(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料のナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の製造方法であって、他の食品素材として少なくとも架橋澱粉と、酸化ワキシーコーンスターチおよび/または酸化タピオカ(以下、「低分子化澱粉」という)とを配合することを含んでなり、低分子化澱粉のDEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下であり、全原料に対する架橋澱粉の配合割合が1.8〜5.3質量%であり、かつ、全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が2.6〜14.9質量%である製造方法。
原料のナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の保形性および/または食感の悪化を抑制する方法であって、他の食品素材として少なくとも架橋澱粉と、酸化ワキシーコーンスターチおよび/または酸化タピオカ(以下、「低分子化澱粉」という)とを配合してプロセスチーズ類を製造することを含んでなり、低分子化澱粉のDEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下であり、全原料に対する架橋澱粉の配合割合が1.8〜5.3質量%であり、かつ、全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が2.6〜14.9質量%である、方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これまで提案されてきた加工澱粉が配合されたプロセスチーズ類は、加工澱粉をナチュラルチーズの代替素材として使用するものではなく、それゆえ、ナチュラルチーズを加工澱粉で代替した場合のプロセスチーズ類の保形性や食感の向上に着目したものではなかった。
【0006】
すなわち、本発明は、原料のナチュラルチーズの一部を他の食品素材に代替した場合であっても、保形性や食感に優れたプロセスチーズ類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは今般、原料のナチュラルチーズの一部を架橋澱粉および所定の物性を有する低分子化澱粉で代替すると、保形性や食感に優れたプロセスチーズ類となることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]原料のナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の製造方法であって、他の食品素材として少なくとも架橋澱粉と低分子化澱粉とを配合することを含んでなり、低分子化澱粉のDEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下であり、全原料に対する架橋澱粉の配合割合が1.8〜5.3質量%であり、かつ、全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が2.6〜14.9質量%である製造方法。
[2]架橋澱粉および低分子化澱粉を配合した後に加熱撹拌する工程をさらに含んでなる、上記[1]に記載の製造方法。
[3]全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が5.3〜14.9質量%である、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]低分子化澱粉が、酸処理澱粉、酵素処理澱粉および酸化処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の澱粉である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]架橋澱粉の加熱膨潤度が、7.0〜70.0倍である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]原料のナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の保形性および/または食感の悪化を抑制する方法であって、他の食品素材として少なくとも架橋澱粉および低分子化澱粉を配合してプロセスチーズ類を製造することを含んでなる方法。
[7]低分子化澱粉のDEが2未満である、上記[6]に記載の方法。
[8]低分子化澱粉の10質量%の糊粘度が300mPa・s以下である、上記[6]または[7]に記載の方法。
[9]全原料に対する架橋澱粉の配合割合が1.8〜5.3質量%である、上記[6]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が2.6〜14.9質量%である、上記[6]〜[9]のいずれかに記載の方法。
