の決定に基づいて、前記第2の航空機に命令を送信するように動作可能である、スケジュール管理システム。
【請求項2】
前記飛行に特有のコストデータは、少なくとも1つの時間に関係する飛行に特有のコストを含む、請求項1に記載のスケジュール管理システム。
【請求項3】
前記特別の飛行経路変更は、前記第2の航空機の速度を減少させる巡航高度の変更を含む、請求項1または2に記載のスケジュール管理システム。
【請求項4】
前記特別の飛行経路変更は、前記第2の航空機の速度を減少させる早期降下飛行経路を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載のスケジュール管理システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの位置は、計測定点である、請求項1乃至4のいずれかに記載のスケジュール管理システム。
【請求項6】
定義された空域内にあって、到着空港に接近しつつある複数の航空機を含む航空交通を管理するためのスケジュール管理システム方法であって、
前記複数の航空機の各々は、3次元位置および速度を含む既存の飛行経路パラメータを有し、
前記方法は、
個別に前記複数の航空機と関係する航空機搭載飛行管理システムを有する前記複数の航空機の各々の航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータをコンピュータが決定するステップと、
前記複数の航空機のいずれにも搭載されない航空交通管制システムを用いて前記複数の航空機をコンピュータがモニターするステップと、
前記航空交通管制システムを用いて、前記到着空港への進入路に沿った少なくとも1つの位置について前記複数の航空機の各々の予定到着時刻(STA)をコンピュータが生成するステップと、
前記複数の航空機のいずれかが前記少なくとも1つの位置で前記複数の航空機の前記いずれかの前記STAに遅れて、それによって、前記少なくとも1つの位置に向かって飛行している前記複数の航空機の第2の航空機により遅いSTAを課すために、前記第2の航空機を遅延させる場合には、前記飛行管理システムから取得した前記航空機飛行経路および前記飛行に特有のコストデータを前記航空交通管制システムの意思決定支援ツールに対してコンピュータが送信するステップと、
前記より遅いSTAと関係する前記遅延を吸収するために、特別の飛行経路変更が前記第2の航空機にとってより経済的かどうかを決定するために前記意思決定支援ツールをコンピュータが用いるステップと、
前記意思決定支援ツールによって容易にされた人間の決定に基づいて、前記第2の航空機に命令をコンピュータが送信するステップと、を含む方法。
【請求項7】
前記飛行に特有のコストデータは、少なくとも1つの時間に関係する飛行に特有のコストを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記特別の飛行経路変更は、前記第2の航空機の速度を減少させる巡航高度の変更を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記特別の飛行経路変更は、前記第2の航空機の速度を減少させる早期降下飛行経路を含む、請求項6乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの位置は、計測定点である、請求項6乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載の方法の前記ステップを実行するための手段を含むスケジュール管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、航空交通を管理するための方法およびシステムに関する。特に、本発明は、航空交通管制オペレーションを最適化して、航空交通効率の損失を最小にするために用いる方法およびシステムに関し、1つまたは複数の航空機が予定到着時刻(STA)に遅れることから生じる時間遅延を吸収する手段として早期巡航降下を含むことによって、到着する航空機の時間スケジュールを管理するための方法およびシステムを含む。
【背景技術】
【0002】
到着空港に接近する航空機の時間スケジュールを管理することは、航空交通管制によって実行される重要な航空交通管理タスクである。天候の影響および他の航空交通による妨害にもかかわらず、到着する航空機をSTAの許容パラメータ範囲内で到着計測定点まで届けることが重要である。現代の航空交通においては、STAに遅れる単一の飛行機は、おそらく発着枠を失うことを含めて下流の航空交通の結果となるであろう。
【0003】
