特許第6248530号(P6248530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248530
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】電動車両の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20171211BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B60L15/20 K
   F16H61/04
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-213743(P2013-213743)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-77044(P2015-77044A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】森 憲一
(72)【発明者】
【氏名】本杉 純
(72)【発明者】
【氏名】豊田 良平
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−257610(JP,A)
【文献】 特開2009−040174(JP,A)
【文献】 特開2011−105024(JP,A)
【文献】 特開2006−051929(JP,A)
【文献】 特開2012−091666(JP,A)
【文献】 特開2008−151252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
F16H 61/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に有するモータと、
前記モータと駆動輪の間に設けられた自動変速機と、
前記自動変速機の出力回転数を検出する変速機回転数検出手段と、
車輪の回転数を検出する車輪回転数検出手段と、
前記自動変速機の変速時イナーシャフェーズ中の前記モータの回転数目標値を、前記自動変速機の出力回転数に基づいて設定したベース目標回転数に対し、前記車輪の回転数に基づいて設定した先読み成分回転数を上乗せして設定するモータ回転数制御手段と、
を備えることを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両の変速制御装置において、
モータ回転数制御手段は、
前記自動変速機の出力回転数に変速後のギア比を積算した値を、前記ベース目標回転数として設定し、
前記車輪の回転数を微分した値を、前記先読み成分回転数として設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記車輪回転数検出手段は、前記車輪の回転数を検出する車輪速センサと、前記車輪速センサの検出値をフィルタ処理するフィルタ回路と、を有する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記電動車両の車速を検出する車速検出手段を備え、
前記モータ回転数制御手段は、前記車速に応じて、前記ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記電動車両の加速度を検出する加速度検出手段を備え、
前記モータ回転数制御手段は、前記加速度に応じて、前記ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記車輪回転数検出手段は、前記駆動輪の回転数を検出し、
前記モータ回転数制御手段は、前記駆動輪の回転数に基づいて、前記先読み成分回転数を設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記車輪回転数検出手段は、前記電動車両の左右に設けられた一対の車輪の回転数の平均値を前記車輪の回転数とし、
前記モータ回転数制御手段は、前記左右一対の車輪の回転数の平均値に基づいて、前記先読み成分回転数を設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載された電動車両の変速制御装置において、
前記自動変速機は、締結要素として、摩擦締結する摩擦クラッチと、噛み合いによる係合クラッチを有し、
前記モータ回転数制御手段は、締結状態の前記摩擦クラッチを開放すると共に開放状態の前記係合クラッチを締結する変速時のイナーシャフェーズ中に、前記ベース目標回転数に対して前記先読み成分回転数を上乗せして前記モータの回転数目標値を設定する
ことを特徴とする電動車両の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速時イナーシャフェーズ中に、モータの回転数を回転数目標値に追従させるモータ回転数制御を行う電動車両の変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源にモータを有する電動車両において、変速時イナーシャフェーズ中のモータ回転数目標値を、回転変化開始時の変速機入力回転数・回転変化終了時の変速機入力回転数・目標変速時間・回転変化開始からの経過時間に基づいて設定する変速制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-257610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変速中に車両が加速又は減速すると、変速機の出力側の回転数が変化する。そこで、イナーシャフェーズ中のモータ回転数目標値を変速機出力側の変化に合わせて変更すると、モータの回転数がモータ回転数目標値に達することができない。