【0009】
本発明によれば、原料のナチュラルチーズの一部を架橋澱粉および所定の物性を有する酸化澱粉で代替することにより、保形性や食感に優れたプロセスチーズ類を製造することができる。
【0010】
本発明において「プロセスチーズ類」は、乳および乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)および公正競争規約で定めるプロセスチーズ、チーズフードおよび乳または乳製品を主要原料とする食品の規格のうちいずれかに該当するもののほか、一般に「プロセスチーズ類」あるいは「プロセスチーズ様食品」とされるものを含む意味で用いられるものとする。
【0011】
本発明において、プロセスチーズ類の原料であるナチュラルチーズは、例えば、クリームチーズ、モッツァレラ、リコッタ、マスカルポーネ、フロマージュ・ブラン等のフレッシュチーズ、カマンベール、ブリー等の白カビチーズ、ゴルゴンゾーラ、スチルトン、ロックフォール等の青カビチーズ、リヴァロ等のウォッシュチーズ、プロボローネ、ゴーダ等のセミハードチーズ、グラナ、エメンタール、チェダー等のハードチーズを使用することができ、プロセスチーズ類の製造に通常使用されるものであれば特に限定されるものではない。原料ナチュラルチーズの種類、熟度に関しても、最終的に得られるプロセスチーズ類において必要な物性、風味等を得られるような設計、配合をすれば良く、特に限定されるものではない。また、2種類以上のナチュラルチーズを混合して原料チーズとして使用しても良い。
【0012】
本発明の製造方法により製造されるプロセスチーズ類は、原料のナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたものである。「ナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替された」とは、ナチュラルチーズの一部がナチュラルチーズ以外の食品素材により置き換えられたことを意味する。すなわち、本発明の製造方法により製造されるプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズの配合量が低減されたものであり、例えば、ナチュラルチーズ含量が20%以上、100%未満であるものが挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法では、製造されるプロセスチーズ類は、原料であるナチュラルチーズの一部が架橋澱粉および低分子化澱粉により代替されたものである。
【0014】
本発明に用いることができる架橋澱粉は、食品加工分野において公知の架橋剤を用いて澱粉を架橋処理して調製することができる。
【0015】
架橋処理としては、例えば、トリメタリン酸ナトリウムや塩化ホスホリルを用いたリン酸架橋処理、無水酢酸と共にアジピン酸を用いたアジピン酸架橋処理、アクロレインを用いたアクロレイン架橋処理、エピクロヒドリンを用いたエピクロヒドリン架橋処理が挙げられる。架橋剤の添加量や、架橋処理の反応条件(例えば、反応時間、反応温度、反応pH)を適宜調整することで、所望の架橋度となるように架橋反応を調節することができる。架橋度は澱粉の加熱膨潤度とよく相関している。すなわち、架橋度を高めることで澱粉の膨潤が抑制され、加熱膨潤度を抑えることができる。従って、架橋剤の添加量や、反応時間、反応温度、反応pH等の反応条件を適宜調整することで、所望の加熱膨潤度に調整することができる。本発明に用いる架橋澱粉は、製造されたプロセスチーズ類の保形性および弾力性をよりよく向上させる観点から、加熱膨潤度を7.0〜70.0倍とすることが好ましく、より好ましくは10.0〜60.0倍である。
【0016】
加熱膨潤度は、トリメタリン酸ソーダ、塩化ホスホリル等の架橋剤の処理により澱粉分子内に結合様式が導入された場合には、その値は減少する。一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、糖化酵素、酸等の処理により澱粉分子の低分子化が進行した場合には、その値は増加する。従って、当業者に周知の方法に準じて、これらの処理を適宜行って、加熱膨潤度を調整してもよい。
【0017】
架橋澱粉の加熱膨潤度は、実施例に記載された手順により測定することができる。
【0018】
本発明において架橋澱粉は、製造時の作業性の向上およびプロセスチーズ類の保形性や食感の向上の観点から、原料配合時における全原料(原料に含まれる水分を含む)に対する架橋澱粉(固形分質量)の配合割合を1.8〜5.3質量%(好ましくは1.8〜3.5質量%)とすることができる。
【0019】
