(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248565
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】蓄電材料の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20171211BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20171211BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20171211BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20171211BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
H01G13/00 381
H01G11/86
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-236710(P2013-236710)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-179314(P2014-179314A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-24366(P2013-24366)
(32)【優先日】2013年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】三尾 巧美
(72)【発明者】
【氏名】西 幸二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 順也
(72)【発明者】
【氏名】深谷 佳文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 崇文
【審査官】
小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/046305(WO,A1)
【文献】
特開2007−031520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01G 11/86
H01G 13/00
H01M 4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造装置であって、
前記増粘剤の溶解液の粘度を調整する粘度調整装置と、
前記増粘剤の溶解液および前記活物質を混練する混練装置と、
を備え、
前記混練装置は、
記憶された前記増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記増粘剤の溶解液の粘度を決定し、
決定した前記増粘剤の溶解液の粘度となるように前記粘度調整装置で調整された前記増粘剤の溶解液を導入し、
導入した前記増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質とを混練する蓄電材料の製造装置。
【請求項2】
前記粘度調整装置は、超音波を付与することにより前記増粘剤の溶解液の粘度を調整する、請求項1の蓄電材料の製造装置。
【請求項3】
前記粘度調整装置は、前記増粘剤の溶解液の粘度を所定の粘度範囲内に調整する、請求項1又は2の蓄電材料の製造装置。
【請求項4】
前記粘度調整装置は、所定の粘度範囲の上限値より所定値高い値に調整する、請求項1又は2の蓄電材料の製造装置。
【請求項5】
少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料製造方法であって、
前記増粘剤の溶解液の粘度を調整する粘度調整工程と、
記憶された前記増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記増粘剤の溶解液の粘度を決定し、決定した前記増粘剤の溶解液の粘度となるように調整された前記増粘剤の溶解液および前記活物質を混練する混練工程と、
を備える蓄電材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電材料を製造する製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車や電気自動車等にリチウムイオン二次電池が適用されている。リチウムイオン二次電池の電極は、アルミニウム箔等の基材に活物質材料(蓄電材料)のスラリを塗布して乾燥することにより製造される。活物質材料のスラリは、増粘剤の溶解液に活物質の粉末等を混練することにより製造される。特許文献1〜4には、増粘剤の溶解液に活物質の粉末等を混練する際に、超音波を付与して活物質の粉末等を分散させて活物質材料のスラリを製造することが記載されている。超音波を利用することにより、活物質の粉末等の分散効率を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4104645号公報
