(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1領域における前記第1凸部の形成領域の割合を、A%とした場合、前記第2領域における前記第2凸部の形成領域の割合は、A×0.8%以上A×1.2%以下である請求項1記載の光学素子。
(a)光源と、(b)前記光源より射出される光から特定の偏光光を選択透過する光学素子と、(c)前記光学素子から射出された前記偏光光を入射し、画像情報に応じて前記偏光光の強度変調を行う液晶パネルと、を備え、
前記光学素子は、
第1領域と前記第1領域の外周に位置する第2領域とを有する基板を備え、
前記基板の前記第1領域には、金属よりなる第1方向に延在する線状の第1凸部が前記第1方向と交差する第2方向に第1間隔を置いて複数配置された第1凸部群が設けられ、
前記第2領域には、前記金属よりなる第2凸部が複数配置された第2凸部群が設けられており、
前記第1凸部群において、前記基板の一面側から入射した電磁波を偏光し、
前記第2凸部群は、平面視において市松模様であり、第1周目の第2凸部列と、前記第1周目の第2凸部列の隣の周に配置される第2周目の第2凸部列とを有し、
前記第1周目の第2凸部列の複数の前記第2凸部は、前記第2周目の第2凸部列の複数の前記第2凸部と、接触または接続するように繰り返し、前記第1領域を囲むように配置されている、光学装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。
【0014】
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0015】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではない。
【0016】
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0017】
また、実施の形態で用いる図面において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0018】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら本実施の形態の光学素子の構造と製造方法について詳細に説明する。
【0019】
[構造説明]
図1は、本実施の形態の光学素子の構成を模式的に示す平面図であり、
図2は、
図1の一部(破線で囲まれた領域)を示す斜視図である。本実施の形態の光学素子の特徴的な構成について、以下に説明する。
【0020】
図1および
図2に示すように、本実施の形態の光学素子(透過型光学素子、偏光フィルター)は、基板1Sとその上部に配置された複数のワイヤ(金属細線、凸部)P10とを有する。複数のワイヤP10は、ワイヤグリッド領域1Aに配置され、このワイヤグリッド領域1Aの外周には周辺領域2Aが配置されている。
【0021】
ワイヤP10は、例えば、Al(アルミニウム)などの金属よりなり、y方向に延在するライン状であり、x方向の幅はD1、z方向の高さはH1である。このようなワイヤP10が、x方向に所定の間隔(スペース)Sを置いて繰り返し(周期的に)配置されている。間隔Sのx方向の幅はD2である。このようなワイヤP10を周期的に配置した構造はワイヤグリッド構造(配線格子構造、凸部群)と呼ばれる。
【0022】
周辺領域2Aは、例えば、基板(チップ領域)1Sの端部から幅D3の領域である。この周辺領域2Aには、後述するように、複数の突起部(凸部、凸状のパターン、ダミーパターン、周辺パターン、浸水防止部)P20よりなるパターン(繰り返し模様、凸部群)が配置されている。突起部P20は、ワイヤP10と同じ材料、ここでは、Al(アルミニウム)などの金属よりなる。なお、このパターンは、後述の偏光機能を有する必要のない部分である。
【0023】
このようなワイヤグリッド構造を有する光学素子に、紙面上部(z軸プラス方向)から多数の偏光光を含む光(電磁波)を入射させると、基板1Sの下部から特定方向に偏光した偏光光だけを透過させることができる。つまり、ワイヤグリッド構造をした透過型光学素子は、偏光フィルター(偏光素子、偏光板)として機能する。以下に、このメカニズム(動作原理)について簡単に説明する。
図3は、TM偏光光がワイヤグリッド構造を透過するメカニズムを示す図であり、
図4は、TE偏光光がワイヤグリッド構造で反射されるメカニズムを示す図である。
【0024】
図3に示すように、電場の振動方向がx軸方向であるTM(Transverse Magnetic)偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、ワイヤグリッド構造を構成するワイヤ(金属細線)P10内の自由電子がワイヤP10の片側に集まり、これによって、個々のワイヤP10に分極が生じる。このように、TM偏光光を入射する場合、ワイヤP10内に分極が生じるだけであるので、TM偏光光は、ワイヤグリッド構造を通過して基板1Sに達する。このとき、基板1Sも透明であるため、TM偏光光は、基板1Sも透過する。この結果、TM偏光光は、ワイヤグリッド構造および基板1Sを透過することになる。
【0025】
一方、
図4に示すように、電場の振動方向がy方向であるTE(Transverse Electric)偏光光を入射する場合、電場の振動方向に応じて、ワイヤ(金属細線)P10内の自由電子は、ワイヤP10の側壁による制限を受けることなく振動することができる。このことは、TE偏光光がワイヤグリッド構造に入射される場合も、連続した金属膜に光を入射する場合と同様の現象が起こっていることを意味する。したがって、TE偏光光をワイヤグリッド構造に入射する場合、連続した金属膜に光を入射する場合と同様に、TE偏光光は、反射されることになる。このとき、光が金属内に侵入できる厚さ(Skin Depth)よりも、金属細線のz方向の厚さが厚い場合、ワイヤグリッド構造は、TM偏光光を透過し、TE偏光光を反射する分離性能(消光比)の高い偏光分離機能を有することになる。
【0026】
以上のことから、ワイヤグリッド構造をした透過型光学素子は、例えば、様々な偏光光を含む光を入射すると、特定方向に偏光した偏光光だけを透過させる機能を有することになる。これは、ワイヤグリッド構造をした光学素子が、偏光フィルターとして機能することを意味するものである。このように無機材料よりなるワイヤグリッド構造をした偏光フィルターは、有機高分子などよりなるフィルム偏光板と比較して、熱耐性や光耐性に優れる点で有用である。
【0027】
また、本実施の形態においては、複数のワイヤP10の端部を基板(チップ領域)1Sの端部から離間して配置することで、ワイヤP10の変形や欠けを防止することができる。また、ワイヤP10の端部と基板1Sの端部との間(周辺領域2A)に複数の突起部(P20)を設けることで、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入(浸水)を防止することができる。
【0028】
