特許第6248189号(P6248189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248189安定な抗がん剤のアルギニン塩とそれを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248189
(24)【登録日】2017年11月24日
(45)【発行日】2017年12月13日
(54)【発明の名称】安定な抗がん剤のアルギニン塩とそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20171204BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20171204BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20171204BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171204BHJP
   C07C 279/14 20060101ALN20171204BHJP
【FI】
   C07D487/04 140
   C07D487/04CSP
   A61K31/519
   A61K9/19
   A61P35/00
   !C07C279/14
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-518853(P2016-518853)
(86)(22)【出願日】2013年6月14日
(65)【公表番号】特表2016-521732(P2016-521732A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】EP2013062413
(87)【国際公開番号】WO2014198338
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】500415715
【氏名又は名称】シントン・ベスローテン・フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100179154
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 真衣
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】ファン・オイペン,ヤコブス・テオドルス・ヘンリクス
(72)【発明者】
【氏名】ザルデク,ボレク
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101081301(CN,A)
【文献】 特表2008−543976(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/082628(WO,A2)
【文献】 中国特許出願公開第101033227(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104098573(CN,A)
【文献】 BASTIN,R.J. et al,Salt selection and optimization procedures for pharmaceutical new chemical entities,Organic Process Research & Development,2000年,Vol.4, No.5,p.427-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
C07C 279/14
A61K 31/33−33/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)
【化1】
のペメトレキセドのアルギニン塩であって、
ペメトレキセドとアルギニンのモル比が1:1.8〜1:2.2である
ペメトレキセドのアルギニン塩。
【請求項2】
化学式(2)
【化2】
を有する請求項1に記載の塩。
【請求項3】
固形の形態である、請求項1又は2に記載の塩。
【請求項4】
非晶形である、請求項3に記載の塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペメトレキセドの前記アルギニン塩と少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項6】
固形組成物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
非晶形のペメトレキセドのアルギニン塩を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
