特許第6248266号(P6248266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248266
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】光拡散透過性膜材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20171211BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20171211BHJP
   F21V 3/04 20060101ALI20171211BHJP
   F21V 3/00 20150101ALI20171211BHJP
【FI】
   B32B27/12
   B32B27/18 B
   F21V3/04 110
   F21V3/00 320
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-34872(P2014-34872)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-160316(P2015-160316A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−145910(JP,A)
【文献】 特開2006−272660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
F21V 3/00
F21V 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛を基布として、この基布の1面以上に合成樹脂組成物(I)により形成されたアンカー層と、このアンカー層上に形成された耐火層とを有する全光線透過率(JIS K7375)が35〜60%の耐水性積層体シートであって、前記耐火層が無機層状化合物粒子を前記耐火層に対して10〜40質量%を含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を1〜20質量%含む合成樹脂組成物(II)により形成されていることを特徴とする光拡散透過性膜材。
【請求項2】
前記アンカー層と前記耐火層との構成質量比が2:1〜1:3である請求項1に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項3】
前記無機層状化合物粒子が、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上である請求項1または2に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項4】
前記耐火層の表面にさらに不燃層が設けられ、この不燃層が、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の無機層状化合物粒子を前記不燃層に対して65〜95質量%含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を1〜20質量%含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項5】
前記不燃層の表面抵抗値(測定方法:JIS K6911、測定条件:湿度30%RH−温度23℃)が、1.0E+12Ω未満である請求項4に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項6】
前記繊維布帛が、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、及びセラミック繊維から選ばれた1種以上の繊維糸条から形成される請求項1〜5の何れか1項に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項7】
前記繊維布帛が、モンモリロナイト、合成スメクタイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の層状ケイ酸塩化合物で処理されている請求項6に記載の光拡散透過性膜材。
【請求項8】
輻射電気ヒーターを用いて50kW/mの輻射熱を照射する、ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えない不燃特性を有する請求項6または7に記載の光拡散透過性膜材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホテル、イベントホール、商業施設、遊戯施設、公共施設、駅・空港内施設、地下街通路などの天井照明や壁照明、エレベータかごなどの天井照明、照明器具のシェード材、カバー材、及びプロジェクター投影用の映写スクリーンなど、各種光源カバーで、特にLED光源のカバーに用いられる光拡散透過性かつ耐水性の膜材であって、煤塵汚れの除去性に優れ、さらには平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する不燃特性を有する膜材料、及び鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準に適合する鉄道車両の車内照明に用いる光源カバー用の膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は最近、ガラス織物を基材として、この基材の片面に不定形・乱反射粒子であるアスペクト比1〜1.25、長さ1〜20μmの破砕ガラス粉を特定量で含有する光拡散性樹脂被覆層を設けた光源カバー用、光天井用の不燃膜材(特許文献1)を提案した。この膜材は光源に翳した時に、織物の糸筋や織組織の陰影や濃淡ムラの欠点を緩和し、美麗な発光外観を演出する膜材であり、その効果は不定形な破砕ガラス粉を含有することで、光拡散効果が大きく得られることによる。しかし、その反面、膜材表面の手触り感がサンドペーパー並みに粗く、その粗さの凹部に埃や油性煤塵(主に燃焼排気ガスなどに由来するカーボン煤と砂埃・土埃との混合物)を担持し易く、徐々に膜材外観が薄汚れ、しかもその薄汚れ除去がし難い欠点を有している。そして、特に合成洗剤、さらにはアルコール類やシンナーなどの溶剤使用によるワイパー拭き取り手作業では、膜材凸部の汚れは除去されるものの、凹部に潜り込んだ埃や油性煤塵などはより凹部深くに押し込まれ、それがランダムな拭き取り痕となって余計に外観を見苦しくすることがあった。
【0003】
また、屋内・屋外用建材、照明装置用部材、照明式看板、及び太陽電池、表示素子等の保護カバーに使用される透明不燃材で、軽量で割れにくく、耐衝撃性を有し、熱暴露を受けても有害ガスが発生しないものとして、ガラス繊維強化プラスチックを基材として、その上下面に積層被覆された粘土膜を有する複合多層成形体(特許文献2)が開示されている。しかし、この透明不燃材の構成要素である粘土膜は、添加物として水可溶性樹脂を含む粘土であるため耐水性に劣り、水濡れすると水で急激な体積膨張を引き起し、粘土膜とガラス繊維強化プラスチック基材との界面には極度の変位エネルギーを生じる結果、体積膨張した粘土膜がガラス繊維強化プラスチック基材から剥離、脱落する。従って特許文献2の透明不燃材は屋外での使用は到底困難である。このことは特許文献2の実施例によれば、粘土として合成スメクタイトを用い、添加物としてポリアクリル酸ナトリウムを用いており、合成スメクタイトは水で膨潤する性質を有していることが公知であり、またポリアクリル酸ナトリウムは吸水性樹脂として紙おむつなどに汎用されているものであるから、従ってこの両者を混合して得た粘土膜も同様に水で急激に体積膨張することは明らかである。また同様の理由により特許文献2の透明不燃材が埃や油性煤塵の付着で汚れた際に、水拭きしたことで埃や油性煤塵が水分で膨潤した粘土膜内に吸着浸透して汚れの除去が逆に困難化したり、ワイパーで擦ることで、いとも簡単に膨潤脆化した粘土膜がガラス繊維強化プラスチック基材から脱落する問題が懸念される。
【0004】
従って、ホテル、イベントホール、商業施設、遊戯施設、公共施設、駅・空港内施設、地下街通路などの天井照明や壁照明、エレベータかごなどの天井照明、照明器具のシェード材、カバー材、及びプロジェクター投影用の映写スクリーンなど、各種光源カバーで、特にLED光源のカバーに用いられる光拡散透過性かつ耐水性の膜材であって、煤塵汚れの除去性に優れた膜材はまだ存在していなかった。そしてさらに平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する各種光源カバー用の不燃性膜材料、及び鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準に適合する鉄道車両の車内照明に用いる光源カバー用の不燃性膜材料が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−140245号公報