空間(緯度、経度、高度)および時間の正確な4次元飛行経路(4DT)は、航空交通管制が航空交通および航空機の将来の位置を評価することを可能にする。これらのパラメータは、スケジュール管理目的のための航空交通管制によって用いることもできて、航空交通遅延を吸収し、縦方向(速度変更)、横方向(飛行経路の延長もしくは短縮)、または垂直方向(速度を減少するために巡航高度を下げる)の変更によって、下流の航空交通の到着時刻を変更することができる。現状では、速度変更および飛行経路の横方向の変更の組み合わせが時間遅延を吸収するために用いられる。
【0004】
本明細書において、飛行経路は、航空機が離陸から着陸まで従う3次元位置の時間順のシーケンスであって、数学的に記述することができる。対照的に、飛行計画は、民間航空機関のパイロットまたは運航管理者によって提出される一連の文書であって、出発および到着の場所および時間などの情報を含み、航空交通管制(ATC)によって、トラッキングおよびルーティングサービスを提供するために用いられ得る。飛行経路は、時間および位置については不確実であるが、意図された飛行計画を実現する手段である。
【0005】
飛行経路に基づく運用(TBO)はいずれ近い将来に実現される高度航空交通システムの重要な構成要素であって、米国の次世代航空輸送システム(Next Generation Air Transport System(NextGen))およびヨーロッパの単一欧州航空ATM研究(Single European Sky ATM Research(SESAR))を含む。TBOのコンセプトは、空域運用効率を改善するための基礎を提供する。TBOで実行される飛行経路の同期およびネゴシエーションは、空域ユーザー(フライトオペレータ、運航管理者、フライトデッキ要員、無人航空システム、および軍のユーザーを含む)が彼らの好適な飛行経路により近い飛行経路を定期的に飛ぶことを可能にし、燃料および時間効率、風に対する最適な経路指定、ならびに天候に関係する飛行経路変更を含む経営目的がTBOコンセプトに組み込まれることを可能にする。その結果、TBOを可能にするためのシステムフレームワークおよび技術の開発に重要な研究が行われている。
【0006】
TBOの全てにかかわる目標は、空間および時間の上述した4DTを用いることにより、航空機の将来位置の予測と関係する不確実性を低減することである。4DTの正確な使用は、時間に対する航空機の現在および将来の位置および飛行経路を決定する際の不確実性を激減させ、航空機がその到着空港に接近する際に、航空機がいつ到着計測定点(測定定点、到着定点、またはコーナーポストとも呼ばれる地理的位置)に到達するかを予測する能力を含む。現状では、航空交通管制は「管制承認に基づく制御」システムに頼っており、それは通常は航空機の飛行経路についてそれほど多くの知識なしに、航空機の現在位置の観察に依存している。通常は、これは、結果として、航空機は航空交通管制により決定されたルートではあるが、航空機の好適な飛行経路ではないルートを飛行することになる。TBOに切り換えることによって、航空機がユーザーに好適な飛行経路を飛行することができる。
【0007】
TBOでは、ユーザーの好みが航空交通オペレーションで成される選択を決定する。より具体的には、航空機飛行経路および運用手順は、航空機オペレータの経営目的の直接的な結果である。これらの経営目的の基本的な要素はコスト指数(CI)であり、それは飛行中の航空機の燃料費(kg当たりのコスト)に対する時間コスト(分当たりのコスト)の比である。航空機のCIは、その最適な飛行速度および飛行経路を決定し、大気条件、航空機性能、および飛行経路の関数であって、その結果、飛行ごとにほとんど一意的である。さらに、速度および高度などの係数がCIの増加と共に必ずしも直線的に増加するわけではない。このように、地上シミュレーションにおけるCIの計算は困難である。
【0008】
現状では、航空交通管制官は、安全性および航空機間の分離を第1に考えて経路パターンを維持する。このようなパターンは、好適な航空機飛行経路を考えずに作成され、したがって、航空交通管制官は、航空機オペレータのコストを節約するための努力はしない。このような事例において、ずっとコスト効率の良い他の実現可能な飛行経路変更が行われ得ることが認められている。好適な飛行経路を決定するために必要な最適化および計算は、おそらく人間のオペレータまたは管制官では不可能であって、コンピュータシステムによって提供されることが必要となろう。このような場合、コンピュータが人間のオペレータに好適な飛行経路オプションを提供し、それから、オペレータが一連の可能性がある飛行経路から選択する。
【0009】
TBOが効率的に機能するためには、全ての関連する航空機から飛行経路データを蓄積しコンパイルすることを必要とする。ユーザーに好適な飛行経路、すなわち航空機オペレータによって最も望ましい飛行経路は、特にもはや管制承認に基づかない航空交通システムにおいては、しばしば互いに競合することがあり得る。TBOは効率を改善するが、それは飛行経路および交通競合を取扱わなければならない。飛行経路ネゴシエーションは、様々な航空機の飛行経路要件または意図を決定し、できるだけ多くのユーザー選好を満足させる解決策を形成して利用可能な空域の最善の使用を試みる。このような飛行経路ネゴシエーションは、航空機飛行経路データ、ならびに人間の意思決定および飛行経路選択に依存する。