注入液体によって輸液中に再構成するに有用な凍結乾燥粉末である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記賦形剤が、ブドウ糖、ショ糖、マンノース、ラクトース、トレハロースのうちの1つ又は複数の糖や、マンニトール、キシリトールのうちの1つ又は複数の糖アルコール類を含む希釈剤又は充填剤; チオメルサール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノールのうちの1つ又は複数を含む抗菌性防腐剤; アスコルビン酸、グルタチオン、L−システイン、リポ酸のうちの1つ又は複数を含む酸化防止剤;塩酸であるpH調整剤; アセテート、クエン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、安息香酸エステル、及び重炭酸塩バッファーのうちの1つ又は複数を含むバッファー; エデト酸2ナトリウムであるキレート試薬; 塩化ナトリウム、塩化カリウム、ブドウ糖、マンニトール及びラクトースのうちの1つ又は複数を含む等張化要因(tonicity contributor)のうちの1つ又は複数を含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記賦形剤がマンニトールである、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
ペメトレキセドのアルギニン塩を製造するための方法であって、
溶液中で、化学式(1)
【化3】
の二塩基酸のペメトレキセドに、L−アルギニンを混合するステップと、溶媒を除去するステップとを含む、方法。
【請求項12】
前記溶媒の除去が、蒸発又は凍結乾燥によって行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
医薬組成物を製造する方法であって、ペメトレキセドのアルギニン塩に少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を混合するステップを含む、方法。
【請求項14】
前記医薬組成物が固形組成物である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ペメトレキセド(pemetrexed)である、N−[4−[2−(2−アミノ−4,7−ジヒドロ−4−オキソ−1H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン-5-イル)エチル]ベンゾイル]-L-グルタミン酸(N−[4−[2−(2−amino−4,7−dihydro−4−oxo−1H−pyrrolo[2,3−d]pyrimidin-5-yl)ethyl]benzoyl]-L-glutamic acid)という一般名称の化学式(1)
【化1】
の化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の化合物は、欧州特許第432677号明細書に初めて記載された。
【0003】
ペメトレキセドは、薬学的に活性な化合物であり、例えば、悪性胸膜中皮腫や非小細胞肺がんの治療に使用される。
【0004】
上記化学式(1)のペメトレキセドは、2つのカルボン酸基(carboxylic group)を含む二価の酸(二塩基酸(diacid))であり、塩基を有する様々なタイプの塩を形成し得る。他方で、ペメトレキセドは、塩基性窒素を有し、その結果、様々な酸を有する酸付加塩を形成し得る。市販の製品で販売されている、例えば、Eli Lilly社のブランド名ALIMTAは、有効成分(active substance)としてペメトレキセドの水和した2ナトリウム塩を含み、単回投与用の薬瓶で使用される静脈内注入のための無菌の凍結乾燥された粉末として供給される。凍結乾燥されたペメトレキセドの2ナトリウムの組成物の調製は、米国特許第7,138,521号明細書に記載される。
【0005】
米国特許第7,138,521号明細書には、また、特有のX線回折パターンを有する、ペメトレキセドの2ナトリウムの、安定した結晶性七水和物の形態が記載されている。この特許では、ペメトレキセドの2ナトリウムは、七水和物の形態で存在することができ、これは既に知られている2.5水和物よりもさらに安定であることが述べられており、また、2.5水和物の結晶形(crystalline form)を超える七水和物の結晶形の初期(primary)の利益は、その安定性であり、また、関連した物質の構造(formation)に関することが示されている。それはまた、七水和物は、昇温、低湿度、及び/又は、真空の処理をされると、水の喪失によって2.5水和物の結晶形に変質(convert)することを示す。
【0006】
上記の特許において、昇温や低湿度等に暴露された時、ペメトレキセドの異なる結晶形(実際には上述した形態は、多形相(polymorphic form)ではなく異なる水和物である)の間で転換(conversion)するので、課題が生じ得ることを示している。調製(Formulation)のプロセスは、様々な上述の不利な条件(adverse condition)を改善し得る。その結果、最終製品の安定性に影響を与え得る可能性がある。
【0007】
