(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御工程では、予め算出した、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との相関関係に基づいて、前記CuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御する
請求項1に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
前記制御工程は、さらに、前記判定工程において、測定した前記接触角が前記所定の値を超えていると判定された場合に前記CuMn合金膜の表面を洗浄する洗浄工程を含む
請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタ基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の一実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程(ステップ)、工程の順序等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0017】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0018】
(実施の形態)
まず、TFT基板が用いられる表示装置の一例として、有機EL表示装置の構成について説明する。
【0019】
[有機EL表示装置]
図1は、実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。
図2は、実施の形態に係る有機EL表示装置のピクセルバンクの例を示す斜視図である。
【0020】
図1に示すように、有機EL表示装置100は、複数個の薄膜トランジスタが配置されたTFT基板(TFTアレイ基板)1と、下部電極である陽極131、有機材料からなる発光層であるEL層132及び透明な上部電極である陰極133からなる有機EL素子(発光部)130との積層構造により構成される。
【0021】
本実施の形態における有機EL表示装置100は、トップエミッション型であり、陽極131は反射電極である。なお、有機EL表示装置100は、トップエミッション型に限るものではなく、ボトムエミッション型としてもよい。
【0022】
TFT基板1には複数の画素110がマトリクス状に配置されており、各画素110には画素回路120が設けられている。
【0023】
有機EL素子130は、複数の画素110のそれぞれに対応して形成されており、各画素110に設けられた画素回路120によって各有機EL素子130の発光の制御が行われる。有機EL素子130は、複数の薄膜トランジスタを覆うように形成された層間絶縁膜(平坦化層)の上に形成される。
【0024】
また、有機EL素子130は、陽極131と陰極133との間にEL層132が配置された構成となっている。陽極131とEL層132との間にはさらに正孔輸送層が積層され、EL層132と陰極133との間にはさらに電子輸送層が積層されている。なお、陽極131と陰極133との間には、その他の有機機能層が設けられていてもよい。
【0025】
各画素110は、それぞれの画素回路120によって駆動制御される。また、TFT基板1には、画素110の行方向に沿って配置される複数のゲート配線(走査線)140と、ゲート配線140と交差するように画素110の列方向に沿って配置される複数のソース配線(信号配線)150と、ソース配線150と平行に配置される複数の電源配線(
図1では省略)とが形成されている。各画素110は、例えば直交するゲート配線140とソース配線150とによって区画されている。
【0026】
ゲート配線140は、各画素回路120に含まれるスイッチング素子として動作する薄膜トランジスタのゲート電極と行毎に接続されている。ソース配線150は、各画素回路120に含まれるスイッチング素子として動作する薄膜トランジスタのソース電極と列毎に接続されている。電源配線は、各画素回路120に含まれる駆動素子として動作する薄膜トランジスタのドレイン電極と列毎に接続されている。
【0027】
図2に示すように、有機EL表示装置100の各画素110は、3色(赤色、緑色、青色)のサブ画素110R、110G、110Bによって構成されており、これらのサブ画素110R、110G、110Bは、表示面上に複数個マトリクス状に配列されるように形成されている。各サブ画素110R、110G、110Bは、バンク111によって互いに分離されている。バンク111は、ゲート配線140に平行に延びる突条と、ソース配線150に平行に延びる突条とが互いに交差するように、格子状に形成されている。そして、この突条で囲まれる部分(すなわち、バンク111の開口部)の各々とサブ画素110R、110G、110Bの各々とが一対一で対応している。なお、本実施の形態において、バンク111はピクセルバンクとしたが、ラインバンクとしても構わない。
