(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248364
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】薬物送達のための新規な生分解性ポリエステルアミドコポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 69/44 20060101AFI20171211BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20171211BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20171211BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20171211BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20171211BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20171211BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20171211BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20171211BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20171211BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
C08G69/44
A61K9/107
A61K9/70
A61K47/34
A61P9/00
A61P27/02
A61P29/00
A61P35/00
A61P43/00 171
C08L101/16
【請求項の数】24
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-223372(P2016-223372)
(22)【出願日】2016年11月16日
(62)【分割の表示】特願2014-516390(P2014-516390)の分割
【原出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2017-75320(P2017-75320A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2016年12月16日
(31)【優先権主張番号】11171191.7
(32)【優先日】2011年6月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ミホヴ, ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ドラーイスマ, ガイ
【審査官】
松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−507600(JP,A)
【文献】
国際公開第2002/018477(WO,A1)
【文献】
特表2009−525342(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/045443(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0057024(US,A1)
【文献】
特表2009−545516(JP,A)
【文献】
特表2009−518289(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0292476(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0134332(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第101168595(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1837259(CN,A)
【文献】
特開平11−240948(JP,A)
【文献】
特開2005−139139(JP,A)
【文献】
M. E. Eccleston, M. Kuiper, F. M. Gilchrist, N. K. H. Slater,pH-responsive pseudo-peptides for cell membrane disruption,Journal of Controlled Release,Elsevier Science Ireland Ltd.,2000年11月 3日,第69巻第2号,第297頁−第307頁
【文献】
M. E. Eccleston, N. K. H. Slater, B. J. Tighe,Synthetic routes to responsive polymers; co-polycondensation of tri-functional amino acids with,Reactive & Functional Polymers,Elsevier Science B.V.,1999年11月15日,第42巻第2号,第147頁−第161頁
【文献】
Sandrine Gautier, Mahfoud Boustta, Michel Vert,Alkylated poly(L-lysine citramide) as models to investigate the ability of amphiphilic macromole,Journal of Controlled Release,Elsevier Science Ireland Ltd.,1999年 8月 5日,第60巻第2−3号,第235頁−第247頁
【文献】
青柳寿枝,古川芳子,磯脇明治,東條角治,眼内埋め込み型生分解性ポリマー製剤からの薬物放出モデル,あたらしい眼科,日本,株式会社メディカル葵,1998年,第15巻第7号,第1049頁−第1052頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 69/00 − 69/50
C08L 101/16
A61K 9/00 − 9/72
A61K 47/00 − 47/48
A61L 15/00 − 15/16
A61L 15/18
A61L 15/20
A61L 15/22
A61L 15/24
A61L 15/26
A61L 15/28
A61L 15/30
A61L 15/32
A61L 15/34
A61L 15/36
A61L 15/38
A61L 15/40
A61L 15/42
A61L 15/44
A61L 15/46
A61L 15/48
A61L 15/50
A61L 15/52
A61L 15/54
A61L 15/56
A61L 15/58
A61L 15/58
A61L 15/60
A61L 15/62
A61L 15/64
A61L 17/00 − 33/00
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(IV)
【化1】
による生分解性ポリエステルアミドコポリマー(PEA)であって、
式中、
m+pは0.9〜0.1であり、qは0.1〜0.9であり、
