(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高次モードの音速をV2[m/s]、高音速膜の音速をVh[m/s]、弾性波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚をTh(=高音速膜厚/λ)としたときに、以下の各VhにおいてV2とThが以下の関係式を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
・Vh<4200の場合;
V2≧187.0×Th2−137.0×Th+3919.7
・4200≦Vh<4400の場合;
V2≧−115.0×Th2+515.0×Th+3796.4
・4400≦Vh<4600の場合;
V2≧−268.4×Th2+898.0×Th+3728.8
・4600≦Vh<4800の場合;
V2≧−352.8×Th2+1125.2×Th+3726.8
・4800≦Vh<5000の場合;
V2≧−568.7×Th2+1564.3×Th+3657.2
・5000≦Vh<5200の場合;
V2≧−434.2×Th2+1392.6×Th+3808.2
・5200≦Vh<5400の場合;
V2≧−576.5×Th2+1717.1×Th+3748.3
・5400≦Vh<5600の場合;
V2≧−602.9×Th2+1882.6×Th+3733.7
・5600≦Vh<5800の場合;
V2≧−576.9×Th2+2066.9×Th+3703.7
・5800≦Vh<6000の場合;
V2≧−627.0×Th2+2256.1×Th+3705.7
高次モードの音速をV2[m/s]、高音速膜の音速をVh[m/s]、弾性波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚をTh(=高音速膜厚/λ)としたときに、以下の各VhにおいてV2とThが以下の関係式を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
・Vh<4200の場合;
V2≧197.8×Th2−158.0×Th+4128.5
・4200≦Vh<4400の場合;
V2≧−119.5×Th2+523.8×Th+3992.7
・4400≦Vh<4600の場合;
V2≧−274.0×Th2+908.9×Th+3924.2
・4600≦Vh<4800の場合;
V2≧−372.3×Th2+1162.9×Th+3910.9
・4800≦Vh<5000の場合;
V2≧−573.4×Th2+1573.9×Th+3852.8
・5000≦Vh<5200の場合;
V2≧−443.7×Th2+1411.0×Th+4000.5
・5200≦Vh<5400の場合;
V2≧−557.0×Th2+1679.2×Th+3964.2
・5400≦Vh<5600の場合;
V2≧−581.0×Th2+1840.1×Th+3951.6
・5600≦Vh<5800の場合;
V2≧−570.7×Th2+2054.7×Th+3908.8
・5800≦Vh<6000の場合;
V2≧−731.1×Th2+2408.0×Th+3857.0
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発は明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0026】
(第1の実施形態)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態としての弾性表面波デバイスの模式正面断面図である。
【0027】
弾性表面波デバイス1は、支持基板2を有する。支持基板2の上面2aに、音速が相対的に高い高音速膜3が積層されている。高音速膜3上に、音速が相対的に低い低音速膜4が積層されている。また、低音速膜4上に圧電膜5が積層されている。この圧電膜5の上面にIDT電極6が積層されている。なお、IDT電極6は圧電膜5の下面に積層されていてもよい。
【0028】
上記支持基板2は、高音速膜3、低音速膜4、圧電膜5及びIDT電極6を有する積層構造を支持し得る限り、適宜の材料により構成することができる。このような材料としては、圧電体、誘電体または半導体等を用いることができる。本実施形態では、支持基板2は、ガラスからなる。
【0029】
上記支持基板2の上面2aは、粗面である。上面2aが粗面であることによる作用等の詳細については、
図21を参照して後述する。
【0030】
上記高音速膜3は、弾性表面波を圧電膜5及び低音速膜4が積層されている部分に閉じ込めるように機能する。本実施形態では、高音速膜3は、窒化アルミニウムからなる。もっとも、上記弾性波を閉じ込め得る限り、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素またはダイヤモンド等のさまざまな高音速材料を用いることができる。