【0010】
現状では、速度変更と同様に、飛行経路に対する横方向の変更が航空交通の飛行遅延を吸収するために用いられる。しかし、早期降下飛行経路が航空交通の飛行遅延を吸収するために用いることができれば、それは望ましいだろう。アメリカ航空宇宙局(NASA)エイムス研究センターは、経験豊かな航空路交通管制センター(ARTCC)の地区管制官と共に人間をループに加えたシミュレーション実験を行うことによって、NASAの航路降下アドバイザ(EDA)の高度変更(降下)勧告能力を用いる実現可能性を調査した。これは、AIAA Guidance,Navigation,and Control Conference(2011年8月8〜11日、米国オレゴン州ポートランド)で発表された論文「Impacts on Intermediate Cruise−Altitude Advisory for Conflict−Free Continuous−Descent Arrival」に報告されている。
【0011】
連続降下または早期降下飛行経路では、航空機は標準飛行経路より非常に早くアイドルまたはアイドルに近い推力設定で降下し始める。飛行経路においてかなり早期に低速の降下を開始することによって、時間遅延を吸収することができ、燃料の消費をより少なくすることができる。早期降下飛行経路の基本的な概略図を図1に示す。早期降下飛行経路に追従する航空機は、指定された計測定点位置まで連続的に降下してもよいし、あるいは中間の低い高度まで降下してもよく、飛行遅延を吸収して潜在的に燃料の消費をより少なくするように、より低速で飛行することができる。
【0012】
航空交通の時間遅延を吸収しなければならない場合に、早期降下操作は航空機の飛行経路に対する横方向または速度の変更を上回るはっきりしたコスト優位性を提供することができる。しかし、特に人間の管制官が航空交通の競合を防止することに気を取られている場合には、航空交通安全上の制約条件を満たして、適切な遅延を吸収し、かつ燃料を節約する好適な飛行経路を決定することは、人間の管制官の計算能力を越えるものであろう。したがって、早期降下操作を含み得る好適な飛行経路またはいくつかの好適な飛行経路を決定することができて、航空機パイロットにコマンドを伝達することができる人間の管制官に対してこれらの飛行経路を提供することができるシステムが実現されなければならない。航空交通の競合が時間遅延を吸収するための航空機操作を必要とする事象では、このシステムは、今まで通りに航空交通安全および周囲の交通による操作上の制約条件を意識しながら、航空機飛行経路の単純な横方向または縦方向の変更に好適な飛行経路オプションを提供する。
【0013】
米国特許出願公開第2009/0157288号は、同様の問題を解決することを試みているが、解決の主体を個々の航空機に限定している。航空機は、航空交通管制から時間遅延係数だけを受け取って、地上のシステムからの追加情報から隔離されて、この時間遅延に対処するための最善の飛行経路変更を決定する。
【0014】
情報および意思決定が航空機または地上のシステムのいずれかに完全に残されることがあり得るが、これらの方法のいずれかには情報の精度および可用性に対する制限がある。通常は、このような計算は航空機の近くの航空交通状況の全体に左右され、したがって、このような意思決定の結果は航空機に対して分離されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/241345号明細書
【発明の概要】
【0016】
本発明は、到着空港に接近する到着航空機の時間スケジュールを管理するための方法およびシステムを提供する。本発明は、STA(予定到着時刻)に遅れている1つまたは複数の航空機から生じる時間遅延を含むがこれに限定されない航空交通スケジューリング変更を補償するために、早期巡航降下を含むがこれに限定されない航空機飛行経路を変更する手段を提供する。
【0017】
