【実施例】
【0054】
(実施例A)
以下、固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに、脱樹脂促進剤の一例である酸化鉄(Fe
2O
3)を含ませてグリーンシートを焼成することによって固体電解質層を作製して、樹脂の除去促進効果を検証した一例について説明する。
【0055】
まず、脱樹脂促進剤としてのFe
2O
3粉末が固体電解質層の主材に対して以下の表1に示す重量%で含まれるように、Fe
2O
3粉末と、固体電解質材料としてのLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末とを混合することによって、試料番号102〜107の固体電解質層の主材を作製した。試料番号101の固体電解質層の主材は、固体電解質材料としてのLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末からなる。得られた主材とポリビニルアセタール樹脂とアルコールとを、85:15:140の重量比率で混合することによって、固体電解質層を形成するためのスラリーを作製した。得られたスラリーを厚みが10μmのグリーンシートに成形した。得られたグリーンシートを直径が10mmの円形状に打ち抜いた。この円形状のグリーンシートを10枚積層して固体電解質層の未焼成体を作製した。この未焼成体を、2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、未焼成体からポリビニルアセタール樹脂を除去するために1体積%の酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中にて500℃の温度で焼成した後、窒素ガス雰囲気中にて650℃の温度で焼成することにより、固体電解質層の焼成体を作製した。
【0056】
得られた試料番号101〜107の固体電解質層の外観を観察した。
【0057】
その結果、Fe
2O
3を含まない試料番号101の固体電解質層については、その外観が樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する黒色または灰色であり、樹脂の残留物が固体電解質層の内部に大量に残存していることが確認された。このような固体電解質層を用いて固体電池を作製した場合には、固体電解質層に電子伝導性が生じ、固体電解質層を経由した正極層と負極層との間で内部短絡を引き起こす恐れがあるため、好ましくない。
【0058】
Fe
2O
3含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、Fe
2O
3含有量が増加するにしたがって、その外観は固体電解質材料に由来する白色の占める割合が大きくなった。Fe
2O
3含有量が5.0重量%以上である試料番号105〜107の固体電解質層については、その外観はFe
2O
3に由来する赤茶色の占める割合が大きくなった。Fe
2O
3含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、樹脂の残留物に由来する黒色または灰色は確認されず、相対的に樹脂の残留物が少量であることが確認された。したがって、Fe
2O
3含有量が0.1重量%以上である試料番号102〜107の固体電解質層については、樹脂の除去が効果的に進行したことが確認された。
【0059】
次に、得られた試料番号101〜107の固体電解質層の各々の白金(Pt)のスパッタリングで電極を形成し、周波数0.1〜1MHz、振幅100mVの条件で伝導度を測定した。得られた伝導度の値が1×10
-2S/cm以上であれば電子伝導度を示し、1×10
-3S/cm以下であればイオン伝導度を示すものと判断した。
【0060】
また、試料番号101〜107の固体電解質層の各々に含まれる炭素含有量をCS計で測定した。
【0061】
これらの測定結果を表1と
図2、
図3に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1と
図2から、Fe
2O
3含有量が0.1重量%以上10.0重量%以下である試料番号102〜106の固体電解質層については、伝導度が1×10
-5S/cmの桁であり、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3によるイオン伝導度性を示すことが確認された。Fe
2O
3を含まない試料番号101の固体電解質層については、伝導度が3.0×10
-2S/cmであり、樹脂の残留物により固体電解質層に電子伝導性が生じたことが確認された。Fe
2O
3含有量が20.0重量%である試料番号107の固体電解質層については、イオン伝導度が大きく低下することが確認された。
【0064】
なお、表1と
図3から、Fe
2O
3含有量が増大するにしたがって、固体電解質層に含まれる炭素含有量が減少することが確認された。
【0065】
したがって、脱樹脂促進剤の一例であるFe
2O
3を固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに含ませることにより、樹脂を除去する効果が促進されるとともに、Fe
2O
3含有量、すなわち脱樹脂促進剤の含有量は0.1重量%以上10.0重量%以下であることが好ましいことが確認された。
【0066】
(実施例B)
以下、固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに、脱樹脂促進剤として種々の遷移金属酸化物を含ませてグリーンシートを焼成することによって固体電解質層を作製して、樹脂の除去促進効果を検証した一例について説明する。
【0067】
まず、以下の表2に示す遷移金属酸化物粉末が固体電解質層の主材に対して3.0重量%で含まれるように、遷移金属酸化物粉末と、固体電解質材料としてのLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末とを混合することによって、試料番号202〜212の固体電解質層の主材を作製した。試料番号201の固体電解質層の主材は、固体電解質材料としてのLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末からなる。