つまり、イナーシャフェーズ中では、モータの回転数を変速後のギヤ比に応じた回転数にするためにモータ回転数目標値に追従させるが、その間に変速後のギヤ比に応じた回転数が変化してしまうと、いつまでたってもモータ回転数と回転数目標値との偏差がゼロにならない。
この結果、変速機の入力側と出力側とで回転差が生じている状態で変速終了時間となり、大きな変速ショックが発生するという問題が生じていた。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、イナーシャフェーズ中のモータの回転数目標値の設定精度を向上し、変速ショックを抑制することができる電動車両の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両の変速制御装置は、駆動源に有するモータと、モータと駆動輪の間に設けられた自動変速機と、自動変速機の出力回転数を検出する変速機回転数検出手段と、車輪の回転数を検出する車輪回転数検出手段と、モータ回転数制御手段と、を備えている。
そして、前記モータ回転数制御手段は、前記自動変速機の変速時イナーシャフェーズ中の前記モータの回転数目標値を、前記自動変速機の出力回転数に基づいて設定したベース目標回転数に対し、前記車輪の回転数に基づいて設定した先読み成分回転数を上乗せして設定する。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の電動車両の変速制御装置では、モータ回転数制御手段によって、イナーシャフェーズ中のモータの回転数目標値が、自動変速機の出力回転数に基づいて設定したベース目標回転数に対し、車輪の回転数に基づいて設定した先読み成分回転数を上乗せして設定される。
そのため、変速機出力側の回転数変化を先読みして、回転数目標値に上乗せすることができるので、イナーシャフェーズ中のモータの回転数目標値の設定精度を向上することができる。
しかも、先読み成分回転数は、車輪の回転数に基づいて設定されるので、駆動系に発生する振動の影響を受けにくく、回転数目標値の振幅が増加することを抑制できる。この結果、モータの回転数目標値の設定精度をさらに向上し、変速ショックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の変速制御装置が適用された電気自動車(電動車両の一例)の駆動系構成と制御系構成を示す全体システム構成図である。
図2】実施例1の変速制御系の詳細構成を示す制御ブロック図である。
図3】実施例1の変速コントローラにて実行される変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
図4】変速機入力目標回転数を設定する際の、車速と加算する先読み成分回転数の割合の関係特性を示すマップである。
図5】変速機入力目標回転数を設定する際の、加速度と加算する先読み成分回転数の割合の関係特性を示すマップである。
図6】電気自動車における振動発生メカニズムを説明する駆動系構成を示す模式図である。
図7】実施例1の変速制御装置を搭載した電気自動車において、変速時イナーシャフェーズ中のベース目標回転数・車輪速センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数・変速機出力回転数センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数・モータ回転数・車輪速センサ値・変速機出力回転数センサ値の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電動車両の変速制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、構成を説明する。
実施例1における電気自動車(電動車両の一例)に搭載された変速制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速制御系の詳細構成」、「変速制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の変速制御装置が適用された電気自動車の駆動系構成と制御系構成を示す。以下、図1に基づき、実施例1の全体システム構成を説明する。
【0012】
前記電気自動車の駆動系構成としては、図1に示すように、駆動用モータジェネレータ2(モータ)と、自動変速機3と、駆動輪(車輪)14と、を備えている。
【0013】
前記駆動用モータジェネレータ2は、三相交流の永久磁石型同期モータであり、電気自動車の走行駆動源となる。この駆動用モータジェネレータ2は、モータコントローラ28から図示しないインバータに対し正のトルク(駆動トルク)指令が出力されている時には、強電バッテリ(不図示)からの放電電力を使って駆動トルクを発生する駆動動作をし、駆動輪14を駆動する(力行)。一方、モータコントローラ28からインバータに対し負のトルク(発電トルク)指令が出力されている時には、駆動輪14からの回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電動作をし、発電した電力を強電バッテリの充電電力とする(回生)。
そして、この駆動用モータジェネレータ2のモータ軸は、自動変速機3の変速機入力軸6に接続される。
【0014】
