(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄心素材として磁性板(100)からなる帯状のコアシート(10)が用いられ、このコアシート(10)が環状に折曲形成されるとともに軸方向に積層されることで、全体として円筒状の積層コア(1)が構成されており、
前記コアシート(10)が、内周側に固定子コイル(C)を巻装するためのティース部(11)およびスロット部(12)を交互に有するとともに、外周側に前記ティース部(11)および前記スロット部(12)を所定のピッチで連ねるヨーク部(13)を有している回転電機(G)の固定子鉄心(D)において、
前記コアシート(10)は、前記ティース部(11)と前記スロット部(12)との境界部分に深溝部(17)を有しており、
前記深溝部(17)は、前記コアシート(10)の板厚方向に貫通していて、前記スロット部(12)の底面(12a)から外径方向に向かって先細り状に凹んで前記ヨーク部(13)に食い込むように形成された三角形状を呈しており、しかも、
前記深溝部(17)は、前記底面(12a)側で内径方向に向かって開口する開口部(17a)の円周方向の長さ(幅W)が前記固定子コイル(C)の素線の太さ(C1)より小さくされており、
前記固定子コイル(C)は、素線として矩形状断面の平角線が用いられていることを特徴とする回転電機(G)の固定子鉄心(D)。
【実施例】
【0017】
各実施例は、本発明を適用する固定子鉄心の代表例として、自動車用交流発電機(オルタネータ)の固定子鉄心を示しており、以下の説明では、まず、自動車用交流発電機の基本構成を概説したのち、本発明の各実施例における特徴点について順次説明し、最後に本発明の特徴点毎の作用効果を要約列挙する。
なお、各実施例において、同一または均等部分には、同一符号を付し、重複説明を省略することとする。
【0018】
[実施例1]
本発明を適用する回転電機である交流発電機Gの全体構成について、
図1および
図2に基づいて説明する。
【0019】
〔交流発電機Gの基本構成〕
図1(a)に示すように、交流発電機Gは、エンジンにより駆動される回転軸Jに取付けられた回転子GRと、一対のカップ(椀型)状のハウジング(フレームとも呼ぶ)Hに組立てボルトBによって挟持固定された固定子GSとを備えており、この固定子GSには、固定子コイル(多相巻線)Cを装着する鉄心として、円筒状の積層コアからなる固定子鉄心(積層コア型固定子鉄心、巻鉄心)Dが用いられている。
また、この固定子鉄心Dは、一対のカップ状ハウジングHで挟持固定されることにより、交流発電機Gの筺体の一部として利用され、厳しい外部環境に曝されるものでもある。
【0020】
〔積層コア1の基本構成〕
図1(b)に示すように、固定子鉄心Dをなす積層コア1は、磁性板からなるコアシート10を積層して構成されており、内周側に固定子コイルCが巻かれる多数のティース(歯)部11とスロット(溝)部12とを交互に備え、外周側に各ティース部11およびスロット部12を所定のピッチで環状に連結するヨーク(継鉄)部13を備えている。
環状のヨーク部13は、固定子コイルCが巻かれない非巻線部分であり、ティース部11とスロット部12との境界部分に、後で詳しく説明する占積率向上手段DXが構築されている。
なお、固定子鉄心D(積層コア1)の外周には、組立てボルトBを挿通させるために供する固定用切欠き16が設けられている。
【0021】
積層コア1は、
図2に示すように、鉄心素材として磁性板100からなる帯状のコアシート10が用いられている。このコアシート10は、例えば、幅広の長尺状の磁性板からティース部およびスロット部が互い違いに配置されるように打抜くことにより、一対(2枚)の帯状コアシートとして作製されるもの、もしくは、幅狭の帯状の磁性板からその片側にティース部およびスロット部が交互に配置されるように打抜くことにより、1枚の帯状コアシートとして作製されるものである。
かくして、帯状のコアシート10は、
図2(a)、(b)に示すように、長さ方向の一辺側に固定子コイルCを巻装するためのティース(歯)部11およびスロット(溝)部12を有するとともに、長さ方向の他辺側にこれらのティース部11およびスロット部12を所定のピッチで連結するヨーク(継鉄)部13を有しており、さらに、ヨーク部13にはティース部11とスロット部12との境界領域に占積率向上手段DXが設けられている。
