特許第6248567号(P6248567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248567工程紙基材用キャスト塗工原紙およびキャスト塗工紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248567
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】工程紙基材用キャスト塗工原紙およびキャスト塗工紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/72 20060101AFI20171211BHJP
   D21H 19/36 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20171211BHJP
   D21F 1/18 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   D21H19/72
   D21H19/36 A
   D21H27/00 A
   D21F1/18
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-239257(P2013-239257)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-98666(P2015-98666A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】西本 政典
(72)【発明者】
【氏名】礒田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】大岩 裕之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 和奈
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 清満
(72)【発明者】
【氏名】時藤 智之
(72)【発明者】
【氏名】森田 公明
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−206328(JP,A)
【文献】 特開2008−261068(JP,A)
【文献】 特開2005−068611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも片面に、顔料と接着剤を含有する塗工層をキャスト塗工方式により設けた工程紙基材用キャスト塗工紙の原紙の製造方法であって、前記原紙が下式1で定義されるシェーキング強度が10,000〜20,000(範囲)となるようワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものである、工程紙基材用キャスト塗工原紙の製造方法
(式1)
シェーキング強度=振動数(Hz)2×振幅(mm)/抄速(m/分)
【請求項2】
請求項1に記載の原紙の少なくとも片面に、顔料と接着剤を含有する塗工層をキャスト塗工方式により設けた工程紙基材用キャスト塗工紙の製造方法
【請求項3】
キャスト塗工層が湿潤状態の塗工層を凝固液でゲル化させて鏡面ドラムに圧着・乾燥して形成されたことを特徴とする請求項2に記載の工程紙基材用キャスト塗工紙の製造方法
【請求項4】
引張強度の縦横比(T/Y比)が2.20以下である、請求項2、または請求項3に記載の工程紙基材用キャスト塗工紙の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程紙の基材として用いられるキャスト塗工紙の原紙及びキャスト塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
工程紙とは工程紙基材用の紙やフィルムに離型剤をコーティングしたり、離型性の良い樹脂をラミネートしたものであり、各種製品の成型工程で使用され、成型品の工程補助及び保護をするものである。紙としては、原紙上に顔料と接着剤を含有する塗工液を塗布した塗工紙が用いられることが多い。
【0003】
特に、皮革製品などに面感を写す目的で使用する場合などは、工程紙の表面形状が重要であり、寸法安定性が悪い工程紙基材用の塗工紙を使用した場合、合成樹脂を塗工して乾燥・固化させた際、収縮による塗工面凹凸が生じやすくなり、問題であった。
【0004】
また、工程紙基材用塗工紙の原紙の地合も、表面性状に影響を及ぼす。地合を改良するために、抄紙機でワイヤー速度とパルプスラリーのジェット流速度の比(J/W比)やワイヤー上での脱水パターンを調整する、抄紙機のワイヤーパート上にシェーキング装置を設けることなどが行われていた。
【0005】
シェーキング装置を用いた方法としては、原紙の表面の配向角と裏面の配向角との差を規定したオフセット輪転印刷用塗工紙において、ワイヤーシェーキング装置を用いて製造する方法が開示されている(特許文献1)。また、シェーキング強度を特定値として製造するインクジェット記録媒体(特許文献2)、同装置を用いて製造する記録用紙(特許文献3)、写真印画紙用支持体(特許文献4)などが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−91930号公報