m+p+q=1であり、ただしmまたはpは0であることができ、
nは5〜300であり;
m単位、p単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
R
1は独立して、(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレン、−(R
9−CO−O−R
10−O−CO−R
9)−、−CHR
11−O−CO−R
12−COOCHR
11−およびその組み合わせからなる群から選択され;
単一主鎖単位mまたはpにおけるR
3およびR
4はそれぞれ独立して、水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニル、(C
6〜C
10)アリール、−(CH
2)SH、−(CH
2)
2S(CH
3)、−CH
2OH、−CH(OH)CH
3、−(CH
2)
4NH
3+、−(CH
2)
3NHC(=NH
2+)NH
2、−CH
2COOH、−CH
2−CO−NH
2、−CH
2CH
2−CO−NH
2、−CH
2CH
2COOH、CH
3−CH
2−CH(CH
3)−、(CH
3)
2−CH−CH
2−、H
2N−(CH
2)
4−、Ph−CH
2−、CH
2=CH−CH
2−、HO−p−Ph−CH
2−、(CH
3)
2−CH−、Ph−NH−、NH
2−(CH
2)
3−CH
2−、NH
2−CH=N−CH=CH−CH
2−からなる群から選択され;
R
5は、(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレン、アルキルオキシまたはオリゴエチレングリコールからなる群から選択され、
R
6は、構造式(III);
【化2】
の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択され、
R
7は、(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群から選択され、
R
8は−(CH
2)
4−であり;
R
9またはR
10は独立して、C
2〜C
12アルキレンまたはC
2〜C
12アルケニレンから選択され、
R
11またはR
12は独立して、H、メチレン、C
2〜C
12アルキレンまたはC
2〜C
12アルケニレンから選択され、
aは少なくとも0.05であり、bは少なくとも0.05であり、a+b=1であることを特徴とする、生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項2】
aが少なくとも0.15である、請求項1に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項3】
aが少なくとも0.5である、請求項1または2に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項4】
aが少なくとも0.8である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項5】
p=0およびm+q=1、m=0.75であり、
aは0.5であり、a+b=1であり、
m単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
R1は−(CH2)8−であり、R3は(CH3)2−CH−CH2−であり、R5はヘキシルであり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−である、請求項1に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項6】
m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、
aは0.5であり、a+b=1であり、
m単位、p単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
R1は−(CH2)8−であり、R3およびR4はそれぞれ、(CH3)2−CH−CH2−であり、R5は(C2〜C20)アルキレンであり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、
R6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択される、請求項1に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項7】
m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、
a=0.75、a+b=1であり、
m単位、p単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
R1は−(CH2)8−であり、R4は(CH3)2−CH−CH2−であり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、
R6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択される、請求項1に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項8】
m+p+q=1、q=0.1、p=0.30およびm=0.6であり、
aは0.5であり、a+b=1であり、
m単位、p単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
R1は−(CH2)4−であり、R3およびR4はそれぞれ、(CH3)2−CH−CH2−であり、R7はベンジルであり、R8は−(CH2)4−であり、R5は(C2〜C20)アルキレンであり、
R6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択される、請求項1に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項9】
R1は独立して、(C2〜C20)アルキレンから選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項10】
R5は(C2〜C20)アルキレンである、請求項1〜4および7のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項11】
標準物質としてポリスチレンを使用してTHF中でGPCによって測定される数平均分子量(Mn)が、15000〜100000ダルトンである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項12】
標準物質としてポリスチレンを使用してTHF中でGPCによって測定される数平均分子量(Mn)が、30000〜80000ダルトンである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマー。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマーと、生理活性物質と、を含む組成物。
【請求項14】
前記生理活性物質が小分子薬物である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記生理活性物質が、眼科学における小分子薬物である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記生理活性物質を溶媒に溶解するステップ、
