特許第6248564号(P6248564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248564能動振動制御装置および能動振動制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248564
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】能動振動制御装置および能動振動制御システム
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20171211BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20171211BHJP
   G10K 11/175 20060101ALI20171211BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   F16F15/02 A
   G10K11/16 160
   G10K11/175
   G10K11/178
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-236388(P2013-236388)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96738(P2015-96738A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112210
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108431
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 加奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100153176
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 重明
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 信秋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】堀田 厚
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−106737(JP,A)
【文献】 特開平06−087335(JP,A)
【文献】 特開平05−173580(JP,A)
【文献】 特開平01−298898(JP,A)
【文献】 特開平07−334165(JP,A)
【文献】 特開平10−059179(JP,A)
【文献】 特開平11−007306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F15/00−15/36
G10K11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源から発生する振動を低減するための2次振動に変換される制御信号を生成する能動振動制御装置であって、
前記振動源の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第1の振動分布データを記憶する第1の記憶部と、
前記2次振動を発生する2次振動発生部の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第2の振動分布データを記憶する第2の記憶部と、
前記第1の振動分布データと前記第2の振動分布データとを用いて制御用パラメータを生成するパラメータ生成部と、
前記パラメータ生成部で生成された前記制御用パラメータに基づいて、前記振動源から発生する振動の周波数を有する参照信号から前記制御信号を生成する制御用フィルタと、を備え
前記パラメータ生成部は、前記第1の振動分布データと前記第2の振動分布データとを用いて、前記振動源の振動によって前記物体に発生する振動の分布に前記2次振動発生部の振動によって前記物体に発生する振動の分布を重ねて、前記物体の振動分布のパラメータを表すベクトルのノルムを計算することにより、前記物体の振動分布の平均振動パワーが低減するような前記制御用パラメータを生成する
ことを特徴とする能動振動制御装置。
【請求項2】
前記パラメータ生成部は、前記物体の振動分布のパラメータを表すベクトルのノルムを最小化して、前記物体の振動分布の平均振動パワーが最小になるような前記制御用パラメータを生成することを特徴とする請求項1に記載の能動振動制御装置。
【請求項3】
前記第1の記憶部には、前記振動源の状態に応じた前記第1の振動分布データが複数記憶されており、
前記振動源の状態を検知する検知部と、
前記検知部で検知された前記振動源の状態に基づいて前記第1の振動分布データを選択するデータ選択部と、を備え、
