【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、防護装置を構成する袋体には、切羽側の空間を坑口側の換気設備や集塵機に連通接続させるための送気口や吸気口を予め形成してあり、発破時には送気口や吸気口を一時的に塞いでおき、発破後、これらに送気管や吸気管を嵌め込んで換気設備や集塵機に接続した上、それらを作動させて後ガスや粉塵の処理を行う。
【0009】
一方、防護装置は上述したように、発破時の爆風や飛石による衝撃から諸設備を保護するという役割と、発破前後にわたって切羽側空間の気密性を保持するという2つの役割を担っている。
【0010】
そのため、送気口や吸気口を設けるにあたっては、袋体全体の強度が低下しないように、かつ気密性が低下しないようにする必要があり、それらの要請に応えるためには、開口の大きさをできるだけ小さくするのが望ましい。
【0011】
しかしながら、送気口や吸気口、特に吸気口が小さ過ぎると、それらに接続する吸気管の断面積も当然ながら小さくなり、配管のエネルギー損失が大きくなって、後ガスや粉塵の処理に時間がかかるという問題を生じており、長大トンネルでは、全体の工程に与える影響が大きくなって、工程に遅延が生じる事態を招く。
【0012】
ちなみに、自由断面掘削機と呼ばれる削岩機で地山を掘削する際や、発破に先立って爆薬を装填するための装薬孔をドリルジャンボと呼ばれる穿孔機で穿孔する際にも、切羽の手前側空間には粉塵が発生し、かかる粉塵や重機の排ガスに対しては、上述したと同様、空気が充填された袋体を切羽手前に壁状に立設してなる拡散防止装置が提案されているところ(特許文献2)、このような拡散防止装置においても、送気口や吸気口、特に吸気口が小さ過ぎると、それらに接続する吸気管の断面積も小さくなって配管のエネルギー損失が大きくなり、粉塵の処理に時間がかかるという同様の問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、気密性やさらには耐衝撃性を何ら損ねることなく、後ガスや粉塵あるいは重機の排ガスを効率よく処理することが可能なトンネル用拡散防止装置を提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るトンネル用拡散防止装置は請求項1に記載したように、トンネルの切羽から離隔した位置に立設することにより該切羽の手前に拡がる空間
である切羽側空間を坑口側空間に対して気密に保持することが可能な拡散防止用袋体を備えたトンネル用拡散防止装置において、
前記拡散防止用袋体を、前記トンネルの底面に対向する側で開放されコの字状周縁を有してなる集塵機用開口が形成されるように構成するとともに、
前記切羽側空間に拡がるトンネル掘削時の発生物が吸引処理される集塵機を前記トンネルの底面に設置する際に該集塵機が前記集塵機用開口を貫通するようにかつ該集塵機の周囲が前記コの字状周縁で取り囲まれるように前記拡散防止用袋体を構成したものである。
【0015】
また、本発明に係るトンネル用拡散防止装置は、前記拡散防止用袋体を、袋本体と該袋本体に隣接配置されるコの字状袋体とで構成し、該コの字状袋体の内方周縁を前記コの字状周縁とするとともに該内方周縁で取り囲まれる空間を前記集塵機用開口としたものである。
【0016】
また、本発明に係るトンネル用拡散防止装置は、前記袋本体を、前記トンネルの頂部内周面に対向する側に配置される上方袋体と、前記トンネルの側方内周面のうち、一方の側に対向配置される側方袋体と、前記トンネルの中央近傍に配置される中央袋体とで構成するとともに、前記コの字状袋体を、前記トンネルの側方内周面のうち、他方の側に対向配置されるように構成したものである。
【0017】
また、本発明に係るトンネル用拡散防止装置は、前記拡散防止用袋体が取り付けられる取付け架台を備えるとともに、該取付け架台を移動自在に構成したものである。
【0018】
