特許第6248119号(P6248119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248119
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】X線造影剤の中間体の製造
(51)【国際特許分類】
   C07C 231/12 20060101AFI20171204BHJP
   C07C 237/46 20060101ALI20171204BHJP
【FI】
   C07C231/12
   C07C237/46
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-541795(P2015-541795)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公表番号】特表2016-501184(P2016-501184A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】US2013066487
(87)【国際公開番号】WO2014074315
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】12192193.6
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】396019387
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】ハーランド,トルフィン
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0021822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 231/12
C07C 237/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物A)及びN,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−5−ホルムアミド−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物C)から選択されるN−アシル化単量体化合物の製造方法であって、以下に示す化合物B2を脱アシル化剤の水溶液に添加することによって、化合物B2をアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化に付す段階を含む方法。
【化1】
式中、各Xは水素又はアシル基であるが、窒素に結合したX基の1以上がアシル基であることを条件とする。
【請求項2】
脱アシル化剤が無機塩基である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
化合物B2が溶液の形態で脱アシル化剤に添加される、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
化合物B2が次式の化合物B3である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【化2】
【請求項5】
夾雑化合物1の生成が最小限に抑制される、請求項4記載の方法。
【化3】
【請求項6】
脱アシル化剤への添加時に、化合物B2と脱アシル化剤の混合溶液のpHを4から1〜13に下げる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
脱アシル化剤の水溶液に化合物B2を0.5〜2時間にわたり複数回に分けて又は連続的に添加する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
以下の式の化合物Bをアシル化して化合物B2を製造する第1段階と、次いで
化合物B2を脱アシル化剤の水溶液に添加することによって、化合物B2の溶液をアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化に付す段階と
を含む、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【化4】
【請求項9】
造影剤の製造方法であって、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の化合物A又は化合物Cの製造方法を含む方法。
【請求項10】