【特許文献2】特開2012−206328号公報
【特許文献3】特開2009−121004公報
【特許文献4】特開2004−37546公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、工程紙とは、工程紙基材用塗工紙に剥離剤を塗工し剥離性を付与したものである。剥離紙のうち、合成皮革製造やファインセラミックスシートの製造などの工程中に、キャリヤーとして使うものを特に工程紙と称している。工程紙の中には、合成皮革製造用の工程紙があり、工程紙基材用塗工紙にアルキド樹脂などの樹脂を塗工し、その紙の面感を合成皮革(バックなど)に転写して機能性付与をする用途で使用される。
【0008】
アルキド樹脂は有機溶剤に溶解して塗工後、高温ドライヤにて乾燥した際、寸法安定性が悪い塗工紙だと収縮による凹凸(加熱フクレ)が発生して合成皮革へ転写した際、凹凸面感も写し取ってしまうため、商品価値が大きく低下してしまう。
【0009】
特に、皮革製品などに面感を写す目的で使用する場合などは、工程紙の表面形状が重要であり、寸法安定性が悪い工程紙基材用の塗工紙を使用した場合、合成樹脂を塗工して乾燥・固化させた際、収縮による塗工面凹凸が生じやすくなる。特に紙基材の中でも高い白紙光沢度と鏡面状の面感を有するキャスト塗工紙の場合、その特徴的な鏡面状面感を写し取ることで、高級感あるエナメル調の合成皮革が得られるため、大きな問題となる。
【0010】
本発明は、特定のシェーキング強度により抄紙時のワイヤーを振動させて抄造する工程紙基材用のキャスト塗工紙の原紙および前記原紙を用いた工程紙基材用のキャスト塗工紙に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、原紙抄紙時のワイヤーのシェーキング条件を特定の値とすることにより、引張強度の縦横の値の差が小さく、合成皮革加工工程中における乾燥後の塗工面感が良好であり、寸法安定性に優れた工程紙基材用キャスト塗工紙を製造できることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
原紙の少なくとも片面に、顔料と接着剤を含有する塗工層をキャスト塗
工方式により設けた工程紙基材用キャスト塗工紙の原紙であって、前記原紙が下式1で定義されるシェーキング強度が10,000〜20,000(範囲)となるようワイヤーシェーキング装置を用いて抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものである、工程紙基材用キャスト塗工原紙。
(式1)
シェーキング強度=振動数(Hz)×振幅(mm)/抄速(m/分)
(2)(1)に記載の原紙の少なくとも片面に、顔料と接着剤を含有する塗工層をキャスト塗工方式により設けた工程紙基材用キャスト塗工紙。
(3)キャスト塗工層が湿潤状態の塗工層を凝固液でゲル化させて鏡面ドラムに圧着・乾燥して形成されたことを特徴とする(2)に記載の工程紙基材用キャスト塗工紙。
(4)引張強度の縦横比(T/Y比)が2.2以下である、(2)または(3)に記載の工程紙基材用キャスト塗工紙。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工程紙基材用キャスト塗工原紙は、一定のシェーキング条件で抄造することにより、地合や寸法安定性を良好にすることができる。そして、前記原紙を用いて製造した工程紙基材用キャスト塗工紙は、引張強度の縦横の値の差が小さく、合成皮革加工工程に使用した場合、加熱乾燥による収縮が少なく、塗工面感が良好であり、高級感あるエナメル調の合成皮革が得られる。
工程紙基材用キャスト塗工紙
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙は、原紙(本発明の工程紙基材用キャスト塗工原紙に該当する)上に1層以上の白色顔料を含む顔料塗工層を有する。前記顔料塗工層のうち、最外層の顔料塗工層は、キャスト塗工方式により設けられる。また、原紙上の片面あるいは両面に少なくとも一層のクリア塗工層を有していてもよい。ここでクリア塗工層(以下、本明細書において、サイズプレス層ということがある)とは、水溶性高分子が主成分の接着剤を主成分とし、白色顔料を含まない塗工層を意味する。本発明の工程紙用キャスト塗工紙は、工程紙の基材用途の他に、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷などに用いることができる。本発明の工程紙用キャスト塗工紙の坪量は、120g/mを超えるものであるが、坪量の上限は特に限定されないが、例えば、220g/mとすることができる。また、塗工紙の紙中灰分としては、10重量%以上好ましくは15重量%以上であり、40重量%以下好ましくは35重量%以下である。
【0014】
引張強度の縦横比
