(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不連続強化繊維からなるマットに熱可塑性樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂シートであって、前記シートは空隙を有する空隙層と実質的に空隙を有しない含浸層を有し、空隙層は含浸層の少なくとも片側に配置され、さらに空隙層と含浸層の境界面で強化繊維を共有し、空隙層と含浸層が実質的に同一のシートから構成される繊維強化樹脂シート。
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化樹脂シート。
請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートからなる第1の部材の空隙層に、熱可塑性樹脂から構成される別の成形体からなる第2の部材の熱可塑性樹脂が含浸してなる、一体成形品。
一体成形品中において第1の部材と第2の部材とが最大高さRy50μm以上、平均粗さRz30μm以上の凹凸形状を有して境界層を形成してなる、請求項11または12に記載の一体成形品。
請求項11〜13のいずれかに記載の一体成形品を製造する方法であって、前記第2の部材が射出成形による成形体であり、第2の部材をインサート射出成形ないしアウトサート射出成形により第1の部材に接合する、一体成形品の製造方法。
請求項11〜13のいずれかに記載の一体成形品を製造する方法であって、前記第2の部材がプレス成形による成形体であり、第2の部材をプレス成形により第1の部材に接合してなる、一体成形品の製造方法。
請求項11〜13のいずれかに記載の一体成形品が、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体として用いられる、実装部材。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0012】
本発明の繊維強化樹脂シートは、強化繊維からなるマットに熱可塑性樹脂が含浸されてなる繊維強化樹脂シートであって、前記シートは空隙を有する空隙層と実質的に空隙を有しない含浸層を有し、空隙層は含浸層の少なくとも片側に配置され、さらに空隙層と含浸層の境界面で強化繊維を共有し
、空隙層と含浸層が実質的に同一のシートから構成される。
【0013】
ここで、本発明の繊維強化樹脂シートについて、
図1を用いてより詳細に説明する。繊維強化樹脂シート1は強化繊維と熱可塑性樹脂からなり、空隙4(他の空隙については符号を省略している)を有する空隙層2と、熱可塑性樹脂により実質的に空隙を有しない含浸層3により構成される。かかる繊維強化樹脂シートは、空隙層と該空隙層以外の含浸層が実質的に同一のシートから構成される
本発明において、不連続強化繊維からなるマットとは、不連続の強化繊維から構成される面状体である。マットには、強化繊維以外に粉末形状や繊維形状の樹脂成分を含んでもよい。
【0014】
本発明の繊維強化樹脂シートは実質的に空隙を有さない含浸層の少なくとも一方に、空隙を有する空隙層を有する。この空隙4に、後述するように、一体成形品の製造時に第2の部材を構成する熱可塑性樹脂が流れ込み、境界面に複雑なアンカリング構造が形成され、優れた接合強度を発現する。また、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂の含浸度合いを制御することで、一体成形品の中央に空隙を残したサンドイッチ構造を形成する事ができ、このようなサンドイッチ構造体は優れた軽量化効果を有する。
【0015】
本発明の繊維強化樹脂シートにおいて、空隙層の空隙率は、通常65〜90体積%が好ましく、70〜90体積%であることが更に好ましい。この範囲とすることで、アンカリング構造による接合強度をより強固にすることができる。なお、実質的に空隙を有しない含浸層とは、通常空隙率が5体積%未満である含浸層であることを現す。
【0016】
本発明において、空隙層における空隙率は、例えば以下の方法により測定できる。ここで、空隙層と含浸層を有する繊維強化樹脂シートの拡大断面図を示した
図2を用いて説明する。
【0017】
空隙層における空隙率は、研磨、またはスライスにより切り出された空隙層から、JIS K7075(1991)に規定される「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」の燃焼法を参考にして算出される。また、研磨に際してはJIS R6253に準拠した耐水研磨紙を用いることができる。なお、空隙層とは、例えば
図2における空隙層と含浸層との境界面5から空隙層最外面6までの層を指す。
【0018】
ここで、空隙層と含浸層の境界面とは、含浸層の厚みから規定される空隙層と含浸層の実質的な層の区別点である。該含浸層の厚み算出の方法として、繊維強化樹脂シートの厚み方向における重量分率の変化より算出する方法が例示できる。該繊維強化樹脂シートを厚み方向にn等分し、1区間厚み分をスライス、または研磨により除去した残りのn―1区間分の重量W1を測定し、繊維強化樹脂シートの全重量W0に対する残留した区間の重量分率w1を算出する。続いて、同様に残留したn−1区間から、前除去区間に隣接する1区間分をスライス、または研磨により除去し、n−2区間重量W2を測定しさらに重量分率w2を算出する。以上の操作をn―1回繰り返し、各区間除去後の残留区分重量分率wiを算出する。以上の測定により、除去した厚みT=Σti(i=1、2、・・・、n−1)と、残留した繊維強化樹脂シート重量分率の相関関係を整理することで、
図3に例示されるような相関図が得られる。得られた相関図において傾きは、除去厚みにおける見掛け密度を意味しており、該傾きが変化する変曲点までの厚みが含浸層の厚みとなり、含浸層から空隙層へ遷移する面といえる。故に、
図3における、除去した厚みから含浸層厚みが特定され、すなわち境界面を特定することができる。なお、分割数nは10とすることで、精度よく所定厚みを除去することが可能で、かつ変曲点を十分見出すことができ、境界面を特定することができる。
【0019】
ここで、境界面の特定方法について
図3を用いてより詳細に説明する。
図3に本発明の繊維強化樹脂シートを10等分した場合の、除去した厚みと、除去後に残留した繊維強化樹脂シートの重量分率の関係の一例を示す。境界面とは、含浸層から空隙層へと遷移する面を指す。すなわち、線形領域(A)―(A’)の外挿線9と、線形領域(B)―(B’)の外挿線10の交点11が示す除去厚みが含浸層厚み12を意味し、つまり境界面までの距離として規定される。故に、境界面は含浸層と空隙層の見かけ密度変化を基に求められる。
【0020】
本発明において、通常、前記空隙層は強化繊維の起毛力により、連続した空隙として形成される。連続した空隙とは、繊維樹脂シートを樹脂の軟化点以上の温度に加熱させたときに、強化繊維の弾性率に起因した起毛力に伴うマットの膨張により生成した、互いに連結した空孔部分をいう。該空孔部分は
図1に例示されるように、強化繊維由来の空隙が生じ、熱可塑性樹脂が強化繊維を被覆するように付着した態様を示し、該空隙層と含浸層は、強化繊維が共有された状態となる。強化繊維が共有された状態とは、空隙層と含浸層の両層において、強化繊維からなる同一のマットから構成されている状態を指す。すなわち、空隙層と含浸層とを構成し共有している強化繊維と熱可塑性樹脂の関係は、いずれの層においても同等の強化繊維の体積割合で構成される状態をとる。なお、ここで、強化繊維の体積割合とは、強化繊維の体積と熱可塑性樹脂の体積の総計に対する強化繊維の体積の割合を意味している。これにより、繊維強化樹脂シートの空隙を保持することができる。また、一体成型品とした時に強固な接合性を発現することができる。
【0021】
本発明における強化繊維からなるマットは、互いに連結した空隙層を形成する観点から、不織布状形態を取ることが好ましい。ここで、不織布形態とは、強化繊維のストランドおよび/またはモノフィラメントが面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット、などが例示できる。ストランドとは、複数本の単繊維が並行配列して集合したもので、繊維束とも言われる。不織布形態のマットとすることで、起毛力が増加して適切な空隙率が確保される。
【0022】
