特許第6248498号(P6248498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許6248498-全固体電池およびその製造方法 図000006
  • 特許6248498-全固体電池およびその製造方法 図000007
  • 特許6248498-全固体電池およびその製造方法 図000008
  • 特許6248498-全固体電池およびその製造方法 図000009
  • 特許6248498-全固体電池およびその製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248498
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】全固体電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20171211BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20171211BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171211BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M10/052
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-194079(P2013-194079)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-60737(P2015-60737A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年6月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134566
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 和俊
(72)【発明者】
【氏名】尾内 倍太
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】林 剛司
(72)【発明者】
【氏名】石倉 武郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰佑
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238545(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/073290(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/035526(WO,A1)
【文献】 特開2007−005279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層または負極層の少なくとも一方の電極層と、樹脂を含有する固体電解質層と、を含む未焼成体を作製する未焼成体作製工程と、
前記未焼成体を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体を焼成する焼成工程と、を備え、
前記未焼成体作製工程において、少なくとも前記固体電解質層を含む未焼成体に脱樹脂促進剤として、酸化物、水酸化物、および、オキシ水酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種である遷移金属含有化合物を0.1重量%以上含ませる、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記未焼成体作製工程において、前記未焼成体を構成する材料に対して前記遷移金属含有化合物を0.1重量%以上10重量%以下含ませる、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記未焼成体作製工程において、前記未焼成体を形成するスラリーに前記遷移金属含有化合物を添加することによって、前記未焼成体に前記遷移金属含有化合物を含ませる、請求項1または請求項2に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
前記未焼成体作製工程において、前記未焼成体を形成するスラリーと前記遷移金属イオンを含む溶液とを混合することによって、前記未焼成体に前記遷移金属含有化合物を含ませる、請求項1または請求項2に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属が、鉄、ニッケル、銅、クロム、バナジウム、銀、チタン、および、ニオブからなる群より選ばれた少なくとも一種である、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属含有化合物が、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、酸化銅、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化銀、酸化チタン、および、酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも一種である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項7】
前記未焼成体は、グリーンシートまたは印刷層の形態を有する、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項8】
前記電極層に含まれる固体電解質材料と、前記固体電解質層に含まれる固体電解質材料とが、リチウム含有リン酸化合物を含む、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項9】