【0028】
陽極131は、TFT基板1上の層間絶縁膜(平坦化層)上でかつバンク111の開口部内に、サブ画素110R、110G、110B毎に形成されている。同様に、EL層132は、陽極131上でかつバンク111の開口部内に、サブ画素110R、110G、110B毎に形成されている。透明な陰極133は、複数のバンク111上で、かつ全てのEL層132(全てのサブ画素110R、110G、110B)を覆うように、連続的に形成されている。
【0029】
さらに、画素回路120は、各サブ画素110R、110G、110B毎に設けられており、各サブ画素110R、110G、110Bと、対応する画素回路120とは、コンタクトホール及び中継電極によって電気的に接続されている。なお、サブ画素110R、110G、110Bは、EL層132の発光色が異なることを除いて同一の構成である。
【0030】
ここで、画素110における画素回路120の回路構成について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態に係る有機EL表示装置における画素回路の構成を示す電気回路図である。
【0031】
図3に示すように、画素回路120は、スイッチング素子として動作する薄膜トランジスタSwTrと、駆動素子として動作する薄膜トランジスタDrTrと、対応する画素110に表示するためのデータを記憶するキャパシタCとで構成される。本実施の形態において、薄膜トランジスタSwTrは、画素110を選択するためのスイッチングトランジスタであり、薄膜トランジスタDrTrは、有機EL素子130を駆動するための駆動トランジスタである。
【0032】
薄膜トランジスタSwTrは、ゲート配線140に接続されるゲート電極G1と、ソース配線150に接続されるソース電極S1と、キャパシタC及び薄膜トランジスタDrTrのゲート電極G2に接続されるドレイン電極D1と、半導体膜(図示せず)とで構成される。この薄膜トランジスタSwTrは、接続されたゲート配線140及びソース配線150に所定の電圧が印加されると、当該ソース配線150に印加された電圧がデータ電圧としてキャパシタCに保存される。
【0033】
薄膜トランジスタDrTrは、薄膜トランジスタSwTrのドレイン電極D1及びキャパシタCに接続されるゲート電極G2と、電源配線160及びキャパシタCに接続されるドレイン電極D2と、有機EL素子130の陽極131に接続されるソース電極S2と、半導体膜(図示せず)とで構成される。この薄膜トランジスタDrTrは、キャパシタCが保持しているデータ電圧に対応する電流を電源配線160からソース電極S2を通じて有機EL素子130の陽極131に供給する。これにより、有機EL素子130では、陽極131から陰極133へと駆動電流が流れてEL層132が発光する。
【0034】
なお、上記構成の有機EL表示装置100では、ゲート配線140とソース配線150との交点に位置する画素110毎に表示制御を行うアクティブマトリクス方式が採用されている。これにより、各画素110(各サブ画素110R、110G、110B)の薄膜トランジスタSwTr及びDrTrによって、対応する有機EL素子130が選択的に発光し、所望の画像が表示される。
【0035】
[薄膜トランジスタ基板]
次に、実施の形態に係るTFT基板について、
図4を用いて説明する。
図4は、実施の形態に係るTFT基板の概略断面図である。以下の実施の形態では、上記有機EL表示装置100におけるTFT基板1について説明する。なお、本実施の形態における薄膜トランジスタTrは、上記の薄膜トランジスタSwTr(スイッチングトランジスタ)及び薄膜トランジスタDrTr(駆動トランジスタ)のいずれにも適用することができる。
【0036】
図4に示すように、TFT基板1は、基板2と、ゲート電極3と、ゲート絶縁膜4(第1絶縁膜)と、酸化物半導体層5と、絶縁層6(第2絶縁膜)と、ソース電極7S及びドレイン電極7Dと、絶縁層8(第3絶縁膜)と、上層配線9とを有する。
【0037】
ゲート電極3と、ソース電極7S及びドレイン電極7Dと、上層配線9とは、金属材料によって構成されており、これらの電極や配線が形成される層は金属層(配線層)である。具体的には、ゲート電極3が形成される層は、第1配線層(第1金属層)であり、ソース電極7S及びドレイン電極7Dが形成される層は、第2配線層(第2金属層)であり、上層配線9が形成される層は、第3配線層(第3金属層)である。