前記不織布形態において、強化繊維が略モノフィラメント状に分散していることが、より好ましい。略モノフィラメント状に分散するとは、強化繊維からなるマットを構成する不連続強化繊維のうち、フィラメント数100本未満のストランドが50重量%以上含まれることを指す。強化繊維が略モノフィラメント状に分散することで、繊維強化樹脂シート中に複雑かつ緻密なネットワーク構造が形成され、より複雑な空隙を形成できる。これにより、一体成型品とした際に、第2の成形材料との境界層に緻密なアンカリング構造を形成し、一体成形品の境界層をより強固に接合できる。
【0023】
ここで、フィラメント数100本以上のストランド重量割合は、以下に例示する方法により測定される。繊維強化樹脂シートから樹脂の焼き飛ばし等により強化繊維から成るマットを取り出し、マットの重量(Wm)を測定する。視認されるストランドをピンセットにより全て抽出し、抽出されたストランドの長さLsを1/100mmの精度で、重量Wsを1/100mgの精度で測定する。経験上、視認により抽出できるストランドはフィラメント数100本以上であり、抽出後の残分のフィラメント数は100本未満である。また、のちに算出されるフィラメント数の結果において、フィラメント数が100本未満となる場合、これについてはWsの積算対象から除外する。i番目(i=1〜n)に抽出されたストランドの長さLsiおよび重量Wsiから、次式によりストランドにおけるフィラメント数Fiを算出する。ここで、式中におけるDはフィラメントの繊度(mg/mm)である。
・ Fi(本)=Wsi/(D×Lsi)
【0024】
上記にて算出されるFiをもとに、ストランドの選別をおこなう。
図4は、本発明の繊維強化樹脂シートのフィラメント数50本毎の階級別で見た、各階級に占める重量分率の内訳を示す。
図4において、フィラメント数の小さい側から2階級(フィラメント0〜100本)の棒グラフと、全ての棒グラフの総和との比率が、フィラメント数100本未満のストランドの重量分率Rw(wt%)に相当する。これは、上記にて実測された数値を用いて、次式により算出できる。
・ Rw(重量%)={Wm−Σ(Wsi)}/Wm×100
【0025】
前記不織布形態において、強化繊維がモノフィラメント状に分散しているものが、さらに好ましい。ここで、モノフィラメント状に分散しているとは、繊維強化樹脂シート中にて任意に選択した強化繊維について、その二次元接触角が1度以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指す。従って
図4において、強化繊維からなるマットにおけるフィラメント数100本以下のストランドの重量分率Rwが100%に該当する繊維強化樹脂シートのみを対象とする。
【0026】
二次元接触角とは、不連続の強化繊維の単繊維と該単繊維と接触する単繊維とで形成される角度のことであり、接触する単繊維同士が形成する角度のうち、0度以上90度以下の鋭角側の角度と定義する。この二次元接触角について、図面を用いてさらに説明する。
図5(a)、(b)は本発明における一実施態様であって、繊維強化樹脂シートの不連続強化繊維を面方向(a)および厚み方向(b)から観察した場合の模式図である。単繊維13を基準とすると、単繊維13は
図5(a)で単繊維14〜18と交わって観察されるが、
図5(b)では単繊維13は単繊維17および18とは接触していない。この場合、基準となる単繊維13について、二次元接触角度の評価対象となるのは単繊維14〜16であり、接触する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0度以上90度以下の鋭角側の角度19である。
【0027】
繊維強化樹脂シートから二次元接触角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、繊維強化樹脂シートの表面から強化繊維の配向を観察する方法が例示できる。この場合、繊維強化樹脂シートの表面を研磨して強化繊維を露出させることで、より強化繊維を観察しやすくなる。また、透過光を利用して強化繊維の配向を観察する方法が例示できる。この場合、繊維強化樹脂シートを薄くスライスすることで、強化繊維を観察しやすくなる。さらに、繊維強化樹脂シートをX線CTにより透過観察して強化繊維の配向画像を撮影する方法も例示できる。X線透過性の高い強化繊維の場合には、強化繊維にトレーサ用の繊維を混合しておく、あるいは強化繊維にトレーサ用の薬剤を塗布しておくと、強化繊維を観察しやすくなるため好ましい。また、上記方法で測定が困難な場合には、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて、強化繊維の配向を直接、観察する方法が例示できる。前記観察方法に基づき、繊維分散率は次の手順で測定する。無作為に選択した単繊維(
図5における単繊維13)に対して接触している全ての単繊維(
図5における単繊維14〜18)との二次元接触角を測定する。これを100本の単繊維についておこない、二次元接触角を測定した全ての単繊維の総本数と、二次元接触角が1度以上である単繊維の本数との比率から、割合を算出する。
【0028】
前記不織布形態において、強化繊維がランダムに分散していることが、より好ましい。ここで、強化繊維がランダムに分散しているとは、繊維強化樹脂シート中にて任意に選択した強化繊維の二次元配向角の平均値が30〜60度であることをいう。より好ましくは、40〜50度である。二次元配向角とは、強化繊維の単繊維と、該単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0度以上90度以下の鋭角側の角度と定義する。この二次元配向角について、図面を用いてさらに説明する。ここで、
図5にてマットからランダムに抽出した強化繊維分散状態の一例(a)、(b)を示す。
図5(a)、(b)において、単繊維13を基準とすると、単繊維13は他の単繊維14〜18と交差している。ここで交差とは、観察する二次元平面において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維13と単繊維14〜18が必ずしも接触している必要はなく、投影して見た場合に交わって観察される状態についても例外ではない。つまり、基準となる単繊維13について見た場合、単繊維14〜18の全てが二次元配向角の評価対象であり、
図5(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0度以上90度以下の鋭角側の角度19である。
【0029】
繊維強化樹脂シートから二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、構成要素の表面から強化繊維の配向を観察する方法が例示でき、上述した二次元接触角の測定方法と同様の手段を取ることができる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。無作為に選択した単繊維(
図5における単繊維13)に対して交差している全ての単繊維(
図5における単繊維14〜18)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び測定した平均値を代用してもよい。前記測定について別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その平均値を二次元配向角の平均値として算出する。強化繊維がランダムに分散することで、強化繊維の起毛により形成される空隙が、より複雑な空孔部分が形成される。
【0030】
前記不織布形態において、強化繊維がモノフィラメント状かつランダムに分散していることが、最も好ましい。
【0031】
また、繊維強化樹脂シート中における強化繊維の面外角度θzが5°以上であることが、繊維の起毛による最適な空隙に形成させる観点から好ましい。ここで、強化繊維の面外角度θzとは、繊維強化樹脂シートの厚さ方向に対する強化繊維の傾き度合いであって、値が大きいほど厚み方向に立つ、すなわち起毛していることを示す。θzは、0〜90°の範囲で与えられる。θzを5°以上とすることで、上述した空隙をより効果的に発生できる。θzの上限値は特に制限ないが、起毛力の限界や一体成形品とした際の繊維体積含有率を鑑みて、15°以下であることが好ましい。
【0032】
強化繊維の面外角度θzは、
図6に示す繊維強化樹脂シート20の面方向に対する垂直断面の観察に基づき測定する方法が、例示できる。
図6は、繊維強化樹脂シートの面方向に対する垂直断面(a)とその奥行き方向(b)を示すものである。