前記固体電解質材料が、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含む、請求項に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の製造方法によって製造された全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯用パーソナルコンピュータ等の携帯用電子機器の電源として電池の需要が大幅に拡大している。このような用途に用いられる電池においては、イオンを移動させるための媒体として有機溶媒等の電解質(電解液)が従来から使用されている。
【0003】
しかし、上記の構成の電池では、電解液が漏出するという危険性がある。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質である。このため、電池の安全性をさらに高めることが求められている。
【0004】
そこで、電池の安全性を高めるための一つの対策は、電解質として、電解液に代えて、固体電解質を用いることが提案されている。さらに、電解質として固体電解質を用いるとともに、その他の構成要素も固体で構成されている全固体電池の開発が進められている。
【0005】
たとえば、特開2007−5279号公報(以下、特許文献1という)には、全固体電池の製造方法として、リン酸化合物を含む活物質と固体電解質とを、それぞれ、バインダおよび可塑剤を含む溶液中に分散させて、スラリーを作製し、これらのスラリーを成形して得られた活物質グリーンシートと固体電解質グリーンシートとを積層し、バインダおよび可塑剤を熱分解させて除去した後、焼成することによって、全固体電池の積層体を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−5279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように焼成によって得られた全固体電池の積層体においては、バインダおよび可塑剤等の樹脂が十分に除去されていないために、樹脂の残留物としての炭素または炭化物が固体電解質層の内部に残存する。
【0008】
また、固体電解質層の主成分である固体電解質材料は、電極活物質材料および導電材料に比べて、樹脂を分解または燃焼させる作用が小さいので、全固体電池の積層体を構成する各層のうち、固体電解質層が最も樹脂を除去し難い層である。
【0009】
したがって、樹脂の残留物によって固体電解質層に電子伝導性が生じることにより、固体電解質層を経由して正極層と負極層との間で内部短絡を引き起こす恐れがある。また、樹脂の残留物によって全固体電池の充放電特性が低下するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、樹脂の除去を促進させることが可能な全固体電池の製造方法とその製造方法によって得られた全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らが上記の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、少なくとも固体電解質層の未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成することによって、樹脂の除去を促進させることができることを見出した。このような発明者らの知見に基づいて、本発明は以下の特徴を備えている。
【0012】
本発明に従った全固体電池の製造方法は、正極層または負極層の少なくとも一方の電極層と、樹脂を含有する固体電解質層と、を含む未焼成体を作製する未焼成体作製工程と、未焼成体を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、積層体を焼成する焼成工程とを備える。未焼成体作製工程において、少なくとも固体電解質層を含む未焼成体に脱樹脂促進剤として、酸化物、水酸化物、および、オキシ水酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種である遷移金属含有化合物を0.1重量%以上含ませる。
【0014】
また、未焼成体作製工程において、未焼成体を構成する材料に対して遷移金属含有化合物を0.1重量%以上10重量%以下含ませることが好ましい。
【0015】
さらに、未焼成体作製工程において、未焼成体を形成するスラリーに遷移金属含有化合物を添加することによって、未焼成体に遷移金属含有化合物を含ませることが好ましい。
【0016】
あるいは、未焼成体作製工程において、未焼成体を形成するスラリーと遷移金属イオンを含む溶液とを混合することによって、未焼成体に遷移金属含有化合物を含ませることが好ましい。
【0017】
遷移金属は、鉄、ニッケル、銅、クロム、バナジウム、銀、チタン、および、ニオブからなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0019】
具体的には、遷移金属含有化合物は、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、酸化銅、酸化クロム、酸化バナジウム、酸化銀、酸化チタン、および、酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明の全固体電池の製造方法において、未焼成体は、グリーンシートまたは印刷層の形態を有していればよい。
【0021】
電極層に含まれる固体電解質材料と、固体電解質層に含まれる固体電解質材料とは、リチウム含有リン酸化合物を含むことが好ましい。
【0022】