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙は、引張強度の縦横比(T/Y)比が、2.20以下、好ましくは2.00以下、より好ましくは、1.90以下である。本発明の引張強度は、JIS P 8113に従って測定されるもので、紙の縦と横方向で、既定の条件によって引っ張り、破断する前の最大引張荷重を幅1m当たりに換算した値である。紙の縦方向とは、抄紙時の繊維の流れ方向をいい、横方向とは、繊維の流れ方向に直行する方向を言う。引張強度の縦方向の値と横方向の値が、同じ値に近づけば近づくほど、すなわちT/Y比が1に近くなればなるほど、紙の寸法安定性は向上する。特に、乾燥工程における加熱時の寸法収縮は小さくなり、工程紙基材用キャスト塗工紙として品質適性・加工適性が向上する。
【0015】
シェーキング強度
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙は、下記式1で定義されるシェーキング強度が、10,000〜20,000、好ましくは、11,000〜20,000であるワイヤーシェーキング装置を用いて、抄紙機のワイヤーを振動させて抄造されたものである。
式1
シェーキング強度=振動数(Hz)×振幅(mm)/ワイヤー速度(m/分)
【0016】
本発明のシェーキング装置とは、抄紙機のワイヤーを振動させることができるものであれば特に限定されないが、例えば以下の装置を挙げることができる。摺動システムはシェーキング装置本体とブレストロールで構成され、シェーキング装置本体内部の2組のアンバランスマスを回転させる事で抄紙機幅方向へのシェーキング力を与え、その力はシェークロッドを介してブレストロール軸方向に伝達、ブレストロールはカウンターウェイトに相当しシェーク・ゼネレーターの運動量バランスを維持するため、マシンフレーム等の外部に力が伝達されること無く、ブレストロールを幅方向に動かせる構造となっている。シェーキングの振動数はサーボモータ速度により、振幅はマス・ペアの位相角によって調整される機構となっている。ブレストロールは操作側駆動側共に幅方向に稼動可能な軸受け構造となっておりシェーキング装置本体からのシェーキング力により、幅方向にブレストロールが動く構造となっている。シェーキング強度は、上述の式1で算出されるが、振幅が大きい方が、地合およびT/Y比の値も良好となる傾向がある。
【0017】
上記の条件でシェーキングすることにより工程紙基材用キャスト塗工紙は、引張強度縦横比が低下し寸法安定性が向上する効果や収縮率低下の効果が大きい。収縮率とは抄紙機乾燥工程前後におけるシート巾寸法の変化度合いを指す。パルプ繊維が縦方向に多く配向しているほど、乾燥工程にてシート巾は小さくなり、収縮率は大きくなる。また、寸法安定性良好な工程紙基材用キャスト塗工紙は合成皮革加工工程中における乾燥後の塗工面凹凸が少なくなる。
【0018】
工程紙基材用キャスト塗工原紙
[原料パルプ]
本発明で製造される工程紙基材用キャスト塗工原紙のパルプ原料としては、特に限定されるものではなく、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、脱墨パルプ(DIP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、一般的に抄紙原料として使用されているものであればよい。
【0019】
[填料]
本発明の原紙に使用される填料は、紙中灰分が紙の絶乾重量に対し、5重量%以上となるように添加することが好ましい。灰分の上限は特にないが、紙の強度や操業性を考慮すると、15重量%以下であることが好ましい。
原紙に添加する填料としては、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、酸化チタン、クレー、シリカ、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイトなどの無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料;を単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。
【0020】
特に、本発明においては、安価でかつ光学特性に優れていることから、炭酸カルシウムを填料として使用することが好ましい。また、炭酸カルシウム−シリカ複合物(例えば、特開2003−212539号公報あるいは特開2005−219945号公報等に記載の軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物)などの複合填料も使用可能である。酸性抄紙では、前記中性抄紙で使用する填料から、酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独または適宜2種類以上を組み合わせて使用される。
【0021】
[紙中灰分]
本発明の工程紙基材用キャスト塗工原紙の紙中灰分は、5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。紙中灰分を、5重量%以上15重量%以下とするためには、原紙に添加する填料の量を調整する。本発明において灰分は、JIS P 8251に規定される紙および板紙の灰分試験方法に準拠し、燃焼温度を525±25℃に設定した方法で測定される。一般に灰分は、紙に含まれる無機物の量を示すため、基本的に紙中に含まれる填料の量を反映する。紙の灰分は、紙料に添加されるフレッシュな填料に由来するものと、DIP(古紙パルプ、脱墨パルプ)などのパルプ原料によって持ち込まれるもので構成される。DIPによって持ち込まれる灰分としては、炭酸カルシウムが比較的多いが、炭酸カルシウム以外の無機成分も含まれ、炭酸カルシウムと他の無機成分との割合は、新聞古紙や雑誌古紙などの古紙の種類や回収状況などによって異なる。