図6(a)において、強化繊維21、22の断面は、測定を簡便にするため、楕円形状に近似されている。ここで、強化繊維21の断面は、楕円アスペクト比(=楕円長軸/楕円短軸)が小さく見られ、対して強化繊維22の断面は、楕円アスペクト比が大きく見られる。一方、
図6(b)によると、強化繊維21は、奥行き方向Yに対してほぼ平行な傾きを持ち、強化繊維21は、奥行き方向Yに対して一定量の傾きを持っている。この場合、
図6(a)における断面22の強化繊維については、繊維強化樹脂シートの面方向Xと繊維主軸(楕円における長軸方向)αとがなす角度θxが、強化繊維の面外角度θzとほぼ等しくなる。一方、強化繊維21については、角度θxと面外角度θzの示す角度に大きな乖離があり、角度θxが面外角度θzを反映しているとはいえない。したがって、繊維強化樹脂シートの面方向に対する垂直断面から面外角度θzを読み取る場合、繊維断面の楕円アスペクト比が一定以上のものについて、抽出することで面外角度θzの検出精度を高めることができる。
【0033】
ここで、抽出対象となる楕円アスペクト比の指標としては、単繊維の断面形状が真円に近い、すなわち強化繊維の長尺方向に垂直な断面における繊維アスペクト比が1.1以下である場合、楕円アスペクト比が20以上の強化繊維についてX方向と繊維主軸αの為す角度を測定し、これを面外角度θzとして採用する方法を利用できる。一方、単繊維の断面形状が楕円形や繭形等であり、繊維アスペクト比が1.1より大きい場合には、より大きな楕円アスペクト比を持つ強化繊維に注目し、面外角度を測定した方がよく、繊維アスペクト比が1.1以上1.8未満の場合には楕円アスペクト比が30以上、繊維アスペクト比が1.8以上2.5未満の場合には楕円アスペクト比が40以上、繊維アスペクト比が2.5以上の場合には楕円アスペクト比が50以上の強化繊維を選び、面外角度θzを測定するとよい。
【0034】
本発明において、強化繊維からなるマットを構成する強化繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラスなどの絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレンなどの有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機繊維が挙げられる。軽量化効果の観点から炭素繊維が好ましく、PAN系炭素繊維がより好ましい。これらの繊維は表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理のほかに、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理などがある。また、これらの強化繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、得られる成形品の導電性を高める観点からは、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0035】
本発明において、強化繊維から成るマットの製造方法としては、強化繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や強化繊維を機械的にくし削りながら成形してシート化するカーディング法などの乾式プロセス、強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、さらにカードの目をファインにする方法や、カードの回転速度を調整する方法などが例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法などが例示できる。特に、湿式法で製造することが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したり、することで強化繊維からなるマットの強化繊維の割合Vfmを容易に調整することができる。例えば、分散液の流速に対して、メッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維からなるマット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維からなるマットを製造可能である。強化繊維からなるマットとしては、強化繊維単体から構成されていてもよく、強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
【0036】
本発明の繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが好ましく用いられる。
【0037】
前記群に例示された熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、エラストマーあるいはゴム成分などの耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有しても良い。これらの例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤が挙げられる。
【0038】
本発明の繊維強化樹脂シートは、強化繊維からなるマットに、融点もしくは軟化点以上に加熱された熱可塑性樹脂に圧力を付与して含浸させ、その後空隙層を形成させることで得ることができる。
【0039】
具体的には、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法として、少なくとも下記工程[1],[2]および[3]を有する製造方法が好ましく例示される。
工程[1]:熱可塑性樹脂を溶融もしくは軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、前記マットに熱可塑性樹脂を含浸せしめて繊維樹脂シートとする工程
工程[2]:次いで、繊維樹脂シートを冷却し、そこに含まれる熱可塑性樹脂を全体的に固化せしめる工程
工程[3]:次いで、熱可塑性樹脂が全体的に固化した繊維樹脂シートの少なくとも片表面を熱可塑性樹脂の溶融または軟化する温度以上に加熱し、強化繊維の起毛力により空隙層を形成する工程
【0040】
上記各工程について具体的に説明する。工程[1]では、熱可塑性樹脂と強化繊維マットが同一のキャビティ内へ投入される。熱可塑性樹脂並びに強化繊維マットは、予め所定のサイズにカットされ、積層された状態、連続体の状態、いずれであっても良い。熱可塑性樹脂を溶融もしくは軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与することで、熱可塑性樹脂が強化繊維マットへ実質的に含浸される。なお、圧力の付与は強化繊維マットの隅々まで、熱可塑性樹脂を実質的に完全に含浸させる必要があることから、一定の圧力付与時間を設けることが好ましい。また、キャビティ温度は用いる熱可塑性樹脂の溶融もしくは軟化する温度以上であることが必須である。
【0041】
次いで工程[2]にて、熱可塑性樹脂と強化繊維マットの含浸体が、熱可塑性樹脂の固化温度以下まで冷却されることで、空隙層を有さない実質的に含浸された繊維樹脂シートが得られる。なお、本工程では繊維樹脂シートの熱可塑性樹脂が固化するまでは、冷却中においても工程[1]と同じ圧力が付与されることが望ましい。加圧冷却とすることで、起毛力による不要な空隙を抑えることができる。
【0042】
次いで工程[3]では、空隙層を有さない繊維樹脂シートの少なくとも片表面を、加熱設備にて繊維樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂が軟化または溶融する温度まで加熱する。該熱可塑性樹脂が軟化または溶融することで強化繊維が開放され、強化繊維の起毛力により、空隙層が形成される。工程[3]は通常、工程[1]、[2]とは別の設備で行われる。工程[3]は、空隙層を形成する重要な工程であるため、温度が精密に制御されることが求められる。
【0043】
上記工程[1]、[2]を実現するための設備としては、圧縮成形機、ダブルベルトプレス、カレンダーロールを好適に用いることができる。バッチ式の場合は前者であり、加熱用と冷却用の2機を並列した間欠プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合は後者であって、ロールからロールへの加工を容易におこなうことができ、連続生産性に優れる。また、空隙層を形成する工程[3]の加熱設備としては、IRヒーターやヒートプラテンが例示できる。空隙層をより大きく形成したい場合は、均質に加熱でき、短時間で深い部分まで空隙層を形成できることから、非接触加熱方式の前者が好ましい。また、極表層だけを空隙層とする場合は後者であり、接触型加熱を用いることで極表層の熱可塑性樹脂だけを軟化または溶融させることができ、空隙層の成形性に優れる。
