【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年 8月28日 刊行物 「2013年度精密工学会秋季大会 シンポジウム資料集28頁〜29頁」 開催日 平成25年 9月12日 集会名・開催場所 2013年度精密工学会秋大会 シンポジウム、 関西大学 千里山キャンパス (大阪府吹田市山手町3丁目3番35号)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究(事前研究一体型)/快適・省エネ、ヒューマンファクタ一に基づく個別適合型冷暖房システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態の深部体温調節装置の要部は、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有する変温素子と、変温素子の皮膚に当接する部分の温度である変温素子温度を検出する変温素子温度検出器と、利用者の存する環境の温度である環境温度を検出する環境温度検出器と、利用者の存する環境の湿度である環境湿度を検出する環境湿度検出器と、変温素子の変温素子温度を制御する制御部と、を備え、制御部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度及び環境湿度から予め定める重回帰式に基づき利用者にとって快適な変温素子温度であると予測される目標変温素子温度を求め、変温素子が目標変温素子温度に近づくように変温素子を制御する。
【0016】
ここで、「深部体温調節装置」は「深部体温」を調節する装置であり、「深部体温」とは、心臓や脳、腸といった内部組織の温度である。「皮膚に当接する」とは、皮膚に接して当ることをいうが、技術的な意味は、接触皮膚と変温素子との間で伝熱が十分に行われるように熱結合させることをいう。よって、当接とは、直接に皮膚と変温素子とが接することのみならず、熱伝導率の高い媒体(例えば、高熱伝導グリース)を介して変温素子と皮膚とが接すること、皮膚と変温素子との間で伝熱が十分に行われる程度に変温素子と皮膚とが近接することを含む。
【0017】
「皮膚に当接することが可能な変温素子」とは、皮膚に当接することが可能であり、使用しないときは皮膚から分離できる、すなわち着脱できる変温素子をいう。「変温素子の皮膚に当接する部分」とは、皮膚と変温素子との間で伝熱が十分に行われるように熱結合される変温素子の部分である。「変温素子温度」とは、変温素子の皮膚に当接する部分そのものの温度のみならず、熱伝導率の高い媒体(例えば、高熱伝導グリース)を介して検出する当接する部分の温度、当接する部分との間で伝熱が十分に行われる程度に当接する部分に近接する部分を含む。
【0018】
「吸熱」機能とは、変温素子が当接する皮膚から熱を奪う機能である。変温素子は、変温素子の温度が皮膚の温度(変温素子が当接する皮膚の温度)よりも低い場合に皮膚から熱を奪い皮膚を冷やす。「与熱」機能とは、変温素子が当接する皮膚に熱を与える機能である。変温素子は、変温素子の温度が皮膚の温度(変温素子が当接する皮膚の温度)よりも高いと皮膚に熱を与え皮膚を暖める。「吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有する変温素子」とは、「吸熱のみの機能を有する変温素子」、「与熱のみの機能を有する変温素子」、「吸熱及び与熱の両方の機能を有する変温素子」の3つの変温素子を含む。
【0019】
よって、実施形態の深部体温調節装置は、吸熱及び与熱の両方の機能を有する広範囲な環境変化に適応する深部体温調節装置であってもよく、吸熱又は与熱のいずれかを専らとして、深部体温調節装置の簡略化、又は、特化することによる高性能化を図るものであってもよい。
【0020】
「利用者の存する環境」とは、利用者が居住する居住空間、利用者が活動する自然空間等、利用者の身体に対して温度及び湿度を与えるすべての空間をいう。
【0021】
「変温素子温度が目標変温素子温度に近づくように変温素子を制御する」とは、変温素子温度と目標変温素子温度と一致させることを目的として変温素子を制御することをいう。よって、変温素子温度と目標変温素子温度とが完全に一致するのみならず、制御系の性能に応じて変温素子温度と目標変温素子温度とに誤差が生じ、両者の温度は若干異なるが利用者の温熱感覚においては変温素子温度と目標変温素子温度とが一致する場合も含む。
【0022】
制御部は、予め定める重回帰式に代入するに際し、環境湿度に第1の偏回帰係数K
1を乗じて得る値と、環境温度に第2の偏回帰係数K
2を乗じて得る値と、環境湿度と環境温度の積に第3の偏回帰係数K
3を乗じて得る値と、第4の偏回帰係数K
4と、を加算して目標変温素子温度を得るようにしてもよい(実施形態の(式1))。
【0023】
制御部は、予め定める重回帰式に代入するに際し、環境湿度に第5の偏回帰係数K
5を乗じて得る値と、環境温度に第6の偏回帰係数K
6を乗じて得る値と、第7の偏回帰係数K
7と、を加算して目標変温素子温度を得るようにしてもよい(実施形態の(式2))。
【0024】
制御部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度及び環境湿度に基づいて、予め定める重回帰式の第1の偏回帰係数K
1ないし第4の偏回帰係数K
4を再演算して、新たな偏回帰係数を有する重回帰式を用いるようにしてもよい(第2の実施形態、第3の実施形態)。
【0025】
制御部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度及び環境湿度に基づいて、予め定める重回帰式の第5の偏回帰係数K
5ないし第7の偏回帰係数K
7を再演算して、新たな偏回帰係数を有する重回帰式を用いるようにしてもよい(第2の実施形態、第3の実施形態)。
【0026】
制御部は、「変温素子温度を目標変温素子温度に近づける」に際して、目標変温素子温度から変温素子温度を減じて誤差信号を求め、誤差信号に応じた変温素子駆動信号を変温素子に加えて、変温素子温度を目標変温素子温度に近づけるようにしてもよい。
【0027】
実施形態の別の深部体温調節装置の要部は、インターネットでサーバーと接続可能な深部体温調節装置であって、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有する変温素子と、変温素子の皮膚に当接する部分の温度である変温素子温度を検出する変温素子温度検出器と、利用者の存する環境の温度である環境温度を検出する環境温度検出器と、利用者の存する環境の湿度である環境湿度を検出する環境湿度検出器と、サーバーとの間で情報の送受信を行う送受信部と、を備え、変温素子を変温素子駆動信号に応じて駆動し、送受信部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度と環境湿度と変温素子温度とをサーバーに送信し、環境温度及び環境湿度から予め定める重回帰式に基づき求められる利用者にとって快適な変温素子温度であると予測される目標変温素子温度から変温素子温度を減じて得る変温素子駆動信号をサーバーより受信する。
【0028】
実施形態の又別の深部体温調節装置は、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有する変温素子と、変温素子の皮膚に当接する部分の温度である変温素子温度を検出する変温素子温度検出器と、利用者の存する環境の温度である環境温度を検出する環境温度検出器と、利用者の存する環境の湿度である環境湿度を検出する環境湿度検出器と、変温素子の変温素子温度を制御する制御部と、を備え、制御部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度及び環境湿度に基づき利用者にとって快適な変温素子温度であると予測される目標変温素子温度を求め、変温素子温度が目標変温素子温度に近づくように変温素子を制御する。
【0029】
実施形態のさらに別の深部体温調節装置は、インターネットでサーバーと接続可能な深部体温調節装置であって、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有する変温素子と、変温素子の皮膚に当接する部分の温度である変温素子温度を検出する変温素子温度検出器と、利用者の存する環境の温度である環境温度を検出する環境温度検出器と、利用者の存する環境の湿度である環境湿度を検出する環境湿度検出器と、サーバーとの間で情報の送受信を行う送受信部と、を備え、変温素子を変温素子駆動信号に応じて駆動し、送受信部は、変温素子温度を制御する時点における環境温度と環境湿度と変温素子温度とをサーバーに送信し、環境温度及び環境湿度から予め定める重回帰式に基づき求められる利用者にとって快適な変温素子温度であると予測される目標変温素子温度から変温素子温度を減じて得る変温素子駆動信号をサーバーより受信する。
【0030】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。
【0031】
[第1の実施形態]
「第1の実施形態の深部体温調節装置の概要」
図1は、深部体温調節装置を利用者が装着する様子を示す外観図である。
図2は、第1の実施形態の深部体温調節装置の外観斜視図である。
図3は、第1の実施形態の深部体温調節装置の制御部を中心とするブロック図である。
図1、
図2、
図3を参照して以下に第1の実施形態の深部体温調節装置の構成の概要について説明をする。
【0032】
図1に示す第1の実施形態の深部体温調節装置3は、利用者9の身体に装着して利用される。深部体温調節装置3は、頸部冷暖部31と熱交換部34と制御部36と伝熱媒体流路37(
図2を参照)とを主要構成要素として有する。頸部冷暖部31は、利用者9の深部体温を調節するために、皮膚の下に頸動脈をはじめとする太い血管がある頸部92に装着される。熱交換部34と制御部36とは、ベルト38を介して利用者9の身体に保持される。
【0033】
頸部冷暖部31と熱交換部34とは、伝熱媒体を循環させるための伝熱媒体流路37によって接続される。頸部冷暖部31と制御部36とは、電力及び情報を伝送するためのケーブル33(第1のケーブル:
図2を参照)によって接続される。また、熱交換部34と制御部36とは、電力及び情報を伝送するためのケーブル35(第2のケーブル:
図2を参照)によって接続される。
【0034】
「第1の実施形態の体温調節装置の構成」
図2は、第1の実施形態の体温調節装置の外観斜視図である。
【0035】
(頸部冷暖部)
深部体温調節装置3の頸部冷暖部31は、利用者9の深部体温を調節するために利用者9の頸部92に装着され、吸熱/与熱(吸熱及び与熱、又は、吸熱又は与熱)の熱作用を与えるための構成部である。深部体温調節装置3は、頸部冷暖部31を介して太い血管がある頸部92を冷/暖(冷やし及び暖め、又は、冷やし又は暖め)して深部体温を調節する。
図2に示すように、深部体温調節装置3の頸部冷暖部31は、冷暖部保持部材31aを備える。冷暖部保持部材31aは、利用者9の頸部92(
図1を参照)に接する保持部材内側面31aaと、ペルチェ素子31c(変温素子)及びペルチェ素子温度検出器31d(変温素子温度検出器)を密接固着する保持部材外側面31abとを有する。冷暖部保持部材31aは、弾力性を有して保持部材内側面31aaが頸部92に柔らかく接して利用者9に痛痒、違和感を与えることがない材料であって、かつ、ペルチェ素子31cと頸部92との間における熱伝達が効果的に行えるとともに、一点に冷点が集中して凍瘡を生じない、熱伝導性が良好なる材料によって形成される。
【0036】
ペルチェ素子31cは、保持部材外側面31abに接する面である保持部材接触面31ciと、伝熱媒体流路37に接する面である媒体流路接触面31coとを有する。ペルチェ素子31cに電流を流すことによって、保持部材接触面31ciが与熱又は吸熱する。保持部材接触面31ciが与熱する場合には媒体流路接触面31coが吸熱し、保持部材接触面31ciが吸熱する場合には媒体流路接触面31coが与熱する。保持部材接触面31ciが吸熱する場合には、頸部92から熱を奪い利用者9の深部体温を低下させるように機能する。一方、保持部材接触面31ciが与熱する場合には、頸部92に熱を与え利用者9の深部体温を上昇させるように機能する。
【0037】