【0038】
このように、本実施の形態におけるTFT基板1は、3層配線層構造であり、各金属層は、各種配線を形成の配線層として利用することができる。つまり、各金属層に形成される金属膜(導電膜)を所定形状にパターニングすることによって、上記の電極や配線に加えて、所定形状の所望の配線や電極を形成することができる。各金属層には、例えば、
図1に示される、ゲート配線140、ソース配線150及び電源配線160が形成される。また、各金属層の配線同士を接続したり配線と電極とを接続したりするために、上下の金属層の間の絶縁層にはコンタクトホールが形成される。
【0039】
図4に示すように、TFT基板1において、薄膜トランジスタTrは、ゲート電極3と、ゲート絶縁膜4と、酸化物半導体層5と、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとによって構成される。ゲート電極3、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、それぞれ、
図3におけるゲート電極G2、ソース電極S2及びドレイン電極D2に対応する。なお、本実施の形態における薄膜トランジスタTrは、ボトムゲート型のTFTである。
【0040】
以下、TFT基板1における各構成部材について、
図4を用いて詳細に説明する。
【0041】
基板2は、例えば、G8基板等のガラス基板である。また、基板2として、樹脂基板等のフレキシブル基板を用いてもよい。なお、基板2の表面にアンダーコート層を形成してもよい。
【0042】
ゲート電極3は、基板2の上方に所定形状で形成される。ゲート電極3としては、例えば、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)等の金属、又は、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の導電性酸化物が用いられる。また、金属に関しては、例えばモリブデンタングステン(MoW)のような合金もゲート電極3として用いることができる。また、膜の密着性を高めるために、酸化物との密着性が良い金属として、例えばTi、Al、Au等を用いて、これらの金属を挟んだ積層体をゲート電極3として用いることもできる。
【0043】
ゲート絶縁膜4は、ゲート電極3と酸化物半導体層5との間に形成される。ゲート絶縁膜4は、ゲート電極3を覆うように基板2上に形成される。ゲート絶縁膜4としては、例えばシリコン酸化膜やハフニウム酸化膜等の酸化物薄膜、窒化シリコン膜等の窒化膜もしくはシリコン酸窒化膜の単層膜、又は、これらの積層膜等が用いられる。
【0044】
酸化物半導体層5は、基板2の上方に所定形状で形成される。酸化物半導体層5は、薄膜トランジスタTrのチャネル層(半導体層)であり、ゲート電極3と対向するように形成される。例えば、酸化物半導体層5は、ゲート電極3の上方においてゲート絶縁膜4上に島状に形成される。
【0045】
酸化物半導体層5としては、In−Ga−Zn−Oを含むInGaZnO
X(IGZO)等の透明アモルファス酸化物半導体(TAOS:Transparent Amorphous Oxide Semiconductor)により構成することが望ましい。透明アモルファス酸化物半導体をチャネル層とする薄膜トランジスタは、キャリア移動度が高く、大画面及び高精細の表示装置に適している。また、透明アモルファス酸化物半導体は、低温成膜が可能であるため、フレキシブル基板上に容易に形成することができる。
【0046】
InGaZnO
Xのアモルファス酸化物半導体は、例えば、InGaO
3(ZnO)
4組成を有する多結晶焼結体をターゲットとして、スパッタ法やレーザー蒸着法等の気相成膜法により成膜することができる。
【0047】
絶縁層6は、酸化物半導体層5を覆うようにゲート絶縁膜4上に成膜される。つまり、酸化物半導体層5は絶縁層6によって覆われており、絶縁層6は酸化物半導体層5を保護する保護層(チャネル保護層)として機能する。絶縁層6は、例えば、シリコン酸化膜(SiO
2)又は酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)等の酸化膜の単層膜、あるいは、これらの酸化膜の積層膜である。絶縁層6の一部は貫通するように開口されており、この開口部分(コンタクトホール)を介して酸化物半導体層5がソース電極7S及びドレイン電極7Dに接続されている。
【0048】
ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、絶縁層6上に所定形状で形成される。具体的には、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、絶縁層6に設けられたコンタクトホールを介して酸化物半導体層5に接続されており、絶縁層6上において基板水平方向に所定の間隔をあけて対向配置されている。
【0049】
ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、いずれも銅(Cu)を主成分として含んでおり、銅膜(Cu膜)と銅マンガン合金膜(CuMn合金膜)との積層構造である。具体的に、ソース電極7Sは、Cu膜である第1の膜71SとCuMn合金膜である第2の膜72Sとが下から上にこの順序で積層された積層膜である。同様に、ドレイン電極7Dは、Cu膜である第1の膜71DとCuMn合金膜である第2の膜72Dとが下から上にこの順序で積層された積層膜である。なお、Cu膜である第1の膜71S及び71Dの膜厚は、第2の膜72S及び72Dの膜厚よりも厚くする方がよい。
【0050】
このように、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとして低抵抗材料であるCu膜を用いることによって、ソース電極7S及びドレイン電極7Dの低抵抗化を図ることができるとともに、第2金属層に形成する配線(ソース電極7S及びドレイン電極7Dと同層の配線)を低抵抗配線とすることができる。
【0051】
また、ソース電極7S及びドレイン電極7Dの最上層(キャップ層)としてCuMn合金膜を用いることによって、Cu膜のCu原子が酸化してCu膜が変質することを抑制できる。これにより、Cuの酸化によるソース電極7S及びドレイン電極7Dの高抵抗化を抑制できる。なお、本明細書において、CuMn合金膜とは、銅とマンガンとの合金膜であることを意味している。
【0052】
絶縁層8は、ソース電極7S及びドレイン電極7Dを覆うように絶縁層6上に形成される。絶縁層8は、例えば、シリコン酸化膜(SiO
2)又は酸化アルミニウム膜(Al
2O
3)等の酸化膜の単層膜、あるいは、これらの酸化膜の積層膜である。
【0053】
上層配線9は、絶縁層8上に所定形状で形成された導電膜からなり、絶縁層8に形成されたコンタクトホールを介してドレイン電極7Dに接続されている。本実施の形態における上層配線9は、ITOからなるITO膜である。
【0054】
本実施の形態におけるTFT基板1は、以上のように構成される。なお、本実施の形態において、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、CuMn合金膜とCu膜との2層構造としたが、これに限らない。
【0055】
例えば、
図5に示すように、三層構造のソース電極7S’及びドレイン電極7D’を有するTFT基板1’としてもよい。具体的には、ソース電極7S’を、Mo(モリブデン)膜又はCuMn膜である第3の膜73SとCu膜である第1の膜71SとCuMn合金膜である第2の膜72Sとの積層膜にしてもよい。同様に、ドレイン電極7D’を、Mo膜又はCuMn膜である第3の膜73DとCu膜である第1の膜71DとCuMn合金膜である第2の膜72Dとの積層膜にしてもよい。
【0056】
このように、ソース電極7S’及びドレイン電極7D’の最下層としてCuMn膜又はMo膜を用いることによって、第2の膜(Cu膜)におけるCu原子の下層への拡散を抑制できるとともに下地層との密着性を向上させることができる。
【0057】
[CuMn合金膜の表面状態及び原子結合状態]
次に、CuMn合金膜の表面状態や原子結合状態の分析結果について、本発明の知見を得るに至った経緯も含めて詳細に説明する。
【0058】
TFT基板において、異なる配線層間の配線や電極同士を物理的に接続する場合、絶縁膜(層間絶縁膜)にコンタクトホールを形成する。このとき、絶縁膜のコンタクトホールを介して下層の配線層におけるCuMn合金膜上に上層の配線層におけるITO膜を形成する際、CuMn合金膜の表面が露出する。例えば、
図4に示すTFT基板1では、ドレイン電極7Dの第2の膜72D(CuMn合金膜)と上層配線9(ITO膜)とを接続させる際、絶縁層8にコンタクトホールを形成した後、第2の膜72Dの表面が露出する。
【0059】
この場合、CuMn合金膜(第2の膜72D)が露出してからITO膜(上層配線9)で被覆されるまでの待機時間の増加に伴って、ITO膜とCuMn合金膜との間のコンタクト抵抗が増加する。これにより、表示パネルにおける表示均一性や信頼性の低下を引き起こす。