【0044】
また、本発明の繊維強化樹脂シートの製造方法として、少なくとも以下の[1],[2’]および[3’]を有する別の製造方法も例示できる。
工程[1]:熱可塑性樹脂を溶融もしくは軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、前記マットに熱可塑性樹脂を含浸せしめて繊維樹脂シートとする工程
工程[2’]:次いで、熱可塑性樹脂が溶融もしくは軟化した繊維樹脂シートに圧力を保持した状態で、その片表面を冷却して、冷却側の熱可塑性樹脂を固化せしめる工程
工程[3’]:次いで、もう片表面の熱可塑性樹脂が固化するより前に圧力を開放して、強化繊維の起毛力により空隙層を形成する工程
【0045】
上記方法を採用することにより、熱可塑性樹脂の含浸工程と空隙層の形成工程を単一のキャビティ内で完結する事が可能となる。工程[2’]は、工程[1]と同様の加圧状態で、繊維強化樹脂シートの一部分を冷却する工程であり、キャビティの片側を樹脂固化温度以下の温度にまで冷却し、片表面のみの熱可塑性樹脂を固化させる工程である。工程[3’]は加圧加熱、加圧冷却を行ったキャビティ内で、繊維樹脂シートの冷却面とは異なる面を起毛させ空隙層を形成する工程である。工程[2’]にて繊維強化樹脂シートの全域が固化温度以下に到達する前に、キャビティを開放することが重要である。空隙層を形成する表面側のキャビティは熱可塑性樹脂の軟化または溶融温度以上であることが好ましい。これにより、繊維樹脂シート全域が固化してしまうことを防ぐ事ができる。
【0046】
上記工程[1],[2’]および[3’]を実現するための設備としては、圧縮成形機、ダブルベルトプレス、カレンダーロールを挙げることができる。バッチ式の場合は圧縮成形機を用いることができ、加熱用と冷却用の2機を並列した間欠プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。連続式の場合はダブルベルトプレス、カレンダーロールであって、ロールからロールへの加工を容易におこなうことができ、連続生産性に優れる。
【0047】
本発明の繊維強化樹脂シートは、それを第1の部材として用いて、その空隙層に、熱可塑性樹脂から構成される別の成形体からなる第2の部材の熱可塑性樹脂を含浸せしめて一体成形品とすると、かかる繊維強化樹脂シートと第2の部材が強固に接合した一体成形品を得ることができる。
【0048】
かかる一体成型品は、前記繊維強化樹脂シートを含んでなる成形体であって、前記繊維強化樹脂シートを少なくとも一層含んだ積層体と第2の部材とを成形してなる、一体成形品である。一体成形品において優れた接合性を得る観点から、第2の部材を構成する成分は、本発明の繊維強化樹脂シートにおける空隙に含浸する必要があるため、熱可塑性樹脂をマトリックスとする材料である。具体的には、プレス成形向けシート、射出成形体が例示できる。マトリックス樹脂の種類は、繊維強化樹脂シートと第2の部材で、同じでも異なっていてもよい。繊維強化樹脂シートを構成する強化繊維が第2の部材と共有され、かつ樹脂同士が複雑なアンカリング構造を形成することで、従来一体化しても接合が困難であった素材同士を強固に接合することができる。
【0049】
第2の部材には強化繊維を含んでいても良い。第2の部材に用いられる強化繊維、マトリックス樹脂は、前述の繊維強化樹脂シートを構成する材料群から適宜選択でき、同一であっても異なっていてもよい。なお、本発明では、第1の部材を構成する熱可塑性樹脂と第2の部材を構成する熱可塑性樹脂が互いに相溶しないものとしても、第1の部材と第2の部材を強固に接合できるという、より際立った効果を奏する。
【0050】
本発明の一体成形品において、繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂と上記第2の部材を構成する熱可塑性樹脂は、最大高さRy50μm以上、平均粗さRz30μm以上の凹凸形状を有する境界層を形成することが、より強固な接合のために好ましい。ここで、本発明の一体成形品における、維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂と、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂とが形成する境界層について、
図7を用いて詳細に説明する。
図7は、一体成形品23における繊維強化樹脂シートと第2の部材との境界層の断面図である。Xは一体成形品の面方向、Zは厚み方向を表す。繊維強化樹脂シートのマトリックス樹脂24と第2の部材を構成する熱可塑性樹脂25とが、強化繊維からなるマット(図示せず)に含浸されており、凹凸形状を有する境界面26が形成されている。かかる境界面は、厚み方向Zにおいて、複数の凹部と凸部を有しており、そのうち、最も窪みの大きい凹部27と最も突出した凸部28とのZ方向における差をdmaxとして定義する。なお、凹部27は図上において独立した島状に見られるが、これも含めて、最も侵入量の深い部分を凹凸部それぞれの端部と解釈する。一方、境界層における凹凸形状のうち、最も窪みの小さい凹部29と最も突出の小さい凸部30とのZ方向における落差をdminとして定義する。ここで、dmaxが本発明で言うところの最大高さRyとなり、dmaxとdminの平均値が本発明で言うところの平均粗さRzとして定義される。
【0051】
かかる境界層は、最大高さRy50μm以上、平均粗さRz30μm以上の凹凸形状を有して形成されていることが好ましい。かかる態様をとることにより、繊維強化樹脂シートと第2の部材を構成する熱可塑性樹脂との強固な接合を有する一体成形品が与えられる。より好ましくは、Ry300μm、Rz100μm以上である。なお、RyとRzは繊維強化樹脂シートを構成する強化繊維マットの起毛力と関連しており、前述したように、モノフィラメントかつランダム分散のマットを用いることで、複雑かつ連結した空孔を形成し、空孔が含浸媒体となることで、RyおよびRzの値をより大きくすることができる。
【0052】
かかる境界層における最大高さRyおよび平均粗さRzの測定法としては、一体成形品の断面観察による方法が例示できる。一体成形品の厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨された試料を用意する。前記試料を顕微鏡にて観察することで、視野中において
図7に相当する像が確認できる。ここから、上記にて定義される、凹凸界面のうち、最も窪みの大きい凹部と最も突出の大きい凸部との差dmax、最も窪みの小さい凹部と最も突出の小さい凸部との差dminをそれぞれ測定する。この操作を異なる像について10回おこない、測定されるdmaxのうち、最も大きい値を境界層における凹凸形状の最大高さRy(μm)とする。また、測定されるdmaxおよびdminの総和をN数で除した値を、境界層における凹凸形状の平均粗さRzとする。
【0053】
前記一体成形品において、アンカリング構造を有する境界層では、本発明の繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂により皮膜された強化繊維の一部が、前記第2の部材を構成する熱可塑性樹脂と共有されている。強化繊維を共有する様態は、強化繊維樹脂シートの厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨された試料を用意することで、観察できる。一体成形品の境界層を構成する強化繊維と熱可塑性樹脂の態様の一例を
図8に例示する。
図8は、一体成形品の境界面の厚さ方向の断面図であり、繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂32と、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂33との境界面において、強化繊維が共有されている。共有される態様は具体的には、
図8における34の様に、強化繊維が、繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂および/または、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂に皮膜されている態様が挙げられる。また、