ペルチェ素子温度検出器31dは、ペルチェ素子31cの保持部材接触面31ciと熱的に結合(熱結合)して、保持部材接触面31ciの温度を検出する。例えば、ペルチェ素子温度検出器31dはペルチェ素子31cの保持部材接触面31ciと冷暖部保持部材31aの保持部材外側面31abとの間に挿入される。保持部材接触面31ciと保持部材外側面31abとの間の熱伝導を害さないように、ペルチェ素子温度検出器31dの保持部材接触面31ciと接する面の面積は、ペルチェ素子31cの保持部材接触面31ciの面積に比べて小さくされ、かつ、ペルチェ素子温度検出器31dの厚みは薄いものとされる。
【0038】
(伝熱媒体流路)
図2に示すように頸部冷暖部31のペルチェ素子31cの保持部材接触面31ciと媒体流路接触面31coとは接近しているので、保持部材接触面31ciの与熱・吸熱の作用は著しく低減される。伝熱媒体流路37は、保持部材接触面31ciと媒体流路接触面31coとの距離を等価的に遠くして、保持部材接触面31ciの与熱・吸熱の作用を効果的にするための構成部である。図示しない伝熱媒体(例えば、水)が内部に満たされた伝熱媒体流路37は、ペルチェ素子31cの媒体流路接触面31coと熱交換部34とを熱的に結合する。
【0039】
(熱交換部)
深部体温調節装置3の熱交換部34は、その内部に、伝熱媒体流路37に連結される図示しないラジエータと伝熱媒体流路37の内部の伝熱媒体を循環させるためのポンプ34b(
図3を参照)とラジエータに送風してラジエータの温度を環境温度Taと等しくするためのファン34a(
図3を参照)とを備える。ポンプ34bが伝熱媒体流路37の内部の伝熱媒体を媒体流路接触面31coとラジエータとの間で循環させることによって媒体流路接触面31coの温度を利用者9が存する環境の温度である環境温度Taと強制的に等しくするように作用する。
【0040】
(制御部)
図3は、第1の実施形態の深部体温調節装置3の制御部36を中心とするブロック図である。
【0041】
深部体温調節装置3の制御部36には、ケーブル33を介して頸部冷暖部31のペルチェ素子31cとペルチェ素子温度検出器31dとが接続されるとともに、ケーブル35を介して熱交換部34のファン34aとポンプ34bとが接続される。
【0042】
制御部36は、演算制御器36aと環境温度検出器36bと環境湿度検出器36cと電力供給部36eとペルチェ素子駆動電力増幅器36g(変温素子駆動電力増幅器)とファン駆動電力増幅器36hとポンプ駆動電力増幅器36iとを有する。
【0043】
演算制御器36aは、中央演算装置(Central
Processing Unit :CPU)36aaとロム(Read Only Memory :ROM)36abとラム(Random Access
Memory
:RAM)36acと不揮発性メモリ(Non-volatile memory :NVM)36adと入力インターフェイス36ahとを有し、これらのすべてはバスライン36aiに接続される。
【0044】
中央演算装置36aaはプログラムを実行する演算処理の中心部である。ロム36abは中央演算装置36aaで実行するプログラムを格納する。ラム36acはデータを一時格納する。不揮発性メモリ36adは後述する偏回帰係数を格納して記憶し、電源を切断しても記憶内容を保持する。
【0045】
ペルチェ素子駆動電力増幅器36gとファン駆動電力増幅器36hとポンプ駆動電力増幅器36iの各々は、バスライン36aiに接続され、中央演算装置36aaから出力される各デジタル演算結果をデジタル・アナログ(D/A)変換し、又はパルス幅変調(PWM)し、かつ、電力増幅して、ペルチェ素子31c、ファン34a、ポンプ34bの各々を駆動する。
【0046】
入力インターフェイス36ahは、ペルチェ素子温度検出器31dから検出するペルチェ素子温度Tpと、環境温度検出器36bから検出する環境温度Taと、環境湿度検出器36cから検出する環境湿度Maとの各々の信号がアナログ信号である場合には、アナログ・デジタル(A/D)変換する。入力インターフェイス36ahは、ペルチェ素子温度検出器31dと環境温度検出器36bと環境湿度検出器36cからの各々の信号がデジタル信号である場合には、バッファとして機能する。
【0047】
環境温度検出器36bは、利用者9が存在する環境の温度である環境温度Taを検出する。環境湿度検出器36cは、利用者9が存在する環境の湿度である環境湿度Maを検出する。
【0048】
電力供給部(バッテリー)36eからの電力は、制御部36の各構成部、ケーブル35を介して熱交換部34の各構成部、ケーブル33を介して頸部冷暖部31に供給される。
【0049】
制御部36は、多くの場合、利用者9が手で操作し、目視することが困難な位置に取り付けられる。よって、制御部36に図示しないマイクとスピーカとを有する音声入出力部を配置し、利用者9が音声入出力部を介して音声によって制御部36に深部体温調節装置3の操作を指示するとともに深部体温調節装置3の情報を音声によって受け取るようにしてもよい。
【0050】
上述した、頸部冷暖部31、熱交換部34、制御部36、伝熱媒体流路37の構成及び配置の位置は、以下に述べる制約に従う限り適宜なものとできる。頸部冷暖部31は、利用者9の頸部92に装着して機能を発揮させるためにその配置の位置には制約がある。熱交換部34は、頸部冷暖部31の冷/暖の効果を十分に発揮できる程度に頸部92から離間した位置に配置するという制約がある。これらの制約の下で、熱交換部34と制御部36とは、利用者9の動作を妨げない身体の任意部分に配置することができる。伝熱媒体流路37は、頸部冷暖部31と熱交換部34との間において伝熱媒体を円滑に循環させるように配置すれば足りる。利用者9の皮膚に伝熱媒体流路37が直接に接触して、皮膚と伝熱媒体流路37とが熱結合する場合には冷/暖の効果が損なわれるとともに利用者に不快感を与えるので、これを防止するためには伝熱媒体流路37を断熱材で覆うようにすればよい。
【0051】
熱交換部34と制御部36とを一体構成としても深部体温調節装置3の機能は発揮される。また、熱交換部34は、少なくとも、伝熱媒体流路37に連結されるラジエータ及びポンプ34bとラジエータだけでは熱交換能力が十分ではない場合に設けるファン34aとを備えればその機能を発揮するので、熱交換部34に制御部36の構成部の一部(例えば、電力供給部36e、環境温度検出器36b、環境湿度検出器36c、ファン駆動電力増幅器36h、ポンプ駆動電力増幅器36iのすべて又はそれらの一部)を配置してもよい。このように、熱交換部34と制御部36との各々の構成部をどのように配置するかについては適宜に選択できる。なお、環境温度検出器36bは、利用者9が存在する環境の温度である環境温度Taを検出できればよく、環境湿度検出器36cは、利用者9が存在する環境の湿度である環境湿度Maを検出できればよく、環境温度Taと環境湿度Maとを検出できる限りその配置の位置に制限はない。
【0052】
「制御部における処理」
制御部36は、環境温度検出器36bが検出する環境温度Taと環境湿度検出器36cが検出する環境湿度Maとを入力して、利用者9が最も好ましく感じると思われる、ペルチェ素子31cの温度である目標ペルチェ素子温度(目標変温素子温度)Ttを予測する。そして、制御部36は、ペルチェ素子温度検出器31dが検出するペルチェ素子温度(変温素子温度)Tpを目標ペルチェ素子温度Ttに一致させるように制御する。
【0053】
ここで、目標ペルチェ素子温度Ttは、利用者毎に異なる。例えば、環境温度Taと環境湿度Maが同一であっても、ある者は低い温度の目標ペルチェ素子温度Ttに設定することを好み、別の者は高い温度の目標ペルチェ素子温度Ttに設定することを好む。このように、個々人毎に大きく好みが異なる目標ペルチェ素子温度Ttがどのようなものであるかについて、本願願書に記載の発明者ら(以下、単に発明者らと省略する)は、鋭意研究した。
【0054】
発明者らは、環境温度Taと環境湿度Maとが与える利用者9の反応を実際に複数人について確かめ、多くのデータを集積し、解析し、遂に、画期的な目標ペルチェ素子温度Ttの設定アルゴリズムを見出した。以下に、発明者らが行った実験に基づいて発明者らが得た知見をまとめる。
【0055】
(第1の実験例)
まず、発明者らは、深部体温調節装置3を複数の被験者(深部体温調節装置3の利用者9でもある)が着用した場合について、CPT(Continuous
Performance Test: 持続処理課題) を適用して客観的な指標に基づくデータを収集した。
【0056】
CPTは、本来はADHD(注意欠陥・多動性障害)の患者を客観的に定量化するために用いる検査方法である。発明者らは、CPTを異なる、環境温度Taと環境湿度Maの組み合わせ(セット)における被験者の作業能率の評価に用いた。CPTには、(1)数字の「7」のみが,1〜2秒のランダムな間隔で表示され、「7」が表示される毎に素早くスペースキーを押、「反応時間課題」、(2)1〜9までの数字が400回ランダムに表示され,「7」が表示された場合にだけ,素早くスペースキーを押、「X課題」、(3)1〜9までの数字が400回ランダムに表示され,「3」の直後に「7」が表示された場合にだけ,素早くスペースキーを押、「AX課題」がある。発明者らは、第1の実験例においては「X課題」を実施した。
【0057】
図4は、CPTの「X課題」の実施画面を示す図である。
【0058】
図4の右画面に示すように「7」が表示される毎に、被験者は素早くスペースキーを押、表示からスペースキーを押までの時間を計測する。
【0059】
実験内容は、下記の(1)〜(3)の3種類の環境においてCPTを用いて被験者の処理能力の差異を評価するものである。(1)通常環境(室温27℃,湿度50%)、ネッククーラー無し、(2)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラー無し、(3)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラーありである。ここで、(1)、(2)の「ネッククーラー無し」とは深部体温調節装置3を被験者が着用しない場合であり、(3)の「ネッククーラーあり」とは深部体温調節装置3を被験者が着用する場合である。また、(3)の酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラーあり、については、被験者毎に自ら最も好ましいと思う温度(快適と感じる温度)にペルチェ素子温度を設定した後に実験を行った。被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者E、の5人を被験者として実験を行った。「ネッククーラー」とは、深部体温調節装置3の通称である。
【0060】
図5は、CPTの「X課題」による、被験者Bの実験結果サンプルの1例を示す図である。
【0061】
図5に示す実験結果サンプルは、被験者Bの(1)通常環境(室温27℃,湿度50%)、ネッククーラー無し、の場合であり、40回目までの反応時間を表している。この時の平均反応時間は、388.4ms(ミリ秒)であった。
【0062】
図6は、CPTの「X課題」による、5人の被験者の実験結果を示す図である。
【0063】
図6の縦軸は、各被験者の平均反応時間を示し、単位はmsである。
図6の横軸は、「1.通常環境」が(1)通常環境(室温27℃,湿度50%)、ネッククーラー無しに対応し、「2.酷暑環境」が(2)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラー無しに対応し、「3.酷暑環境+NC」が(3)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラーあり(深部体温調節装置3を手動で調整後)に対応する。
【0064】
図6から見て取れるように、被験者A、被験者C、被験者D、被験者B、については「1.通常環境」よりも、「2.酷暑環境」の方が、平均反応時間が長くなっており、被験者Bについては「2.酷暑環境」よりも、「1.通常環境」の方が、平均反応時間が長くなっている。しかしながら、「2.酷暑環境」において、被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者Eのいずれもが、深部体温調節装置3を着用する場合に「1.通常環境」と平均反応時間が略同じになっている。すなわち、被験者の環境温度の暑さ寒さの好みによらず、すべての被験者は深部体温調節装置3を着用することによって「1.通常環境」における作業効率を得ることができる。
