特許第6248536号(P6248536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248536
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】超音波欠陥判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20171211BHJP
   G01N 29/36 20060101ALI20171211BHJP
   G01N 29/09 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   G01N29/44
   G01N29/36
   G01N29/09
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-220155(P2013-220155)
(22)【出願日】2013年10月23日
(65)【公開番号】特開2015-81849(P2015-81849A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宇野 聡
(72)【発明者】
【氏名】前田 和明
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−309838(JP,A)
【文献】 特開平02−129544(JP,A)
【文献】 特開昭58−213248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物に向けて互いに反対方向からパルス超音波を発振波として照射し、両方向で得られた受信波の波形が互いに異なる場合に、前記発振波の波形を記憶し、前記被検物から反射して戻った受信波が前記発振波の長さよりも長い時に、前記発振波の波形を、前記受信波の波形の前半部分を消失させるようにこれに加算ないし減算し、消失させるための前記発振波の加算ないし減算に応じて前記被検物中で発振波照射方向の前側に位置する欠陥の種類を判定するとともに、消失せずに残された前記受信波の波形の後半部分によって前記被検物中で発振波照射方向の後側に位置する欠陥の種類を判定する超音波欠陥判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波欠陥判定方法に関し、特に、鉄鋼材料等の被検物中に介在物や空孔等の欠陥が近接して存在する場合にもこれらの欠陥を正確に判定することが可能な超音波欠陥判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような超音波欠陥判定方法において、例えば特許文献1には、パルス超音波が反射して戻った受信波の位相が反転していない場合には一般的に、上記受信波の正のピークの最大値Pが、負のピークの最大値(絶対値)Nよりも大きくなり、反対に受信波の位相が反転する場合には一般的に、上記受信波の負のピークの最大値Nが、正のピークの最大値Pよりも大きくなるから、これらを探知して受信波の位相が反転しているか否かによって欠陥の有無を検出できることが示されている。また、特許文献2には特許文献1の知見よりダンピング係数(=P/(P+N))を定義して、当該ダンピング係数を利用して欠陥判定を行う方法が提案されている。
【0003】
一方、反射波の位相反転の有無は、反射源すなわち欠陥の音響インピーダンスが相対的に大きいか否かによって決定される。すなわち、例えば音響インピーダンスZ1の鉄鋼材料中に音響インピーダンスZ2の空孔がある場合にはZ1>Z2であるから反射波は反転し、上記ダンピング係数(以下MURAI値という)は0.5よりも小さくなる。これに対し、鉄鋼材料中に音響インピーダンスZ3の介在物がある場合にはZ1<Z3であるから反射波は反転せず、MURAI値は0.5よりも大きくなる。そこで、MURAI値を算出することによって被検物中の欠陥の種類を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−174653
【特許文献2】特許第2896385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、被検物中の欠陥が互いに近接して存在すると上記従来の方法では欠陥の判定が正確に行えない場合がある。これを図1で説明する。図1では鉄鋼材料1中に二つの介在物2A,2Bが使用超音波(入射波)Stの往復一波長分程度の距離d1で互いに近接して存在している。この場合、各介在物2A,2Bからの反射波Sr1,Sr2は反転しないからMURAI値は0.5よりも大きくなるはずであるが、オシロスコープで得られる受信波Scは前側の介在物2Aからの反射波Sr1(図2(1))と後側の介在物からの反射波Sr2(図2(2))が重なって図2(3)に示すようなものとなり、この受信波ScのMURAI値は0.5よりも小さくなる。