本発明に用いことができる低分子化澱粉は、所定の粘度およびDEとなっていれば、いずれの方法でも調製することができるが、例えば、澱粉を酸処理、酵素処理、酸化処理等の公知の澱粉分解処理に付すことにより調製することができる。
【0020】
低分子化処理としては、例えば、酸処理、酵素処理および酸化処理が挙げられる。酸処理澱粉は、澱粉を酸で処理することにより得られる澱粉である。酸処理に使用できる酸としては、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸や、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、酵素分解処理澱粉は、澱粉を澱粉分解酵素で処理することにより得られる澱粉であり、例えば、澱粉を水に懸濁した後、pHを4〜6に調整し、澱粉分解酵素を添加して、約40℃で反応し、水洗・ろ過、乾燥することにより得ることができる。酵素分解処理に使用できる酵素としては、α−アミラーゼ、β‐アミラーゼ、枝切り酵素等が挙げられる。また、酸化澱粉は、澱粉を酸化剤で処理することにより得られる澱粉である。酸化処理に使用できる酸化剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、さらし粉、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、過酢酸、硝酸が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる低分子化澱粉は、製造されたプロセスチーズ類の弾力性およびなめらかさをよりよく向上させる観点から、酸化澱粉を用いることが好ましく、より好ましくは酸化澱粉をアセチル化処理して得られたアセチル化酸化澱粉である。
【0022】
本発明に用いる低分子化澱粉は、DE(Dextrose Equivalent)が所定値のものを用いることができる。DEとは、試料中の還元糖をブドウ糖として固形分に対する百分率で示した値である。DEは、澱粉分解物の分解度合いの指標であり、DEの値が高い澱粉ほど澱粉が分解され低分子化しているといえる。本発明に用いる低分子化澱粉は、DEが2未満であるものを用いることができ、好ましくはDEが1未満であるもの、より好ましくはDEが0.5未満であるものである。低分子化澱粉のDEを上記数値範囲内に調整することで製造されたプロセスチーズ類のなめらかさをより向上させることができる。
【0023】
低分子化澱粉のDEは、例えば、「ソモギー変法」により測定することができ、具体的には実施例に記載された手順により測定することができる。
【0024】
本発明に用いる低分子化澱粉はまた、10質量%の糊粘度が所定値のものを用いることができる。低分子化澱粉の10質量%の糊粘度は、澱粉の分解度合いを示した値であり、値が低いものほど澱粉が分解され低分子化しているといえる。本発明に用いる低分子化澱粉は、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下のものを用いることができ、好ましくは200mPa・s未満であるもの、より好ましくは50mPa・s未満であるものである。低分子化澱粉の10質量%の糊粘度を上記数値範囲内に調整することで製造時の作業性をより向上させることができる。
【0025】
低分子化澱粉の10質量%の糊粘度は、実施例に記載された手順により測定することができる。
【0026】
本発明に用いることができる低分子化澱粉は、DEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下のものを用いることができ、好ましくはDEが1未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が200mPa・s未満であるものであり、より好ましくはDEが0.5未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が50mPa・s未満であるものである。
【0027】
本発明において低分子化澱粉は、プロセスチーズ類の保形性や食感の向上の観点から、原料配合時における全原料(原料に含まれる水分を含む)に対する低分子化澱粉(固形分質量)の配合割合を2.6〜14.9質量%(好ましくは5.3〜14.9質量%、より好ましくは5.3〜13.1質量%)とすることができる。
【0028】
本発明に使用する架橋澱粉および低分子化澱粉の原料となる澱粉は、食用として利用可能な澱粉であればいずれも使用することができる。このような使用可能な澱粉としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉、オオウバユリ澱粉が挙げられる。この中でも、コスト、汎用性および効果の観点から、ワキシーコーンスターチおよびタピオカが原料澱粉として好ましい。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0029】