【0065】
(第2の実験例)
次に、発明者らは、上述した第1の実験の結果を踏まえ被験者が感じる快、不快の主観的な指標に基づき、環境温度Ta及び環境湿度Maの如何によらず、利用者9にとって快適であると予測される変温素子温度Tpである目標ペルチェ素子温度Ttの自動検出の方法を検討した。環境温度Ta及び環境湿度Maが変化すると当然に、被験者毎に目標ペルチェ素子温度Ttは変化するので、目標ペルチェ素子温度Ttが得られなければ、利用者9は頻繁にペルチェ素子31cに流れる電流の調整をして様々な変温素子温度Tpを試に設定して最終的に快適な温度を見つけなければならず煩雑だからである。
【0066】
発明者らは、鋭意研究をして被験者が感じる快、不快の主観を細かく分析して自動設定の画期的な方法を発明するに至った。すなわち、(1)汗をかきやすい体質の人は、環境湿度Maの感度が比較的高い 、(2)汗をかきにくい体質の人は、環境温度Taの感度が比較的高い との知見を得た。そして、目標ペルチェ素子温度Ttの自動設定のアルゴリズムとして、説明変数を環境湿度Maと環境温度Taとする重回帰分析を採用することを思いついた。
【0067】
発明者らは、目的変数を目標ペルチェ素子温度Ttとし、説明変数である環境湿度Maと環境温度Taとの組み合わせを種々に選び、実験結果に最も適合する(式1)で表される重回帰式に到達した。(式1)では、第1の説明変数は環境湿度Ma、第2の説明変数は環境温度Ta、第3の説明変数は、(環境湿度Ma×環境温度Ta)である。K
1、K
2、K
3、K
4の4つの定数(偏回帰係数)の各々は被験者毎に異なる。
【0068】
Tt=K
1×Ma+K
2×Ta+K
3×(Ma×Ta)+K
4・・・・(式1)
【0069】
(式1)においては、K
1、K
2、K
3、K
4の偏回帰係数を未定定数とすれば、Tt、Ma、Ta、(Ma×Ta)についての4元の連立1次方程式からこれらの未定定数は容易に決定できる。従って、被験者Aについては、K
1に対応するK
1A、K
2に対応するK
2A、K
3に対応するK
3A、K
4に対応するK
4Aの各々は、被験者Aを対象とする4元の連立1次方程式から得られる。被験者BについてのK
1B、K
2B、K
3B、K
4B〜被験者EについてのK
1E、K
2E、K
3E、K
4Eも同様にして得られる。
【0070】
図7は、重回帰分析で得られる重回帰式を模式的に示す図である。
【0071】
図7において、環境湿度Ma(湿度%)、環境温度Ta(温度°C)、グラフ中の平面(環境湿度Ma×環境温度Ta)の各値の交点から目標ペルチェ素子温度Tt(目標温度°C)は求められる。
【0072】
図8は、被験者毎の、重回帰式に基づく目標ペルチェ素子温度Tt(縦軸)と手動によって最も快適な温度であるとして同一被験者が設定するペルチェ素子温度Tp(横軸)との関係を示す図である。
【0073】
図8の縦軸の「回帰温度」は、(式1)に被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta、その被験者のK
1、K
2、K
3、K
4を代入して計算される目標ペルチェ素子温度Ttである。
図8の横軸の「手動温度」は、被験者が自ら手動でペルチェ素子31cに流れる電流を制御して最も快適であると判断する、ペルチェ素子温度検出器31dから得られるペルチェ素子温度Tpである。
【0074】
被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta毎に1個の四角形のプロット(◆)が対応する。グラフ中の直線は、目標ペルチェ素子温度Ttとペルチェ素子温度Tpとの対応関係を分かり易くするための便宜的な直線である。被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者Eの5人の異なる被験者毎にグラフは表示される。
【0075】
図8によれば、すべての被験者について、目標ペルチェ素子温度Ttとペルチェ素子温度Tpとは、非常に近い値となっている。よって、被験者を対象とする実験から得られた(式1)が妥当なものであることが証明される。
【0076】
図9は、一の被験者の固有の重回帰式に基づく目標ペルチェ素子温度Tt(縦軸)と、手動によって最も快適な温度であるとして個々の被験者が設定するペルチェ素子温度Tp(横軸)との関係を示す図である。
【0077】
図9の縦軸の「回帰温度」は、(式1)に、被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta、被験者CについてのK
1C、K
2C、K
3C、K
4Cを代入して計算される目標ペルチェ素子温度Ttである。
図9の横軸の「手動温度」は、各被験者が自ら手動でペルチェ素子31cに流れる電流を制御して最も快適であると判断する、ペルチェ素子温度検出器31dから得られるペルチェ素子温度Tpである。被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者Eの5人の異なる被験者毎にグラフは表示され、被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta毎に1個の四角形のプロット(◆)が対応する。
【0078】
図9によれば、被験者Cについては自らの偏回帰係数であるK
1C、K
2C、K
3C、K
4Cを代入して(式1)に基づき目標ペルチェ素子温度Ttが計算されるのであるから、被験者Cについては、
図8におけると同様に(式1)が妥当なものであることが証明される。一方、被験者A、被験者B、被験者D、被験者Eについては、被験者Cの偏回帰係数について計算された目標ペルチェ素子温度Ttは、被験者C以外の別の被験者が最も快適な温度であるとするペルチェ素子温度Tpとは異なる。
図9は、別の観点から、(式1)の妥当性を証明するものである。
【0079】
図10は、重回帰式(式1)を用いるペルチェ素子温度Tpの制御アルゴリズムの妥当性を被験者の主観評価に基づいて検証する図である。
【0080】
図10は、(式1)に基づき、ペルチェ素子温度Tpを自動設定する場合における被験者の主観評価である。
図10の縦軸は、快適性についての被験者の主観評価を以下の5段階の数字で示す。5=手動設定と同等の快適さを感じる。4=少し満足に欠ける快適さを感じる。3=ぎりぎり許容できる快適さを感じる。2=不快を感じる。1=耐え難い不快を感じる。
図10の横軸は、(式1)に基づき算出された目標ペルチェ素子温度Ttである。自動制御によってペルチェ素子温度Tpは、目標ペルチェ素子温度Ttと等しい。横軸のペルチェ素子温度Tpは、18°C、19.7°C、21.3°C、23°C、24.7°C、26.3°C、28°Cの各々を示し、各温度について、被験者Aの評価、被験者Bの評価、被験者Cの評価、被験者Dの評価、被験者Eの評価、被験者全員の評価の平均が紙面の左側から順に並んでいる。
【0081】
図10によれば、ペルチェ素子温度Tpが18°Cにおいては、被験者Dの評価、被験者Eの評価が4であり、ペルチェ素子温度Tpが19.7°Cにおいては、被験者Bの評価、被験者Dの評価、被験者Eの評価が4であり、ペルチェ素子温度Tpが21.3°Cにおいては、被験者Bの評価、被験者Dの評価、被験者Eの評価が4であるものの、その他については、各被験者の評価はすべて5である。従って、(式1)に基づき、ペルチェ素子温度Tpを自動設定すれば、十分な快適性が得られることが証明されたといえる。具体的にどのようにしてペルチェ素子温度Tpを自動設定するかについては、後述する。
【0082】
図11は、重回帰式を用いるペルチェ素子温度Tpの制御アルゴリズムの妥当性を、CPTを用いて客観評価に検証する図である。
【0083】
図11は、
図6におけると同様に、CPTの「X課題」による、5人の被験者の実験結果を示す図である。
図11の縦軸は、平均反応時間を示し、単位はmsである。
図11の横軸は、「1.通常環境」が(1)通常環境(室温27℃,湿度50%)、ネッククーラー無しに対応し、「2.酷暑環境」が(2)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラー無しに対応し、「3.酷暑環境+NC」が(3)酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラーあり(深部体温調節装置3を手動で調整)に対応する。この部分については
図6におけると同様である。
【0084】
図11においては、さらに、「4.やや酷暑〜酷暑環境+NCアルゴリズム作動」を追加している。「4.やや酷暑〜酷暑環境+NCアルゴリズム作動」は、(4)環境湿度Maと環境温度Taとが変化する環境中に被験者をおき、(式1)で表される重回帰式を用いて目標ペルチェ素子温度Ttを演算し、この目標ペルチェ素子温度Ttにペルチェ素子温度Tpを一致させる追従制御を行い、ペルチェ素子温度Tpが18°C〜23°Cの範囲で変化する場合の被験者毎の平均反応時間を検出し、さらに、被験者すべての平均反応時間も検出した。
【0085】
図11から見て取れるように、被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者Eのいずれについても、「4.やや酷暑〜酷暑環境+NCアルゴリズム作動」は、「3.酷暑環境+NC」、すなわち、酷暑環境(室温35℃,湿度80%)、ネッククーラーあり(深部体温調節装置3を手動で調整)の場合、及び「1.通常環境」、すなわち、通常環境(室温27℃,湿度50%)、ネッククーラー無しの場合と同等な良好な反応時間が得られる。
図11によって、(式1)に基づき、ペルチェ素子温度Tpを自動設定するアルゴリズムの妥当性が客観的に証明される。
【0086】
さらに、発明者らは、より簡易な計算方法を求めて(式2)で表される重回帰式についても検証した。(式2)を採用する場合においては積算の数を減らせるので、演算速度が遅い安価な中央演算装置36aa又は単純なハードウェアで演算制御器36aを構成できる。(式2)においては、第1の説明変数は環境湿度Ma、第2の説明変数は環境温度Taである。K
5、K
6、K
7の各々は被験者毎の定数であり、これらの3つの定数は被験者毎に異なる。
【0087】
Tt=K
5×Ma+K
6×Ta+K
7・・・・・・・・・・(式2)
【0088】
(式2)においては、K
5、K
6、K
7の偏回帰係数を未定定数とすれば、Tt、Ma、Taについての3元の連立1次方程式からこれらの未定定数は容易に決定できる。従って、被験者Aについては、K
5に対応するK
5A、K
6に対応するK
6A、K
7に対応するK
7Aの各々は、被験者Aを対象とする3元の連立1次方程式から得られる。被験者BについてのK
5B、K
6B、K
7B〜被験者EについてのK
5E、K
6E、K
7Eも同様にして得られる。
【0089】
図12は、被験者の固有の重回帰式(式2)に基づく目標ペルチェ素子温度Tt(縦軸)と、手動によって最も快適な温度であるとして同一被験者が設定するペルチェ素子温度Tp(横軸)との関係を示す図である。
【0090】
図12の縦軸の「回帰温度」は、(式2)に、被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta、その被験者のK
5、K
6、K
7を代入して計算される目標ペルチェ素子温度Ttである。
図10の横軸の「手動温度」は、被験者が自ら手動でペルチェ素子31cに流れる電流を制御して最も快適であると判断する、ペルチェ素子温度検出器31dから得られるペルチェ素子温度Tpである。被験者が存する空間の環境湿度Ma、環境温度Ta毎に1個の四角形のプロット(◆)が対応する。グラフ中の直線は、目標ペルチェ素子温度Ttとペルチェ素子温度Tpとが一致する場合を示す便宜的な直線である。被験者A、被験者B、被験者C、被験者D、被験者Eの5人の異なる被験者毎にグラフは表示される。
【0091】
図12によれば、すべての被験者について、目標ペルチェ素子温度Ttとペルチェ素子温度Tpとは、近い値となっている。よって、被験者を対象とする実験から得られた(式2)は、(式1)よりも精度は若干劣後するものの、妥当なものであることが証明される。
【0092】
(重回帰式に基づく制御の概要)
図13は、(式1)、(式2)に基づくペルチェ素子31cの制御のアルゴリズムに関係する構成部のみを模式的に示すブロック図である。