図8における35のように、繊維強化樹脂シートを構成する熱可塑性樹脂と、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂を貫通した態様も例示できる。いずれの態様においても、異樹脂間の境界層の形成と、その強固な接合に重要な役割を持つ。共有する強化繊維はモノフィラメント状、および/または数本からなるストランドであり、本発明の繊維強化樹脂シートを構成する強化繊維が本態様をとっても良いし、第2の部材が強化繊維を含む場合は、第2の部材を構成する強化繊維が本態様をとっても良く、第1、第2の部材を構成するそれぞれの強化繊維がどちらもが本態様をとっても良い。
【0054】
上述した一体成形品は、本発明の繊維強化樹脂シートと第2の部材とを、加熱および加圧、さらに冷却工程を有する手段にて成形することにより与えることができる。ここで、一体成形品を得るにあたり、部材同士を予め積層して積層体としていてもよい。積層単位については特に制限はないが、少なくとも空隙層部分を接合面に配置することで強固な接合を得ることができる。前記積層体には、本発明の繊維強化樹脂シートに加え、他の積層単位を含むことができる。かかる積層単位の構成は特には制限されないが、例えば、連続繊維で補強された熱可塑性樹脂をマトリックスとするUDテープ、不連続強化繊維で補強された、GMT、SMC、などの繊維強化基材、あるいは、樹脂シート、発泡体、などの非繊維強化成形基材、が挙げられる。なかでも、得られる成形体の力学特性の観点からは、繊維強化成形基材であることが好ましく用いることができる。
【0055】
かかる一体成形品を得るための加熱および加圧を有する一般的な手段としては、プレス成形法が例示できる。プレス成形法としては、予め成形型を中間基材ないし積層体の成形温度以上に昇温しておき、加熱された成形型内に中間基材ないし積層体を配置し、型締めして加圧し、次いでその状態を維持しながら成形型を冷却し成形品を得る方法、いわゆるホットプレス成形がある。また、成形温度以上に加熱された中間基材ないし積層体を、中間基材ないし積層体の固化温度未満に保持された成形型に配置し、型締めして加圧し、次いでその状態を維持しながら中間基材ないし積層体を冷却し成形品を得る方法、いわゆるスタンピング成形やヒートアンドクール成形等がある。これらプレス成形方法のうち、成形サイクルを早めて生産性を高める観点からは、スタンピング成形ないしヒートアンドクール成形が好ましい。
【0056】
前記第1の部材と第2の部材とを接合させる手段は、特に限定されない。例えば、(i)第1の部材と第2の部材とを別々に予め成形しておき、両者を接合する方法、(ii)第1の部材を予め成形しておき、第2の部材を成形すると同時に両者を接合する方法、がある。前記(i)の具体例としては、第1の部材をプレス成形し、第2の部材をプレス成形ないし射出成形にて作製する。作製したそれぞれの部材を、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、抵抗溶着、誘導加熱溶着、などの公知の溶着手段により接合する方法がある。一方、前記(ii)の具体例としては、第1の部材をプレス成形し、次いで射出成形金型にインサートし、第2の部材を形成する材料を金型に射出成形し、溶融ないし軟化状態にある材料の熱量で第1の部材の被着面を溶融ないし軟化させて接合する方法がある。また、前記(ii)の別の具体例としては、第1の部材をプレス成形し、次いでプレス成形金型内に配置し、第2の部材を形成する材料をプレス成形金型内にチャージし、プレス成形することで、前記と同様の原理で接合する方法がある。一体成形品の量産性の観点からは、好ましくは(ii)の方法であって、射出成形としてインサート射出成形やアウトサート射出成形、および、プレス成形としてスタンピング成形やヒートアンドクール成形が好ましく使用される。すなわち、第2の部材が射出成形による成形体であり、第2の部材をインサート射出成形またはアウトサート射出成形により第1の部材に接合するか、第2の部材がプレス成形による成形体であり、第2の部材をプレス成形により第1の部材に接合するのが、本発明の一体成形品を製造するのに特に好ましく用いられる。
【0057】
本発明の一体成形品により与えられる実装部材の用途としては、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケース」などの電気、電子機器部品、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム、プロペラシャフト、ホイール、ギアボックスなどの、サスペンション、アクセル、またはステアリング部品」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジなどの、外板、またはボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツなど外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュールなどの内装部品」、または「モーター部品、CNGタンク、ガソリンタンク、燃料ポンプ、エアーインテーク、インテークマニホールド、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」などの自動車、二輪車用構造部品、「その他、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、バッテリートレイ、ATブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、スペアタイヤカバー、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、スカッフプレート、フェイシャー」、などの自動車、二輪車用部品、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ」などの航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体に好ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材に好適である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0059】
(1)境界面の特定方法
繊維強化樹脂シートから幅25mm、長さ50mmの小片を切り出し、質量W0を1/100gの精度で測定し、また厚みを1/100mmの精度で測定した。続いて、測定された厚みを10等分に分割した際の1区間分の厚みtを算出した。算出された厚みtを研磨により除去した。本研磨は、JIS B7513(1992)に準拠した精密定盤の上で、JIS R6253(2006)に規定される粒度P1500の耐水研磨紙を用いて所定厚みを湿式研磨した。この時、研磨と残留した厚みの測定を交互に繰り返して、削り過ぎが無いように注意深く研磨した。次いで残留した繊維強化樹脂シートの質量W1を1/100gまで測定し、研磨前の全繊維強化樹脂シートの質量W0に対する重量分率w1を次式を用いて算出した。
・wi=(Wi/W0)×100
Wi:i区間目を除去した後に残留した繊維強化樹脂シートの質量(g)
wi:研磨前の全繊維強化樹脂シートの質量W0に対する、i区間目を除去した後に残留した繊維強化樹脂シートの重量分率(重量%)
【0060】
次いで、残留した繊維強化樹脂シートの研磨面側を、同様にしてtだけ研磨し、残留した繊維強化樹脂シートの質量W2を測定した。以上の作業を9回繰り返し、x軸に除去した厚みT=i×t、y軸に残留した繊維強化樹脂シートの重量分率wi(i=0、1、2、・・・、9)をプロットし、
図3に例示される相関図を作成した。得られた相関図より、W0からW3を繋ぐ外挿線(
図3における9)と、W7からW9を繋ぐ外挿線(
図3における10)を作成し、2直線の交点における除去厚み、つまり含浸層厚み、すなわち研磨前の底面から境界面までの距離を相関図上にて求めた。
【0061】
(2)空隙層の空隙率測定方法