【特許文献2】特開2012−016875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ホテル、イベントホール、商業施設、遊戯施設、公共施設、駅・空港内施設、地下街通路などの天井照明や壁照明、エレベータかごなどの天井照明、照明器具のシェード材、カバー材、及びプロジェクター投影用の映写スクリーンなど、各種光源カバーで特にLED光源のカバーに用いられる光拡散透過性かつ耐水性の膜材であって、煤塵汚れの除去性に優れ、さらに平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する不燃特性を有する膜材料、及び鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準に適合する鉄道車両の車内照明に用いる光源カバー用の膜材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために検討を重ねた結果、繊維布帛を基布として、この基布の1面以上に合成樹脂組成物(I)により形成したアンカー層と、このアンカー層上に形成した耐火層とを有する耐水性積層体シートにおいて、この耐火層が無機層状化合物粒子を耐火層に対して特定量を含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を特定量で含む合成樹脂組成物(II)により形成し、特にアンカー層と耐火層との構成質量比を特定の比率とすること、さらに耐火層上に帯電防止性の不燃層と設けることによって、得られるシートの耐水性と防汚効果に優れ、しかも平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合すること、及び鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準に適合することを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の光拡散透過性膜材は、繊維布帛を基布として、この基布の1面以上に合成樹脂組成物(I)により形成されたアンカー層と、このアンカー層上に形成された耐火層とを有する全光線透過率(JIS K7375)が35〜60%の耐水性積層体シートであって、前記耐火層が無機層状化合物粒子を前記耐火層に対して10〜40質量%を含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を1〜20質量%含む合成樹脂組成物(II)により形成されていることが好ましい。これによって付着した煤塵汚れの除去を容易とし、耐水性に優れ、しかもASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃基準に適合する不燃特性の実現を可能とし、特にシランカップリング剤の反応物によって合成樹脂組成物(II)、すなわちアンカー層における無機層状化合物粒子の固定安定化を図り、例え水濡れしても無機層状化合物粒子の過度の膨潤を抑止し、また脱落を抑止することを可能とする。
【0009】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記アンカー層と前記耐火層との構成質量比が2:1〜1:3であることが好ましい。これによって得られる本発明の膜材に可撓性を付与し、ASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃基準に適合する不燃特性の実現を可能としながら、しかも屈曲や折り曲げなどにより膜材が変形した時に耐火層に及ぼす歪みを緩和することで、耐火層の亀裂を抑止することを可能とする。
【0010】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記無機層状化合物粒子が、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上であることが好ましい。このような無機層状化合物粒子を用いることで、アンカー層を無色または白色とし、また同時に光拡散透過性を発揮し、さらにはASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃試験に供した際に、これらの無機層状化合物粒子の層間が熱剥離して粒子全体が体積膨張し、互いの無機層状化合物同士が熱溶融融合することでガラス質の可燃性ガスのバリヤー層を形成することで、より高度の不燃特性を発現することを可能とする。
【0011】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記耐火層の表面にさらに不燃層が設けられ、この不燃層が、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の無機層状化合物粒子を前記不燃層に対して65〜95質量%含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を1〜20質量%含むことが好ましい。これによって付着した煤塵汚れの除去を容易とし、不燃層を無色または白色とし、また同時に光拡散透過性を高くして、さらにはASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃試験に供した際に、これらの無機層状化合物粒子の層間が熱剥離して粒子全体が体積膨張し、互いの無機層状化合物同士が熱溶融融合することでガラス質の可燃性ガスのバリヤー層を高密度で形成することで、より高度の不燃特性を発現することを可能とし、特に特にシランカップリング剤の反応物によって合成樹脂組成物(II)、すなわちアンカー層における無機層状化合物粒子の固定安定化を図り、例え水濡れしても無機層状化合物粒子の過度の膨潤を抑止し、また脱落を抑止することを可能とする。
【0012】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記不燃層の表面抵抗値(測定方法:JIS K6911、測定条件:湿度30%RH−温度23℃)が、1.0E+12Ω未満であることが好ましい。不燃層の表面抵抗値を界面活性剤や帯電防止剤などの配合によりコントロールすることによって、膜材に埃や煤塵汚れの自然付着を抑止し、例え汚れが付着した場合にも、乾いたクロスによる汚れ拭き取りで発生する静電気を極力抑えることで、埃の再付着を防止することを可能とする。
【0013】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記繊維布帛が、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、及びセラミック繊維から選ばれた1種以上の繊維糸条から形成されることが好ましい。これによってASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃基準に適合する不燃特性の実現を可能とする。
【0014】
本発明の光拡散透過性膜材は、前記繊維布帛が、モンモリロナイト、合成スメクタイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の層状ケイ酸塩化合物で処理されていることが好ましい。これによって、ASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄の不燃試験に供した際に、これらの層状ケイ酸塩化合物の層間が熱剥離して層状ケイ酸塩化合物全体が体積膨張し、互いの層状ケイ酸塩化合物同士が熱溶融融合することでガラス質の可燃性ガスのバリヤー層を高密度で形成して布帛の隙間を埋め、布帛の隙間からの燃焼ガスの漏出を抑止することで、より高度の不燃特性を発現することを可能とする。
【0015】