【0022】
昨今、木質原料の使用削減や軽量化、コストダウンのため、紙中の灰分量を増加させる取り組みは行われている。灰分は、工程紙基材用キャスト塗工紙においては、原料パルプに添加する填料の量とほぼ同程度と考えられるが、填料を増加させると、填料が紙中で分散しにくくなり、できあがった工程紙基材用キャスト塗工紙の紙表面の地合を悪化させることがある。
本発明においては、紙中灰分が5重量%以上において、原紙のシェーキング強度を10,000以上とすることにより、地合が良好で合成皮革加工工程中における乾燥後の塗工面感に優れた工程紙基材用キャスト塗工紙を製造することができる。
【0023】
[その他添加剤]
本発明においては、内添用として、公知の製紙用添加剤を使用することができる。製紙用薬品は、特に制限されず、種々の薬品を単独または組み合わせて用いることができる。例えば、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、ベントナイト、シリカ、サイズ剤、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、嵩高剤、填料、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤などの製紙用薬品を用いることができる。中でも、短時間で紙料との混合ができるという本発明の効果を大きく享受できる点で、製紙用薬品として歩留剤を添加することが特に好ましい。歩留剤の他、本発明の製紙用薬品として好適に使用できるものとしては、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添乾燥紙力増強剤;ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリン樹脂などの内添湿潤紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;などを挙げることができる。
【0024】
これらの助剤は、本発明の填料のスラリーに予め添加してから抄紙機に施用してもよく、また、本発明の填料のスラリーと別々に抄紙機に施用してもよい。
【0025】
[抄紙方法・抄紙機]
上記のようにして製紙用薬品を混合された紙料は、ヘッドボックスに送られ、ヘッドボックスからワイヤーに噴射されて抄紙される。本発明は、種々の抄紙機や抄紙法に適用することができる。抄紙機としては例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等で適宜抄紙できるが、特に地合が悪化しやすいツインワイヤー抄紙機でも、本発明の効果を有意に発揮させることができる。ツインワイヤー抄紙機としては、ギャップフォーマー、オントップフォーマーなどが挙げられる。
本発明の抄紙系は、特に制限されず、中性紙でも酸性紙でもよいが、本発明の紙が炭酸カルシウムを比較的多く含有する場合、中性紙であることが好ましい。具体的には、本発明においては、紙面pHが6.0〜9.0であることが好ましく、6.8〜8.0であることがより好ましい。抄紙速度は、特に限定されない。
【0026】
[原紙の坪量]
本発明の原紙の坪量は特に限定されないが、41g/mを超えることが好ましい。原紙の坪量の上限は特に制限されないが、例えば、220g/mとすることができる。さらに、本発明においては、抄造した原紙に種々の表面処理を施すことができる。
【0027】
本発明において、原紙表面に表面処理剤を塗工する場合、例えば、プレドライヤーとアフタードライヤーの間に設置された表面塗工装置を利用することができる。塗工装置は、一般に使用されるもの用いることができ、印刷用紙用の抄紙機ではゲートロールサイズプレスなどのフィルムトランスファー型のサイズプレスが一般的に用いられ、本発明においても好ましく用いることができる。
【0028】
本発明においては、オンラインソフトキャレンダ、オンラインチルドカレンダなどにより塗工前の原紙にプレカレンダー処理を行い、原紙を予め平滑化しておくこともできる。
【0029】
[クリア塗工]
本発明においては、原紙の片面または両面に、澱粉系高分子を含むクリア塗工液を塗布し、クリア(透明)塗工層を有することが望ましい。本発明においてクリア塗工とは、例えば、ポンド式2ロールサイズプレス、フィルム転写方式としてゲートロールコーターやロッドメタリングサイズプレス、カーテンコーター、スプレーコーターなどのコーター(塗工機)を使用して、クリア塗工液を原紙上に塗布することをいう。合成皮革などの対象素材から剥離した工程紙基材用キャスト塗工紙は巻き取られ繰り返し使用されるが、剥離時の塗工紙自体が層間剥離した場合は繰り返し使用ができない。よって、工程紙基材用キャスト塗工紙は層間強度を付与するため、ポンド式2ロールサイズプレスで塗工することが好ましい。
【0030】