前記自動変速機3は、変速比の異なる2つのギア対のいずれかで動力を伝達する常時噛み合い式有段変速機であり、減速比の小さなハイギア段(高速段)と減速比の大きなローギア段(低速段)を有する2段変速としている。この自動変速機3は、駆動用モータジェネレータ2から変速機入力軸6及び変速機出力軸7を順次経てモータ動力を出力する際の変速に用いられ、低速段を実現するロー側変速機構8及び高速段を実現するハイ側変速機構9により構成される。ここで、変速機入力軸6及び変速機出力軸7は、それぞれ平行に配置される。
【0015】
前記ロー側変速機構8は、上記モータ動力の出力に際し、ロー側伝動経路を選択するためのもので、変速機出力軸7上に配置している。このロー側変速機構8は、低速段ギア対(ギア8a,ギア8b)が、変速機入出力軸6,7間を駆動結合するように、変速機出力軸7に対するギア8aの噛み合い係合/開放を行う係合クラッチ8c(締結要素)により構成する。ここで、低速段ギア対は、変速機出力軸7上に回転自在に支持したギア8aと、該ギア8aと噛み合い、変速機入力軸6と共に回転するギア8bと、から構成される。
【0016】
前記ハイ側変速機構9は、上記モータ動力の出力に際し、ハイ側伝動経路を選択するためのもので、変速機入力軸6上に配置している。このハイ側変速機構9は、高速段ギア対(ギア9a,ギア9b)が、変速機入出力軸6,7間を駆動結合するように、変速機入力軸6に対するギア9aの摩擦締結/開放を行う摩擦クラッチ9c(締結要素)により構成する。ここで、高速段ギア対は、変速機入力軸6上に回転自在に支持したギア9aと、ギア9aに噛み合い、変速機出力軸7と共に回転するギア9bと、から構成される。
【0017】
前記変速機出力軸7は、ギア11を固定し、このギア11と、これに噛合するギア12とからなるファイナルドライブギア組を介して、ディファレンシャルギア装置13を変速機出力軸7に駆動結合する。さらに、このディファレンシャルギア装置13には、駆動輪14が結合されるドライブシャフト16が連結されている。これにより、変速機出力軸7に達した駆動用モータジェネレータ2のモータ動力がファイナルドライブギア組11,12及びディファレンシャルギア装置13を経て、左右のドライブシャフト16から駆動輪14(なお、図1では一方の駆動輪のみを示した)に伝達されるようにする。
さらに、変速機出力軸7には、ギア11の反対側に、パーキングギア17が固定され、このパーキングギア17と噛み合い可能に図外の変速機ケースに設けられたパーキングポール18が配置される。つまり、Pレンジ位置の選択時、パーキングポール18を、係合クラッチ8cと兼用の第1電動アクチュエータ41によりパーキングギア17に噛み合わせることで、変速機出力軸7が回転しないようにケース固定する。
【0018】
前記電気自動車の制御系構成としては、図1に示すように、変速コントローラ(モータ回転数制御手段)21、車速センサ22、アクセル開度センサ23、ブレーキストロークセンサ24、前後Gセンサ25、スライダ位置センサ26、スリーブ位置センサ27、モータ回転数センサ33、変速機出力回転数センサ(変速機回転数検出手段)34、車輪速センサ(車輪回転数検出手段)35等を備えている。これに加え、モータコントローラ28と、ブレーキコントローラ29と、統合コントローラ30と、CAN通信線31と、レンジ位置スイッチ32と、を備えている。
【0019】
前記変速コントローラ21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップメモリ、入出力インターフェース回路に加え、各種フィルタ回路21aや演算回路21bを備えたマイクロコンピュータによって構成されている。この変速コントローラ21では、係合クラッチ8cが噛み合い係合で摩擦クラッチ9cが開放のローギア段が選択されている状態でハイギア段へアップシフトする際、係合クラッチ8cの開放と摩擦クラッチ9cの摩擦締結による架け替え制御を遂行する。また、係合クラッチ8cが開放で摩擦クラッチ9cが摩擦締結のハイギア段が選択されている状態でローギア段へダウンシフトする際、係合クラッチ8cの噛み合い係合と摩擦クラッチ9cの開放による架け替え制御を遂行する。
さらに、後述する変速制御処理を実行し、変速時イナーシャフェーズ中のモータ回転数目標値を設定する。
【0020】
前記レンジ位置スイッチ32は、図外のセレクトレバーに対する運転者のセレクト操作により選択された自動変速機3のレンジ位置を検出するスイッチである。検出されるレンジ位置としては、Pレンジ(=パーキングレンジ、非走行レンジ、駐車レンジ)、Nレンジ(=ニュートラルレンジ)、Dレンジ(=ドライブレンジ、前進走行レンジ)、Rレンジ(=リバースレンジ、後退走行レンジ)等を有している。
【0021】
前記モータ回転数センサ33は、駆動用モータジェネレータ2の出力回転数を検出するセンサであり、ここでは変速機入力軸6の回転数を検出する。
前記変速機出力回転数センサ34は、自動変速機3の出力回転数を検出するセンサであり、ここでは変速機出力軸7の回転数を検出する。
前記車輪速センサ35は、駆動輪14の回転数を検出するセンサである。なお、この車輪速センサ35によって検出された左右の駆動輪14の回転数の値は、変速コントローラ21が有するフィルタ回路21aに入力されてフィルタ処理がなされた後、演算回路21bに入力されて左右平均値が演算される。そして、この変速コントローラ21では、このフィルタ処理後の演算された左右駆動輪回転数の平均値を、駆動輪回転数(車輪の回転数)とする。
【0022】
[変速制御系の詳細構成]
図2は、実施例1の変速制御系の詳細構成を示す。以下、図2に基づき、実施例1の変速制御系の詳細構成を説明する。