【0068】
実施例Aに記載された製造方法と同様にして、固体電解質層の焼成体を作製した。
【0069】
得られた試料番号201〜212の固体電解質層の外観を観察した。
【0070】
その結果、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層については、その外観が樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する黒色または灰色であり、樹脂の残留物が固体電解質層の内部に大量に残存していることが確認された。脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層については、その外観には樹脂の残留物、すなわち炭素または炭化物に由来する明確な黒色は見られなかった。
【0071】
次に、得られた試料番号201〜212の固体電解質層の各々について、実施例Aに記載された測定方法と同様にして、伝導度と炭素含有量を測定した。
【0072】
これらの測定結果を表2と
図4、
図5に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2と
図4から、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層については、伝導度が3.0×10
-2S/cmであり、樹脂の残留物により固体電解質層に電子伝導性が生じたことが確認された。脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層の伝導度は、1×10
-6〜10×10
-4S/cmの範囲内であり、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3によるイオン伝導度性を示すことが確認された。
【0075】
なお、表2と
図5から、脱樹脂促進剤を含む試料番号202〜212の固体電解質層の炭素含有量は、脱樹脂促進剤を含まない試料番号201の固体電解質層に比べて、固体電解質層に含まれる炭素含有量が減少することが確認された。
【0076】
したがって、脱樹脂促進剤として種々の遷移金属酸化物を固体電解質層の未焼成体であるグリーンシートに含ませることにより、樹脂を除去する効果が促進されることが確認された。
【0077】
なお、上記の実施形態A、Bでは、脱樹脂促進剤としてのFe
2O
3はα―Fe
2O
3(III)を使用したが、β相、γ相などの他の結晶形の酸化鉄を用いてもよい。TiO
2は
アナターゼ型酸化チタンを用いたが、他の結晶形でもよい。他の遷移金属酸化物についても、樹脂を除去する効果が得られるのであれば、いずれの結晶形でもよい。
【0078】
(実施例C)
以下、脱樹脂促進剤を含むグリーンシートを焼成して作製した全固体電池の実施例1〜11と、脱樹脂促進剤を含まないグリーンシートを焼成して作製した全固体電池の比較例1について説明する。
【0079】
まず、実施例1〜11と比較例1の全固体電池を作製するために、正極層、負極層、および、固体電解質層の出発材料として、以下のようにして、各主材を調製し、各スラリーを作製し、各スラリーを用いて各グリーンシートを作製した。
【0080】
<各主材の調製>
<正極主材1の調製>
正極活物質材料であるLi
3V
2(PO
4)
3の組成を有するナシコン型構造の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、導電剤としての炭素粉末とを、45:45:10の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0081】
<正極主材2の調製>
正極活物質材料であるLi
3V
2(PO
4)
3の組成を有するナシコン型構造の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、導電剤としての炭素粉末と、脱樹脂促進剤であるFe
2O
3粉末とを、45:44:10:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0082】
<固体電解質主材1の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末を主材として用いた。
【0083】
<固体電解質主材2の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるFe
2O
3粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0084】
<固体電解質主材3の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるFe
3O
4粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0085】
<固体電解質主材4の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるCuO粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0086】
<固体電解質主材5の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるCu
2O粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0087】
<固体電解質主材6の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるV
2O
5粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0088】
