(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248415
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】楽曲評価装置
(51)【国際特許分類】
G10G 1/00 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
G10G1/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-108806(P2013-108806)
(22)【出願日】2013年5月23日
(65)【公開番号】特開2014-228726(P2014-228726A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川端 太郎
【審査官】
菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−191431(JP,A)
【文献】
特開2013−083845(JP,A)
【文献】
特開2008−129032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00− 7/12
G10G 1/00− 7/02
G09B 15/00−15/08
A63F 13/00−13/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区間に分割される楽曲について当該複数の区間の各々における演奏の難易度を示す区間難易度を、所定のアルゴリズムに従って評価する区間評価手段と、
前記楽曲における前記区間難易度の変化に応じて、当該楽曲全体の演奏の難易度を示す楽曲難易度を評価する楽曲評価手段と
を有し、
前記楽曲評価手段は、前記楽曲における前記区間難易度の変化が大きいほど、前記楽曲難易度が高いと評価する
楽曲評価装置。
【請求項2】
前記楽曲評価手段は、連続する2つの区間における前記区間難易度の変化の絶対値が大きいほど、前記楽曲難易度が高いと評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の楽曲評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽曲の演奏の難易度を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
楽曲における演奏の難易度は楽曲によって異なる。例えば、楽器の練習をするためのシステムにおいて楽曲の難易度を示す情報が提示されれば、それは演奏者にとって楽曲を選択する際の重要な指標となる。演奏の難易度を評価する技術として種々のものが知られている(例えば特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1および2は、単位時間あたりの音数によって演奏の難易度を評価する技術を開示している。特許文献3は、各音符の平均音長に基づいて難易度を評価する技術を開示している。特許文献4は、運指情報に基づいて難易度を評価する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−191431号公報
【特許文献2】特開2002−323891号公報
【特許文献3】特開2005−107333号公報
【特許文献4】特開2008−151966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4は、技巧的に難しい部分が多いとその楽曲の難易度が高いと評価する評価手法を採用している。このような評価手法によれば、高度な技巧をマスターしていない演奏者にとっては評価された難易度と実際に演奏する難しさの一致感はある。しかしながら、楽曲の表情やメリハリを表現するというより音楽的な観点に照らせば、単に音符どおりに弾けるかどうかという技巧面だけでは、楽曲の難易度は判断できないという問題があった。
これに対し本発明は、楽曲の表情やメリハリという観点も踏まえて総合的に難易度を評価する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の区間に分割される楽曲について当該複数の区間の各々における演奏の難易度を示す区間難易度を、所定のアルゴリズムに従って評価する区間評価手段と、前記楽曲における前記区間難易度の変化に応じて、当該楽曲全体の演奏の難易度を示す楽曲難易度を評価する楽曲評価手段とを有する楽曲評価装置を提供する。
【0007】
前記楽曲評価手段は、前記楽曲における前記区間難易度の変化が大きいほど、前記楽曲難易度が高いと評価してもよい。
【0008】
前記楽曲評価手段は、連続する2つの区間における前記区間難易度の変化の絶対値が大きいほど、前記楽曲難易度が高いと評価してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲の表情やメリハリという観点も踏まえて総合的に難易度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】楽曲評価装置1のハードウェア構成を示す図。
【
図2】一実施形態に係る楽曲評価装置1の機能構成を示す図。