前記造影剤が、イオジキサノール、イオヘキソール又はイオホルミノールである、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素化X線造影剤の製造方法、特にその主要中間体に関する。本発明は、さらに、非イオン性X線造影剤の工業生産における中間体である5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物A)又はN,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−5−ホルムアミド−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物C)の改良製造方法に関する。特に、本発明は、これらの化合物の中間体のアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化法に関する。さらに、本発明は、X線イメージングに有用なイオジキサノール、イオヘキソール及びイオホルミノールのような造影剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この50年間、X線造影剤の分野では可溶性ヨウ素含有化合物が支配的であった。ヨウ素化造影剤を含む市販の造影製剤は、通常、ジアトリゾエート(Gastrografen(商標))のようなイオン性単量体、イオキサグレート(Hexabrix(商標))のようなイオン性二量体、イオヘキソール(Omnipaque(商標))やイオパミドール(Isovue(商標))やイオメプロール(Iomeron(商標))のような非イオン性単量体、及び非イオン性二量体のイオジキサノール(Visipaque(商標))に分類される。上述したもののような最も広く使用されている市販の非イオン性X線造影剤は、安全であると考えられている。ヨウ素化造影剤を含む造影製剤は、米国において年間2千万件を超えるX線検査に使用されており、副作用の数は許容し得るものと考えられている。非イオン性X線造影剤は、大量生産される医薬化合物の非常に重要な部類を構成する。5−[N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−アセトアミド]−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨード−イソフタルアミド(イオヘキソール)及び1,3−ビス(アセトアミド)−N,N’−ビス[3,5−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル−アミノカルボニル)−2,4,6−トリヨードフェニル]−2−ヒドロキシプロパン(イオジキサノール)は、こうした化合物の重要な例である。例えば、Visipaque(登録商標)という商品名で市販されているイオジキサノールは、X線診断法で多用されている薬剤の1つである。これは、GE Healthcare社(ノルウェー)で大量生産されている。
【0003】
非イオン性X線造影製剤の製造は、化学薬品(原薬(API)、つまり造影剤)の製造と、その後の医薬製品(本明細書ではX線組成物という。)への製剤化を含む。
【0004】
イオジキサノール及びイオヘキソールの工業生産は多段化学合成を含んでおり、化合物Bと呼ばれる5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミドから出発する最終段階を以下のスキーム1に示す。化合物Bの製造は先行技術に十分に記載されている。米国特許第6974882号参照。
【0005】
【化1】
また、イオホルミノールと呼ばれる化合物5,5’−(2−ヒドロキシプロパン−1,3−ジイル)ビス(ホルミルアザネジイル)ビス(N1,N3−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド)は、以下のスキーム2に示すように化合物Bから製造することができる。
【0006】
【化2】
造影剤及び最終生成物のコストを下げるため、各々の合成段階について最適収率が得られ、不純物の生成が最小限となるように最適化することが重要である。反応設計における僅かな改善であっても、大量生産では大幅な節約につながることがある。
【0007】
化合物BからのN−アシル化単量体化合物、例えばN−アセチル化化合物5−アセトアミド−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(本明細書では化合物Aという。)、及びN−ホルミル化化合物N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−5−ホルムアミド−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(本明細書で化合物Cという。)の改良製造方法が求められている。
【0008】
イオヘキソール及びイオジキサノールの大規模合成のアセチル化段階では、無水酢酸をアセチル化試薬として用いて5−アミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物B)をアセチル化して、5−アセチルアミノ−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨードイソフタルアミド(化合物A)を生成させる。今回、本発明者らは、ある種の不純物の生成が大幅に低減される最適化プロセスで、化合物Bから化合物Aを製造することができることを発見した。