前記生分解性ポリエステルアミドコポリマーを溶媒に溶解するステップ、および
前記溶媒を蒸発させるステップ
を含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む、物品。
【請求項18】
生理活性物質をさらに含む、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記生理活性物質が小分子薬物である、請求項18に記載の物品。
【請求項20】
前記生理活性物質が、眼科学における小分子薬物である、請求項18に記載の物品。
【請求項21】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の組成物を含む、物品。
【請求項22】
フィルム、コーティングまたはミセルである、請求項17〜21のいずれか一項に記載の物品。
【請求項23】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の組成物を含むデバイスであって、カテーテル、ステント、ロッドまたはインプラントである、デバイス。
【請求項24】
請求項17〜22のいずれか一項に記載の物品を含むデバイスであって、カテーテル、ステント、ロッドまたはインプラントである、デバイス。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、新規な生分解性ポリエステルアミドコポリマーに関する。本発明は、医療分野で使用される、特に薬物送達で使用されるポリエステルアミドコポリマーにも関する。
【0002】
生分解性ポリエステルアミドは当技術分野で公知であり、特にα−アミノ酸−ジオール−ジエステルをベースとするポリエステルアミド(PEA)は、G.Tsitlanadze,et al.J.Biomater.Sci.Polym.Edn.(2004)15:1−24から知られている。これらのポリエステルアミドは、その合成中に構成単位における3つの成分:天然アミノ酸、したがって疎水性αアミノ酸、非毒性脂肪酸ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸を変えることによって調節することができる、様々な物理的性質および機械的性質ならびに生分解性プロファイルを提供する。
【0003】
国際公開第2002/18477号パンフレットには具体的に、さらにPEA−Iとも呼ばれる、式I
【化1】
のα−アミノ酸−ジオール−ジエステルをベースとするポリエステルアミド(PEA)コポリマーが言及されており、
式中、
− mは0.1〜0.9であり;pは0.9〜0.1であり;nは50〜150であり;
− R
1はそれぞれ独立して、(C
1〜C
20)アルキレンであり;
− R
2はそれぞれ独立して、水素または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであり;
− R
3はそれぞれ独立して、水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニル、または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであり;
− R
4はそれぞれ独立して、(C
2〜C
20)アルキレンである。
【0004】
PEA−Iは、脂肪族ジカルボン酸およびL−リジンに基づくp単位と共重合された、αアミノ酸、ジオール、および脂肪族ジカルボン酸に基づくm単位を含むランダムコポリマーである。アミノ酸L−リジンにおけるR
2は、H(以降、PEA−I−Hと呼ばれる)または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルのいずれかであり、ベンジルが最も好ましい。PEA−IのL−リジンにおけるR
2がベンジルを含む場合には、さらに(PEA−I−Bz)と呼ばれる。
【0005】
PEA−I−Hは高い膨潤プロファイルを示し、その結果、急速に分解し、約24〜48時間以内に生理活性物質が急速にバースト放出することが認められている。これらの特性によって、薬物送達において可能性を有する材料として、PEA−I−Hポリマーの関心が下がっている。PEA−I−Hは、例えば生体外で非常に速く酵素分解し、1週間で完全に分解することも確認されている。一方、PEA−I−Bzは、長時間にわたって生理活性物質をより持続して放出することが確認されている。さらに、たとえ膨潤性があったとしても、軽微な膨潤性を示す。PEA−I−Bzはゆっくりと酵素分解し、ポリマーの生体内での分解は、投与部位、組織反応および研究モデルの健康状態にかなり依存する。しかしながら、PEA−I−Bzは、酵素の非存在下にて加水分解する能力を欠いており、そのため、ポリマーの分解が遅すぎるか、または不完全になり得る。
【0006】
同じ欠点が、2つのビス−(aアミノ酸)をベースとするジオールジエステル内に少なくとも2つの直鎖状飽和または不飽和脂肪族ジオール残基を含む、式IIによる先行技術のPEAランダムコポリマーの別の種類に当てはまると思われる。これらのコポリマーは、例えば国際公開第2008/0299174号パンフレットに開示されている。
【化2】
【0007】
上記のポリエステルアミドコポリマーの好ましい実施形態において、mは0.01〜0.99であり;pは0.2〜3であり、qは0.10〜1.00であり、nは5〜100であり;R
1は−(CH2)8であり;主鎖単位mおよびpにおけるR
3およびR
4はロイシンであり、− R
5はヘキサンであり、R
6は、構造式(III):
【化3】
の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトール二環式断片であり、
R
7は、Hまたはベンジル基から選択されてもよく、R
8は−(CH2)4−である。R
7がHである場合には、このポリマーはさらに、PEA−III−Hとして示され、R
7がベンジルである場合には、このポリマーはさらに、PEA−III−Bzとして示される。
【0008】
PEA−I−H、PEA−I−Bz、PEA−III−HおよびPEA−III−Bzの上記の欠点のために、これらの先行技術のポリエステルアミドは、一貫性があり、かつ信頼できる手法で生理活性物質を放出する特性を完全には提供していないと思われる。さらに、そのポリエステルアミドは、十分な分解プロファイルを提供しない。分解が速すぎる、または遅すぎるか、あるいは酵素的にのみ分解し、加水分解的に分解しない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記の欠点を解消する、新規な生分解性ポリエステルアミドランダムコポリマーを提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、制御可能な方法で徐放を示す、新規な生分解性ポリエステルアミドコポリマーを提供することである、
【0011】
本発明の他の目的は、酵素的に生じる表面侵食分解に加えて、加水分解的バルク侵食メカニズムを介した分解も示す、新規な生分解性ポリエステルアミドコポリマーを提供することである、
【0012】
本発明の目的は、構造式(IV)
【化4】
による生分解性ポリ(エステルアミド)ランダムコポリマー(PEA)を提供することによって達成され、
式中、