そして、このコアシート10を、
図2(c)、(d)に示すように、ヨーク部13が外周側となるように環状に折曲形成しながら(螺旋状に巻取りながら)軸方向に複数層にわたって巻回積層することにより、
図2(e)、(f)のごとく、円筒状の積層コア1とするものである。
【0022】
しかして、コアシート10のヨーク部13は、
図2(d)、(f)に示すように、内周側が、ティース部11の板厚と同一板厚を有する厚肉部14をなすとともに、この厚肉部14より外周側が、外径方向に向かうほど板厚が漸減していくテーパ状の薄肉部15をなしている。この薄肉部15は、「積層コア1を円筒状に巻回形成する過程」において塑性変形加工により形成されるものであって、積層コア1の外周側の実質的な巻取り周長を長くし、コアシート10を螺旋状に巻取りし易くする機能を有している。
【0023】
ここで、「積層コア1を円筒状に巻回形成する過程」とは、コアシート10を螺旋状に巻き取る前の段階(前工程)からコアシート10が一層分巻回されるまでの工程を意味しており、当該過程での薄肉部15の具体的形成手法としては大別すると次の2通りがある。第1の手法は、コアシート10を螺旋状に巻取る際に、例えばコアシート10を挟持する巻取りローラに圧延部を設けておき、薄肉部15を形成しながら同時に螺旋状に巻取る方法であり、第2の手法は、
図2(a)に示す帯状のコアシート10の段階で、コアシート10に対し、螺旋状に巻取る前工程として、例えばプレスにて薄肉部15を圧延形成する方法である。
【0024】
なお、積層コア1は、積層方向(軸方向)において、適宜の固着手段によって各層の相互間が固着されるものであり、固着手段としての楔を装填するため(特許文献1参照)、また、組立てボルトBを挿通させるため(
図1(a)参照)等に供する固定用切欠き16が、積層コア1の外周面に軸方向に設けられている。
【0025】
〔積層コア1の特徴〕
本発明の特徴は、積層コア1のヨーク部13において、ティース部11とスロット部12との境界部分に、占積率向上手段DXを構築している点にある。
本実施例においては、占積率向上手段DXとして、
図3に示すごとき構造の深溝部17が設けられている。
【0026】
図3において、深溝部17は、次のような特徴を有している。
(1)深溝部17は、コアシート10において、ティース部11とスロット部12との境界部分のところに、スロット部12の底面12aから外径方向に向かって凹んでヨーク部13に食い込むように形成されている。
(2)深溝部17は、板厚方向に貫通しており、開口部17aの円周方向の長さ(幅W)より径方向の長さ(深さ)の方が大きい先細り形状を呈している。より具体的には、深溝部17は一辺がスロット部12の底面12aから斜めにヨーク部13に食い込み、他辺がティース部11の側面11a(スロット部12の側面12b)から径方向に真っ直ぐに連なっていて、概略直角三角形状を呈している。なお、この三角形状(先細り)の頂点を最深部17bと称する。
(3)深溝部17は、すべてのティース部11とスロット部12との間に形成されており、したがって、各スロット部12に対し、その底面12aの円周方向両側に付設されている。
(4)そして、各スロット部12の円周方向両側に位置する一対の深溝部17は、一方の深溝部17の開口縁から他方の深溝部17の開口縁までの円周方向の最大幅Vが、スロット部12の円周方向の幅Xと同じになっている。したがって、深溝部17は、ティース部11(その磁路面積)に対して何ら影響を及ぼすことがない。
(5)また、各深溝部17において、その開口部17aの幅W(円周方向の長さ)が固定子コイルCの素線C1の太さYより小さくされている。
固定子コイルCは、本実施例では素線C1として矩形状断面の平角線(太線)が用いられており、素線C1の太さYは相当太くなっているが、素線C1として線径の細い断面円形の丸線(細線)を用いるものも実用に供されている。本発明では、このような場合においても、上記深溝部17の開口部幅Wは各丸線の線径より小さく設定される。したがって、深溝部17に固定子コイルCの素線C1が嵌まり込むことがない。
【0027】
〔実施例1の効果〕