したがって従来の判定方法では鉄鋼材料中に一つの空孔があることになってしまう。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、被検物中の欠陥が近接して存在していても確実に欠陥の種類を判定することができる超音波欠陥判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、被検物(1)に向けて互いに反対方向からパルス超音波を発振波(St)として照射し、両方向で得られた受信波(Sc)の波形が互いに異なる場合に、発振波(St)の波形を記憶し、被検物(1)から反射して戻った受信波(Sc)が上記発振波(St)の長さよりも長い時に、前記発振波(St)の波形を、前記受信波(Sc)の波形の前半部分を消失させるようにこれに加算ないし減算し、消失させるための前記発振波(St)の加算ないし減算に応じて前記被検物(1)中で発振波照射方向の前側に位置する欠陥(2A)の種類を判定するとともに、消失せずに残された前記受信波の波形(Sd)の後半部分によって前記被検物(1)中で発振波照射方向の後側に位置する欠陥(2B)の種類を判定する。なお、「消失」とは完全に消失する必要はなく、実質的に消失したと同程度に波形が小さくなる状態を含む。
【0008】
本第1発明によれば、受信波の前半部分を消失させるために発振波の波形を加算ないし減算のいずれとしたかによって被検物中で前側に位置する欠陥の種類を判定することができるとともに、残された波形の後半部分によって被検物中で後側に位置する欠陥の種類を判定することができる。この場合、互いに反対方向からの照射で得られた受信波の波形が同一である場合には被検物中の欠陥は一つであるとして上記判定を行わず、上記受信波の波形が互いに異なる場合にのみ被検物中の欠陥が互いに近接して二つ存在するとして上記判定を実施する。したがって、欠陥の種類をさらに確実に判定することができる。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の超音波欠陥判定方法によれば、被検物中の欠陥が近接して存在していても確実に欠陥の種類を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態における鉄鋼材料内に存在する欠陥を示す概念図である。
図2】反射波、合成波の各波形を示す図である。
図3】受信波、発振波の各波形および減算波形を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態における鉄鋼材料内に存在する欠陥を示す概念図である。
図5】受信波の波形および減算波形を示す図である。
図6】本発明の第3実施形態における鉄鋼材料内に存在する欠陥を示す概念図である。
図7】受信波の波形および減算波形を示す図である。
図8】受信波の波形および加算波形を示す図である。
図9】本発明の第4実施形態における鉄鋼材料内に存在する欠陥を示す概念図である。
図10】鉄鋼材料の後方から発振波を照射した場合の受信波の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態を、図1に示す場合について説明する。既に従来技術の場合で説明したように図1に示す鉄鋼材料1中には二つの介在物2A,2Bが入射波Stの往復一波長分程度の距離d1で互いに近接して存在している。本実施形態では、最初に発振波(入射波)Stの波形(図1)を記憶しておく。そして、得られた受信波Sc(図2(3))の波数が発振波Stの波数である2.5波より長い場合には、受信波Scは二つの欠陥2A,2Bからの反射波Sr1,Sr2(図2(1),(2))が合成された波形(合成波)であると判定して、以下の処理を行う。なお、この受信波ScのMURAI値(=P/(P+N))は前述したように0.5よりも小さいから、従来の方法では鉄鋼材料中に一つの空孔があるという判定になるものである。
【0016】
本実施形態の処理においては、発振波St(図3(2))の方が受信波Sc(図3(1))よりも通常は強度が大きいから、波形先頭の半波長範囲(図3(1),(2)のX,Y範囲)のピーク値が同じになるように発振波Stに一定の係数を乗じる。そして、係数を乗じた発振波Stを、先頭を一致させて受信波Scから減算するとその波形Sdは、図3(3)に示すようにその前半部分(Z範囲)が消失したものとなる。このように発振波Stの波形を減算することで受信波Scの前半部分の波形が消失する場合は、受信波Scの波形の前半部分が反転していないことを示しているから、鉄鋼材料1中の前側の欠陥は介在物2Aであると判定できる。そして、波形Sdの残る後半部分についてはMURAI値(=P/(P+N))を計算すると0.5より大きくなるから、鉄鋼材料1中の後側の欠陥は介在物2Bであると判定できる。
【0017】
(第2実施形態)