− m+pは0.9〜0.1であり、qは0.1〜0.9であり
− m+p+q=1であり、ただしmまたはpは0であることができ、
− nは5〜300であり;
− R
1は独立して、(C
2−C
20)アルキレン、(C
2−C
20)アルケニレン、−(R
9−CO−O−R
10−O−CO−R
9)−、−CHR
11−O−CO−R
12−COOCR
11−およびその組み合わせからなる群から選択され;
− 単一主鎖単位mまたはpにおけるR
3およびR
4はそれぞれ独立して、水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニル、(C
6〜C
10)アリール、(C
1〜C
6)アルキル、−(CH
2)SH、−(CH
2)
2S(CH
3)、−CH
2OH、−CH(OH)CH
3、−(CH
2)
4NH
3+、−−(CH
2)
3NHC(=NH
2+)NH
2、−CH
2COOH、−(CH
2)COOH、−CH
2−CO−NH
2、−CH
2CH
2−CO−NH
2、−CH
2CH
2COOH、CH
3−CH
2−CH(CH
3)−、(CH
3)
2−CH−CH
2−、H
2N−(CH
2)
4−、Ph−CH
2−、CH=C−CH
2−、HO−p−Ph−CH
2−、(CH
3)
2−CH−、Ph−NH−、
【化5】
からなる群から選択され;
− R
5は、(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレン、アルキルオキシまたはオリゴエチレングリコールからなる群から選択され、
− R
6は、構造式(III);
【化6】
の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択され、
− R
7は、(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群から選択され、
− R
8は−(CH
2)
4−であり;
− R
9またはR
10は独立して、C
2〜C
12アルキレンまたはC
2〜C
12アルケニレンから選択され、
− R
11またはR
12は独立して、H、メチル、C
2〜C
12アルキレンまたはC
2〜C
12アルケニレンから選択され、ただしaは少なくとも0.05であり、bは少なくとも0.05であり、a+b=1である。
【0013】
驚くべきことに、L−リジン−HとL−リジン−ベンジルのどちらも存在する、式IVのポリエステルアミド(以降、PEA−H/Bzと呼ばれる)は、膨潤、放出および分解特性に関して意外な特性を提供することが判明した。PEA−H/Bzコポリマーは生理活性物質の徐放を提供し、先行技術のポリエステルアミドと対照的に加水分解プロファイルを提供することが判明した。
【0014】
PEA−I−Hの膨潤が非常に高く、PEA−I−Bzの膨潤が非常に低いのに対して、本発明によるPEA−I−H/Bzコポリマーが、PEA−I−Bzの膨潤プロファイルと同等なプロファイルを示すことは予想外である。これを
図4に示す。
【0015】
膨潤特性は放出特性に直接関連する。
図6は、L−リジン−H25%およびL−リジン−H50%を含むPEA−I−H/Bzコポリマーと比較された、PEA−I−Bz(0%L−リジン−H)からのクロラムフェニコール(ローディング10%)の放出を示す。この図から、PEA−III−H/Bz50%Hフィルムは、1ヶ月にわたって、PEA−III−Bzよりわずかに速く、クロラムフェニコールを放出することがはっきりと示されている。この測定値から、PEA−III−H/Bz50%Hの溶出特性がPEA−III−Bzと同等であり、PEA−III−Hポリマーと非常に異なることが強調された。当業者であれば、PEA−III−H/Bz(50%H)の膨潤特性および薬物溶出特性は、2つの両極端なPEA−III−Bz(0%H)とPEA−III−H(100%H)の間あたりにあることは推測されよう。さらに驚くべきことに、PEA−III−H/Bz25%Hは、PEA−III−Bzよりもクロラムフェニコールをより持続して放出する。
【0016】
さらに、意外なことに、新たに合成されたPEA−H/Bzコポリマーの特性は、相当するPEA−HポリマーとPEA−Bzポリマーの機械的ブレンドによって達成することができないことが判明した。これはさらに
図7で証明され、PEA−I−H/Bz25%Hは、PEA−I−H25重量%およびPEA−I−Bz75重量%を含有する機械的ブレンドと異なる膨潤挙動を示すことが分かる。同じ発見が、H35%を含むPEA−I−H/Bzについても当てはまる。これは、PEA−H/Bzポリマーの薬物溶出特性および分解も、PEA−BzポリマーとPEA−Hポリマーの機械的ブレンドによって達成することができないことを意味する。
【0017】
新たに合成されたPEA−H/Bzコポリマーがほとんど膨潤を示さないにもかかわらず、その分解特性は先行技術のポリマーPEA−I−BzおよびPEA−III−Bzの分解特性と著しく異なる。PEA−I−H/Bzコポリマーは加水分解的に、かつバルク侵食メカニズムを介して、分解すると思われることが判明しているのに対して、先行技術のPEAの(PEA−I−Bz、PEA−III−Bz)は、酵素分解プロセスおよび表面侵食メカニズムを介してのみ分解することは公知である。
要するに、PEA H/Bzポリマーは、持続性の薬物送達のための優れた溶液を提供し、先行技術のPEA Bzポリマーとは異なり加水分解的に分解する。PLGAまたはPLLAなどの他の先行技術ポリマーもまた、主にバルク侵食メカニズムを介して分解すると思われる。これは
図8で確認される。
【0018】
さらに、PLGAおよびPLLAの分解によってpHが下がり、ポリマーから放出される生理活性物質の安定性に影響を及ぼし得るため、それは望ましくないことが知られている。実験から、驚くべきことに、新たに設計されたポリマーPEA H/Bzは著しいpHの低下を示さないことが判明している。
【0019】
上記の発見から、L−リジン−HとL−リジン−ベンジルのどちらも特定の比で存在する、式IVのポリエステルアミドは、薬物送達用のポリマーの必要性により良く対処する、意外な特性を有する新たな種類のポリマーであることが確証される。
【0020】
本発明の以下の実施形態において、nは、好ましくは50〜200であり、aは少なくとも0.15、さらに好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも0.8、またさらに好ましくは少なくとも0.85であり得る。
【0021】
一実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーは、式中、p=0およびm+q=1であり、m=0.75、a=0.5およびa+b=1であり、R
1は(CH
2)
8であり、R
3は−(CH
3)
2−CH−CH
2−であり、R
5はヘキシルであり、R
7はベンジルであり、R
8は−(CH
2)
4−である、式を含む。このポリエステルアミドは、PEA−I−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0022】
本発明の他の好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーは、m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、aは0.5であり、a+b=1であり、R
1は−(CH