上記化学式(1)の二塩基酸のペメトレキセドと比較して、2ナトリウム塩のペメトレキセドは、水に溶けやすい。しかしながら、水溶性のペメトレキセドの塩を調製することは、その安定性の問題のために、簡単な仕事であると判断されていない。水中で単回服用用の薬瓶の中身を溶解し、得られた溶液を注入液体で希釈することによって、注入溶液を使用の直前に準備しなければならない。ディグラデント(degradant)の比較的迅速な形成は、これまで、市販品からすぐに使える水性のペメトレキセドの調製を阻む主因である。国際公開第2012/015810号によれば、ペメトレキセドの5つの主要なディグラデントは観察されている。酸性条件下で、グルタミン酸の脱炭酸は観察されている。アルカリ条件下で、脱アミノ化によって続く側鎖アミド加水分解により、分解(degradation)は進行する。酸素が存在する場合、2つの酸化的(oxidative)ディグラデントを生じる。
【0008】
十分な安定性を有する代替のペメトレキセドの製剤を調製する必要性は残っている。特に、代替のペメトレキセドの塩を見出すことは有益である。代替のペメトレキセドの塩は、多形転移(polymorphic transition)を防ぐために、特異的(preferentially)に非晶形で存在し得、これは貯蔵と結晶形の調製(formulation)の間で生じ得る。結晶形と比較すると、活性成分の非晶形(amorphous form)は比較的より不安定であり得ることは知られている。このように、十分な固有(inherent)の安定性を有する、代替の非晶形のペメトレキセドを見つけることは、望ましく、それによって非晶形のペメトレキセドの使用に対する偏見を壊すであろう。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、新規のペメトレキセドの塩に関し、それは有利に非晶質で存在し、製剤処方(pharmaceutical formulation)、特に凍結乾燥された製剤において十分に安定である。
【0010】
第一の態様において、本発明は、ペメトレキセドのアルギニン塩、特に化学式(2)
【化2】
の塩に関する。
【0011】
特定の態様において、アルギニン塩は、固形の形態であり、有利には非晶形である。
【0012】
第二の態様において、本発明は、ペメトレキセドのアルギニン塩と少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物に関する。好ましくは、医薬組成物は、固形組成物である。さらに好ましくは、組成物は非晶形のペメトレキセドのアルギニン塩を含む。特定の態様において、医薬組成物は、注入液体(infusion liquid)によって輸液(infusion solution)中に再構成(reconstitution)するに有用な凍結乾燥粉末である。
【0013】
第三の態様において、本発明は、ペメトレキセドのアルギニン塩を製造するための方法であって、溶液中で、化学式(1)の二塩基酸のペメトレキセドに、L−アルギニンを混合するステップと、前記溶媒を除去するステップとを含む、方法に関する。特定の態様において、前記溶媒の除去は、蒸発又は凍結乾燥によって行われる。
【0014】
第四の態様において、本発明は、医薬組成物、有利には固形医薬組成物を製造する方法に関し、ペメトレキセドのアルギニン塩に少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を混合するステップを含む、方法に関する。特定の態様において、混合するステップは、ペメトレキセドのアルギニン塩を提供するステップと、溶媒中でそれに賦形剤を接触させるステップと、前記溶媒を除去するステップとを含む。さらに他の特定の態様において、ペメトレキセドのアルギニン塩を提供するステップは、溶媒中でペメトレキセドの二塩基酸にアルギニンを混合することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ペメトレキセドのアルギニン塩、特に安定した固形の形態のアルギニン塩、及び、そのような塩を含む医薬組成物に関する。
【0016】
ペメトレキセドの様々な塩を製造する可能性についての社内研究によって、様々なアミンを用いて固体形態(solid state form)のペメトレキセドの塩を調製(prepare)することは困難であることが明らかになった。その代わりに、油性製品は頻繁に形成される。しかしながら、驚くべきことに、化学式(1)のペメトレキセドは、基本的なアミノ酸、特に化学式(3)
【化3】
のL−アルギニン(以下単に、アルギニン)と結合し得、安定した固形の化合物を形成し得ることを見出した。有利には、化合物中のペメトレキセドとアルギニン部分とのモル比は、1:1又は1:2である。両方の部分の間で1:2のモル比を有する化合物は、好ましい化合物であり、上記の比率で部分を含んでいる製品は、上記の化学式(2)のビス‐アルギニン塩のペメトレキセドであると考えられる。
【0017】
実際の構造に関係なく、以下に示す方法によって調製できる、上記に定義した本発明の化合物は、「ペメトレキセドのアルギニン塩」として発明を通して命名される。
【0018】
上記化学式(2)の固形化合物は、結晶形か非晶形で存在し得る。それによって、非晶形は医薬用途において有利であると思われる。化合物は、周囲大気の条件(ambient condition)で水に溶けやすく、その溶液は、中性(neutral)のpHであり、このように、医薬用途において適している。化合物は、固形の状態、特に非晶の状態で十分に安定であり、これらは両方とも単離した形態(isolated form)であり、よって、固形医薬組成物でも十分に安定である。用語「安定した(stable)」は、化学的及び物理的な安定性に関する。