<固体電解質主材7の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるV
2O
3粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0089】
<固体電解質主材8の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるAg
2O粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0090】
<固体電解質主材9の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるTiO
2粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0091】
<固体電解質主材10の調製>
Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、脱樹脂促進剤であるNb
2O
5粉末とを、99:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0092】
<負極主材1の調製>
負極活物質材料であるアナターゼ型酸化チタン(TiO
2)の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、導電材としての炭素粉末とを、45:45:10の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0093】
<負極主材2の調製>
負極活物質材料であるアナターゼ型酸化チタン(TiO
2)の結晶相を有する粉末と、固体電解質材料であるLi
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、導電材としての炭素粉末と、脱樹脂促進剤であるFe
2O
3粉末とを、45:44:10:1の重量比率で混合した粉末を主材として用いた。
【0094】
<各スラリーの作製>
上記で調製された各主材と、ポリビニルアセタール樹脂と、アルコールとを、85:15:140の質量比率で混合して、正極スラリー1、2、固体電解質スラリー1〜10、負極スラリー1、2を作製した。
【0095】
なお、固体電解質スラリー11は、次のようにして作製した。Li
1.4Al
0.4Ge
1.6(PO
4)
3の組成を有するガラス粉末と、ポリビニルアセタール樹脂と、0.03Mの塩化鉄(III)六水和物を溶解したアルコールとを、85:15:140の重量比率で混
合して、固体電解質スラリー11を作製した(これは、未焼成体としてのグリーンシートを形成するスラリーと、脱樹脂促進剤としての遷移金属イオンを含む溶液とを混合する場合に相当する)。なお、固体電解質スラリー11に含まれる固体電解質材料と、スラリーに溶解した塩化鉄との重量比率は、概ね99:1であるので、固体電解質スラリー11に含まれる脱樹脂促進剤の含有量は、固体電解質スラリー2〜10と同等とした。
【0096】
<各グリーンシートの作製>
上記で作製された各スラリーを厚みが10μmになるようにシート成形し、さらに、25mm×15mmの平面寸法になるように切断して、正極層シート1、2、固体電解質層シート1〜11、負極層シート1、2を作製した。
【0097】
<全固体電池の作製>
以上のようにして得られた正極層シート1、2、固体電解質層シート1〜11、および、負極層シート1、2を用いて、実施例1〜11、比較例1の全固体電池を作製した。実施例1〜11、比較例1の全固体電池の正極層、固体電解質層、および、負極層に用いられるグリーンシートの構成は、以下の表3に示すとおりである。
【0098】
【表3】
【0099】
正極層シートを3枚、固体電解質層シートを10枚、負極層シートを2枚の順で積層することによって、実施例1〜11、比較例1の全固体電池の各積層体を作製した。各積層体をさらに10mm×10mmの平面寸法になるように切断した。その後、各積層体を2枚の多孔性セラミックス板で挟んだ状態で、未焼成体からポリビニルアセタール樹脂を除去するために1体積%の酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中にて500℃の温度で焼成した後、窒素ガス雰囲気中にて650℃の温度で焼成することにより、焼成体として実施例1〜11、比較例1の全固体電池積層体を作製した。
【0100】
正極層および負極層の表面上にスパッタリングによって、集電体層として白金(Pt)層を形成した。その後、100℃の温度で乾燥し、水分を除去した後、2032型のコインセルで封止して実施例1〜11、比較例1の全固体電池を作製した。
【0101】
<全固体電池の評価>
以上のようにして得られた実施例1〜11と比較例1の固体電池を、25℃の温度に保持した恒温槽に入れ、正極活物質材料の重量に対して約0.2Cの電流に相当する60μAの電流で3.25Vの電圧まで充電し、3.25Vの電圧で5時間保持した後に、3時間休止し、60μAの電流で0Vの電圧まで放電した後に、3時間休止した。このサイクルを3サイクル実施し、3サイクル目の放電容量を以下の表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
以上の結果から、固体電解質層が脱樹脂促進剤を含まない比較例1の全固体電池は放電容量が極めて小さく、固体電解質層を介した正負極層の内部短絡を生じたものと考えられる。固体電解質層が脱樹脂促進剤を含む実施例1〜11の全固体電池は、放電容量が高く、優れた充放電特性を有することが確認された。特に正負極層と固体電解質層とが脱樹脂促進剤を含む実施例10の全固体電池は、同種の脱樹脂促進剤が固体電解質層のみに含まれる実施例1の全固体電池に比べて放電容量が高く、正負極層が脱樹脂促進剤を含むことによって、充放電特性が向上することが確認された。
【0104】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。