繊維強化樹脂シートから幅50mm、長さ50mmの小片を切り出し、(1)にて特定した境界面を基に、繊維強化樹脂シートの空隙層部分を研磨により丁寧に削り出して単離した。本研磨についても(1)の境界面の特定方法と同様の方法を用いて研磨した。単離した空隙層を、試験片として、2枚のステンレス製メッシュ(2.5cm当たり50個のメッシュを有する平織形状)に挟み、繊維強化樹脂シートが動かないようにネジを調整して固定した。これを空気中500℃で30分間加熱し、樹脂成分を焼き飛ばした(焼き飛ばし法)。焼き飛ばした後に残る強化繊維について質量の測定を行い、得られた質量より、JIS K7075(1991)に規定される「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法」を参考にして、次式を用いて空隙率を算出した。
・Vv=100−(Vf+Vr)
・Vf=(Wf×ρc)/ρf
・Vr=((100−Wf)×ρc)/ρr
・Wf=(W’/W)×100
W:試験片の質量(g)
W’:焼き飛ばした後に残る強化繊維の質量(g)
Wf:試験片の繊維質量含有率(%)
Vf:試験片の繊維体積含有率(体積%)
Vv:空隙率(体積%)
Vr:試験片の樹脂体積含有率(体積%)
ρc:試験片の密度(g/cm
3)
ρf:試験片に用いられている炭素繊維の密度(g/cm
3)
【0062】
(3)強化繊維からなるマットにおける細繊度ストランドの重量分率(Rw)
繊維強化樹脂シートから幅25mm、長さ25mmの小片を切り出し、それを試験片として、上記(2)と同様の焼き飛ばし法にて樹脂成分を焼き飛ばして、強化繊維からなるマットを取り出し、重量Wmを測定した。次いで、強化繊維からなるマットから、視認されるストランドをピンセットにより抽出し、1/100mmの精度でストランドの長さLs、1/100mgの精度でストランドの重量Wsを測定した。これを強化繊維からなるマット中に存在する全てのストランド(n個)について繰り返した。得られたストランドの長さLsおよび重量Wsから、次式によりストランドにおけるフィラメント数Fを算出した。
・Fi(本)=Wsi/(D×Lsi)
Fi:ストランドにおけるフィラメント数の個別値(本)(i=1〜n)
Wsi:ストランドの重量(mg)
Lsi:ストランドの長さ(mm)
D:フィラメント1本当たりの繊度(mg/mm)
【0063】
前記にて算出されたFiをもとに、フィラメント数が100本以上のストランドを選別した。選別したストランドの重量Wiから次式にて、フィラメント数が100本未満の重量分率Rwを算出した。
・Rw(重量%)={Wm−Σ(Wsi)}/Wm×100
Wm:強化繊維からなるマットの重量(mg)
【0064】
(4)強化繊維からなるマットの繊維分散率
上記(3)と同様の方法にて、繊維強化樹脂シートから強化繊維からなるマットを取り出した。得られた強化繊維からなるマットを電子顕微鏡(キーエンス(株)製、VHX−500)を用いて観察し、無作為に単繊維を1本選定し、該単繊維に接触する別の単繊維との二次元接触角を測定した。二次元接触角は接触する2つの単繊維とのなす2つの角度のうち、0°以上90°以下の角度(鋭角側)を採用した。二次元接触角の測定は、選定した単繊維に接触する全ての単繊維を対象とし、これを100本の単繊維について実施した。得られた結果から、二次元接触角を測定した全ての単繊維の総本数と、二次元接触角度が1度以上である単繊維の本数とからその比率を算出し、繊維分散率を求めた。
【0065】
(5)強化繊維からなるマットの二次元配向角
上記(3)と同様の方法にて、繊維強化樹脂シートから強化繊維からなるマットを取り出した。得られた強化繊維からなるマットを電子顕微鏡(キーエンス(株)製、VHX−500)を用いて観察し、無作為に単繊維を1本選定し、該単繊維に交差する別の単繊維との二次元配向角を画像観察より測定した。配向角は交差する2つの単繊維とのなす2つの角度のうち、0°以上90°以下の角度(鋭角側)を採用した。選定した単繊維1本あたりの二次元配向角の測定数はn=20とした。同様の測定を合計5本の単繊維を選定しておこない、その平均値をもって二次元配向角とした。
【0066】
(6)繊維強化樹脂シート中における強化繊維の面外角度θz
繊維強化樹脂シートから幅25mm、長さ25mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋した上で、シート厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。前記試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK−9510)で400倍に拡大し、繊維断面形状の観察をおこなった。観察画像を汎用画像解析ソフト上に展開し、ソフトに組み込まれたプログラムを利用して観察画像中に見える個々の繊維断面を抽出し、該繊維断面を内接する楕円を設け、形状を近似した(以降、繊維楕円と呼ぶ)。さらに、繊維楕円の長軸長さα/短軸長さβで表されるアスペクト比が20以上の繊維楕円に対し、X軸方向と繊維楕円の長軸方向の為す角を求めた。繊維強化樹脂シートの異なる部位から抽出した観察試料について上記操作を繰り返すことにより、計600本の強化繊維について面外角度を測定し、その平均値を繊維強化樹脂シートの面外角度θzとして求めた。
【0067】
(7)一体成型品の境界層における凹凸形状(Ry、Rz)
繊維強化樹脂シートから幅25mm、長さ25mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋したうえで、シート厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。前記試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK−9510)で200倍に拡大し、無作為に選定した10ヶ所(互いの視野は重複しない)について、撮影をおこなった。撮影した画像から、第1の部材を構成する熱可塑性樹脂と、第2の部材を構成する熱可塑性樹脂とが形成する境界層を、樹脂のコントラストにより確認した。コントラストが不鮮明な場合は、画像処理により濃淡を明確化した。上記にて撮影した10視野について、それぞれの視野中における凹凸界面のうち、最も窪みの大きい凹部と最も突出の大きい凸部との垂直落差dmax、最も窪みの小さい凹部と最も突出の小さい凸部との垂直落差dminをそれぞれ測定した。これら各視野による10点のdmaxのうち、最も大きい値を境界層における凹凸形状の最大高さRy(μm)とした。また、上記にて得られたdmaxおよびdminから、境界層における凹凸形状の平均粗さRzを、次式により算出した。
・Rz(μm)=Σ(dimax+dimin)/2n
dimax:各視野における最大垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
dimin:各視野における最小垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
n:測定視野数
【0068】
(8)一体成形品における接合部のせん断強度τ2
JIS K6850(1999)に規定される「接着剤−剛性被着材の引張せん断接着強さ試験法」を参考して、一体成形品における接合部のせん断強度τ2の評価をおこなった。本試験における試験片は、実施例で得られる一体成形品の平面部分を切り出して使用した。試験片を
図9に示す。試験片36は長さlの異なる位置にて、試験片両表面から厚さhの中間深さh
1/2に到達する幅wの切欠き37が挿入された形状であって、前記中間深さh
1/2の位置にて第1の部材と第2の部材との接合部が形成されている。前記試験片を5本用意し、万能試験機(インストロン社製、万能試験機4201型)にて引張試験をおこなった。試験により得られた全てのデータ(n=5)の平均値を、一体成形品における接合部のせん断強度τ2(MPa)とした。
【0069】
[強化繊維1]
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の連続炭素繊維を得た。さらに該連続炭素繊維を電解表面処理し、120℃の加熱空気中で乾燥して強化繊維1を得た。この強化繊維1の特性は次に示す通りであった。
密度:1.80g/cm
3
単繊維径:7μm
引張強度:4.9GPa
引張弾性率:230GPa
【0070】
[樹脂シート1]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるマスターバッチを用いて、目付100g/m
2のシートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0071】
[樹脂シート2]