上記の固体電解質材料は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の全固体電池は、上述した特徴を有する製造方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、少なくとも固体電解質層を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成することによって、樹脂の除去を促進させることができ、樹脂の残留に起因した電池性能の低下を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一つの実施形態として全固体電池積層体の断面構造を模式的に示す断面図である。
図2】固体電解質層において脱樹脂促進剤としての酸化鉄(Fe23)含有量と伝導度との関係を示す図である。
図3】固体電解質層において脱樹脂促進剤としての酸化鉄(Fe23)含有量と炭素含有量との関係を示す図である。
図4】固体電解質層において含有される種々の脱樹脂促進剤と伝導度との関係を示す図である。
図5】固体電解質層において含有される種々の脱樹脂促進剤と炭素含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示すように、本発明の製造方法が適用される一つの実施の形態としての全固体電池積層体10は、正極層11、固体電解質層13、負極層12の順に積層された積層体で構成される。固体電解質層13の一方面に正極層11が配置され、固体電解質層13の一方面と反対側の他方面に負極層12が配置されている。いいかえれば、正極層11と負極層12とは、固体電解質層13を介して互いに対向する位置に設けられている。なお、正極層11と負極層12のそれぞれは、少なくとも電極活物質を含み、さらに固体電解質を含んでもよい。固体電解質層13は固体電解質を含む。正極層11と負極層12のそれぞれは、電子導電材として、炭素、金属、酸化物等を含んでもよい。
【0027】
上記のように構成された全固体電池積層体10を製造するために、本発明では、まず、正極層11または負極層12の少なくとも一方の電極層と固体電解質層13とを含む未焼成体を作製する(未焼成体作製工程)。その後、作製された未焼成体を積層して積層体を形成する(積層体形成工程)。そして、得られた積層体を焼成する(焼成工程)。未焼成体作製工程において、少なくとも固体電解質層13を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませる。
【0028】
このようにして、少なくとも固体電解質層13を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成することによって、樹脂の除去を促進させることができる。これにより、樹脂の残留に起因した電池性能の低下を抑制することが可能になる。
【0029】
なお、少なくとも固体電解質層13を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませないで未焼成体を焼成すると、樹脂の残留物としての炭素または炭化物が固体電解質層13の内部に残存する。また、固体電解質層13の主成分である固体電解質材料は、電極活物質材料および導電材料に比べて、樹脂を分解または燃焼させる作用が小さいので、全固体電池積層体10を構成する各層のうち、固体電解質層13が最も樹脂を除去し難い層である。したがって、樹脂の残留物によって固体電解質層13に電子伝導性が生じることにより、固体電解質層13を経由して正極層11と負極層12との間で内部短絡を引き起こす恐れがある。本発明によれば、少なくとも固体電解質層13を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成することによって、上記の問題を解消することができるとともに、樹脂の残留に起因した電池性能の低下を抑制することが可能になる。
【0030】
樹脂の除去を促進させる作用効果を有する材料であれば、脱樹脂促進剤の種類は限定されないが、遷移金属含有化合物であることが好ましい。
【0031】
また、未焼成体作製工程において、未焼成体を構成する材料に対して遷移金属含有化合物を0.1重量%以上10重量%以下含ませることが好ましい。遷移金属含有化合物の含有量が0.1重量%未満であれば、焼成工程において樹脂の分解または燃焼を促進させる作用効果を十分に得ることができない恐れがあるが、遷移金属含有化合物の含有量が0.1重量%以上であれば、上記の作用効果を得ることができる。遷移金属含有化合物の含有量が10重量%を超えると、固体電解質層13のイオン伝導度が大きく低下するため、十分な充放電特性を得ることができない恐れがあるが、遷移金属含有化合物の含有量が10重量%以下であれば、固体電解質材料が本来的に示すイオン伝導度を維持することができる。
【0032】
さらに、未焼成体作製工程において、未焼成体を形成するスラリーに遷移金属含有化合物を添加することによって、未焼成体に遷移金属含有化合物を含ませることが好ましい。未焼成体を形成するスラリーに遷移金属含有化合物を添加することによって、遷移金属含有化合物が均一に分散した未焼成体を作製することができるので、焼成工程において樹脂の分解または燃焼を促進させる作用効果を効率的に得ることができる。
【0033】
あるいは、未焼成体作製工程において、未焼成体を形成するスラリーと遷移金属イオンを含む溶液とを混合することによって、未焼成体に遷移金属含有化合物を含ませることが好ましい。この場合、未焼成体を乾燥してスラリーに含まれる溶剤を除去する工程において、遷移金属を含む化合物が、未焼成体に含まれる無機材料、すなわち、固体電解質材料の表面に析出するため、遷移金属を含む化合物が均一に分散した未焼成体を作製することができ、焼成工程において樹脂の分解または燃焼を促進させる作用効果を効率的に得ることができる。遷移金属塩、錯体塩などをスラリーに直接、溶解させることによって、スラリーと遷移金属イオンを含む溶液とを混合してもよい。
【0034】