2)
8であり;R
3およびR
4はそれぞれ、−(CH
3)
2−CH−CH
2−であり、R
5は、(C
2〜C
20)アルキレンからなる群から選択され、R
6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択され、R
7はベンジルであり、R
8は−(CH
2)
4−であることを含む。このポリエステルアミドはPEA−III−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0023】
本発明の更なる好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーは、m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3であり、aは0.75であり、a+b=1であり、R
1は−(CH
2)
8であり;R
4は(CH
3)
2−CH−CH
2−であり、R
7はベンジルであり、R
8は−(CH
2)
4−であり、R
6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択されることを含む。このポリエステルアミドはPEA−III−H/Bz25%Hと呼ばれる。
【0024】
本発明の更なる好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーは、m+p+q=1、q=0.1、p=0.30およびm=0.6であり、aは0.5であり、a+b=1であり、R
1は−(CH
2)
4であり;R
3およびR
4はそれぞれ、(CH
3)
2−CH−CH
2−であり、R
5は(C
2〜C
20)アルキレンからなる群から選択され、R
7はベンジルであり、R
8は−(CH
2)
4−であり、R
6は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロへキシトールの二環式断片から選択されることを含む。このポリエステルアミドはPEA−II−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0025】
本明細書で使用される、「アルキル」という用語は、直鎖または分枝鎖炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ヘキシル等を意味する。
【0026】
本明細書で使用される、「アルキレン」という用語は、主鎖または側鎖において少なくとも1つの不飽和結合を含有する二価分岐状または未分岐炭化水素鎖を意味する。
【0027】
本明細書で使用される、「アルケニル」という用語は、主鎖または側鎖において少なくとも1つの不飽和結合を含有する直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。
【0028】
本明細書で使用される、「アルケニレン」とは、主鎖または側鎖において少なくとも1つの不飽和結合を含有する二価分岐状または未分岐炭化水素鎖を示すための本明細書における構造式を意味する。
【0029】
本明細書で使用される、「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素間三重結合を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。
【0030】
「アリール」という用語は、フェニルラジカル、または少なくとも1つの環が芳香族環である、約9〜10個の環原子を有するオルト縮合二環式炭素環式ラジカルを示すために、本明細書において構造式を参照して用いられる。アリールの例としては、限定されないが、フェニル、ナフチルおよびニトロフェニルが挙げられる。
【0031】
「生分解性」という用語は、生体内環境または代表的な生体外環境にさらされた場合に完全に、または実質的に分解または侵食されることができる材料を意味する。ポリマーは、例えば、加水分解、酵素分解、酸化、代謝プロセス、バルク侵食または表面侵食等によって対象内で徐々に破壊、再吸収、吸収および/または排除されることができる場合に、分解または侵食されることができる。「生体吸収性」および「生分解性」とう用語は、本出願において同義で使用される。
【0032】
本明細書で使用される「ランダム」という用語は、ランダム分布での式(IV)のポリエステルアミドのm、pおよびq単位の分布を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】αキモトリプシン8.5U/mLを有する緩衝液中に浸漬した後のPEAの重量減少が36日まで示される。PEA−I−H/Bzポリマーの両方の分解は、かなり速く分解した純粋なPEA−I−100%Hと対照的に、PEA−I−Bzの分解に忠実に従う。
【
図2】αキモトリプシン8.5U/mLを含有する溶液中に浸漬された試料の相対分子量が36日まで示される。PEA−I−Bzの相対分子量は、ごくわずかな変化を示したのに対して、ポリマーはH%の増加に伴って、明確な分子量の低下を示した。H%が増加するにしたがって、ポリマーには、ランダムな鎖の切断(加水分解)も起こることが例証されている。
【
図3】pH7.4の緩衝液に浸漬された試料の相対分子量の評価が22日まで示される。PEA−I−Bzの相対分子量はごくわずかに変化したのに対して、H%が増加するにしたがって、ポリマーの分子量は明確に低下を示した。H%が増加するにしたがって、ポリマーには、ランダムな鎖の切断(加水分解)が起こることが例証されている。
【
図4】(5%、25%、50%、100%(H))を含むPEA−I−H/Bzポリマーの、ある期間にわたる平均質量増加(%)。
【
図5】PBS緩衝液中での様々なPEAの膨潤挙動。
【
図6】(0%H、25%Hおよび50%H))を含むPEAI−H/Bzポリマーからのクロラムフェニコール(ローディング10%)の生体外放出。
【
図7】PEA−HとPEA−Bzのブレンドと比較した、PEA−I−H/Bz(25%Hおよび35%H)の膨潤特性。ブレンド1はPEA−I−H25重量%およびPEA−I−Bz75重量%を含み;ブレンド2はPEA−I−H35重量%およびPEA−I−Bz65重量%を含み;ブレンド3は、PEA−I−H50重量%およびPEA−I−Bz50重量%を含む。
【
図8】PEA−I−H/Bz(15%H、35%Hおよび5%Hを含む)と比較したPEA−I−Bzの加水分解。
【
図9】PEA−I−H、PEA−I−BzおよびPEA−III−H/PEA−III−BzからのPBS中のフルオレセインの放出。
【0034】
ポリエステルアミドコポリマーにおいて使用されるαアミノ酸のうちの少なくとも1種類は天然αアミノ酸である。例えば、R
3またはR
4がCH
2Phである場合、合成で使用される天然αアミノ酸はL−フェニルアラニンである。R
3またはR
4が−CH
2−CH(CH
3)
2である代替法において、コポリマーは、天然アミノ酸、ロイシンを含有する。本明細書に記載の2つのコモノマーのバリエーション内でR
3およびR
4を独立して変化させることによって、他の天然αアミノ酸、例えばグリシン(R
3またはR
4がHである場合)、アラニン(R
3またはR
4がCH
3である場合)、バリン(R
3またはR
4がCH(CH
3)
2である場合)、イソロイシン(R
3またはR
4がCH(CH
3)−−CH
2−−CH
3である場合)、フェニルアラニン(R
3またはR
4がCH
2−−C