前記パラメータ生成部は、前記データ選択部で選択された前記第1の振動分布データを用いて前記制御用パラメータを生成することを特徴とする請求項1または2に記載の能動振動制御装置。
【請求項4】
前記第2の記憶部には、前記振動源の状態に応じた前記第2の振動分布データが複数記憶されており、
前記データ選択部は、前記検知部で検知された前記振動源の状態に基づき前記第1の振動分布データと前記第2の振動分布データとを選択し、
前記パラメータ生成部は、前記データ選択部で選択された前記第1の振動分布データと前記第2の振動分布データとを用いて前記制御用パラメータを生成することを特徴とする請求項に記載の能動振動制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載の能動振動制御装置と、
前記能動振動制御装置の前記制御用フィルタによって生成された前記制御信号を変換して前記2次振動を発生する2次振動発生部と、を備えたことを特徴とする能動振動制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動に対して別の振動を重ねて打ち消すことで振動を抑制する能動振動制御装置および能動振動制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
能動振動制御は、振動源から発生する振動に対して、その振動を打ち消すように作用する別の振動(以下、2次振動と称す)を重ねることで制振する技術である。特許文献1、特許文献2などにおいて開示されている一般的な能動振動制御システムでは、制振対象の物体に、振動を検出するための誤差センサ(例えば加速度センサ)と、2次振動を発生させるための加振器を設置し、誤差センサの位置における振動パワーが最小化されるように加振器を制御することで制振する。
【0003】
しかしながら、このような能動振動制御システムでは、制振効果が保証されるのが誤差センサの近傍に限定される問題がある。誤差センサから離れた位置では、振動源から発生する振動と2次振動が同位相となり強め合うことで、結果として振動パワーを増加させることも起こり得る。そのため、広い範囲に振動が発生する物体(例えば、壁面や床面など)を全体的に制振するには、一般的な能動振動制御システムでは困難である。
【0004】
特許文献3では、騒音源から発生する騒音の影響を、事前の数値解析により寄与率分布データとして作成しておき、この寄与率分布データに基づいて消音用スピーカを制御することで空間の騒音を全体的に低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−301388号公報
【特許文献2】特開平7−199954号公報
【特許文献3】特開平1−298898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3の方法では、空間の騒音を全体的に低減しようとすると、消音対象の空間のいたるところに消音用スピーカを設置する必要がある。そのため、特許文献3の方法を能動振動制御に適用しようとすると、例えば壁面などの平面的な物体を全体に制振するためには物体の面積に比例する数の加振器が必要となり、また、立体的な物体を全体的に制振するためには物体の体積に比例する数の加振器が必要となる。つまり、特許文献3の方法を能動振動制御に適用しようとすると、制振対象の物体を全体的に制振するには多数の加振器が必要になるという課題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、制振対象の物体を少数の加振器で全体的に制振することができる能動振動制御装置および能動振動制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る能動振動制御装置は、振動源から発生する振動を低減するための2次振動に変換される制御信号を生成する能動振動制御装置であって、振動源の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第1の振動分布データを記憶する第1の記憶部と、2次振動を発生する2次振動発生部の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第2の振動分布データを記憶する第2の記憶部と、第1の振動分布データと第2の振動分布データとを用いて制御用パラメータを生成するパラメータ生成部と、パラメータ生成部で生成された制御用パラメータに基づいて、振動源から発生する振動の周波数を有する参照信号から制御信号を生成する制御用フィルタと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る能動振動制御システムは、能動振動制御装置と、能動振動制御装置の制御用フィルタによって生成された制御信号を変換して2次振動を発生する2次振動発生部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の能動振動制御装置および能動振動システムによれば、振動源の振動によって制振対象の物体に発生する振動分布のデータと、加振器の振動によって制振対象の物体に発生する振動分布のデータとを用いて2次振動に変換される制御信号のパラメータを生成するので、加振器が少数の場合でも、制振対象の物体を全体的に制振することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る能動振動制御装置の構成例を示す図である。