【0031】
上記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとする。本実施形態では、高音速膜を含み、高音速膜より上方の構造部分において、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー集中度は99.9%以上であり、かつ、スプリアスとなる高次モードのエネルギー集中度は99.5%以下とされている。すなわち、利用する弾性波であるメインモードが高音速膜よりも上方の構造部分に確実に閉じ込められる。他方、スプリアスとなる高次モードは支持基板側に漏洩する。それによって、後述するように、利用する弾性波すなわちメインモードのエネルギーを、圧電膜5及び低音速膜4が積層されている部分に閉じ込めることができ、かつスプリアスとなる高次モードを高音速膜3の支持基板2側に漏洩させることが可能とされている。
【0032】
なお、本明細書において、高音速膜とは、圧電膜5を伝搬する弾性波よりも、該高音速膜中のバルク波の音速が高速となる膜を言うものとする。また、低音速膜とは、圧電膜5を伝搬するバルク波よりも、該低音速膜中のバルク波の音速が低速となる膜を言うものとする。上記バルク波の音速を決定するバルク波のモードは、圧電膜5を伝搬する弾性波の使用モードに応じて定義される。高音速膜3及び低音速膜4がバルク波の伝搬方向に関し等方性の場合には、下記の表1に示すようになる。すなわち、下記の表1の左軸の弾性波の主モードに対し下記の表1の右軸のバルク波のモードにより、上記高音速及び低音速を決定する。P波は縦波であり、S波は横波である。
【0033】
なお、下記の表1において、U1はP波を主成分とし、U2はSH波を主成分とし、U3はSV波を主成分とする弾性波を意味する。
【0035】
上記低音速膜4及び高音速膜3がバルク波の伝搬性において異方性である場合には下記の表2に示すように高音速及び低音速を決定するバルク波のモードが決まる。なお、バルク波のモードのうち、SH波とSV波のより遅い方が遅い横波と呼ばれ、速い方が速い横波と呼ばれる。どちらが遅い横波になるかは、材料の異方性により異なる。回転Yカット付近のLiTaO
3やLiNbO
3では、バルク波のうちSV波が遅い横波、SH波が速い横波となる。
【0037】
上記低音速膜4を構成する材料としては圧電膜5を伝搬するバルク波よりも低音速のバルク波音速を有する適宜の材料を用いることができる。このような材料としては、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、また、酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素を加えた化合物などを用いることができる。
【0038】
上記低音速膜及び高音速膜は、上記のように決定される高音速及び低音速を実現し得る適宜の誘電体材料からなる。
【0039】
圧電膜5は、適宜の圧電材料により形成することができるが、好ましくは、圧電単結晶からなる。圧電単結晶を用いた場合、オイラー角を選択することにより様々な特性の弾性波デバイスを容易に提供し得る。より好ましくは、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶が用いられ、その場合には、オイラー角を選択することにより弾性表面波デバイス1の共振特性やフィルタ特性をより一層高めることができる。
【0040】
IDT電極6は、本実施形態では、Alからなる。もっとも、IDT電極6は、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、Wまたはこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。また、IDT電極6は、これらの金属もしくは合金からなる複数の金属膜を積層した構造を有していてもよい。
【0041】
図1(a)では略図的に示しているが、圧電膜5上に、
図1(b)に示す電極構造が形成されている。すなわち、IDT電極6と、IDT電極6の弾性表面波電極方向両側に配置された反射器7,8が形成されている。それによって、1ポート型弾性表面波共振子が構成されている。もっとも、本発明におけるIDT電極を含む電極構造は特に限定されず、適宜の共振子や共振子を組み合わせたラダーフィルタ、縦結合フィルタ、ラチス型フィルタ、トランスバーサル型フィルタを構成するように変形し得る。
【0042】