本発明においては、原紙上に設けるクリア塗工液(サイズプレス液ともいう)に各種水溶性高分子化合物を好適に使用することができる。澱粉とは、アミロース、アミロペクチンからなる混合物のことをいい、一般に、その混合比は澱粉の原材料である植物によって異なる。
【0031】
本発明のクリア塗工液中の水溶性高分子化合物の含有量は、5重量%〜40重量%の範囲で、目標とする塗工量にあわせて濃度を調整する。
【0032】
水溶性高分子化合物としては、各種加工澱粉を始めとする澱粉、澱粉を加水分解して得られるデキストリン、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉などの澱粉;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール;スチレン・ブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどを適宜1種以上使用できる。また、紙に吸水抵抗性を付与するために、前記の水溶性高分子物質の他に、スチレンアクリル酸、スチレンマレイン酸、オレフィン系化合物、アルキル(メタ)アクリレート系化合物など一般的な表面サイズ剤を併用塗布することができるが、中性抄紙の場合、サイズ剤のイオン性がカチオン性であるものを塗布することが好ましい。
【0033】
クリア塗工の量は、フィルム転写塗工の場合は片面あたり固形分で0.5g/m〜2.0g/m、2ロールサイズプレスの場合は片面あたり固形分で2.0g/m〜4.0g/mが好ましい。
【0034】
本発明においては、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常のクリア塗工に配合される各種助剤を適宜使用できる。
【0035】
工程紙基材用キャスト塗工紙
[顔料塗工]
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙は、前記工程により製造した塗工原紙に顔料・接着剤、並びに助剤を含む塗工層を1層以上有し、最外層の塗工層はキャスト塗工方式により塗工する。1層の場合は、クリア塗工した原紙にキャスト塗工層を直接設けてもよく、2層以上の場合は、キャスト塗工層を設ける紙に顔料・接着剤、並びに助剤を含むアンダー塗工層を設けることもできる。
原紙へのキャスト塗工量は、原紙の片面当たり固形分で10〜35g/mの範囲であるのが好ましい。塗工量が10g/m未満の場合は、耐溶剤性が低下し、35g/mより多い場合は乾燥負荷が大きくなるため塗工速度が低下し、生産性が低下する。
【0036】
原紙へアンダー塗工する場合のアンダー塗工量は、原紙片面あたりの固形分で5〜20g/mの範囲であるのが好ましい。塗工量が5g/m未満の場合は、原紙被覆性が不十分であるため工程紙基材用キャスト塗工紙の表面強度が低下し、20g/mより多い場合は透気度が高くなりすぎるため、そのあとにキャスト塗工液を塗工した湿潤状態で加熱された鏡面ドラムに圧接・乾燥された際、ブリスターが発生し生産性が大きく低下する。
【0037】
キャスト塗工層、アンダー塗工層には、顔料として重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、ホワイトカーボン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、水酸化アルミニウム、焼成カオリン、デラミネーテッドカオリン、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機顔料を1種以上使用することもできる。
【0038】
接着剤として、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス、カゼイン、大豆蛋白や合成蛋白、ポリビニルアルコール、酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン等の中から適宜選択して使用することができ、1種以上を併用しても良い。その配合量は、一概には言えないが、例えば、カゼインの場合は、顔料100重量部に対して1〜8重量部が好ましい。カゼインが少なすぎる場合、ドラムピックが発生し、操業性が低下し易く、カゼインが多すぎると、塗料濃度が低下するため塗工速度が低下し生産性が低下する。また、ドラム途中で剥離するため白紙光沢度が低下し易く、加えて、黄変し易いため、保存性が低下する。
【0039】
本発明において、キャスト塗工層に、分散剤、離型剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、防腐剤、耐水化剤等の通常使用される各種助剤を含有させても良い。離型剤としてはステアリン酸カルシウム等脂肪酸若しくは高級脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、高級アルコール、ワックスエマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、ノニオン系界面活性剤等を使用することができる。
【0040】
[塗工方式]