本発明の第1の態様によれば、定義された空域内にあって、到着空港に接近しつつある複数の航空機を含む航空交通を管理するためのスケジュール管理システムが提供され、複数の航空機の各々は、3次元位置および速度を含む既存の飛行経路パラメータを有する。スケジュール管理システムは、複数の航空機と個別に関係し、航空機飛行経路および航空機飛行経路に関係する航空機の飛行に特有のコストデータを決定するように適合される航空機搭載飛行管理システム(FMS)と、複数の航空機をモニターするように適合されるが、複数の航空機のいずれにも設置されない航空交通管制システムと、を含む。航空交通管制システムは、意思決定支援ツールを有し、FMSから航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを取得し、到着空港への進入路に沿った少なくとも1つの位置(例えば計測定点)について複数の航空機の各々のSTAを生成するように動作可能である。複数の航空機のいずれかがその位置でそのSTAに遅れて、それによって、その位置に向かって飛行している複数の航空機の第2の航空機により遅いSTAを課すために、第2の航空機を遅延させる場合には、航空交通管制システムは、意思決定支援ツールに航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを送信し、より遅いSTAと関係する遅延を吸収するために、特別の飛行経路変更が第2の航空機にとってより経済的かどうかを決定するために意思決定支援ツールを用いて、意思決定支援ツールによって容易にされた人間の決定に基づいて、第2の航空機に命令を送信するように動作可能である。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、定義された空域内にあって、到着空港に接近しつつある複数の航空機を含む航空交通を管理するための方法が提供され、複数の航空機の各々は、3次元位置および速度を含む既存の飛行経路パラメータを有する。本方法は、個別に複数の航空機と関係する航空機搭載FMSを有する複数の航空機の各々の航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを決定するステップと、複数の航空機のいずれにも搭載されない航空交通管制システムを用いて複数の航空機をモニターするステップと、航空交通管制システムを用いて、到着空港への進入路に沿った少なくとも1つの位置(例えば計測定点)について複数の航空機の各々のSTAを生成するステップと、を含む。複数の航空機のいずれかがその位置でそのSTAに遅れて、それによって、その位置に向かって飛行している複数の航空機の第2の航空機により遅いSTAを課すために、第2の航空機を遅延させる場合には、本方法は、FMSから取得した航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを航空交通管制システムの意思決定支援ツールに対して送信するステップと、より遅いSTAと関係する遅延を吸収するために、特別の飛行経路変更が第2の航空機にとってより経済的かどうかを決定するために意思決定支援ツールを用いるステップと、意思決定支援ツールによって容易にされた人間の決定に基づいて、第2の航空機に命令を送信するステップと、をさらに含む。
【0019】
到着する航空機の時間スケジュールを管理する従来の方法は、個々の航空機または地上のシステムのどちらかに完全に残された情報および意思決定に依存しているが、本発明は、地上に設けられた航空交通管制システム(例えば、航空交通管制センター)の勢力圏内の航空機から受け取った航空機および飛行データを用い、管理されている各航空機の推定到着時刻(ETA)を計算して、時間遅延を吸収するかまたは一時的に航空機を早める必要があるかどうかを決定するために、地上のシステムの意思決定支援ツール(DST)を用いる正確かつ包括的なスケジュール管理システムを提供しようとする点が、本発明の技術的な効果である。
【0020】
この発明の他の態様および利点は、以下の詳細な説明からより良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態によって実施することができる早期降下飛行経路の基本的な概略図を模式的に示す図である。
図2】個々の航空機の飛行経路および飛行に特有のコストデータに基づいて、到着空港に接近する航空交通を管理するためのスケジュール管理方法およびシステムのブロック図である。
図3】早期降下操作において特定の距離から計測定点までの時間遅延を吸収するために用いることができる、所与の時間遅延と高度変更との関係を表すグラフである。
図4】従来の横方向または速度の変更と比較して、航空機の飛行経路に早期降下操作を導入して航空交通の時間遅延を吸収する場合には、潜在的なコスト面での有利さが達成され得ることを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、到着空港に接近する航空交通を管理するためのスケジュール管理システムおよび方法を提供する。好適な本発明の態様によれば、空域内の航空機は、航空機飛行経路を決定する航空機搭載飛行管理システム(FMS)およびそれらが搭載された個々の航空機の飛行に特有のコストデータを備えている。スケジュール管理システムは、地上のシステムが意思決定支援ツール(DST)を備えている航空交通管制(ATC)センターの勢力圏内の航空機のFMSから、航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを受け取る。航空交通管制システムは、到着空港への1つまたは複数の進入路に沿った1つまたは複数の計測定点における航空機の予定到着時刻(STA)を決定し、航空機がそのSTAに遅れて、それによって計測定点に向かって飛行している1つまたは複数の他の航空機に時間遅延を課す場合には、DSTは、航空機飛行経路変更が時間遅延を吸収する際に有利かどうかを決定するために、他の(遅延する)航空機の航空機飛行経路および飛行に特有のコストデータを用いる。適切である場合には、このような決定は、航空交通管制要員によって遅延する航空機に送信され得る。