本発明に使用される澱粉においては、架橋処理や低分子化処理に加えて、それ以外の加工処理がさらに施されていてもよい。許容される加工処理としては、例えば、エステル化、エーテル化、酸化、油脂加工、架橋処理、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理、α化等の食品加工分野で公知の加工処理が挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法は、架橋澱粉と低分子化澱粉とを配合すること以外は、通常のプロセスチーズ類の製造方法に従って実施することができる。すなわち、本発明においては、原料チーズ、架橋澱粉、低分子化澱粉およびその他の副原料を配合する工程、配合した原材料を加熱撹拌する工程、および加熱撹拌した原材料を冷却する冷却工程を実施することにより、ナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類を製造することができる。配合工程の後、原材料を混合する工程を実施してもよい。また、架橋澱粉および低分子化澱粉の他の原材料への添加タイミングは特に限定されず、架橋澱粉および低分子化澱粉を同時に添加しても、いずれかを先に添加して他方を後に添加してもよい。また、加熱撹拌工程では、配合した原材料を乳化する工程であり、加熱および撹拌は通常のプロセスチーズ類の製造条件に従って実施することができる。
【0031】
本発明においては、ナチュラルチーズおよびプロセスチーズ以外の乳原料や、溶融塩、安定剤、pH調整剤、調味料等の、チーズ製造に一般的に用いられ、かつ、食品として許容される添加物を本発明のプロセスチーズ類の副原料として用いることができる。このような副原料としては、例えば、バター、バターオイル、クリーム、クリームパウダー、バター、バターミルク、牛乳、濃縮乳、脱脂粉乳、ホエイ(ホエイ粉を含む)、乳タンパク濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、乳糖等の乳製品、乳成分、植物性脂肪、溶融塩、安定剤、ゲル化剤、増粘剤、pH調整剤、調味料(例えば、食塩、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム)等の食品添加物が挙げられる。
【0032】
本発明においてはまた、必要に応じて、本発明のプロセスチーズ類の乳化および/または物性を調整するために、上記以外の食品および/または食品添加物を副原料として配合してもよい。このような食品および食品添加物としては、例えば、澱粉、加工澱粉(架橋澱粉および低分子化澱粉を除く)、デキストリン、卵白、卵白粉、ゼラチン、寒天、増粘多糖類(例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、カラギーナン、キサンタンガム、トラガントガム、タマリンドシードガム、ペクチン、アラビアガム、カードラン、タラガム、ジェランガム、ガティガム、CMC、アルギン酸ナトリウム、プルラン)、カゼイン、カゼインナトリウム、大豆タンパク質、グルテン、セルロース等が挙げられる。これらの乳化および/または物性調整するための食品および食品添加物は、1種または複数種を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明においてはさらに、必要に応じて、本発明のプロセスチーズ類に香りや味を付与するために、乳に由来しない食品素材を副原料として配合することもできる。このような食品素材としては、例えば、果実、果汁、ナッツ類(例えば、クルミ、アーモンド)、香草(例えば、バジル)、香辛料(例えば、コショウ)、シロップ(例えば、メープルシロップ、ハチミツ)およびこれらの加工品(例えば、オレンジピール、果物のジャム、果物の乾燥物)、野菜およびその加工品(例えば、高菜漬け)、獣肉加工品(例えば、サラミソーセージ、ベーコンチップ)、水産加工品(例えば、たらこ、鮭)並びに香料、甘味料、調味料、矯味料等の食品添加物が挙げられる。
【0034】
本発明によれば、プロセスチーズ類の原料であるナチュラルチーズの一部を架橋澱粉および低分子化澱粉により置換したにも関わらず、保形性および/または食感が優れたプロセスチーズ類を製造することができる。ここで、「食感」とは、喫食時の弾力、硬さおよびなめらかさを含む意味で用いられるものとする。本発明はまた、製造時の作業性を低下させずに、ナチュラルチーズの一部を架橋澱粉および低分子化澱粉により置換することができる点でも有利である。
【0035】