【
図3】楽曲評価装置1の動作を示すフローチャート。
【
図4】区間難易度と楽曲難易度との関係を例示する図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.構成
図1は、一実施形態に係る楽曲評価装置1のハードウェア構成を示す図である。楽曲評価装置1は、例えばパーソナルコンピュータである。楽曲評価装置1は、CPU101と、メモリ102と、記憶装置103と、通信部104と、入力装置105と、表示装置106とを有する。CPU101は、楽曲評価装置1の各ハードウェア要素を制御する制御装置である。メモリ102は、CPU101がプログラムを実行する際のワークエリアとして機能する記憶装置である。記憶装置103は、データおよびプログラムを記憶する記憶装置、例えばHDD(Hard Disk Drive)またはフラッシュメモリを含む。この例で、記憶装置103は、楽器の練習を支援するための練習支援プログラムを記憶している。練習支援プログラムは、楽曲ファイルから楽曲の難易度を評価する評価プログラムを、サブプログラム(モジュール)として含んでいる。通信部104は、ネットワーク(例えばインターネット)を介して他の装置と通信する装置であり、例えばネットワークカードを含む。入力装置105は、ユーザの指示をCPU101に入力する装置であり、例えば、キーボードおよびポインティングデバイス(例えばマウス、タッチスクリーン等)の少なくとも一方を含む。表示装置106は、情報(文字および画像の少なくとも一方)を表示する装置であり、例えば、液晶ディスプレイを含む。
【0012】
図2は、一実施形態に係る楽曲評価装置1の機能構成を示す図である。楽曲評価装置1は、記憶手段11と、区間評価手段12と、楽曲評価手段13と、出力手段14とを有する。記憶手段11は、少なくとも1つの楽曲ファイルを記憶する。楽曲ファイルは、楽曲の演奏(内容)を示す情報により構成されるファイルである。より詳細には、楽曲ファイルは、時間情報およびイベント(例えば音のオンオフ)を示す情報を含む。具体的には、楽曲ファイルは、例えばスタンダードMIDI(Musical Instrument Digital Interface)ファイル(SMF)である。楽曲ファイルは、例えば、ネットワーク上のサーバから取得され、記憶手段11に記憶される。区間評価手段12は、区間難易度を評価する。区間難易度は、楽曲の一部である区間(例えば所定数の小節)における演奏の難易度を示す。区間評価手段12は、楽曲を複数の区間に分割し、これら複数の区間の各々について区間難易度を評価(算出)する。区間難易度の評価は、所定のアルゴリズムで行われる。楽曲評価手段13は、楽曲難易度を評価する。楽曲難易度は、楽曲全体の演奏の難易度を示す。楽曲評価手段13は、楽曲における区間難易度の変化に応じて、その楽曲の楽曲難易度を評価(算出)する。出力手段14は、楽曲評価手段13により評価された楽曲難易度を示す情報を出力する。
【0013】
この例では、CPU101が練習支援プログラムを実行することにより、
図1に示される機能が実装される。記憶装置103は、記憶手段11の一例である。練習支援プログラムを実行しているCPU101は、区間評価手段12および楽曲評価手段13の一例である。表示装置106は、出力手段14の一例である。
【0014】
2.動作
図3は、楽曲評価装置1の動作を示すフローチャートである。
図3のフローは、例えば、評価プログラムが呼び出されたことを契機として開始される。
【0015】
ステップS101において、区間分割手段は、処理の対象となる楽曲ファイルにより示される楽曲(以下「対象楽曲」という)を複数の区間に分割する。複数の区間への分割方法は区間難易度を評価するアルゴリズムに応じて異なるが、例えば、楽譜上の所定の期間(例えば所定数の小節)毎に分割する方法が用いられる。あるいは、楽曲は、時間的に等間隔に分割されてもよい。なお、区間分割手段は、区間評価手段12の一機能としてもよいし、区間評価手段12とは別に設けてもよい。
【0016】
ステップS102において、区間評価手段12は、各区間における区間難易度を評価する。区間難易度の評価には、周知のアルゴリズムが用いられる。具体的には、区間難易度の評価には、区間あたりの音数が多いほど高難易度と評価されるアルゴリズムが用いられる。別の例で、区間あたりの平均音長が短いほど高難易度と評価されるアルゴリズムが用いられてもよい。さらに別の例で、運指のコストが高いほど高難易度と評価されるアルゴリズムが用いられてもよい。この場合において、運指のコストは、例えば、連続する2つの音の音階が離れているほど高く、また、連続する2つの音の間隔(すなわち第1音の音長)が短いほど高く評価される。具体的な処理は以下のように行われる。区間評価手段12は、対象楽曲を構成する複数の区間の中から一の区間を、処理対象の区間(以下「対象区間」という)として一つずつ順に特定する。区間評価手段12は、対象区間について区間難易度を評価する。区間評価手段12は、対象区間について算出した区間難易度を記憶手段11に記憶する。区間評価手段12は、対象楽曲に含まれるすべての区間について区間難易度が評価されるまで、これらの処理を繰り返し実行する。
【0017】
