(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248421
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】ソイルセメントの圧縮強度推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-117558(P2013-117558)
(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公開番号】特開2014-234661(P2014-234661A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 映
(72)【発明者】
【氏名】今 広人
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 和宏
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−215013(JP,A)
【文献】
特開2010−222799(JP,A)
【文献】
特開2004−044328(JP,A)
【文献】
特開平05−322881(JP,A)
【文献】
米国特許第05263797(US,A)
【文献】
米国特許第05716448(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00−5/80
E01C 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソイルセメントの所定材令における圧縮強度を推定する方法において、
前記ソイルセメントに含まれる土粒子の物理的性質、当該ソイルセメントに含まれるセメントミルクの配合割合及び当該セメントミルクの構成材料によって規定される施工条件を設定する工程と、
当該施工条件下でのソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式を算出する工程と、
前記施工条件として設定した注入率となるまでセメントミルクを注入して杭穴内にソイルセメントを造成施工する工程と、
前記杭穴内に造成施工された未固結状態のソイルセメントの密度を計測する工程と、
前記関係式に基づき、計測したソイルセメントの密度から前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度を推定する工程と、を備え、
前記関係式を算出する工程において、
前記ソイルセメントの造成対象となる現地土又は該現地土と同様の物理的性質を有する人工土に加水あるいは減水して密度が異なる複数の試料土を作製し、
前記施工条件として設定した1つ又は複数のセメントミルクの注入率毎に前記各試料土についてソイルセメントを作製し、
前記各試料土から作製した前記各ソイルセメントの密度を測定するとともに、所定材令における圧縮強度を測定して、前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式を前記セメントミルクの注入率毎に算出し、
前記圧縮強度を推定する工程において、前記関係式に基づき、前記ソイルセメントを造成施工する工程で注入されたセメントミルクの注入率及び前記ソイルセメントの密度を計測する工程で計測したソイルセメントの密度から前記杭穴内に造成施工された所定材令のソイルセメントの圧縮強度を推定する
ことを特徴とするソイルセメントの圧縮強度推定方法。
【請求項2】
前記セメントミルクの注入率毎に算出した前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式は、
前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との近似式であって、その寄与率が0.93以上のものであることを特徴とする請求項1に記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法。
【請求項3】
前記セメントミルクの注入率に基づいて作製されたソイルセメントに関する、既存の密度データ及び圧縮強度データが取得されている場合には、当該密度データ及び圧縮強度データを用いて前記関係式を算出することを特徴とする請求項1に記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ソイルセメントの圧縮強度推定方法に関し、より詳細には、例えば地盤中に造成されたソイルセメントを採取して、その所定材令における圧縮強度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、地盤改良工法や杭工法で地盤中に造成するソイルセメントは、造成から 28 日後の一軸圧縮強度 qu28 (「qu 」に続く数値は材令(日)を示す、以下同様。)で管理されるため、造成から 28 日経過しなければ造成したソイルセメントが所定の強度を満足するか否かが判らない。実工事においては、着工から連続して作業ができれば工期の面で望ましい。このようなことから、一般には強度が大きくなるように過大にセメントを投入してソイルセメントを造成しているが、この場合コスト的には不利になることが多い。
【0003】
造成したソイルセメントの一軸圧縮強度 qu28 を早期に判定できれば、適切なセメント量すなわち適正なコストでの施工が可能となる。
【0004】
ソイルセメントの一軸圧縮強度 qu28 を早期に判定する方法として、ソイルセメント造成後のまだ固まらないソイルセメントを採取し、促進養生を行って強度試験を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、地盤のN値や地盤性状によって区分けした施工現場ごとに、現場実験により計測したまだ固まらないソイルセメントの比重とその固化強度との関係データ「比重−圧縮強度」を利用して、ソイルセメントの強度を推定する方法も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002ー97630号公報