本発明によれば、ナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の保形性および/または食感の悪化を抑制する方法であって、他の食品素材として架橋澱粉および低分子化澱粉を配合してプロセスチーズ類を製造することを含んでなる方法が提供される。ここで、「保形性および/または食感の悪化を抑制する」とは、ナチュラルチーズの一部を他の食品素材により代替していない通常のプロセスチーズ類の保形性および食感とほぼ同等またはそれ以上の保形性および食感を奏することをいう。本発明の保形性および食感の向上方法は、本発明の製造方法の記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0036】
以下、例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、以下の例における「%」とは特段の記載が無い限り、質量%(W/W%)を意味する。
【0037】
加熱膨潤度の測定
試料澱粉の加熱膨潤度は、以下のようにして測定することができる。すなわち、試料澱粉0.2g(水分含量12.5%)を水19.8mLに分散し、沸騰水中で時々撹拌しながら30分間加熱後、30℃に冷却した。次いで、この糊液を遠心分離(2,055×G、10分間)して糊層と上澄み液層に分け、糊層の質量を測定してこれをcとした。さらに、質量測定した糊層を105℃で乾固した後、質量を測定してこれをdとし、c/dの値を加熱膨潤度(倍)とした。なお、糊層と上澄み液層とが分離しない場合には、その澱粉の膨潤度が「極めて大きい」と評価した。
【0038】
DEの測定
試料澱粉のDEの測定は「ソモギー変法」により行った。まず、試料澱粉を蒸留水に分散させて固形分換算で10質量%のスラリーあるいは水溶液を調製した後、オートクレーブを用いて前記試料澱粉を可溶化させた。次いで、Brixメーター(アタゴ社製)を用いて前記試料澱粉溶液のBrixを測定した。この試料澱粉溶液0.5mLをフラスコ等に移し、移した前記試料澱粉糊液の質量を正確に秤量した後、19.5mLの蒸留水、10mLの下記A液を加えて全量を30mLとした。これを加熱して沸騰を3分間持続させた後に冷却し、10mLの下記B液を加えた後に下記C液を加えて素早く振とうした。これを0.05Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定し、下記式によりDEを算出した。滴定は、1%澱粉指示薬を加えて青色となった時点を終点とした。また、前記試料澱粉溶液を水に置換したものを、ブランクとした。
【0039】
A液:酒石酸カリウムナトリウム90gおよびリン酸三ナトリウム・12水和物225gを蒸留水500mLに溶解し、これに硫酸銅30gを蒸留水100mLに溶解した溶液を十分に撹拌しながら加え、さらにヨウ素酸カリウム3.5gを少量の蒸留水に加えたものを加えて全量を1000mLにした後にろ過して調製
B液:シュウ酸カリウム30gおよびヨウ化カリウム40gを水に溶解し、全量を1000mLとして調製
C液:濃硫酸56mLを蒸留水で1000mLにメスアップして調製
【0040】
DE=[{1.449×(a2−b2)×f2}/(Bx×w2)]×(1/1000)×100
a2:酸化澱粉滴定量(mL)
b2:ブランク滴定量(mL)
f2:0.05Nチオ硫酸ナトリウム水溶液の力価(mg/mL)
Bx:低分子化澱粉溶液のBrix
w2:低分子化澱粉溶液の質量(g)
【0041】
糊粘度の測定
試料澱粉の10質量%の糊粘度は、糊粘度測定装置(Newport Scientific社製のRapid Visco Analyser:RVA、型式RVA−4)を用いて、以下のようにして測定した。すなわち、固形分換算で3.0gの試料澱粉をアルミ缶に入れ、精製水を加えて総量30gとした後(10質量%)、パドルをセットし、下記表1で表される条件で粘度を測定した。160rpm回転時に得られた粘度データにおける最高粘度を、10質量%の糊粘度とした。
【0042】
【表1】
【0043】
架橋澱粉の調製
・架橋澱粉1
日本食品化工社製「マプス#306」を架橋澱粉1とした。
・架橋澱粉2
日本食品化工社製「MT−50」を架橋澱粉2とした。
・架橋澱粉3
日本食品化工社製「ネオビスC−10」を架橋澱粉3とした。
・架橋澱粉4
日本食品化工社製「ネオビスC−6」を架橋澱粉4とした。
【0044】
・架橋澱粉5
日本食品化工社製「ネオビスT−100」を架橋澱粉5とした。
・架橋澱粉6
日本食品化工社製「クリアテクストB−3」を架橋澱粉6とした。
・架橋澱粉7
水100部に硫酸ナトリウム20部を溶解した水溶液にタピオカ100部を加えてスラリーとし、撹拌下4%の苛性ソーダ水溶液30部、プロピレンオキサイド5部、トリメタリン酸ソーダ0.4部を加え、41℃で20時間反応した後、硫酸で中和、水洗、脱水した。得られた生成物を乾燥し、架橋澱粉7を得た。
【0045】
調製した各架橋澱粉の特徴は表2に示される通りである。
【表2】
【0046】
低分子化澱粉の調製
・低分子化澱粉1