図2】実施の形態1に係る動作例を示すフローチャートである。
図3】実施の形態1に係る箱の上面板に発生する振動分布を計測する振動センサの配置図を示す。
図4】実施の形態1に係る箱内に配置された振動源及び加振器を示す図である。
図5】実施の形態1に係る制振処理の実験結果であるコンター図を示す。
図6】実施の形態2に係る振動分布参照部70の構成例を示す図である。
図7】実施の形態2に係る振動源を3個有する制振対象の物体を示す図である。
図8】実施の形態2に係る振動分布参照部70の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下図面を用いて本発明の実施の形態1を説明する。
【0013】
図1は実施の形態1に係る能動振動制御装置の構成例を示す図である。能動振動制御装置100は、振動源用振動分布格納部(第1の記憶部)1と、加振器用振動分布格納部(第2の記憶部)2と、制御用フィルタパラメータ生成部(パラメータ生成部)3と、参照信号生成部4と、制御用フィルタ5と、加振器6とを備える。また、制振対象の物体200は、能動振動制御装置100によって振動が制御される物体である。なお、ここでは加振器6は能動振動制御装置100内に設けられているが、これに限らず、能動振動制御装置100の外部に設置されていてもよい。その場合は、能動振動制御装置100と加振器6とを備える能動振動制御システムとして動作することになる。
【0014】
振動源用振動分布格納部1は、例えばメモリ等により実現され、図示しない振動源の振動によって発生する制振対象の物体200についての振動分布を表すデータ(第1の振動分布データ)が記憶される。なお、振動源は、例えばインバータ、変圧器、空調用室外機、ファン等が該当する。
【0015】
本発明に係る能動振動制御装置は、振動源から発生する振動を低減するための2次振動に変換される制御信号を生成する能動振動制御装置であって、振動源の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第1の振動分布データを記憶する第1の記憶部と、2次振動を発生する2次振動発生部の振動によって物体に発生する振動の分布を表す第2の振動分布データを記憶する第2の記憶部と、第1の振動分布データと第2の振動分布データとを用いて制御用パラメータを生成するパラメータ生成部と、パラメータ生成部で生成された制御用パラメータに基づいて、振動源から発生する振動の周波数を有する参照信号から制御信号を生成する制御用フィルタと、を備え、パラメータ生成部は、第1の振動分布データと第2の振動分布データとを用いて、振動源の振動によって物体に発生する振動の分布に2次振動発生部の振動によって物体に発生する振動の分布を重ねて、物体の振動分布のパラメータを表すベクトルのノルムを計算することにより、物体の振動分布の平均振動パワーが低減するような制御用パラメータを生成することを特徴とする。
【0016】
制御用フィルタパラメータ生成部3は、例えばソフトウエアにより実現され、第1の振動分布データと第2の振動分布データとを用いて、制御用フィルタ5の制御用パラメータを生成する。この制御用パラメータの生成方法についての詳細は後述するが、制御用フィルタパラメータ生成部3は、振動源の振動によって物体に発生する振動の分布に、加振器6の振動によって物体に発生する振動の分布を重ねて物体の振動分布の平均振動パワーが低減するような制御用パラメータを生成する。なお、振動源用振動分布格納部1、加振器用振動分布格納部2、及び制御用フィルタパラメータ生成部3を合わせて振動分布参照部7と表現してもよい。
【0017】
参照信号生成部4は、外部から振動を低減したい対象(例えば振動源)の周波数についての情報が入力され、その情報に基づき参照信号を生成する。参照信号は、振動源から発生する振動の周波数を少なくとも有する正弦波等が該当する。
【0018】
制御用フィルタ5は、例えばFIR(finite impulse response)フィルタにより実現され、制御用フィルタパラメータ生成部3により生成された制御用フィルタパラメータを用いて、参照信号生成部4により生成された参照信号に対して変調を施し、制御信号を生成する。
【0019】
加振器6は、例えばアクチュエータ等により実現され、制御用フィルタ5により生成された制御信号を、振動源から発生する振動を低減するための2次振動に変換する。ここでいう低減には、振動を打ち消すことも含まれ、以下も同様である。なお、これまで2次振動を発生するものとして加振器6を用いて説明したが、これに限らず、例えば加振器6の代わりにスピーカを用いて能動騒音制御に適用することも可能である。加振器6、スピーカ等の上位概念として2次振動発生部(2次振動発生器)と表現するものとする。以下の説明においても、これまでの説明と同様、2次振動発生部の一例として加振器6を用いて説明を行うが、当然これに限定されるものではない。