【特許文献2】特開2010ー222799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の促進養生試験による方法では、養生期間7日でも強度のバラツキが多く、一軸圧縮強度 qu28 の推定値としては不十分なのが現状である。また、特許文献2記載の方法は、限られた施工条件下(地盤のN値、地盤性状)での「比重−圧縮強度」の関係が実験定数を含む式で示されているにすぎず、多くのソイルセメント造成現場に適用することはできない。すなわち、ソイルセメント造成工においては、施工現場に応じて適切なセメント配合を適宜選択し、施工条件を決定するのであるが、同文献記載の方法ではこのような施工現場によって変化する施工条件に対応することができない。
【0008】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、ソイルセメント造成現場の施工条件に応じた、ソイルセメントの所定材令の圧縮強度を推定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の発明者らによる多くの実験・解析検討によれば、「同一の施工条件(ソイルセメントに含まれる土粒子の物理的性質、当該ソイルセメントに含まれるセメントミルクの配合割合及び当該セメントミルクの構成材料)の下では、ソイルセメントの密度γscu とそのソイルセメントの所定材令における圧縮強度(例えば、28 日後の一軸圧縮強度 qu28 )は、セメントミルクの注入量ごとに 1:1 に対応する」という事実を見出すことができた。したがって、施工条件ごとにソイルセメントの密度γscu とそのソイルセメントの所定材令における圧縮強度(例えば、28 日後の一軸圧縮強度 qu28 )との関係を予め求めておけば、任意の施工条件下でのソイルセメント圧縮強度をソイルセメントの密度γscu から推定できることになる。
【0010】
この発明は上記のような知見に基いてなされたものであって、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、ソイルセメントの所定材令における圧縮強度を推定する方法であって、
前記ソイルセメントに含まれる土粒子の物理的性質、当該ソイルセメントに含まれるセメントミルクの配合割合及び当該セメントミルクの構成材料によって規定される施工条件を設定
する工程と、
当該施工条件下でのソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式を算出
する工程と、
前記施工条件として設定した注入率となるまでセメントミルクを注入して杭穴内にソイルセメントを造成施工する工程と、
前記杭穴内に造成施工された未固結状態のソイルセメントの密度を計測する工程と、
前記関係式に基づき、計測したソイルセメントの密度から前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度を推定する
工程と、を備え、
前記関係式を算出する工程において、
前記ソイルセメントの造成対象となる現地土又は該現地土と同様の物理的性質を有する人工土に加水あるいは減水して密度が異なる複数の試料土を作製し、
前記施工条件として設定した1つ又は複数のセメントミルクの注入率毎に前記各試料土についてソイルセメントを作製し、
前記各試料土から作製した前記各ソイルセメントの密度を測定するとともに、所定材令における圧縮強度を測定して、前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式を前記セメントミルクの注入率毎に算出し、
前記圧縮強度を推定する工程において、前記関係式に基づき、前記ソイルセメントを造成施工する工程で注入されたセメントミルクの注入率及び前記ソイルセメントの密度を計測する工程で計測したソイルセメントの密度から前記杭穴内に造成施工された所定材令のソイルセメントの圧縮強度を推定する
ことを特徴とするソイルセメントの圧縮強度推定方法にある。
【0011】
上記推定方法によれば、ソイルセメント造成現場の施工条件に応じた、ソイルセメントの所定材令の圧縮強度を推定する方法を提供できる。また、ソイルセメントの密度γscuと圧縮強度との関係を示す関係式は、採取した現地土又は該現地土と同様の物理的性質を有する人工土を用いて室内試験の結果から取得されるので、低コストでのデータ取得が可能となる。
【0012】
上記推定方法において、
前記セメントミルクの注入率毎に算出した前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との関係式は、
前記ソイルセメントの密度と前記所定材令のソイルセメントの圧縮強度との近似式であって、その寄与率は0.93以上であることを特徴とする。
【0013】
また、上記推定方法において、前記施工条件に基づいて作製されたソイルセメントに関する、既存の密度データ及び圧縮強度データが取得されている場合には、試料土を作製することなく、当該密度データ及び圧縮強度データを用いて前記関係式を算出することもできる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ソイルセメント造成現場の施工条件に応じた、ソイルセメントの所定材令における圧縮強度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明を実施するためのフローチャートである。
【
図2】ソイルセメントの密度γscu と一軸圧縮強度 qu28 との関係をセメントミルク注入率λごとに示すグラフである。
【
図3】セメント注入率を1つに定めて実施する場合のソイルセメントの密度γscu と一軸圧縮強度 qu28 との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、この発明を実施するためのフローチャートである。以下、このフローチャートにしたがって実施形態を説明する。
【0017】
A.現地土採取(ステップS1)
ソイルセメントの造成対象となる現地土をコアボーリングなどによって採取する。その際、造成ソイルセメントが例えば埋込み杭工法で造成される根固め部などである場合には、当該深度の現地土を採取する。