本発明の光拡散透過性膜材は、輻射電気ヒーターを用いて50kW/mの輻射熱を照射する、ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/mを超えない不燃特性を有することが好ましい。ASTM−E1354試験法に適合することで、平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験に適合し、それによって公共施設やオフィスビルなどの天井照明や壁照明、さらには鉄道車両やエレベータかごなどの天井照明など、利用者の多い場所での使用を可能とし、より火災や防災対策の信頼性を高くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光拡散透過性膜材は、光拡散透過性かつ耐水性を有し、煤塵汚れの除去性に優れ、しかも平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する不燃特性を有する膜材が得られるので、ホテル、イベントホール、商業施設、遊戯施設、公共施設、駅・空港内施設、地下街通路などの天井照明や壁照明、及びエレベータかごなどの天井照明など利用客の多い場所で使用する大型の光源カバーで、特にLED光源のカバーとしての使用はもちろん、さらにはLED照明器具のシェード材、カバー材、プロジェクター投影用の映写スクリーンなどにも使用でき、これらの用途において火災対策や防災対策の信頼性をより高くすることができる。また、鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準を兼備するので鉄道車両の車内照明の光源カバーにも使用可能であり、火災対策や防災対策の信頼性をより高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の光拡散透過性膜材の断面の一例を模式的に示す図
図2】本発明の光拡散透過性膜材の断面の一例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光拡散透過性膜材は、繊維布帛を基布として、この基布の1面以上に合成樹脂組成物(I)により形成されたアンカー層と、このアンカー層上に形成された耐火層とを有する全光線透過率(JIS K7375)が35〜60%の耐水性積層体シートであって、この耐火層が無機層状化合物粒子を耐火層に対して10〜40質量%含み、かつこの無機層状化合物粒子の総和量に対してシランカップリング剤を1〜20質量%含んでなる合成樹脂組成物(II)により形成され、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1〜1:3とするもので、それによって洗剤や溶剤を使用することなく付着した煤塵汚れの除去を容易とし、耐水性に優れ、しかもASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄法の燃焼試験に適合する不燃特性を実現できるようになる。そして本発明の光拡散透過性膜材の使用方法は、アンカー層及び耐火層を基布の片面のみに設けたものである場合には、耐火層面側を外観面側として照明器具に装着し、アンカー層及び耐火層が基布の両面に設けたものである場合には、外観面側を何れの面側としても構わない。このとき光源カバーとして露出する側の面には煤塵汚れ除去性を補助しうる物質(例えば光触媒物質)を含有することができる。
【0019】
本発明の光拡散透過性膜材の基材に使用する無機繊維を含む布帛は、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、及びセラミック繊維から選ばれた1種以上の繊維糸条から形成されたもので、織布、または編布が好ましく用いられる。本発明の光拡散透過性膜材にASTM−E1354の燃焼試験、及び国鉄法の燃焼試験に適合する不燃特性が求められない場合には、ポリエステル(PET、PBT、PNT)繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、高密度ポリエチレン繊維、ビニロン繊維などの汎用の有機合成繊維を使用することができる。織布として、平織、綾織、繻子織、模紗織など汎用の織布が挙げられるが、特に織組織が、経糸打込:20〜100本/1インチ、緯糸打込:20〜100本/1インチの平織織布が好ましい。平織織布は織構造上、嵩高とならず表面凹凸の少ない形態であり、さらに経糸打込及び緯糸打込の糸本数が多いほど、膜材を光源に翳した時に布帛の織組織の陰影を際立たせない効果が得られる。また、平織織布であることによって光源カバーに用いた時の装着張力に対して、経緯方向物性(ヤング率・伸び率)バランスが保たれるので光源カバーの形態安定性に優れている。このような布帛は経緯糸条の交絡間に形成される空隙率が0〜2.5%の織密度であることが光源カバー用膜材を光源に翳した時に、布帛の織組織の陰影を際立たせない効果が高く得られる。空隙率は0%が最も好ましいが、用いる繊維糸条の繊度に応じて最大2.5%まで許容が可能である。空隙率が2.5%を越えると、光源カバー用膜材を光源に翳した時に、空隙部の光線透過率のみが大きくなり、それによって布帛の織組織の陰影が際立ち、光源カバーの外観を悪くすることがある。空隙率は布帛の特定の面積単位(例えば1インチ幅×1インチ長の四角形)内に含む、経緯糸条の交絡間に形成された多数の微細空隙の総和による面積占有率であり、空隙率は先ず布帛の特定の面積単位内に含む経糸条及び緯糸条の占める面積率を求め、これを100%から差し引いた値(%)で求めてもよい。布帛と、シリコーンエラストマー組成物により形成される含浸被覆層との接着性を向上させる目的で布帛全体に公知のシランカップリング剤による表面処理を1〜5質量%濃度の溶液による含浸処理で施すことが好ましい。
【0020】
布帛を構成する無機繊維糸条としてのガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、及びセラミック繊維は、各々フィラメント直径3〜13μmに溶融紡糸され、50〜500本集束して得たストランドに0〜5回/インチの撚りを掛けた単糸で、特に撚数が0の無撚糸で断面形状が扁平のフラットヤーンが最も好ましい。ガラス繊維としてはEガラス(無アルカリガラス)を使用したもの、シリカ繊維としてはシリカ(SiO)を主成分として95質量%以上含み、副成分として酸化ホウ素(B)を2.5〜5質量%含むものが挙げられる。アルミナ繊維としてはアルミナ(Al)を65〜75質量%とシリカ(SiO)を25〜35質量%、とを主成分とするもので、副成分として酸化ホウ素(B)を2.5〜10質量%含むものが挙げられる。セラミック繊維としては本発明において具体的に、チタン酸カリウム繊維、チタニア繊維、シリカ−チタニア繊維、窒化ホウ素繊維、ジルコニア繊維、シラザン−窒化ケイ素繊維、アルミナ−ボリア−シリカ繊維から選ばれた1種以上である。無撚のマルチフィラメントフラットヤーンを用いることで光透過ムラを無くすると同時に糸幅が広い利点により布帛の空隙率を0に近付けることができるので、光源カバー用膜材を光源に翳した時に、布帛の織組織の陰影を際立たせない効果をより高く設定することができる。ストランドの撚数が5回/インチを越えて大きくなるとマルチフィラメントが捻れて出来る螺旋ウェーブに光屈折が干渉することで捻れ部分の光透過陰影が際立って光源カバーの外観を悪くすることがある。また、これらのストランド2本、または3本を1〜5回/インチで撚り合わせた合撚糸なども使用できるが、これらは糸径が大きくなり、布帛の厚さを嵩高にして凹凸を増すため光透過時の陰影が際立ち易くなることがある。本発明の光拡散透過性膜材に使用する無機繊維糸条の繊度は、150〜1800dtex、特に300〜1350dtexのマルチフィラメント糸条が好ましい。
【0021】
上記の布帛には、モンモリロナイト、スメクタイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の層状鉱物による下処理がなされ、布帛を構成するマルチフィラメント糸条、及び糸条−糸条間には平均粒子径0.1〜30μmの上記層状鉱物粒子が埋填されていることが燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)において有効である。この手段によって、加熱時に層状鉱物の層間は熱剥離して体積膨張して布帛の隙間を埋め溶融した層状鉱物がガラス質のガスバリヤー層を形成することで、布帛の隙間からの燃焼ガスの漏出を抑止するので、煙の拡散を効果的に遮断することができるようになる。フッ素雲母はNa四珪素雲母を有機交換処理した平均粒子径1〜20μmのフッ素四珪素雲母が使用できる。モンモリロナイトは、(Al2−yMg)Si10(OH)・(M1/22+nHO式で表される平均粒子径0.01〜3μmの2八面体型含水層状珪酸塩鉱物が使用できる。(y=0.2〜0.6、M=交換性陽イオンNa, K, Ca, Mg, Hなど、n=層間水の量)スメクタイトとしては、シリカ四面体(四配位)層とアルミニウム八面体(六配位)層が交互に積重した構造であり、シリカ/アルミが2:1の質量比率のもので、スメクタイトの平均粒子径は0.01〜3μmである。これらの層状鉱物による布帛への処理は、水中分散した層状鉱物水溶液を用いて布帛に含浸後、乾燥することによって行い、布帛の質量に対し、3〜12質量%の付着率とすることが好ましい。この層状鉱物水溶液には布帛と層状鉱物との密着性を向上するためにシランカップリング剤、もしくは有機チタネート化合物を層状鉱物に対して1〜10質量%併用することが好ましい。