上記構成によれば、ティース部11とスロット部12との境界部分にはスロット部12の底面12aとティース部11の側面11a(スロット部12の側面12b)とを繋ぐ角部(
図9に示す角部12X)がなくなるため、固定子コイルCをスロット部12に対し溝底面12aまで一杯に収納することができる。
かくして、固定子コイルCとスロット部12の底面12aとの間に
図9に示すごときデッドスペース12Yが生じるのを防ぎ、固定子コイルCの占積率をその分高める(向上する)ことができる。
【0028】
また、深溝部17の開口部17aは、幅Wが固定子コイルCの素線C1の太さより小さくされているため、この深溝部17に固定子コイルCの素線C1が嵌まり込むこともなく、上記の角部がなくなることと相俟って、固定子コイルCとティース部11およびスロット部12との局部的な干渉や摩擦を防ぐことができる。よって、固定子コイルC(素線C1)の絶縁被膜が損傷することがなく、固定子コイルCの信頼性も向上する。
【0029】
[実施例2]
次に、本発明を適用した固定子鉄心Dの第2実施形態について
図4を参照しながら説明する。
上記実施例1においても明らかなように、積層コア1は、外周面にテーパ状薄肉部15による隙間S(
図2(f)参照)を有している。しかも、積層コア1は、交流発電機Gの筺体の一部として利用され、厳しい外部環境に曝されるため、外周面が被水する事態を避けることができない。
【0030】
したがって、
図4(a)、(b)に示す比較例のように、コアシート10のヨーク部13において、テーパ状薄肉部15の径方向幅を、ヨーク部13の径方向幅とほぼ同じ(実質的に厚肉部14をなくする)まで大きく形成すると、深溝部17がテーパ状薄肉部15と干渉するため、この深溝部17を介して隙間Sがスロット部12の内部とつながり、積層コア1内への浸水(漏水)が危惧される。
【0031】
本実施例は、そのような問題をも解決すべく創案したもので、
図4(c)、(d)に示すように、コアシート10のヨーク部13は、深溝部17の最深部17bまでの内周側が、全周にわたってティース部11の板厚と同一板厚を有する厚肉部14をなすとともに、この厚肉部14より外周側が、全周にわたって外径方向に向かうほど板厚が漸減していくテーパ状の薄肉部15をなしている。したがって、ヨーク部13の内周側には、径方向に一定幅Zの厚肉部14を備えていることになる。
【0032】
上記の構成によれば、コアシート10の各層は、ヨーク部13の厚肉部14によって上下の全面が密着し、深溝部17が最深部17bに至るまでテーパ状薄肉部15と何ら干渉しないため、この深溝部17を介して隙間Sがスロット部12の内部とつながることがない。よって、積層コア1内への浸水(漏水)を未然に防止することができる。
かくして、積層コア1内への浸水(漏水)が生じると、例えば、固定子コイルCの腐食を誘引する虞があるが、かかる懸念を解消し、固定子コイルCの信頼性を向上することができる。
【0033】
[実施例3]
次に、本発明を適用した固定子鉄心Dの第3実施形態について
図5を参照しながら説明する。
上記実施例1においても明らかなように、積層コア1は積層方向(軸方向)において適宜の固着手段によって各層の相互間が固着される基本構成であるが、固着手段としての楔を装填するため、あるいはまた、組立てボルトBを挿通させるため(
図1(a)参照)等に供する固定用切欠き16が、積層コア1の外周面に軸方向に設けられているタイプの固定子鉄心Dがある。
本実施例は、そのような固定用切欠き16を有するタイプの固定子鉄心Dとして好適な一具体例を示すものである。
【0034】
図5(a)に示すように、コアシート10のヨーク部13には、内周側に厚肉部14、外周側にテーパ状の薄肉部15がそれぞれ設けられており、厚肉部14と薄肉部15とは境界線13Xによって画されている。
固定用切欠き16は、ヨーク部13において、外周面から内径方向に向かって凹む半円形状の凹部を呈しており、その底面16aは厚肉部14と薄肉部15との境界線13X付近(境界線13Xの線上もしくはその内径側)に位置している。特に、本実施例では、固定用切欠き16の底面16aは境界線13Xより内径側、つまり、厚肉部14に食い込んで設けられている。
【0035】
上記の構成によれば、固定用切欠き16の底面16a付近の板厚は、厚肉部14であり、薄肉部15のごとく板厚が減少していく引張り変形領域ではないため固定子鉄心Dの剛性低下を抑えられる。