【0023】
好適な本発明の態様によれば、飛行に特有のコスト情報は、航空機によって生成され、解析のためDSTに提供される。既存のコンピュータの能力に基づけば、DSTは、好ましくは地上に設けられたコンピュータシステムの一部であって、航空機に搭載されるものではない。DSTが非常により大きいサイズであって、航空機キャビンではなく部屋または建物に適合するように設計され得るとすれば、これはより大規模なデータ記憶および処理能力を提供する。また地上に設けられたDSTは、航空交通管制システムの管理下の複数の航空機から受信したデータをコンパイルするためのより良好な媒体を提供する。本発明の実施形態が、特に、NextGenおよびSESARの進展を含む、将来実施される飛行経路に基づく運用(TBO)などの高度航空交通システムに適応するように、航空交通管制の進歩を促進する能力を提供する点に留意する必要がある。このように、DSTは、ただ1つの航空機で働くのではなく、多数の異なる航空機、飛行経路、位置、および時間的制約条件で働くように設計される。
【0024】
特定の空港における航空機の到着スケジュールを計算するために、到着マネージャ(AMAN)が過密な空域で一般的に用いられる。通常はターミナル空域境界にある計測定点である地点に到着する航空機のスケジュールを構築するために、スケジュール管理システムのコンピュータシステムは、航空機からの航空機監視データおよび/または予測飛行経路を用いることができる。今日、この機能は米国にあるFAAの交通管理アドバイザ(TMA)によって実行され、一方、他のAMANは国際的に用いられている。一般に、本発明は、航空機データに基づいて航空機をモニターし、計測定点に到着する航空機の順序およびSTAを計算する到着スケジューラツールを使用することができる。大部分の現行スケジューラは先着順アルゴリズムを用いてSTAを計算するが、装備の良いものが優先されるタイプのスケジュールを含む、多くの異なる代替的スケジュール手段がある。一方、DSTは、後に到着する航空機のためにコンピュータシステムによって計算される遅延STAに従って航空機を計測定点まで届ける早期降下飛行経路(結果として速度の減少になる)を、後に到着する航空機が正確に実行することを可能にする代替的飛行経路を生成するために用いる助言的なツールである。
【0025】
本発明のスケジュール管理システムの実施および動作の非限定的な例として、図2は空港の近くで発生した航空交通競合を表し、そこでは、2つの航空機が同時に空港の場周経路に到達する。図2に関して説明するシナリオでは、一方の航空機(図2に示す)は、他方の航空機(図示せず)が最初に場周経路に入ることができるように、遅延されなければならず、2つの航空機の間に十分な空間が提供される。航空交通管制官は、遅延される航空機がその巡航速度を減少させるかまたは別の単純な飛行経路変更を行うことを単純に要請することができるが、そうすることは航空機オペレータにとって最も費用効果の高いものではないかもしれないし、あるいは望ましい解決策ではないかもしれない。スケジュール管理システム内では、航空機が航空交通管制システムによってモニターされる空域に入る際に、各航空機の4D(高度、横方向のルート、および時間)飛行経路(4DT)をモニターする地上に設けられたコンピュータシステムが航空交通管制システムに提供される。機内に搭載されたFMS(または、例えばデータ通信(DataComm)システム)を適切に備える航空機は、この情報をコンピュータシステムに直接提供することができる。特に、多くの高度FMSは4DTデータを正確に計算することが可能であり、4DTデータは、航空機と航空交通管制システムとの間のCPDLC、ADS−C、もしくは別のデータ通信機構、または飛行運航管理者からの別のデジタル交換を用いて、コンピュータシステムと交換され得る。
【0026】
モニターされた空域内の各航空機について、航空交通管制システムと関係するコンピュータシステムは、航空機によって共有される到着(目的地)空港と関係する少なくとも1つの計測定点に対する推定到着時刻(ETA)を計算する。複数の航空機に対するETAは、コンピュータシステムおよびそのDSTによってアクセスされ得るデータ記憶ユニットの一部であるキューに記憶される。第1の航空機(図示せず)が最初に場周経路に入り、結果として別の航空機(図2に示す)の遅延が生じる、図2に関して説明するシナリオでは、コンピュータシステムは、航空機から推定されるまたはダウンリンクされる情報に基づいて、第1の航空機のETAおよび遅延航空機の適切な遅延時間を決定するための計算を実行する。