【0009】
本発明で解決すべき課題は、X線イメージング用造影剤の中間体であるN−アシル化単量体化合物の製造プロセス、特に化合物A及び化合物Cの製造方法を最適化することであるとみなすことができる。
【0010】
化合物Bのアシル化反応では、アミノ酸官能基はアシル化(製造すべき最終生成物に応じて、アセチル化又はホルミル化)される。ただし、化合物Bの4個のヒドロキシル基も併せてアシル化される。スキーム3参照。化合物B2と呼ばれる中間体のアシル化ヒドロキシル基は望ましくなく、アシル化反応後に脱アシル化する必要がある。本発明は、アシル化段階で生成した化合物B2の不要アシル化基の脱アシル化法に関する。
【0011】
【化3】
化合物B2において、Xは水素又はアシル基を示す。
【0012】
化合物B2のO−アセチル化基の脱アセチル化を含む化合物Bから化合物Aの製造方法は、例えば欧州特許出願公開第2281811号(GE Healthcare AS)から公知であり、同文献には、第1の反応器で、水酸化ナトリウム水溶液のような適当な塩基の添加によってpHを11〜12に調整してアセチル化ヒドロキシル基を脱アセチル化する連続法が記載されている。
【0013】
化合物Bからの化合物Aの製造における第1段階はアセチル化である。次の段階は、アセチル化反応で生成したO−アセチル基を除去するための脱アセチル化である。従来技術の方法を用いたときに製造される粗製化合物Aの主要不純物の1種が、以下に示す化合物1であることが今回判明した。
【0014】
【化4】
機序についての詳細な研究の結果、化合物1が、従来技術のプロセスの幾つかの段階で生成することが判明した。脱アシル化段階では、通常は、過剰にアシル化された化合物B(スキーム2で化合物B2と表記された化合物)を含有する溶液に水酸化ナトリウム(50%水溶液)を添加する。今回、脱アシル化を代替法で実施することができ、化合物1として示す不純物の生成が大幅に低減するという予想外の知見が得られた。今回判明した代替法は、化合物B2の溶液を塩基のような脱アシル化剤に添加することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0021822号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、第1の態様では、本発明は、化合物A及び化合物Cから選択されるN−アシル化単量体化合物の製造方法であって、以下に示す化合物B2を脱アシル化剤の水溶液に添加することによって、化合物B2をアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化に付す段階を含む方法を提供する。
【0017】
【化5】
式中、各Xは水素又はアシル基を示す。
【0018】
一実施形態では、化合物B2は、溶液の形態で脱アシル化剤に添加される。別の実施形態では、脱アシル化剤に添加する際の化合物B2は、固体の形態である。好ましくは、化合物B2の溶液を使用する。
【0019】
X基は水素又はアシル基のいずれかであるが、窒素に結合したX基の1以上がアシル基であることを条件とする。アシル基はホルミル基及びアセチル基から選択され、好ましくはアセチル基である。化合物B2の主成分は、好ましくは次式の化合物B3である。
【0020】
【化6】
一実施形態では、化合物B2は化合物B3である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先行技術の方法と比較すると、脱アシル化剤(通常は塩基)を化合物B2に添加するのではなく、化合物B2を脱アシル化剤に添加する。本発明の代替脱アシル化法の主な利点は、ある種の不純物の生成量が低減することである。特に、本発明に係る化合物Aの製造では、夾雑化合物1の生成の低減と共に、脱アシル化プロセスでの発熱量の低下が達成される。化合物1は、化合物Aの粗生成物から除去するのが難しい不純物である。例えば、この化合物は結晶化では除去されない。したがって、化合物1の生成量の大幅な低減をもたらす本発明の方法は、得られる化合物Aを、さらに、イオヘキソール又はイオジキサノールのような造影剤の製造等の合成に用いる際に、特に収率の点で多大な効果をもつ。
【0022】
先行技術の方法における夾雑化合物1の生成は、幾つかの段階を経ることが今回判明した。最後の2段階は、脱アシル化段階で起こる。まず、化合物2のエポキシドが形成される。
【0023】
【化7】
このエポキシドは反応性であり、次の段階で、合成アニオン性化合物A分子と塩基性条件
下で以下に示すように反応して夾雑化合物1を生成する。
【0024】
【化8】