樹脂の除去を促進させる作用効果を有する材料であれば、遷移金属含有化合物の種類は限定されないが、遷移金属は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、銀(Ag)、チタン(Ti)、および、ニオブ(Nb)からなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。また、遷移金属含有化合物は、酸化物、水酸化物、および、オキシ水酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。具体的には、遷移金属含有化合物は、酸化鉄(Fe23、Fe34、FeO)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、酸化ニッケル(Ni23、NiO)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、酸化銅(CuO、Cu2O)、酸化クロム(Cr23)、酸化バナジウム(V25、V23)、酸化銀(AgO、Ag2O)、酸化チタン(TiO2)、および、酸化ニオブ(Nb25)からなる群より選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0035】
なお、本発明の全固体電池の製造方法において、未焼成体は、グリーンシートまたは印刷層の形態を有していればよい。
【0036】
正極層11または負極層12の少なくとも一方の電極層に含まれる固体電解質材料と、固体電解質層13に含まれる固体電解質材料とは、リチウム含有リン酸化合物を含むことが好ましい。上記の固体電解質材料は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を含むことが好ましい。
【0037】
本発明の全固体電池積層体10は、上述した特徴を有する製造方法によって製造されたものである。
【0038】
なお、本発明の製造方法が適用される全固体電池積層体10の正極層11または負極層12に含まれる電極活物質の種類は限定されないが、正極活物質としては、Li32(PO43などのナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、LiFePO4、LiMnPO4などのオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、LiCoO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32などの層状化合物、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54などのスピネル型構造を有するリチウム含有化合物を用いることができる。
【0039】
負極活物質としては、MOx(MはTi、Si、Sn、Cr、FeおよびMoからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の元素であり、xは0.9≦x≦2.0の範囲内の数値である)で表わされる組成を有する化合物を用いることができる。たとえば、TiO2とSiO2、などの異なる元素Mを含むMOxで表わされる組成を有する2つ以上の活物質を混合した混合物を用いてもよい。また、負極活物質としては、黒鉛-リチウム化合物、Li‐Alなどのリチウム合金、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、Li4Ti512などの酸化物、などを用いることができる。
【0040】
また、本発明の製造方法が適用される全固体電池積層体10の正極層11、負極層12、または、固体電解質層13に含まれる固体電解質の種類は限定されないが、固体電解質としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を用いることができる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物は、化学式Lixy(PO43(化学式中、xは1≦x≦2、yは1≦y≦2の範囲内の数値であり、MはTi、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれた1種以上の元素である)で表わされる。この場合、上記化学式においてPの一部をB、Siなどで置換してもよい。たとえば、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43とLi1.2Al0.2Ti1.8(PO43などの、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の異なる組成を有する2つ以上の化合物を混合した混合物を用いてもよい。
【0041】
また、上記の固体電解質に用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を含む粉末、または、熱処理によりナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスを用いてもよい。
【0042】
なお、上記の固体電解質に用いられる材料としては、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物以外に、イオン伝導性を有し、電子伝導性が無視できるほど小さい材料を用いることが可能である。このような材料として、たとえば、ハロゲン化リチウム、窒化リチウム、リチウム酸素酸塩、および、これらの誘導体を挙げることができる。また、リン酸リチウム(Li3PO4)などのLi‐P‐O系化合物、リン酸リチウムに窒素を混ぜたLIPON(LiPO4-xx)、Li4SiO4などのLi‐Si‐O系化合物、Li‐P‐Si‐O系化合物、Li‐V‐Si‐O系化合物、La0.51Li0.35TiO2.94、La0.55Li0.35TiO3、Li3xLa2/3-xTiO3などのぺロブスカイト型構造を有する化合物、Li、La、Zrを有するガーネット型構造を有する化合物、などを挙げることができる。
【0043】