突起部P20の高さ(厚さ)は、1〜10μm程度で充分であるが、ワイヤP10の高さ(厚さ)や後述する金属層MLの膜厚に応じて適宜調整することができる。
【0029】
また、周辺領域2Aの幅(基板1Sの端部からワイヤグリッド領域1Aまでの距離)は、1μm〜3μm程度で充分である。追って詳細に説明するように、基板1Sは、略円形のウエハ状の基板(以下、ウエハ基板Wと呼ぶ)を、ダイシングライン(スクライブライン)DLに沿って切断(ダイシング、スクライブ)し、個片化(チップ化)することにより切り出される(
図7等参照)。よって、ウエハ基板Wのチップ領域CH間には、ダイシングライン(スクライブライン)DL用の領域が確保される。また、後述するように、液晶プロジェクタなどの光学装置(
図42参照)に組み込む際にも、基板1Sの端部から少なくとも100μm以上の幅において、フォルダや設置マージンが設定される。よって、このような領域を利用して周辺領域2Aを設けることで、光学素子の特性を維持し、また、基板1S(チップ領域CH)を大きくすることなく、突起部(P20等)を設けることができる。
【0030】
図5は、本実施の形態の光学素子の一部を示す平面図であり、
図6は、本実施の形態の光学素子の一部を示す断面図である。
図5は、例えば、
図1に示す光学素子の左上部に対応する。また、
図6は、例えば、
図5のA−A断面部に対応する。
【0031】
図5および
図6に示すように、本実施の形態においては、周辺領域2Aに突起部(P20、P21)が配置されている。
【0032】
ここでは、周辺領域2Aのうち、内周(ワイヤグリッド領域1A側)に、ワイヤグリッド領域1Aを囲むように、突起部(ガードリング)P21が設けられている。また、周辺領域2Aのうち、外周(端部側、突起部P21の外周)に、複数の突起部P20が設けられている。
【0033】
この突起部P20は略正四角柱状であり、
図5に示すように上面からの平面視において略正方形状となる。この突起部P20は、周辺領域2Aに複数設けられ、各突起部は、上面からの平面視において市松模様(市松パターン、チェッカーパターン、交互配置、千鳥配置)となるように配置されている。言い換えれば、突起部P20よりなる凸部と、突起部P20間の凹部との関係において、x方向およびy方向に凸部同士および凹部同士が並ばないように、互い違いに配置(交互配置、千鳥配置、市松模様配置)されている。
【0034】
このように、本実施の形態においては、周辺領域2Aに市松模様状の複数の突起部P20を設けたので、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入を防止することができる。また、周辺領域2Aの内側に、ワイヤグリッド領域1Aを囲むように、突起部P21を設けたので、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入を防止することができる。
【0035】
なお、
図1等に示す本実施の形態の光学素子は、例えば、
図7に示すウエハ基板Wの複数のチップ領域CHに形成される。そして、このウエハ基板Wを、ダイシングライン(スクライブライン)DLに沿って切断(ダイシング、スクライブ)し、個片化(チップ化)することにより形成される。
図7は、本実施の形態の光学素子が略円形のウエハ状の基板に形成された状態を示す平面図である。
【0036】
[製法説明]
次いで、
図8〜
図22を参照しながら、本実施の形態の光学素子の製造方法を説明するとともに、当該光学素子の構成をより明確にする。
図8〜
図22は、本実施の形態の光学素子の製造工程を示す要部断面図または要部平面図である。要部断面図は、例えば、
図5のA−A断面部に対応する。
【0037】
本実施の形態においては、ナノインプリント法を用いて基板1S上にワイヤP10、突起部P20、および突起部P21を形成する。このナノインプリント法は、スタンパ(型部材)を基板に押し当てることで微細加工を行う技術である。よって、この方法においては、ナノインプリント用の型であるスタンパを用いて行われるため、スタンパ形成工程を説明した後に、光学素子形成工程を説明する。
【0038】
<スタンパ形成工程>
まず、
図8に示すように、スタンパの型となるマスタ(原版)Mを形成する。シリコン(Si)基板などよりなるマスタ基板を加工することにより、ワイヤP10、突起部P20および突起部P21の形状に対応する凸部を形成する(
図8)。この凸部のうち、ワイヤP10に対応する凸部をM10、突起部P20に対応する凸部をM20、突起部P21に対応する凸部をM21と示す。
【0039】
例えば、シリコン基板上にフォトレジスト膜(図示せず)を形成し、露光・現像(フォトリソグラフィ)することにより、上記凸部形成領域にのみフォトレジスト膜を残存させる。次いで、上記フォトレジスト膜をマスクに、シリコン基板の表面を所定の深さまでエッチングすることにより、凸部(M10、M20、M21)を形成する。次いで、凸部(M10、M20、M21)上に残存するフォトレジスト膜をアッシング処理などにより除去する。
【0040】
なお、上記工程においては露光・現像(フォトリソグラフィ)技術を用いたが、電子線描画法を用いてもよい。例えば、シリコン基板上に電子線描画用のレジスト膜(図示せず)を形成し、電子線を描画することにより、レジスト膜を加工してもよい。
【0041】
また、このマスタMは、
図9に示すように、例えば、ウエハ基板Wに対応するように形成される。即ち、複数のチップ領域CH分の凸部(M10、M20、M21)がマスタ基板の主表面に形成される。
【0042】
次いで、
図10に示すように、マスタM上に、UV(紫外線)照射で硬化するUV硬化樹脂Rsを塗布する。次いで、UV硬化樹脂Rs上にスタンパ用の支持基板(支持基材)Ssを搭載する。この支持基板Ssは例えば、透明の樹脂基板である。次いで、
図11に示すように、支持基板Ssを介してUV硬化樹脂RsにUV光(UV1)を照射する。これにより塗布した樹脂が硬化する。
【0043】
次いで、
図12に示すように、マスタMからUV硬化樹脂Rsおよび支持基板Ssを剥離する(離型処理)。これにより、
図13に示すように、支持基板SsとUV硬化樹脂Rsよりなるスタンパ(樹脂スタンパ、ソフトスタンパ)STが形成される。スタンパSTのUV硬化樹脂Rsの層には、マスタMの凸部(M10、M20、M21)が転写され、この凸部に対応する溝(凹部)が形成されている。この溝のうち、凸部M10に対応する溝をS10、凸部M20に対応する溝をS20、凸部M21に対応する溝をS21と示す。
【0044】
また、このスタンパSTは、
図14に示すように、例えば、ウエハ基板Wに対応するように形成される。即ち、複数のチップ領域CH分の凸部(M10、M20、M21)に対応する溝(S10、S20、S21)がスタンパSTのUV硬化樹脂Rsの層に形成される。
【0045】
<光学素子形成工程>
次いで、上記スタンパSTを用いたナノインプリント法により光学素子(偏光フィルター)を形成する。
【0046】
まず、