この化合物1の形成段階は二量化反応であり、2分子間の反応であるので、この段階は濃度依存性であると認められる。したがって、脱アシル化段階をもっと希釈された条件下で行うと、化合物1の形成が抑制されると推認された。先行技術の方法では、過剰にアシル化された化合物A(すなわち化合物B2)を含有する酸性溶液に水酸化ナトリウム(50%水溶液)を添加する。
【0025】
化合物1が不純物として特定され、その生成機序が特定され、もっと希釈された条件が必要とされると推認された場合の、上記課題の直感的な解決策は、脱アシル化段階の前に、化合物B2の酸性溶液を格段に大量の溶媒(例えばメタノール及び水)で希釈して化合物1の形成を抑制することである。しかし、このような課題の解決策は、生産能力の低下という短所をもつことが判明した。
【0026】
本発明の第1の態様で述べた通り、実現可能で費用効果の高い代替法は、脱アシル化剤の水溶液に対して、化合物B2(例えば化合物B2の酸性溶液)の添加であるという様相外の知見が得られた。この代替法では、脱アシル化が始まる前に希釈熱の大半が除去されるため、化合物B2の溶液に脱アシル化剤を添加する場合に比べ、脱アシル化段階での発熱が少ない。したがって、脱アシル化を温和な温度条件下で実施することができる。先行技術の脱アシル化法との最も重要な相違点は、脱アシル化の際の基質化合物B2の濃度プロファイルである。特許請求の範囲に記載の脱アシル化法では、上記濃度は従来技術の方法に比べて格段に低く、そのため化合物1の生成量が大幅に低い。
【0027】
化合物B2のアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化の前に、化合物Bのアシル化が起こる。そこで、この実施形態では、本方法はかかる段階を含んでおり、本発明は、化合物A及び化合物Cから選択されるN−アシル化単量体化合物の製造方法であって、
化合物Bをアシル化して化合物B2を製造する第1段階と、次いで
化合物B2を脱アシル化剤の水溶液に添加することによって、化合物B2をアシル化ヒドロキシル基の脱アシル化に付す段階と
を含む方法を提供する。
【0028】
化合物Bのアシル化は、例えば無水物及び酸の使用など、任意の好適な方法で達成し得る。アシル化段階が化合物Cを与えるホルミル化である場合、ホルミル化剤として混合無水物のような活性化ギ酸の使用等、任意の好適な方法を使用し得る。混合無水物は、文献に記載の様々な方法で調製し得る。混合無水物の好適な調製方法は、温度制御下で、過剰の酢酸に無水カルボン酸を添加することである。好ましくは、ギ酸と無水酢酸の混合物をホルミル化段階に使用する。混合無水物を用いるホルミル化段階の結果、化合物B2は、ホルミル保護基とアセチル保護基を有する様々な化合物の混合物となる。O−ホルミル化の程度は種々異なるが、高度のN−ホルミル化が起こり、脱アシル化後にN−ホルミル化化合物Cが高い収率で得られる。アシル化段階が化合物Aを与えるアセチル化である場合、好ましくは、酢酸と無水酢酸を使用する。この実施形態では、化合物B2の主成分は化合物B3であり、すべてのアシル化OH基がアセチル化される。
【0029】
用いる脱アシル化剤の種類については特段制限はなく、従来の反応は慣用される任意の脱アシル化剤を本発明でも同様に使用することができる。好適な脱アシル化剤の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は炭酸リチウムのような炭酸アルカリ金属塩、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウムのようなアルカリ金属水酸化物を始めとする水性無機塩基が挙げられる。これらの中では、アルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましく、最も好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0030】
一実施形態では、脱アシル化剤を水で希釈してから、化合物B2の溶液を添加する。好ましい実施形態では、脱アシル化剤は、水酸化ナトリウムであり、これを使用する場合、50%水酸化ナトリウム水溶液を水に対して、例えば、1:1〜1:5の比(1:1〜1:2の比など)で添加する。好ましくは、使用するNaOHのような塩基の濃度は、約10〜50w/w%、さらに好ましくは20〜25%である。脱アセチル化剤に化合物B2溶液の添加し始めるときの混合溶液のpHは約14であり、化合物B2の溶液を添加してその添加を終えるに従い、pHは約11〜13に下がる。添加は、例えば0.5〜2時間にわたって実施される。脱アシル化剤への添加は、この期間にわたり、何回か小分けにして行ってもよいし、或いはさらに好ましくは連続的に行ってもよく、化合物B2の溶液の添加は撹拌下でゆっくりと穏やかに行われる。これらの条件下では、所望のNH−アシル基だけが加水分解に耐え、アシル化されたまま残る。さらに、夾雑化合物1の生成は最小限となる。
【0031】