【特許文献2】特開2011−228062号公報
【特許文献3】特開2006−310120号公報
【特許文献4】特開2005−276502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、活物質材料のスラリの粘度が低いほど、電池の初期性能は高まるが、混練工程の後工程である塗布工程および乾燥工程を良好に行うことが困難になる。よって、活物質材料のスラリの粘度は、電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから所定の値に調整される。この活物質材料のスラリの粘度調整は、増粘剤の溶解液に活物質の粉末等を混練する際のせん断エネルギで増粘剤の分子鎖を切断することにより行われるため、高速で混練することにより生産効率を高めることができる。しかし、高速で混練すると活物質が損傷するおそれがあり、良好な電池性能を得ることが困難となる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、活物質の損傷を抑え、生産効率を高めることができる蓄電材料の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本発明に係る蓄電材料の製造装置は、少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料の製造装置であって、前記増粘剤の溶解液の粘度を調整する粘度調整装置と、前記増粘剤の溶解液および前記活物質を混練する混練装置と、を備え、前記混練装置は、
記憶された前記増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記増粘剤の溶解液の粘度を決定し、決定した前記増粘剤の溶解液の粘度となるように前記粘度調整装置で調整された前記増粘剤の溶解液を導入し、導入した前記増粘剤の溶解液と、投入される前記活物質とを混練する。
【0007】
増粘剤の溶解、活物質の粉末等の分散およびこれらの粘度調整を一つの混練装置で行った場合は活物質が長時間にわたってせん断力を受けるため、活物質の損傷を招くおそれがある。しかし、増粘剤の溶解液の粘度を調整する装置と、粘度調整した増粘剤の溶解液に活物質の粉末等を分散・混練する装置とに分けて構成しているため、活物質がせん断力を受ける時間は短縮される。よって、活物質の損傷を抑制することができる。また、特に時間が掛かる増粘剤の溶解液の粘度調整を活物質の粉末等の分散・混練に並行して行うことができるので、生産効率を高めることができる。
そして、最終的な活物質のスラリの粘度は、増粘剤の溶解液の粘度と比例関係にあることから、増粘剤の溶解液の粘度を所定値に調整することにより、活物質のスラリの粘度を電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから定められる所定範囲内に調整することができる。
【0008】
(請求項2)また、前記粘度調整装置は、超音波を付与することにより前記増粘剤の溶解液の粘度を調整するようにしてもよい。これにより、超音波による増粘剤の溶解液の粘度調整の方が、撹拌力による増粘剤の溶解液の粘度調整よりも粘度調整時間を短縮することができる。よって、超音波による粘度調整に必要な電力は、撹拌力による粘度調整に必要な電力よりも低減される。
【0009】
(請求項3)また、前記粘度調整装置は、前記増粘剤の溶解液の粘度を所定の粘度範囲内に調整するようにしてもよい。増粘剤の溶解液の粘度を最終的な活物質材料のスラリ粘度に近い所定の粘度範囲内に調整することで、活物質の粉末等との混練を行い最終的な活物質材料のスラリ粘度を得るための粘度調整時間を短縮することができる。よって、活物質がせん断力を受ける時間は短縮されるので、活物質の損傷を低くすることができる。
【0010】
(請求項4)また、前記粘度調整装置は、所定の粘度範囲の上限値より所定値高い値に調整するようにしてもよい。増粘剤の溶解液の粘度が、所定の粘度範囲の上限値より所定値高い値になるように調整することで、後で溶媒を加えることにより所定の粘度範囲内に調整することができる。
【0011】
(請求項5)少なくとも増粘剤および活物質を含む蓄電材料を製造する蓄電材料製造方法であって、前記増粘剤の溶解液の粘度を調整する粘度調整工程と、
記憶された前記増粘剤の溶解液の粘度と最終的な前記活物質のスラリの粘度との関係に基づいて、前記増粘剤の溶解液の粘度を決定し、決定した前記増粘剤の溶解液の粘度となるように調整された前記増粘剤の溶解液および前記活物質を混練する混練工程と、を備える。