また、本発明に係るトンネル用拡散防止装置は、
前記集塵機が移動式集塵機である場合にその移設に伴って前記移動式集塵機とともに前記拡散防止用袋体が移動するように、該拡散防止用袋体を前記移動式集塵機に取り付けたものである。
【0019】
本発明に係るトンネル用拡散防止装置においては、トンネルの切羽手前に拡がる空間(以下、切羽側空間)を坑口側空間に対して気密に保持すべく、従来と同様にトンネルの切羽から離隔した位置に拡散防止用袋体を立設するが、本発明の拡散防止用袋体には、コの字状周縁を有してなる集塵機用開口を形成してあり、拡散防止用袋体を立設するにあたっては、集塵機用開口の開放側をトンネルの底面に対向させるとともに、集塵機用開口を貫通するようにトンネルの底面に集塵機を設置した上、該集塵機の周囲をコの字状周縁で取り囲む。
【0020】
このようにすると、集塵機用開口を貫通するように設置される集塵機の周囲は、該集塵機用開口のコの字状周縁で取り囲まれるため、集塵機用開口で気密性が損なわれることはなく、切羽側空間は、切羽掘削の前後にわたって気密性が確保される。
【0021】
一方、集塵機は、切羽側空間との空間接続状態が従来のように吸入管を介した連通接続ではなく、吸入口を切羽側空間に露出させた直接的な接続となるため、吸入管による配管損失がない分、吸入効率が改善されるとともに、その結果として、掘削に伴って生じる粉塵や重機の排ガスといった発生物を迅速に処理することが可能となる。
【0022】
すなわち、本発明によれば、気密性を何ら低下させることなく、トンネル掘削時の発生物の拡散を防止するとともに、それらの処理を効率よく行うことが可能となる。
【0023】
集塵機は、フィルター式か電気式かを問わないし、据付型の集塵機とするか移動式集塵機とするかも任意であるが、本発明は、吸入管による配管損失がないため、フィルター式である必要はないし、電気式集塵機を用いれば、電力消費を大幅に抑えることが可能となる。
【0024】
拡散防止用袋体は、単一の袋体で構成する、内部を隔壁で仕切った単一の袋体で構成するなどの構成を採用することが可能であるが、集塵機用開口近傍とそれ以外とを個別の袋体で製作するようにすれば、コの字状周縁で集塵機の周囲を取り囲む際の作業性が向上する。
【0025】
上記のように製作するにあたっては、拡散防止用袋体を、袋本体と該袋本体に隣接配置されるコの字状袋体とで構成し、該コの字状袋体の内方周縁をコの字状周縁とするとともに該内方周縁で取り囲まれる空間を集塵機用開口とした構成を採用することができるし、この場合、袋本体をさらに複数個の袋体で構成することができる。
【0026】
すなわち、上述した袋本体を、トンネルの頂部内周面に対向する側に配置される上方袋体と、トンネルの側方内周面のうち、一方の側に対向配置される側方袋体と、トンネルの中央近傍に配置される中央袋体とで構成するとともに、上述のコの字状袋体を、トンネルの側方内周面のうち、他方の側に対向配置されるように構成することが可能である。
【0027】
拡散防止用袋体は、トンネルの規模が小さい場合であれば、その底面に自立させる構成とすることも可能であるが、該拡散防止用袋体を取り付けるための取付け架台を備えるようにすれば、拡散防止用袋体をより安定した姿勢でトンネルの底面に立設することができるし、その取付け架台を移動自在に構成したならば、長大トンネル内での掘削時における発生物の拡散防止及びその後の処理をより効率的に行うことが可能となる。
【0028】
取付け架台を移動自在に構成する具体例としては、取付け架台を、トンネルの底面に対して摺動自在となるように構成され該トンネルの軸線方向に沿うようにかつ互いに平行になるように離間配置された一対のスキッドとその上に立設された架台本体とで構成し、架台本体を、各スキッドの上面に該スキッドの材軸方向に沿って離間配置されるようにそれぞれ立設された切羽側柱部材及び坑口側柱部材と、該各切羽側柱部材の頂部に架け渡された切羽側梁部材と、該各坑口側柱部材の頂部に架け渡された坑口側梁部材とで構成すればよい。