図15に示すように、光透過性を有する基板1Sとして例えばガラス基板を準備する。この基板1Sは、例えば、略円形のウエハ状である。次いで、基板1S上に金属層(加工対象膜)MLとして例えばAl(アルミニウム)層をスパッタリング法などにより形成する。次いで、金属層ML上にレジスト樹脂RRを塗布する。レジスト樹脂としては、UV硬化樹脂を用いることができる。
【0047】
次いで、
図16に示すように、基板1Sの上部にスタンパSTを配置し、基板1Sの上面上にスタンパSTを押し付ける。これにより、スタンパSTの溝(S10、S20、S21)の内部にレジスト樹脂RRが充填される。この際、レジスト樹脂RRが精度良く溝(S10、S20、S21)の内部に充填されるように、レジスト樹脂RRの塗布量とスタンパSTの基板1S(レジスト樹脂RR)に対する押し圧を調整する。
【0048】
次いで、
図17に示すように、スタンパSTを介してレジスト樹脂RRにUV光(UV2)を照射することにより、レジスト樹脂RRを硬化させる。ここで、例えば、UV光(UV2)は、前述のUV光(UV1)より長波長側のUV光とする。このように、UV光(UV2)として、前述のUV光(UV1)の波長、即ち、スタンパSTの硬化波長(固化波長)を避けることにより、スタンパSTの変質を防止することができる。
【0049】
次いで、
図18に示すように、スタンパSTからレジスト樹脂RRを剥離する(離型処理)。これにより、レジスト樹脂RRにスタンパSTの溝(S10、S20、S21)の形状が転写される。即ち、溝(S10、S20、S21)に対応する凸部(レジストパターン)を有するレジスト樹脂RRが金属層ML上に形成される。この凸部(レジストパターン)溝のうち、溝S10に対応する凸部をRR10、溝S20に対応する凸部をRR20、溝S21に対応する凸部をRR21と示す(
図19)。
【0050】
次いで、
図20に示すように、加工されたレジスト樹脂RRをマスクとして、金属層(金属膜)MLをドライエッチングする。エッチングガスとしては、例えば、C1
2ガス(塩素ガス)、BCl
3ガス等、またはこれらの混合ガスを用いることができる。エッチングガスをイオン化して用いてもよい。このようなドライエッチングにより、レジスト樹脂RRの凸部(RR10、RR20、RR21)に対応した、金属層MLのパターンであるワイヤP10、突起部P20および突起部P21が形成される(
図21)。なお、このエッチング工程により、レジスト樹脂(凸部RR10、RR20、RR21)RRの上部が削れてもよい。
【0051】
次いで、金属層MLよりなるワイヤP10、突起部P20および突起部P21の上部に残存するレジスト樹脂(凸部RR10、RR20、RR21)RRをアッシングなどにより除去する(
図22)。例えば、アッシングガスとして、O
2(酸素)ガスを主成分としたガスを用いる。このアッシングガスをイオン化して用いてもよい。
【0052】
以上の工程により、ウエハ基板Wの複数のチップ領域CHに、それぞれ、ワイヤP10、突起部P20および突起部P21を形成することができる(
図7参照)。
【0053】
この後、ウエハ基板Wを、ダイシングライン(スクライブライン)DLに沿ってダイシング(切断、スクライブ)し、個片化(チップ化)する(
図7参照)。これにより、光学素子を形成することができる。
【0054】
このように、ナノインプリント法を用いることで、本実施の形態の光学素子を高いスループットで効率よく形成することができる。
【0055】
また、本実施の形態の光学素子においては、前述したとおり、複数のワイヤP10の端部を基板(チップ領域)1Sの端部から離間して配置することで、ワイヤP10の変形や欠けを防止することができる。特に、上記ダイシング工程において、ダイヤモンドカッターなどのダイシングソーによる応力がウエハ基板Wに加わる場合においても、複数のワイヤP10がダイシングソーにより変形したり欠けたりすることがない。
【0056】
また、本実施の形態の光学素子においては、ワイヤP10の端部と基板1Sの端部との間(周辺領域2A)に突起部(P20、P21)を設けてあるので、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入(浸水)を防止することができる。
【0057】
図23は、本実施の形態の比較例の光学素子を示す平面図である。また、
図24(A)および(B)は、本実施の形態の比較例の光学素子を示す斜視図である。
【0058】
図23に示す比較例の光学素子においては、二光束干渉露光法を用いてウエハ基板Wのほぼ全面に複数のワイヤP10が設けられている。二光束干渉露光法とは、二光束(レーザ光)をある角度を成すように交差させることにより交差部分に干渉縞を形成し、この干渉縞の光強度分布によってウエハ基板W上のフォトレジスト膜を露光する技術である。このような干渉縞を利用することにより微細な周期パタ−ンを比較的大きなウエハ基板Wの全面に形成することができる。
【0059】
しかしながら、このように、チップ領域CHを超えて延在するワイヤP10が形成されたウエハ基板Wをダイシングし、個片化した場合、
図24(A)に示すように、基板(チップ領域)1Sの端部において、ワイヤP10の側面(断面)が露出することとなる。また、場合によっては、
図24(B)に示すように、ダイシング時の応力により、ワイヤP10が欠け、基板(チップ領域)1Sの端部においてワイヤP10の欠損部が生じる。
【0060】
図25は、本発明者らの試作した比較例の光学素子のSEM(走査型電子顕微鏡;Scanning Electron Microscope)写真である。
図25に示すように、チップ領域CHを超えて延在するワイヤP10をダイシングした場合、ワイヤP10の切断部においてワイヤP10の変形や欠損が確認された。
【0061】
さらに、本発明者らの試作による比較例の光学素子を光学装置に適用したところ光学素子(偏光フィルター)の変質部が確認された。
図26は、本発明者らの試作した比較例の光学素子を示す図(写真)である。
図26(A)は、光学素子の表面写真である。
図26(B)は、変質の状態を模式的に示す平面図である。
図26(C)は、比較例の光学素子が組み込まれた光学装置(液晶プロジェクタ)の画面である。
【0062】
図26(A)に示すように、比較例の光学素子においては、ワイヤの延在方向(写真中の矢印方向)に変色部が確認できる。この変色の原因について検討したところ、
図26(B)に示す劣化メカニズムが考察できる。即ち、比較例の光学素子の構成においては、
図24(A)等に示すように、基板1Sの端部にワイヤP10が所定の間隔を置いて複数配置されているため、光学素子の端部に結露などにより付着した水分が毛細管現象によってワイヤP10の長手方向に広がるように拡散する。このような水分によりワイヤP10を構成する金属(例えば、Al)が腐食したものと考えられる。
【0063】
例えば、液晶プロジェクタなどの光学装置の内部に組み込まれた光学素子(偏光フィルター)に、上記のようなワイヤP10の腐食(変質)が生じると、画像の表示特性が劣化する。例えば、