【0093】
図13に示すように、制御部36は、中央演算装置36aaを中心に制御演算を行う。制御演算の内容は、(1)ペルチェ素子31cを駆動するためのペルチェ素子駆動信号(変温素子駆動信号)Dpを得る演算、(2)ファン34aを駆動するためのファン駆動信号Dfを得る演算、(3)ポンプ34bを駆動するためのポンプ駆動信号Dqを得る演算である。
【0094】
そして、制御部36は、ペルチェ素子駆動電力増幅器36gを介してペルチェ素子31cに流れる電流をペルチェ素子駆動信号Dpに基づき制御する。制御部36は、ファン駆動電力増幅器36hを介してファン34aに流れる電流をファン駆動信号Dfに基づき制御する。制御部36は、ポンプ駆動電力増幅器36iを介してポンプ34bに流れる電流をポンプ駆動信号Dqに基づき制御する。なお、ペルチェ素子駆動電力増幅器36gの出力側の信号は入力側の信号を電力増幅しただけあるので、以下においては、出力側の信号と入力側の信号とを区別することなくペルチェ素子駆動信号Dpと同一符号を付して記載する。同様に、ファン駆動信号Df、ポンプ駆動信号Dqについても出力側の信号と入力側の信号とを区別することなく同一符号を付して記載する。
【0095】
図14は、ペルチェ素子31cを制御するフィードバック制御系を示す図である。
【0096】
図14を参照して、ペルチェ素子駆動信号Dpを得る演算について簡単に説明をする。環境温度検出器36bが出力する環境温度Ta及び環境湿度検出器36cが出力する環境湿度Maから目標ペルチェ素子温度Ttを得る。目標ペルチェ素子温度Ttからペルチェ素子温度検出器31dが出力するペルチェ素子温度Tpを減算し誤差信号Seを得る。誤差信号Seに制御系の最適化を図るために位相補償関数Gを掛けてペルチェ素子駆動信号Dpを得る。
【0097】
位相補償関数Gは、一般的には、ラグ・フイルタ機能とリード・フイルタ機能とを含む。中央演算装置36aaは、位相補償関数Gをデジタル・フィルタFdとして構成する。ペルチェ素子31cとペルチェ素子31cと熱結合するペルチェ素子温度検出器31dとデジタル・フィルタFdとによってフィードバック制御系が構成され、目標ペルチェ素子温度Ttにペルチェ素子温度Tpが追従するサーボ機能を発揮する。ここで、デジタル・フィルタFdのラグ・フイルタ機能は定常偏差を抑圧し、リード・フイルタ機能は即応性を改善して、サーボ機能の最適化を図る。
【0098】
又、省電力化を図るために、目標ペルチェ素子温度Ttからペルチェ素子温度Tpを減算して得る誤差信号Seの絶対値が第1の所定微小値と0の間に留まるように、いわゆる、ヒシテリシスコンパレータを用いてペルチェ素子駆動信号Dpが0となる時間を十分に長くして省電力化の効果を確実なものとすることができる。
【0099】
ファン駆動信号Dfを得る演算について簡単に説明をする。環境温度検出器36bが出力する環境温度Ta及びペルチェ素子温度検出器31dが出力するペルチェ素子温度Tpからファン駆動信号Dfを得る。ここで、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差が大きい場合には、環境温度Taとペルチェ素子31cの媒体流路接触面31coの温度との温度差も大きくなる。
【0100】
環境温度Taとペルチェ素子31cの媒体流路接触面31coの温度との温度差が大きい場合には、ペルチェ素子31cの効率の悪化を防止するために、ファン34aに大きな電流を流してラジエータに吹き付ける環境温度Taの風の風量を大きくして媒体流路接触面31coの温度を環境温度Taに近づけることが好ましい。一方、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差が小さい場合には、省電力化の観点からファン34aに流れる電流を小さくしてラジエータに吹き付ける風の風量を小さくすることが好ましい。制御部36は、この目的を達するために、例えば、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差の絶対値に比例した電流をファン34aに流すようなファン駆動信号Dfを出力する。又、ペルチェ素子31cに電流を流さない場合には、ファン駆動信号Dfを0として、さらに、省電力化を図ることができる。
【0101】
ポンプ駆動信号Dqを得る演算について簡単に説明をする。環境温度検出器36bが出力する環境温度Ta及びペルチェ素子温度検出器31dが出力するペルチェ素子温度Tpからポンプ駆動信号Dqを得る。ここで、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差が大きい場合には、ペルチェ素子31cの媒体流路接触面31coの温度を環境温度Taに近づけてペルチェ素子31cの効率の悪化を防止するために、ポンプ34bに大きな電流を流して伝熱媒体流路37に流れる伝熱媒体の流量を大きくすることが好ましい。一方、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差が小さい場合には、省電力化の観点からポンプ34bに流れる電流を小さくして伝熱媒体の流量を小さくすることが好ましい。制御部36は、この目的を達するために、例えば、環境温度Taとペルチェ素子温度Tpとの差の絶対値に比例した電流をポンプ34bに流すようなポンプ駆動信号Dqを出力する。又、ペルチェ素子31cに電流を流さない場合には、ポンプ駆動信号Dqを0として、さらに、省電力化を図ることができる。
【0102】
(中央演算装置が行う処理のフローチャート)
図13、
図14を引用して制御部36の構成及び制御部36が行う処理の概要について説明をしたが、次に、
図15ないし
図21を参照して中央演算装置36aaが行う処理についてフローチャートを参照して以下に説明をする。
【0103】
図15は、制御部36の中央演算装置36aaが行う初期処理を示すフローチャートである。
【0104】
中央演算装置36aaは、電源の投入によってパワーオンリセットされ初期処理を開始する。
【0105】
中央演算装置36aaは、タイマー割込みを禁止し、中央演算装置36aaの内部のすべてのレジスタをクリアする(ステップST101)。
【0106】
中央演算装置36aaは、偏回帰係数を不揮発性メモリ36adから読込み、レジスタに格納する(ステップST102)。
(式1)に基づく演算を行う場合には偏回帰係数としてK
1、K
2、K
3、K
4、を読込み、(式2)に基づく演算を行う場合には偏回帰係数としてK
5、K
6、K
7を読込む。K
1、K
2、K
3、K
4、及びK
5、K
6、K
7は予め実験により求めて不揮発性メモリ36adに書き込んでおく。
【0107】
中央演算装置36aaは、タイマー割込みレジスタに制御処理の先頭番地書き込む(ステップST103)。
【0108】
中央演算装置36aaは、タイマー割込みを許可する(ステップST104)。
初期処理は終了し、次のタイマー割込みによって処理は制御処理の先頭番地書に移る。
【0109】
制御処理は、環境湿度Ma、環境温度Ta及びペルチェ素子温度Tpを検出するセンサ信号検出処理と、目標ペルチェ素子温度Ttを算出する目標ペルチェ素子温度演算処理と、ペルチェ素子31cを制御するペルチェ素子制御処理と、ファン34aを制御するファン制御処理と、ポンプ34bを制御するポンプ制御処理とを有する。
【0110】
ペルチェ素子制御処理は、フィードバック制御系の制御処理であるので、フィードバック系の安定性を確保するために常時一定の周期毎に処理を行う。そのために、制御処理はタイマー割込み処理を採用する。
【0111】
図16は、制御部36の中央演算装置36aaが行う制御処理を示すフローチャートである。
【0112】
中央演算装置36aaは、環境湿度Ma、環境温度Ta及びペルチェ素子温度Tpを検出するセンサ信号検出処理を行う(ステップST21)。
【0113】
中央演算装置36aaは、目標ペルチェ素子温度Ttを算出する目標ペルチェ素子温度演算処理を行う(ステップST22)。
【0114】
中央演算装置36aaは、ペルチェ素子31cを制御するペルチェ素子制御処理を行う(ステップST23)。
【0115】
中央演算装置36aaは、ファン34aを制御するファン制御処理を行う(ステップST24)。
【0116】
中央演算装置36aaは、ポンプ34bを制御するポンプ制御処理を行う(ステップST25)。
そして、一連の制御処理は終了し、次のタイマー割込みによって再びステップST21に処理は移る。
【0117】
なお、ペルチェ素子制御処理(ステップST23)、ファン制御処理(ステップST24)、ポンプ制御処理(ステップST25)の各処理の処理順番は、プログラムを若干修正して適宜に変更してもよい。
【0118】
図17は、制御部36の中央演算装置36aaが行うセンサ信号検出処理を示すフローチャートである。
【0119】
中央演算装置36aaは、ペルチェ素子温度検出器31dからペルチェ素子温度Tpを検出し、中央演算装置36aa内部のレジスタに格納する(ステップST211)。
【0120】
中央演算装置36aaは、環境温度検出器36bから環境温度Taを検出し、中央演算装置36aa内部のレジスタに格納する(ステップST212)。
【0121】
中央演算装置36aaは、環境湿度検出器36cから環境湿度Maを検出し、中央演算装置36aa内部のレジスタに格納する(ステップST213)。
そして、センサ信号検出処理は終了し、次のペルチェ素子制御処理に処理は移る。
【0122】
図18は、制御部36の中央演算装置36aaが行う目標ペルチェ素子温度演算処理を示すフローチャートである。
【0123】
中央演算装置36aaは、レジスタの環境湿度Ma、環境温度Ta、不揮発性メモリ36adに予め記憶される4つの偏回帰係数K
1、K
2、K
3、K
4を用いて、(式1)の、
Tt=K
1×Ma+K
2×Ta+K
3×(Ma×Ta)+K
4を演算するか、
又は、レジスタの環境湿度Ma、環境温度Ta、不揮発性メモリ36adに予め記憶される3つの偏回帰係数K
5、K
6、K
7を用いて、(式2)の、
Tt=K
5×Ma+K
6×Ta+K
7を演算して目標ペルチェ素子温度Ttを求める(ステップST221)。
【0124】
中央演算装置36aaは、目標ペルチェ素子温度Ttからレジスタのペルチェ素子温度Tpを減算して誤差信号Seを求め、誤差信号Seを中央演算装置36aa内部のレジスタに格納する(ステップST222)。
【0125】
中央演算装置36aaは、誤差信号Seに位相補償関数Gを掛けてペルチェ素子駆動信号Dpを求める(ステップST223)。
そして、目標ペルチェ素子温度演算処理は終了し、次のペルチェ素子制御処理に処理は移る。
【0126】
ここで、位相補償関数Gを掛ける目的は、制御系の性能向上(定常偏差を小さくし、応答を高速化する)のためであるので、不要の場合には誤差信号Seをそのままペルチェ素子駆動信号Dpとしてもよい。
又、中央演算装置36aaは、誤差信号Seの絶対値が、第1の所定微小値と0の間に留まる場合は0となるペルチェ素子駆動信号Dpを発生してもよい。
【0127】
図19は、制御部36の中央演算装置36aaが行うペルチェ素子制御処理を示すフローチャートである。
【0128】
中央演算装置36aaは、ペルチェ素子駆動電力増幅器36gを制御してペルチェ素子31cに対してペルチェ素子駆動信号Dpを出力する(ステップST231)。
中央演算装置36aaは、目標ペルチェ素子温度Ttが環境温度Taよりも低い場合には、ペルチェ素子31cが吸熱モードで動作するような電流を流すようにペルチェ素子駆動信号Dpの正負の極性を定める。一方、目標ペルチェ素子温度Ttが環境温度Taよりも高い場合には、与熱モードとなるように吸熱モードとは逆方向の電流をペルチェ素子31cに流すようにペルチェ素子駆動信号Dpの正負の極性を定める。
そして、ペルチェ素子制御処理は終了し、次のファン制御処理に処理は移る。
【0129】
図20は、制御部36の中央演算装置36aaが行うファン制御処理を示すフローチャートである。
【0130】
中央演算装置36aaは、ファン駆動電力増幅器36hを制御してファン34aに対してファン駆動信号Dfを出力する(ステップST241)。