【0060】
また、上記コンタクト抵抗の変化は、露出したCuMn合金膜の表面がITO膜を成膜するまでの待機時間中に酸化するからであるが、これまで、インラインプロセスとしてコンタクト抵抗の変化を観測する手法がなく、CuMn合金膜の表面のコンタクト抵抗を制御することができなかった。このため、所望の性能を有するTFT基板を実現することが難しかった。
【0061】
そこで、本発明者は、まず、CuMn合金膜が露出してからITO膜を成膜するまでの時間(CuMn表面露出時間)とCuMn合金膜の表面のコンタクト抵抗とについて実験を行ったところ、CuMn表面露出時間と上記コンタクト抵抗との間には、
図6に示すような相関関係があることが分かった。
図6は、CuMn合金膜とITO膜とにおけるCuMn表面露出時間とコンタクト抵抗との関係を示す図である。
【0062】
具体的には、
図6に示すように、CuMn表面露出時間が一定時間(約60時間)までは、CuMn表面露出時間が増加するに伴ってコンタクト抵抗が上昇し、CuMn表面露出時間が上記一定時間(約60時間)を越えた後は、コンタクト抵抗はほぼ変化しないことが分かった。
【0063】
なお、
図6において、CuMn表面露出時間は、CuMn合金膜を覆う絶縁膜(絶縁層8)にコンタクトホールを形成する際のレジスト膜を除去してからの時間である。また、コンタクト抵抗は、CuMn合金膜上にITO膜を成膜した後に測定している。具体的には、
図4に示すTFT基板1における複数の薄膜トランジスタTrの各ドレイン電極7Dの第2の膜72D(CuMn合金膜)のコンタクト抵抗を、コンタクトチェーンによって測定している。
【0064】
さらに、本発明者は、鋭意検討した結果、CuMn合金膜の表面状態の指標として接触角に着目し、CuMn表面露出時間とCuMn合金膜の表面の接触角との関係について実験を行ったところ、CuMn表面露出時間とCuMn合金膜の表面の接触角との間には、
図7に示すような相関関係があることが分かった。
図7は、CuMn合金膜とITO膜とにおけるCuMn表面露出時間とCuMn合金膜の表面の接触角との関係を示す図である。
【0065】
具体的には、
図7に示すように、CuMn表面露出時間が一定時間(約60時間)までは、CuMn表面露出時間が増加するに伴って接触角が上昇し、CuMn表面露出時間が一定時間(約60時間)を越えた後は、接触角はほぼ変化しないことが分かった。なお、接触角は、水に対する接触角であり、接触角計を用いて測定した。
【0066】
また、本発明者は、CuMn合金膜について、表面状態(接触角)ではなく、原子結合状態(組成変化)の分析も行った。この点について、
図8及び
図9A〜
図9Cを用いて説明する。
【0067】
本実験では、metalCu(純銅)又はCu
2O(1価の銅)とCuO(2価の銅)とCu(OH)
2(2価の銅)とのCuの3つの結合状態を想定してピーク分離を行い、各結合状態の存在比(割合)を算出した。その算出結果を
図8に示す。
図8は、CuMn合金膜におけるXPSによるCu2p3/2スペクトルのピーク分離の分析結果を示す図である。
【0068】
そして、Cu膜とMo膜との積層膜(Cu/Mo)及びCuMn合金膜とCu膜とMo膜との積層膜(CuMn/Cu/Mo)におけるCuの各結合状態の存在比の経時変化を調べた。その結果を
図9A〜
図9Cに示す。
図9Aは、CuOの存在比の放置時間に対する変化を示す図である。
図9Bは、metalCu又はCu
2Oの存在比の放置時間に対する変化を示す図である。
図9Cは、Cu(OH)
2の存在比の放置時間に対する変化を示す図である。なお、
図9A〜
図9Cにおける放置時間は、上記のCuMn表面露出時間のことであり、CuMn合金膜を覆う絶縁膜にコンタクトホールを形成する際のレジスト膜を除去してからの大気放置による経過時間である。
【0069】
図9Aに示すように、放置時間が変化してもCuOの存在比はほとんど変化しないことが分かる。また、
図9Bに示すように、metalCu又はCu
2Oの存在比については、放置時間の経過とともに減少することが分かる。
【0070】
一方、
図9Cに示すように、Cu(OH)
2の存在比については、放置時間の経過とともに増加することが分かる。つまり、放置時間(CuMn表面露出時間)の経過とともに、CuMn合金膜は酸化によってコンタクト抵抗が増加することが分かる。
【0071】
なお、
図9A〜
図9Cに示すように、Cu/MoとCuMn/Cu/Moとでは、各結合状態に差があることが分かる。また、Cu/MoとCuMn/Cu/Moとでは、放置時間の変化に対する各結合状態の存在比は同じ傾向にあることが分かる。
【0072】