【0022】
繊維布帛には、合成樹脂組成物(I)により形成されたアンカー層と、このアンカー層上に合成樹脂組成物(II)により形成された耐火層とを有し、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1〜1:3とする。このとき合成樹脂組成物(I)と合成樹脂組成物(II)とを構成する互いの合成樹脂の主成分を同一とすることがアンカー層と耐火層との界面の接着性をより高くして、本発明の光拡散透過性膜材の耐久性を強化する観点において好ましい。これら合成樹脂は、塩化ビニル樹脂(可塑剤含有)、塩化ビニル系共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリプロピレン樹脂と水素添加型スチレン系共重合体樹脂とのブレンド、ウレタン樹脂、ウレタン系エラストマー、アクリル樹脂、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマーなど、及びこれらの熱可塑性樹脂やエラストマーの架橋体、及びこれらの併用(ブレンドまたは複層構造)などである。特に不燃性の観点においては、シリコーン系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩化ビニル樹脂(可塑剤含有)などが好ましい。アンカー層及び耐火層はカレンダー法、Tダイス押出法、キャスティング法、デッピング法、またはコーティング法により、各々厚さが0.01mm〜1.0mm、好ましくは0.05mm〜0.5mmとし、しかもアンカー層と耐火層との構成質量比を2:1〜1:3とする。アンカー層と耐火層との構成質量比がアンカー層リッチとなると、得られる膜材の不燃特性が不十分となることがあり、また耐火層リッチとなると、得られる膜材の屈曲耐久性が不十分となり耐火層に亀裂を生じることがある。
【0023】
本発明においてアンカー層と耐火層とは、ディッピィング法、ナイフコーティング法、グラビア転写法などの公知の塗工方法によって、液状の合成樹脂組成物(I)、及び液状の合成樹脂組成物(II)の塗布、乾燥により形成された塗膜であることが好ましい。そしてさらに液状の合成樹脂組成物(I)と液状の合成樹脂組成物(II)とを構成する互いの合成樹脂の主成分はシリコーンエラストマーが好ましい。これらのシリコーンエラストマーとしては、付加反応硬化型シリコーンエラストマー、縮合反応硬化型シリコーンエラストマー、ラジカル(パーオキサイド架橋)反応硬化型シリコーンエラストマーが使用でき、特にトルエン等で希釈してコーティングが可能で、しかも低温硬化ができる付加反応硬化型シリコーンエラストマーが好ましい。付加反応硬化型シリコーンエラストマーは、2種類のオルガノポリシロキサン中の官能基が付加反応により結合して架橋しエラストマー化したもので、これらは例えば、ビニル基やヘキセニル基のような脂肪族不飽和基を含有するオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび白金族化合物系触媒からなるシリコーンエラストマーが挙げられる。脂肪族不飽和基含有オルガノポリシロキサンとしては、両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ビニルメチルフェニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体が挙げられる。オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサンが挙げられ、これらの付加反応硬化型シリコーンエラストマーは加熱によって硬化可能であり、硬化物中にはシリカ、炭酸カルシウムなどの充填剤、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、クリストバライトなど、燃焼時にガラス質の燃焼ガス遮蔽層を形成可能な無機難燃剤、酸化チタンなどの無機顔料、光源カバーの青味付目的に少量の有機顔料(シアニンブルー)、蛍光増白剤などを含有することができる。
【0024】
縮合反応硬化型シリコーンエラストマーは、2種類のオルガノポリシロキサン中の官能基、またはオルガノポリシロキサンとシリカやシラン等のケイ素化合物中の官能基が縮合反応により結合して架橋しエラストマー化したものである。縮合反応硬化型シリコーンエラストマーは、脱水素縮合型、脱水縮合型、脱酢酸縮合型、脱オキシム縮合型、脱アルコール縮合型、脱アミド縮合型、脱ヒドロキシルアミン縮合型、脱アセトン縮合型の何れであってもよく、付加成分として増量充填剤、耐熱剤、難燃剤、顔料、有機溶剤などを含有することができる。脱水素縮合反応硬化型シリコーンエラストマーとしては、両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサンおよび有機酸の重金属塩等の縮合反応触媒からなる組成物が挙げられる。両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサンとしては、両末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端シラノール基封鎖メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)ポリシロキサンが挙げられる。このジオルガノポリシロキサンは末端シラノール基の一部をアルコキシ化したものでもよい。架橋剤として作用するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサンが挙げられる。縮合反応触媒には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ラウリン酸錫、オクテン酸鉛、オクテン酸亜鉛などが使用できる。これらの脱水素縮合反応硬化型シリコーンエラストマーは、加熱硬化する必要があるが、脱水縮合型、脱酢酸縮合型、脱オキシム縮合型、脱アルコール縮合型、脱アミド縮合型、脱ヒドロキシルアミン縮合型、脱アセトン縮合型のシリコーンエラストマーなどは湿気硬化してエラストマー化することができる。また本発明に用いるシリコーンエラストマーは水性オルガノポリシロキサンエマルジョンにコロイダルシリカを含む組成物を用い、水分を除去したものであってもよい。
【0025】
ラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物としては、オルガノポリシロキサン、補強性充填剤および有機過酸化物からなる組成物が挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、両末端がトリメチルシロキシ基、ジメチルビニルシロキシ基、メチルフェニルビニルシロキシ基またはシラノール基で封鎖され、主鎖がジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体などが挙げられる。有機過酸化物は、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどである。このラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物は加熱硬化することができる。この他ラジカル反応硬化型シリコーンエラストマー組成物として、オルガノポリシロキサン生ゴムを主剤とし、β線やγ線照射で硬化する組成物や、ケイ素原子結合アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと増感剤を含み、紫外線照射で硬化する組成物が挙げられる。
【0026】