中央演算装置36aaは、一定の大きさのファン駆動信号Dfを出力するようにしてもよく、レジスタに格納する誤差信号Seの絶対値に比例した大きさのファン駆動信号Dfを出力するようにしてもよく、レジスタに格納する誤差信号Seの絶対値が大きくなるに従って、段階的に大きくなるファン駆動信号Dfを出力するようにしてもよい。又、中央演算装置36aaがペルチェ素子駆動信号Dpを0とする場合には、ファン駆動信号Dfも0とするようにしてもよい。
そして、ファン制御処理は終了し、次のポンプ制御処理に処理は移る。
【0131】
図21は、制御部36の中央演算装置36aaが行うポンプ制御処理を示すフローチャートである。
【0132】
中央演算装置36aaは、ポンプ駆動電力増幅器36iを制御してポンプ34bに対してポンプ駆動信号Dqを出力する(ステップST251)。
中央演算装置36aaは、一定の大きさのポンプ駆動信号Dqを出力するようにしてもよく、レジスタに格納する誤差信号Seの絶対値に比例した大きさのポンプ駆動信号Dqを出力するようにしてもよく、レジスタに格納する誤差信号Seの絶対値が大きくなるに従って、段階的に大きくなるポンプ駆動信号Dqを出力するようにしてもよい。
又、中央演算装置36aaがペルチェ素子駆動信号Dpを0とする場合には、ポンプ駆動信号Dqも0とするようにしてもよい。
そして、ファン制御処理は終了し、次のタイマー割込みによって再びステップST21に処理は移る。
【0133】
第1の実施形態の深部体温調節装置の要点を要約すると以下である。利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有するペルチェ素子31c(変温素子)と、ペルチェ素子31cの皮膚に当接する部分の温度であるペルチェ素子温度Tp(変温素子温度)を検出するペルチェ素子温度検出器31d(変温素子温度検出器)と、利用者の存する環境の温度である環境温度Taを検出する環境温度検出器36bと、利用者の存する環境の湿度である環境湿度Maを検出する環境湿度検出器36cと、ペルチェ素子31cのペルチェ素子温度Tpを制御する制御部36と、を備える。制御部36は、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maから(式1)又は(式2)の予め定める重回帰式に基づき利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)を求め、ペルチェ素子温度Tpが目標ペルチェ素子温度Ttに近づくようにペルチェ素子31cを制御する。このようにして、利用者9が快適と感じる温熱感覚に一致するペルチェ素子31cの制御を実現することができる。
【0134】
なお、目標ペルチェ素子温度Ttの決定に際して、近似式の次数を高めれば、目標ペルチェ素子温度Ttの予測精度はより高くなるとも考えられるが、発明者らの実験によれば、次数を高くした高次の重回帰式においては多くの実験データを用い手間取る演算をするにもかかわらず、第1の実施形態の双1次式を用いる制御方法と比べ、さしたる、改善効果はみられなかった。又、(式1)を用いるに際して通常は,直近に得た少なくとも4点の環境温度Ta及び環境湿度Maと目標ペルチェ素子温度Ttとのデータにより偏回帰係数を求めるが、環境温度Taと環境湿度Maが広範囲にばらつく場合には,7点のデータによってさらに精度が得られることを実験によって、研究者らは確認した。
【0135】
また、人の暑熱感は,発汗により検出できることから、発汗に基づき制御を行うことも考えられるが、発汗検出器は運動時には振動することを原因とする誤差が大きく,また,暑熱感の発生から数分の発汗検出に遅時間が生じる。この点、第1の実施形態の制御方法によれば、運動時における誤差及び遅時間が少なく、正確に利用者9の快適と感じる温熱感覚に一致する制御を実現することができる。
【0136】
偏回帰係数は利用者毎に変えるが、発明者らの行った上述の実験によれば、他人の偏回帰係数を用いて演算する目標ペルチェ素子温度Ttと、利用者が快適と感じるペルチェ素子温度Tpとの間には数℃にも及ぶ誤差がある。一方、第1の実施形態において用いた、偏回帰係数決定時における被験者と、その被験者特有の偏回帰係数の利用者が同一である場合の目標ペルチェ素子温度Ttの精度の良好さは上述したように明らかである。
【0137】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、重回帰式の偏回帰係数の決定の方法に関する第1の実施形態の深部体温調節装置3の変形である。第2の実施形態の概要をまず説明する。
【0138】
第1の実施形態においては、(式1)で表される重回帰式の偏回帰係数K
1〜偏回帰係数K
5を以下のようにして決定した。少なくとも4点の異なる環境温度とペルチェ素子温度Tpの組み合わせの環境下において、主観面又は客観面から評価した被験者毎の最も好ましい、各環境下に対応する4つの目標ペルチェ素子温度Ttを求めた。そして、4元連立方程式の解を求め偏回帰係数K
1〜偏回帰係数K
5を決定した。
【0139】
より簡略には、3元連立方程式の解を求め(式2)で表される重回帰式の偏回帰係数K
6〜偏回帰係数K
7を決定した。第1の実施形態の深部体温調節装置3は、このようにして予め求めた偏回帰係数を用いてペルチェ素子温度Tpの自動設定を行った。
【0140】
しかしながら、このようにして偏回帰係数を決定する方法を採用すると、厚手の衣服を着用した場合と軽装の場合(例えば、季節変化に応じて衣替えする場合)とでは、環境湿度Maと環境温度Taとに対する目標ペルチェ素子温度Ttは大きく異なる。さらに、被験者の加齢、体質の変化に応じても環境湿度Maと環境温度Taとに対する目標ペルチェ素子温度Ttは変化する。
【0141】
一方、長周期変化だけでなく、飲食後であるか、飲食前であるか、又は、高温多湿な雨期において厚手の衣服や雨合羽を着用しているか、などの突発的、特異的な短期間の変化に応じても環境湿度Maと環境温度Taとに対する目標ペルチェ素子温度Ttは大きく異なる。
【0142】
このような季節変化、加齢、体質などの長周期変化、及び飲食、雨合羽の着用などの突発的、特異的な短期的な変化に対応できなければ、利用者は自動調整の益を享受することができない場合もあり得る。そこで、発明者らは、このような課題を解決する偏回帰係数の決定の方法を鋭意研究して、第2の実施形態の深部体温調節装置を完成させた。
【0143】
第2の実施形態の深部体温調節装置においては、偏回帰係数を利用者9が望む場合には通常の使用中において順次、オンラインで更新する。このようにすれば、オフラインで偏回帰係数を固定的に定める場合に比べて、深部体温調節装置の環境適応能力を飛躍的に高くすることができる。又、利用者9が偏回帰係数が未設定の深部体温調節装置を入手後、実際の使用を通して偏回帰係数を設定することもできる。
【0144】
従って、第2の実施形態の深部体温調節装置は、偏回帰係数を導出するための構成部を備え、制御部において偏回帰係数導出処理を行う機能を有する。第2の実施形態と第1の実施形態とは、制御部のみが異なり、他の構成部は同一であるので、深部体温調節装置の全体、及び、同一構成部には第1の実施形態と同一の符号を付し説明を省略する。そして、第1の実施形態と異なる第2の実施形態と異なる構成部のみに異なる符号を付して以下に説明する。
【0145】
図22は、第2の実施形態の深部体温調節装置3の制御部362を中心とするブロック図である。
【0146】
第2の実施形態の制御部362は、第1の実施形態の制御部36に加えてリモコン・インターフェイス36fとリモコン39とを有する。
【0147】
制御部362は、多くの場合、利用者9が手で操作し、目視することが困難な位置に取り付けられるが、偏回帰係数の設定に際しては操作できなければならない。上述した第1の実施形態におけるように、利用者9は、音声入出力部を介して、音声によって制御部36に深部体温調節装置3の操作を指示し、深部体温調節装置3の情報を音声によって受け取るようにしてもよい。しかしながら、利用者9が手で深部体温調節装置3を操作し、深部体温調節装置3の情報をタッチ・パネルの表示によって目視できるリモコン39の利用価値は大きい。
【0148】
リモコン39は、タッチ・パネルを用いた操作部と表示部とを有する。そして、指によってタッチ・パネルを操作し、ディスプレイとして機能するタッチ・パネルの表示を視認できる。リモコン・インターフェイス36fとリモコン39との間における情報のやり取りは、光、電波、超音波等の無線、又は、光ファイバー、ケーブル等の有線によって行う。
【0149】
図23は、リモコン39のタッチ・パネルに表示される画面を示す図である。
【0150】
図23を参照してリモコン39の表示画面の1例について説明をする。実線は表示機能だけの部分であり、破線は表示機能とタッチ・スイッチ機能とを備える部分である。表示機能とタッチ・スイッチ機能とは、リモコン・インターフェイス36fを介して中央演算装置36aaが制御する。
【0151】
中央演算装置36aaは、表示機能及びタッチ・スイッチ機能を有する表示画面によって、
(1)「電源 (入/切)」を表示する。
(入/切)は、「電源 入」又は「電源 切」のいずれかを表示するという意味である(その他の表示においても / の意味は同様である)。「電源 入」の表示を指でタッチすると「電源 切」と表示が変わり、「電源 切」の表示を指でタッチすると「電源 入」と表示が変わり、トグル表示される。中央演算装置36aaは、その表示の通りに、深部体温調節装置3の電源を「入」れるか、「切」るか、を制御する。中央演算装置36aaは、「電源 切」を表示する場合には、省電力化のためにその他の表示画面を表示しない。
【0152】
中央演算装置36aaは、「電源 入」を表示する場合には、表示機能だけを有する表示画面として、
(2)「吸熱/与熱モード 吸熱」又は「吸熱/与熱モード 与熱」、
(3)「サーボモード LOCK」又は「サーボモード UNLOCK」、
(4)「環境温度 ○○℃」、
(5)「環境湿度 ○○%」、
(6)「目標変温素子温度 ○○℃」、
(7)「変温素子温度 ○○℃」、
(8)「係数変更有効期限 ○○分(又は○○時間、○○日、○○年)」、
(9)「温熱感覚忘却度 ○○」、及び、
(10)「係数識別符号 ○○」を表示する。
【0153】
中央演算装置36aaは、現在実行中のモードが「吸熱/与熱モード 吸熱」又は「吸熱/与熱モード 与熱」のいずれであるかを表示する。
【0154】
中央演算装置36aaは、誤差信号Seの絶対値が上述した第1の所定微小値と0との間に留まる場合、すなわち、ペルチェ素子温度Tpが目標ペルチェ素子温度Ttに接近している場合に「サーボモード LOCK」を表示する。一方、中央演算装置36aaは、誤差信号Seの絶対値が第1の所定微小値よりも大きい場合、すなわち、ペルチェ素子温度Tpと目標ペルチェ素子温度Ttとが大きく異なる場合に「サーボモード UNLOCK」を表示する。このように中央演算装置36aaは、誤差信号Seの大きさを判断して「サーボモード LOCK」又は「サーボモード UNLOCK」を表示する。
【0155】
中央演算装置36aaは、環境温度検出器36bが検出する環境温度Taを「環境温度 ○○℃」と表示し、環境湿度検出器が検出する環境湿度Maを「環境湿度 ○○%」と表示する。
【0156】
中央演算装置36aaは、中央演算装置36aaが演算した目標ペルチェ素子温度Ttを「目標変温素子温度 ○○℃」と表示する。
【0157】
中央演算装置36aaは、ペルチェ素子温度検出器31dが検出するペルチェ素子温度Tpを「変温素子温度 ○○℃」と表示する。
【0158】
中央演算装置36aaは、利用者9が後述する「偏回帰係数変更処理」を行うに際して、入力する「係数変更有効期限」を表示する。
「係数変更有効期限」は、例えば、10分から50年までの期限を10分単位で設定できる。
【0159】
中央演算装置36aaは、利用者9が後述する「偏回帰係数変更処理」を行うに際して、入力する「温熱感覚忘却度」を表示する。
「温熱感覚忘却度」は、例えば、0から1までを0.1単位で設定できる。
【0160】
中央演算装置36aaは、「電源 入」を表示する場合には、表示機能及びタッチ・スイッチ機能を有する表示画面として、
(11)「制御モード 自動」又は「制御モード 手動」、
(12)「変温素子温度 維持」又は「変温素子温度 変更」、
(13)「偏回帰係数 維持」又は「偏回帰係数 変更」、
(14)「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」、「係数再演算 係数有効期限入力」、「係数再演算 変更処理実行」、又は「係数再演算 変更処理実行中」、