本実施形態の弾性波表面波デバイス1の特徴は、上記高音速膜3、低音速膜4及び圧電膜5が上記のように積層されており、かつ、高音速膜を含み、高音速膜より上方の構造部分において、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー集中度は99.9%以上であり、かつ、スプリアスとなる高次モードのエネルギー集中度は99.5%以下とされていることにある。それによって、利用する弾性波すなわちメインモードを効果的に閉じ込め、かつ高次モードスプリアスを効果的に抑制し得る。これを、以下において説明する。
【0043】
従来、圧電基板の下面に高音速膜を配置することにより、弾性波の一部が高音速膜中にエネルギーを分布させながら伝搬するため、弾性波の高音速化を図り得ることが知られている。
【0044】
これに対して、本願発明では、上記高音速膜3と、圧電膜5との間に上記低音速膜4が配置されているため、弾性波の音速が低下する。弾性波は本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中する。従って、圧電膜5内及び弾性波が励振されているIDT内への弾性波エネルギーの閉じ込め効果を高めることができる。そのため、低音速膜4が設けられていない場合に比べて、本実施形態によれば、損失を低減し、Q値を高めることができる。なお、高音速膜3と圧電膜5との間に低音速膜4が配置されているため、高音速膜上に圧電膜を形成した構造に比べ、弾性波の音速は低下する。しかしながら、本願発明の構造においては、圧電膜および低音速膜を適切に選択することにより、圧電膜単体よりも高音速化が可能となる。すなわち、本願発明の構造においても高周波化は可能である。
【0045】
さらに、本実施形態では、高音速膜を含み、高音速膜より上方の構造部分において、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー集中度は99.9%以上であり、かつ、スプリアスとなる高次モードのエネルギー集中度は99.5%以下であるため、高音速膜3までの部分に弾性波のエネルギーを閉じ込めるとともに、高次モードを高音速膜3の支持基板2側に漏洩させることができる。これを、
図2〜
図8を参照して説明する。
【0046】
図2〜
図5は、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー分布を示す図であり、
図6〜8は、高次モードのエネルギー分布を示す図である。なお、
図2〜
図8の結果は、以下の弾性表面波デバイス1を前提とした有限要素法により得られた結果である。上から順に、IDT電極6:Al電極、厚み0.08λ/圧電膜5:YカットLiTaO
3のLiTaO
3単結晶膜、厚み0.25λ/低音速膜4:酸化ケイ素膜、厚み0.34λ/高音速膜3:窒化アルミニウム膜、厚み0.1λ〜3.0λの間で変化させた/支持基板2:ガラス基板。
【0047】
図2〜
図5及び
図6〜
図8において、図の縦方向は弾性表面波デバイス1の厚み方向である。破線Aが高音速膜3の上面の位置を、破線Bが高音速膜3の下面の位置を示す。
【0048】
図2、
図3、
図4及び
図5は、高音速膜3を構成している窒化アルミニウム膜の膜厚を、それぞれ、0.2λ、0.5λ、1.0λ、3.0λとした場合のメインモードである弾性波のエネルギー分布を示す。ここで利用している弾性波は、
図2〜
図5におけるU2成分、すなわちSH波である。
【0049】
図2から明らかなように、窒化アルミニウム膜からなる高音速膜3の膜厚が0.2λである場合、利用するメインモードであるU2成分が高音速膜3の下面よりも下方に漏洩していることがわかる。これに対して、
図3〜
図5に示すように、高音速膜3を構成している窒化アルミニウム膜の膜厚が0.5λ以上の場合には、高音速膜3の下面よりも上方にU2成分すなわちSH波のエネルギーが良好に閉じ込められていることがわかる。従って、高音速膜3の膜厚を0.5λ以上とすることによりメインモードすなわち使用する弾性波のエネルギーを効果的に閉じ込め得ることがわかる。ここで、メインモードのエネルギーは99.9%以上閉じ込められている。すなわち、メインモードのエネルギー集中度は99.9%以上である。
【0050】
他方、
図6、
図7及び
図8は、窒化アルミニウム膜からなる高音速膜3の膜厚をそれぞれ、0.5λ、1.0λ及び2.0λとしたときの高次モードのエネルギー分布を示す。ここでは、高次モードのU2成分+U3成分がスプリアスとして問題となる。
図8に示されているように、窒化アルミニウム膜の膜厚が2.0λの場合には、U2成分及びU3成分が高音速膜3よりも上方に大きなエネルギーで分布していることがわかる。これに対して、窒化アルミニウム膜の膜厚が1.0λ以下である
図6及び