上記により形成された耐火層には、無機層状化合物粒子を耐火層に対して10〜40質量%、好ましくは12.5〜30質量%含み、このような耐火層は合成樹脂組成物(II)によって形成される。含有量は10質量%未満だと耐火性が不十分となることがあり、また40質量%を越えると耐火層の柔軟性に劣り、膜材を曲げた時に亀裂を生じることがある。無機層状化合物粒子は、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上を使用することが、得られる膜材の外観色を濁らせることが無く好ましい。特にスメクタイト系粘土鉱物は平均粒子径1〜30μmのもの、また合成スメクタイトは平均粒子径0.01〜3μmのものが好ましい。スメクタイト系粘土鉱物としては、2:1型スメクタイトで、ケイ素と酸素からなる層(シリカ四面体層)が、アルミニウムと酸素からなる層(アルミニウム八面体層)を挟んだ、「シリカ四面体層/アルミニウム八面体層/シリカ四面体層」構造層を一単位とし、この構造層が積重したものである。さらにアルミニウム八面体層には2八面体型及び3八面体型に分類され、2八面体型スメクタイトの具体例として、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイトなどが、3八面体型スメクタイトの具体例として、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティーブンサイトなどが挙げられる。本発明において無機層状化合物粒子はタルク、パイロフィライト、バーミキュライト、カオリナイト、ディッカイト、ハロイサイト、雲母類、緑泥石類、蛇紋石類などの粘土鉱物も使用でき、また上記スメクタイトと併用できるが、粘土鉱物由来の着色を伴うことで得られる膜材の外観色が薄い土色や緑灰色に濁る場合がある。合成スメクタイトは、シリカ四面体(四配位)層とアルミニウム八面体(六配位)層が交互に積重した構造であり、シリカ/アルミが2:1の質量比率の使用が得られる膜材の外観色を濁らせることが無いので好ましい。セリサイト(絹雲母)は白雲母の微細なもので平均粒子径1〜20μmのものである。またフッ素雲母はNa四珪素雲母を有機交換処理した平均粒子径1〜20μmのフッ素四珪素雲母を使用することで得られる膜材の外観色を濁らせない。また、本発明に使用する無機層状化合物粒子には、層間にナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの交換性陽イオンを含有するので、そのイオン交換性により他の金属イオン、陽イオン化合物、陰イオン化合物、反応性化合物(シランカップリング剤)などを置換反応で取り込み、化学修飾または化学変性したインターカレーション型の無機層状化合物粒子を使用することができ、特に親水性としたもの、親油性としたものがアンカー層形成のコーティング組成物の分散性改善やレオロジーコントロールに効果的であり、Cl、Br、Fなどのハロゲン置換したものは不燃性向上の観点で好ましい。特にスメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイトなど)は層間に四級ホスホニウム化合物、または塩化ジメチルステアリルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルステアリルアンモニウムなどの四級アンモニウム化合物で置換変性したものが好ましい。
【0027】
耐火層を形成する合成樹脂組成物(II)にはシランカップリング剤を含み、無機層状化合物粒子の総和量に対して1〜20質量%、特に3〜10質量%が好ましい。シランカップリング剤としては、一般式:XR−Si(Y)で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有する化合物で、例えば、X=アミノ基、ビニル基、エポキシ基、クロル基、メルカプト基など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。シランカップリング剤は具体的に、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。得られた本発明の光拡散透過性膜材において、耐火層に含有するシランカップリング剤は末端の反応成分が無機層状化合物粒子の表面と反応し、及び/または層間にインターカレートされて一体化し、同時にもう一方の末端の反応成分がシリコーンエラストマーの分子鎖構造の一部と反応することによって、耐火層の摩耗強度、耐屈曲性を向上させる。従って本発明の光拡散透過性膜材の耐火層には配合したシランカップリング剤がそのままの構造で残留するものではない。拠ってシランカップリング剤を含まないもの、含んでも無機層状化合物粒子の含有量に対して1質量%未満の場合は耐火層が脆く、折り曲げにより耐火層に亀裂を生じたり、摩耗劣化を早くすることがある。
【0028】
本発明の光拡散透過性膜材において、耐火層の表面には、さらに不燃層が設けられ、この不燃層が、スメクタイト系粘土鉱物、合成スメクタイト、セリサイト、及びフッ素雲母から選ばれた1種以上の無機層状化合物粒子を不燃層に対して65〜95質量%含むことで、より高度の不燃性を得ることができる。これらの無機層状化合物粒子は段落〔0026〕に説明したものを使用する。不燃層には無機層状化合物粒子以外の成分として5〜35質量%のバインダー成分を含有する。このバインダー成分は、シリコーン系エラストマー、フッ素系エラストマー、塩化ビニル樹脂(可塑剤含有)の何れか1種以上で、段落〔0027〕に記載したシランカップリング剤を段落〔0027〕と同じ作用効果を目的に、無機層状化合物粒子の総和量に対して1〜20質量%、特に3〜10質量%含有するものが好ましい。不燃層はナイフコーティング法、またはグラビア転写法などの公知の塗工方法により、厚さが0.01〜0.2mm、特に0.05〜0.1mmの範囲で薄膜形成することが好ましい。この不燃層においても配合したシランカップリング剤は配合時の構造で残留するものではない。不燃層の膜厚が0.2mmを越えると折り曲げで亀裂が入り易くなる。
【0029】
上記不燃層には更に光触媒物質を含有し、特に波長400nmから800nmの可視光を吸収して活性を示す可視光応答型光触媒を含有することができる。これらは例えば酸化チタン、過酸化チタン(ペルオキソチタン酸)、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化鉄、及びこれらの酸化物に、銀、プラチナ、金、銅、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、及び遷移金属イオンの1種以上をドーピングした物質などで、上記不燃層の質量に対して1〜15質量%の含有量である。これによって付着した煤塵汚れの一部を光触媒作用による有機物分解効果で、より拭き取り除去性を高くする他、室内の消臭効果も発現できるようになる。
【0030】
また不燃層には更に無機コロイド物質を含むことができ、これによって不燃層の表面抵抗値(測定方法:JIS K6911、測定条件:湿度30%RH−温度23℃)が、1.0E+12Ω未満の帯電防止性を付与し、膜材に付着する煤塵の拭き取り除去を容易とする。無機コロイド物質は例えば1次粒子径3〜150nmの、シリカ(酸化ケイ素)ゾル、アルミナ(酸化アルミニウム)ゾル、ジルコニア(酸化ジルコニウム)ゾル、セリア(酸化セリウム)ゾル、酸化スズゾル(リン酸ドープ)及び複合酸化物(酸化亜鉛−五酸化アンチモン複合または酸化スズ−五酸化アンチモン複合)ゾルなどで、上記不燃層の質量に対して1〜15質量%の含有量である。
【0031】
また不燃層には更に界面活性剤を含むことができ、これによって不燃層の表面抵抗値(測定方法:JIS K6911、測定条件:湿度30%RH−温度23℃)が、1.0E+12Ω未満の帯電防止性を付与し、膜材に付着する煤塵の拭き取り除去を容易とする。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩)、カチオン界面活性剤(アミン塩型、第4級アンモニウム型)、両性界面活性剤(アミノ酸型、ベタイン型)、非イオン界面活性剤(ポリエチレングリコール型、多価アルコール型)などが使用でき、上記不燃層の質量に対して1〜5質量%の含有量である。また高分子型帯電防止剤として、四級アンモニウム塩を側鎖に1個以上有するモノマーAを共重合成分に含む共重合体で、例えば、ポリビニルベンジル型、ポリ(メタ)アクリレート型、スチレン−(メタ)アクリレート共重合体型、スチレン−マレイミド共重合体型、メタクリレート−メタクリルイミド共重合体型などの四級アンモニウム塩型ポリマーの使用が特に好ましく、これらは段落〔0030〕の無機コロイド物質と、質量比3:1〜1:3の併用物が特に好ましい。
【0032】
本発明の光拡散透過性膜材は、全光線透過率(JIS K7375)が35〜60%、好ましくは40〜55%の光拡散透過性を有するシートである。全光線透過率が35%未満だと光源カバーや光天井膜に用いた時に、光源の輝度に対する照度が低くなり照明効果が非効率となる。一方、全光線透過率が60%を越えると光源カバーや光天井膜に用いた時に、光源の存在及び輪郭が顕わとなることで照明装置の外観を損なうことがある。本発明の光拡散透過性膜材は光源カバーや光天井膜に用いる場合、膜材の何れの面を光源に対向させて装着してもその効果に遜色はない。また必要に応じて光源に対向させる面側に、文字、絵柄、模様、写真などの隠し意匠を部分的、または全面に施すことにより、光源の点灯時に隠し意匠が膜材を透過して膜材表面に行灯表示することも可能である。隠し意匠は光透過性のインクを用いての印刷によって施すことが好ましいが、光半透過性の白インクで和紙柄を濃淡印刷することで、和紙行灯調の光拡散透過性膜材を得ることができる。