【0023】
前記電気自動車の制御系のうち変速制御系の構成としては、図2に示すように、係合クラッチ8cと、摩擦クラッチ9cと、パーキングギア17と、駆動用モータジェネレータ2と、液圧ブレーキ15と、変速コントローラ21と、を備えている。つまり、係合クラッチ8cと摩擦クラッチ9cと駆動用モータジェネレータ2と液圧ブレーキ15を制御対象とし、条件に応じて変速コントローラ21からの指令により制御する構成としている。
【0024】
前記係合クラッチ8cは、シンクロ式の噛み合い係合によるクラッチであり、ギア8aに設けたクラッチギア8dと、変速機出力軸7に結合したクラッチハブ8eと、カップリングスリーブ8fと、を有する(図1を参照)。そして、第1電動アクチュエータ41によりカップリングスリーブ8fをストローク駆動させることで、噛み合い係合/開放する。
この係合クラッチ8cの噛み合い係合と開放は、カップリングスリーブ8fの位置によって決まり、変速コントローラ21は、スリーブ位置センサ27の値を読み込み、スリーブ位置が噛み合い係合位置又は開放位置になるように第1電動アクチュエータ41に電流を与える第1位置サーボコントローラ51(例えば、PID制御による位置サーボ系)を備えている。そして、カップリングスリーブ8fがクラッチギア8d及びクラッチハブ8eの外周クラッチ歯の双方に噛合した図1に示す噛み合い位置にあるとき、ギア8aを変速機出力軸7に駆動連結する。一方、カップリングスリーブ8fが、図1に示す位置から軸線方向へ変位することでクラッチギア8d及びクラッチハブ8eの外周クラッチ歯の一方と非噛み合い位置にあるとき、ギア8aを変速機出力軸7から切り離す。
【0025】
前記摩擦クラッチ9cは、ギア9aと共に回転するドリブンプレート9dと、変速機入力軸6と共に回転するドライブプレート9eと、を有する(図1を参照)。そして、第2電動アクチュエータ42により両プレート9d,9eに押付け力を与えるスライダ9fを駆動することで摩擦締結/開放する。
この摩擦クラッチ9cの伝達トルク容量は、スライダ9fの位置によって決まり、また、
スライダ9fはネジ機構となっており、第2電動アクチュエータ42の入力が0(ゼロ)のとき、位置を保持する機構となっている。変速コントローラ21は、スライダ位置センサ26の値を読み込み、所望の伝達トルク容量が得られるスライダ位置になるように第2電動アクチュエータ42に電流を与える第2位置サーボコントローラ52(例えば、PID制御による位置サーボ系)を備えている。
そして、摩擦クラッチ9cは、変速機入力軸6と一体に回転し、クラッチ摩擦締結のときギア9aを変速機入力軸6に駆動連結し、クラッチ開放のとき、ギア9aと変速機入力軸6の駆動連結を切り離す。
【0026】
前記パーキングギア17は、Pレンジ位置(非走行レンジ位置)の選択時、係合クラッチ8cと兼用の第1電動アクチュエータ41によりパーキングポール18を噛み合わせることで、変速機出力軸7が回転しないようにケース固定する。すなわち、第1電動アクチュエータ41は、係合クラッチ8cの噛み合い位置と、係合クラッチ8cの非噛み合い位置と、パーキングギア17の噛み合い位置と、の3つの位置の動作を管理する。
【0027】
前記駆動用モータジェネレータ2は、変速コントローラ21から出力される指令を入力するモータコントローラ28によってトルク制御又は回転数制御される。つまり、モータコントローラ28が、変速コントローラ21からのモータトルク容量指令やトルク上限値指令や入出力回転同期指令を入力すると、これらの指令に基づき、駆動用モータジェネレータ2がトルク制御又は回転数制御される。
【0028】
前記液圧ブレーキ15は、変速コントローラ21から出力される指令を入力するブレーキコントローラ29からの駆動指令を受ける図外のブレーキ液圧アクチュエータにてブレーキ締結力を増加させるポンプアップ作動が制御される。
【0029】
[変速制御処理構成]
図3は、実施例1の変速コントローラにて実行される変速制御処理の流れを示す。以下、図3に基づき、実施例1の変速制御処理構成をあらわす各ステップについて説明する。なお、この処理は、自動変速機3の変速制御が開始されたら行われる。
【0030】
ステップS1では、変速時のイナーシャフェーズが開始されたか否かを判断する。YES(イナーシャフェーズ開始)の場合にはステップS2へ進む。NO(イナーシャフェーズ未開始)の場合にはステップS1を繰り返す。
ここで、イナーシャフェーズの開始は、モータコントローラ28に入出力回転同期指令が入力され、変速制御に伴って締結するクラッチのスリーブ位置又はスライダ位置が変化し始めたことで判断する。
また、「イナーシャフェーズ」では、変速機入力回転数と変速機出力回転数を同期させるため、駆動用モータジェネレータ2の回転数制御が行われる。すなわち、駆動用モータジェネレータ2の回転数目標値(以下、「目標モータ回転数」という)が設定され、駆動用モータジェネレータ2は、モータ回転数(=変速機入力回転数)がこの目標モータ回転数に追従するように制御される。
【0031】
ステップS2では、ステップS1でのイナーシャフェーズ開始との判断に続き、イナーシャフェーズが開始してからの時間が、予め設定した強制終了時間に達したか否かを判断する。YES(強制終了時間経過)の場合にはステップS8へ進む。NO(強制終了時間未経過)の場合にはステップS3へ進む。
ここで、「強制終了時間」とは、変速予定時間に基づいて設定されるイナーシャフェーズ時間であり、例えば0.3m秒〜0.5m秒程度の任意の時間に設定される。