なお、補足すれば、上記境界線13Xを後述する中立線(中立線10X)と一致させることにより、固定用切欠き16の底面16aを、境界線13Xを含む内径側に位置させる
ことで、切欠き16の底面16aが圧縮側変形領域に存在するため、固定子鉄心Dの剛性低下を抑えられる。
【0036】
[実施例4]
次に、本発明を適用した固定子鉄心Dの第4実施形態および本発明方法の一実施形態について
図6〜
図8を参照しながら説明する。
【0037】
本実施例においても、例えば、上記の実施例1における
図2に示すごときコアシート作製工程および巻回工程を基本工程とする構造および製法を採用している。
即ち、基本工程として、
図2(a)、(b)に示すように、磁性板100からティース部11、スロット部12、ヨーク部13および占積率向上手段DX(深溝部17)を有する帯状のコアシート10を作製するコアシート作製工程と、
図2(c)、(d)に示すように、テーパ状の薄肉部15を形成しながら、コアシート10をヨーク部13が外周側となるように環状に折曲形成する巻回工程とを備えている。
【0038】
特に、本実施例は、構造面と方法面との両面について本発明の特徴の補足説明に供するもので、(1)構造面では、上述した各実施例における固定子鉄心Dについて塑性変形メカニズムを考慮して集大成した実施形態を示しており、また、(2)方法面では、上述した固定子鉄心Dを経済的かつ高品位に製造できる実施形態を示すものである。
【0039】
〔構造面での特徴〕
まず、構造面での特徴について説明すると、本実施例の特徴は、巻回工程において生じるコアシート10の塑性変形現象を考慮して深溝部17の配置を次のごとく特別な関係に設定している点にある。
【0040】
即ち、コアシート10の塑性変形現象について考察すると、巻回工程においては、コアシート10を、
図7に示すごとき変形モデルに従って塑性変形させていくのが一般的である。
図7において、コアシート10を、
図7(a)に示す真っ直ぐな状態から矢印のごとく曲げ変形モーメントMを加えて曲げることにより、
図7(b)のごとく、外周側には伸張しようとする塑性変形現象が生じ、内周側には逆に圧縮しようとする塑性変形現象が生じる。
このように、コアシート10の内周側および外周側に生じる塑性変形現象の領域を、それぞれ圧縮側変形領域および引張り側変形領域と呼ぶとき、この2つの領域の境界をなし圧縮も伸張もしない領域が存在する。この領域が一点鎖線で示す部分で、これを中立線10Xと呼ぶこととする。
本実施例では、
図6に示すように、深溝部17の最深部17bを、中立線10X付近(中立線10Xの線上もしくは中立線10Xより内径側)に位置するように設定していることを特徴とする。
【0041】
従来では、コアシート10には本発明のごとき占積率向上手段DXが何ら設けられておらず、巻回工程において
図8に示すごとき事象が生じる。
即ち、
図8において、コアシート10は、
図8(a)に示すように、スロット部12が破線のごとく拡開状態にあり、これを巻回工程で実線のごとく狭めることになるが、そのとき、上述のごとく、中立線10Xより内周側に圧縮変形が生じるため、
図8(b)のごとくスロット部12の底部付近の板厚が膨張する。
この板厚の膨張により、コアシート10を密に積層することができず、磁気性能が低下する、漏水が生じる等の種々な問題を招く。
これに対し、本実施例では、
図6に示すように、スロット部12の円周方向の両側において、深溝部17を、その最深部17bが中立線10X付近(中立線10Xの線上もしくはその内径側)に位置するようにして配設している。
【0042】
〔構造面での効果〕
上記構成によれば、コアシート10の巻回工程において、
図6(a)に示すように、スロット部12を破線の拡開状態から実線のごとく狭めても、深溝部17の溝幅が円周方向に縮小するだけで、板厚に何ら影響しない(
図6(b)参照)。
つまり、深溝部17は、開口部17aから最深部17bに至るまでの深さ領域全域が、コアシート10の圧縮側変形領域に位置しているため、この深溝部17をコアシート10の円周方向への圧縮変形の逃げ領域として活用し、この深溝部17が幅方向に縮小されることで全体の歪みを相殺(吸収)することができる。よって、材料自体に圧縮歪みが生じないため、コアシート10が板厚方向に膨張するのを防ぐことができる。