図7の場合には、高次モードの高音速膜3上方へのエネルギー集中度はメインモードに比べて低くなっており、U2成分及びU3成分が高音速膜3の支持基板2側にかなり漏洩していることがわかる。
【0051】
従って、利用する弾性波であるメインモードのエネルギー集中度は99.9%以上であり、かつ、スプリアスとなる高次モードのエネルギー集中度は99.5%以下であるようにするために、窒化アルミニウム膜の膜厚を0.5λ〜1.0λの範囲とすれば、メインモードのエネルギーを閉じ込めつつ、高次モードを高音速膜3から支持基板2側に漏洩させることができる。従って、メインモードすなわち弾性表面波による良好な特性を得ることができ、かつ高次モードによる帯域外のスプリアスを効果的に抑制し得ることがわかる。
【0052】
ところで、弾性波エネルギーの支持基板2側への漏洩の有無を判定する指標の一つとして、エネルギー集中度が知られている。
図9は、高音速膜3の膜厚を変化させた場合のメインモードと高次モードのエネルギー集中度を示す図である。
【0053】
図9の縦軸は、メインモード及び高次モードの各エネルギー集中度(%)を示す。ここで、エネルギー集中度とは、IDT電極6/圧電膜5/低音速膜4/高音速膜3の積層構造内に閉じ籠もっているモードのエネルギーの、該モードの全エネルギーに対する割合を示す。このエネルギー集中度が100%であれば、支持基板2側にエネルギーが漏洩していないことを意味する。100%より低い場合には、集中度低下分は、支持基板2側に漏洩しているエネルギーの割合を意味することとなる。エネルギー集中度の計算方法としては、
図2〜
図8に示したエネルギー分布を所望の深さ(高音速膜3の下層)まで積分したエネルギーをE1、全エネルギーをE_totalとしたときに、エネルギー集中度(%)=(E1/E_total×100)で計算される。
【0054】
図9から明らかなように、高音速膜の膜厚を、0.5λ以上とすれば、メインモードのエネルギー集中度はほぼ100%となる。従って、メインモードを効果的に閉じ込め得ることがわかる。また、高音速膜3の膜厚を1.2λ以下とすることにより、高次モードを漏洩させ得ることがわかる。
【0055】
従って
図9から明らかなように、高音速膜3の膜厚は、0.5λ以上、1.2λ以下であることが必要であることがわかる。
【0056】
なお、高次モードを漏洩させ、スプリアスを抑圧するには、高次モードのエネルギー集中度を99.5%以下、より好ましくは98%以下とすることが望ましい。従って、1.2λ以下の膜厚であれば、高次モードのエネルギー集中度を100%未満とすることができるため、上記のように高次モードを支持基板側に漏洩させることができる。もっとも、
より好ましくは、高音速膜3の膜厚を1.0λ以下とすることにより、高次モードの上記
エネルギー集中度を99.5%以下とすることができ、膜厚を0.8λ以下とすることに
より高次モードのエネルギー集中度を98%以下とすることができる。従って、高音速膜
3の膜厚の上限は、1.0λ以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8λ以下と
することが望ましい。
【0057】
なお、
図2〜
図9に示す結果は、圧電膜5がLiTaO
3単結晶、低音速膜4が酸化ケイ素、高音速膜3が窒化アルミニウム膜の場合についての評価結果である。しかしながら、本発明においては、圧電膜5、低音速膜4及び高音速膜3を他の材料で構成した場合においても、
図2〜
図9と同様の結果が得られることが確かめられている。
【0058】
図17は、Al電極膜厚を0.08λ、YカットLTの厚みを0.01λ〜0.05λ、低音速膜厚を0.05λ〜2.00λ、高音速膜の音速を4200m/秒としたときのメインモードの音速とエネルギー集中度と、高速膜厚の膜厚との関係を示す図である。メインモードのエネルギーは、メインモードの音速が速くなると、より漏洩しやすくなり、また、高音速膜の膜厚が薄くなると漏洩しやすくなることが分かる。ここで、メインモードのエネルギー集中度が99.99%となる場合の、高音速膜厚とメインモードの音速の関係をプロットした。これを
図18に示す。なお、メインモードの音速とは、反共振周波数における音速のことを意味する。
【0059】
この
図18において、メインモードの音速が、プロットされている値より遅くなるようにすれば、メインモードのエネルギー集中度は99.99%を満足する。ここで、
図18におけるプロットの結果からメインモードの音速をy、高音速膜の膜厚をxとして近似すると、
図19に示すように、y=125.9x
2−102.0x+3715.0が得られる。ただし、R
2=1.0である。すなわち、メインモードの反共振周波数における音速をV1[m/s]、弾性表面波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚をTh(=高音速膜厚/λ)としたとき、次の関係式を満足するようにすればよい。
