特許第6248508号(P6248508)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248508
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20171211BHJP
   B60T 8/1763 20060101ALI20171211BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20171211BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20171211BHJP
   B62D 103/00 20060101ALN20171211BHJP
   B62D 109/00 20060101ALN20171211BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20171211BHJP
   B62D 133/00 20060101ALN20171211BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20171211BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T8/1763
   B62D6/00ZYW
   B62D101:00
   B62D103:00
   B62D109:00
   B62D113:00
   B62D133:00
   B62D137:00
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-201362(P2013-201362)
(22)【出願日】2013年9月27日
(65)【公開番号】特開2015-67040(P2015-67040A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】太田 利信
(72)【発明者】
【氏名】石田 康人
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−071643(JP,A)
【文献】 特開2007−112294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面を走行する車両の運転支援装置であって、
車両の前輪及び後輪のうち、斜面山側に位置する車輪である山側車輪の路面への接地力の推定値を演算する接地力推定部と、
演算された接地力の推定値と前記山側車輪に対する駆動力又は制動力とに基づき、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測する予測部と、を備える
ことを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記山側車輪の接地荷重を、車両の走行する路面の勾配が急勾配であるほど小さいと推定する接地荷重推定部を備え、
前記接地力推定部は、前記山側車輪の路面への接地力の推定値を、前記接地荷重推定部によって推定された前記山側車輪の接地荷重が小さいほど小さくする
請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記接地荷重推定部は、前記山側車輪の接地荷重を、車両の走行する斜面に対する同車両の偏向度合いに基づいて補正する
請求項2に記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
前記接地力推定部は、前記山側車輪の路面への接地力の推定値を、車両の走行する斜面のμ値が小さいほど小さくする
請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の車両の運転支援装置。
【請求項5】
前記予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、その旨を報知させる報知処理を実施する報知制御部を備える
請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の運転支援装置。
【請求項6】
前記予測部は、前記接地力推定部によって演算された2つの前記山側車輪の路面への接地力の推定値の和に応じたトータル接地力から前記山側車輪に対する駆動力又は制動力を減じた差が第1の閾値以下であるときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測するようになっており、
閾値として、前記第1の閾値に加え、同第1の閾値よりも小さい第2の閾値を更に設け、
前記報知制御部は、
前記差が前記第1の閾値よりも小さく且つ前記第2の閾値以上であるときには、第1の報知処理を実施し、
前記差が前記第2の閾値よりも小さいときには、報知態様が前記第1の報知処理とは異なる第2の報知処理を実施する
請求項5に記載の車両の運転支援装置。
【請求項7】
前記予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性を低くするような車両操作を誘導する誘導制御を実施する誘導制御部を備える
請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の運転支援装置。
【請求項8】
前記予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、前記接地力推定部によって演算された演算された接地力の推定値を増大させる、又は前記山側車輪に対する駆動力又は制動力を減少させる車両制御を実施する力調整制御部を備える
請求項1〜請求項6のうち何れか一項に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転支援装置の一例として、運転者によるブレーキ操作が解消された後でも車両への制動力の付与を継続させるヒルホールド制御を実施する装置が知られている(特許文献1参照)。このヒルホールド制御によって車両に制動力が付与されている状態は、運転者によるアクセル操作の開始を契機に終了される。
【0003】
ところで、雪道などの低μの斜面で停止中の車両でヒルホールド制御が実施されると、車輪がロックされるため、車両が斜面谷側に偏向しながらずり下がることがある。そこで、特許文献1に記載の運転支援装置にあっては、ヒルホールド制御の実施中における車両のヨーレートが所定の閾値以上になった場合、車両が偏向し始めたと判断することができるため、少なくとも転舵輪に対する制動力を低下させている。このように転舵輪に対する制動力を低下させると、同転舵輪のロックが解消される。その結果、運転者によるステアリング操作によって車両の挙動を補正することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−112294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、急勾配の斜面を車両が走行する場合であっても、車輪がロックしたりスリップ(空転)したりすると、車両の斜面谷側への偏向は発生し得る。こうした斜面を走行する車両の斜面谷側への偏向のことを「偏向ずり下がり」ともいう。この偏向ずり下がりは、前輪及び後輪のうち斜面山側に位置する車輪が斜面谷側に横滑りし、前輪及び後輪のうち斜面谷側に位置する車輪を支点として車両が斜面谷側に回動するいわゆる「ワイパ状態」と、前輪及び後輪の双方が斜面谷側に横滑りし、車両全体が斜面谷側に移動するいわゆる「平行ずり落ち状態」との双方を含んでいる。こうした車両の偏向ずり下がりが発生すると、運転手が余裕を持って車両操作を行うことができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、斜面を走行する車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測することができる車両の運転支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両の運転支援装置は、斜面を走行する車両の運転支援装置であって、車両の前輪及び後輪のうち、斜面山側に位置する車輪である山側車輪の路面への接地力の推定値を演算する接地力推定部と、演算された接地力の推定値と山側車輪に対する駆動力又は制動力とに基づき、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測する予測部と、を備えている。