(15)「増」、「減」、の2つの操作ボタン、
(16)「係数識別符号 呼出」、「係数識別符号 選択」、又は「係数識別符号 削除」、を表示する。
【0161】
中央演算装置36aaは、電源を入れた直後のデフォルトを「制御モード 自動」に設定する。
「制御モード 自動」とは、自動的に、上述した(式1)、又は、(式2)のアルゴリズムに従って目標ペルチェ素子温度Ttを発生して深部体温調節装置3を動作させるモードである。
「制御モード 手動」とは、利用者9が自らの判断により手動でペルチェ素子31cの目標ペルチェ素子温度Ttを調整するモードである。
中央演算装置36aaは、「制御モード 自動」と「制御モード 手動」とをトグル表示し、深部体温調節装置3を表示の通りに制御する。
【0162】
中央演算装置36aaは、「変温素子温度 維持」又は「変温素子温度 変更」を表示する。
中央演算装置36aaは、デフォルトを「変温素子温度 維持」に設定する。
利用者9が指でタッチする毎にトグル表示して「変温素子温度 維持」と「変温素子温度 変更」とを交互に表示する。
【0163】
中央演算装置36aaは、「変温素子温度 変更」の表示を出した場合には、「増」、「減」の2つの操作ボタンの操作を可能とする。
利用者9は「増」、「減」の2つの操作ボタンの操作をして、「目標変温素子温度 ○○℃」の温度を設定する。
【0164】
しかしながら、中央演算装置36aaが誤差信号Seの大きさによって「サーボモード LOCK」と判断しない限り、「増」、「減」の2つの操作ボタンの操作をできないようにしている。その理由は、利用者9が、快適かどうかの判断を間違うおそれがあるからである。
【0165】
「サーボモード LOCK」、すなわち、「目標変温素子温度」と「変温素子温度」とが等しくなった時点(変温素子温度の変化が落ち着いた時点)で、ペルチェ素子温度Tpは落着くので、この時点で利用者9は、快適か否かを判断して、快適と思う温度になるまで「目標変温素子温度」を修正する。
「制御モード 手動」を維持すれば、利用者9が変更した「目標変温素子温度」で動作を続けるのでそのまま放置してもよいが、以下のようにして今回の新たな快適条件を反映させた偏回帰係数を用いて「制御モード 自動」で動作させることができる。
【0166】
利用者9が、今回の新たな快適条件を反映させた偏回帰係数を用いて「制御モード 自動」で動作させるように設定する場合の操作手順を以下の(イ)〜(ネ)で順に説明する。
【0167】
(イ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「偏回帰係数 変更」を表示する。
【0168】
(ロ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「偏回帰係数 変更」を長押する。
【0169】
利用者9が、快適であると判断した、環境温度Ta及び環境湿度Maと目標ペルチェ素子温度(目標変温素子温度)Ttとの関係に基づき、偏回帰係数の再演算を実行する場合に、新たに「温熱感覚忘却度」、「係数有効期限」の設定を行わないときは、(ロ)から(リ)に移行することもできる。この場合には、「温熱感覚忘却度」、「係数有効期限」は、デフォルト値が採用され、変更されない。
【0170】
しかしながら、本実施形態では、「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」、「係数再演算 係数有効期限入力」の2つの付加処理を行い、より環境の変化に適応する制御を行うことができるようにしているので、この機能を使う場合には、(ハ)から(チ)までの操作も行う。「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」、「係数再演算 係数有効期限入力」、「係数再演算 変更処理実行」の各タッチ・スイッチは、利用者9が順に指をタッチすることによって表示して利用できる。「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」、「係数再演算 係数有効期限入力」の内容の詳細は後述する。
【0171】
(ハ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」を表示する。
【0172】
(二)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 温熱感覚忘却度入力」を長押する。
【0173】
(ホ)利用者9は「増」、「減」の2つの操作ボタンの操作をして、「温熱感覚忘却度 ○○」(
図23の下から2段目)の表示を確認しながら温熱感覚忘却度を設定する。
【0174】
(へ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 係数有効期限入力」を表示する。
【0175】
(ト)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 係数有効期限入力」を長押する。
【0176】
(チ)利用者9は「増」、「減」の2つの操作ボタンの操作をして、「係数有効期限 ○○」(
図23の下から3段目)の表示を確認しながら係数有効期限を設定する。
【0177】
(リ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 変更処理実行」を表示する。
【0178】
(ヌ)利用者9は、タッチ・パネルを操作して「係数再演算 変更処理実行」を長押する。
【0179】
中央演算装置36aaは偏回帰係数の再演算を開始し、「係数再演算 変更処理実行中」のタッチ・パネルの表示は、中央演算装置36aaが、偏回帰係数を再演算している間は継続して表示される。
【0180】
中央演算装置36aaは、偏回帰係数の再演算を終了すると、「制御モード 自動」、「変温素子温度 維持」、「偏回帰係数 維持」のデフォルト表示に戻す。そして、中央演算装置36aaは、「制御モード 自動」、「変温素子温度 維持」、「偏回帰係数 維持」のデフォルトの制御をする。
【0181】
(ネ)利用者9は、変更された偏回帰係数のセットによる深部体温調節装置3の自動制御を享受することができる。
【0182】
「温熱感覚忘却度」とは、過去に収集した環境温度Ta及び環境湿度Maと目標ペルチェ素子温度Ttとの関係のデータに対する偏回帰係数の再演算における、時間とともに減少する重み係数である。重みづけして過去のすべてのデータを偏回帰係数の算出に使えば、偏回帰係数の精度の向上を図ることができるとともに、被験者の加齢、体質の変化に応じた長期的な偏回帰係数の変化に対応することができる。一定の時間毎にデータを収集することができない場合には、新たなデータのサンプリング毎にそれ以前のデータの重みづけを累積的に減少させもよい。重みづけを累積的に行うことによって古いデータは実質的に影響が無いようにできる。
【0183】
例えば、「温熱感覚忘却度」が0であれば、過去のデータに基づき決定された偏回帰係数をすべて有効に活用し、「偏回帰係数変更処理」において新たに処理の対象となった環境温度Ta及び環境湿度Maの1セットのデータはその中の1つとしての重みに基づき偏回帰係数を求める。「温熱感覚忘却度」が1であれば、(式1)を適用する場合には、「偏回帰係数変更処理」において新たに処理の対象となったデータを含む4つ(4セット)以上の直近の環境温度Ta及び環境湿度Maにのみに基づき偏回帰係数を求め、その他の過去のデータはすべて無視される。又、「温熱感覚忘却度」が1であれば、(式2)を適用する場合には、「偏回帰係数変更処理」において新たに処理の対象となったデータを含む3つ(3セット)以上の直近の環境温度Ta及び環境湿度Maにのみに基づき偏回帰係数を求め、その他の過去のデータはすべて無視される。
【0184】
「係数有効期限」とは、ある「一定の時間」だけ、最新の環境温度Ta及び環境湿度Maと目標ペルチェ素子温度Ttとの関係を用いて演算した偏回帰係数を用い、その「一定の時間」が経過すると再び以前の偏回帰係数を用いる場合における、「一定の時間」である。「係数有効期限」が経過するまで通常とは異なる偏回帰係数を用いると、例えば、高温多湿な雨期において厚手の衣服や雨合羽を着用しているなどの突発的、特異的な変化にも適応する良好な制御特性を提供できる。
【0185】
例えば、雨合羽を着用しているのが3時間であれば、上述の操作(チ)において表示が「係数変更有効期限 3時間」となるように「増」、「減」のタッチ・スイッチを操作して入力する。このようにすると、雨合羽を着用している3時間の間は、更新した偏回帰係数を用いる。係数変更有効期限である3時間後には、自動的に元の設定の偏回帰係数に戻る。
【0186】
「係数識別符号」とは、偏回帰係数のセット毎に付した識別符号である。この識別符号は利用者9の利便性を高くする。例えば、利用者9が、厚手の衣服や雨合羽を着用している場合に対応する偏回帰係数を用いる制御を利用したいと思うと、直ちに、「係数識別符号」を用いて該当する偏回帰係数を取出すことができる。「係数識別符号」には、数字の識別番号、偏回帰係数の演算時の直近の環境温度Ta、環境湿度Ma等を識別子として用いる。偏回帰係数の演算時の日時を識別子としてもよい。
【0187】
「係数識別符号 呼出」、「係数識別符号 選択」、「係数識別符号 削除」は、指で短時間、タッチ・パネルに触れることにより繰り返して順に表示される。「係数識別符号 呼出」を選択してタッチ・パネル長押すると、「増」、「減」のタッチ・パネルが使用可能とされ、利用者は、係数識別符号の識別子である識別番号を順に選択できる。そして、その識別番号に対応する係数識別符号の内容は、
図23の最下段に「係数識別符号 ○○」として表示される。利用者9は、「係数識別符号 選択」にタッチ・パネルの表示を移し、「係数識別符号 選択」のタッチ・パネルを長押して該当する4個、又は3個の偏回帰係数のセットを読出し、所望の偏回帰係数による深部体温調節装置3の自動制御を享受することができる。
【0188】
「係数識別符号 削除」を選択してタッチ・パネルに所定時間以上、触れると、「増」、「減」のタッチ・パネルが使用可能とされ、利用者は、係数識別符号の識別子である識別番号を順に選択できる。そして、その識別番号に対応する係数識別符号の内容を削除することができる。
【0189】
第2の実施形態の深部体温調節装置の要点を要約すると以下である。第1の実施形態の深部体温調節装置と同様に、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有するペルチェ素子31c(変温素子)と、ペルチェ素子31cの皮膚に当接する部分の温度であるペルチェ素子温度Tp(変温素子温度)を検出するペルチェ素子温度検出器31d(変温素子温度検出器)と、利用者の存する環境の温度である環境温度Taを検出する環境温度検出器36bと、利用者の存する環境の湿度である環境湿度Maを検出する環境湿度検出器36cと、ペルチェ素子31cのペルチェ素子温度Tpを制御する制御部362と、を備える。制御部362は、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maから(式1)又は(式2)に(予め定める重回帰式に)基づき利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)を求め、ペルチェ素子温度Tpが目標ペルチェ素子温度Ttに近づくようにペルチェ素子31cを制御する。
【0190】
このようにして、利用者9が快適と感じる温熱感覚に一致するペルチェ素子31cの制御を実現することができる。
【0191】
これに加え、第2の実施形態においては、制御部362は、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maに基づいて、予め定める重回帰式の第1の偏回帰係数ないし第4の偏回帰係数、又は、第5の偏回帰係数ないし第7の偏回帰係数を再演算して、適応特性を高めることができる。
【0192】
[第3の実施形態]
第3の実施形態の深部体温調節装置は、第2の実施形態における制御部の演算制御器が行う演算処理のすべて、又は、その一部をクラウド(インターネットに接続されるサーバー)で行う。クラウドは、利用者9が携帯するものではないので大きさに制限を受けない。よって、高速に複雑な処理を行い、大容量のデータを保持することができる大型のコンピュータをサーバーとして用いることができる。従って、第3の実施形態の深部体温調節装置は、インターネットに接続するための機能と吸熱/与熱の機能とを備えれば足りる。