かくして、コアシート10の巻回工程では、コアシート10を密に巻回・積層することができ、高品位の積層コア1を得ることができる。
【0043】
〔方法面での特徴〕
次に、方法面での特徴について説明する。
本実施例においては、前述のごとく、基本工程として、
図2(a)に示すように、磁性板100からティース部11、スロット部12、ヨーク部13および占積率向上手段DXを有する帯状のコアシート10を作製するコアシート作製工程と、
図2(b)に示すように、テーパ状の薄肉部15を形成しながら、コアシート10をヨーク部13が外周側となるように環状に折曲形成する巻回工程とを備えている。
本実施例の方法面での特徴は、占積率向上手段DXとして、上述した各実施例のごとき深溝部17を設けるにあたり、(1)まず、コアシート作製工程において、
図6(a)の破線で示すように、深溝部17の中間形状として開口部が大きく拡開している拡開溝部17Xを形成しておき、(2)続く巻回工程において、コアシート10をヨーク部13が外周側となるように環状に折曲形成する過程で、拡開溝部17Xの開口部を狭めながら実線のごとく所望の深溝部17を形成していく点にある。
【0044】
〔方法面での効果〕
かかる本発明方法によれば、深溝部17の中間形状をなす拡開溝部17Xは、任意の大きさで設けることができる単純なV字形状をなしており、コアシート10の作製時にティース部11およびスロット部12とともに、容易にかつ同時に打ち抜き加工できるため、拡開溝部17X、したがって深溝部17を設けるための特別な工程を要しない。
また、コアシート10の巻回工程では、拡開溝部17Xの溝幅を狭めながら、つまり圧縮歪みを解消しながらコアシート10を環状に折曲形成(巻回)していくため、各巻回層には所望の真円度を確保することができ、高真円度の積層コア1を得ることができる。
かくして、上述した固定子コイルCの高占積率・高信頼性を実現することができる固定子鉄心Dを、経済的、かつ、高品位に製造することができる。
【0045】
〔変形例〕
以上本発明を4つの実施例について詳述してきたが、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々変形することが可能であり、その変形例を例示する。
【0046】
(1)各実施例おいて、コアシート10には、外周側の薄肉部15として全周にわたって上下両面がテーパ面をなすテーパ状薄肉部15を設けたが、上下のいずれかの片面のみをテーパ面とする片面テーパ状薄肉部としても良い。
もっとも、製品側としての諸元、例えば、積層コア1の直径(曲率)、コアシート10の径方向幅、や製造側の条件、例えば、曲げ加工手段等を総合勘案して、同一板厚のまま(薄肉部15を設けることなく)環状に折曲げるタイプの固定子鉄心Dにも、占積率向上手段DXとして深溝部17を適用して固定子コイルCの占積率の向上を図れることは勿論である。
【0047】
(2)また、各実施例おいては、深溝部17を、スロット部12の円周方向の両側に付設したが、圧縮歪みの吸収度合いに応じて、スロット部12の片側のみに深溝部17を設けても良い。
(3)また、深溝部17の形状は三角形状に限定されることなく、深さと幅Wとの寸法関係も実施例のごとき関係(深さ>幅W)に限定されることなく、種々な先細り形状を採択することができる。深溝部17は、圧縮歪みを吸収する付帯機能を有しているため、最深部17bの底面ができるだけ小なる平面(ここで大きな圧縮歪みが生じないようにするため)をなしていることが肝要で、開口部17aから最深部17bに至るまでの形態は自由に選定することができる。
なお、製作面(加工面)を考慮すれば、深溝部17の最深部17bの底面形状は、鋭角面ではなく、円形など所謂R面に形成するとか、最深部17bの底面に型抜き用の円形穴連接するようにしても良い。
(4)また、深溝部17は、上記付帯機能を犠牲にしない範囲で開口部17aの幅Wをできるだけ小さくすることが可能で、最終的な形状として、密接することのない僅かな隙間があれば良い。ちなみに、外径130mm、内径100mmの固定子鉄心Dの場合、上記の幅Wは、0.35〜0.50mm、深さは、1.0〜1.5mm程度である。
【0048】