6H
5である場合)、リジン(R
3またはR
4が(CH
2)
4−−NH
2である場合);またはメチオニン(R
3またはR
4が−−(CH
2)
2S(CH
3)である場合)、およびその混合物も使用することができる。
【0035】
ポリエステルアミドコポリマーは好ましくは、15,000〜200,000ダルトンの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。本明細書に記載のポリエステルアミドコポリマーは、様々な分子量および主鎖におけるm、p、およびq単位の様々な相対比率で製造することができる。特定の用途に適した分子量は当業者によって容易に決定される。適切なMnは、約15,000〜約100,000ダルトン、例えば約30,000〜約80,000または約35,000〜約75,000のオーダーである。Mnは、標準物質としてポリスチレンを使用して、THF中でGPCによって測定される。
【0036】
ポリエステルアミドの基本重合プロセスは、G.Tsitlanadze,et al.J.Biomater.Sci.Polym.Edn.(2004)15:1−24に記述されるプロセスに基づくが、異なる構成単位および活性化基が使用された。
【0037】
ポリエステルアミドは例えば、スキーム1に示すように、活性化二酸(Y1)とパラトルエンスルホネートジアミン塩(X1、X2、X3)との溶液重縮合によって合成される。一般に、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドが溶媒として使用される。一般に塩基として、トリエチルアミドが添加され、一定の攪拌下にて60℃の不活性雰囲気下にて24〜72時間反応が行われる。続いて、得られた反応混合物を水で沈殿させ、続いて有機沈殿させ、濾過することによって精製される。減圧下での乾燥によってポリエステルアミドが生成される。
【化7】
【0038】
本発明のポリエステルアミドコポリマーはさらに、少なくとも1種類の生理活性物質を含み得る。生理活性物質は、治療薬、予防薬、または診断剤である、あらゆる物質であることができる。かかる生理活性物質としては、限定されないが、小分子薬物、ペプチド、タンパク質、DNA、cDNA、RNA、糖、脂質および全細胞が挙げられる。生理活性物質は、増殖抑制性または抗炎症性を有し得るか、または抗腫瘍性、抗血小板性、抗凝血性、抗線維素溶解性、抗血栓性、抗有糸分裂性、抗菌性、抗アレルギー性、または酸化防止性などの他の特性を有し得る。増殖抑制剤の例としては、ラパマイシンおよびその機能または構造誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、およびその機能または構造誘導体、パクリタキセルおよびその機能または構造誘導体が挙げられる。ラパマイシン誘導体の例としては、ABT−578、40−0−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、および40−0−テトラゾール−ラパマイシンが挙げられる。パクリタキセル誘導体の例としては、ドセタキセルが挙げられる。抗腫瘍薬および/または有糸分裂阻害剤としては、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(例えば、Pharmacia AND Upjohn,Peapack NJから市販のアドリアマイシン(Adriamycin)(登録商標))、およびマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Connから市販のムタマイシン(Mutamycin)(登録商標))が挙げられる。かかる抗血小板薬、抗凝固薬、抗線維素溶解薬、およびアンチトロンビンの例としては、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパリン類似物質、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質Hb/nia血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジン、トロンビン阻害剤、例えばAngiomax(Biogen,Inc.,Cambridge,Mass.)、カルシウムチャネルブロッカー(ニフェジピンなど)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン(HMG−CoAレダクターゼの阻害剤、コレステロール低下薬、Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJからの商品名Mevacor(登録商標))、モノクローナル抗体(血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体など)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニンブロッカー、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣物、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−l−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、栄養補助食品、例えば種々のビタミン、およびその組み合わせが挙げられる。ステロイド系および非ステロイド系抗炎症剤などの抗炎症剤の例としては、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、コルチコステロイドまたはその組み合わせが挙げられる。かかる細胞分裂抑制物質の例としては、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、例えばカプトプリル(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Conn.から市販のCapoten(登録商標)およびCapozide(登録商標))、シラザプリルまたはリシノプリル(例えば、Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJから市販のPrinivil(登録商標)およびPrinzide(登録商標))が挙げられる。抗アレルギー剤の一例はペミロラストカリウムである。適切であり得る他の治療物質または治療薬としては、α−インターフェロン、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、および遺伝子操作された上皮細胞が挙げられる。上記の物質は、そのプロドラッグまたは併用薬の形で使用することもできる。上記の物質は、そのプロドラッグおよび/または代謝産物のプロドラッグも含む。上記の物質は一例として列挙されており、限定的であることを意味するものではない。
【0039】