【0008】
車両の走行中にあっては、車輪の路面に対する接地力は、車両の走行する路面状態などによって変動しうる。そして、こうした接地力が減少したり、車輪に付与される駆動力又は制動力が増大したりすると、同車輪が横滑りしやすくなる。
【0009】
また、坂路などの斜面を走行する車両では、前輪及び後輪のうち斜面山側に位置する山側車輪の路面への接地力は、斜面谷側に位置する車輪である谷側車輪の路面への接地力よりも小さくなりやすい。そのため、斜面を車両が走行する際には、谷側車輪よりも山側車輪のほうが先に横滑りしやすくなる。よって、山側車輪が横滑りしやすい状況であるか否かを推定することにより、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測することができる。
【0010】
なお、斜面上で車両前部が車両後部よりも斜面山側に位置する場合、前輪が山側車輪に該当し、後輪が谷側車輪に該当する。一方、斜面上で車両後部が車両前部よりも斜面山側に位置する場合、後輪が山側車輪に該当し、前輪が谷側車輪に該当する。
【0011】
そこで、上記構成では、車両が斜面を走行する際に演算された山側車輪の路面への接地力と山側車輪に対する駆動力又は制動力とに基づいて、山側車輪が横滑りしやすい状況であると判定できる場合に、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測される。したがって、斜面を走行する車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測することができるようになる。
【0012】
なお、車輪の路面への接地力は、同車輪の接地荷重が小さいほど小さくなる。そこで、上記車両の運転支援装置は、山側車輪の接地荷重を、車両の走行する路面の勾配が急勾配であるほど小さいと推定する接地荷重推定部を備え、接地力推定部は、山側車輪の路面への接地力の推定値を、接地荷重推定部によって推定された山側車輪の接地荷重が小さいほど小さくすることが好ましい。このように路面勾配を加味した山側車輪の接地荷重に基づいて同山側車輪の路面への接地力を推定することにより、接地力を適切に推定することができるようになる。
【0013】
また、車両の走行する斜面の勾配が一定であっても、車両の斜面に対する偏向度合いが変わると、車両幅方向における一方側の車輪の接地荷重及び他方側の車輪の接地荷重は変化する。例えば、斜面を車両が前進して斜面山側に向かう際に同車両が左方向に旋回する場合、内側の車輪(この場合、左前輪)の接地荷重は大きくなるのに対し、外側の車輪(この場合、右前輪)の接地荷重は小さくなる。そのため、山側車輪の接地荷重を、車両の走行する斜面に対する同車両の偏向度合いに基づいて補正することにより、各山側車輪の接地荷重の推定精度が高くなり、ひいては山側車輪の路面への接地力を精度良く推定することができるようになる。
【0014】
また、車輪の路面への接地力は、同車輪の接地する路面のμ値が小さいほど小さくなる。そこで、上記車両の運転支援装置において、接地力推定部は、山側車輪の路面への接地力の推定値を、車両の走行する斜面のμ値が小さいほど小さくすることが好ましい。このように路面のμ値を加味して山側車輪の路面への接地力を推定することにより、同接地力を精度良く推定することができるようになる。
【0015】
そして、上記車両の運転支援装置は、予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、その旨を報知させる報知処理を実施する報知制御部を備えてもよい。この構成によれば、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を運転者に対して報知することにより、その後に車両の偏向ずり下がりが実際に発生した場合であっても、運転者は、余裕を持って車両操作を行うことが可能となる。また、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を運転者に対して報知することにより、運転者は、車両の偏向ずり下がりが発生しないように車両操作を行うことも可能となる。
【0016】
なお、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪を有する車両が斜面を走行する場合、一対の前輪又は一対の後輪のうち何れか一方(例えば、一対の前輪)が山側車輪に該当し、他方(例えば、一対の後輪)が谷側車輪に該当する。そこで、予測部は、接地力推定部によって演算された2つの山側車輪の路面への接地力の推定値の和に応じたトータル接地力から山側車輪に対する駆動力又は制動力を減じた差が第1の閾値以下であるときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測するようにしてもよい。
【0017】
この場合、上記の差が小さいほど、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が高いと予測することができる。そのため、閾値として、第1の閾値に加え、同第1の閾値よりも小さい第2の閾値を更に設け、報知制御部は、上記の差が第1の閾値よりも小さく且つ第2の閾値以上であるときには、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性はそれほど高くないと推定できるため、第1の報知処理を実施するようにしてもよい。また、報知制御部は、上記の差が第2の閾値よりも小さいときには、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が比較的高いと推定できるため、報知態様が第1の報知処理とは異なる第2の報知処理を実施することが好ましい。このように車両の偏向ずり下がりが発生する可能性の大きさによって報知態様を異ならせることにより、運転者は、より緊張感をもって車両操作を行うようになる。
【0018】
また、上記車両の運転支援装置は、予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性を低くするような車両操作を誘導する誘導制御を実施する誘導制御部を備えるようにしてもよい。この構成によれば、同誘導制御が実施されることにより、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が高くなるような車両操作を運転者が行いにくくなるため、車両の偏向ずり下がりを発生させにくくすることができるようになる。
【0019】
また、上記車両の運転支援装置は、予測部によって車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、接地力推定部によって演算された演算された接地力の推定値を増大させる、又は前記山側車輪に対する駆動力又は制動力を減少させる車両制御を実施する力調整制御部を備えるようにしてもよい。この構成によれば、同車両制御が実施されることにより、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性を低くすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】車両の運転支援装置の一実施形態である制御装置を備える車両の概略構成を示すブロック図。
図2】同制御装置の概略構成を示すブロック図。
図3】(a)は車両が斜面に対して偏向することなく前進している様子を示す模式図、(b)は車両が斜面に対して偏向した状態で前進している様子を示す模式図。
図4】(a)は車両にワイパ現象が発生した様子を示す作用図、(b)は車両に平行ずり落ち現象が発生した様子を示す作用図。