本発明の蓄電材料の製造方法によれば、上述した蓄電材料の製造装置における効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態:蓄電材料の製造装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態:蓄電材料の製造装置の製造制御装置による処理を示すフローチャートである。
【
図3】最終的な活物質材料のスラリの粘度と増粘剤の溶解液の粘度との関係を示す図である。
【
図4】超音波による増粘剤の溶解液の粘度調整および撹拌力による増粘剤の溶解液の粘度調整の経時変化を示す図である。
【
図5】電池の容量維持率、すなわち電池の耐久性(繰り返し充放電特性)と活物質材料のスラリの粘度との関係を示す図である。
【
図6】電池の容量維持率と活物質材料の累積衝突エネルギとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.製造装置により製造される蓄電材料)
本実施形態による蓄電材料の製造装置は、例えば、リチウムイオン二次電池の電極(正極および負極)を製造するための装置を構成する。リチウムイオン二次電池の電極は、アルミニウム箔や銅箔等の基材に蓄電材料として活物質材料のスラリを塗布して乾燥することにより製造される。本実施形態の蓄電材料の製造装置は、活物質材料のスラリを製造する装置である。
【0014】
従来は、増粘剤、溶媒および活物質の粉末等を混練装置に一括投入して撹拌することにより、増粘剤の溶解、活物質の粉末等の分散およびこれらの粘度調整を1台の混練装置で行っており、活物質が長時間にわたってせん断力を受けるため、活物質の損傷を招くおそれがあった。しかし、本実施形態では、増粘剤を溶媒に溶解する溶解装置と、増粘剤の溶解液の粘度を調整する粘度調整装置と、粘度調整した増粘剤の溶解液に活物質の粉末等を分散・混練する混練装置とにおいてそれぞれ行っており、活物質がせん断力を受ける時間は短縮されるので、活物質の損傷を抑制することができる。よって、良好な電池性能を得ることができる。また、特に時間が掛かる増粘剤の溶解液の粘度調整を活物質の粉末等の分散・混練に並行して行うことができるので、生産効率を高めることができる。
【0015】
活物質材料の具体例としては、正極の電極の場合、液体分としてN−メチルピロリドン、固形分としてリチウムニッケル酸化物等の活物質、アセチレンブラック等の導電助材およびポリフッ化ビニリデン等のバインダがある。負極の電極の場合、液体分として水、固形分としてグラファイト等の活物質、カルボキシメチルセルロース等の増粘材、SBRゴムやポリアクリル酸等のバインダがある。
【0016】
(2.蓄電材料の製造装置の構成)
本実施形態の蓄電材料の製造装置について、
図1を参照して説明する。蓄電材料の製造装置1は、溶解装置2と、粘度調整装置3と、混練装置4と、製造制御装置5等とを備えて構成される。
【0017】
溶解装置2は、増粘剤を溶媒に溶解する装置であり、ハウジング21と、撹拌羽根22と、駆動モータ23と、ホッパ24と、供給管路25等とを備えている。ハウジング21は、中空円筒形状に形成されている。撹拌羽根22は、ハウジング21の内部において回転可能なように、撹拌羽根22の回転軸が、ハウジング21の上面の中心部に軸支持されている。
【0018】
駆動モータ23は、ハウジング21の上面上部に固定され、駆動モータ23のモータ軸が、撹拌羽根22の回転軸に連結されている。ホッパ24は、増粘剤を収容してハウジング21内に供給可能なように、ハウジング21の上面に突設されている。供給管路25は、溶媒をハウジング21内に供給可能なように、ハウジング21の下面に配管されている。
【0019】
粘度調整装置3は、増粘剤の溶解液の粘度を調整する装置であり、ハウジング31と、超音波装置32と、導入管路33等とを備えている。ハウジング31は、中空円筒形状に形成されている。超音波装置32は、ハウジング31の外周に配置され、圧電素子等の超音波発生素子がハウジング31の外周面に密着固定されている。導入管路33は、溶解装置2のハウジング21内の増粘剤の溶解液をハウジング31内に導入可能なように、溶解装置2のハウジング21の周壁とハウジング31の上面との間に配管されている。
【0020】
混練装置4は、粘度が調整された増粘剤の溶解液および活物質を混練する装置であり、ハウジング41と、撹拌羽根42と、駆動モータ43と、ホッパ44と、導入管路45と、排液管路46等とを備えている。ハウジング41は、中空円筒形状に形成されている。撹拌羽根42は、ハウジング41の内部において回転可能なように、撹拌羽根42の回転軸が、ハウジング41の上面の中心部に軸支持されている。駆動モータ43は、ハウジング41の上面上部に固定され、駆動モータ43のモータ軸が、撹拌羽根42の回転軸に連結されている。
【0021】
ホッパ44は、活物質の粉末等を収容してハウジング41内に供給可能なように、ハウジング41の上面に突設されている。導入管路45は、粘度調整装置3のハウジング31内の増粘剤の溶解液をハウジング41内に導入可能なように、粘度調整装置3のハウジング31の下面とハウジング41の下面との間に配管されている。排液管路46は、活物質材料のスラリを外部に排液可能なように、ハウジング41の周面に配管されている。