【0032】
ステップS3では、ステップS2での強制時間未経過との判断に続き、モータ回転数・変速機出力回転数(T/M出力回転数)・駆動輪車輪速・車速・加速度の各パラメータを読み込み、ステップS4へ進む。
ここで、モータ回転数は、モータ回転数センサ33によって検出した値である。変速機出力回転数は、変速機出力回転数センサ34によって検出した値である。駆動輪車輪速は、車輪速センサ35によって検出された値である。車速は、車速センサ22によって検出された値である。加速度は、前後Gセンサ25によって検出された値である。
【0033】
ステップS4では、ステップS3での各パラメータの読み込みに続き、ベース目標回転数を演算し、ステップS5へ進む。
ここで、「ベース目標回転数」は、ステップS3にて読み込まれた自動変速機3の出力回転数に基づいて設定される値であり、モータ回転数目標値の基本になるものである。ここでは、変速機出力回転数に変速後のギア比を積算した値に設定される。
【0034】
ステップS5では、ステップS4でのベース目標回転数の演算に続き、先読み成分回転数を演算し、ステップS6へ進む。
ここで、「先読み成分回転数」は、ステップS3にて読み込まれた駆動輪車輪速から求められる駆動輪14の回転数に基づいて設定される値であり、変速機出力回転数の変化を先読みするためのものである。ここでは、車輪速センサ35によって検出された左右の駆動輪14の回転数をフィルタ回路21aでフィルタ処理した後、演算回路21bによって平均値を算出して求めた駆動輪回転数を、微分した値に設定される。
【0035】
ステップS6では、ステップS5での先読み成分回転数の演算に続き、イナーシャフェーズ中の目標モータ回転数を下記式(1)によって設定し、ステップS7へ進む。
目標モータ回転数 = ベース目標回転数
+{(先読み成分回転数×車速に基づく加算割合)
+(先読み成分回転数×加速度に基づく加算割合)}
÷2 ・・・(1)
すなわち、「目標モータ回転数」は、ステップS4にて演算したベース目標回転数に対し、ステップS5にて演算した先読み成分回転数を加算した値に設定される。また、加算する先読み成分回転数の割合を、車速と加速度の大きさに応じて設定する。
つまり、図4に示すように、ステップS3にて読み込んだ車速が、第1閾値車速V0未満のときには、車速に基づく先読み成分回転数の加算割合はゼロであり、加算される先読み成分回転数はゼロになる。また、車速が第1閾値車速V0から第2閾値車速V1の間のときには、車速が増加するにつれて、ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を増大する。さらに、車速が第2閾値車速V1以上のときには、車速に基づく先読み成分加算割合は100%に設定される。
一方、図5に示すように、ステップS3にて読み込んだ加速度が、第1閾値加速度G0未満のときには、加速度に基づく先読み成分回転数の加算割合はゼロであり、加算される先読み成分回転数はゼロになる。また、加速度が第1閾値加速度G0から第2閾値加速度G1の間のときには、加速度が増加するにつれて、ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を増大する。さらに、加速度が第2閾値加速度G1以上のときには、加速度に基づく先読み成分加算割合は100%に設定される。
【0036】
ステップS7では、ステップS6での目標モータ回転数の設定に続き、ステップS3にて読み込んだモータ回転数と、ステップS4にて演算したベース目標回転数との偏差が所定範囲内となった状態が、予め設定した閾値時間の間継続したか否かを判断する。YES(偏差所定範囲内OK)の場合はステップS8へ進む。NO(偏差所定範囲内NG)の場合はステップS2へ戻る。
ここで、「モータ回転数とベース目標回転数との偏差が所定範囲内となった状態が、予め設定した閾値時間の間継続」とは、変速に伴って締結されるクラッチにおける差回転がゼロになったと判断できることである。「所定範囲」は任意に設定することができるが、クラッチ締結時に生じるショックやクラッチ負担を許容できる範囲とする。また、「閾値時間」は、偏差が安定したと判断できる時間とする。
【0037】
ステップS8では、ステップS2での強制終了時間経過との判断、又は、ステップS7での偏差所定範囲内OKのとの判断に続き、イナーシャフェーズが終了したと判断し、エンドへ進む。これにより、変速制御は次段階(クラッチ締結フェーズ)へと遷移する。
【0038】
次に、作用を説明する。
まず、「先読み成分回転数の設定時の課題」を説明し、続いて、実施例1の電動車両の変速制御装置における「イナーシャフェーズ時回転数制御作用」を説明する。
【0039】
[先読み成分回転数の設定時の課題]
図6は、電気自動車における振動発生メカニズムを説明する駆動系構成を示す模式図である。以下、図6に基づき、先読み成分回転数の設定時の課題を説明する。
【0040】
電気自動車(電動車両の一例)の駆動系には、図6に示すように、走行駆動源であるモータMorと駆動輪Tの間に、変速機T/MとドライブシャフトDRを順に備えていることが一般的である。
このとき、モータ出力軸Moutは、変速機T/M内のクラッチ(締結要素)CLの入力側に接続されている。また、駆動輪Tに結合したドライブシャフトDRは、変速機T/M内のクラッチ(締結要素)CLの出力側につながる変速機出力軸T/Moutに接続されている。
【0041】
ここで、ドライブシャフトDRは、常にねじりモーメントが作用する部品である。そのため、ドライブシャフトDRに接続された変速機出力軸T/Moutには、ドライブシャフトDRに作用したねじりモーメントによって発生するねじり振動が伝達される。