図5】偏向ずり下がり現象が車両に発生する可能性があると予測した場合にはその旨を運転者に報知するために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図6】車輪の接地荷重を推定するために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図7】路面μ値を演算するために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図8】山側車輪のトータル接地力を演算するために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図9】車両に偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を運転者に報知するために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図10】路面μ値が途中で変化する斜面を車両が前進して斜面山側に向かう場合のタイミングチャートであって、(a)は路面勾配の推移を示し、(b)は路面μ値の推移を示し、(c)は山側車輪の接地荷重の推定値の推移を示し、(d)は車両の偏向角度の推移を示し、(e)は各山側車輪の路面への接地力の推定値の推移を示し、(f)山側車輪のトータル接地力の推移を示し、(g)は操舵規制制御のオンオフの推移を示す。
図11】路面勾配が徐々に急勾配になる斜面を車両が前進して斜面山側に向かう場合のタイミングチャートであって、(a)は路面勾配の推移を示し、(b)は路面μ値の推移を示し、(c)は山側車輪の接地荷重の推定値の推移を示し、(d)は車両の偏向角度の推移を示し、(e)は各山側車輪の路面への接地力の推定値の推移を示し、(f)山側車輪のトータル接地力の推移を示し、(g)は操舵規制制御のオンオフの推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車両の運転支援装置を具体化した一実施形態を図1図11に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
【0022】
図1には、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置100を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRが駆動輪として機能する四輪駆動車である。こうした車両は、運転者によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動トルクを出力するエンジン12と、車両の車体速度やエンジン12の回転速度に応じて変速比が変更される変速装置40と、変速装置40から出力された駆動トルクを前輪FL,FRと後輪RL,RRとに分配するトランスファ42とを備えている。そして、前輪FL,FRには、トランスファ42によって前輪側に分配された駆動トルクが前輪用デファレンシャルギア45を通じて伝達され、後輪RL,RRには、トランスファ42によって後輪側に分配された駆動トルクが後輪用デファレンシャルギア46を通じて伝達される。
【0023】
また、車両のステアリング装置20は、運転者によるステアリングホイール24の操作に応じて、転舵輪としても機能する前輪FL,FRの転舵角を調整する転舵アクチュエータ26を有している。この転舵アクチュエータ26には、運転者によるステアリングホイール24の操作をアシストするアシストモータが設けられている。
【0024】
車両の制動装置30は、運転者によるブレーキペダル31の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置32と、各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動トルクを個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ33とを有している。また、車両には、各車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するブレーキ機構35a,35b,35c,35dが設けられている。運転者がブレーキペダル31を操作する場合、ブレーキ機構35a〜35dのシリンダ内には液圧発生装置32で発生している液圧に応じた量のブレーキ液が供給され、ブレーキ機構35a〜35dは、そのシリンダ内で発生している液圧に応じた制動トルクを車輪FL,FR,RL,RRに付与する。また、ブレーキアクチュエータ33が作動している場合、同ブレーキアクチュエータ33によってブレーキ機構35a〜35dのシリンダ内の液圧が調整されることにより、ブレーキ機構35a〜35dは、そのシリンダ内で発生している液圧に応じた制動トルクを車輪FL,FR,RL,RRに付与する。
【0025】
また、車輪FL,FR,RL,RRを車両に懸架するサスペンションには、車高調整機構50a,50b,50c,50dが設けられている。車高調整機構50a〜50dは、車両の走行する路面の状況などに基づき、サスペンションのストローク量を自動調整する。例えば、左前輪FLを車両に懸架するサスペンションのストローク量を車高調整機構50aが調整することにより、車両左前部の車高が調整される。なお、サスペンションとしては、ばねの代わりに空気で車両を支える、いわゆるエアサスペンションが採用されており、車高調整機構50a〜50dによってエアサスペンションの空気圧を調整することにより、車高が調整される。
【0026】
また、車両には、車両の状態を運転者に報知するための報知装置60が設けられている。なお、報知装置60としては、ナビゲーション装置の表示画面、音声を出力するスピーカなどが挙げられる。
【0027】
また、車両には、アクセル開度センサSE12、ブレーキスイッチSW1、車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4、ヨーレートセンサSE11、前後方向加速度センサSE13、横方向加速度センサSE14、操舵角センサSE9及びサスペンションストロークセンサSE5,SE6,SE7,SE8が設けられている。アクセル開度センサSE12は、アクセルペダル11の操作量ACを検出する。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル31が操作されているか否かを検出する。車輪速度センサSE1〜SE4は、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪の車輪速度VWを検出する。ヨーレートセンサSE11は、車両のヨーレートYRを検出する。前後方向加速度センサSE13は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出し、横方向加速度センサSE14は、車両の横方向の加速度である横加速度Gyを検出する。操舵角センサSE9は、ステアリングホイール24の舵角STを検出する。また、サスペンションストロークセンサSE5〜SE8は、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪のサスペンションのストローク量SSを検出する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置100に入力される。
【0028】
次に、図2を参照して、制御装置100について説明する。
図2に示すように、制御装置100は、CPU、ROM及びRAMを有する制御部として、エンジン制御部110と、変速機制御部120と、ブレーキ制御部160と、ステアリング制御部140と、サスペンション制御部150と、報知制御部170とを備えている。エンジン制御部110はエンジン12の制御を司り、変速機制御部120は変速装置40の制御を司る。また、ブレーキ制御部160はブレーキアクチュエータ33の制御を司り、ステアリング制御部140は転舵アクチュエータ26の制御を司る。また、サスペンション制御部150は各車高調整機構50a〜50dの制御を司り、報知制御部170は報知装置60の制御を司る。そして、これら各制御部110,120,140,150,160,170は、各種の情報や指令を相互に送受信可能となっている。
【0029】
ところで、図3(a)に示すように、車両200が前進して斜面山側に向かう場合、車両前部が車両後部よりも斜面山側に位置するため、前輪FL,FRが山側車輪に該当し、後輪RL,RRが谷側車輪に該当する。このとき、車両200が斜面に対して偏向していないと、前後方向加速度センサSE13によって検出される前後加速度Gxは、車両200に作用する重力加速度Gと等しくなる。一方、横方向加速度センサSE14によって検出される横加速度Gyは、「0(零)」となる。
【0030】