図26(C)に示すように、ワイヤP10の変質部においては、消光機能が低下し、光を充分に消光できなくなっていることが確認できる。
【0064】
さらに、ワイヤP10の欠損部においては、ガラス基板(石英ガラス、光学ガラス)などの基材が露出することとなる(
図24(B)参照)。ガラスは一般に親水性を有し、金属(通常撥水性)より水分が付着しやすい。よって、このようなワイヤP10の欠損部は、上記毛細管現象による水分の吸収の起点部となり易い。このように、ワイヤP10の欠損部からは、水分が侵入する可能性が高くなる。なお、ワイヤP10の構成金属としてAlを用いた場合、Alの表面には、自然酸化膜であるAl
2O
3(酸化アルミニウム)が5nm以下の膜厚で形成され得る。このAl
2O
3は、親水性を有するため、ワイヤP10の構成金属としてAlを用いた場合には、さらに、水分が侵入する可能性が高くなる。
【0065】
これに対し、本実施の形態においては、前述したように、複数のワイヤP10の端部を基板(チップ領域)1Sの端部から離間して配置する、即ち、ワイヤP10をチップ領域CHを超えて延在させない構成とすることで、ワイヤP10の変形や欠けを防止することができる。特に、上記ダイシング工程において、ダイシングソーによる応力がウエハ基板Wに加わる場合においても、複数のワイヤP10がダイシングソーにより変形したり欠けたりすることがない。
【0066】
さらに、本実施の形態の光学素子においては、ワイヤP10の端部と基板1Sの端部との間(周辺領域2A)に突起部(P20、P21)を設けたので、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入(浸水)を防止することができる。即ち、ワイヤP10の端部を基板(チップ領域)1Sの端部から離間して配置することで、親水性の基板1Sの露出領域が大きくなっても、当該領域に、突起部(P20、P21)を設けることにより、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入(浸水)を防止することができる。
【0067】
加えて、本実施の形態の光学素子は、ナノインプリント法を用いることで、高いスループットで精度良くワイヤP10、突起部P20および突起部P21を形成することができる。
【0068】
図27は、本発明者らの試作による本実施の形態の光学素子のSEM写真である。ワイヤP10の高さ(厚さ)は150nm、ワイヤP10の幅D1は55nm、ワイヤP10間の間隔(スペースSの幅D2)は150nmとした(
図2参照)。
図27に示すように、ナノインプリント法を用いて高精度なパターン(ワイヤP10、突起部P20および突起部P21)を良好に形成できることが確認できる。なお、
図27のSEM写真においては、基板1Sを約15°傾斜させた状態で観察し、写真撮影を行った。よって、SEM写真の上部と下部にフォーカスがあっていない部分が見られるが、これはワイヤP10等の形成不良ではない。
【0069】
なお、本実施の形態においては、ワイヤグリッド領域1Aを囲むように、突起部(ガードリング)P21を設けたが、この突起部P21を省略してもよい(例えば、
図30参照)。
【0070】
なお、上記工程においては、ナノインプリント法を用いたが、ステッパを用いてレジスト樹脂(フォトレジスト)を露光・現像するフォトリソグラフィ法を用いてもよい。この場合、例えば、ワイヤP10、突起部P20、P21に対応するパターンが描画されたレチクルを金属層ML上のフォトレジストに露光転写する。この後、現像処理を行うことによりフォトレジストマスクを形成し、これをマスクとして金属層MLのエッチングを行う。
【0071】
なお、このフォトリソグラフィ法(非接触転写)と比較し、ナノインプリント法(接触転写)を用いた製造工程においては、比較的安価に光学素子を形成することができる点で有用である。
【0072】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、周辺領域2Aの突起部(P20、P21)の形成面積(形成領域)について説明する。
【0073】
図28は、本実施の形態の光学素子の製造工程を示す断面図である。実施の形態1において
図16および
図17等を参照しながら説明したように、レジスト樹脂RR上にスタンパSTを配置し、レジスト樹脂RRをスタンパSTの溝(S10、S20、S21)の内部に充填する。
【0074】
この際、
図28に示すように、スタンパSTの溝(S10、S20、S21)の内部には、その近傍に位置するレジスト樹脂RRが充填される。即ち、レジスト樹脂RRが、基板1Sの表面に沿って移動するレジスト流動現象が生じ、溝(S10、S20、S21)の内部に充填される。レジスト樹脂RRの移動距離は数μm〜数十μmであるため、ワイヤグリッド領域1Aおよび周辺領域2Aにおいて、溝(レジスト樹脂RRが移動して厚膜化する領域)とそれ以外の領域(レジスト樹脂RRが移動して薄膜化する領域)との面積比率が近い方が好ましい。
【0075】
言い換えれば、ワイヤグリッド領域1Aおよび周辺領域2Aにおいて、それぞれ溝(S10、S20、S21)の面積割合が近い方が、レジスト樹脂RRをバランス良く溝(S10、S20、S21)の内部に充填することができる。
【0076】
実施の形態1において詳細に説明したように、各溝(S10、S20、S21)は、ワイヤP10、突起部P20、突起部P21とそれぞれ対応する。
【0077】
よって、ワイヤグリッド領域1AにおけるワイヤP10の形成面積割合と、周辺領域2Aにおける突起部P20および突起部P21の形成面積割合とが近い方が好ましい。
【0078】
ワイヤグリッド領域1A中のワイヤP10の形成面積の割合(AR1=A
P10/A
1A)が、周辺領域2A中の突起部(P20、P21)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)と近い方が好ましい。
【0079】
具体的には、ワイヤグリッド領域1A中のワイヤP10の形成面積の割合(AR1=A
P10/A
1A)と、周辺領域2A中の突起部(P20、P21)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)とにおいて、AR2を0.8×AR1以上1.2×AR1以下(0.8AR1≦AR2≦1.2AR1)とすることが好ましい。また、ワイヤグリッド領域1A中のワイヤP10の形成面積の割合(AR1=A
P10/A
1A)と、周辺領域2A中の突起部(P20、P21)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)とをほぼ等しくすること(AR1≒AR2)がより好ましい。
【0080】
例えば、実施の形態1の
図5において、突起部P20の形状の一辺および突起部P21の幅を調整することで、AR2を、45%〜55%程度とすることができる。また、AR1は、25〜40%程度である。なお、本実施の形態において“形状”とは、上面からの平面視における形状を示すものとする。