【0193】
図24は、第3の実施形態の深部体温調節装置の送受信部36dを中心とするブロック図である。
【0194】
図24に示すように、第3の実施形態の深部体温調節装置は、第1の実施形態における演算制御器36a及び第2の実施形態における演算制御器362aに相当する演算制御器を備えない。第3の実施形態の深部体温調節装置は、演算制御器に替て送受信部36dを備える。
【0195】
送受信部36dには、頸部冷暖部31のペルチェ素子31cとペルチェ素子温度検出器31dと環境温度検出器36bと環境湿度検出器36cとリモコン・インターフェイス36fとペルチェ素子駆動電力増幅器36gとファン駆動電力増幅器36hとポンプ駆動電力増幅器36iとが接続される。送受信部36dに接続されるこれらの構成部は、機構部を駆動する部分、利用者の存する空間の環境の情報(環境温度Ta及び環境湿度Ma)を検出する部分であるのでクラウド40の側に配置することはできない。又、これらの各構成部に電力を供給する電力供給部36eも深部体温調節装置の側に配置する。
【0196】
図24に示す構成を採用する場合には、リモコン・インターフェイス36fとクラウド40との間でやり取りされる暗号化された情報は、第1実施形態、又は、第2実施形態における中央演算装置36aa、ロム36ab、ラム36ac及び不揮発性メモリ36adと、バスライン36aiとの間でやり取りされる情報と同じものである。このようにすれば、第3実施形態は、第1実施形態、又は、第2実施形態と同様に動作する。この場合には、クラウド40は、中央演算装置36aa、ロム36ab、ラム36ac及び不揮発性メモリ36adと同様の構成部を備える。
【0197】
図25は、
図24とは異なる別の送受信部36dの構成を示すブロック図である。
【0198】
図25に示すリモコン39及び送受信部36dは、リモコン・インターフェイス36fとの間で情報をやり取りするのみではなく、クラウド40との間で暗号化された情報をやり取りする。
【0199】
図24、
図25に示す実施形態においては、深部体温調節装置の側には端末機能のみを残し、演算処理機能はすべてクラウド40の側に配置したが、この他、深部体温調節装置にも制御部を備え、この制御部に制御演算にかかわる機能の一部を残すようにしてもよい。
【0200】
送受信部36dは、送受信部36dとクラウド40とが協調してクラウドコンピューティング(cloud computing)を行うために、送受信部36dはクラウド40とインターネットによって接続する機能を有する。
【0201】
このように、深部体温調節装置は単に端末として機能し、すべての演算処理、判断をクラウド40に委ねる。そして、第1の実施形態、第2実施形態に説明したと全く同じように、深部体温調節装置を動作させることができる。
【0202】
クラウド40は、第1の実施形態、又は、第2の実施形態において説明した制御部が行うすべての演算処理、判断を行う。クラウド40は、深部体温調節装置を用いるに必要な情報をすべて保存することができる。従って第3の実施形態の深部体温調節装置は、第1の実施形態、又は、第2の実施形態に説明したように、特定の利用者のための偏回帰係数を内部に記憶しなくともよい。このことは、深部体温調節装置のハードウェアを特定の個人のために特化しなくてもよいことを意味する。
【0203】
例えば、クラウド40と深部体温調節装置との間の通信プロトコルを規格化すれば、深部体温調節装置の製造者の相違、深部体温調節装置の機種の異なり、ハードウェアの異なり(例えばペルチェのゼーベック係数の異なり)もすべて吸収することができる。そして、セキュリティを施した個人の暗証識別情報を深部体温調節装置に入力して、その深部体温調節装置とクラウド40の間においてその個人に関する情報をやり取りして、その個人に特化したように動作する深部体温調節装置を構成することができる。
【0204】
このようにすれば、個人が深部体温調節装置を持ち歩くことは必要ない。例えば、暑い真夏のスポーツ競技場において、消毒済みの充電が十分にされた深部体温調節装置をレンタルして自分の暗証識別情報を入力することによって快適にスポーツ観戦を楽しむことができる。
【0205】
又、クラウド40の側においては、個々の利用者の利用履歴を管理し、その履歴に基づいて偏回帰係数の再演算を行い、偏回帰係数算出のアルゴリズムのバージョン・アップを図ることなどもできる。さらに、深部体温調節装置にGPS(Global Positioning System)機能を搭載して、クラウド40が利用者の位置を把握し、公的機関又は営利機関が提供する局地的な気候予測データを参照して、その利用者に最も適切と思われる偏回帰係数を再演算して深部体温調節装置の制御を行うこともできる。
【0206】
第3の実施形態の深部体温調節装置の要点を要約すると以下である。インターネットでクラウド40(インターネットに接続されるサーバー)と接続可能とし、利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有するペルチェ素子31c(変温素子)と、ペルチェ素子31cの皮膚に当接する部分の温度であるペルチェ素子温度Tp(変温素子温度)を検出するペルチェ素子温度検出器31d(変温素子温度検出器)と、利用者の存する環境の温度である環境温度Taを検出する環境温度検出器36bと、利用者の存する環境の湿度である環境湿度Maを検出する環境湿度検出器36cと、クラウド40との間で情報の送受信を行う送受信部36dと、を備え、ペルチェ素子31cをペルチェ素子駆動信号Dp(変温素子駆動信号)に応じて駆動する。送受信部36dは、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Taと環境湿度Maとペルチェ素子温度Tpとをクラウド40に送信し、環境温度Ta及び環境湿度Maから予め定める(式1)又は(式2)の重回帰式に基づき求める利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Ttからペルチェ素子温度Tpを減じて得るペルチェ素子駆動信号Dpをクラウド40から受信する。
【0207】
このようにして、利用者9が快適と感じる温熱感覚に一致するようにペルチェ素子31cを制御することができる。
【0208】
これに加え、第3の実施形態においては、送受信部36dがクラウド40に対して環境温度Ta及び環境湿度Maを送信し、環境温度Ta及び環境湿度Maから予め定める(式1)又は(式2)の重回帰式に基づき求める利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Ttからペルチェ素子温度Tpを減じて得るペルチェ素子駆動信号Dpをクラウド40から受信するので、深部体温調節装置は端末として機能すれば足りる。よって、深部体温調節装置は特定の個人のために特化しないので多量に頒布が可能であり、深部体温調節装置において偏回帰係数を記憶しないのでメンテナンスも極めて容易なものとできる。一方、クラウド40の側では、インターネットに接続されるサーバーの高速性能を活かして偏回帰係数の高速演算が可能であり、さらに、演算に使用する極めて多量のデータを保存することもできる。
【0209】
[その他の実施形態]
(頸部冷暖部の変形例)
【0210】
図26は、第1の実施形態ないし第3の実施形態の頸部冷暖部31とは別の実施形態の頸部冷暖部312を示す図である。
【0211】
図2に示す頸部冷暖部31は、頸部の半周以上に渡る部分の吸熱/与熱(吸熱及び与熱、又は、吸熱又は与熱)を行う。この結果、皮膚の下に位置し、頸部の左右に分岐する右総頸動脈、左総頸動脈、首の後ろ側の体温調整を司る動静脈吻合血管(AVA)のスイッチがあるとされる頸部の後ろ側の冷/暖(冷やし及び暖め、又は、冷やし又は暖め)を行う、冷/暖の効果の高いものである。
【0212】
しかしながら、頸部の半周以上に渡る部分の冷/暖を行うための必要電力は大きい。一方、皮膚を通して右総頸動脈、左総頸動脈、首の後ろ側の部分(これらを総称して重要局所と称する)のいずれか一箇所又は任意の組み合わせを局所的に冷/暖をしても深部体温の調節は可能である。このようにすれば、重要局所以外の頸部の他の部分の冷/暖をすることがなく、又、頸部冷暖部312の周囲の空間を無駄に冷/暖をすることがないので電力効率はより向上する。
【0213】
図26に示す頸部冷暖部312は、冷暖部保持部材312a、ペルチェ素子31c、ペルチェ素子温度検出器31d、伝熱媒体流路37、ケーブル33を備える。
【0214】
冷暖部保持部材312aの一部は切り抜かれ、ペルチェ素子31c及びペルチェ素子温度検出器31dがその切欠き部に埋めこまれるように冷暖部保持部材312aに固着される。ペルチェ素子31cの重要局所側の面には痛痒、違和感を与えることがない熱伝導性が良好なる材料が貼られている。一方、伝熱媒体流路37が接するペルチェ素子31cの媒体流路接触面及び伝熱媒体流路37は、冷暖部保持部材312aの保持部材外側面(頸部から、より遠い面)側に配置され、冷暖部保持部材312aは熱伝導性が悪い材料で形成される。よって、頸部92と媒体流路接触面及び伝熱媒体流路37との間の熱結合は遮断され頸部92の冷/暖が効果的に行える。
【0215】
頸部冷暖部は、右総頸動脈及び左総頸動脈頸動脈のみの冷/暖を行うことによってもその効果を生じ、さらに、右総頸動脈又は左総頸動脈頸動脈のいずれかの重要局所の冷/暖を行うことによってもその効果を生じる。よって、頸部冷暖部をさらに簡易なものとし、より、省電力化を図ることもできる。
【0216】
図27は、1箇所の重要局所の冷/暖を行う別の実施形態の頸部冷暖部313を示す図である。
【0217】
図27に示す頸部冷暖部313は、冷暖部保持部材313a、ペルチェ素子31c、ペルチェ素子温度検出器31d、伝熱媒体流路37、ケーブル33を備える。
【0218】
頸部冷暖部313の各構成部の機能は、
図2に示す実施形態におけると同様である。利用者は、頸部冷暖部313を医療用の粘着テープを用い頸部92に固着し、頸部92を覆う着衣の頸部側の面に固着し、その他の方法で固着し、重要局所の冷/暖を行うことができる。ここで、頸部冷暖部313の大きさを右総頸動脈又は左総頸動脈頸動脈の冷/暖を行うための最小限の大きさとすることによって大幅な省電力化を図ることができる。
【0219】
また、図示はしないが、「吸熱」機能のみを有すれば足りる環境下においては頸部冷暖部に替、吸熱して冷やすことのみを行う変温素子を有する頸部冷部、又は、「与熱」機能のみを有すれば足りる環境下においては頸部冷暖部に替、与熱して暖めることのみを行う変温素子を有する頸部暖部を採用しても、第1の実施形態ないし第3の実施形態におけると同様の制御を行うことができる。すなわち、頸部冷部を用いる場合には、変温素子温度が、目標変温素子温度に等しくなるように制御し、頸部暖部を用いる場合には、変温素子温度が、目標変温素子温度に等しくなるように制御する。
【0220】
吸熱を専らとする変温素子としては、吸熱を専らとするペルチェ素子、伝熱媒体流路の中に氷水を循環させ伝熱媒体流路を重要局所付近に当接しその当接する部分を変温素子として機能させ伝熱媒体の流量を変化させて変温素子温度を調整するもの、等を採用することができる。
【0221】
与熱を専らとする変温素子としては、電力を熱に変換するヒータ、伝熱媒体流路の中に温水を循環させ伝熱媒体流路を重要局所付近に当接しその当接する部分を変温素子として機能させ伝熱媒体の流量を変化させて変温素子温度を調整するもの、等を採用することができる。
【0222】
我が国においては、四季が明確であり、我が国の広い範囲において、冬季の与熱は必需であり、夏季の吸熱は必需である。又、高温度の溶鉱炉の周囲における作業においては季節によらず吸熱が必需であり、低温度の冷蔵庫内における作業においては季節によらず与熱が必需である。又、夏季の熱中症に対応する救護活動においては吸熱が必要であり、冬季の山岳救助活動においては与熱が必要である。
【0223】
このように、深部体温と比較して環境温度Taが低い環境下においては与熱を専らとする深部体温調節装置で足り、深部体温と比較して環境温度Taが高い環境下においては吸熱を専らとする深部体温調節装置で足りる。よって、深部体温調節装置の低価格化の観点又は深部体温調節装置の高性能化の観点から、頸部冷部のみを備える深部体温調節装置、頸部暖部のみを備える深部体温調節装置の利用価値は高い。