【0033】
光拡散透過性膜材は具体的に、建造物または鉄道車両の天井埋込型ベースライトハウジング(例えば、LEDロングバー型蛍光灯1〜6本装着:器幅15〜45cm×器長80〜150cm)全面を、照明光源と膜材を3〜20cmの距離で被覆する膜材で、被覆は平面装着に限定されず、湾曲状の立体装着であっても良い。またその膜材端部にはフラット状の支持フレーム、または横断面が半円弧状あるいは多角形状の立体支持フレームが設けられ、支持フレームにはLED蛍光灯ハウジングとの着脱を自在とする嵌合部材を有するものである。また具体的に、天井に多数の照明ハウジングが天井埋込型または天井装着型で配置された状態で、これら照明ハウジングを膜材で一括被覆してなる光天井膜であり、このような大面積膜材は1〜3m幅の膜材原反を縫製または接着により接合すること、または1〜3m幅の膜材原反を支持フレームに組み込み、支持フレーム同士のメカニカルな接合によって大型化され、照明光源と膜材は3〜20cmの距離とする。天井の形状は平面状に限定されず、湾曲状であっても良い。また本発明の光拡散透過性膜材は建造物に付帯する外付型の内照看板用光源カバーとして用いることもできる。また本発明の光拡散透過性膜材は任意の立体デザインを施して、卓上型またはスタンド型のLEDランプシェードとして用いることもできる。また本発明の光拡散透過性膜材に適する光源は、白熱電球、ハロゲンランプ、ロングバー型蛍光管、サークル型蛍光管、ボール内蔵蛍光管、ロングバー型LED蛍光管、ボール内蔵LED蛍光管、サークル型LED蛍光管、多数のLEDを任意に配置した発光体、及び有機EL素子など光源の種類、形態に限定はない。
【0034】
建築基準法において不燃特性(コーンカロリーメーター試験:ASTM−E1354、またはISO 5660−1)は、電気ヒーターによる輻射熱を、試験体に向けて50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、かつ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えない燃焼要件を有するものである。また鉄道車両用内装材には、鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃性は、アルコールを燃焼源とする試験体の燃焼挙動を5段階に区分し、そのうち最上ランクを満たすものである。
【実施例】
【0035】
[不燃性評価]
A)コーンカロリーメーター試験(ASTM−E1354)
タテ・ヨコ約100mmの正方形で厚さ50mmまでの大きさで表面が平坦な供試膜材とし、放射熱50KW/mで10分間行う。試験は、供試膜材3枚の最大発熱速度の平均値と各供試膜材の最大発熱速度の差が10%未満であることを確認し、10%未満の場合は当該3枚の供試膜材のデータを採用する。10%以上となる場合には、更に供試膜材3枚の試験を行い、これらの供試膜材6枚のうち、最大発熱速度の最大値と最小値を除く4枚の供試膜材のデータを採用する。燃焼判定は、試験時間中に計測された総発熱量(MJ/m)及び最大発熱速度(KW/m)並びに着火時間(秒)で行う。着火時間(秒)は、試験片から炎が確認されてから10秒以上炎が存在した場合を着火とみなし、試験開始から最初に着火が確認されるまでの時間とする。
(a)総発熱量:8MJ/m以下を適合
(b)発熱速度:10秒以上継続して200kW/mを超えないものを適合
(c)外観観察:直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生がないものを適合
B)鉄道車両用材料燃焼試験:鉄運第81号(昭和44年5月15日)
B5判の供試膜材(182mm×257mm)を45°傾斜に保持し、燃料容器の底の中心が、供試膜材の下面中心の垂直下方25.4mm(1インチ)のところにくるように、コルクのような熱伝導率の低い材質の台にのせ、純エチルアルコール0.5ccを入れて着火し、燃料が燃え尽きるまで放置する。燃焼判定は、アルコールの燃焼中と燃焼後とに分けて、燃焼中は供試膜材への着火、着炎、発煙状態、炎の状態等を観察し、燃焼後は、残炎、残じん、炭化、変形状態を調査し、「不燃性」「極難燃性」「難燃性」「緩燃性」「可燃性」の5段階評価をおこなう。
※「不燃性」の要件 燃焼中:着火(なし)・着炎(なし)・煙(僅少)・火勢(−)
燃焼後:残炎(−)・残じん(−)・炭化(100mm以下の変
色)・変形(100mm以下の表面的変形)・溶融滴下性(なし)
[煤塵除去性評価]
A)屋外曝露
傾斜角30度の屋外暴露台に供試膜材を1ヶ月間展張固定し、表面に付着した煤塵汚れをワイピングクロス(商品名ザヴィーナ:KBセーレン社製)で拭き取り、煤塵の除去性を下記のように判定した。(埼玉県草加市にて平成25年12月に実施)
1: 除去性に優れている(膜材の外観が初期レベルに戻った)
2: 拭き取りを繰り返しても煤塵汚れがうっすらと残ったまま変わらない
3: 拭き取りを繰り返しても煤塵汚れが落ちず、拭いた痕跡が見苦しい
4: 降雨により耐火層が剥離、脱落し、評価不能である
B)ダートチャンバー
直径20cm×高さ25cmの筒状密閉容器内の内壁に供試膜材片を貼付け、複写機用カーボントナー1gと乾燥川砂50gを投入し、筒状密閉容器を横にした状態で1対の回転ロール(互いに反回り)上で、60回/分の回転速度で10分間筒状密閉容器を回転させた後、膜材片を取り出し、表面に付着した煤塵汚れをワイピングクロス(商品名ザヴィーナ:KBセーレン社製)で拭き取り、煤塵の除去性を下記のように判定した。
1: 除去性に優れている(膜材の外観が初期レベルに戻った)
2: 拭き取りを繰り返しても煤塵汚れがうっすらと残ったまま変わらない
3: 拭き取りを繰り返しても煤塵汚れが落ちず、拭いた痕跡が見苦しい
[光源カバーの評価]
実施例及び比較例で作成した膜材を用いて天井埋込型蛍光灯ハウジング(36ワット40型の白色蛍光管2本装着:器幅25cm×器長125cm)全面をフラットに覆い、蛍光管と膜材の距離を3cmとした。蛍光灯点灯状態で膜材光透過外観を膜材表面からの距離50cmの位置で目視観察し、A).蛍光管(光源)の視認性、B).光拡散性の良否を目視評価した。膜材のハウジング装着は含浸被覆層側を外に露出する面とする装着での評価とした。
A)蛍光管(光源)のホットスポット視認性
1:十分な照度を有し、しかも蛍光管(光源)の存在が視認できない
2:十分な照度を有するが、蛍光管(光源)の位置が朧に視認できる
3:十分な照度を有するが、蛍光管(光源)の位置が明確に視認できる
4:蛍光管(光源)の存在が視認できないが、照度が不十分である
B)光拡散性
1:十分な照度を有し、しかも光拡散性に優れる
2:十分な照度を有するが、やや光拡散性に劣りやや陰影濃淡がある
3:十分な照度を有するが、光拡散性に劣り陰影濃淡がある
4:照度が不十分である
[耐水性の評価]
実施例及び比較例で作成した膜材の小片(5cm×5cm)を、20℃の純水100mlを満たしたシャーレ内に60分間浸漬し、小片を引き上げ直後、濡れた状態で膜材の表面を観察した。
1:やや膨潤しているが、耐火層は堅牢に保持されている
2:耐火層が2倍以上に体積膨潤し、指で触ると剥がれ落ちた
3:耐火層が剥離、または溶解し、脱落してアンカー層が露わとなっていた
[耐火層の折曲亀裂の評価]
実施例及び比較例で作成した膜材の小片(2cm×10cm)を5cmの位置で2ツ折り(耐火層側を山折りとする)にし、折り部分に500gの錘を乗せた状態で20℃×60秒静置した後、耐火層を赤インクで着色してデジタル拡大鏡(倍率50倍)で画像観察し、亀裂の有無を判定した。
1:亀裂の発生を認めない
2:亀裂の発生を認める
【0036】
[実施例1]
Eガラスによる直径9μmのフィラメントを400本集束した繊度67.5texのフラットヤーン単糸を経糸及び緯糸として、経糸打ち込み密度44本/インチ、緯糸打ち込み密度33本/インチの織組織による空隙率0%のガラス平織布帛(質量210g/m)を基材(1)として、この基材(1)の片面に〈配合1〉によるアンカー層形成用の合成樹脂組成物(I)をナイフコーティング法で均一に塗工し、電気炉内で180℃×3分間の熱処理硬化工程を経て32g/mの付着量でアンカー層を設けた。
次にこのアンカー層上に、〈配合2〉による耐火層形成用の合成樹脂組成物(II)をナイフコーティング法で均一に塗工し、電気炉内で180℃×3分間の熱処理硬化工程を経て26g/mの付着量で耐火層を設けた。アンカー層と耐火層との構成質量比は2:1.625で、得られた膜材は、厚さ0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が44.3%であった。