この状態で例えば運転者がステアリングホイール24を左回り方向に操作すると、図3(b)に示すように、車両200は、左旋回して斜面に対して偏向する。このときの車両200の斜面に対する偏向度合いを、「偏向角度α」として表すことができる。このように車両200が斜面に対して偏向している場合、前後方向加速度センサSE13によって検出される前後加速度Gxは、以下に示す関係式(式1)で表すことができ、横方向加速度センサSE14によって検出される横加速度Gyは、以下に示す関係式(式2)で表すことができる。
【0031】
【数1】
また、車両200に作用する重力加速度Gは、以下に示す関係式(式3)で表すことができる。すなわち、前後方向加速度センサSE13によって検出される前後加速度Gx及び横方向加速度センサSE14によって検出される横加速度Gyに基づき、車両に作用する重力加速度Gを求めることができる。
【0032】
【数2】
なお、上記の車両200は、舗装されていない場所である、いわゆるオフロードを走行することがある。こうしたオフロードには、舗装された路面(「オンロード」ともいう。)には存在しないような急勾配の斜面が存在する。こうした急勾配の斜面を車両200が走行する場合、車両200がオンロードの斜面を走行する場合には発生し得ないような挙動を示すことがある。
【0033】
例えば、図4(a)に示すように、急勾配の斜面を車両200が前進して斜面山側に向かう際に同車両200が斜面に対して偏向(すなわち、偏向角度α≠0(零))している場合、山側車輪である前輪FL,FRが斜面谷側(図中左斜め下方)に横滑りし、車両200の前部が斜面谷側に変位する、いわゆる「ワイパ現象」が発生することがある。この場合、車両200は、谷側車輪である後輪(図4(a)では左後輪RL)を支点として車両200が斜面谷側に回動する。
【0034】
こうしたワイパ現象は、斜面を車両200が後退して斜面山側に向かう場合、斜面を車両200が前進して斜面谷側に向かう場合及び斜面を車両200が後退して斜面谷側に向かう場合でも発生する。なお、後輪RL,RRが前輪FL,FRよりも斜面山側に位置する状態でワイパ現象が発生した場合、山側車輪である後輪RL,RRが斜面谷側に横滑りし、車両200の後部が斜面谷側に変位することとなる。
【0035】
また、図4(b)に示すように、急勾配の斜面を車両200が前進して斜面山側に向かう際に同車両200が斜面に対して偏向している場合、山側車輪である前輪FL,FRと谷側車輪である後輪RL,RRとがともに斜面谷側(図中左斜め下方)に横滑りし、車両200全体が斜面谷側に移動する、いわゆる「平行ずり落ち現象」が発生することがある。こうした平行ずり落ち現象は、斜面を車両200が後退して斜面山側に向かう場合、斜面を車両200が前進して斜面谷側に向かう場合及び斜面を車両200が後退して斜面谷側に向かう場合でも発生する。
【0036】
なお、本明細書では、こうしたワイパ現象及びずり落ち現象を総称して「偏向ずり下がり」というものとする。
偏向ずり下がりが車両に発生すると、運転者は、余裕を持った車両操作(アクセル操作、ブレーキ操作及びステアリング操作)を行うことができなくなるおそれがある。そのため、本実施形態の運転支援装置である制御装置100では、偏向ずり下がり現象が車両200に発生する可能性があるか否かを予測し、可能性があると予測される場合にはその旨を報知装置60に報知させるようにした。
【0037】
次に、図5に示すフローチャートを参照して、偏向ずり下がりが車両に発生する可能性があると予測した場合にはその旨を運転者に報知するために、制御装置100を構成するブレーキ制御部160が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、予め設定されている制御サイクル毎に実行される。
【0038】
図5に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御部160は、前後方向加速度センサSE13によって検出された前後加速度Gxと、横方向加速度センサSE14によって検出された横加速度Gyとを取得する(ステップS11)。そして、ブレーキ制御部160は、各車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重の推定値X1を演算する推定処理を実行する(ステップS12)。なお、この接地荷重の推定処理については、図6を用いて後述する。
【0039】
続いて、ブレーキ制御部160は、車両の走行する路面の勾配である路面勾配θと、車両の進行方向とに基づいて、山側車輪と谷側車輪とを特定する(ステップS13)。このとき、ブレーキ制御部160は、斜面を車両200が前進して斜面山側に向かっている場合、及び斜面を車両200が後退して斜面谷側に向かっている場合、前輪FL,FRを山側車両とし、後輪RL,RRを谷側車輪とする。また、ブレーキ制御部160は、斜面を車両200が後退して斜面山側に向かう場合、及び斜面を車両200が前進して斜面谷側に向かう場合、後輪RL,RRを山側車輪とし、前輪FL,FRを谷側車輪とする。
【0040】
そして、ブレーキ制御部160は、車両の走行する路面のμ値である路面μ値Yを演算する演算処理を実行し(ステップS14)。山側車輪のトータル接地力ZTを演算する演算処理を実行する(ステップS15)。なお、路面μ値Yの演算処理は、図7を用いて後述し、トータル接地力ZTの演算処理は、図8を用いて後述する。
【0041】
続いて、ブレーキ制御部160は、偏向ずり下がり現象が車両に発生する可能性があると予測できるときには、その旨を運転者に報知する対処処理を実行し(ステップS16)、本処理ルーチンを一旦終了する。なお、対処処理は、図9を用いて後述する。
【0042】
次に、図6に示すフローチャートを参照して、上記ステップS12の各車輪の接地荷重の推定処理について説明する。
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御部160は、車両の走行する路面の勾配である路面勾配θを演算する(ステップS21)。例えば、ブレーキ制御部160は、車両の車体速度を時間微分した車体速度微分値から、上記関係式(式3)を用いて演算した重力加速度Gを減じた差に応じた値を路面勾配θとする。ただし、上記のような急勾配の斜面では、車両は極低速(例えば、10km/h以下の速度)で走行するため、前後加速度Gx及び横加速度Gyには、車両の加速成分(又は減速成分)がほとんど含まれない。そのため、こうした走行状況下にあっては、路面勾配θを、重力加速度Gに応じた値としてもよい。
【0043】
続いて、ブレーキ制御部160は、車両の路面(斜面)に対する偏向度合いである偏向角度αを演算する(ステップS22)。例えば、ブレーキ制御部160は、上記関係式(式1)を変形させた関係式(式4)、又は、関係式(式2)を変形させた関係式(式5)を用いることにより、偏向角度αを演算することができる。
【0044】
【数3】
そして、ブレーキ制御部160は、各サスペンションストロークセンサSE5〜SE8によって検出されたサスペンションのストローク量SSを車輪FL,FR,RL,RR毎に取得する(ステップS23)。続いて、ブレーキ制御部160は、車両の積載量Mを取得する(ステップS24)。例えば、車両の積載量Mは、運転者によるアクセル操作によって車両が発進した際におけるエンジン12からの駆動トルクと、車体速度の微分値である車体加速度との関係に基づき推定することができる。すなわち、車両の積載量Mは、駆動トルクが規定トルクに達した時点における車体加速度が小さいほど大きくなる。
【0045】
そして、ブレーキ制御部160は、ステップS21〜S24で演算又は取得した路面勾配θ、偏向角度α、サスペンションのストローク量SS及び車両の積載量Mに基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重の推定値X1を演算し(ステップS25)、その後、本処理ルーチンを終了する。
【0046】
例えば、車両が斜面を走行しており、前輪FL,FRが後輪RL,RRよりも斜面山側に位置する場合、車両重心の位置が後側にシフトするため、前輪FL,FRの接地荷重は、斜面の勾配が急勾配であるほど小さくなり、後輪RL,RRの接地荷重は、斜面の勾配が急勾配であるほど大きくなる。その反対に、車両が斜面を走行しており、前輪FL,FRが後輪RL,RRよりも斜面谷側に位置する場合、車両重心が前側にシフトするため、前輪FL,FRの接地荷重は、斜面の勾配が急勾配であるほど大きくなり、後輪RL,RRの接地荷重は、斜面の勾配が急勾配であるほど小さくなる。