【0018】
B.ソイルセメントの密度γscuと一軸圧縮強度qu28との関係を示す関係式の算出(ステップS2)
採取した現地土に加水あるいは減水して密度γs が異なる複数の試料土を室内で作製する。そして、施工条件としてセメントミルク注入率λ(セメントミルク注入体積/対象土体積)を複数設定し(例えば、λ= 0.5,1.0,1.5,2.0)、設定したセメントミルク注入率λごとに、各試料土についてソイルセメントを作製する。ソイルセメントの作製後、当該ソイルセメントがまだ固まらないうちに(例えば、0 <材令X≦ 3 (日))、その密度γscuを測定する。
【0019】
また、作製したソイルセメントについて所定材令(例えば、材令Y= 28 日)まで養生した後、圧縮試験を行って一軸圧縮強度 qu28 を求める。以上の室内試験の結果得られたのが、
図2に示される、ソイルセメントの密度γscu と一軸圧縮強度 qu28 との関係(以下、γscu−qu28 関係ともいう。)を表すグラフである。
【0020】
なお、
図2のγscu−qu28 関係を求めるのに使用した対象土、セメントミルク材料及びそれらの物性値は次のとおりである。ただし、これらの対象土、材料、物性値は1例である。
対象土:珪砂(密度ρs=2.62t/m
3)
セメントミルク:高炉セメント(密度ρc=3.05t/m
3)
ベントナイト(密度ρb=2.60t/m
3)
水セメント比 65%
ベントナイト添加率 5%
【0021】
表1は、上記セメント注入率λごとに算出した、γscu−qu28 関係を示す関係式の1例である累乗近似式と、その寄与率R
2とを示している。すべての注入率λに関して寄与率R
2は 1.0 に近く、まだ固まらないソイルセメントの密度γscu と材令 28 日における一軸圧縮強度 qu28 は、λごとにほぼ 1:1 に対応している。したがって、一軸圧縮強度 qu28 は、ソイルセメントの密度γscu とセメントミルク注入率λによって1つに決まる。なお、γscu−qu28 関係を示す関係式は、グラフにおいて曲線で示される累乗近似式に限らず、直線で示される1次近似式となることもある。
【0023】
C.セメントミルク注入率λを設定してソイルセメント造成施工(ステップS3)
例えば、埋込み杭工法の場合は、攪拌羽根を有するスパイラルオーガーなどで地盤に杭穴を掘削した後、杭穴にオーガーから設定した注入率λとなるまでセメントミルクを注入する。そして、掘削土砂とセメントミルクとを攪拌混合してソイルセメントを造成する。
【0024】
D.ソイルセメントの密度γscu の計測(ステップS4)
杭穴内のまだ固まらないソイルセメントを試料採取器を用いて採取し、その密度γscu を計測する。このソイルセメントの密度計測は、上述した材令Xの範囲内で行うことが望ましい。
【0025】
E.ソイルセメントの密度γscu 及びセメントミルクの注入率λをステップS2で算出した関係式に適用(ステップS5)
採取したソイルセメントの密度γscu 及び設定したセメントミルクの注入率λを、
図2に示したγscu−qu28 関係を示す関係式に適用する。
【0026】
F.一軸圧縮強度 qu28 の推定(ステップS6)
例えば、セメントミルク注入率λをλ=1.0 と設定し、採取したソイルセメントの密度γscu の計測値がaであった場合、計測値aをλ=1.0 に対応する関係式に代入し、そのソイルセメントの材令 28 日における一軸圧縮強度qu28 はbと推定される。
【0027】
図2に示したγscu−qu28 関係データは、予め取得しておく数多くのデータの一部にすぎず、施工条件としての土の物理的性質やセメントミルクの構成材料などが変われば、それに応じたデータを取得しておくことになる。
施工条件を規定する土粒子の物理的性質には、土粒子の密度や粒度分布の違いなども含まれる。したがって、砂、礫、粘土などの同一の土質区分に属する土であっても、その物理的性質が異なれば施工条件が異なることになる。また、同様に施工条件を規定するセメントミルクの構成材料には、セメントの種類、水セメント比、ベントナイトの添加の有無、さらには当該ベントナイトが添加される場合にはその種類及び添加量が含まれる。
【0028】
上記実施形態ではソイルセメントの圧縮強度として一軸圧縮強度を採用したが、三軸圧縮強度を採用してもよい。この発明は、埋込み杭工法に限らず、ソイルセメント固結体を造成する工法であれば、地盤改良工法、地中連続壁工法等他の工法を実施する場合にも適用できる。
【0029】
上記実施形態によれば、ソイルセメント造成現場の施工条件に応じた、ソイルセメントの所定材令における圧縮強度を推定することができる。また、ソイルセメントの密度γscu と圧縮強度との関係を示す関係式は、採取した現地土を用いて室内試験の結果から取得されるので、低コストでのデータ取得が可能となる。
【0030】
上記実施形態では、ある現地土に対し複数のセメントミルク注入率λを設定してソイルセメントの密度γscu と所定材令における圧縮強度との関係を示す関係式を算出したが、セメントミルク注入率が1つのある値に決定されている場合には、
図3に示すように、当該セメント注入率のみで室内試験を行って関係式を求める。
【0031】
上記実施形態では現地土を採取して異なる密度の試料土を作製したが、現地土と同様の物理的性質を持つ人工土を作製し、これを用いて密度調整した試料土を作製してもよい。
【0032】
また、現地土採取の結果、適用予定の施工条件に基づいて作製されたソイルセメントに関する、既存の密度データ及び圧縮強度データが取得されている場合には、試料土やソイルセメントを必ずしも作製する必要がない。すなわち、これらの既存の密度データ及び圧縮強度データを用いて関係式を算出してもよい。
【0033】
上記実施形態では、地盤中に造成された直後のまだ固まらない、すなわち流動性を有するソイルセメントを採取して密度を測定したが、これに限らず、地盤中のソイルセメント中にセンサを挿入して密度を測定してもよい。また、実施工に伴って地盤中に造成されたソイルセメントを採取するのではなく、現地土(例えば地盤中の掘削土砂)を採取し、この現地土を用いて密度を測定するためのソイルセメントを作製するようにしてもよい。