ポリアミド6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)からなる目付124g/m
2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0072】
[樹脂シート3]
ナイロン66樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM3006)からなる目付126g/m
2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0073】
[樹脂シート4]
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)H−4000)からなる目付132g/m
2の樹脂フィルムを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0074】
[樹脂シート5]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)M2888)からなる目付67g/m
2の樹脂マットを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0075】
[樹脂シート6]
変性ポリフェニレンエーテル樹脂(SABIC(株)製“NORYL”(登録商標)PPX7110)からなる目付100g/m
2のシートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0076】
[強化繊維マット1]
強化繊維1をカートリッジカッターで6mmにカットし、チョップド強化繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテスク(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1重量%の分散媒を40リットル作製し、かかる分散媒を抄造装置に投入した。抄造装置は、回転翼付き攪拌機を備えた上部の抄造槽(容量30リットル)と、下部の貯水槽(容量10リットル)からなり、抄造槽と貯水槽の間には多孔支持体を設けてある。まず、かかる分散媒を攪拌機にて空気の微小気泡が発生するまで撹拌した。その後、所望の目付となるように、重量を調整したチョップド強化繊維を、空気の微小気泡が分散した分散媒中に投入して攪拌することにより、強化繊維が分散したスラリーを得た。次いで、貯水層からスラリーを吸引し、多孔支持体を介して脱水して強化繊維抄造体とした。前記抄造体を熱風乾燥機にて150℃、2時間の条件下で乾燥させ、目付け100g/m
2の強化繊維マット1を得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
【0077】
[強化繊維マット2]
強化繊維マットの目付けを200g/m
2とした以外は、強化繊維マット1と同様の方法によって、強化繊維マット2を得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
【0078】
[強化繊維マット3]
強化繊維マットの目付けを50g/m
2とした以外は、強化繊維マット1と同様の方法によって、強化繊維マット2を得た。得られた強化繊維マットの特性を表2に示す。
【0079】
[強化繊維マット4]
強化繊維1を並行に引き揃え、1.2本/cmの密度で一方向に配列してシート状の強化繊維群を形成した。強化繊維1を、1.2本/cmの密度で、前記強化繊維群と直交する方向に配列し、強化繊維1同士を交錯させ、織機を用いて平織組織の二方向性織物を形成した。前記二方向性織物を強化繊維マット4として取り扱った。強化繊維マットの特性を表2に示す。
【0080】
[GMT]
ガラス繊維強化ポリプロピレン樹脂成形材料(GMT)(Quadrant社製、“ユニシート”(登録商標)P4038−BK31)を実施例1と同様の方法にて成形し、1.6mmの厚みに形成されたGMTを得た。
【0081】
[PPコンパウンド]
強化繊維1と樹脂シート1を作製した際に用いたマスターバッチとを、2軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX−30α)を用いてコンパウンドし、繊維含有量30重量%の射出成形用ペレット(PPコンパウンド)を製造した。
【0082】
(実施例1)
不連続強化繊維のマットとして強化繊維マット1と、熱可塑性樹脂として樹脂シート1を[樹脂シート1/強化繊維マット1/樹脂シート1/強化繊維マット1/樹脂シート1/強化繊維マット1/樹脂シート1]の順番に配置し、積層体を作製した。前記積層体を220℃の金型温度に予熱したプレス成形金型に配置し、120秒間保持した後、4MPaの圧力を付与してさらに120秒間保持した。圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却し、金型を開いて熱可塑性樹脂が完全含浸された繊維樹脂シートを得た。得られた繊維樹脂シートの片側表面を200℃に設定したヒートプラテン上にて3分間加熱し、強化繊維の起毛力によってスプリングバックさせ、繊維強化樹脂シートを得た。得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として用い、予め強化繊維マット1に樹脂シート2を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂を第2の部材として用いて、繊維強化樹脂シートの空隙層面が第2の部材との接合面となるように、第1の部材である繊維強化樹脂シートと第2の部材との積層体を作成した。このとき、前記積層体のうち、第2の部材は予めIRヒータにて予熱温度270℃に加熱しておいた。プレス成形用金型を下型が220℃、上型が270℃の温度で保持された状態として、前記積層体を下側に第1の部材、上側に第2の部材になるようプレス成形金型に配置して金型を閉じ、3MPaの圧力を付与して60秒間保持した後、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却し、金型を開いて一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0083】
(実施例2)
繊維樹脂シートのヒートプラテン上での加熱時間を3分から1分に変更した以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0084】
(実施例3)
繊維樹脂シートのヒートプラテン上での加熱時間を3分から2分に変更した以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0085】
(実施例4)
繊維樹脂シートのヒートプラテン上での加熱時間を3分から30秒に変更した以外は実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0086】
(実施例5)
第2の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート2から樹脂シート3に変更し、一体成形品を得る工程におけるIRヒータの予熱温度、ならびにプレス金型の上型温度をともに270℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0087】
(実施例6)
第2の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート2から樹脂シート4に変更し、一体成形品を得る工程におけるIRヒータの予熱温度、ならびにプレス金型の上型温度をともに270℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0088】
(実施例7)
第2の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート2から樹脂シート5に変更し、一体成形品を得る工程におけるIRヒータの予熱温度、ならびにプレス金型の上型温度をともに270℃から300℃に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0089】
(実施例8)
第2の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート2から樹脂シート6に変更し、一体成形品を得る工程におけるIRヒータの予熱温度、ならびにプレス金型の上型温度をともに270℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