希釈熱の大半は、脱アシル化を開始する前に除去されるので、本方法は、脱アシル化段階でほとんど発熱しない。したがって、全体として、従来技術の方法に比較べて温度上昇が少ない。したがって、脱アシル化を温和な温度条件下で実施することができる。脱アシル化剤の溶液に化合物B2溶液を添加する際に、温度は、例えば使用する機器の種類に応じて、例えば20〜35℃の出発温度から50〜60℃の最終温度まで上昇する。添加完了後に、溶液を好ましくは水でさらに希釈して、結晶化前に所望の濃度としてもよい。
【0032】
脱アシル化反応は好ましくは溶媒の存在下で実施され、化合物B2をかかる溶媒に溶解してから、脱アシル化剤に化合物B2の溶液を添加する。使用する溶媒の種類に関しては、反応又は試薬に対して悪影響を与えず、また試薬を少なくとも部分的に溶解することができる限り、特段制限はない。好適な溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン又はジメトキシエタンのようなエーテル類、メタノール又はエタノールのようなアルコール類、及び水が挙げられる。これらの中では、アルコール、特
にメタノール、或いは水と1種以上のアルコールの混合物が好ましい。一実施形態では、特に化合物Cの製造では、化合物B2は、脱アシル化剤への添加前に溶媒に溶解させず、固体化合物として添加する。
【0033】
脱アシル化段階の完了後、つまり、すべての化合物B2を脱アシル化剤に添加し終わったら、酸を添加してpHを下げ、調製された化合物A又は化合物Cの溶解度を下げて、懸濁液を濃くし、化合物A又は化合物Cの沈殿を開始させる。添加される酸は、水溶性の無機強酸であり、好ましくは、硫酸、硝酸及び塩酸からなる群から選択され、最も好ましくは塩酸である。pHは、沈殿が完了するまでの期間(例えば30分間以上)撹拌下で、2.0〜8.0、例えば5.0〜8.0、好ましくは約7に下げられる。一実施形態では、pH調整の前後又は途中に、いずれの化合物を調製すべきかに応じて、反応溶液に種晶として化合物A又は化合物Cを添加する。この懸濁液は、好ましくは、低温(例えば10〜25℃、好ましくは約20℃)で5〜20時間(例えば約10時間)撹拌下に置かれる。次いで化合物Aを生成物として回収し、適宜精製する。一実施形態では、本方法は、好ましくは生成物を濾過によって(例えば、ヌッチェフィルター、例えば真空ヌッチェフィルター又は加圧ヌッチェ又はそれらの組合せを、適宜さらに加熱と組合せて用いることによって)回収する追加段階を含む。生成物は、好ましくは、溶媒(好ましくはメタノールのように脱アシル化段階で用いたものと同じ溶媒)で1回以上(例えば1〜5回、好ましくは3回)洗浄し、次いで適宜好適な乾燥装置で乾燥させる。したがって、本発明の別の実施形態では、脱アシル化後に、調製された化合物A又は化合物Cの生成物を回収し、適宜結晶化等によって精製する。
【0034】
本発明の方法は、品質及び収率にバラツキのない化合物A及び化合物Cを与える。本方法を、小規模及び大規模(例えば100kg規模)の両方で、何回も繰り返したが、99.5%超の純度をもたらした。特に、本発明の方法を用いて化合物Aを製造したときの夾雑化合物1の生成量は最小限に抑制され、化合物Aの乾燥生成物は、化合物1を0.08%以下、好ましくは0.05%未満、さらに好ましくは0.025%未満しか含まない。別の態様では、本発明は、夾雑化合物1を0.08%、好ましくは0.05重量%未満、さらに好ましくは0.025重量%未満しか含まない化合物Aの乾燥生成物を提供する。かかる生成物は、本発明の方法を用いたときに得ることができる。先行技術の方法を用いたときよりも、本発明の方法を用いたときに、化合物1の生成量が大幅に低下することは、調製された化合物Aをさらに使用して造影剤を合成する場合に特に重要である。例えば、精製化合物A中のでの化合物1の生成量が0.09重量%から0.02重量%に減ると、イオジキサノールへの全体的変換は1〜5%増加し、経済的に格段に有益である。
【0035】
したがって、特許請求の範囲に記載の方法で製造される化合物A又は化合物Cを、さらに反応させて、例えばイオジキサノール、イオヘキソール又はイオホルミノールのような造影剤を製造する方法は、本発明の技術的範囲に属するとみなされる。したがって、別の態様では、本発明は、第1の態様について記載した化合物A又は化合物Cの製造方法を含む造影剤の製造方法を提供する。かかる方法は、追加の段階として、アルキル化又はビスアルキル化(二量化)を含んでいてもよく、それぞれイオヘキソール又はイオジキサノール、或いは化合物Cのビスアルキル化を行う場合にはイオホルミノールを生成する。例えば、イオジキサノールの製造の最終段階では、2−ヒドロキシプロパン橋かけによるビス−アルキル化が起こる。この段階は、欧州特許第108638号及び国際公開第98/23296号に記載のように、例えばエピクロロヒドリン、1,3−ジクロロ−2−ヒドロキシプロパン又は1,3−ジブロモ−2−ヒドロキシプロパンを二量化剤として使用して実施できる。この二量化は、好ましくは、酸結合剤(例えば有機又は無機塩基)の存在下で実施され、塩基として、ナトリウムメトキシドのようなアルカリ金属アルコキシド、或いは水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物を使用することができる。