本発明の製造方法が適用される全固体電池積層体10の正極材料、固体電解質材料、または、負極材料の少なくとも一つの材料が、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質を含むことが好ましい。この場合、全固体電池の電池動作に必須となる高いイオン伝導性を得ることができる。また、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物の組成を有するガラス粉末、または、ガラスセラミックス粉末を固体電解質として用いると、焼成工程においてガラス相の粘性流動により、より緻密な焼結体を容易に得ることができるため、ガラス粉末、または、ガラスセラミックス粉末の形態で固体電解質の出発原料を準備することが特に好ましい。
【0044】
また、本発明の製造方法が適用される全固体電池積層体10の正極材料または負極材料の少なくとも一つの材料が、リチウム含有リン酸化合物からなる電極活物質を含むことが好ましい。この場合、焼成工程において電極活物質が相変化すること、または、電極活物質が固体電解質と反応することをリン酸骨格の高い温度安定性により容易に抑制することができるため、全固体電池の容量を高くすることができる。また、リチウム含有リン酸化合物からなる電極活物質と、ナシコン型構造のリチウム含有リン酸化合物からなる固体電解質とを組み合わせて用いると、焼成工程において電極活物質と固体電解質との反応を抑制することができるとともに、両者の良好な接触を得ることができるため、上記のように電極活物質と固体電解質の材料を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0045】
さらに、本発明の製造方法が適用される全固体電池積層体10に形成される集電体層は電子伝導材料を含む。電子伝導材料は、導電性酸化物、金属、および、炭素材料からなる群より選ばれた少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0046】
上記の全固体電池積層体10の製造方法において焼成された積層体を、たとえばコインセル内に封止してもよい。封止方法は特に限定されない。たとえば、焼成後の積層体を樹脂で封止してもよい。また、Al23等の絶縁性を有する絶縁体ペーストを積層体の周囲に塗布またはディップして、この絶縁ペーストを熱処理することにより封止してもよい。
【0047】
なお、正極層11と負極層12から効率的に電流を引き出すため、正極層11と負極層12の上に炭素層、金属層、酸化物層等の集電体層を形成してもよい。集電体層の形成方法は、たとえば、スパッタリング法が挙げられる。また、金属ペーストを塗布またはディップして、この金属ペーストを熱処理してもよい。
【0048】
積層体形成工程では、正極層11、固体電解質層13、および、負極層12の未焼成体を積層して単電池構造の未焼成積層体を形成することが好ましい。さらに、積層体形成工程において、集電体の未焼成体を介在させて、上記の単電池構造の積層体を複数個、積層して積層体を形成してもよい。この場合、単電池構造の積層体を複数個、電気的に直列、または並列に積層してもよい。
【0049】
上記の未焼成体を形成する方法は特に限定されないが、グリーンシートを形成するためにドクターブレード法、ダイコーター、コンマコーター等、または、印刷層を形成するためにスクリーン印刷等を使用することができる。上記の未焼成電極層と未焼成固体電解質層を積層する方法は特に限定されないが、熱間等方圧プレス、冷間等方圧プレス、静水圧プレス等を使用して未焼成電極層と未焼成固体電解質層を積層することができる。
【0050】
グリーンシートまたは印刷層を形成するためのスラリーは、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルと、(正極活物質および固体電解質、負極活物質および固体電解質、固体電解質、または、集電体材料)とを湿式混合することによって作製することができる。湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法、ビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法、ニーダー分散法等を用いることができる。グリーンシートまたは印刷層を成形するためのスラリーに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを用いることができ、これらの樹脂のうち少なくとも1種をスラリーが含む場合に、本発明の作用効果を得ることができる。
【0051】
スラリーは可塑剤を含んでもよい。可塑剤の種類は特に限定されないが、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル等のフタル酸エステル等を使用してもよい。
【0052】
焼成工程では、雰囲気は特に限定されないが、電極活物質に含まれる遷移金属の価数が変化しない条件で行うことが好ましい。焼成温度は400℃以上1000℃以下であることが好ましい。
【0053】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(実施例A)
以下、固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに、脱樹脂促進剤の一例である酸化鉄(Fe23)を含ませてグリーンシートを焼成することによって固体電解質層を作製して、樹脂の除去促進効果を検証した一例について説明する。
【0055】