【0081】
この実施の形態1の
図5においては、突起部P20を市松模様のような二次元の模様とすることによって、レジスト樹脂RRの移動距離を基板1Sの左右方向や上下方向に同程度に調整することができ、レジスト樹脂に対するパターン(二次元の模様)の転写精度を向上させることができる。
【0082】
ここで、AR2をさらに小さくし、よりAR1に近づけるために、突起部P20の形状を
図29に示す形状としてもよい。
図29(A)〜(C)は、本実施の形態の光学素子の周辺領域の突起部の形状を示す平面図である。
【0083】
例えば、
図29(A)に示すように、突起部P20の形状(上面からの平面視における形状)をH字状としてもよい。このように、
図5に示す突起部P20の形状(略正四角状)の一部を切り欠いた形状とすることで、周辺領域2A中の突起部(P20、P21)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)を小さくすることができる。また、
図29(B)に示すように、突起部P20の形状を、
図5に示す突起部P20の形状(略正四角状)の一辺に沿った切り欠き部(図中の白地部)を設けた形状(U字状)としてもよい。また、
図29(C)に示すように、突起部P20の形状を
図5に示す突起部P20の形状(略正四角状)の中央部に切り欠き部(図中の白地部)を設けた形状(枠形状)としてもよい。
【0084】
ここで、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界について説明する。
図30は、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界を説明するための平面図であり、
図5に示す突起部(ガードリング)P21を省略した図に対応する。
【0085】
この境界について、明確に限定する必要はなく、例えば、
図30中のラインaを境界としてもよい。即ち、ワイヤP10のy方向の端部を接続するXラインと、最も外側のワイヤP10にワイヤP10の間隔(スペース)を加えた位置(Yライン)とを上記境界としてもよい。
【0086】
また、
図30中のラインbを境界としてもよい。即ち、突起部P20のうち、最も内側に位置する突起部P20の端部を接続するXラインとYラインとを上記境界としてもよい。
【0087】
また、
図30中のラインcを境界としてもよい。即ち、上記ラインaとラインbとの中心線を上記境界としてもよい。
【0088】
このように、例えば、上記ラインa〜cのいずれかを境界とし、その内側をワイヤグリッド領域1Aとし、その外側(基板1Sまたはチップ領域CHの端部まで)を周辺領域2Aとして、AR1およびAR2を調整すればよい。
【0089】
このように、本実施の形態によれば、ワイヤグリッド領域1AにおけるワイヤP10の形成面積割合と、周辺領域2Aにおける突起部P20等の形成面積割合とを調整することで、精度良くワイヤP10や突起部P20等を形成することができる。即ち、スタンパSTの溝(S10、S20等)の内部にレジスト樹脂RRをバランス良く充填することができる。これにより、当該レジスト樹脂RRのパターン精度が向上し、さらに、金属層MLのエッチング精度が向上する。その結果、ワイヤP10や突起部P20等を精度良く形成することができる。
【0090】
(実施の形態3)
本実施の形態においては、周辺領域2Aの突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)およびレイアウト(配置)の例について説明する。
【0091】
図31(A)および(B)は、本実施の形態の光学素子の周辺領域の第1例および第2例を示す平面図である。なお、図中の破線は、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界線である。
【0092】
図31(A)に示すように、本実施の形態の第1例においては、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略正方形状としている。ここでは、
図5に示す実施の形態1と同様に、突起部P20が互い違いに配置(交互配置、千鳥配置、市松模様配置)されている。しかしながら、
図5に示す場合は、近接する突起部P20の端部が重なるように配置されているが、
図31(A)においては、近接する突起部P20の端部間に隙間が存在する。
【0093】
このように突起部P20を市松模様のような二次元の模様とすることによって、レジスト樹脂RRの移動距離を基板1Sの左右方向や上下方向に同程度に調整することができる。その結果、レジスト樹脂に対するパターン(二次元の模様)の転写精度を向上させることができる。また、突起部(P20)の形状を略正方形状とすることで、スタンパを比較的容易に形成することができる。
【0094】
図31(B)に示す本実施の形態の第2例においては、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略長方形状(略矩形状)としている。この場合、突起部(P20)の形状の長辺が、ワイヤP10の延在方向に対して交差する方向にレイアウトされている。この第2例においても、突起部P20が互い違いに配置(交互配置、千鳥配置、市松模様配置)されている。また、近接する突起部P20の端部間に隙間が設けられている。
【0095】
このように、突起部(P20)の形状を長方形状とし、その長辺をワイヤP10の延在方向に対して交差する方向にレイアウトすることで、ワイヤP10間への水分の進入(浸水)を効果的に低減することができる。また、突起部(P20)の形状を略長方形状とすることで、スタンパを比較的容易に形成することができる。
【0096】
図32(A)および(B)は、本実施の形態の光学素子の周辺領域の第3例および第4例を示す平面図である。なお、図中の破線は、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界線である。
【0097】
図32(A)に示すように、本実施の形態の第3例においては、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略円形状としている。この第3例においても、突起部P20が互い違いに配置(交互配置、千鳥配置、市松模様配置)されている。また、近接する突起部P20の端部間に隙間が存在する。なお、突起部(P20)の形状を楕円形状としてもよい。
【0098】
このように、突起部(P20)の形状を円または楕円形状とした場合、溝の内部に進入せず基板1S上に流動する余剰となったレジスト樹脂の流動抵抗が小さくなる。このため、溝以外の領域(レジスト樹脂RRが移動して薄膜化する領域)に残存するレジスト樹脂の膜厚の均一性が高まり、結果として、レジスト樹脂RRの高低差を均一にすることができる。
【0099】