これに対し、変速機T/M内のクラッチCLは、摩擦クラッチや係合クラッチによって構成され、モータMorと駆動輪Tとの間の動力伝達を断接する機構である。そのため、このクラッチCLを開放又はスリップ締結することで、ドライブシャフトDRからのねじり振動がモータ出力軸Moutに伝達されることが防止される。
また、ドライブシャフトDRと駆動輪Tとの間には、図示しないハブベアリングが介装されている。そのため、このハブベアリングによって、ドライブシャフトDRからのねじり振動が駆動輪Tに伝達されにくくなっている。
【0042】
すなわち、変速機出力軸T/Moutには、ドライブシャフトDRからのねじり振動が伝達され、モータ出力軸Moutと駆動輪Tにはこのねじり振動が伝達されにくくなっている。
【0043】
そのため、変速機出力軸T/Moutの回転数である変速機出力回転数は、このねじり振動の影響を受けてしまい、変速機出力回転数センサ34の検出値は振幅が比較的大きくなってしまう。
一方、駆動輪Tの回転数である駆動輪回転数は、ドライブシャフトDRからのねじり振動の影響を受けにくいため、車輪速センサ35の検出値は振幅が比較的小さくなる。
なお、モータ出力軸Moutの回転数であるモータ回転数は、クラッチCLが開放又はスリップ締結しているときには、ねじり振動の影響は受けないが、クラッチCLが締結すると、変速機出力回転数に同期し、ねじり振動の影響を受けることとなる。
【0044】
そこで、変速機出力回転数センサ34の検出値に基づいて先読み成分回転数を設定すると、目標モータ回転数の振幅が増大するという問題が生じる。これに対し、車輪速センサ35の検出値に基づいて先読み成分回転数を設定すれば、目標モータ回転数の振幅増大を抑制することができる。
【0045】
[イナーシャフェーズ時回転数制御作用]
図7は、実施例1の変速制御装置を搭載した電気自動車において、変速時イナーシャフェーズ中のベース目標回転数・車輪速センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数・変速機出力回転数センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数・モータ回転数・車輪速センサ値・変速機出力回転数センサ値の各特性を示すタイムチャートである。以下、図7に基づき、実施例1のイナーシャフェーズ時回転数制御作用を説明する。
【0046】
実施例1の変速制御装置において、ハイギア段が選択されている状態でローギア段へのダウンシフトする場合には、係合クラッチ8cが噛み合い係合され、摩擦クラッチ9cが開放される。このような変速制御中、図7に示す時刻tにおいて、摩擦クラッチ9cのスライダ9fの位置がスリップ締結位置になり、係合クラッチ8cのカップリングスリーブ8fの位置がクラッチギア8d及びクラッチハブ8eの双方に噛み合う位置へと移動を開始すると、イナーシャフェーズが開始したと判断され、図3に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2へと進む。また、時刻t時点では、イナーシャフェーズは開始直後である。このため、ステップS2においてNOと判断されてステップS3に進み、モータ回転数・変速機出力回転数・駆動輪車輪速・車速・加速度の各パラメータが読み込まれる。
【0047】
そして、ステップS4→ステップS5→ステップS6へと進み、ベース目標回転数と先読み成分回転数が演算されると共に、これらが加算されて目標モータ回転数が設定される。このとき、先読み成分回転数を、駆動輪車輪速から求められる駆動輪14の回転数を示す車輪速センサ値の微分値に設定する。また、図7では、車速が第2閾値車速V1以上であって、加速度が第2閾値加速度G1以上とし、ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合は100%とする。
【0048】
ここで、駆動輪車輪速から求められる駆動輪14の回転数である車輪速センサ値は、ドライブシャフト16からのねじり振動の影響を受けにくい。そのため、図7に鎖線で示すように、車輪速センサ値は振幅が比較的小さくなる。この結果、この車輪速センサ値に基づいて設定する先読み成分回転数(=車輪速センサ値の微分値)は、ほぼ一定値になる。
これにより、車輪速センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数は、図7に鎖線で示すように、ベース目標回転数をほぼオフセットしたものとすることができる。
【0049】
そして、このように設定した目標モータ回転数に追従するように駆動用モータジェネレータ2の回転数を制御すると、変速後の回転数であるベース目標回転数が増大変化していても、時刻tのタイミングで、モータ回転数はベース目標回転数と一致することができる。
【0050】
さらに、時刻t時点において、モータ回転数とベース目標回転数との偏差が所定範囲内である状態が閾値時間継続すれば、ステップS7→ステップS8へと進み、イナーシャフェーズを終了したと判断できる。つまり、時刻t時点をイナーシャフェーズ強制終了時間とすれば、この強制終了時間が経過する前にモータ回転数を変速後の変速機出力回転数に一致させることができる。
このため、係合クラッチ8cを締結する際のクラッチ差回転を小さく抑えることができ、変速ショックの発生を抑制することができる。
【0051】