本発明はさらに、本発明によるポリエステルアミドを含む組成物に関する。ポリエステルアミドは例えば、他のポリマー、例えば生体適合性ポリマーとブレンドしてもよい。生体適合性ポリマーは生分解性または非分解性ポリマーであることができる。生体適合性ポリマーの例は、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−co−バレレート)、ポリジオキサノン、ポリ(グリコール酸−co−トリメチレンカーボネート)、ポリリン酸エステルウレタン、ポリ(アミノ酸)、ポリシアノアクリレート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリウレタン、シリコーン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリイソブチレンおよびエチレン−αオレフィンコポリマー、アクリルポリマーおよびコポリマー、ハロゲン化ビニルポリマーおよびコポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテルなどのポリビニルエーテル、ポリハロゲン化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン、ポリスチレンなどのポリビニル芳香族、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル、ビニルモノマー同士のコポリマーおよびビニルモノマーとオレフィンとのコポリマー、例えばエチレン−メチルメタクリレートコポリマー、およびエチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリアミド、例えば、ナイロン66およびポリカプロラクタム、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ(グリセリルセバシン酸)、ポリ(プロピレンフマル酸)、エポキシ樹脂、酢酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、セロハン、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースエーテル、およびカルボキシメチルセルロース、これらのポリマーとポリ(エチレングリコール)(PEG)とのコポリマー、またはその組み合わせである。
【0040】
好ましい実施形態において、生体適合性ポリマーは、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オキサ−エステル)、ポリ(オキサ−アミド)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(プロピレンカーボネート)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(チロシン由来カーボネート)、ポリ(チロシン由来アリーレート)、ポリ(チロシン由来イミノカーボネート)、これらのポリマーとポリ(エチレングリコール)(PEG)とのコポリマー、またはその組み合わせであることができる。当然のことながら、式(IV)の複数種のポリエステルアミドを互いに混合すること、または、例えば式Iまたは式IIの開示される先行技術のポリエステルアミドなどの他のポリエステルアミドと、本発明のポリエステルアミドをブレンドすることも可能である。
【0041】
ポリエステルアミドは、例えば充填剤、酸化防止剤、安定剤、固化防止剤、乳化剤、発泡剤、捕捉剤または色素などの更なる賦形剤を含んでもよい。
【0042】
本発明のポリエステルアミドコポリマーは、医療分野において、特に痛みの管理の分野、筋骨格分野(MSK)、眼科学、腫瘍学、ワクチン送達組成物、皮膚科学、心血管分野、整形外科、脊髄、腸管、肺、鼻、または耳介分野における薬物送達において使用することができる。
【0043】
本発明はさらに、本発明のポリエステルアミドコポリマーを含む物品に関する。他の態様において、本発明は、本発明のポリエステルアミドコポリマーを含むデバイスを提供する。本発明の文脈において、物品は、目的を果たす、または特別な機能を実行するように設計された部類の個々の物体またはアイテムまたは要素であり、単独で機能することができる。物品の例としては、限定されないが、ミクロおよびナノ粒子、コーティング、フィルムまたはミセルが挙げられる。
【0044】
さらに他の好ましい実施形態において、本発明は、本発明の物品を含むデバイスを提供する。デバイスは、特別な目的を果たし、または特別な機能を実行するように設計された一台の装置または1つのメカニズムであり、複数の物品からなることができる(複数の物品のアセンブリ)。
【0045】
デバイスの例としては、限定されないが、カテーテル、ステント、ロッド、インプラントが挙げられる。
【0046】
他の好ましい実施形態において、本発明は、薬物として使用される、本発明のポリエステルアミドコポリマーを提供する。
【0047】
本発明は、単なる実例としての以下の非限定的な図面および実施例を参照しながら、詳細に説明される。
【0048】
[実施例1:(
図1)(分解)]
PEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz25%H、PEA−I−H/Bz50%HおよびPEA−I−100%Hをステンレス鋼フィルム上にコーティングし、αキモトリプシン(ウシ)8.5U/mLおよびNaN
30.05%を含有する緩衝液に浸漬し、緩衝液を1週間に2回新しくした。微量天秤を使用して、時間の経過に伴う乾燥試料の重量減少を決定した。結果を
図1に示す。PEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hは同等な分解速度で分解し、および試験期間35日間にわたって初期質量の40〜60%を失うことが確認された。これと対照的に、PEA−I−100%Hはかなり速く分解し、10日以内に完全に分解した。
【0049】
[実施例2:(
図2)(質量増加)]
PEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hをステンレス鋼フィルム上にコーティングし、αキモトリプシン(ウシ)8.5U/mLおよびNaN
30.05%を含有する緩衝液に浸漬し、緩衝液を1週間に2回新しくした。乾燥試料に関して、THFを移動相として使用してGPCシステムで相対分子量を評価した。分子量は、ポリスチレン標準物質を基準とする。結果を
図2に示す。
【0050】
PEA−I−Bzは一定の分子量を維持することが確認された。これと対照的に、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hは、分子量の著しい低下を示し、それはバルクポリマーの加水分解を意味する。
【0051】
このポリマーは実施例1で説明されるように質量も失うため、PEA−I−Bzは、αキモトリプシンにより仲介される表面侵食により分解すると結論付けられた。しかしながら、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hの分子量も著しく低下することから、組み合わされた分解メカニズムを介して、加水分解によるバルク分解だけでなく酵素による表面侵食も介して、これらの材料が分解すると結論付けられた。
【0052】
[実施例3(
図3)(質量増加)]
PEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hをステンレス鋼フィルム上にコーティングし、NaN
30.05%を含有するPBS緩衝液に浸漬し、その緩衝液を1週間に2回新しくした。乾燥試料に関して、THFを溶媒として使用してGPCシステムで相対分子量を評価した。分子量は、ポリスチレン標準物質を基準とする。結果を
図3に示す。
【0053】