原紙にアンダー塗工液、キャスト塗工液を塗工する方式としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター等の公知の塗工機を用いた方法の中から適宜選択することができる。
【0041】
特に原紙上、またはアンダー塗工層上に形成されたキャスト塗工層の仕上げには、湿潤状態で加熱された鏡面ドラム(キャストドラムともいう)に圧接・乾燥されるキャスト法が用いられる。キャスト法としては、塗工後の未乾燥状態のままキャストドラムに圧着する直接法、塗工後に凝固液で塗工層をゲル状態にして圧着する凝固法、あるいは塗工後一旦乾燥した塗被層に再湿潤液により可塑化して圧着する再湿潤法を用いることができる。再湿潤法の場合、塗工後に一旦乾燥させる方法に制限はなく、例えば蒸気過熱シリンダ、加熱熱風エアドライヤ、ガスヒータードライヤ、電気ヒータードライヤ、赤外線ヒータードライヤ等各種の方法が単独もしくは併用して用いることができる。
【0042】
上記の方法で製造したキャスト塗工層の表面は、工程紙の表面となる剥離層の品質に影響するため、光沢度が高いことと、光沢ムラやピンホールがないことが要求される。直接法の場合、基材の表面に光沢ムラやピンホールが発生しやすく、再湿潤法の場合、塗工層が一旦乾燥されるため、光沢度が発現しにくい。そのため、本発明のキャスト塗工紙を生産する方法としては、光沢発現性に優れ、光沢ムラやピンホールなどが発生し難く、良好な面感を得られる凝固法がより好ましい。
【0043】
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙において、凝固法で用いる凝固液は、凝固剤を水溶液等に溶解したものであり、凝固剤としては、ギ酸、酢酸、リンゴ酸、イタコン酸、アクリル酸、クエン酸、乳酸、塩酸、硫酸、炭酸、ホウ酸等の酸、及びこれらのカルシウム、亜鉛、バリウム、鉛、カリウム、ナトリウム、カドミウム、アルミニウム等との塩、及び硼砂等を使用することができるが一般的であるが、ギ酸塩を使用することが好ましく、その中でもギ酸に酸化亜鉛を混合したものが耐溶剤性の面から好ましい。また凝固液中にも塗被液中に用いた各種離型剤を適宜使用することが可能である。
【0044】
本発明においては、紙表面にカレンダー処理を施すこともできるが、カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すればよい。
【0045】
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙は、工程紙用の基材であり、工程紙の中でも特に合成皮革製造用の工程紙の基材に適しているが、セラミックグリーンシート、マジックフィルム等の工程紙の基材にも利用できる。
【0046】
工程紙の基材として、かくして得られたキャスト塗工紙を使用する場合、キャスト塗被紙のキャスト塗工層表面に、剥離剤を塗被して、剥離層を設ける。剥離剤としては、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル系樹脂等が使用できる。その塗工量は特に限定されるものではないが、0.1〜2.0g/mが好ましい。塗工量が少なすぎると剥離性が不足し、合成皮革から工程紙を剥がす時、紙むけや紙破れが起こる。塗工量が多すぎる場合、剥離性が過剰になり、工程中にレザー塗膜の浮きや剥がれが発生する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しつつ具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、説明中、「%」および「部」は特に断らない限り、「重量パーセント」および「重量部」を示す。また、材料添加率については、特に指定が無い場合は、固形分の添加率を示す。
【0048】
[品質評価方法]
本発明の工程紙基材用キャスト塗工紙の紙質は、下記に規定される方法に準じて測定した。
(1)坪量:ISO536
(2)紙中灰分:ISO1762
(3)引張強度(N/m):JIS P 8113に基づいて、紙の縦(抄紙流れ)方向と横方向(抄紙流れと直行する方向)を測定した。
(4)フロックインテンシティー:地合指数、ハネウェル社製のBM計(型式Mx Open)に搭載している地合計のフロックインテンシティーにより測定した。フロックインテンシティーの数値が小さいほど地合は良好である。
(5)収縮率
プレスパートのセンターロール出口のシート巾(a)、並びにリールパートのシート巾(b)を測定した上で、下記計算式によりマシン乾燥工程による収縮率を算出した。
式2
収縮率(%)={(a)−(b)}/(a)×100
(6)加熱乾燥後の紙表面凹凸
紙サンプルを金属製の枠にセットして4隅をクリップで止めた状態で、200℃に設定した乾燥機で3分間乾燥させる。乾燥機から取り出した直後の紙表面凹凸を目視判定した。○:凹凸なし、△:やや凹凸あり、×:凹凸ありと区分しており、○・△であれば工程紙加工の実用上問題ない紙表面凹凸である。
【0049】
[実施例1]
(原紙の抄造)