これに対し、変速機出力回転数センサ値は、ドライブシャフト16からのねじり振動の影響を受けてしまい、図7において実線で示すように、比較的大きな振幅が生じている。そのため、先読み成分回転数を、変速機出力回転数を示すこの変速機出力回転数センサ値の微分値に設定した場合では、先読み成分回転数の振幅が増長されてしまい、図7において一点鎖線で示すように、目標モータ回転数に生じる振動が大きくなる。
【0052】
そのため、モータ回転数を、この変速機出力回転数センサ値を使用して先読みした目標モータ回転数に追従するように制御した場合では、モータ回転数が急激に増大したり、変動したりすることが考えられ、モータ回転数を円滑に変化させることが困難になる。そのため、ドライバに違和感を与えたり、車両挙動が不安定になるおそれが生じる。
【0053】
一方、ベース目標回転数に対して先読み成分回転数を上乗せしない値、つまりベース目標回転数自体を目標モータ回転数に設定し、モータ回転数をベース目標回転数に設定された目標モータ回転数に追従するように制御した場合では、変速機出力軸7の回転数変化にモータ回転数が十分に追従しないことが考えられる。そのため、モータ回転数とベース目標回転数との回転差が大きいままでイナーシャフェーズが強制的に終了となり、係合クラッチ8cは同期機構を用いて締結されることとなる。そのため、クラッチ締結時に大きなショックが発生したり、クラッチ負担が増加したりするおそれが生じる。
【0054】
また、実施例1では、図4図5に示すマップを用い、車速又は加速度に応じて、ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を設定している。すなわち、車速や加速度が小さいときには先読み成分回転数の加算割合を低くし、車速や加速度が大きいときに先読み成分回転数の加算割合を高くする。
【0055】
これにより、低車速であって、車輪速センサ35の分解能が低いときの検出値を用いて先読み成分回転数を設定することが防止され、先読み成分回転数の設定精度を向上することができる。
また、加速度が大きいほど、変速機出力軸7に入力する振動が大きくなり、変速機出力回転数センサ34による検出値の振動が大きくなる。これに対し、加速度が大きいほど駆動輪回転数に基づいて設定される先読み成分回転数の加算割合を増大することで、モータ回転数の追従性を向上することができ、ショックを抑制することができる。
【0056】
そして、実施例1では、ベース目標回転数を、自動変速機3の出力回転数に変速後のギア比を積算した値とし、先読み成分回転数を、駆動輪14の回転数を微分した値としている。
これにより、目標モータ回転数を容易且つ精度よく設定することができ、イナーシャフェーズ終了時の締結側クラッチにおける偏差を適切に小さくすることができる。
【0057】
特に、実施例1では、駆動輪14の回転数を、車輪速センサ35の検出値そのものではなく、車輪速センサ35によって検出された値をフィルタ回路21aによってフィルタ処理した後、左右の駆動輪14の平均値を算出して駆動輪回転数としている。
これにより、ノイズの影響を排除することができると共に、検出値の偏りを是正して、先読み成分回転数の設定精度を向上することができる。
【0058】
また、実施例1において、先読み成分回転数は、駆動用モータジェネレータ2によって駆動される駆動輪14の回転数に基づいて設定される。そのため、例えば駆動輪14がスリップした場合等の回転数変化を先読み成分回転数に反映することができる。この結果、先読み成分回転数の設定精度を向上し、目標モータ回転数の設定精度も向上することができる。
【0059】
そして、実施例1の電動車両の変速制御装置では、自動変速機3が締結要素として、摩擦締結する摩擦クラッチ9cと、噛み合いによる係合クラッチ8cを有し、図7に示すように、締結状態の摩擦クラッチ9cを開放すると共に開放状態の係合クラッチ8cを締結する変速時のイナーシャフェーズ中に、ベース目標回転数に対して先読み成分回転数を上乗せしてモータの回転数目標値を設定する。
これにより、自動変速機3における締結側の締結要素が、同期機構が必要な係合クラッチ8cであっても、クラッチ差回転を小さくしてショックの発生を抑制することができる。
【0060】
次に、効果を説明する。
実施例1の電動車両の変速制御装置にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0061】
(1) 駆動源に有するモータ(駆動用モータジェネレータ)2と、
前記モータ2と駆動輪14の間に設けられた自動変速機3と、
前記自動変速機3の出力回転数を検出する変速機回転数検出手段(変速機出力回転数センサ)34と、
車輪(駆動輪)14の回転数を検出する車輪回転数検出手段(車輪速センサ)35と、
前記自動変速機3の変速時イナーシャフェーズ中の前記モータ2の回転数目標値(目標モータ回転数)を、前記自動変速機3の出力回転数に基づいて設定したベース目標回転数に対し、前記車輪14の回転数に基づいて設定した先読み成分回転数を上乗せして設定するモータ回転数制御手段(変速コントローラ)21と、
を備える構成とした。
これにより、イナーシャフェーズ中の目標モータ回転数の設定精度を向上し、変速ショックを抑制することができる。
【0062】
(2) モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、
前記自動変速機3の出力回転数に変速後のギア比を積算した値を、前記ベース目標回転数として設定し、
前記車輪(駆動輪)14の回転数を微分した値を、前記先読み成分回転数として設定する構成とした。
これにより、上記(1)の効果に加え、目標モータ回転数を容易且つ精度よく設定することができる。