【0027】
4DT、飛行に特有のコストデータ、および選択的に遅延航空機から得られる航空機オペレータの経営目的に基づく選択を用いて、早期降下を潜在的に開始することによって航空機運用コストも節約しながら、遅延航空機を適切に遅延させて交通競合を解決するいくつかの可能性のある代替的飛行経路を計算するために、コンピュータシステムはDSTを用いる。この場合、適切なATCoインターフェース(例えばグラフィック/ユーザーインターフェース)を用いることにより、航空交通管制官は、DSTによって推奨される、早期降下を潜在的に含む、可能な飛行経路のうちの1つを選択して、この要請を遅延航空機に伝達することができる。このように、人間が依然として航空機の飛行経路を変更する決定をすることができるが、1つまたは複数の早期降下飛行経路を含むことができるより費用効果が高い解決策を算出して推奨することによって、DSTはより良好な運航効率を容易にする。一旦、降下飛行経路要請が遅延航空機によって留意され(「パイロットチェック」)、実施される(「4DT」)と、航空交通管制システムは、要請に適合するように航空機の飛行経路をモニターし続けることができる。必要であって可能な場合には、航空交通管制システムは、データ記憶のキューに記憶された各航空機の計測定点に対するETAを更新することができる。
【0028】
図2に示すように、スケジュール管理システムは、初期および最終的なスケジューリング水平線に関して働くように実装することができる。初期スケジューリング水平線は空間の水平線であって、それは各航空機が所与の空域、例えば到着空港の約200海里(370.4km)内の空域に入る位置である。一旦、航空機が初期スケジューリング水平線に入ると、ATMシステムは航空機の位置をモニターして始動する。最終的なスケジューリング水平線(STA凍結水平線とも呼ばれる)は、特定の到着時間計測定点によって定義される。STA凍結水平線は、将来の20分以下の航空機の計測定点ETAとして定義することができる。一旦、航空機がSTA凍結水平線に入ると、そのSTAは変更されず、管理システムが始動して、スケジュール管理システムのDSTによって考案された代替的飛行経路の1つを実行するために、時間に合わせる操作が航空機にアップリンクされる。
【0029】
遅延航空機の早期降下飛行経路の基本的な概略図は図1に模式的に表され、航空機は標準飛行経路よりもかなり早期に(例えば、アイドルまたはアイドルに近い推力設定で)降下を開始することを明示している。飛行経路においてかなり早期に低速の降下を開始することによって、時間遅延が吸収され、好適な実施形態では燃料の消費がより少なくなる。航空機は、指定された計測定点位置まで連続的に降下してもよいし、あるいは中間の低い高度まで降下してもよく、飛行遅延を吸収して燃料の消費をより少なくするように、より低速で飛行することができる。
【0030】
航空交通の時間遅延を吸収しなければならない場合に、図1に示され図2のスケジュール管理システムによって可能になるタイプの早期降下操作は、航空機の飛行経路に対する横方向または速度の変更を上回るはっきりしたコスト優位性を提供することができる。本発明につながる実験的評価は、複数のボーイング737型航空機タイプ、ウィンドプロファイル、および時間に合わせる目標のシミュレーションを含み、図3のグラフに示す時間遅延データ、ならびに図4にプロットした予測燃料費を生成するシミュレーションを含んでいた。図3のグラフは、所与の時間遅延を吸収するために必要な高度変更と、早期降下操作における計測定点からの距離との関係を表す。早期巡航降下では、一定の風の条件で対応する経路が延伸する場合よりも、一般的に燃料使用が多くなるが、一定でない風速場の存在は、より高い高度で経路が延伸する場合と比較して、有意な燃料節約を潜在的に提供することが分かった。最適な時間に合わせるスケジュール管理操作の地上に設けられた計算をサポートすることができるコスト係数を基礎とするフレームワークも開発された。この種のフレームワークの議論は、Torres他による「Trajectory Management Driven by User Preferences」30th Digital Avionics Systems Conference(2011年10月16〜20日)で議論されており、このようなフレームワークに関するその教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