製紙用原料パルプとしてLBKP(濾水度400ml、CSF)のスラリーに、パルプ固形分に対し液体硫酸バンドを0.5重量%(有姿)添加し、灰分が10%になるように填料として軽質炭酸カルシウム(奥多摩工業社製「TP−121」)を添加し、対パルプ固形分250ppmの歩留まり向上剤を添加した後、ツインワイヤー型抄紙機を用いてワイヤー速度400m/分で坪量130g/mとなるように抄紙し、オンマシンの2ロールサイズプレスを用いて、ヒドロキシエチル化澱粉(Tate&Lyle社製Ethylex2015)を合計3.0g/m塗工し、マシンカレンダーで処理し、工程紙用キャスト塗工原紙を得た。抄紙時のシェーキングは、振幅25mm、振動数475Hz、シェーキング強度は14,102であった。
【0050】
(アンダー層の塗工)
クレー(商品名:アストラグレーズ、イメリス社製)50部、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)50部、有機顔料として密実型のプラスチックピグメント(商品名:Nipol V1004 ゼオン社製、融点:80℃)1部の顔料スラリーを調製した。これに、接着剤としてスチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)5部、澱粉3部を加えてアンダー層用塗工液を調製した。上記の方法により調製したアンダー層用塗工液を用い、キャスト塗被紙原紙の片面に、乾燥塗工量が10g/mとなるようにアンダー層塗工液をブレードコーターで塗工し、乾燥させた。
(キャスト層塗工液)
カオリン(商品名:ウルトラホワイト90、エンゲルハルド社製)50部、軽質炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121−7C、奥多摩工業社製)50部の顔料スラリーを調製した。これに、接着剤としてアンモニアを用いて溶解したカゼイン水溶液(固形分濃度17%)6部及び、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス(商品名:PA0330、日本A&L社製)16部を加え、離型剤(SN−3035、サンノプコ社製)2部配合し、最後に水、アンモニアを加えて固形分濃度51%、pHを10に調製してキャスト層用塗工液を得た。
(凝固液及びアンダー層とキャスト層形成方法)
凝固液として、固形分濃度として10%のギ酸カルシウム、1%の酸化亜鉛、1%の離型剤(SN−3035、サンノプコ社製)を混合し水溶液を調製した。
次いで、乾燥塗工量15g/mとなるようにキャスト層用塗工液をロールコーターで塗被し、湿潤状態にあるキャスト層用塗工層を凝固液に接触させて塗工層を凝固させた後、直径750mmのプレスロールと表面温度105℃、直径3000mmのキャストドラムにプレス圧150kg/cmで圧着し、乾燥後テークオフロールでキャストドラムから剥離してキャスト層形成済塗工紙を得た。

[実施例2]
ワイヤー速度480m/分、原紙坪量を100g/mとした以外は実施例1と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。シェーキング強度は11,751であった。

[実施例3]
ワイヤー速度300m/分、原紙坪量を170g/mとした以外は実施例1と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。シェーキング強度は18,802であった。

[実施例4]
抄紙時のシェーキング条件を、振幅15mm、振動数570Hzとした以外は、実施例1と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。シェーキング強度は12,184であった。

[比較例1]
抄紙時にシェーキングなしとした以外は、実施例1と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。

[比較例2]
抄紙時にシェーキングなしとした以外は、実施例2と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。

[比較例3]
抄紙時にシェーキングなしとした以外は、実施例3と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。

[比較例4]
抄紙時のシェーキング条件を、振幅5mm、振動数475Hzとした以外は、実施例1と同様にして、工程紙基材用キャスト塗工紙を得た。シェーキング強度は2,820であった。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に結果を示す。表1の結果から、原紙が同坪量で同抄速の条件で比較すると実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3ではシェーキングしたものの方がいずれもフロックインテンシティー値、収縮率が改善し、塗工面の凹凸も改善していることが分かる。また、実施例1と比較例4とを比較すると、シェーキング強度が本発明の範囲内である実施例1の方が塗工面の凹凸は良好である。また、実施例1と実施例4の結果から、原紙が同坪量で同抄速の条件であり、シェーキング強度が本発明の範囲内であっても引張強度の縦横比が1.90より大きいと収縮率、フロックインテンシティー値、塗工面の凹凸が若干劣ることがわかる。引張強度の縦横比においても、実施例はいずれも2.20以下であり寸法安定性が高い。