【0020】
次に、実施の形態1の動作について説明する。
【0021】
図2は実施の形態1に係る動作例を示すフローチャートである。まず、制御用フィルタパラメータ生成部3は、振動源用振動分布格納部1に記憶される第1の振動分布データと、加振器用振動分布格納部2に記憶される第2の振動分布データとを読み出す(ステップS1)。
【0022】
ここで、第1の振動分布データ、第2の振動分布データの生成方法について詳細を説明する。振動分布データは、制振対象の物体200に加速度センサを設置して計測された振動にもとづいて算出される。このとき、振動は、制振対象の物体200全体をカバーするように、十分な数の点で計測する。例えば、制振対象が平面的な物体の場合、物体の表面を格子状に分割し、各格子点においてそれぞれ振動を計測するといった方法が考えられる。
【0023】
この場合、空間的エイリアシングの影響を回避するため、格子の間隔を、制振対象とする振動の周波数における半波長よりも短く設定することが望ましい。各点で計測した振動から、例えばフーリエ変換などにより、振動の振幅と位相の情報を求め、これを複素数パラメータとして離散周波数ごとに算出する。各計測点における複素数パラメータをまとめた複素ベクトルを、振動分布データとする。
【0024】
第1の振動分布データは、振動源だけが振動しており、加振器6が振動していないときの物体における振動分布を計測することにより生成が可能である。第2の振動分布データは、ひとつの加振器6だけが振動しており、振動源は振動していないときの物体における振動分布を計測することにより生成が可能である。加振器6が複数ある場合は、加振器6の数だけ物体の振動分布を計測することにより生成が可能である。このように生成された第1の振動分布データが振動源用振動分布格納部1に記憶され、第2の振動分布データが加振器用振動分布格納部2に記憶される。
【0025】
次に、制御用フィルタパラメータ生成部3は、第1の振動分布データと第2の振動分布データとを用いて制御用フィルタパラメータを生成する(ステップS2)。
【0026】
制御用フィルタパラメータの生成方法についての詳細を説明する。ここでは、簡便のため、単一の周波数ωだけに注目したときの制御用フィルタパラメータの生成方法について述べる。振動源は周波数ωの正弦波振動を発生させるものとし、加振器6は二次振動として周波数ωの正弦波振動を任意の振幅と位相で発生させることができるものとする。また、参照信号として、振動源と同じ周波数ωの正弦波が与えられるものとする。ただし、振動源の振動を単一周波数の正弦波振動に限定するものではない。振動が複数の周波数成分によって構成されるものであれば、それぞれの周波数成分について同様の動作を行うことで、すべての周波数成分を制振することができ、当然そのような構成も含まれるものとする。
【0027】
N(Nは正の整数)個の計測点から振動分布データを生成するものとし、ひとつの振動分布データをN次元の複素ベクトル(縦ベクトル)で表すものとする。以下では、第1の振動分布データを表す複素数ベクトルをdとする。加振器6はM(Mは正の整数)個存在するものとし、m番目の加振器6に対応する振動分布データを表す複素数ベクトルをcとする。また、式(1)のように、加振器6の振動分布を表す複素ベクトルを横に並べてできる行列をCとする。
【0028】
【数1】
【0029】
制御用フィルタパラメータは、参照信号に与える利得を絶対値、位相を偏角として持つ複素数で表すものとし、ここでは、m番目の加振器6を制御するための制御用フィルタに対応する制御用フィルタパラメータをaとする。また、式(2)のように、M個の制御用フィルタパラメータを縦に並べた複素ベクトルをaとする。ただし、はベクトルの転置を表す。
【0030】
【数2】
【0031】
能動振動制御時における制振対象である物体の振動分布の平均振動パワーを最小化するような制御用フィルタパラメータaは、式(3)のように求める。ただし、はMoore‐Penroseの擬似逆行列を表す。
【0032】
【数3】
【0033】
式(3)のような演算を行うことによって、振動源に対する複素ベクトルと、加振器に対する複素ベクトルに制御用フィルタを掛けたものと、を加算してできるベクトルのノルムが最小化される。このベクトルのノルムを最小化することは、制振対象である物体の振動分布上の各点における振幅の二乗和を最小化することと等価であり、この結果として制振対象となる物体の全体において平均振動パワーが減少する。なお、ここではベクトルのノルムを最小化することについて説明を行ったが、必ずしも最小化しなければならないわけではなく、制振対象である物体全体における平均振動パワーが減少するように演算して制御用フィルタパラメータを生成すればよい。
【0034】
次に、制御用フィルタ5は、このように制御用フィルタパラメータ生成部3によって生成された制御用フィルタパラメータを用いて、参照信号に変調を施し制御信号を生成する(ステップS3)。つまり、制御用フィルタ5は、m番目の加振器6に対して、参照信号の振幅を|a|倍し、位相をarg(a)だけシフトした制御信号を出力する。ただし、|a|はaの絶対値を表し、arg(a)はaの偏角を表す。