図32(B)に示す本実施の形態の第4例においては、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略正三角形状としている。この場合、突起部(P20)の形状の一辺が、ワイヤP10の延在方向に対して交差する方向にレイアウトされている。この第4例においても、突起部P20が互い違いに配置(交互配置、千鳥配置、市松模様配置)されている。また、近接する突起部P20の端部間に隙間が設けられている。
【0100】
このように、突起部(P20)の形状を三角形状とし、その一辺をワイヤP10の延在方向に対して交差する方向にレイアウトすることで、ワイヤP10間への水分の進入(浸水)を効果的に低減することができる。また、突起部(P20)の形状を三角形状とすることで、ワイヤグリッド領域1Aから基板1Sの端部に向かってのレジスト樹脂の流動性が高まる。その結果、レジスト樹脂RRの高低差を均一にすることができる。
【0101】
以上の第1例〜第4例に示すように、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)は、種々変形可能である。また、突起部(P20)の端部間には、上記にように隙間があってもよい。また、突起部(P20)の端部が接触または接続するようにレイアウトしてもよい(
図5参照)。
【0102】
突起部(P20)の端部が接触または接続するように配置されている方が、水分の進入に対する防御性は高まる。一方、突起部(P20)の端部間に、隙間があるレイアウト(配置)によれば、隙間の大きさを調整することで、周辺領域2A中の突起部(P20等)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)を調整し易くなる。
【0103】
図33(A)および(B)は、本実施の形態の光学素子の周辺領域の第5例および第6例を示す平面図である。なお、図中の破線は、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界線である。
【0104】
図33(A)に示すように、本実施の形態の第5例においては、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略正方形状としている。この第5例においては、ワイヤグリッド領域1Aを囲うように三重に突起部(P20)の列が配置されている。この三重の列のうち、最外周の列を構成する突起部(P20A)から最内周の列を構成する突起部(P20C)にかけて、突起部(P20)の大きさ(略正方形状の一辺)が順に小さくなるようにレイアウトされている。この場合、ワイヤグリッド領域1Aから基板1Sの端部に向かってのレジスト樹脂の流動性が高まり、レジスト樹脂RRの高低差を均一にすることができる。
【0105】
図33(B)に示す第6例においては、第5例と同様に、突起部(P20)の形状(上面からの平面視における形状)を略正方形状とし、ワイヤグリッド領域1Aを囲うように三重に突起部(P20)の列が配置されている。この第6例においては、第5例とは逆に、この三重の列のうち、最外周の列を構成する突起部(P20a)から最内周の列を構成する突起部(P20c)にかけて、突起部(P20)の大きさ(略正方形状の一辺)が順に大きくなるようにレイアウトされている。この場合、防水機能を向上させることができる。
【0106】
図34は、本実施の形態の光学素子の周辺領域の第7例を示す平面図である。なお、図中の破線は、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとの境界線である。
【0107】
図34に示すように、本実施の形態の第7例においては、ワイヤグリッド領域1Aを囲うように三重の突起部(ガードリング)20Gが配置されている。この三重の突起部(ガードリング)20Gの各幅はPD1であり、突起部(ガードリング)20G間のスペースはPD2である。
【0108】
このように、ワイヤグリッド領域1Aを囲う突起部(ガードリング)20Gを設けてもよい。この突起部(ガードリング)20Gにより、ワイヤグリッド領域1Aへの水分の進入(浸水)を防止することができる。また、突起部(ガードリング)20Gを多重化することで水分の進入の防止機能を向上させることができる。
【0109】
また、この場合、突起部(ガードリング)20Gの幅PD1および突起部(ガードリング)20G間のスペースPD2を調整することで、周辺領域2A中の突起部(20G)の形成面積の割合(AR2)を容易に調整することができる。
【0110】
なお、上記第1例〜第7例は一例にすぎず、その形状やレイアウトを種々変更可能であることはいうまでもない。また、第1例〜第6例の構成に、第7例や実施の形態1(
図6)の突起部(ガードリング)P21を組み合わせてもよい。
【0111】
このように、一次元のパターンである突起部(ガードリング)P21を組み合わせることで、防水効果をさらに向上させることができる。
【0112】
(実施の形態4)
実施の形態2においては、ワイヤグリッド領域1A中のワイヤP10の形成面積の割合(AR1=A
P10/A
1A)および周辺領域2A中の突起部(P20、P21)の形成面積の割合(AR2=A
P2X/A
2A)を調整した。これに対し、本実施の形態においては、溝(S10、S20等)の深さを調整することにより、レジスト樹脂RRをバランス良く溝(S10、S20等)の内部に充填する。
【0113】
図35〜
図37は、本実施の形態の光学素子の製造工程を示す要部断面図である。要部断面図においては、説明を判りやすくするため、ワイヤグリッド領域1Aおよびその両側の周辺領域2Aを模式的に示してある。
【0114】
図35に示すように、レジスト樹脂RR上にスタンパSTを配置し、レジスト樹脂RRをスタンパSTの溝(S10、S20)の内部に充填した後、スタンパSTを介してレジスト樹脂RRにUV光を照射することにより、レジスト樹脂RRを硬化させる。
【0115】
この際、実施の形態2で説明したように、スタンパSTの溝(S10、S20)の内部には、その近傍に位置するレジスト樹脂RRが充填される。そこで、本実施の形態においては、スタンパSTの溝S10の深さDS10より、溝S20の深さDS20を浅く設定する(DS10>DS20)。
【0116】
このように、本実施の形態においては、溝S20の深さDS20を浅く設定し、溝S20の総体積をより小さくすることで、レジスト樹脂RRをバランス良く溝(S10、S20)の内部に充填することができる。
【0117】
例えば、実施の形態2の
図30において、例えば、AR2が50%程度となり、AR1が、例えば、35%程度である場合について検討する。このような場合において、例えば、スタンパSTの溝S10の深さDS10の80%程度となるように溝S20の深さDS20を設定する(0.8×DS10=DS20)。これにより、ワイヤグリッド領域1Aの面積(A
1A)に対する溝S10の総体積V
P10の割合(VA1=V
P10/A
1A)と、周辺領域2Aの面積(A
2A)に対する溝S20の総体積VP
20の割合(VA2=V
P20/A
2A)とをより近くすることができる。言い換えれば、ワイヤグリッド領域1Aへのレジスト樹脂RRの塗布量(V