【0224】
(伝熱媒体流路の変形例)
伝熱媒体流路は、伝熱媒体を循環する機能を果たせればよく、合成樹脂で形成されるパイプ等、種々の材料と形状とを適宜用いることができる。伝熱媒体は、熱伝導が高ければよく、水以外では、例えば、極寒の環境においては凍結を防止するためにエチレングリコール等を主成分とするクーラントでもよい。
【0225】
伝熱媒体流路にパイプ内壁にウィックを有するヒートパイプを用いる場合には、ヒートパイプの一端を頸部冷暖部として用いることができる。この場合には、ヒートパイプの他端の温度を制御することによって、頸部冷暖部として機能するヒートパイプの一端の温度を調整することができる。
【0226】
(熱交換部の変形例)
熱交換部は、ラジエータとファンとの組み合わせ以外に、環境温度に接する面積が広いラジエータを用いてファンを用いないようにすることもできる。
【0227】
(変温素子の制御の変形例)
変温素子温度を目標変温素子温度に近づけるように変温素子を制御するに際して、第1の実施形態ないし第3の実施形態においては、目標変温素子温度から変温素子温度を減じて誤差信号を求め、誤差信号に応じた変温素子駆動信号を変温素子に加える制御方法を用いた。この方法によれば、良好な制御性能が得られる。しかしながら、誤差信号はアナログ信号であるので、制御に際しては、中央演算装置、クラウドにおいては、アナログ信号をデジタル処理しなければならないので演算が複雑であり、場合によっては、高価なDSP(digital signal processor)を使うこととなる。
【0228】
変温素子を制御する別の方法として、以下のようにすれば、変温素子温度と目標変温素子温度との大小判断を行うだけで、変温素子温度を目標変温素子温度に近づけることができる。
【0229】
深部体温調節装置を吸熱モードのみで動作させる頸部冷部のみを備える深部体温調節装置においては、変温素子温度>目標変温素子温度の場合には変温素子を所定値の変温素子駆動信号で駆動する(変温素子がペルチェ素子である場合には一定値電流を流す)。変温素子温度<目標変温素子温度の場合には変温素子を駆動しない(変温素子がペルチェ素子である場合には電流を流さない)。深部体温調節装置を与熱モードのみで動作させる頸部暖部のみを備える深部体温調節装置においては、変温素子温度<目標変温素子温度の場合には変温素子を所定値の変温素子駆動信号で駆動する(変温素子がペルチェ素子である場合には、吸熱モードにおけるとは逆方向の一定値電流を流す)。変温素子温度>目標変温素子温度の場合には変温素子を駆動しない(変温素子がペルチェ素子である場合には電流を流さない)。
【0230】
深部体温調節装置を吸熱モード及び与熱モードのいずれのモードでも動作させる深部体温調節装置においては、変温素子温度>目標変温素子温度の場合には変温素子を所定値の変温素子駆動信号で駆動する(変温素子がペルチェ素子である場合には吸熱モードで動作するように一定値電流を流す)。一方、変温素子温度<目標変温素子温度の場合には変温素子を別の所定値の変温素子駆動信号で駆動する(変温素子がペルチェ素子である場合には、与熱モードで動作するように吸熱モードにおけるとは逆方向の一定値電流を流す)。
【0231】
又、第1の実施形態に特化した変温素子の制御の変形例としては、第1の実施形態においては偏回帰係数の再演算をしないのであるから、中央演算装置36aaにおいて、環境温度Ta、環境湿度Maを検出する毎に目標ペルチェ素子温度Ttを演算するのではなく以下のようにしてもよい。所定刻み温度(例えば、2℃)毎、所定刻み湿度(例えば、5%)毎の、多くの、環境温度Ta及び環境湿度Maのセットについて、予め定める(式1)、又は、(式2)から目標ペルチェ素子温度Ttを求めておき不揮発メモリ36adに格納しておく。そして、変温素子温度を制御する時点における環境温度検出器36bから検出する2℃刻みの環境温度Taを上位アドレス、環境湿度検出器36cから検出する5%刻みの環境湿度Maを下位アドレスとして、不揮発メモリ36adに格納される上位アドレスと下位アドレスに該当する番地に記憶されている目標ペルチェ素子温度Ttを求めるようにしてもよい。なお、環境温度Taを上位アドレス、環境湿度Maを下位アドレスとするのではなく、環境温度Taを下位アドレス、環境湿度Maを上位アドレスとしてもよい。
【0232】
すなわち、制御部36は、ペルチェ素子温度(変温素子温度)Ptを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Taから、(式1)、(式2)の重回帰式を用いて既に作成している不揮発メモリ36adに格納された目標ペルチェ素子温度・テーブルの内容に基づき(すなわち、予め定める重回帰式に基づき)利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)を求め、ペルチェ素子温度Ptが目標ペルチェ素子温度Ttに近づくようにペルチェ素子31cを制御する。このようにすれば、中央演算装置36aaは、積和演算を行わないでも第1の実施形態におけると同様の目的を達することができ、積和演算の機能を有しない中央演算装置36aaを用いることもできるので制御部36の簡易化を達成できる。
【0233】
(変温素子の制御の別の変形例)
上述する環境温度Ta及び環境湿度Maをアドレスに対応させ、そのアドレスが指定する不揮発メモリ36adの内容である目標ペルチェ素子温度Ttを読み出して、ペルチェ素子31cの温度を制御する方法は、以下に示すように種々に変形して用いることができる。
【0234】
<この変温素子の制御の別の変形例と第1の実施形態との組み合わせ>
(式1)、又は、(式2)のみならず、任意の次数の高次多項式で記述される重回帰式においても、環境温度Ta及び環境湿度Maをアドレスに対応させ、不揮発メモリ36adの内容である目標ペルチェ素子温度Ttを読み出して、ペルチェ素子31cの温度を制御する方法は容易に適用できる。すなわち、偏回帰係数を予め決定した高次多項式に種々の環境温度Ta及び環境湿度Maを代入して目標ペルチェ素子温度Ttを求めておき、不揮発メモリ36adに目標ペルチェ素子温度Tt格納しておく。ここで、種々の環境温度Ta及び環境湿度Maを代入して目標ペルチェ素子温度Ttを求める演算を予め行っておけば高次多項式の演算の複雑化が実施を妨げることはない。そして、深部体温調節装置においては、演算を行うことなく変温素子温度を制御する時点における環境温度検出器36bから検出する、例えば2℃刻みの環境温度Taを上位アドレス、環境湿度検出器36cから検出する例えば5%刻みの環境湿度Maを下位アドレスとして、不揮発メモリ36adに格納される目標ペルチェ素子温度Ttを求めるようにしてもよい。このようにすれば、中央演算装置36aaは、積和演算を行わずして目的を達する制御を行うことができ、中央演算装置36aaの負担の軽減、ひいては、深部体温調節装置の簡易化を達成できる。
【0235】
さらには、数式に基づくことなく、広範囲な環境温度Ta及び環境湿度Maに対する利用者が最も好ましいと感じる目標ペルチェ素子温度Ttを予め実験によって求めておき不揮発メモリ36adに格納しておくこともできる。そして、変温素子温度を制御する時点における環境温度検出器36bから検出する例えば2℃刻みの環境温度Taを上位アドレス、環境湿度検出器36cから検出する例えば5%刻みの環境湿度Maを下位アドレスとして、不揮発メモリ36adに格納される目標ペルチェ素子温度Ttを求めるようにしてもよい。このようにして、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maに基づき利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)を求めることができる。なお、環境温度Taの刻み幅は2℃に限らず任意の値に設定することができる。例えば、環境温度Taの刻み幅を1℃に設定する場合には2℃に設定する場合に比べて精度は向上するものの理論的には不揮発メモリ36adの容量は2倍となる。同様に、例えば、環境湿度Maの刻み幅を2.5%に設定する場合には5%に設定する場合に比べて精度は向上するものの理論的には不揮発メモリ36adの容量は2倍となる。
【0236】
<この変温素子の制御の別の変形例と第2の実施形態との組み合わせ>
利用者が現在の環境温度Ta及び環境湿度Maに対する目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)が快適ではないと判断する場合においては、リモコン39を操作して、目標ペルチェ素子温度Ttを手動で変更する。そして、利用者が快適と認識する新たな目標ペルチェ素子温度Tt(新目標変温素子温度)を不揮発メモリ36adに登録する。この場合に、不快と感じた環境温度Ta及び環境湿度Maをアドレスする不揮発メモリ36adの内容である既に登録されている旧い目標ペルチェ素子温度Tt(旧目標変温素子温度)をこの新たな目標ペルチェ素子温度Ttで完全に置替るか、新たな目標ペルチェ素子温度Ttに加えて既に登録されている旧い目標ペルチェ素子温度Ttに重みづけをして過去の影響を残すかを利用者が選択できるようにしてもよい。この変温素子の制御の別の変形例と第3の実施形態との組み合わせにおいては、上述した不揮発メモリ36adの内容の置替の処理をクラウド40において行うことによって実施できる。
【0237】
第1の実施形態とその他の実施形態とを組み合わせた深部体温調節装置の要点を要約すると以下である。利用者の頸部を通る太い血管を覆う皮膚に当接することが可能であり吸熱又は与熱の少なくとも一方の機能を有するペルチェ素子31c(変温素子)と、ペルチェ素子31cの皮膚に当接する部分の温度であるペルチェ素子温度Tp(変温素子温度)を検出するペルチェ素子温度検出器31d(変温素子温度検出器)と、利用者の存する環境の温度である環境温度Taを検出する環境温度検出器36bと、利用者の存する環境の湿度である環境湿度Maを検出する環境湿度検出器36cと、ペルチェ素子31cのペルチェ素子温度Tpを制御する制御部と、を備える。制御部は、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maに基づき利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)を求め、ペルチェ素子温度Tpが目標ペルチェ素子温度Ttに近づくようにペルチェ素子31cを制御する。加えて、第2の実施形態とその他の実施形態とを組み合わせた深部体温調節装置においては、利用者が現在の環境温度Ta及び環境湿度Maに対する目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)が快適ではないと判断する場合においては、利用者が快適と認識するペルチェ素子温度Tpを新たな目標ペルチェ素子温度Tt(新目標変温素子温度)として更新するようにできる。さらに、加えて、クラウド40と協調する第3の実施形態とその他の実施形態とを組み合わせた深部体温調節装置においては、ペルチェ素子温度Tpを制御する時点における環境温度Ta及び環境湿度Maに基づき求める利用者にとって快適なペルチェ素子温度Tpであると予測される目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)から変温素子温度を減じて変温素子駆動信号を得る処理の一部又はすべてをクラウド40において行うようにできる。又、利用者が現在の環境温度Ta及び環境湿度Maに対する目標ペルチェ素子温度Tt(目標変温素子温度)が快適ではないと判断する場合において利用者が快適と認識するペルチェ素子温度Tpを新たな目標ペルチェ素子温度Tt(新目標変温素子温度)として更新する処理の一部又はすべてをクラウド40において行うようにできる。
【0238】
上述した実施形態に限らず、第1の実施形態に記載の構成の一部と第2の実施形態に記載の構成の一部と第3の実施形態に記載の構成の一部とを任意に組み合わせて新たな実施形態とするのみならず、第1の実施形態ないし第3の実施形態における各構成部と、[その他の実施形態]の(頸部冷暖部の変形例)、(伝熱媒体流路の変形例)、(熱交換部の変形例)、(変温素子の制御の変形例)、(変温素子の制御の別の変形例)に記載の各構成部とを任意に組み合わせて新たな実施形態とする実施形態も実施が可能である。