このグラフから、PEA−I−Bzの分子量は試験期間35日間にわたって一定を維持し、それは材料の良好な加水分解安定性を意味することが例証されている。対照的に、PEA−I−H/Bz25%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hフィルムの分子量は、同じ期間に著しく低下し、それは材料の加水分解を意味する。この実施例によって、PEA−I−H/Bzポリマーは実際に、加水分解的に不安定であり、かつ加水分解によるバルク分解を示すことが確認される。
【0054】
[実施例4(
図4および5)膨潤/質量増加]
それぞれのPEA−I−H/Bzコポリマー(5%、25%、50%、100%H)から、直径10mmのディスク5枚をフィルムから打ち抜き、計量し、37℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)5.0mlに入れた。いくつかの時間間隔にて、ディスクを計量し、水の吸収による質量増加を決定した。それぞれ2日後に、PBS溶液を新しくした。結果を
図4および5に示す。
【0055】
図4において、意外なことに、PEA−I−H/Bz5%H、PEA−I−H/Bz25%H、PEA−I−H/Bz35%HおよびPEA−I−H/Bz50%Hは、
図4に示すようにPEA−I−Bzと同様に挙動することが判明した。
【0056】
図5において、PEA−III−Hは、非常に速い膨潤/吸水を示すことが確認された。PBS緩衝液に浸漬した後の最初の数時間以内に、材料の質量が倍になった。
【0057】
これは、残りのPEA−I−BzおよびPEA−III−Bzポリマーには当てはまらなかった。
【0058】
[実施例5(
図6)クロラムフェニコールの放出]
ローディング率10%のPEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz25%H、PEA−I−H/Bz50%Hの薬物ローディングディスクを作製した。直径7mmの個々のディスク3枚を37℃のPBS緩衝液に入れた。様々な時点で、吸い込み条件を確実にするためにPBS溶液全体を新たにし、続いて薬物濃度を測定した。一般に、最初の週には試料を毎日測定し、後の時点では毎週測定した。結果を
図6に示す。クロラムフェニコールの放出は、278nmでの検出を用いて、C18カラム上でRP−HPLCによって測定された。PEA−I−H/Bz25%Hの10%ローディングディスクからのクロラムフェニコールの溶出は、PEA−I−Bzと比べて速かった。
【0059】
図6から、PEA−I−H/Bz50%Hディスクは30日間にわたって、PEA−I−Bzよりもわずかに速くクロラムフェニコールを放出することがはっきりと示されている。さらに意外なことには、PEA−I−H/Bz25%Hディスクは、PEA−I−Bzよりも、クロラムフェニコールをより持続して放出する。
【0060】
[実施例6(
図7 PEA−IH/Bzと比較したブレンド)]
ポリマーPEA−I−H/Bz25%H、PEA−I−H35%HおよびPEA−I−HとPEA−I−Bzの機械的ブレンドの膨潤挙動を比較した;ブレンド1は、PEA−I−H25重量%およびPEA I Bz75重量%を含み、ブレンド2は、PEA−I−H35重量%およびPEA I Bz65重量%を含み、ブレンド3は、PEA−I−H50重量%およびPEA I Bz50重量%を含む。ポリマー10%(重量)の溶液20gが得られるように、ポリマーを無水エタノールに溶解する。溶解には数時間かかった。その後、溶液をテフロン(Teflon)皿(直径8cmのディスク)に注いだ。これらのディスクをガラスビーカーで覆うか、窒素フロー下のデシケーター内に入れた。表面がもはや粘着性でなくなったら、完全真空下にて65℃でディスクをさらに乾燥させた。気泡の形成を防ぐために、ゆっくりと最大真空度に到達させた。最大真空度に達した後、温度が上昇し始めた。
【0061】
直径5mmのディスク5枚を8mmディスクから打ち抜いた。ディスクを計量し、10mLガラスバイアルに入れた。各ディスクをPBS緩衝液5.0mLに浸漬し、緩衝液を2日毎に新しくした。すべての試料を37℃で維持した。各データポイントで、ディスクをティッシュペーパーで乾燥させ、計量した。最初の2週間は1日2回、次いで1日1回、次いで1週間に1回、データポイントを取った。時点tでの質量増加を以下の式V;
【数1】
で計算した。結果を
図7に示す。
【0062】
[実施例8(
図8 加水分解)]
PEA−I−Bz、PEA−I−H/Bz5%H、PEA−I−H/Bz15%HおよびPEA−I−35%Hの10重量%溶液をエタノール中で調製した。厚さ75μmのステンレス鋼箔上にポリマー溶液をキャストし、65℃で減圧下にて乾燥させた。得られた被覆金属フィルムを表面積約1cm2の片に切断した。ポリマー被覆金属片を用いて、時間の経過に伴うポリマーの分解を評価した。NaN30.05%を含有するPBS緩衝液5mlに、ポリマー被覆ステンレス鋼片を個々に浸漬した。3回繰り返して、試料を採取し、65℃で減圧下にて乾燥させた。質量減少および分子量分析に関して、溶出剤としてTHFを用いたGPCシステムを使用して、乾燥したコーティングを評価した。PEA−I−Bzは、安定な分子量に基づく良好な加水分解安定性を例証し、ごく限られた数のカルボキシル基を導入(PEA−I−H/Bz5%Hと同様)することによって既に、時間の経過に伴って分子量がわずかに低下するが、実現可能なポリマー分解を得るには明らかに遅すぎる。意外なことに、PEA−I−H/Bz15%HおよびPEA−I−H/Bz35%Hは、ポリマーの加水分解に伴う分子量の顕著な低下を示した。結果を
図8に示す。
【0063】
[実施例9(
図9 放出フルオレセイン)]
[a.ポリマーと薬物の溶液の調製およびフィルムの作製]
ポリマー中の薬物5重量%の薬物ポリマー配合物を以下のように調製した。フルオレセイン約100mgをTHF10mLに溶解した。完全に溶解した後、溶液を使用して、ポリマー約2.0gを溶解した。透明な溶液が得られたら、超音波によって試料を少なくとも90分間ガス抜きした。その後、溶液をテフロン型(直径=40mm、深さ=4mm)に、限度一杯のレベルまでキャストした。溶液を空気中にて室温で一晩蒸発させた。次いで、テフロン型全体を真空オーブン内に移し、溶媒が完全に蒸発するまで、徐々に下げられた圧力下にて室温で連続的に蒸発させた。
【0064】
[b.ディスクの作製]
溶媒を除去した後、被覆フィルムを打ち抜いて、円形ディスク
【化8】
を得た。打ち抜かれた各ディスクの重量および厚さを決定した。使用されたディスクの重量は約15〜30mgであった。
【0065】
[c.放出の実験]
放出の実験のために、乾燥ポリマーコーティングから打ち抜かれたディスクを2つ組で作製した。ガラスバイアル内のPBS9mlにディスクを浸漬し、放出期間中、ガラスバイアルを一定の37℃で穏やかに振盪した。実験の最初には、PBS溶液を毎日2回新しくした。次いで、回数を1日1回に減らし、その後、後期には2日おきに1回に減らした。緩衝液内に放出されるフルオレセインの含有量をHPLCまたはUV分光法のいずれかによって決定した。
【0066】
結果を
図9に示す。
【0067】
図9から、フルオロレインの徐放を提供するPEA I BzおよびPEA III Bzと対照的に、PEA−I−HおよびPEA−III−Hポリマーは24〜48時間以内に薬物ローディングを完全に放出することが分かる。これは、ポリマーの急速かつ著しい膨潤の結果である。