1A)に対する溝S10の総体積V
P10の割合(V1=V
P10/V
1A)と、周辺領域2Aへのレジスト樹脂RRの塗布量(V
2A)に対する溝S20の総体積V
P20の割合(V2=V
P20/V
2A)とをより近くすることができる。これにより、スタンパSTの溝(S10、S20)の内部にレジスト樹脂RRをバランス良く充填することができる。その結果、当該レジスト樹脂RRのパターン精度が向上し、さらに、金属層MLのエッチング精度が向上する。よって、ワイヤP10や突起部P20を精度良く形成することができる。
【0118】
なお、実施の形態1(
図5)に示すように、突起部P20に加え突起部P21を形成する場合には、周辺領域2Aの溝S20の総体積と溝S21の体積を加えたもの(VP
2X)の割合を用いればよい。
【0119】
次いで、
図36に示すように、スタンパSTからレジスト樹脂RRを剥離する(離型処理)。この際、スタンパSTの溝S10に対応する凸部(レジストパターン)RR10の高さ(膜厚)HRR20が、溝S20に対応する凸部RR20の高さHRR10より低くなってもよい。
【0120】
次いで、加工されたレジスト樹脂RRをマスクとして、金属層MLをドライエッチングし(
図37)、さらに、実施の形態1と同様に、残存するレジスト樹脂RRをアッシングなどにより除去する。この後、ウエハ基板Wを、ダイシングライン(スクライブライン)DLに沿ってダイシング(切断、スクライブ)し、個片化(チップ化)する(
図7参照)。これにより、光学素子を形成することができる。
【0121】
ここで、上記エッチングの際、金属層ML上のレジスト樹脂RRの残存膜厚に対応して、ワイヤP10の高さ(膜厚)HP10より突起部P20の高さHP20が低くなってもよい(
図37参照)。言い換えれば、突起部P20の表面が、ワイヤP10の表面より低くてもよい(
図37)。
【0122】
このように、ワイヤグリッド領域1AのワイヤP10の高さと、周辺領域2Aの突起部P20の高さに差が生じることにより、ワイヤグリッド領域1Aの認識がし易くなる。例えば、ウエハ基板Wのダイシング工程における位置合わせの際、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとのコントラストが鮮明となり、例えば、ワイヤグリッド領域1A間の中心線をダイシングライン(スクライブライン)DLとして認識しやすくなる。
【0123】
このようなダイシング工程以外の工程においても、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとのコントラスト差を利用して、これらの境界部に基づきウエハ基板Wの位置合わせを容易に行うことができる。
【0124】
(実施の形態5)
実施の形態4においては、ワイヤP10の高さ(膜厚)HP10より突起部P20の高さHP20が低くなる場合(
図30参照)について説明したが、本実施の形態においては、ワイヤP10の高さ(膜厚)HP10より突起部P20の高さHP20が高くなる場合について説明する。
【0125】
図38〜
図41は、本実施の形態の光学素子の製造工程を示す要部断面図である。要部断面図においては、説明を判りやすくするため、ワイヤグリッド領域1Aおよびその両側の周辺領域2Aを模式的に示してある。
【0126】
図38に示すように、レジスト樹脂RR上にスタンパSTを配置し、レジスト樹脂RRをスタンパSTの溝(S10、S20)の内部に充填した後、スタンパSTを介してレジスト樹脂RRにUV光を照射することにより、レジスト樹脂RRを硬化させる。
【0127】
ここでは、実施の形態1(
図16等)と同様に、スタンパSTの溝S10の深さDS10は、溝S20の深さDS20と同程度である(DS10=DS20)。
【0128】
次いで、
図39に示すように、スタンパSTからレジスト樹脂RRを剥離する(離型処理)。この際、実施の形態1(
図18等)と同様に、スタンパSTの溝S10に対応する凸部(レジストパターン)RR10の高さ(膜厚)HRR10は、溝S20に対応する凸部RR20の高さHRR20と同程度となる。
【0129】
次いで、加工されたレジスト樹脂RRをマスクとして、金属層MLをドライエッチングし(
図40)、さらに、オーバーエッチングする。ここでのオーバーエッチングは、金属層ML(ワイヤP10および突起部P20)上のレジスト樹脂RR(凸部RR10、RR20)がエッチングにより除去された後も継続して行われるエッチングをいう。このオーバーエッチングの際には、マスクとなるレジスト樹脂RR(凸部RR10、RR20)が除去されているため、ワイヤP10および突起部P20の上部がエッチングされる。この際、ワイヤP10の幅(D1)が突起部P20の幅(一辺)より小さいため、エッチングされ易い。このため、ワイヤP10においては、その上部の後退量が大きくなり、ワイヤP10の高さ(膜厚)HP10より突起部P20の高さHP20が高くなる。
【0130】
このようにワイヤP10の高さ(膜厚)HP10より突起部P20の高さHP20が高くなってもよい(
図41)。言い換えれば、ワイヤP10の表面が、突起部P20の表面より低くてもよい(
図41)。
【0131】
この場合も、ワイヤグリッド領域1AのワイヤP10の高さと、周辺領域2Aの突起部P20の高さに差が生じることとなる。よって、実施の形態6の場合と同様に、ワイヤグリッド領域1Aと周辺領域2Aとのコントラスト差を利用して、これらの境界部に基づきウエハ基板Wの位置合わせを容易に行うことができる。
【0132】
(実施の形態6)
上記実施の形態1〜5において説明した光学素子(偏光フィルター)の適用例に制限はなく、種々の光学装置に適用可能である。このうち、本実施の形態においては、光学素子を用いた光学装置として、画像投影装置の1つである液晶プロジェクタを例に挙げて説明する。
【0133】
図42は、本実施の形態の液晶プロジェクタの光学系を示す模式図である。
図42に示すように、本実施の形態の液晶プロジェクタは、光源LS、導波光学系LGS、ダイクロイックミラーDM(B)、DM(G)、反射ミラーMR(R)、MR(B)、液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)、偏光フィルターWG1(G)、WG1(B)、WG1(R)、WG2(G)、WG2(B)、WG2(R)および投影レンズLENを有している。
【0134】
光源LSは、ハロゲンランプなどから構成され、青色光と緑色光と赤色光とを含む白色光を射出するようになっている。そして、導波光学系LGSは、光源LSから射出された光分布の一様化やコリメートなどを実施するように構成されている。
【0135】
ダイクロイックミラーDM(B)は、青色光に対応した波長の光を反射し、その他の緑色光や赤色光を透過するように構成されている。同様に、ダイクロイックミラーDM(G)は、緑色光に対応した波長の光を反射し、その他の赤色光を透過するように構成されている。また、反射ミラーMR(R)は、赤色光を反射するように構成され、反射ミラーMR(B)は、青色光を反射するように構成されている。