【0022】
製造制御装置5は、記憶部51と、溶解制御部52と、粘度調整部53と、混練制御部54等とを備えている。
記憶部51には、活物質材料のスラリの粘度と増粘剤の溶解液の粘度との関係を示すデータ(
図3参照)、増粘剤の溶解液の粘度と超音波の付与時間との関係を示すデータ(
図4参照)、その他の溶解制御、粘度調整、混練制御等に関するデータが記憶されている。
【0023】
溶解制御部52は、溶解装置2の動作を制御する制御部であり、駆動モータ23を駆動して撹拌羽根22を回転させ、ハウジング21内に供給された増粘剤および溶媒を撹拌して増粘剤の溶解液を製造する。
粘度調整部53は、粘度調整装置3の動作を制御する制御部であり、超音波装置32を駆動して超音波を発生させ、ハウジング31内に供給された増粘剤の溶解液に超音波を付与して増粘剤の溶解液の粘度を調整する。すなわち、最終的な活物質材料のスラリの粘度に基づいて、増粘剤の溶解液の粘度を決定し、決定した増粘剤の溶解液の粘度となるように超音波を所定時間付与する粘度調整を制御する。
【0024】
混練制御部54は、混練装置4の動作を制御する制御部であり、駆動モータ43を駆動して撹拌羽根42を回転させ、ハウジング41内に供給された増粘剤の溶解液および活物質等を撹拌して活物質材料のスラリを製造する。詳細は後述するが、活物質材料の粒子の運動エネルギ、活物質材料の粒子の平均自由行程および活物質材料の混練時間に基づいて、混練の指標を設定する。そして、設定した混練の指標が目標値以下となるように混練の条件を設定し、設定した混練の条件にしたがって活物質材料の混練を制御する。
【0025】
(3.製造制御装置による処理)
次に、製造制御装置5による処理について、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、増粘剤の溶解に関するデータを読み込み(ステップS1)、増粘剤および溶媒を溶解装置2に投入する(ステップS2)。そして、溶解装置2を駆動し(ステップS3)、所定の溶解時間経過したか否かを判断する(ステップS4)。所定の溶解時間経過したら、溶解装置2の駆動を停止する(ステップS5)。溶解制御部52は、記憶部51から増粘剤および溶媒の各質量のデータおよび溶解時間のデータを読み出し、所定量の増粘剤をホッパ24を介してハウジング21内に投入するとともに、所定量の溶媒を供給管路25を介してハウジング21内に投入する。そして、駆動モータ23を駆動して撹拌羽根22を所定の溶解時間回転する。
【0026】
次に、粘度調整に関するデータを読み込み(ステップS6)、増粘剤の溶解液を粘度調整装置3に導入する(ステップS7)。そして、粘度調整装置3を駆動し(ステップS8)、所定の粘度調整時間経過したか否かを判断する(ステップS9)。所定の粘度調整時間経過したら、粘度調整装置3の駆動を停止する(ステップS10)。具体的には、粘度調整部53は、溶解装置2のハウジング21内の増粘剤の溶解液を導入管路33を介してハウジング31内に導入する。そして、超音波装置32を駆動して超音波をハウジング31内の増粘剤の溶解液に所定の粘度調整時間付与する。
【0027】
ここで、増粘剤の溶解液の粘度調整について説明する。
図3に示すように、最終的な活物質材料のスラリの粘度νは、増粘剤の溶解液の粘度μと比例関係にある。よって、増粘剤の溶解液の粘度μを所定値に調整することにより、活物質材料のスラリの粘度νを電池の初期性能および塗布・乾燥工程の実行性の兼ね合いから定められる所定範囲内νa〜νbに調整することができる。
【0028】
増粘剤の溶解液の粘度μは、
図3に示す所定の粘度範囲内μa〜μb又は当該所定の粘度範囲の上限値μbより所定値高い値μcに調整する。増粘剤の溶解液の粘度を最終的な活物質材料のスラリ粘度に近い所定の粘度範囲内μa〜μbに調整することで、活物質の粉末等との混練を行い最終的な活物質材料のスラリ粘度を得るための粘度調整時間を短縮することができる。よって、活物質がせん断力を受ける時間は短縮されるので、活物質の損傷を低くすることができる。また、増粘剤の溶解液の粘度μが、上限値μbより所定値高い値μcになっても、後で溶媒を加えることにより所定の粘度範囲内μa〜μbに調整可能だからである。
【0029】
増粘剤の溶解液の粘度調整は、従来のように撹拌力によるせん断エネルギで増粘剤の分子鎖を切断することにより行ってもよいが、本実施形態では超音波による衝突エネルギとせん断エネルギで増粘剤の分子鎖を切断することにより行っている。
図4に示すように、超音波による増粘剤の溶解液の粘度調整の方が、撹拌力による増粘剤の溶解液の粘度調整よりも効率よく調整できるためである。
【0030】