【0047】
また、車両が斜面を偏向して走行している場合、すなわち偏向角度αが「0(零)」ではない場合、左輪(左前輪FL、左後輪RL)と、右輪(右前輪FR、右後輪RR)とで接地荷重が変わる。例えば、左輪と右輪とで比較し、左輪のほうが右輪よりも斜面谷側に位置する場合、車両重心が斜面谷側である左側にシフトするため、左前輪FLから車両重心までの距離は右前輪FRから車両重心までの距離よりも短くなる。そのため、この場合、左前輪FLの接地荷重は、右前輪FRの接地荷重よりも大きくなる。同様の理由で、左後輪RLの接地荷重は、右後輪RRの接地荷重よりも大きい。その反対に、左輪と右輪とで比較し、右輪のほうが左輪よりも斜面谷側に位置する場合、左前輪FLの接地荷重は右前輪FRの接地荷重よりも小さく、左後輪RLの接地荷重は右後輪RRの接地荷重よりも小さい。
【0048】
また、車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重は、対応するサスペンションのストローク量SSによっても変わりうる。すなわち、ストローク量SSが小さいほど、対応する車輪に対して荷重が大きいと推定することができる一方で、ストローク量SSが大きいほど、対応する車輪に対する荷重が小さいと推定することができる。そのため、車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重は、対応するサスペンションのストローク量SSが大きいほど小さくなる。
【0049】
また、車両重心の位置は、車両の積載量Mが多いほど後側にシフトする。そのため、前輪FL,FRの接地荷重は、車両の積載量Mが多いほど小さくなり、後輪RL,RRの接地荷重は、車両の積載量Mが多いほど大きくなる。
【0050】
すなわち、水平面で車両が停止している状態を「静的状態」としたとする。そして、静的状態での荷重配分に基づいた各車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重の基準値を、車両の走行する路面の勾配である路面勾配θ、車両の斜面に対する偏向度合いである偏向角度α、及び各車輪FL,FR,RL,RRに対して設けられているサスペンションのストローク量SSに基づき補正することにより、各車輪FL,FR,RL,RRの接地荷重の推定値X1を演算することができる。この点で、ブレーキ制御部160が、山側車輪の接地荷重を、車両の走行する路面の勾配が急勾配であるほど小さいと推定する「接地荷重推定部」としても機能する。
【0051】
次に、図7に示すフローチャートを参照して、上記ステップS14の路面μ値の推定処理について説明する。
図7に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御部160は、駆動輪(例えば、後輪RL,RR)に加速スリップ、すなわち駆動輪の空転が発生しているか否かを判定する(ステップS31)。例えば、ブレーキ制御部160は、車輪速度センサSE3,SE4によって検出された後輪RL,RRの車輪速度VWと、車体速度に対して所定のスリップ量を加算した和である加速スリップ判定値とを比較し、車輪速度VWが加速スリップ判定値よりも大きいときに、加速スリップが発生していると判定する。
【0052】
そして、後輪RL,RRに加速スリップが発生していると判定した場合(ステップS31:YES)、ブレーキ制御部160は、以下に示す関係式(式6)を用い、路面μ値Yを演算する(ステップS32)。なお、関係式(式6)における「T1」は、後輪RL,RRに作用している車輪トルクであり、「P」は後輪RL,RRの半径である。このステップS32では、車輪トルクT1に、後輪RL,RRに対する駆動トルクTd、すなわちエンジン12から出力される駆動トルクが代入される。また、接地荷重X11には、左後輪RLの接地荷重の推定値X1、右後輪RRの接地荷重の推定値X1、及び各後輪RL,RRの接地荷重の推定値X1の平均値のうち何れか一つが代入される。その後、ブレーキ制御部160は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0053】
【数4】
一方、後輪RL,RRに加速スリップが発生していないと判定した場合(ステップS31:NO)、ブレーキ制御部160は、後輪RL,RRに減速スリップが発生しているか否か、すなわち後輪RL、RRがロックしているか否かを判定する(ステップS33)。例えば、ブレーキ制御部160は、車輪速度センサSE3,SE4によって検出される後輪RL,RRの車輪速度VWと、車体速度から所定のスリップ量を減じた差である減速スリップ判定値とを比較し、車輪速度VWが減速スリップ判定値よりも小さいときに、後輪RL,RRに減速スリップが発生していると判定する。
【0054】
そして、後輪RL,RRに減速スリップが発生していると判定した場合(ステップS33:YES)、ブレーキ制御部160は、上記関係式(式6)を用い、路面μ値Yを演算する(ステップS34)。このステップS34では、車輪トルクT1に、後輪RL,RRに対する制動トルクTbが代入される。この制動トルクTbは、運転者がブレーキ操作を行っているときにはその操作量(すなわち、液圧発生装置32で発生している液圧)に応じたトルクとされ、制動制御時には指令値(「要求制動トルク」ともいう。)に応じた値とされる。また、接地荷重X11には、左後輪RLの接地荷重の推定値X1、右後輪RRの接地荷重の推定値X1、及び各後輪RL,RRの接地荷重の推定値X1の平均値のうち何れか一つが代入される。その後、ブレーキ制御部160は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0055】
一方、後輪RL,RRに減速スリップが発生していない場合、車両の走行する路面は高μ路であると推定することができる。そのため、後輪RL,RRに減速スリップが発生していない場合(ステップS33:NO)、ブレーキ制御部160は、路面μ値Yに「1」をセットし(ステップS35)、本処理ルーチンを終了する。
【0056】
次に、図8に示すフローチャートを参照して、上記ステップS15のトータル接地力の演算処理について説明する。
図8に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御部160は、以下に示す関係式(式7)を用い、2つの山側車輪の路面への接地力の推定値Zを演算する(ステップS41)。すなわち、ブレーキ制御部160は、前輪FL,FRが山側車輪である場合、左前輪FLの接地荷重の推定値X1と路面μ値Yとの積を左前輪FLの路面への接地力の推定値Zとし、右前輪FRの接地荷重の推定値X1と路面μ値Yとの積を右前輪FRの路面への接地力の推定値Zとする。また、ブレーキ制御部160は、後輪RL,RRが山側車輪である場合、左後輪RLの接地荷重の推定値X1と路面μ値Yとの積を左後輪RLの路面への接地力の推定値Zとし、右後輪RRの接地荷重の推定値X1と路面μ値Yとの積を右後輪RRの路面への接地力の推定値Zとする。したがって、ブレーキ制御部160が、山側車輪の路面への接地力の推定値Zを演算する「接地力推定部」としても機能する。
【0057】
【数5】
続いて、ブレーキ制御部160は、演算した2つの山側車輪の路面への接地力の推定値Zを加算し、その和をトータル接地力ZTとする(ステップS42)。すなわち、トータル接地力ZTは、2つの山側車輪の路面への接地力の推定値Zの和に応じた値となる。例えば、ブレーキ制御部160は、前輪FL,FRが山側車輪である場合、左前輪FLの路面への接地力の推定値Zと右前輪FRの路面への接地力の推定値Zとの和をトータル接地力ZTとする。その後、ブレーキ制御部160は、本処理ルーチンを終了する。
【0058】
次に、図9に示すフローチャートを参照して、上記ステップS16の対処処理について説明する。