【0060】
V1≦125.9×Th
2−102.0×Th+3715.0・・・(1)
【0061】
同様にして、高音速膜の音速Vh[m/s]を場合分けして、それぞれの高音速膜の音速Vhにおける、メインモードの反共振周波数における音速V1と、弾性表面波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚Thとの関係を算出した。結果を以下に示す。
【0062】
・4400≦Vh<4600の場合;
V1≦296.3×Th
2−253.0×Th+3742.2
・4600≦Vh<4800の場合;
V1≦506.1×Th
2−391.5×Th+3759.2
・4800≦Vh<5000の場合;
V1≦768.0×Th
2−552.4×Th+3776.8
・5000≦Vh<5200の場合;
V1≦848.5×Th
2−541.6×Th+3767.8
・5200≦Vh<5400の場合;
V1≦1065.2×Th
2−709.4×Th+3792.8
・5400≦Vh<5600の場合;
V1≦1197.1×Th
2−695.0×Th+3779.8
・5600≦Vh<5800の場合;
V1≦1393.8×Th
2−843.8×Th+3801.5
・5800≦Vh<6000の場合;
V1≦1713.7×Th
2−1193.3×Th+3896.1
・6000≦Vhの場合;
V1≦1839.9×Th
2−1028.7×Th+3814.1
【0063】
図10は、高音速膜の膜厚と、利用する弾性波すなわちメインモードの音速と、利用する高音速膜の音速との関係を有限要素法により求めた結果を示す図である。ちなみに、
図10における、高音速膜の音速が4200m/秒であるときの関係が、前述の式(1)である。以下、同様にして、各高音速膜の音速における、高音速膜厚とメインモードの音速の関係を算出したものを示したものが
図10となっている。なお前提とした構造は以下の通りである。
【0064】
上から順に、IDT電極6:Al電極、膜厚は0.08λ/圧電膜5:YカットLiTaO
3単結晶、膜厚は0.01λ〜0.50λ/低音速膜4:酸化ケイ素膜、膜厚は0.05λ〜2.00λ/高音速膜3:音速が4200m/秒〜6000m/秒の各種高音速膜、膜厚は1.6λ未満/支持基板2:ガラス基板。
【0065】
なお、高音速膜の音速は、高音速膜を構成する材料を種々異ならせることにより変化させることができるが、
図10では、4200m/秒〜6000m/秒の範囲の複数種の高音速膜についての結果を示した。
【0066】
図10のメインモードの音速とは、高音速膜の音速が4200m/秒〜6000m/秒のいずれかの場合のメインモードの支持基板2側への漏洩が始まるときのメインモードの音速を示す。
図10に示した各曲線よりもメインモードの音速が遅くなれば、メインモードを高音速膜3よりも上方に完全に閉じ込めることができる。従って、良好なデバイス特性を得ることができる。このようなメインモードの音速のコントロールは、IDT電極6、圧電膜5、低音速膜4の各膜厚及び材料を選択することにより実現することができる。一例として、下記の第1の構造例の弾性表面波デバイスを構成した場合、メインモードの音速は3800m/秒程度となる。
【0067】
(第1の構造例)
IDT電極6:Al膜、厚み0.08λ/圧電膜5:YカットLiTaO
3単結晶、厚み0.25λ/低音速膜4:SiO
2、厚み0.35λ/高音速膜3:窒化アルミニウム膜、音速5800m/秒。
【0068】
また、
図11は、高音速膜の音速が5800m/秒である場合の高音速膜の膜厚と、メインモードの音速との関係を示す図である。
図11の曲線は、高音速膜の音速が5800m/秒の場合のメインモードが漏洩を開始する音速を示す。この曲線よりも上方では、メインモードが漏洩し、良好な弾性波特性を得ることができない。他方、上記メインモードの音速が3800m/秒の場合には、
図11の破線Dで示す位置にメインモードの音速が位置する。従って、この場合、高音速膜の膜厚は0.6λ以上とすべきことがわかる。
【0069】
上記の第1の構造例から明らかなように、高音速膜3の音速、高音速膜3の膜厚及びメインモードの音速を制御することにより、メインモードをより一層完全に効果的に閉じ込めることができる。
【0070】
なお、
図10及び
図11においても、IDT電極6をAlで構成し、圧電膜5がLiTaO
3、低音速膜4が酸化ケイ素により構成されていたが、他の材料を用いた場合においても同様の関係が成立することが本願発明者らにより確かめられている。すなわち、他の構造、材料を用いた場合にも
図10を参照することにより最適膜厚を設定することができる。