すなわち、増粘剤の溶解液の目標値である粘度μpに調整する時間Tは、撹拌力による場合はT2掛かるのに対し、超音波による場合はT1(<T2)に短縮することができる。よって、超音波による粘度調整に必要な電力は、撹拌力による粘度調整に必要な電力よりも低減される。なお、増粘剤の溶解液の粘度μは、粘度調整時間Tの経過とともに低下していき、最終的に水の粘度に収束する。
【0031】
次に、
図2に示すように、増粘剤の溶解液および活物質の粉末等の混練に関するデータを読み込み(ステップS11)、増粘剤の溶解液および活物質の粉末等を混練装置4に導入する(ステップS12)。そして、混練装置4を駆動し(ステップS13)、所定の混練時間経過したか否かを判断する(ステップS14)。所定の混練時間経過したら、混練装置4の駆動を停止し(ステップS15)、最終的な活物質材料のスラリを製造する。
【0032】
具体的には、混練制御部54は、記憶部51から増粘剤の溶解液および活物質の粉末等の各質量のデータおよび混練時間のデータを読み出し、所定量の活物質の粉末等をホッパ44を介してハウジング41内に投入するとともに、所定量の増粘剤の溶解液を導入管路45を介してハウジング41内に導入する。そして、駆動モータ43を駆動して撹拌羽根42を所定の混練時間回転する。
【0033】
ここで、混練の指標および条件の設定について説明する。
図5の実験結果に示すように、活物質材料のスラリの粘度νの上昇に伴って電池の容量維持率P、すなわち電池の耐久性(繰り返し充放電特性)は上昇する。ところが、混練装置の撹拌羽根の混練周速vを高めると(va<vb)、活物質材料のスラリの粘度νが同一になるように混練しても、電池の容量維持率Pは低下する。活物質材料の粒子は、撹拌羽根の混練周速vが速くなると混練中の衝突回数が多くなって損傷する確率が高くなる。そして、活物質材料の粒子が損傷して小さく分裂すると、表面積が増大し電解液の分解が促進される。以上のことから、電池の容量維持率Pは、活物質材料の粒子の損傷が大きく関わっていることが考えられる。
【0034】
活物質材料の粒子の損傷の要因としては、撹拌羽根の混練周速vの他に、活物質材料の混練時間tや活物質材料の固形分率(固形分/(固形分+液体分))ηが考えられる。そこで、既知の平均自由行程に基づいて、活物質材料の粒子が所定空間内を自由運動するモデルで活物質材料の粒子の衝突回数を求める。そして、次式(1)に示すように、活物質材料の粒子の運動エネルギmv
2/2と活物質材料の粒子の衝突回数√(2)・η・σ・vと活物質材料の混練時間tとを乗算することにより、混練の指標となる活物質材料の累積衝突エネルギDを求めることができる。これにより、混練する前の段階で混練での活物質材料の粒子の損傷状態を予測することができる。
【0035】
【数1】
ここで、D:活物質材料の粒子の累積衝突エネルギ、m:活物質材料の単粒子重量、v:撹拌羽根の混練周速、η:活物質材料の固形分率、σ:活物質材料の粒子の平均粒径、t:活物質材料の混練時間
【0036】
そして、
図6に示すように、電池の容量維持率Pと活物質材料の累積衝突エネルギDとの関係を求める。この関係は、活物質材料の粒子の損傷の要因となる撹拌羽根の混練周速v、活物質材料の固形分率η(固形分率は、固形分と液体分との比率を変化させる)および活物質材料の混練時間tを調整することにより求める。そして、このときの関係式P=f(D)を求め、必要最低限の電池の容量維持率Ppとなる活物質材料の累積衝突エネルギDpを求め、活物質材料の累積衝突エネルギがDp以下となる混練の条件、すなわち撹拌羽根の混練周速v、活物質材料の固形分率ηおよび活物質材料の混練時間tを設定する。
【0037】
上述したように、活物質材料の粒子の平均自由行程に基づいて、活物質材料の粒子が所定空間内を自由運動するモデルで活物質材料の粒子の衝突回数を求めている。よって、この活物質材料の粒子の衝突回数と活物質材料の運動エネルギと活物質材料の混練時間とを乗算することにより活物質材料の累積衝突エネルギを求めることができ、電池の耐久性の指標として用いることができる。そして、混練する前の段階で混練での活物質材料の粒子の損傷状態を予測することができるので、活物質材料の粒子が損傷し難い混練を行うことができる。よって、耐久性の高い電池の製造が可能となる。
【0038】
なお、上述の実施形態では、溶解装置2および粘度調整装置3を備える構成の蓄電材料の製造装置1について説明したが、溶解および粘度調整を1台の装置で行う構成の蓄電材料の製造装置としてもよい。また、撹拌羽根42を備える構成の混練装置4について説明したが、スクリュウを備える構成の混練装置としてもよい。また、本発明が適用される蓄電材料としては、リチウムイオン二次電池の電極用の活物質材料に限定されるものではなく、蓄電材料であれば例えばキャパシタの材料等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1:蓄電材料の製造装置、 2:溶解装置、 3:粘度調整装置、 4:混練装置、 5:製造制御装置、 32:超音波装置、 51:記憶部、 52:溶解制御部、 53:粘度調整部、 54:混練制御部