【0019】
本発明のペメトレキセドのアルギニン塩は、ペメトレキセドの二塩基酸に、予め定めた(pre−defined)比率で、L−アルギニンを混合することによって準備され得る。L−アルギニンは、天然に存在するアミノ酸であり、それは市販されている。
【0020】
上記化学式(1)のペメトレキセドの二塩基酸とその調製は、米国特許第5,344,932号明細書で初めて記載されたと思われる。
【0021】
2.5〜3.5のpHを有する水とエタノールの混合物からペメトレキセドの二塩基酸を形成(formation)及び単離(isolation)することは、米国特許第7,138,521号明細書に記載される。5のpHを有する水溶液からペメトレキセドの二塩基酸を形成及び単離することは、米国特許第5,416,211号明細書に記載される。2.8〜3.1のpHを有する水溶液からペメトレキセドの二塩基酸を形成及び単離することは、米国特許第6,262,262号明細書に記載される。
【0022】
ペメトレキセドの二塩基酸を得るための方法と同様に、ペメトレキセドの二塩基酸の様々な結晶の形態は、米国特許第8,088,919号明細書、欧州特許第2351755号明細書、及び欧州特許第2129674号明細書に記載される。
【0023】
高純度のペメトレキセドの二塩基酸は、国際公開第2008/021410号A2に記載の方法によって得られ得る。
【0024】
本発明の様々な実施形態によれば、ペメトレキセドのアルギニン塩の調製は、溶液中で、ペメトレキセドの二塩基酸にアルギニンを混合し、溶媒を取り除くことによって実施される。溶媒は、典型的には水、又は、水と水溶性有機共溶媒との混合物である。有利には、水溶性有機共溶媒は、100℃より低い沸点を有する。例えば、適切な有機共溶媒は、メタノール、エタノール又はイソプロパノールなどの脂肪族アルコール、アセトンなどの脂肪族ケトン、ジオキサン又はテトラヒドロフランなどの周期的エーテル(cyclic ether)、アセトニトリルなどの脂肪族ニトリル、及び、それらの混合物である。有機共溶媒は、もし存在するなら、典型的には、水でのペメトレキセドのアルギニン塩の溶液が得られた後に加えられる。
【0025】
典型的には、ペメトレキセドの二塩基酸とアルギニンは、1:1又は1:2のモル比、又は、この比率の近傍(例えば1:0.9から1:1.1又は1:1.8から1:2.2)で混合され、1:2のモル比(1:1.8から1:2.2mol/molの範囲で)は、医薬用途の目的において好ましい1つである。
【0026】
有利には、アルギニンを、最初、水に溶解して、その後、その溶液にペメトレキセドの二塩基酸を加える。これは、本質的にやや溶けにくいペメトレキセドの二塩基酸のより速い溶解を生じさせる。共溶媒を用いる場合は、その後に加えられる。
【0027】
溶媒は、有利には減圧下で、蒸発によって、噴霧乾燥によって、又は、凍結乾燥によって混合物から除去される。後のアレンジメントの目的のために、溶媒は、有機共溶媒の存在のない、有利には水である。
【0028】
典型的には、ペメトレキセドの固形アルギニン塩は、上記の方法によって、実質的には非晶形で得られる。そのような形態は、そのXRPDパターンが少しも特徴的な回折ピークを示さないという点で特徴づけられる。用語「実質的には(substantially)」は、少なくともおよそ90%の非晶形を意味し、それは、少なくともおよそ95%、又は、いくつかの実施形態では少なくともおよそ99%の非晶形を含む。
【0029】
固形製品は、残留水(residual water)及び/又は有機溶媒を含み得る。典型的には、製品は、10%未満のこれらの揮発性成分を含む。
【0030】
固形の、特に非晶形の、ペメトレキセドのアルギニン塩は、様々な医薬組成物に組み込まれてもよい。このように、本発明は、ペメトレキセドのアルギニン塩、有利には化学式(2)の塩、及び、少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を含む。好ましくは、医薬組成物は固形組成物である。さらに好ましくは、ペメトレキセドのアルギニン塩は、非晶形の組成物で調製される。組成物は、非経口の用途において、有利には剤形に調製され得る。特定の態様において、医薬組成物は、注入液体によって輸液中に再構成するに有用な凍結乾燥粉末として調製される。
【0031】