【0036】
特許請求の範囲に記載の方法で製造される化合物、すなわち化合物A及び化合物C並びに最終造影剤は、光学活性異性体を含み、キラル炭素原子に起因する幾つかの異性体の形態で存在する。さらに、化合物は、嵩高いヨウ素原子が近接しているためアシル官能基のN−CO結合の回転が制限されることに起因して、エキソ/エンド異性を示す。鏡像異性体として純粋な生成物の製造及び光学異性体混合物の製造はいずれも本発明の方法に包含される。
【0037】
本発明で製造される化合物は、造影剤として使用することができ、従来の担体及び賦形剤と共に製剤化して診断用造影製剤を生成することもできる。したがって、別の態様では、本発明は、本発明の方法で製造された造影剤を含む診断用組成物であって、(例えば適宜血漿イオン又は溶存酸素を添加した注射用水溶液中で)1種類以上の生理学的に許容される担体又は賦形剤を含む診断用組成物を提供する。本発明の造影剤組成物は、そのまま使用できる濃度であってもよいし、或いは投与前に希釈される濃縮形であってもよい。したがって、本発明は、本製造方法で製造された造影剤並びに該造影剤を含有する診断用組成物のX線造影検査における使用をさらに包含する。
【0038】
以下の非限定的な実施例によって本発明を例証する。
【実施例】
【0039】
実施例1:化合物Bのアセチル化と、その後の先行技術の方法及び本発明の方法による脱アセチル化による化合物Aの製造
化合物Bを、無水酢酸と酢酸の混合物中でアセチル化した。パラトルエンスルホン酸(PTSA)を触媒として使用した。アセチル化後、溶液を減圧下で濃縮し、次いで脱アシル化段階の前にメタノールと水を添加した。この溶液(化合物B2溶液)を2等分した。一方は現行法に従って脱アセチル化し、もう一方は本発明の方法に従って脱アセチル化した。
【0040】
先行技術の方法(比較例):
化合物B2を含有する溶液に、水酸化ナトリウム(50%、150mL)を添加した。水酸化ナトリウムを添加する前の化合物B2の温度は30℃であった。水酸化ナトリウムの添加時間は約20分間であり、添加中に温度は約55℃まで上昇した。次に溶液を水で希釈して全体積を850mLとした。次いで、溶液が僅かに濁るまで塩酸(17.5%)を添加し、溶液に種晶として化合物A(0.9g)を添加した。スラリーを45分間撹拌してから、pHが約7となるまで塩酸(17.5%)を添加した。次いで、スラリーを15℃で一晩冷却した。翌日、スラリーを濾過し、フィルターケークをメタノールで洗浄し、次いで真空オーブン内で乾燥させた。乾燥生成物をHPLC分析したところ、夾雑化合物1のレベルは0.09%であった。
【0041】
本発明の方法:
水酸化ナトリウム(50%、145mL)を水(250mL)に添加した。化合物B2溶液を添加する前の希釈水酸化ナトリウム溶液の温度は40℃であった。過剰アシル化化合物B溶液の添加時間は約30分間であり、添加中に温度は約55℃まで上昇した。次に溶液を少量の水で希釈して全体積を850mLとした。次いで、溶液が僅かに濁るまで塩酸(17.5%)を添加し、溶液に種晶として化合物A(0.9g)を添加した。スラリーを45分間撹拌してから、pHが約7となるまで塩酸(17.5%)を添加した。次いで、スラリーを15℃で一晩冷却した。翌日、スラリーを濾過し、フィルターケークをメタノールで洗浄し、次いで真空オーブン内で乾燥させた。乾燥生成物をHPLC分析したところ、夾雑化合物1のレベルはわずか0.02%であった。
【0042】
実施例2:溶液中での夾雑化合物1の生成量の比較
実施例1の記載と同様に2通りのアセチル化反応を行った。ただし、エポキシド化合物2の高レベルの前駆体を生成させるため、実施例1と比較すると幾つかの変更を加えた。
【0043】
先行技術の方法(比較例):
過剰アシル化化合物Bを含有する溶液(B2溶液)に水酸化ナトリウム(50%、200mL)を添加した。この溶液を次いで水で希釈して全体積を870〜880mLとした。結晶化前の溶液のHPLC分析によって、化合物1のレベルが5.8%であることが判明した。
【0044】
本発明の方法:
水酸化ナトリウム(50%、170mL)を水(280mL)に添加した。次いで、希釈水酸化ナトリウムに化合物B2溶液を添加した。この溶液を次いで水で希釈して全体積を870〜880mLとした。結晶化前の溶液のHPLC分析によって、化合物1のレベルが0.3%であることが判明したが、これは、本発明の方法を用いると、先行技術の方法を用いた場合に比べて、化合物1の生成量が大幅に低下し、全体的収率に良い影響を与えることを示している。