〈配合1〉合成樹脂組成物(I)
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 1質量部
トルエン(希釈剤) 100質量部

〈配合2〉合成樹脂組成物(II)
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 1質量部
商品名:Nanofil9:(モンモリロナイト:平均粒子径8μm:ズードケミー触媒社製)
※無機層状化合物粒子=スメクタイト系粘土鉱物=モンモリロナイト 20質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 2質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0037】
[実施例2]
実施例1の耐火層形成用の合成樹脂組成物(II)としての〈配合2〉を下記〈配合3〉に変更した以外は実施例1と同様にして、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が48.5%の膜材を得た。
〈配合3〉合成樹脂組成物(II)
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 1質量部
商品名:ルーセンタイトSAN:親油性合成スメクタイト:コープケミカル社製)
※無機層状化合物粒子=合成スメクタイト 20質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 2質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0038】
[実施例3]
実施例1の耐火層形成用の合成樹脂組成物(II)としての〈配合2〉を下記〈配合4〉に変更した以外は実施例1と同様にして、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が48.6%の膜材を得た。
〈配合4〉合成樹脂組成物(II)
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 1質量部
商品名:シマソフMTE:有機処理フッ素雲母:コープケミカル社製)
※無機層状化合物粒子=フッ素雲母:平均粒子径5μm 20質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 2質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0039】
[実施例4]
実施例1の耐火層形成用の合成樹脂組成物(II)としての〈配合2〉を下記〈配合5〉に変更した以外は実施例1と同様にして、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が47.7%の膜材を得た。
〈配合5〉合成樹脂組成物(II)
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
50質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 1質量部
商品名:セリサイトパウダー:堀江化工社製)
※無機層状化合物粒子=セリサイト(絹雲母):平均粒子径5〜8μm 20質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 2質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0040】
[実施例5]
実施例1の膜材の耐火層上全面に、下記〈配合6〉による不燃層を形成した。不燃層の形成は80メッシュのグラビアロールを用いたグラビア転写塗工によって実施し、電気炉内で180℃×1分間の熱処理硬化工程を経て4g/mの付着量の不燃層として、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.21mm、質量272g/m、全光線透過率が41.7%の膜材を得た。
〈配合6〉不燃層形成用組成物
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
10質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
10質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 0.2質量部
商品名:Nanofil9:(モンモリロナイト:平均粒子径8μm:ズードケミー触媒社製)
※無機層状化合物粒子=スメクタイト系粘土鉱物=モンモリロナイト 50質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 5質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
商品名:セルナックスCX−S401M(帯電防止剤:日産化学工業社製)
※有効成分40%、平均粒子径5〜20nmのリン酸ドープ酸化スズゾル 6質量部
酸化銅ドープ酸化タングステン(可視光応答型光触媒)微粒子 1質量部
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0041】
[実施例6]
実施例2の膜材の耐火層上全面に、下記〈配合7〉による不燃層を形成した。不燃層の形成は80メッシュのグラビアロールを用いたグラビア転写塗工によって実施し、電気炉内で180℃×1分間の熱処理硬化工程を経て4g/mの付着量の不燃層として、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.21mm、質量272g/m、全光線透過率が47.3%の膜材を得た。
〈配合7〉不燃層形成用組成物
商品名:シラスコンRTV4086A
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
10質量部
商品名:シラスコンRTV4086B
(2液付加反応硬化型シリコーン樹脂:有効成分100%:東レ・ダウコーニング社製)
10質量部
商品名:SRX212 CATALYST(東レ・ダウコーニング社製) 0.2質量部
商品名:ルーセンタイトSAN:(親油性合成スメクタイト:コープケミカル社製)
※無機層状化合物粒子=合成スメクタイト 50質量部
商品名:KBM903(シランカップリング剤:信越シリコーン社製) 5質量部
※γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(有効成分100%)
商品名:セルナックスCX−S401M(帯電防止剤:日産化学工業社製)
※有効成分40%、平均粒子径5〜20nmのリン酸ドープ酸化スズゾル 6質量部
酸化銅ドープ酸化タングステン(可視光応答型光触媒)微粒子 1質量部
トルエン(希釈剤) 100質量部
【0042】
[実施例7]
実施例3の膜材の耐火層上全面に、実施例5で使用した〈配合6〉による不燃層を形成した。不燃層の形成は実施例5と同様に実施し、4g/mの付着量の不燃層を設け、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.21mm、質量272g/m、全光線透過率が45.3%の膜材を得た。
【0043】
[実施例8]
実施例4の膜材の耐火層上全面に、実施例6で使用した〈配合7〉による不燃層を形成した。不燃層の形成は実施例6と同様に実施し、4g/mの付着量の不燃層を設け、アンカー層と耐火層との構成質量比が2:1.625で、厚さ0.21mm、質量272g/m、全光線透過率が46.5%の膜材を得た。
【0044】
[実施例9〜16]
実施例1〜8に使用した基材(1)を、下記基材(2)に変更した以外は実施例1〜8と同様として、各々実施例9〜16の膜材を得た。実施例1は実施例9、実施例2は実施例10、実施例3は実施例11に対応する扱いとし以下同様である。
基材(2)
基材(1)である、Eガラスによる直径9μmのフィラメントを400本集束した繊度67.5texのフラットヤーン単糸を経糸及び緯糸として、経糸打ち込み密度44本/インチ、緯糸打ち込み密度33本/インチの織組織による空隙率0%のガラス平織布帛(質量210g/m)を下記〈配合8〉の層状鉱物含有下処理液浴に浸し、これを引き上げると同時にピックアップ率40質量%にゴムマングル圧搾し、次いで180℃の熱風炉内で2分間乾燥して層状鉱物処理された質量214g/mのガラス繊維布帛を得、これを基材(2)として使用した。