図9に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキ制御部160は、車両に制動力が付与されている制動状態であるか否かを判定する(ステップS51)。ここでは、ブレーキスイッチSW1によってブレーキ操作が検知されている場合、又は、ブレーキアクチュエータ33の作動によって車輪FL,FR,RL,RRに制動トルクが付与されている場合に、制動状態であると判定される。そして、制動状態である場合(ステップS51:YES)、ブレーキ制御部160は、制駆動力Tを、山側車輪に対する制動トルクTbに応じて演算する(ステップS52)。この制動トルクTbは、上記ステップS34の制動トルクTbと同一値である。その後、ブレーキ制御部160は、その処理を後述するステップS54に移行する。
【0059】
一方、制動状態ではない場合(ステップS51:NO)、ブレーキ制御部160は、制駆動力Tを、山側車輪に対する駆動トルクTdに応じて演算する(ステップS53)。この駆動トルクTdは、上記ステップS32の駆動トルクTdと同一値である。その後、ブレーキ制御部160は、その処理を次のステップS54に移行する。
【0060】
ステップS54において、ブレーキ制御部160は、上記ステップS42で演算したトータル接地力ZTから、ステップS53又はステップS54で演算した制駆動力Tを減じた差を状態値Dとする。続いて、ブレーキ制御部160は、演算した状態値Dが、予め設定されている第1の閾値DTh1未満であるか否かを判定する(ステップS55)。状態値Dが第1の閾値DTh1未満である場合とは、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差が小さく、急勾配の斜面に対して車両が偏向した状態で走行していると、山側車輪が斜面谷側に横滑りしやすい状態であるために、車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があると判定することができる。その一方、状態値Dが第1の閾値DTh1以上である場合、山側車輪の斜面谷側への横滑りが発生しにくい状態であると言うことができ、車両が偏向ずり下がりしない又は車両に偏向ずり下がりが発生する可能性が極めて低いと判定することができる。したがって、ブレーキ制御部160が、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測する「予測部」としても機能する。
【0061】
そして、状態値Dが第1の閾値DTh1以上である場合(ステップS55:NO)、ブレーキ制御部160は、警告解除信号を報知制御部170に送信し(ステップS56)、その後、本処理ルーチンを終了する。なお、この警告解除信号を受信した報知制御部170は、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨の報知をしない。
【0062】
一方、状態値Dが第1の閾値DTh1未満である場合(ステップS55:YES)、ブレーキ制御部160は、同状態値Dが第1の閾値DTh1よりも小さい第2の閾値DTh2未満であるか否かを判定する(ステップS57)。状態値Dが第1の閾値DTh1未満であって且つ第2の閾値DTh2以上である場合、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性はあっても、その可能性は比較的低いと判断することができる。一方、状態値Dが第2の閾値DTh2未満である場合、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性は比較的高いと判断することができる。
【0063】
そして、状態値Dが第2の閾値DTh2以上である場合(ステップS57:NO)、ブレーキ制御部160は、第1の警告信号を報知制御部170に送信し(ステップS58)、その後、本処理ルーチンを終了する。なお、この第1の警告信号を受信した報知制御部170は、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を報知する第1の報知処理を実施する。この点で、報知制御部170が、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、その旨を報知させる「報知制御部」として機能する。
【0064】
一方、状態値Dが第2の閾値DTh2未満である場合(ステップS57:YES)、ブレーキ制御部160は、第2の警告信号を報知制御部170に送信する(ステップS59)。この第2の警告信号を受信した報知制御部170は、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を報知する第2の報知処理を実施する。この第2の報知処理は、上記の第1の報知処理と報知態様が異なっている。例えば、第2の報知処理では、第1の報知処理よりも、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があることが強調されて運転者に報知される。
【0065】
続いて、ブレーキ制御部160は、操舵を規制する旨の要求をステアリング制御部140に送信し(ステップS60)、その後、本処理ルーチンを終了する。
なお、操舵を規制する旨の要求を受信したステアリング制御部140は、偏向角度αが「0(零)」に近づく方向へのステアリングホイール24の操作を規制するように転舵アクチュエータ26のアシストモータを制御する。こうした制御を、「操舵規制制御」ともいう。例えば、ステアリング制御部140は、同方向にステアリングホイール24を運転者が操作しようとした場合に、ステアリングホイール24を同方向の反対方向に回転させるトルクをアシストモータから出力させる。
【0066】
車両の偏向ずり下がりが実際に発生した場合、運転の上手な上級運転者は、偏向角度αの絶対値が大きくなる方向にステアリングホイール24を操作し、車両の偏向ずり下がりを解消させようとする。そのため、上記のような操舵規制制御をステアリング制御部140が実施することにより、車両が偏向ずり下がり状態になる可能性を低くするようなステアリング操作を運転者に対して誘導することができる。したがって、ステアリング制御部140が、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されたときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性を低くするような車両操作を誘導する誘導制御の一例である操舵規制制御を実施する「誘導制御部」として機能する。
【0067】
次に、図10に示すタイミングチャートを参照して、急勾配の斜面を車両が前進して斜面山側に向かう際の作用について説明する。なお、前提として、車両走行中における各サスペンションのストローク量SSは変化しないものとする。また、図10(a)に示すように、路面勾配θは一定であり、図10(d)に示すように、運転者によるステアリング操作によって車両が左旋回するものとする。
【0068】
図10(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g)に示すように、急勾配の上り斜面を車両が走行する第1のタイミングt11で、運転者がステアリング操作を開始すると、車両が左旋回し、車両の斜面に対する偏向度合いである偏向角度αが次第に大きくなる。すると、山側車輪である前輪FL,FRのうち、旋回時に内側に位置する内側輪である左前輪FLの路面への接地力である接地力ZIは、偏向角度αが大きくなるに連れて次第に大きくなる。一方、旋回時に外側に位置する外側輪である右前輪FRの路面への接地力である接地力ZOは、偏向角度αが大きくなるに連れて次第に小さくなる。
【0069】
ただし、このように運転者によるステアリング操作によって偏向角度αが変化しても、第1のタイミングt11から第4のタイミングt14までの期間では、路面勾配θ及び路面μ値Yは変わらない。そのため、同期間では、接地力ZIと接地力ZOとの和であるトータル接地力ZTは、ほぼ一定となる。
【0070】
また、第1のタイミングt11から第3のタイミングt13までの期間では、運転者によるアクセルペダル11の操作量が比較的少ないため、エンジン12から出力される駆動トルクTdは比較的小さい。そのため、駆動トルクTdに基づいて演算された制駆動力Tはトータル接地力ZTよりも十分に小さく、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dは第1の閾値DTh1よりも大きい(ステップS55:NO)。よって、車両が偏向ずり下がり状態になる可能性がないと予測できるため、報知装置60は、運転者に対して何ら報知しない(ステップS56)。