まず、脱樹脂促進剤としてのFe23粉末が固体電解質層の主材に対して以下の表1に示す重量%で含まれるように、Fe23粉末と、固体電解質材料としてのLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末とを混合することによって、試料番号102〜107の固体電解質層の主材を作製した。試料番号101の固体電解質層の主材は、固体電解質材料としてのLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末からなる。得られた主材とポリビニルアセタール樹脂とアルコールとを、85:15:140の重量比率で混合することによって、固体電解質層を形成するためのスラリーを作製した。得られたスラリーを厚みが10μmのグリーンシートに成形した。得られたグリーンシートを直径が10mmの円形状に打ち抜いた。この円形状のグリーンシートを10枚積層して固体電解質層の未焼成体を作製した。この未焼成体を、2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、未焼成体からポリビニルアセタール樹脂を除去するために1体積%の酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中にて500℃の温度で焼成した後、窒素ガス雰囲気中にて650℃の温度で焼成することにより、固体電解質層の焼成体を作製した。
【0056】
得られた試料番号101〜107の固体電解質層の外観を観察した。
【0057】
その結果、Fe23を含まない試料番号101の固体電解質層については、その外観が樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する黒色または灰色であり、樹脂の残留物が固体電解質層の内部に大量に残存していることが確認された。このような固体電解質層を用いて固体電池を作製した場合には、固体電解質層に電子伝導性が生じ、固体電解質層を経由した正極層と負極層との間で内部短絡を引き起こす恐れがあるため、好ましくない。
【0058】
Fe23含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、Fe23含有量が増加するにしたがって、その外観は固体電解質材料に由来する白色の占める割合が大きくなった。Fe23含有量が5.0重量%以上である試料番号105〜107の固体電解質層については、その外観はFe23に由来する赤茶色の占める割合が大きくなった。Fe23含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、樹脂の残留物に由来する黒色または灰色は確認されず、相対的に樹脂の残留物が少量であることが確認された。したがって、Fe23含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、樹脂の除去が効果的に進行したことが確認された。
【0059】
次に、得られた試料番号101〜107の固体電解質層の各々の白金(Pt)のスパッタリングで電極を形成し、周波数0.1〜1MHz、振幅100mVの条件で伝導度を測定した。得られた伝導度の値が1×10-2S/cm以上であれば電子伝導度を示し、1×10-3S/cm以下であればイオン伝導度を示すものと判断した。
【0060】
また、試料番号101〜107の固体電解質層の各々に含まれる炭素含有量をCS計で測定した。
【0061】
これらの測定結果を表1と図2図3に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1と図2から、Fe23含有量が0.1重量%以上10.0重量%以下である試料番号102〜106の固体電解質層については、伝導度が1×10-5S/cmの桁であり、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43によるイオン伝導度性を示すことが確認された。Fe23を含まない試料番号101の固体電解質層については、伝導度が3.0×10-2S/cmであり、樹脂の残留物により固体電解質層に電子伝導性が生じたことが確認された。Fe23含有量が20.0重量%である試料番号107の固体電解質層については、イオン伝導度が大きく低下することが確認された。
【0064】
なお、表1と図3から、Fe23含有量が増大するにしたがって、固体電解質層に含まれる炭素含有量が減少することが確認された。
【0065】
したがって、脱樹脂促進剤の一例であるFe23を固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに含ませることにより、樹脂を除去する効果が促進されるとともに、Fe23含有量、すなわち脱樹脂促進剤の含有量は0.1重量%以上10.0重量%以下であることが好ましいことが確認された。
【0066】
(実施例B)
以下、固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに、脱樹脂促進剤として種々の遷移金属酸化物を含ませてグリーンシートを焼成することによって固体電解質層を作製して、樹脂の除去促進効果を検証した一例について説明する。
【0067】
まず、以下の表2に示す遷移金属酸化物粉末が固体電解質層の主材に対して3.0重量%で含まれるように、遷移金属酸化物粉末と、固体電解質材料としてのLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末とを混合することによって、試料番号202〜212の固体電解質層の主材を作製した。試料番号201の固体電解質層の主材は、固体電解質材料としてのLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末からなる。
【0068】
実施例Aに記載された製造方法と同様にして、固体電解質層の焼成体を作製した。
【0069】
得られた試料番号201〜212の固体電解質層の外観を観察した。
【0070】