日本食品化工社製「TSK−13」を低分子化澱粉1とした。
・低分子化澱粉2
水120質量部にタピオカ100質量部を加えてスラリーとし、0.5質量部の硫酸を添加して40℃で2時間反応した。次に、3%の苛性ソーダ水溶液を添加してpH7に調整した後、水洗、脱水、乾燥して低分子化澱粉2を得た。
・低分子化澱粉3
水120質量部にタピオカ100質量部を加えてスラリーとし、撹拌下3%の苛性ソーダ水溶液を加えてpH7に保持しながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度12%)20質量部を加え、35℃で2時間反応した後、水洗、脱水、乾燥して低分子化澱粉3を得た。
・低分子化澱粉4
水120質量部にコーンスターチ100質量部を加えてスラリーとし、撹拌下3%の苛性ソーダ水溶液を加えてpH7に保持しながら、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度12%)25質量部を加え、35℃で2時間反応した後、水洗、脱水、乾燥して低分子化澱粉4を得た。
【0047】
・低分子化澱粉5
120質量部にタピオカ100質量部を加えてスラリーとし、3.5質量部の硫酸を添加して50℃で2時間反応した。次に、3%の苛性ソーダ水溶液を添加してpH7に調整した後、水洗、脱水、乾燥して低分子化澱粉5を得た。
・低分子化澱粉6
低分子化澱粉5の調製において、タピオカをワキシーコーンスターチとした以外は、低分子化澱粉5と同様にして、低分子化澱粉6を得た。
・低分子化澱粉7
低分子化澱粉5の調製において、タピオカをコーンスターチとした以外は、低分子化澱粉5と同様にして、低分子化澱粉7を得た。
・低分子化澱粉8
低分子化澱粉4の調製において、コーンスターチをワキシーコーンスターチとした以外は、低分子化澱粉4と同様にして、低分子化澱粉8を得た。
【0048】
・低分子化澱粉9
低分子化澱粉4の調製において、コーンスターチをタピオカとした以外は、低分子化澱粉4と同様にして、低分子化澱粉9を得た。
・低分子化澱粉10
日本食品化工社製「クラスター デキストリン」を低分子化澱粉10とした。
・低分子化澱粉11
水350質量部にコーンスターチ100質量部を加えてスラリーとし、3%の苛性ソーダ水溶液を添加してpHを4〜6に調整した。澱粉分解酵素を添加して加熱し、糊液とした後、更に澱粉分解酵素を添加してDEが4〜5となるまで約40℃で反応し、ろ過、イオン精製、乾燥して低分子化澱粉11を得た。
・低分子化澱粉12
低分子化澱粉11の調製において、コーンスターチをワキシーコーンスターチとし、反応終点のDEを10〜12とした以外は、低分子化澱粉11と同様にして、低分子化澱粉12を得た。
【0049】
調製した各低分子化澱粉の特徴は表3に示される通りである。
【表3】
【0050】
例1:プロセスチーズ類の製造および評価(その1)
ゴーダチーズ97部、溶融塩3部を85℃、2分間加熱攪拌した。加熱歩留まり90%となったチーズをカップに50g充填し、シーラーでパックした。5℃の冷蔵庫で48時間冷却し、プロセスチーズ(試験区1)を得た。
【0051】
全脂粉乳5部を水17部に溶解した。溶解した全脂粉乳水溶液22部、澱粉所定量(表4記載の試験区2〜25の澱粉質量部)、ゴーダチーズ45部、溶融塩1.7部を鍋で予め混合し、更に合計量が100部となるよう水を添加して、85℃、2分間加熱撹拌した。加熱歩留まり87%となったチーズをカップに50g充填し、シーラーでパックした。5℃の冷蔵庫で48時間冷却し、プロセスチーズ(試験区2〜25)を得た。
【0052】
得られたプロセスチーズについて、製造時の作業性、チーズの保形性、食感の評価を行った。評価は、各チーズにおいて澱粉無添加の試験区をコントロールとし、下記評価基準に従って実施した。
<製造時の作業性>
コントロールを5点とし、チーズ加熱攪拌時の粘性の違いによるコントロールとの作業性の差を5点満点で評価した。適度な粘性で材料が直ちに混合可能で作業性が高いものほど高得点とし、粘度が高過ぎて撹拌が困難であるもの、あるいは粘度が低過ぎることで材料の混合効率が低く、作業性が低いものほど低い得点とした。
<チーズの保形性>
カップに充填したチーズをカットして1日冷蔵保存した場合、コントロールと同様にカットしたときと同じ形を維持しているものをA、維持せず形が崩れているものをBとした。
【0053】
<チーズの食感>
チーズ製造後、冷蔵保管4日後の食感について、弾力、硬さ、なめらかさについて、コントロールを5点とし10点満点で評価した。弾力は弾力性が高いものほど高得点とした。硬さは歯ごたえがあるものほど高得点とした。なめらかさは、ざらつきがなくなめらかな舌触りを有するものを高得点とし、ざらつきが強いものを低い得点とした。
<総合>
チーズの保形性がBであるか、あるいは、製造時作業性、弾力、硬さ、なめらかさのいずれかが2点以下であるものはBとし、それ以外をAとした。