【0035】
加振器6は、制御用フィルタ5から出力された制御信号に基づき2次振動を発生し、物体に対して制振を行う(ステップS4)。
【0036】
以下では実験結果について説明する。実験では、アクリル製の箱型モックアップを製作し、実施の形態1による能動振動制御を用いて振動面の制振を行った。箱の寸法は、縦横が850mmで、高さが200mmである。ここでは箱が制振対象の物体200であり、箱の上面板を振動面とし、箱の中に振動源を配置することにより上面板を振動させた。
【0037】
図3は実施の形態1に係る箱の上面板に発生する振動分布を計測する振動センサの配置図を示す。図3に示すように、箱の上面板には縦横に105mm間隔でそれぞれ8本の格子線を引き、8×8=64個の各格子点に振動センサを配置した。振動センサにより、振動分布として、振動源から振動面に至る伝達関数の特定の周波数における利得及び位相の分布と、振動面で観測された振動の特定の周波数におけるパワー及び位相の分布とを計測した。
【0038】
図4は実施の形態1に係る箱内に配置された振動源及び加振器を示す図である。図4に示すように、振動源を1つ、加振器を2つ、箱の底面に配置し、これらはいずれもアクチュエータにより実現可能である。上述した方法によって加振器の制御用パラメータを生成し、箱の上面板に対して制振の処理を行った。
【0039】
図5は実施の形態1に係る制振処理の実験結果であるコンター図を示す。図5に示すように、加振器非動作時(非振動制御時)の振動分布(dB)と比べて、加振器動作時(振動制御時)の振動分布(dB)では面のほぼ全体において振動が抑制されていることがわかる。なお、加振器を動作させることにより、加振器非動作時と比べて振動パワーは面平均で最大17dB減少した。また、振動面の振動が騒音となって拡散する状況における実験では、能動振動制御による騒音低減効果を実験で使用した部屋の中に設置された複数のマイクで観測したところ、平均で最大18dBの騒音低減効果が得られた。
【0040】
以上より、実施の形態1によれば、制御用フィルタパラメータ生成部3は、振動源の振動によって制振対象の物体200に発生する振動の分布を表す第1の振動分布データと、加振器の振動によって制振対象の物体に発生する振動の分布を表す第2の振動分布データとを用いて制御用フィルタパラメータを生成するので、物体自身に発生する振動を考慮した上で制御用フィルタパラメータを生成することが可能となり、たとえ加振器が少数の場合であっても、制振対象の物体200に生じる振動を全体的に制振することが可能となる。特に、制振対象である物体の面において発生する振動を低減したい場合は、物体に発生する振動分布データとして物体の面全体における振動分布データを用いて制御用フィルタパラメータを生成することにより、少数の加振器6で、物体の面全体における平均振動パワーを低減することが可能となる。
【0041】
また、制御用フィルタパラメータ生成部3は、物体の振動分布のパラメータを表すベクトルのノルムを計算して、振動源の振動によって制振対象の物体200に発生する振動の分布と、加振器の振動によって制振対象の物体200に発生する振動の分布とを重ねた場合に物体の振動分布の平均振動パワーが低減されるような制御用フィルタパラメータを生成するので、制振対象の物体200を全体的に制振する場合において、より好適な低減効果を得ることが可能となる。
【0042】
特に、制御用フィルタパラメータ生成部3が、物体の振動分布のパラメータを表すベクトルのノルムを最小化することにより、制振対象の物体200全体の平均振動パワーを低減するための最適な制御用フィルタパラメータを生成することができ、より少ない加振器6で、より好適な低減効果を得ることが可能となる。
【0043】
実施の形態2.
以下図面を用いて本発明の実施の形態2について説明する。
【0044】
図6は実施の形態2に係る振動分布参照部70の構成例を示す図である。実施の形態2の能動振動制御装置は、振動分布参照部70において、振動源用振動分布格納部(第1の記憶部)8及び加振器用振動分布格納部(第2の記憶部)9がそれぞれ実施の形態1の振動源用振動分布格納部1及び加振器用振動分布格納部2と構成が異なり、検知部10と、データ選択部11を新たに備える点において実施の形態1とは異なる。なお、その他の構成については実施の形態1と同様であるので図1と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
振動源用振動分布格納部8は、複数の第1の振動分布データa、b、cを記憶する。複数の第1の振動分布データa、b、cは、振動源の状態の時間変化にそれぞれ対応した振動分布データである。振動源の状態の時間変化とは、例えば、振動源の発生位置の時間変化、振動源から発生する振動の周波数における時間変化等が該当する。
【0046】