本発明の目的において薬学的に許容可能な賦形剤、特に凍結乾燥された医薬組成物を製造するのに有用なそれらは、ブドウ糖、ショ糖、マンノース、ラクトース、トレハロースなどの1つ又は複数の糖や、マンニトール、キシリトールなどの1つ又は複数の糖アルコールを含む希釈剤又は充填剤(bulking agent);チオメルサール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノールのうちの1つ又は複数を含む抗菌性防腐剤;塩酸などのpH調整剤;アスコルビン酸、グルタチオン、L−システイン、リポ酸などを含む酸化防止剤;アセテート、クエン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、安息香酸エステル及び重炭酸塩バッファー(buffer)のうちの1つ又は複数を含むバッファー; エデト酸2ナトリウムなどのキレート試薬;塩化ナトリウム、塩化カリウム、ブドウ糖、マンニトール及びラクトースのうちの1つ又は複数を含む等張化要因(tonicity contributor)のうちの1つ又は複数を含む。糖又は糖アルコールの添加は、ペメトレキセド製剤の安定性を改善し得る。このように、適当な凍結乾燥された医薬製剤は、ペメトレキセドのアルギニン塩、及び、少なくとも1つの糖又は糖アルコール、有利にはマンニトールを含み得る。
【0032】
様々な有利な実施形態において、糖又は糖アルコールは、ペメトレキセドのアルギニン塩1gにつき0.1g〜2gの量で存在する。
【0033】
医薬製剤の単位用量は、典型的には、二塩基酸の形態として計算された、50〜1500mgのペメトレキセドを含む。有利には、単位用量は、100mg、250mg、500mg又は1000mgのペメトレキセドを含む。このように、特定の態様において、本発明は、一回の服用量の本発明の組成物を含有する薬瓶(vial)又は類似の容器を含む。長期間の間、ペメトレキセドのような薬剤の無菌貯蔵(sterile storage)に適合するいかなる適当な無菌の薬瓶又は容器も使用し得る。適切な容器は、ガラスの薬瓶、ポリプロピレン又はポリエチレンの薬瓶、又は、他の特別な目的の容器であり得る。
【0034】
本発明の更なる態様では、キット、及び/又は、ここに記述されるペメトレキセドを含有する組成物を保持するための医薬容器を含む。キットは、少なくとも1つの薬学的に許容可能な薬瓶又は容器を含み、これらは、1つ又は複数の投与用量のペメトレキセドを含有する製剤/組成物を含有するとともに、薬(drug)を保存及び/又は投与するための他の薬学的に必要な材料を含有し、さらに、保管と使用のための指示書(instruction)、注入希釈剤等を備える注入バッグ又は容器をも含んでいる。
【0035】
本発明のペメトレキセドのアルギニン塩を含む固形医薬組成物は、ペメトレキセドのアルギニン塩に少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を混合するステップを含む方法によって製造され得る。特定の態様において、混合するステップは、例えば上記の方法によって、ペメトレキセドのアルギニン塩を提供するステップと、溶媒中でそれに賦形剤を接触するステップと、溶媒を除去するステップとを含む。さらに他の特定の態様において、ペメトレキセドのアルギニン塩を提供するステップは、溶媒中で、ペメトレキセドの二塩基酸にL−アルギニンを混合することを含む。
【0036】
本発明の組成物を製造する方法は、典型的には、それぞれの成分を測定することと、好ましくは撹拌下で、水にそれらを溶解することを含む。このように、1つの実施形態において、ペメトレキセドのアルギニン塩と、上記にリストした少なくとも1つの賦形剤は、測定され、水に溶解される。代替の実施形態において、ペメトレキセドのアルギニン塩は、ペメトレキセドの遊離酸を、所望のモル比、典型的には1:1又は1:2のモル比又はこの近傍で、アルギニン塩に混合することによって、インサイチュ―で調製される。上記1:2のモル比(1:1.8から1:2.2mol/molの範囲で)は、好ましい1つである。
【0037】
有利には、水は、適当な技術によって、例えば不活性ガスを水に飽和させたり、超音波等で脱気したりすることによって、最初に酸素の除去が行われる。
【0038】
溶解のプロセスは、好ましくは、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行われる。
【0039】
最終ステージにおいて、組成物のpHは、酸又は塩基によって所望の値に調整される。
【0040】
得られた溶液は、濾過され滅菌されて、薬瓶に満たされ、この薬瓶は1つ当たりに所望の量のペメトレキセドを備える。
【0041】
ペメトレキセドのアルギニン塩は、典型的には、非晶質のペメトレキセドとして計算された場合、10〜60mg/ml、好ましくは15〜50mg/mlの濃度で溶液中に存在する。代替の態様において、ペメトレキセドの量は、これらの範囲の外側であってもよく、しかし、その量は、通常、効果的な量と考えられる量の単回又は複数回の投与において十分であるだろう。
【0042】
水は、薬学的に許容可能な品質でなければならない。典型的には、認可された薬局方(Pharmacopoeia)で定められるように、「注射用の(for injections、注入用の)」品質で水を使用する。有利な態様において、水は、組成物において唯一の液体成分として存在する。
【0043】
本発明の有利な実施形態において、溶液の調整されたpH値は、約6.5〜約8.5である。適切なpH調整剤は、いくつかの適した薬学的に許容可能な酸、塩基、塩又はそれらの組み合わせであり得る。
【0044】