その結果、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層については、その外観が樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する黒色または灰色であり、樹脂の残留物が固体電解質層の内部に大量に残存していることが確認された。脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層については、その外観には樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する明確な黒色は見られなかった。
【0071】
次に、得られた試料番号201〜212の固体電解質層の各々について、実施例Aに記載された測定方法と同様にして、伝導度と炭素含有量を測定した。
【0072】
これらの測定結果を表2と図4図5に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2と図4から、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層については、伝導度が3.0×10-2S/cmであり、樹脂の残留物により固体電解質層に電子伝導性が生じたことが確認された。脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層の伝導度は、1×10-6〜10×10-4S/cmの範囲内であり、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43によるイオン伝導度性を示すことが確認された。
【0075】
なお、表2と図5から、脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層の炭素含有量は、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層に比べて、固体電解質層に含まれる炭素含有量が減少することが確認された。
【0076】
したがって、脱樹脂促進剤として種々の遷移金属酸化物を固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに含ませることにより、樹脂を除去する効果が促進されることが確認された。
【0077】
なお、上記の実施形態A、Bでは、脱樹脂促進剤としてのFe23はα―Fe23(III)を使用したが、β相、γ相などの他の結晶形の酸化鉄を用いてもよい。TiO2
アナターゼ型酸化チタンを用いたが、他の結晶形でもよい。他の遷移金属酸化物についても、樹脂を除去する効果が得られるのであれば、いずれの結晶形でもよい。
【0078】
(実施例C)
以下、脱樹脂促進剤を含むグリーンシートを焼成して作製した全固体電池の実施例1〜11と、脱樹脂促進剤を含まないグリーンシートを焼成して作製した全固体電池の比較例1について説明する。
【0079】
まず、実施例1〜11と比較例1の全固体電池を作製するために、正極層、負極層、および、固体電解質層の出発材料として、以下のようにして、各主材を調製し、各スラリーを作製し、各スラリーを用いて各グリーンシートを作製した。
【0080】
<各主材の調製>
<正極主材1の調製>
正極活物質材料であるLi32(PO43の組成を有するナシコン型構造の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、導電剤としての炭素粉末とを、45:45:10の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0081】
<正極主材2の調製>
正極活物質材料であるLi32(PO43の組成を有するナシコン型構造の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、導電剤としての炭素粉末と、脱樹脂促進剤であるFe23粉末とを、45:44:10:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0082】
<固体電解質主材1の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末を主材として用いた。
【0083】
<固体電解質主材2の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるFe23粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0084】
<固体電解質主材3の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるFe34粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0085】
<固体電解質主材4の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるCuO粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0086】
<固体電解質主材5の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるCu2O粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0087】
<固体電解質主材6の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるV25粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0088】
<固体電解質主材7の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるV23粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0089】
<固体電解質主材8の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるAg2O粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0090】