【0063】
(3) 前記車輪回転数検出手段は、前記車輪(駆動輪)の回転数を検出する車輪速センサ35と、前記車輪速センサ35の検出値をフィルタ処理するフィルタ回路21aと、を有する構成とした。
これにより、上記(1)又は(2)の効果に加え、ノイズの影響を排除することができ、先読み成分回転数の設定精度を向上することができる。
【0064】
(4) 前記電動車両(電気自動車)の車速を検出する車速検出手段(車速センサ)22を備え、
前記モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、前記車速に応じて、前記ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を設定する構成とした。
これにより、上記(1)〜(3)のいずれかの効果に加え、先読み成分回転数の設定精度を向上することができる。
【0065】
(5) 前記電動車両(電気自動車)の加速度を検出する加速度検出手段(前後Gセンサ)25を備え、
前記モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、前記加速度に応じて、前記ベース目標回転数に対して加算する先読み成分回転数の割合を設定する構成とした。
これにより、上記(1)〜(4)のいずれかの効果に加え、モータ回転数の追従性を向上することができ、ショックを抑制することができる。
【0066】
(6) 前記車輪回転数検出手段(車輪速センサ)35は、前記駆動輪14の回転数を検出し、
前記モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、前記駆動輪14の回転数に基づいて、前記先読み成分回転数を設定する構成とした。
これにより、上記(1)〜(5)のいずれかの効果に加え、スリップ時の車輪回転数変化を先読み成分回転数に反映することができ、目標モータ回転数の設定精度を向上することができる。
【0067】
(7) 前記車輪回転数検出手段(車輪速センサ)35は、前記電動車両(電気自動車)の左右に設けられた一対の車輪(駆動輪)14の回転数の平均値を前記車輪(駆動輪)14の回転数とし、
前記モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、前記左右一対の車輪14の回転数の平均値に基づいて、前記先読み成分回転数を設定する構成とした。
これにより、上記(1)〜(6)の効果に加え、検出値の偏りを是正した上で駆動輪回転数を算出することができ、先読み成分回転数の設定精度を向上することができる。
【0068】
(8) 前記自動変速機3は、締結要素として、摩擦締結する摩擦クラッチ9cと、噛み合いによる係合クラッチ8cを有し、
前記モータ回転数制御手段(変速コントローラ)21は、締結状態の前記摩擦クラッチ9cを開放すると共に開放状態の前記係合クラッチ8cを締結する変速(ダウンシフト)時のイナーシャフェーズ中に、前記ベース目標回転数に対して前記先読み成分回転数を上乗せして前記モータ(駆動用モータジェネレータ)2の回転数目標値(目標モータ回転数う)を設定する構成とした。
これにより、上記(1)〜(7)のいずれかの効果に加え、自動変速機3における締結側の締結要素が、同期機構が必要な係合クラッチ8cであっても、クラッチ差回転を小さくしてショックの発生を抑制することができる。
【0069】
以上、本発明の電動車両の変速制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0070】
実施例1では、走行駆動源として駆動用モータジェネレータ2のみを有する電気自動車に対し、本発明の変速制御装置を適用する例を示したが、これに限らない。駆動源にモータを有する車両であれば、ハイブリッド車両や燃料電池車等であっても適用することができる。
【0071】
また、実施例1では、摩擦クラッチ9cが摩擦締結したハイギア段から、係合クラッチ8cが噛み合い係合するローギア段へのダウンシフト時のイナーシャフェーズ中、モータ回転数を上昇させる際に、本発明の変速制御装置を適用する例を示したが、これに限らない。
係合クラッチ8cが噛み合い係合したローギア段から、摩擦クラッチ9cが摩擦係合するハイギア段へのアップシフト時のイナーシャフェーズ中、モータ回転数を低減させる際であって、本発明の変速制御装置を適用することができる。
【0072】
さらに、自動変速機3について、締結要素として、摩擦締結する摩擦クラッチのみを有するものであってもよいし、噛み合い係合する係合クラッチのみを有するものであってもよい。
【0073】
そして、上記実施例1では、駆動輪14の回転数に基づいて先読み成分回転数を設定する例を示したが、これに限らない。先読み成分回転数は、従動輪の回転数に基づいて設定されてもよいし、一方の駆動輪14或いは一方の従動輪の回転数に基づいて設定されてもよい。
【符号の説明】
【0074】
2 駆動用モータジェネレータ(モータ)
3 自動変速機
6 変速機入力軸
7 変速機出力軸
8 ロー側変速機構
8c 係合クラッチ(締結要素)
9 ハイ側変速機構
9c 摩擦クラッチ(締結要素)
14 駆動輪
21 変速コントローラ(モータ回転数制御手段)
21a フィルタ回路(車輪回転数検出手段)
22 車速センサ
25 前後Gセンサ
33 モータ回転数センサ
34 変速機出力回転数センサ(変速機回転数検出手段)
35 車輪速センサ(車輪回転数検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7