飛行を運用するためのコストは、燃料コストおよび他の直接的で時間に関係するコストに分解することができ、このコストにはクルー賃金、航空機保守、乗客および貨物のロジスティックス、ならびに機器の価値減少が含まれるが、これらに限定されない。本発明の好適な実施形態は、航空機に搭載されたFMSから有効運用コストを抽出することを含む。運用コストを計算し評価するための好適な機構は、上述し、Torresの論文にあるコスト指数を含むことができる。データ記憶および処理のために必要なハードウエア要件が地上に設けられたシステムのDSTに必要とされる要件よりもはるかに少ないので、特定の航空機についてのこのような計算および評価は、おそらく航空機自体に設けられる。処理される情報は、所与の航空交通管制センターによってモニターされている航空交通内の全ての航空機に全般的に関係することとは対照的に、特定の航空機に左右されるか、またはそれに直接関係する。それから、機構は、その情報が航空交通管制システムおよびそのDSTが利用(ダウンリンク)できるようにする。
【0032】
上述したように、Torresの論文は、最適な時間に合わせるスケジュール管理操作の地上に設けられた計算をサポートすることができるコスト係数を基礎とするフレームワークの議論を含み、それによって、航空機のコストが最適化された新たなSTAを、STAに遅れた先の航空機に応答して決定することができる。一般に、このようなフレームワークは、速度、横方向の経路変更(経路の長さの増加)または巡航高度の変更に関して、その現在の計画された飛行経路の様々なタイプの変更についてのコスト(現在の計画された飛行経路または絶対コストに対して)を航空機が計算することを含む。速度を減少させるために、巡航高度の変更はおそらく巡航高度を減少させることであるが、例えば、より高い高度のより強い逆風が、結果としてSTAに遅れた先の航空機によって必要となった航空機のより遅いSTAに合わせることができる全体の時間遅延を生じさせる場合には、潜在的に巡航高度を増加させることが適切であり得る。このコスト情報は、地上の(潜在的に航空機からの一組のコスト係数として)DSTに送信される。
【0033】
上記からみて、特定のコース変更が、例えば、経路延伸または別の操作よりも、時間スケジュールに合わせるためのより効率的な方法であるかどうかを決定するために、コスト情報を用いることができる。このようなコース変更の非限定的な例は、航空機の新たなSTAに合わせるのに最適な早期降下飛行経路であって、特別な例がSTAに遅れた先の航空機によって必要となったより遅いSTAである。DSTは、航空機によってより有用なツールに提供される利用可能な情報をコンパイルする。TBOの一部が先に記述された場合には、DSTは飛行経路ネゴシエーションを行うことができる情報を生成しコンパイルし、DSTはその情報からいくつかの可能性がある代替的飛行経路を好適に生成し、それらの1つまたは複数が航空機オペレータによって選択され、および/または既存の航空交通環境の制約条件に適合され得る。その意図は、1つまたは複数のユーザーに対して、ユーザーが飛行経路および潜在的な付加情報に基づいて決定することを可能にする適切なインターフェースを通して、好適な飛行経路だけでなく全ての利用可能な飛行データを提供することによって、DSTは空域のより良好な使用を促進し、航空機ユーザーに好適な飛行経路を満たすことが可能であるということである。
【0034】
管理されている航空機のSTAにアクセスして、DSTは、予測された航空機飛行経路に基づいて、航空機のETAを計算することができる。航空機のETAがそのSTAより早い場合には、時間遅延を吸収する必要がある。逆に、航空機のETAがそのSTAより遅い場合には、航空機を時間的に早める必要がある。地上に設けられたDSTは、速度変更(単一の速度命令、または要求到着時刻(RTA)などの時間制約条件として)、横方向の経路延伸もしくは近道、および/または高度変更の様々な組み合わせを考慮することができる。ダウンリンクされたコスト係数から構築されるコスト表面は、航空機の時間に合わせる操作、および、より好ましくは、到着計測定点でSTAを満たすと共に航空機にとって最も有利に見える最良の時間に合わせる操作を評価し選択するために用いられる。
【0035】
上記からみて、本発明は、航空交通管制官が利用できるように設定された可能なオプションの一部として早期巡航降下を可能にし、時間に合わせるスケジュール管理のために設定されたオプションを広げる。これは、速度変更および経路延伸を越えて利用できる自由度を増加させ、過密な空域におけるタイミング要件を満たす競合のない飛行経路をより良く識別することを可能にする。設定されたより広いオプションおよび各オプションと関係するコストを計算する手段を用いて、航空機の経営目的は考慮され、満足され得る。
【0036】
特定の実施形態に関して本発明を記載しているが、当業者が他の形式を採用することができることは明らかである。したがって、本発明が本明細書に記載された具体的な実施形態に限定されないことを理解すべきである。したがって、本発明の範囲は以下の請求項のみによって限定される。
図1
図2
図3
図4