【0054】
結果は表4に示される通りであった。
【表4】
【0055】
表4から明らかなように、架橋澱粉を1.8〜5.3%配合し、低分子化澱粉を2.6〜14.9%配合した場合、製造時作業性、保形性、弾力、硬さ、なめらかさが3点以上と良好となることが明らかとなった。試験区23〜25については粘度が高すぎたため、本製法では試作できなかった。
【0056】
例2:プロセスチーズ類の製造および評価(その2)
架橋澱粉および低分子化澱粉の種類と含量を表5の記載の通り変更した以外は、例1と同様にプロセスチーズ類(試験区26〜43)を製造した。
【0057】
得られたプロセスチーズ類について、例1と同様に評価を行った。結果は表5に示される通りであった。
【表5】
【0058】
表5から明らかなように、架橋澱粉1に変えてその他の架橋澱粉を用いて試験を行った試験区26〜32と、低分子化澱粉1に変えてDEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下であるその他の低分子化澱粉を用いて試験を行った試験区35〜40のいずれにおいても、保形性、弾力、硬さ、なめらかさが良好なチーズとなることが明らかになった。一方、糊粘度が300mPa・sより大きい低分子化澱粉を用いた試験区33および34の場合には、加熱時のチーズの粘度が高く製造時の作業性が劣った。特に、試験区33については粘度が高すぎたため、本製法では試作できなかった。また、過剰に低分子化処理したDE2以上の低分子化澱粉を用いた試験区41〜43においては、柔らかくざらつきが感じられ、硬さやなめらかさが劣るチーズとなることが明らかとなった。
【0059】
例3:プロセスチーズ類の製造および評価(その3)
全脂粉乳を溶解する水を水(1)、合計量が100質量部となるよう添加した水を水(2)とし、架橋澱粉および低分子化澱粉の含量、原料チーズ含量、溶融塩含量、水(1)、水(2)を表6の通り変更した以外は、例1と同様にプロセスチーズ類(試験区44〜48)を製造した。
【0060】
【表6】
【0061】
得られたプロセスチーズ類について、例1と同様に評価を行った。結果は表7に示される通りであった。
【表7】
【0062】
表7から明らかなように、チーズの量が少ない乳を主原料とする食品(チーズフード、プロセスチーズ等)においても製造時作業性が良好でありつつも保形性、食感が良好なプロセスチーズ類となることが明らかとなった。
【0063】
例4:プロセスチーズ類の製造および評価(その4)
原料チーズにチェダーチーズを用い、架橋澱粉および低分子化澱粉の含量を表8記載の通り変更した以外は、例1と同様にプロセスチーズ類(試験区49〜51)を製造した。
【0064】
得られたプロセスチーズ類について、例1と同様に評価を行った。結果は表8に示される通りであった。
【表8】
【0065】
表8から明らかなように、チーズ原料中に架橋澱粉を1.8〜5.3%配合し、DEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下である低分子化澱粉を2.6〜14.9%配合した試験区51は、チェダーチーズにおいても、製造時作業性が良好でありつつも保形性、食感が良好なプロセスチーズ類となることが明らかとなった。一方、架橋澱粉の割合が低い試験区50では、特に弾力となめらかさが悪い結果となった。
【0066】
例5:プロセスチーズ類の製造および評価(その5)
原料チーズにクリームチーズを用い、架橋澱粉および低分子化澱粉の添加量を変更した以外は、例1と同様にプロセスチーズ類(試験区52〜57)を製造した。
【0067】
得られたプロセスチーズ類について、例1と同様に評価を行った。結果は表9に示される通りであった。
【表9】
【0068】
表9から明らかなように、クリームチーズにおいても、チーズ原料中に架橋澱粉を1.8〜5.3%配合し、DEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下である低分子化澱粉を2.6〜14.9%配合した試験区53、54、56および57は、製造時作業性が良好でありつつも保形性、食感が良好なプロセスチーズ類となることが明らかとなった。一方、架橋澱粉の割合が低い試験区55では、特に製造時の作業性が悪い結果となった。
【解決手段】本発明によれば、ナチュラルチーズの一部が他の食品素材により代替されたプロセスチーズ類の製造方法であって、他の食品素材として架橋澱粉と低分子化澱粉とを配合することを含んでなり、低分子化澱粉のDEが2未満であり、かつ、10質量%の糊粘度が300mPa・s以下であり、全原料に対する架橋澱粉の配合割合が1.8〜5.3質量%であり、かつ、全原料に対する低分子化澱粉の配合割合が2.6〜14.9質量%である製造方法が提供される。