〈配合8:層状鉱物含有下処理液〉
商品名:Nanofil9(モンモリロナイト:ズードケミー触媒社製) 25質量部
※平均粒子径8μm、分散粒子径100〜500nmの層状鉱物
商品名:KBM403(信越シリコーン社製) 3質量部
※γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン:有効成分100%
希釈水 72質量部
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
実施例1〜16の膜材は、天井照明や壁照明、鉄道車両やエレベータかごなどの天井照明、照明器具のシェード材、カバー材、及びプロジェクター投影用の映写スクリーンなどに用いた時に十分な照度を有して光拡散性に優れ、また蛍光管(特にLED光源)の存在(ホットスポット)が視認されることのない、光源カバーとして良好なものであり、これらの膜材はコーンカロリーメーター試験(ASTM−E1354)の不燃性に適合し、または鉄道車両用材料燃焼試験(鉄運第81号)の不燃性に適合するものであるため、特に公共施設やオフィスビルなどの天井照明や壁照明、鉄道車両の天井照明に用いる光源カバーとして最適なものであった。特に実施例5〜8の膜材は実施例1〜4の膜材の表面にさらに不燃層を追加したものであるため、実施例1〜4の膜材よりも上記不燃性試験の適合成績の数値において優れていた。また実施例9〜16の膜材はガラス繊維布帛を層状ケイ酸塩化合物で処理したものを使用したことで、実施例1〜8の膜材よりも上記不燃性試験の適合成績の数値において優れ、さらに実施例13〜16の膜材は、実施例9〜12の膜材よりも上記不燃性試験の適合成績の数値において優れていた。つまり不燃特性の大きい順は概ね、実施例13〜16グループ > 実施例5〜12グループ > 実施例1〜4グループの関係となっていた。また、実施例1〜16の膜材は煤塵汚れの除去性に優れたものであったが、特に実施例5〜8、及び実施例13〜16の膜材は不燃層にリン酸ドープ酸化スズゾルを含むことで、膜材表面の帯電防止効果に優れ、1.0E+9Ω〜10Ωの帯電防止効果を有し、その結果、煤塵汚れの付着が抑止されたことで、実施例1〜4、及び実施例9〜12の膜材よりも煤塵汚れの除去性に優れていた。これは同時に実施例5〜8、及び実施例13〜16の膜材の不燃層に含まれる酸化銅ドープ酸化タングステン(可視光応答型光触媒)による油性煤塵汚れ(揮発調理油やタバコのヤニ)の分解効果が作用することで、より煤塵汚れの除去性に優れていたものと考察される。また酸化銅ドープ酸化タングステンの光触媒作用により照明カバー(または光天井用膜材)に接触する臭気(体臭、動物臭、食品臭、煙草臭、化学物質臭など)の臭気濃度低減にも有効であった。酸化銅ドープ酸化タングステンを含まない実施例1〜4、及び実施例9〜12の膜材との対比で、臭気濃度が1/2に減衰するまでの時間が実施例1〜4、実施例9〜12の膜材でおよそ34分に対して、実施例5〜8、実施例13〜16の膜材で要した時間はおよそ22分であった。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、耐火層〈配合2〉に含む無機層状化合物粒子20質量部(Nanofil9:平均粒子径8μm)を省略した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量248g/m、全光線透過率が68.2%の難燃性膜材を得た。比較例1で得た膜材は耐火層に無機層状化合物粒子を含まないため、煤塵付着汚れの除去性にも劣るものであった。さらに光源カバーに使用した時に光拡散性に劣り、光源位置(ホットスポット)が露わとなるような外観上の見苦しさを呈していた。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、耐火層〈配合2〉に含む無機層状化合物粒子20質量部(Nanofil9:平均粒子径8μm)を、水酸化マグネシウム粒子(難燃化剤)20質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が46.3%の極難燃性膜材を得た。比較例2で得た膜材は煤塵付着汚れの除去性にも劣るものであった。
【0052】
[比較例3]
実施例1と同様とした。但し耐火層〈配合2〉に含む無機層状化合物粒子20質量部(Nanofil9:平均粒子径8μm)を5質量部に減量変更した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量251g/m、全光線透過率が64.3%の難燃膜材を得た。比較例3で得た膜材は耐火層に含む無機層状化合物粒子量が少ないことで煤塵付着汚れの除去性に劣り、しかも光源カバーに使用した時に光拡散性に劣り、光源位置(ホットスポット)が露わとなるような外観上の見苦しさを呈していた。
【0053】
[比較例4]
実施例1と同様とした。但し耐火層〈配合2〉に含む無機層状化合物粒子20質量部(Nanofil9:平均粒子径8μm)を100質量部に増量変更した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量285g/m、全光線透過率が12.4%の不燃性膜材を得た。比較例4で得た膜材は耐火層に含む無機層状化合物粒子量が多過ぎることで耐水性に劣り、しかも光源カバーに使用するには全光線透過率が低すぎて、照明を薄暗くするものであった。
【0054】
[比較例5]
実施例1において、耐火層〈配合2〉に含むシランカップリング剤2質量部(KBM903:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)を省略した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量268g/m、全光線透過率が44.2%の不燃性膜材を得た。比較例5で得た膜材は耐火層にシランカップリング剤を含まないため、耐火層が耐水性に劣るもので、屋外曝露試験において降雨に晒されたときに、耐火層が膨潤してアンカー層から剥離を起こし、自然脱落していた。また煤塵汚れを水拭きした際には、膨潤した耐火層内に煤塵汚れが浸透、吸着され、かえって汚れてしまい見た目を悪くするものであった。
【0055】
[比較例6]
実施例1において、耐火層〈配合2〉に含むシランカップリング剤2質量部(KBM903:γ−アミノプロピルトリメトキシシラン)を20質量部に増量変更した以外は実施例1と同様にして、厚さが0.2mm、質量261g/m、全光線透過率が42.3%の膜材を得た。比較例6で得た膜材は耐火層にシランカップリング剤を余剰に含むため、得られた膜材表面には未反応のまま、または加水分解した状態のシランカップリング剤成分がブリードして、膜材表面が使用開始間もなく濡れた状態となり、煤塵汚れが激しく付着して、拭き取り除去も困難であった。しかも可燃性のシランカップリング剤を余剰に含むため、コーンカロリーメーター試験(ASTM−E1354)の不燃性に不適合となり、また鉄道車両用材料燃焼試験(鉄運第81号)は可燃性となった。
【0056】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、光拡散透過性かつ耐水性を有し、煤塵汚れの除去性に優れ、しかも平成12年に改正施行された建築基準法の燃焼試験(ASTM−E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する不燃特性を具備する膜材が得られるので、ホテル、イベントホール、商業施設、遊戯施設、公共施設、駅・空港内施設、地下街通路などの天井照明や壁照明、及びエレベータかごなどの天井照明など利用客の多い場所で使用する大型の光源カバーとしての使用はもちろん、さらには照明器具のシェード材、カバー材、プロジェクター投影用の映写スクリーンなどにも使用でき、これらの用途において火災対策や防災対策の信頼性をより高くすることができる。また、鉄運第81号、国交省令第151号及び国鉄技第157号、及び国鉄技第124号、国鉄技第125号に基づく不燃基準を兼備するので鉄道車両の車内照明の光源カバーにも使用可能であり、火災対策や防災対策の信頼性をより高くすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1:光拡散透過性膜材
2:繊維布帛(基布)
2−1:層状ケイ酸塩化合物
3:アンカー層:合成樹脂組成物(I)
4:耐火層:合成樹脂組成物(II)
4−1:無機層状化合物粒子
4−2:シランカップリング剤
5:不燃層
5−1:無機層状化合物粒子
5−2:シランカップリング剤
5−3:帯電防止剤
6:光源(LED蛍光管)
図1
図2