<固体電解質主材9の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるTiO2粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0091】
<固体電解質主材10の調製>
Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるNb25粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0092】
<負極主材1の調製>
負極活物質材料であるアナターゼ型酸化チタン(TiO2)の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、導電材としての炭素粉末とを、45:45:10の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0093】
<負極主材2の調製>
負極活物質材料であるアナターゼ型酸化チタン(TiO2)の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、導電材としての炭素粉末と、脱樹脂促進剤であるFe23粉末とを、45:44:10:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0094】
<各スラリーの作製>
上記で調製された各主材と、ポリビニルアセタール樹脂と、アルコールとを、85:15:140の質量比率で混合して、正極スラリー1、2、固体電解質スラリー1〜10、負極スラリー1、2を作製した。
【0095】
なお、固体電解質スラリー11は、次のようにして作製した。Li1.4Al0.4Ge1.6(PO43の組成を有するガラス粉末と、ポリビニルアセタール樹脂と、0.03Mの塩化鉄(III)六水和物を溶解したアルコールとを、85:15:140の重量比率で混
合して、固体電解質スラリー11を作製した(これは、未焼成体としてのグリーンシートを形成するスラリーと、脱樹脂促進剤としての遷移金属イオンを含む溶液とを混合する場合に相当する)。なお、固体電解質スラリー11に含まれる固体電解質材料と、スラリーに溶解した塩化鉄との重量比率は、概ね99:1であるので、固体電解質スラリー11に含まれる脱樹脂促進剤の含有量は、固体電解質スラリー2〜10と同等とした。
【0096】
<各グリーンシートの作製>
上記で作製された各スラリーを厚みが10μmになるようにシート成形し、さらに、25mm×15mmの平面寸法になるように切断して、正極層シート1、2、固体電解質層シート1〜11、負極層シート1、2を作製した。
【0097】
<全固体電池の作製>
以上のようにして得られた正極層シート1、2、固体電解質層シート1〜11、および、負極層シート1、2を用いて、実施例1〜11、比較例1の全固体電池を作製した。実施例1〜11、比較例1の全固体電池の正極層、固体電解質層、および、負極層に用いられるグリーンシートの構成は、以下の表3に示すとおりである。
【0098】
【表3】
【0099】
正極層シートを3枚、固体電解質層シートを10枚、負極層シートを2枚の順で積層することによって、実施例1〜11、比較例1の全固体電池の各積層体を作製した。各積層体をさらに10mm×10mmの平面寸法になるように切断した。その後、各積層体を2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、未焼成体からポリビニルアセタール樹脂を除去するために1体積%の酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中にて500℃の温度で焼成した後、窒素ガス雰囲気中にて650℃の温度で焼成することにより、焼成体として実施例1〜11、比較例1の全固体電池積層体を作製した。
【0100】
正極層および負極層の表面上にスパッタリングによって、集電体層として白金(Pt)層を形成した。その後、100℃の温度で乾燥し、水分を除去した後、2032型のコインセルで封止して実施例1〜11、比較例1の全固体電池を作製した。
【0101】
<全固体電池の評価>
以上のようにして得られた実施例1〜11と比較例1の固体電池を、25℃の温度に保持した恒温槽に入れ、正極活物質材料の重量に対して約0.2Cの電流に相当する60μAの電流で3.25Vの電圧まで充電し、3.25Vの電圧で5時間保持した後に、3時間休止し、60μAの電流で0Vの電圧まで放電した後に、3時間休止した。このサイクルを3サイクル実施し、3サイクル目の放電容量を以下の表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
以上の結果から、固体電解質層が脱樹脂促進剤を含まない比較例1の全固体電池は放電容量が極めて小さく、固体電解質層を介した正負極層の内部短絡を生じたものと考えられる。固体電解質層が脱樹脂促進剤を含む実施例1〜11の全固体電池は、放電容量が高く、優れた充放電特性を有することが確認された。特に正負極層と固体電解質層とが脱樹脂促進剤を含む実施例10の全固体電池は、同種の脱樹脂促進剤が固体電解質層のみに含まれる実施例1の全固体電池に比べて放電容量が高く、正負極層が脱樹脂促進剤を含むことによって、充放電特性が向上することが確認された。
【0104】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
少なくとも固体電解質層を含む未焼成体に脱樹脂促進剤を含ませて未焼成体を焼成することによって、樹脂の除去を促進させることができ、樹脂の残留に起因した電池性能の低下を抑制することが可能になるので、本発明は固体電池の製造に特に有用である。
【符号の説明】
【0106】
10:全固体電池積層体、11:正極層、12:負極層、13:固体電解質層。
図1
図2
図3
図4
図5