(5)以上の実施形態では、本発明を自動車用交流発電機(オルタネータ)の固定子鉄心に適用した場合について説明したが、これに限ることなく、鉄心素材として磁性板からなる積層コア型の固定子鉄心を持つ回転電機、例えば高電圧駆動モータに適用し、同様の作用効果を奏することができる。
【0049】
以上詳述してきた本発明の特徴点および特記すべき作用効果を、特許請求の範囲において従属項(従属項6を除く)として記載した各手段にしたがって要約列挙すれば、次の通りである。
【0050】
(特徴点1=請求項2の手段)
請求項1に記載の回転電機の固定子鉄心Dにおいて、
深溝部17は、スロット部12の底面12aの円周方向両側に付設されており、一方の深溝部17の開口縁から他方の深溝部17の開口縁までの円周方向の最大幅Vは、スロット部12の円周方向の幅Xと同じになっていることを特徴としている(実施例1〜4)。
上記手段によれば、深溝部17は、ティース部11(その磁路面積)に対して何ら影響しないため、固定子鉄心Dとして高磁気性能を確保することができる。
【0051】
(特徴点2=請求項3の手段)
請求項1または2に記載の回転電機の固定子鉄心Dにおいて、
ヨーク部13は、深溝部17の最深部17bまでの内周側が、ティース部11の板厚と同一板厚を有する厚肉部14をなすとともに、この厚肉部14より外周側が、外径方向に向かうほど板厚が漸減していくテーパ状の薄肉部15をなしていることを特徴としている(実施例1〜4)。
上記手段によれば、コアシート10の各層は、ヨーク部13の厚肉部14によって上下の全面が密着し、深溝部17がテーパ状薄肉部15と何ら干渉しないため、この深溝部17を介して隙間Sがスロット部12の内部とつながることがない。よって、積層コア1内への浸水(漏水)を防止することができる。
【0052】
(特徴点3=請求項4の手段)
請求項3に記載の回転電機の固定子鉄心Dにおいて、
ヨーク部13は、外周面から内径方向に向かって凹む固定用切欠き16を備えており、固定用切欠き16の底面16aは、厚肉部14と薄肉部15との境界線付近に位置していることを特徴としている(実施例3)。
上記手段によれば、固定用切欠き16の底面16a付近の板厚は、厚肉部14であり、薄肉部15のごとく板厚が減少していく引張り変形領域ではないため固定子鉄心Dの剛性低下を抑えられる。
【0053】
(特徴点4=請求項5の手段)
請求項1〜4のいずれか1つに記載の回転電機の固定子鉄心Dにおいて、
コアシート10が環状に折曲形成される際にコアシート10の内周側および外周側に生じる塑性変形現象の領域を、それぞれ圧縮側変形領域および引張り側変形領域と呼び、この2つの領域の境界をなし圧縮も伸張もしない領域を中立線10Xと呼ぶとき、
深溝部17の最深部17bを中立線10Xを含む内径側に位置するようにしたことを特徴としている(実施例3、4)。
上記手段によれば、深溝部17が圧縮歪みを吸収する付帯機能して作用するため、コアシート10が板厚方向に膨張するのを防ぐことができ、コアシート10を密に巻回・積層して高品位の積層コア1(固定子鉄心D)を得ることができる。
【0054】
(特徴点5=請求項6の手段)
請求項1〜5のいずれか1つに記載の回転電機の固定子鉄心Dを製造する方法であって、磁性板100からティース部11、スロット部12、ヨーク部13および深溝部17の中間形状をなす拡開溝部17Xを有する帯状のコアシート10を作製するコアシート作製工程と、
コアシート10をヨーク部13が外周側となるように環状に折曲形成する過程で、拡開溝部17Xの開口部を狭めながら深溝部17を形成していく巻回工程とを備えることを特徴としている(実施例4)。
上記手段によれば、深溝部17の中間形状をなす拡開溝部17Xを、コアシート10の作製時にティース部11およびスロット部12とともに、容易にかつ同時に打ち抜き加工できるため、拡開溝部17X、したがって深溝部17を設けるための特別な工程を要しない。また、コアシート10の巻回工程では、拡開溝部17Xの溝幅を狭めながら、つまり圧縮歪みを解消しながらコアシート10を環状に折曲形成(巻回)していくため、各巻回層には所望の真円度を確保することができ、高真円度の積層コア1を得ることができる。
したがって、上述した固定子コイルCの高占積率・高信頼性を得ることができる固定子鉄心Dを、経済的、かつ、高品位に製造することができる。