これらの実験結果により、本発明者は、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との間には相関関係があることを見出し、
図6及び
図7に基づいて、
図10に示すような相関関係があることをつき止めた。
図10は、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との関係を示す図である。
【0073】
図10に示すように、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との間には相関関係があり、CuMn合金膜の接触角が大きくなるにしたがってCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗が大きくなることが分かった。しかも、CuMn合金膜の接触角が52°を越えると、コンタクト抵抗の上昇カーブが大きくなり、接触角に対するコンタクト抵抗の傾きが急峻になることが分かった。
【0074】
このように、本発明は、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗とに相関関係があるという従来にはない新たな知見に基づいてなされたものであり、本発明者は、CuMn合金膜の表面の接触角をモニタすることによってCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御できることを見出した。
【0075】
具体的には、CuMn合金膜の表面の接触角を測定し、予め参照データとして測定及び算出しておいた、CuMn合金膜の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との相関関係(例えば
図10)に基づいて、TFT基板の製造工程において実際に測定したCuMn合金膜の接触角が所定の値以下であるか否かを判定することによって、CuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御する。例えば、基板に形成されたCuMn合金膜の接触角をインラインで測定し、プロセスにフィードバックすることによって、CuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を所望に制御することができる。
【0076】
[薄膜トランジスタ基板の製造方法]
次に、上記のコンタクト抵抗の制御を用いた実施の形態に係るTFT基板1の製造方法について、
図11A〜
図11Mを用いて説明する。
図11A〜
図11Mは、実施の形態に係る薄膜トランジスタ基板の製造方法における各工程の断面図である。
【0077】
本実施の形態におけるTFT基板1の製造方法は、CuMn合金膜を有するTFTを備えるTFT基板の製造方法であって、CuMn合金膜の表面の接触角に基づいてCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御する制御工程を含む。
【0078】
具体的には、まず、
図11Aに示すように、基板2を準備して、当該基板2の上方に所定形状のゲート電極3を形成する。例えば、G8ガラス基板の基板2上にゲート金属膜をスパッタ法によって成膜し、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いてゲート金属膜を加工することにより、所定形状のゲート電極3を形成する。
【0079】
次に、
図11Bに示すように、基板2の上方にゲート絶縁膜4を形成する。例えば、ゲート電極3を覆うようにして酸化シリコンからなるゲート絶縁膜4をプラズマCVD法等によって成膜する。
【0080】
次に、
図11Cに示すように、基板2の上方に所定形状の酸化物半導体層5を形成する。本実施の形態では、ゲート絶縁膜4上に酸化物半導体層5を形成する。
【0081】
例えば、ゲート絶縁膜4上にInGaZnO
Xの透明アモルファス酸化物半導体をスパッタ法等によって成膜し、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて透明アモルファス酸化物半導体を加工することにより、ゲート電極3の上方に所定形状の酸化物半導体層5を形成する。
【0082】
次に、
図11Dに示すように、酸化物半導体層5を覆うようにしてゲート絶縁膜4上に絶縁層6を形成する。例えば、プラズマCVD法によって、シリコン酸化膜からなる絶縁層6を成膜する。
【0083】
次に、