【0029】
このようにすれば、トンネル用拡散防止装置がそのスキッドを介してトンネル底面に載置されるため、適当な重機で容易に牽引移動することができる。
【0030】
なお、上述の取付け架台の構成は、拡散防止用袋体を、上方袋体、側方袋体及び中央袋体からなる袋本体並びにコの字状袋体で構成する場合に適した例であり、それゆえ、架台本体は、各切羽側柱部材及び切羽側梁部材で構成される切羽側門型フレームと各坑口側柱部材及び坑口側梁部材で構成される坑口側門型フレームとの間に拡散防止用袋体が全体として挟み込まれるように構成するとともに、上方袋体が切羽側梁部材及び坑口側梁部材の上方に配置され、側方袋体が切羽側柱部材及び坑口側柱部材の側方のうち、一方に配置され、中央袋体が水平移動自在に切羽側梁部材及び坑口側梁部材から吊持され、コの字状袋体が切羽側柱部材及び坑口側柱部材の側方のうち、他方に配置されるように構成する。
【0031】
本発明に係るトンネル用拡散防止装置は、これを削岩機や穿孔機を用いたトンネル掘削に適用することにより、そのときに生じる粉塵や重機の排ガスが切羽前空間から坑口側空間に拡散するのを防止することができるが、発破掘削にも適用することが可能であり、その場合においては、発破時に生じる後ガスや粉塵が切羽前空間から坑口側空間に拡散するのを防止することができる。
【0032】
なお、発破掘削に適用する場合には、集塵機の吸入口が切羽に対向するように該集塵機が設置されるため、爆風や飛石から集塵機の吸入口を防護すべく、後述するように吸入口と対向する位置に防護板を離間配置する。
【0033】
上述した移動自在な取付け架台を備えたトンネル用拡散防止装置を用いてトンネル掘削の際に生じる発生物の拡散を防止するにあたっては、トンネルの切羽を削岩又は穿孔する前に、拡散防止用袋体をその集塵機用開口の開放側がトンネルの底面に対向するように立設し、該集塵機用開口を貫通するようにかつコの字状周縁で周囲が取り囲まれるようにトンネルの底面に移動式集塵機を配置する。
【0034】
このようにすれば、トンネル用拡散防止装置及び移動式集塵機がいずれも移動自在な構成となるため、それらの相乗作用によってトンネル掘削時の発生物の拡散防止措置を迅速に準備することが可能となり、長大トンネルにおいては、その工期を大幅に短縮することができる。
【0035】
一方、
上述の集塵機が移動式集塵機である場合にその移設に伴って移動式集塵機とともに拡散防止用袋体が移動するように、該拡散防止用袋体を移動式集塵機に取り付けた構成においては、移動式集塵機を走行させるだけでその走行に伴って拡散防止用袋体を移動させることが可能となる。
【0036】
拡散防止用袋体を移動式集塵機に取り付ける構成は任意であって、直接取り付けるようにしてもよいし、適当な取付け架台を介して取り付けるようにしてもよい。
【0037】
上述したトンネル用拡散防止装置を用いてトンネル発破を防護するにあたっては、トンネル発破を行う前に、拡散防止用袋体をその集塵機用開口の開放側がトンネルの底面に対向するように立設し、該集塵機用開口を貫通するようにかつコの字状周縁で周囲が取り囲まれるようにトンネルの底面に集塵機を設置し、該集塵機の吸入口と対向する位置に防護板を離間配置する。
【0038】
なお、拡散防止用袋体を移動式集塵機に取り付けた上述の構成の場合には、移動式集塵機を適宜走行させることで該移動式集塵機及びそれに取り付けられた拡散防止用袋体を適宜位置決めし、トンネル発破を行う前に、移動式集塵機の吸入口と対向する位置に防護板を離間配置する。
【0039】
このようにすれば、集塵機の吸入口は、発破時の爆風や飛石から確実に防護される。
【0040】
防護板は、集塵機の吸入口とほぼ同一の形状かそれよりも大きな形状の鋼板で構成することが可能であるとともに、これを集塵機に付属する形態とするか、トンネル底面に載置する形態とするかは任意である。