加振器用振動分布格納部9は、複数の第2の振動分布データa、b、cを記憶する。複数の第2の振動分布データa、b、cは、それぞれ第1の振動分布データa、b、cに対応する。なお、図6では第1の振動分布データ及び第2の振動分布データはそれぞれ3つ記憶されているが、この個数に限定されるものではない。また、第1の振動分布データの個数と第2の振動分布データの個数は必ずしも一致しなくてもよい。
【0047】
検知部10は、例えば加速度センサ、マイクロホン、電圧センサ等により実現でき、振動源の状態を検知し、振動源の状態に関する情報をデータ選択部11に通知する。検知部10は、例えば車両に搭載されている電子基盤からエンジンの回転数が得られる場合、振動源となっている機械から得られる機械の状態の情報等を用いることができる。
【0048】
データ選択部11は、検知部10で検知された振動源の状態に基づいて振動源用振動分布格納部8から第1の振動分布データを選択する。また、データ選択部11は、検知部10で検知された振動源の状態に基づいて選択した第1の振動分布データに対応する第2の振動分布データを加振器用振動分布格納部9から選択する。制御用フィルタパラメータ生成部3は、データ選択部11により選択された第1の振動分布データ及び第2の振動分布データを用い、実施の形態1と同様にして制御用フィルタパラメータを生成する。
【0049】
振動源の状態の時間変化として、振動源の発生位置が時間変化する場合を例として説明する。図7は実施の形態2に係る振動源を3個有する制振対象の物体を示す図である。図8は実施の形態2に係る振動分布参照部70の他の構成例を示す図である。図7に示すように、物体は3個の振動源a、b、cを有し、これらの振動源はそれぞれ異なる時間に振動する。このような場合、図8に示すように、振動源用振動分布格納部8には3個の振動源a、b、cにそれぞれ対応した3個の第1の振動分布データa、b、cが事前に計測して格納される。また、図8に示すように、加振器用振動分布格納部9には1個の第2の振動分布データが記憶されるものとする。
【0050】
検知部10は、時間変化に応じて3個の振動源a、b、cのうちいずれの振動源が振動しているかを検知し、その情報をデータ選択部11に通知する。データ選択部11は、検知部10から通知された振動源の位置に関する情報に基づき、3個の第1の振動分布データからいずれか1個の第1の振動分布データを選択する。また、データ選択部11は、第2の振動分布データについても選択する。
【0051】
また、複数の振動源が同時に振動するような場合には、データ選択部11は振動源用振動分布格納部8から複数の第1の振動分布データを選択し、制御用フィルタパラメータ生成部3が、例えば式(3)の方法で制御用フィルタパラメータを算出する際に、振動している振動源の振動分布データを表すベクトルを加算してできるベクトルを式(3)のdとすることで対応することができる。
【0052】
振動源の状態の時間変化として、振動源から発生する振動の周波数が時間変化する場合について説明する。この場合、振動源用振動分布格納部8には周波数ごとに計測された第1の振動分布データが、加振器用振動分布格納部9には周波数ごとに計測された第2の振動分布データが、それぞれ記憶される。データ選択部11は、検知部10から通知された振動源の周波数に関する情報に基づき、振動源用振動分布格納部8から第1の振動分布データを、加振器用振動分布格納部9から第2の振動分布データを、選択する。制御用フィルタパラメータ生成部3は、データ選択部11により選択された第1の振動分布データ及び第2の振動分布データに基づいて制御用フィルタパラメータを生成する。
【0053】
以上より、実施の形態2によれば、振動源用振動分布格納部8には振動源の状態の時間変化に対応した複数の第1の振動分布データが記憶され、データ選択部11は、検知部10から通知された振動源の状態に基づいて第1の振動分布データを選択するので、制御用フィルタパラメータ生成部3は、振動源の状態が変化した場合においても変化後の状態に適した制御用フィルタパラメータを生成できるので、振動源の状態が時間変化した場合であっても少数の加振器6で制振対象の物体200に生じる振動を全体的に低減することが可能となる。
【0054】
また、振動源の状態の時間変化に対応した複数の第2の振動分布データが加振器用振動分布格納部9に記憶され、データ選択部11が振動源の状態に基づいていずれかの第2の振動分布データを選択し、制御用フィルタパラメータ生成部3が制御用フィルタパラメータを生成するので、より精度高く、制振対象の物体200に生じる振動を全体的に低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1、8 振動源用振動分布格納部(第1の記憶部)、2、9 加振器用振動分布格納部(第2の記憶部)、3 制御用フィルタパラメータ生成部(パラメータ生成部)、4 参照信号生成部、5 制御用フィルタ、6 加振器、7、70 振動分布参照部、10 検知部、11データ選択部、100 能動振動制御装置、200 制振対象の物体
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8