図11Eに示すように、絶縁層6の一部を除去することによって、酸化物半導体層5とソース電極7S及びドレイン電極7DとをコンタクトさせるためのコンタクトホールCH1及びCH1’を形成する。例えば、酸化物半導体層5の一部が露出するように、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて絶縁層6にコンタクトホールCH1及びCH1’を形成する。
【0084】
次に、
図11Fに示すように、酸化物半導体層5に接続するように所定形状のソース電極7S及びドレイン電極7Dを絶縁層6上に形成する。
【0085】
具体的には、まず、絶縁層6のコンタクトホールCH1及びCH1’を埋めるようにして絶縁層6上にCu膜をスパッタ法で成膜し、次いで、Cu膜上にCuMn合金膜をスパッタ法で成膜する。
【0086】
その後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いてCu膜とCuMn合金膜との積層膜を所定形状に加工する。本実施の形態では、エッチャントとして過酸化水素水を用いたウェットエッチングによってCuMn合金膜とCu膜とをパターニングした。
【0087】
これにより、同図に示すように、Cu膜からなる第1の膜71SとCuMnからなる第2の膜72Sとの積層構造のソース電極7Sと、Cu膜からなる第1の膜71DとCuMnからなる第2の膜72Dとの積層構造のドレイン電極7Dとを形成することができる。
【0088】
次に、
図11Gに示すように、ソース電極7S及びドレイン電極7Dを覆うように絶縁層6上に絶縁層8を成膜する。つまり、CuMn合金膜である第2の膜72S及び72D上に絶縁層8を成膜する。例えば、プラズマCVD法によって、300℃の成膜温度でシリコン酸化膜からなる絶縁層8を成膜する。
【0089】
次に、
図11H〜
図11Mに示すようにして、絶縁層8のコンタクトホールを介してドレイン電極7Dに接続するように、所定形状の上層配線9を絶縁層8上に形成する。
【0090】
まず、コンタクトホールを絶縁層8に形成してCuMn合金膜である第2の膜72S及び72Dを露出させる。
【0091】
具体的には、
図11Hに示すように、絶縁層8上にレジスト膜Rを形成し、次いで、フォトリソグラフィ法によってレジスト膜Rを露光及び感光することによって、
図11Iに示すように、ドレイン電極7D上のレジスト膜Rに貫通孔HRを形成する。その後、エッチング法によって、
図11Jに示すように、絶縁層8における貫通孔HRに対応する箇所を選択的に除去して絶縁層8にコンタクトホールCH2を形成し、ドレイン電極7Dの表面を露出させる。これにより、ドレイン電極7Dの最上層である第2の膜72D(CuMn合金膜)の表面を露出させる。なお、本実施の形態では、ドライエッチングによってコンタクトホールCH2を形成しているが、ウェットエッチングを用いてもよい。その後、
図11Kに示すように、アルカリ溶液等の剥離液によってレジスト膜Rを除去する。
【0092】
次に、CuMn合金膜の表面の接触角に基づいて当該CuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御する(制御工程)。この制御工程では、予め算出した、CuMn合金膜の表面の接触角とCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗との相関関係(例えば
図10)に基づいて、CuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗の制御を行う。例えば、制御工程は、CuMn合金膜の表面の接触角を測定する接触角測定工程と、測定した当該接触角が所定の値以下であるか否かを判定する判定工程とを含む。
【0093】
本実施の形態では、
図11Lに示すように、接触角計200を用いて、露出させたドレイン電極7Dの表面の接触角を測定している。つまり、絶縁層8のコンタクトホールCH2から露出するドレイン電極7Dの最上層膜であるCuMn合金膜の表面の接触角を測定する(接触角測定工程)。
【0094】
その後、測定した接触角が所定の値以下であるか否かを判定する(判定工程)。このとき、測定した接触角が所定の値を超えていると判定された場合、CuMn合金膜の表面を洗浄する(洗浄工程)。
【0095】
洗浄工程では、例えば、アルカリ溶液を用いてCuMn合金膜の表面の洗浄を行うことができる。なお、CuMn合金膜の表面を洗浄する際、上記のレジスト膜Rの剥離液と同じものを洗浄液として用いることができる。このように、CuMn合金膜の表面を再び洗浄することによって、CuMn合金膜の表面に残るレジスト膜R等の残渣を除去することができる。これにより、CuMn合金膜の表面の接触角を小さくできるとともに、CuMn合金膜のコンタクト抵抗を小さくすることができる。