ステップS103において、楽曲評価手段13は、楽曲難易度を算出する。この例で、楽曲評価手段13は、対象楽曲における区間難易度の変化が大きいほど、楽曲難易度が高いと評価する。より詳細には、連続する2つの区間における区間難易度の変化の絶対値が大きいほど、楽曲難易度が高いと評価する。楽曲評価手段13は、具体的には次式(1)に従って楽曲難易度を算出する。
【数1】
ここで、Dhは楽曲難易度を、Dp(i)は区間iにおける区間難易度を、nは対象楽曲における区間の数を、それぞれ示している。
【0018】
ステップS104において、出力手段14は、算出した楽曲難易度を出力し、表示装置106に表示させる。出力手段14は、例えば、楽曲のファイル名と楽曲難易度とを含む一覧を表示装置106に表示させる。
【0019】
図4は、区間難易度と楽曲難易度との関係を例示する図である。この例では、楽曲A、B、およびCの3つの楽曲について、区間難易度と楽曲難易度との関係が示されている。楽曲A、B、およびCはいずれも、8つの区間に分割される。区間難易度は、1〜5の5段階で示されている。難易度が最も低いのが1で、最も高いのが5である。楽曲を通じた区間難易度の平均値という観点からは、楽曲A>楽曲B=楽曲Cという順位が付けられる。すなわち従来の評価方法によれば、楽曲Aが最も難しく、楽曲Bと楽曲Cの難易度は同じである。
【0020】
一方、本願発明の評価方法によれば、楽曲Aは、区間難易度の平均値は高いがその変化に乏しいので、楽曲難易度は低く評価される。楽曲Bは、区間難易度の平均値は楽曲Aよりも低いが変化に富んでいるので、楽曲難易度が高いと評価される。楽曲Cは、楽曲Bと区間難易度の平均値が同一であるが、難易度の高いものが前半に、低いものが後半に偏っているため、楽曲Bと比較すると区間難易度の変化に乏しく、楽曲Bよりは楽曲難易度が低く評価される。
【0021】
以上で説明したように本実施形態によれば、単に運指が難しいといった技巧的な難易度だけでなく、曲の表情やメリハリという音楽的な表現を踏まえて楽曲の難易度を評価することができる。例えば、楽器の練習をするためのシステムにおいて、この楽曲難易度が提示されれば、ユーザが練習する楽曲を選択する際に参考となる情報を提供できる。
【0022】
3.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0023】
楽曲難易度の具体的な算出方法は、式(1)によるものに限定されない。例えば、楽曲難易度は、区間難易度の平均値または積算値を考慮したものであってもよい。より具体的には、例えば、式(1)で算出される値に区間難易度の平均値または積算値を乗算することにより楽曲難易度を算出してもよい。別の例で、楽曲難易度は、楽曲の長さの影響を排除したものであってもよい。より具体的には、例えば、式(1)で算出される値を区間の数nで除すことにより楽曲難易度を算出してもよい。さらに別の例で、式(1)の各項に、テンポや強弱記号に応じた係数を乗算することにより楽曲難易度を算出してもよい。また、連続する2つの区間における区間難易度の変化の絶対値を楽曲難易度に反映する方法は、区間難易度の差を2乗するものに限定されない。
【0024】
楽曲評価装置1はパーソナルコンピュータに限定されない。楽曲評価装置1は、電子楽器、タブレット端末、スマートフォンなど、パーソナルコンピュータ以外の電子機器であってもよい。なお、電子楽器に本発明が適用される場合、その電子楽器は、記憶装置103、入力装置105、および表示装置106に相当する構成を有している必要がある。
【0025】
図1で説明した機能のうちの一部または全部を、ネットワーク上のサーバが有していてもよい。すなわち、ユーザが操作する端末装置とネットワーク上のサーバ装置とを有する情報処理システムが、
図1の機能を有していてもよい。
また、
図1の機能は、楽曲の練習支援プログラム以外のプログラムにより実装されてもよい。例えば、
図1の機能は、楽曲の演奏プログラムまたは再生プログラムにおいて、演奏する楽曲を選択するプログラムモジュールとして実装されてもよい。
【0026】
楽曲評価装置1のハードウェア構成は
図2で説明したものに限定されない。
図1で説明した機能を実現できるものであれば、楽曲評価装置1はどのようなハードウェア構成を有していてもよい。例えば、楽曲評価装置1は、ネットワーク接続されずにスタンドアローンで用いられる装置であってもよい。
【0027】
楽曲評価装置1の機能構成とハードウェア構成との対応関係は、実施形態で説明したものに限定されない。例えば、出力手段14は、表示装置106により楽曲難易度を視覚的に出力するものに限定されない。例えば、出力手段14は、データとして電子的に楽曲難易度を出力してもよい。あるいは、出力手段14は、楽曲難易度を音や音声で出力してもよい。例えば、難易度が高いほど高い音高の音を出力するようにしてもよい。
楽曲ファイルはSMFに限定されない。楽曲の演奏を示すものであれば、いかなる形式の楽曲ファイルが用いられてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…楽曲評価装置、11…記憶手段、12…区間評価手段、13…楽曲評価手段、14…出力手段、101…CPU、102…メモリ、103…記憶装置、104…通信部、105…入力装置、106…表示装置