【0071】
そして、第2のタイミングt12以降では、ステアリングホイール24の舵角がほぼ「0(零)」と等しくなるため、車両の偏向角度αは第2のタイミングt12の角度で保持される。その結果、第2のタイミングt12から第4のタイミングt14までの期間では、接地力ZI、接地力ZO及びトータル接地力ZTは、第2のタイミングt12の値で保持される。
【0072】
その後の第3のタイミングt13からは、運転者によるアクセルペダル11の操作量が多くなり、エンジン12から出力される駆動トルクTdが大きくなる。そのため、第3のタイミングt13以降からは、駆動トルクTdに基づいて演算される制駆動力Tが次第に大きくなる(ステップS53)。しかし、第3のタイミングt13から第5のタイミングt15までの期間では、制駆動力Tが次第に大きくなっても、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dは、第1の閾値DTh1よりも大きい(ステップS55:NO)。そのため、報知装置60は、依然として、運転者に対して何ら報知しない(ステップS56)。
【0073】
そして、第4のタイミングt14になると、路面μ値Yが低下し始める。すると、山側車輪である前輪FL,FRの接地荷重の推定値X1が、路面μ値Yの低下に伴って減少される。また、このように前輪FL,FRの接地荷重の推定値X1が減少すると、接地力ZI及び接地力ZOが減少し、結果として、トータル接地力ZTもまた減少する。そして、第5のタイミングt15に達すると、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dが第1の閾値DTh1未満となる(ステップS55:YES)。
【0074】
すなわち、第5のタイミングt15以降では、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測できる。そのため、第5のタイミングt15から第6のタイミングt16までの期間では、状態値Dは第2の閾値DTh2(この場合、「0(零)」)以上であるため(ステップS57:NO)、第1の報知処理が実施される(ステップS58)。すると、報知装置60は、車両が偏向ずり下がり状態になる可能性がある旨を運転者に対して報知する。
【0075】
なお、上記の状態値Dはその後も小さくなり、第6のタイミングt16で、状態値Dが第2の閾値DTh2未満となり(ステップS57:YES)、第2の報知処理が実施される(ステップS59)。すると、報知装置60での報知態様が、第6のタイミングt16以前と変わる。また、第6のタイミングt16以降では、操舵規制制御が実施されることにより、ステアリングホイール24が右回り方向に操作しにくくなる。
【0076】
次に、図11に示すタイミングチャートを参照して、急勾配の斜面を車両が前進して斜面山側に向かう際の作用について説明する。なお、前提として、車両走行中における各サスペンションのストローク量SSは変化しないものとする。また、図11(a)に示すように、路面勾配θは次第に大きくなり、図11(b),(d)に示すように、路面μ値Y及び偏向角度αは一定であるものとする。
【0077】
図11(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g)に示すように、路面勾配θが大きくなるに従い、山側車輪である前輪FL,FRのうち、旋回時に内側に位置する内側輪である左前輪FLの路面への接地力である接地力ZIと、旋回時に外側に位置する外側輪である右前輪FRの路面への接地力である接地力ZOとは、次第に小さくなる。その結果、接地力ZIと接地力ZOとの和であるトータル接地力ZTもまた、路面勾配θが大きくなるに連れて次第に小さくなる。
【0078】
そして、第1のタイミングt21になると、運転者によるアクセルペダル11の操作量が多くなり、エンジン12から出力される駆動トルクTdが大きくなる。そのため、第1のタイミングt21以降からは、駆動トルクTdに基づいて演算される制駆動力Tが次第に大きくなる(ステップS52)。しかし、第1のタイミングt21から第2のタイミングt22までの期間では、制駆動力Tが次第に大きくなっても、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dは、第1の閾値DTh1よりも大きい(ステップS55:NO)。そのため、報知装置60は、運転者に対して何ら報知しない(ステップS56)。
【0079】
その後、第2のタイミングt22に達すると、上記の状態値Dが第1の閾値DTh1未満になる(ステップS55:YES)。そのため、第2のタイミングt22から第3のタイミングt23までの期間では、状態値Dは第2の閾値DTh2以上であるため(「ステップS55:YES」であって且つ「ステップS57:NO」)、第1の報知処理が実施される(ステップS58)。すると、報知装置60は、車両が偏向ずり下がり状態になる可能性がある旨を運転者に対して報知する。
【0080】
その後も上記の状態値Dが小さくなり、第3のタイミングt23で、状態値Dが第2の閾値DTh2未満になると(ステップS57:YES)、第2の報知処理が実施される(ステップS59)。すると、報知装置60の報知態様が第3のタイミングt23以前と変わる。また、第3のタイミングt23以降では、操舵規制制御が実施されることにより(ステップS60)、ステアリングホイール24が右回り方向に操作しにくくなる。
【0081】
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両が斜面を走行する際には、演算した山側車輪の路面への接地力の推定値Z及び山側車輪に対する制駆動力Tに基づいて、山側車輪の横滑りが発生する可能性があるか否かを判断することにより、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測している。したがって、斜面を走行する車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測することができる。
【0082】
(2)車輪の路面への接地力は、同車輪の接地荷重が小さいほど小さくなる。そこで、山側車輪の接地荷重の推定値X1を演算し、同接地荷重の推定値X1に基づき、山側車輪の接地力の推定値Zを演算するようにした。これにより、山側車輪の接地力の推定値Zを適切に演算することができる。
【0083】
(3)また、車両の走行する斜面の勾配が一定であっても、車両の斜面に対する偏向度合いである偏向角度αが変わると、左輪の接地荷重と右輪の接地荷重とが変化する。そこで、山側車輪の接地荷重の推定値X1を、偏向角度αに基づいて補正するようにした。これにより、各山側車輪の接地荷重の推定精度が高くなり、ひいては山側車輪の路面への接地力の推定精度を高くすることができる。
【0084】
(4)また、車輪の路面への接地力は、同車輪の接地する路面のμ値が小さいほど小さくなる。そこで、山側車輪の路面への接地力の推定値X1を、車両の走行する斜面のμ値である路面μ値Yが小さいほど小さくするようにした。このように路面μ値Yに基づいて山側車輪の路面への接地力の推定値X1を演算することにより、同接地力を高精度に推定することができるようになる。その結果、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かの予測精度を高くすることができる。
【0085】
(5)そして、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測されるときには、その旨が報知装置60によって運転者に報知される。そのため、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性がある旨を運転者に対して報知することにより、実際に車両の偏向ずり下がりが発生した場合であっても、運転者は、余裕を持って車両操作を行うことが可能となる。また、運転者は、車両の偏向ずり下がりが発生しないように車両操作を行うことも可能となる。
【0086】
(6)さらに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が高い場合と低い場合とで、報知態様を変更するようにした。そのため、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が次第に高くなり、報知態様が変わった場合、緊急度の高さを運転者に認識させることができる。したがって、運転者は、より緊張感を持って車両操作を行うようになる。