本実施形態では図4に示すように、鉄鋼材料1中の超音波入射方向の前側に欠陥として介在物2があるとともに後側に空孔3があり、これら欠陥が入射波Stの往復0.5波長分程度の距離d2で互いに近接して存在している。発振波(入射波)Stに対して介在物2からの反射波Sr3は位相の反転は無く、空孔3からの反射波Sr4は位相が反転する。この結果受信波Scは図5(1)に示すような合成波となる。なお、この合成波ScのMURAI値は約0.5であるから、従来の方法では欠陥の種類の判定は困難である。
【0018】
これに対して本実施形態では、第1実施形態と同様の手順で、波形先頭の半波長範囲のピーク値が受信波Scと同じになるように発振波Stに一定の係数を乗じ、係数を乗じた発振波Stの波形を受信波Scの波形から減算すると、図5(2)に示すように減算された波形Sdはその前半部分(Z範囲)が消失する。このように発振波Stの波形を減算することで受信波Scの前半部分が消失する場合は、受信波Scの波形の前半部分が反転していないことを示しているから、鉄鋼材料1中の前側の欠陥は介在物2であると判定できる。そして、波形Sdの残る後半部分についてMURAI値(=P/(P+N))を計算すると0.5より小さくなるから、鉄鋼材料1中の後側の欠陥は空孔3であると判定できる。
【0019】
(第3実施形態)
本実施形態では図6に示すように、鉄鋼材料1中の超音波入射方向の前側に欠陥として空孔3があるとともに後側に介在物2があり、これら欠陥が入射波の往復1.5波長分程度の距離d3で互いに近接して存在している。発振波(入射波)Stに対して空孔3からの反射波Sr5は位相の反転があり、介在物2からの反射波Sr6は位相の反転がない。この結果受信波Scは図7(1)、図8(1)に示すような合成波となる。
【0020】
そこで、最初に第1実施形態と同様の手順で、波形先頭の半波長範囲のピーク値が同じになるように発振波Stに一定の係数を乗じ、係数を乗じた発振波Stの波形を受信波Scの波形から減算すると、図7(2)に示すように減算された波形Sdはむしろ強められて消失しない。そこでこの場合は、係数を乗じた発振波Stの波形を受信波Scの波形に加算すると、加算された波形Saはその前半部分(Z範囲)が消失する(図8(2))。このように発振波Stの波形を加算することで受信波Scの前半部分が消失する場合は、受信波Scの波形の前半部分が反転していることを示しているから、鉄鋼材料1中の前側の欠陥は空孔3であると判定できる。そして、波形Sdの残る後半部分についてMURAI値(=P/(P+N))を計算すると0.5より大きくなるから、鉄鋼材料1中の後側の欠陥は介在物2であると判定できる。
【0021】
(第4実施形態)
図9に示すように、鉄鋼材料1中に入射波の往復0.5波長分程度の厚みHの一つの介在物2が存在する場合には、発振波(入射波)Stに対して介在物2の前面での反射波Sr7は位相の反転は無く、介在物2の後面からの反射波Sr8は位相が反転する。この結果受信波Scは介在物2の前面と後面での反射波Sr7,Sr8が合成されて、前側の介在物2と後側の空孔3の二つの欠陥からの反射波Sr3,Sr4が合成された図5(1)に示す合成波と同様の波形となり、一つの介在物2の存在を、互いに近接した介在物2と空孔3が存在するものと誤判定するおそれがある。
【0022】
そこで、このようなことを避けるためには、鉄鋼材料1の前方と後方の互いに反対の二方向からパルス超音波を照射するようにすると良い。このようにすると、図9に示す欠陥構造では前方からと後方からの発振波Stに対して得られる受信波Scの波形は、いずれも介在物2の前面での反射波Sr7と介在物2の後面からの反射波Sr8が合成された同一の合成波形になる(図5(1)参照)。
【0023】
これに対して、図4に示す欠陥構造では、前方からの発振波Stに対しては受信波Scの波形は前側介在物2からの反射波Sr3と後側空孔3からの反射波Sr4の合成波形(図5(1))になるのに対して、後方からの発振波Stに対しては受信波Scの波形は前側空孔3からの反射波Sr4と後側介在物2からの反射波Sr3の合成波形(図10)になって、互いに反転し異なるものになる。したがって、互いに反対方向からパルス超音波を照射して同一波形の受信波Scが得られた場合には鉄鋼材料1中に単一の欠陥があるものと判定する。一方、反転した異なる波形の受信波Scが得られた場合には、上記各実施形態で説明した処理を行って超音波照射方向の前側と後側に位置する欠陥の判定を行う。このように、被検物たる鉄鋼材料1に対し互いに反対方向から発振波Stを照射することによって、欠陥の種類をさらに確実に判定することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…鉄鋼材料(被検物)、2,2A,2B…介在物(欠陥)、3…空孔(欠陥)、Sc…受信波、Sd…減算波形、St…発振波。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10