【0096】
なお、上記の
図10に示すように、CuMn合金膜の接触角が52°を越えると、コンタクト抵抗の上昇カーブが大きくなるので、上記判定工程における接触角の所定の値は、52°とするとよい。つまり、測定した接触角が52°を越える場合は、CuMn合金膜の表面を洗浄等することで、接触角が52°以下となるようにコンタクト抵抗を制御する。このように、上昇カーブの小さいCuMn合金膜の接触角が52°のときを閾値として判定することによって、コンタクト抵抗を容易に制御することができる。すなわち、接触角に対するコンタクト抵抗の傾きが急峻になる領域では、単位接触角に対するコンタクト抵抗の変動幅が大きくなり、コンタクト抵抗を制御しにくくなる。
【0097】
次に、絶縁層8のコンタクトホールCH2を介してCuMn合金膜である第2の膜72D上にITO膜である上層配線9を形成する。具体的には、
図11Mに示すように、絶縁層8のコンタクトホールCH2を埋めるようにして絶縁層8上にITO膜をスパッタ法で成膜し、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いてITO膜を加工することにより、絶縁層8上に所定形状の上層配線9を形成する。本実施の形態では、シュウ酸系のエッチャントを用いたウェットエッチングによってITO膜をパターニングした。
【0098】
以上、本実施の形態に係るTFT基板1の製造方法によれば、CuMn合金膜の表面の接触角に基づいてCuMn合金膜の表面上のコンタクト抵抗を制御する制御工程を含んでいる。これにより、所望の性能を有するTFT基板を実現することができる。
【0099】
(変形例等)
以上、薄膜トランジスタ基板、薄膜トランジスタ基板の製造方法及び有機EL表示装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0100】
例えば、上記実施の形態では、TFT基板においてCuMn合金膜を有する部材としてソース電極及びドレイン電極を例示したが、これに限らない。例えば、
図12に示される4層配線層構造のTFT基板1”のように、CuMn合金膜を有する部材を、中間配線9”としてもよい。具体的には、
図12に示されるTFT基板1”では、ソース電極7S”及びドレイン電極7D”が純CuからなるCu膜であり、さらに、中間配線9”(第3配線層)と、絶縁層10(第3絶縁層)と、上層配線11(第4配線層)とを備えている。中間配線9”は、Cu膜である第1の膜91とCuMn合金膜である第2の膜92との積層構造である。絶縁層10は、アクリル系樹脂等の樹脂材料又はシリコン酸化膜等の無機材料からなり、中間配線9”を覆うように絶縁層8上に形成される。上層配線11は、絶縁層8上に所定形状で形成されたITO膜であり、絶縁層8に形成されたコンタクトホールを介してドレイン電極7D”に接続されている。
【0101】
また、上記実施の形態において、コンタクト抵抗は、CuMn合金膜とITO膜との間のコンタクト抵抗としたが、これに限らない。例えば、CuMn合金膜とその上に形成される導電膜とのコンタクト抵抗であっても、CuMn合金膜の表面の接触角を測定することによって当該コンタクト抵抗を制御することができる。
【0102】
また、上記実施の形態において、CuMn合金膜は、Cu膜との積層構造としたが、これに限らない。例えば、CuMn合金膜は、単層膜の配線又は電極としてもよい。
【0103】
また、上記実施の形態において、薄膜トランジスタは、ボトムゲート型としたが、トップゲート型としても構わない。
【0104】
また、上記実施の形態において、薄膜トランジスタは、チャネルエッチングストッパー型(チャネル保護型)としたが、チャネルエッチング型としても構わない。つまり、上記実施の形態において、絶縁層6は形成しなくてもよい。
【0105】
また、上記実施の形態では、薄膜トランジスタ基板を用いた表示装置として有機EL表示装置について説明したが、上記実施の形態における薄膜トランジスタ基板は、液晶表示装置等、アクティブマトリクス基板が用いられる他の表示装置にも適用することもできる。
【0106】
また、以上説明した有機EL表示装置等の表示装置(表示パネル)については、フラットパネルディスプレイとして利用することができ、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ、携帯電話等、表示パネルを有するあらゆる電子機器に適用することができる。特に、大画面及び高精細の表示装置に適している。
【0107】
その他、各実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。