【0090】
(実施例9)
第1の部材に用いる強化繊維マットを、強化繊維マット1から強化繊維マット2に変更した以外は、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
(実施例10)
第1の部材に用いる強化繊維マットを、強化繊維マット1から強化繊維マット3に変更した以外は、実施例1と同様にして第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。一方、第2の部材として、GMTを230℃に保持されたヒートプラテンに配置して、0.1MPaの圧力を付与しながら1分間予熱した。次いで、得られた繊維強化樹脂シートの空隙層面を接合面となるように、上下共に120℃に予熱されたプレス成形用金型内に配置し、その上に予熱が完了したGMTを重ねて配置して金型を閉じ、15MPaの圧力を付与した状態で120秒間保持して、50℃まで金型冷却し、一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表3に示す。
(実施例11)
第1の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート1から樹脂シート2に変更し、繊維樹脂シートを得る際の金型温度と、繊維樹脂シートに空隙層を形成する際のヒートプラテンの設定温度を200℃から270℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として、該繊維強化樹脂シートの空隙層を有する面を接合面となるように射出成形用金型にインサートして、PPコンパウンドを用いて、第2の部材を射出成形し、
図7に示すような一体成形品38を得た。この時、射出成形機のシリンダー温度は200℃、金型温度は60℃であった。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表4に示す。
(実施例12)
第1の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート1から樹脂シート3に変更し、繊維樹脂シートを得る際の金型温度と、繊維樹脂シートに空隙層を形成する際のヒートプラテンの設定温度を200℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として、実施例11と同様の方法にて一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表4に示す。
(実施例13)
第1の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート1から樹脂シート4に変更し、繊維樹脂シートを得る際の金型温度と、繊維樹脂シートに空隙層を形成する際のヒートプラテンの設定温度を200℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として、実施例11と同様の方法にて一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表4に示す。
(実施例14)
第1の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート1から樹脂シート5に変更し、繊維樹脂シートを得る際の金型温度と、繊維樹脂シートに空隙層を形成する際のヒートプラテンの設定温度を200℃から300℃に変更した以外は、実施例1と同様にして第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として、実施例11と同様の方法にて一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表4に示す。
(実施例15)
第1の部材に用いる樹脂シートを、樹脂シート1から樹脂シート6に変更し、繊維樹脂シートを得る際の金型温度と、繊維樹脂シートに空隙層を形成する際のヒートプラテンの設定温度を200℃から280℃に変更した以外は、実施例1と同様にして第1の部材である繊維強化樹脂シートを得た。さらに、得られた繊維強化樹脂シートを第1の部材として、実施例11と同様の方法にて一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表4に示す。
(比較例1)
実施例1で得られた繊維樹脂シートを、スプリングバックを生じる工程を経ず、つまり空隙率が0体積%の繊維強化樹脂シートとした。第1の部材をその空隙率が0体積%の繊維強化樹脂シートに変更した以外は、実施例1と同様にして一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表5に示す。
(比較例2)
不連続強化繊維のマットとして強化繊維マット1に代えて、強化繊維マット4を用いた以外は比較例1と同様にして繊維強化樹脂シートおよび一体成形品を得た。得られた繊維強化樹脂シート(第1の部材)および一体成形品の特性をまとめて表5に示す
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
実施例1〜4において、ヒートプラテン上で加熱する時間を変化させたが、いずれも空隙層と含浸層を共有した繊維強化樹脂シートが得られていることから、第2の材料と一体化した際、異樹脂の複雑な含浸を促進させることができた為、一体成形品として十分な接合がなされた。加えて、強化繊維の面外角度θzも好適な態様にあったため、第2の部材中の熱可塑性樹脂と良好な境界層を形成し、実用に耐えうる十分な接合強度が得られた。特に実施例1〜3では、空隙率がより好ましい範囲で形成したことにより、境界層における最大高さRy、平均粗さRzが十分なサイズにまで成長し、より理想的な境界層が形成されていることで格段に高い接合強度を示した。一方で実施例2や実施例4の様に、空隙率が小さい場合は、境界層における最大高さRy、平均粗さRzも小さくなるが、この場合においても同一シートに空隙層と含浸層とが形成されたことで、一体成形品の境界層において強化繊維を共有した為、十分な接合強度が得られている。
【0097】
また、実施例5〜10において、いずれにおいても、空隙率がより好ましい範囲にあたる繊維強化樹脂シートを得ることができた。さらに該繊維強化樹脂シートから得た一体成形品は、第1の部材のスプリングバックに基づく空隙により、融点または軟化点の異なる異樹脂で構成される部材においても、適切なアンカリング構造を形成し強化繊維を共有したことで、十分な接合強度を有しており実用に問題のない一体成形品を得ることができた。これは強化繊維からなる繊維強化樹脂シート中の空隙部が異樹脂の複雑な含浸を促進して、境界層における最大高さRy、平均粗さRzを十分なサイズにまで成長させたことにより理想的な境界層が形成されていることに加え、強化繊維の面外角度θzも好適な態様にあったため、第2の部材中の熱可塑性樹脂と良好な境界層を形成しているためである。プレス成形法による一体成型品として、例えば
図10に記載の一体成形品が例示できる。
【0098】
また、実施例11〜15においても、空隙層と含浸層とを共有した各種樹脂シートを得ることができ、さらに該繊維強化樹脂シートから得た一体成形品は、第1の部材のスプリングバックに基づく空隙に、第2の材料がインサートされ、適切なアンカリング構造を形成し強化繊維を共有したことにより、十分な接合強度を有しており実用に問題のない一体成形品を得ることができた。
【0099】
しかし、比較例1においては強化繊維マットを使用したが、繊維強化樹脂シートが強化繊維マットに基づくスプリングバックによる空隙を有さないため、接合部における熱可塑性樹脂のアンカリング構造、または強化繊維の共有が不十分であり一体成形品の接合強度が不十分であった。比較例2では強化繊維が束状かつ連続した状態で存在しているため、第2の材料を構成する熱可塑性樹脂が境界層にて十分な含浸が得られず、また強化繊維の共有状態が得られなかった為、接合強度が不十分であった。
【0100】
さらに、特許文献1、2における多孔質一体成型品は接合性について検討されておらず、また強化繊維の共有についての明記もない。比較例1と同様に強化繊維が共有されていない態様であることから、接合性は必ずしも高いものではなく、本発明における実施例1〜14に対し接合性は劣る。