【0136】
液晶パネルLCP(B)、LCP(G)およびLCP(R)は、それぞれ画像情報に応じて偏光光の強度変調を行うように構成されている。液晶パネルLCP(B)、LCP(G)、LCP(R)は、液晶パネルを制御する制御回路(図示せず)と電気的に接続されており、この制御回路からの制御信号に基づいて、液晶パネルに印加される電圧が制御されるようになっている。
【0137】
偏光フィルターWG1(G)、WG2(G)は、緑色用の偏光フィルターであり、緑色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成されている。同様に、偏光フィルターWG1(B)、WG2(B)は、青色用の偏光フィルターであり、青色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成され、偏光フィルターWG1(R)、WG2(R)は、赤色用の偏光フィルターであり、赤色光に含まれる特定の偏光光だけを選択透過するように構成されている。なお、投影レンズLENは、画像を投影するためのレンズである。
【0138】
次いで、本実施の形態の液晶プロジェクタの動作例について説明する。
図42に示すハロゲンランプなどより構成される光源LSから青色光と緑色光と赤色光を含む白色光が射出される。そして、光源LSから射出された白色光は、導波光学系LGSに入射されることにより、白色光に対して光分布の一様化やコリメートなどが実施される。その後、導波光学系LGSを射出した白色光は、最初にダイクロイックミラーDM(B)に入射する。ダイクロイックミラーDM(B)では、白色光に含まれる青色光だけが反射され、緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(B)を透過する。
【0139】
ダイクロイックミラーDM(B)を透過した緑色光と赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)に入射される。ダイクロイックミラーDM(G)では、緑色光だけが反射され、赤色光は、ダイクロイックミラーDM(G)を透過する。このようにして、白色光から青色光と緑色光と赤色光に分離することができる。
【0140】
続いて、分離された青色光は、反射ミラーMR(B)により反射された後、偏光フィルターWG1(B)に入射され、青色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(B)に入射される。液晶パネルLCP(B)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行われる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(B)から射出され、偏光フィルターWG2(B)に入射された後、偏光フィルターWG2(B)から射出される。
【0141】
同様に、分離された緑色光は、偏光フィルターWG1(G)に入射され、緑色光に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(G)に入射される。液晶パネルLCP(G)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行われる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(G)から射出され、偏光フィルターWG2(G)に入射された後、偏光フィルターWG2(G)から射出される。
【0142】
また、同様に、分離された赤色光は、反射ミラーMR(R)により反射された後、偏光フィルターWG1(R)に入射され、赤色に含まれる特定の偏光光が選択透過される。そして、選択透過された偏光光は、液晶パネルLCP(R)に入射される。液晶パネルLCP(R)では、制御信号に基づいて、入射した偏光光の強度変調が行われる。その後、強度変調された偏光光は、液晶パネルLCP(R)から射出され、偏光フィルターWG2(R)に入射された後、偏光フィルターWG2(R)から射出される。
【0143】
その後、偏光フィルターWG2(B)から射出された偏光光(青色)と、偏光フィルターWG2(G)から射出された偏光光(緑色)と、偏光フィルターWG2(R)から射出された偏光光(赤色)とが合波され、投影レンズLENを介して、スクリーン(図示せず)に投影される。このようにして、画像を投影することができる。
【0144】
上記偏光フィルターWG1(G)、WG1(B)、WG1(R)、WG2(G)、WG2(B)、WG2(R)として、例えば、実施の形態1〜5で説明した光学素子(偏光フィルター)を用いることにより、液晶プロジェクタの性能を向上させることができる。具体的には、偏光フィルターに対し水分の進入によるワイヤ(P10)の変質を低減することができ、液晶プロジェクタの表示画像を向上させることができる。例えば、
図26(C)を参照しながら説明した消光機能の低下を抑制することができる。
【0145】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0146】
例えば、上記実施の形態1等においては、ライン状のワイヤP10が所定の間隔(スペース)を置いて繰り返し配置された、いわゆる“ワイヤグリッド(金属格子)”を例に説明したが、ワイヤP10の形状はこれに限定されるものではない。
図43(A)〜(C)は、ワイヤの周期構造例を示す平面図である。
図43(A)は、上記ワイヤグリッド構造を示す平面図である。
図43(B)および(C)は、ウォブル・ワイヤ(wobble wire)構造を示す平面図である。
図43(B)および(C)に示すように、ワイヤP10が直線状のみならず波線状(ウォブル状)であってもよい。また、ワイヤP10間の間隔は、
図43(A)および(B)に示すようにほぼ一定であってもよく、また、
図43(C)に示すように、ワイヤP10間の間隔が変化してもよい。
【0147】
また、上記実施の形態6においては、液晶プロジェクタ等の表示装置を例に説明したが、この他、光ヘッドや光通信用の送受信機などの光学装置にも上記実施の形態1〜5において説明した光学素子(偏光フィルター)を適用することができる。
【0148】
また、上記実施の形態においては、可視光から近赤外線光に対応する光学素子や光学装置を前提に説明したが、このような一般的な光のみならず、マクスウェル方程式に従う電磁波であれば、本願発明の技術的思想を同様に適用することができる。具体的には、77GHzの無線デバイスでは、電磁波(光)の波長は約4mmであり、このような電磁波を扱うデバイスに対しても上記実施の形態の光学素子(反射型偏光板)を光学部品として適用することができる。この場合、上記波長よりも小さなピッチでワイヤ(ワイヤグリッド)を配置し、上記実施の形態のように周辺領域に突起部(P20等)を設ける。このような反射型偏光板の凹凸(ワイヤや突起部など)は、例えば、プレス加工や研削加工などを用いて形成することができる。