次のステップにおいて、溶媒、典型的には水を、組成物から除去する。典型的には、水を、適当な条件下で凍結乾燥(凍結乾燥(freeze−drying)すること)によって取り除く。凍結乾燥は、約0.5〜約100Paの範囲の真空下で、約−10〜約−60℃の温度で実施され得る。
【0045】
有利な実施形態において、凍結乾燥プロセスの対象は、上で示されるように準備される薬瓶の中身である。よって、凍結乾燥プロセスは、単位量のペメトレキセド、典型的には、二塩基酸の形態として計算された、50〜1500mgのペメトレキセドを含む組成物を得る。
【0046】
方法全体の最後のステップにおいて、薬瓶を適当なストッパーで閉じ、ラベルをつけ、適当な容器に詰める。
【0047】
本発明の組成物及び製剤は、特に非経口投与に適している。そのような投与において、組成物は、適切な液体媒体による使用の前に、再構成(reconstitute)される。媒体は、滅菌水、pH緩衝液、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖溶液又はそれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0048】
本発明の組成物は、特に哺乳類においてペメトレキセドに敏感な病気を治療するために、医薬(medicine)に用いられ得る。このように、本発明のさらに他の態様において、哺乳類におけるペメトレキセドに敏感な病気を治療する方法を提供する。ペメトレキセドに敏感な病気には、特に限定されるものではないが、悪性胸膜中皮腫や非小細胞肺がんなどの癌が含まれる。使用又は方法は、必要に応じて哺乳類に、ここに記載されるような、効果的な量のペメトレキセド含有組成物を投与することを含む。
【0049】
以下の例は、本発明を例示する。
【実施例】
【0050】
<実施例1>
500mgのペメトレキセドの二塩基酸と407mgのアルギニンに対して、6mlの水を加えた。混合物は、透明な溶液が形成されるまで撹拌された。これはおよそ5分間かかった。溶媒は蒸発され、その残りは真空下40℃で翌朝まで(over night)乾燥された。
XRPDテストは、その製品の非結晶質の特徴を裏付けた。
TGA曲線は、25℃と220℃の間で4.738%の水の段階的(gradual)な質量損失を示した。
NMRは、ビス‐アルギニン塩(化学式(2))の構造を裏付けた。
【0051】
<実施例2>
1000mgのペメトレキセド(二塩基酸)と815mgのアルギニンを6mlの水に加えた。混合物は、透明な溶液が形成されるまで、周囲温度(ambient temperature)で攪拌された。
その溶液は、6等分に分けられ、各々に以下の共溶媒を加えた:
.01 3mlのメタノール
.02 3mlのエタノール
.03 2mlのイソプロパノール
.04 2mlのアセトニトリル
.05 2mlのテトラヒドロフラン
.06 2mlのアセトン。
それらの溶液は、回転真空エバポレーターで蒸発された。固形の残りは、翌朝まで真空下40℃で乾燥された。
XRPDによる材料の分析は、非晶質の材料を証明した。
【0052】
<実施例3>
(単位用量の凍結乾燥された組成物を製造する方法(薬瓶1つにつき50mgのペメトレキセド))
窒素の不活性雰囲気下で、875.0mgのペメトレキセド(二塩基酸)を、撹拌下で、30mlの注入用の水で、731.0mgのアルギニン(ペメトレキセドに対して2.1モル等価(molar equivalent))の溶液に溶解した。その後、875mgのマンニトールを加え、溶解した。そのpHは、1Mの塩酸によって約7.5に調整され、溶液の質量は、注入用の水によって35gに調整された。溶液は、PVDFフィルタ0.2ミクロンでろ過され、2gずつ透明な10Rの薬瓶に保管され、表に示されるプログラムを用いて凍結乾燥された。
【0053】
【表1】
【0054】
安定性の試験は、本実施例の組成物を、市販の製品ALIMTA(100mgと500mg)と比較するために実施された。ペメトレキセドを含む製剤に存在する不純物は、安定性の試験の実施によって、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって検出された。そのクロマトグラフィーは、適当な波長(典型的には227nm)での紫外線検出器を備えており、正規化されたピークエリアレスポンス(「PAR」)の原則(basis)で計算された。許容可能な制限として、対応するサンプリングポイントで十分な安定性を示しても、本発明の組成物において全ての個々のディグラデントのピークの合計が、全体のPARの2%を超えてはならない。いずれの個々のディグラデントのピークサイズも、全体のPARの1%を超えてはならない。下の表において、「UN」は未知の不純物を意味する。不純物A、B、C及びDは、構造が知られている(Ph.Eur.)。
【0055】
オリジナル(Originator)の製品Alimtaを、初めに(ゼロタイムで)分析し、そして後に様々な条件で保管した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4A】
【0059】
【表4B】
【0060】
結果:凍結乾燥された組成物中のペメトレキセド‐アルギニン塩は、安全性の観点から、市販のペメトレキセドの2ナトリウムの組成物と完全に同等である。