【0087】
(7)また、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が高い場合、上記操舵規制制御を実施するようにした。この操舵規制制御が実施されることにより、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性が高くなるようなステアリング操作を運転者が行いにくくなるため、車両の偏向ずり下がりを発生させにくくすることができる。
【0088】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記操舵規制制御を、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dが第1の閾値DTh1未満になったタイミングで実施するようにしてもよい。また、第2の閾値DTh2よりも小さい第3の閾値を設け、上記の状態値Dが第3の閾値未満になったタイミングで操舵規制制御を実施するようにしてもよい。
【0089】
・誘導制御としては、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性を低くするような車両操作を誘導することができるのであれば、操舵規制制御以外の他の任意の制御であってもよい。例えば、誘導制御は、どのような車両操作(ステアリング操作、アクセル操作、ブレーキ操作)を行えば、車両の偏向ずり下がりの発生を回避することができるのかを案内する制御であってもよい。
【0090】
・車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測される場合には、上記操舵規制制御などのような誘導制御の変わりに、トータル接地力ZTから制駆動力Tを減じた差である状態値Dを増大させる車両制御を実施するようにしてもよい。
【0091】
こうした車両制御としては、谷側車輪に対するサスペンションのストローク量SSが多くなるように谷側車輪用の車高調整機構50a〜50dを作動させる制御が挙げられる。この際、山側車輪に対するサスペンションのストローク量SSが少なくなるように山側車輪用の車高調整機構を作動させてもよい。こうした車両制御を実施することにより、車両重心を山側車輪に近づけることができる分、山側車輪の路面に対する接地力を大きくすることができる。その結果、トータル接地力ZTが大きくなり、上記状態値Dが大きくなる。そのため、車両に偏向ずり下がりが発生する可能性を小さくすることができる。この場合、車高調整機構50a〜50dを制御するサスペンション制御部150が、「力調整制御部」として機能することとなる。
【0092】
また、上記の車両制御としては、制駆動力Tを小さくしたり、増大勾配を緩やかにしたりする制御が挙げられる。この場合、山側車輪に制動力が付与されている場合、同山側車輪に対する制動力を減少させたり、制動力の増大勾配を緩やかにしたりするようにブレーキアクチュエータ33を作動させてもよい。また、山側車輪に制動力が付与されていない場合、同山側車輪に対する駆動力を減少させたり、駆動力の増大勾配を緩やかにしたりするようにエンジン12の運転状態を制御するようにしてもよい。こうした車両制御を実施することにより、山側車輪に対する制駆動力Tが小さくなって上記状態値Dが大きくなったり、制駆動力Tが大きくなりにくくなって状態値Dが小さくなったりしにくくなる。そのため、車両に偏向ずり下がりが発生する可能性を小さくすることができる。なお、ブレーキアクチュエータ33を制御して制動力を減少させる場合、ブレーキアクチュエータ33を制御するブレーキ制御部160が、「力調整制御部」として機能することとなる。また、エンジン12を制御して駆動力を減少させる場合、エンジン12を制御するエンジン制御部110が、「力調整制御部」として機能することとなる。
【0093】
また、山側車輪に対する駆動力を減少させるために、車両の駆動系を制御するようにしてもよい。例えば、変速装置40の変速段をシフトアップさせて駆動力を減少させるようにしてもよい。また、変速装置40が副変速機を備える構成である場合、副変速機の変速段を「L4」から「H4」に変更させることで駆動力を減少させるようにしてもよい。また、前輪FL,FR及び後輪RL,RRへの駆動力の配分比率を変更させることができる場合、山側車輪に対する駆動力が減少するとともに谷側車輪に対する駆動力が増大するように配分比率を変更してもよい。この場合、変速機制御部120などの駆動系を制御する制御部が、「力調整制御部」として機能することとなる。
【0094】
・車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測される場合には、報知処理を実施するのであれば、上記操舵規制制御などのような誘導制御、及び上記状態値Dを増大させるような車両制御を実施しなくてもよい。この場合であっても、上記(1)〜(6)と同等の効果を得ることができる。
【0095】
・第1の閾値DTh1を「0(零)」とし、第2の閾値DTh2を「0(零)」よりも小さい負の値としてもよい。このように各閾値DTh1,DTh2を設定しても、上記(1)〜(7)と同等の効果を得ることができる。
【0096】
・車両に偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測される場合にはその旨を運転者に報知するのであれば、上記状態値Dの大きさに応じた報知態様の変更を実施しなくてもよい。
【0097】
・山側車輪の接地荷重の推定値X1を、車両の斜面に対する偏向度合いである偏向角度αに基づいて補正しなくてもよい。このような制御構成を採用しても、偏向角度αに応じた補正を行っていない接地荷重の推定値X1に基づいたトータル接地力ZTは、偏向角度αに応じて補正した接地荷重の推定値X1に基づいたトータル接地力ZTとほぼ等しくなる。したがって、上記(1),(2)と同等の効果を得ることができる。
【0098】
・路面μ値Yは、上記関係式(式6)を用いない他の方法で推定するようにしてもよい。例えば、車両に、同車両の走行する路面を撮像する撮像装置が設けられている場合、同撮像装置によって撮像された路面の画像から、同路面がどのような路面(例えば、雪道)であるかを推定し、同推定結果に基づいて路面μ値Yを推定するようにしてもよい。
【0099】
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)前記予測部は、前記接地力推定部によって演算された2つの前記山側車輪の路面への接地力の推定値の和に応じたトータル接地力から前記山側車輪に対する駆動力又は制動力を減じた差が閾値以上であるときに、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があると予測する。
【0100】
(ロ)前記予測部は、
前記山側車輪に制動力が付与されているときには、前記接地力推定部によって演算された接地力の推定値と前記山側車輪に対する制動力とに基づき、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測し、
前記山側車輪に制動力が付与されていないときには、前記接地力推定部によって演算された接地力の推定値と前記山側車輪に対する駆動力とに基づき、車両の偏向ずり下がりが発生する可能性があるか否かを予測する。
【符号の説明】
【0101】
100…車両の運転支援装置としての制御装置、110…力調整制御部の一例であるエンジン制御部、120…力調整制御部の一例である変速機制御部、140…誘導制御部の一例であるステアリング制御部、150…力調整制御部の一例であるサスペンション制御部、160…接地力推定部、予測部、接地荷重推定部及び力調整制御部の一例であるブレーキ制御部、170…報知制御部、FL,FR…前輪、RL,RR…後輪、D…差としての状態値、DTh1…第1の閾値、DTh2…第2の閾値、X1…接地荷重の推定値、Y…路面μ値、Z…山側車輪の接地力の推定値、ZT…トータル接地力、θ…路面勾配、α…偏向度合いとしての偏向角度。
図1
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