【0071】
次に、高次モードのエネルギーを支持基板2側へ漏洩させるための条件を検討した。前提とした構造は以下の第2の構造例の通りである。
【0072】
(第2の構造例)
IDT電極6:Al膜、膜厚は変化させた/圧電膜5:YカットLiTaO
3単結晶、膜厚は0.01λ〜0.50λ/低音速膜4:酸化ケイ素、膜厚は0.05λ〜2.00λ/高音速膜3:音速が4200m/秒〜6000m/秒の各種高音速膜、膜厚は1.6λ以下/支持基板2:ガラス基板。
【0073】
ここで、
図10を導いた場合と同様にして、高次モードのエネルギー集中度と高音速膜厚と、高次モードの音速の関係をプロットした。これを
図20に示す。この
図20の結果を用い、高次モードのエネルギー集中度が99.5%以下を満足するように、この関係を設定し、
図19と同様にして、関係式を算出した。そして、高音速膜の音速Vh[m/s]を場合分けして、それぞれの高音速膜の音速Vhにおける、高次モードの音速V2と、弾性表面波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚Thとの関係を算出した。結果を以下に示す。
【0074】
・Vh<4200の場合;
V2≧187.0×Th
2−137.0×Th+3919.7
・4200≦Vh<4400の場合;
V2≧−115.0×Th
2+515.0×Th+3796.4
・4400≦Vh<4600の場合;
V2≧−268.4×Th
2+898.0×Th+3728.8
・4600≦Vh<4800の場合;
V2≧−352.8×Th
2+1125.2×Th+3726.8
・4800≦Vh<5000の場合;
V2≧−568.7×Th
2+1564.3×Th+3657.2
・5000≦Vh<5200の場合;
V2≧−434.2×Th
2+1392.6×Th+3808.2
・5200≦Vh<5400の場合;
V2≧−576.5×Th
2+1717.1×Th+3748.3
・5400≦Vh<5600の場合;
V2≧−602.9×Th
2+1882.6×Th+3733.7
・5600≦Vh<5800の場合;
V2≧−576.9×Th
2+2066.9×Th+3703.7
・5800≦Vh<6000の場合;
V2≧−627.0×Th
2+2256.1×Th+3705.7
【0075】
図12は、高音速膜の膜厚と、高次モードの音速と、高音速膜の音速との関係を示す。
図12における、各高音速膜の音速であるときの関係が、上述の関係式である。すなわち、
図12の各曲線は、高音速膜の音速が4200m/秒〜6000m/秒の範囲のいずれかの場合に、高次モードが支持基板2側へ漏洩が始まるときの高次モードの音速を示す。
図12に示されている曲線よりも高次モードの音速が速くなると、高次モードが支持基板2側へ漏洩することとなる。それによって、高次モードを高音速膜3よりも下方に漏洩させることができ、スプリアスを抑制することができる。このような高次モードの音速のコントロールは、IDT電極6、圧電膜5、低音速膜4の膜厚及び材料をコントロールすることにより達成し得る。一例として、以下の構造の弾性表面波デバイスを挙げる。この場合に、メインモードの音速は3800m/秒となり、高次モードの音速は5240m/秒となる。
【0076】
高音速膜3の音速が5800m/秒の場合のメインモード及び高次モードの漏洩が開始する音速を
図13に示す。
図13は、高音速膜の膜厚と、メインモード及び高次モードの音速との関係を示し、すなわちメインモード及び高次モードが漏洩を開始する際の音速を示す。
【0077】
図13から明らかなように、高音速膜の膜厚が0.6λ以上であれば、メインモードの音速が3800m/秒である場合、メインモードを効果的に閉じ込めることができる。他方、高次モードの影響を抑制するには、高音速膜の膜厚を1.05λ以下とすればよいことがわかる。第2の構造例においても、他の構造、材料を用いた場合にも
図12を参照することにより最適膜厚を設定することが可能となる。
【0078】
図14は
図12に相当する図である。すなわち、
図12の結果を得るのに用いた第2の構造例を前提とし、高次モードが支持基板2側へ漏洩し始める際の高次モードの音速と、高音速膜の膜厚と、高音速膜の音速との関係を示す。ただし、ここでは、支持基板2側へ高次モードが2.0%以上漏洩する時点での高次モードの音速を縦軸とした。従って、
図12の場合に比べ、
図14に示した結果では、高次モードがより一層支持基板2側へ漏洩することとなる。すなわち、
図14に示す各曲線よりも高次モードの音速を速めるように高音速膜3の膜厚を設定すれば、高次モードを支持基板2側へ効果的に漏洩させることができる。
【0079】
また、
図14の導出は、
図10および
図12を導いた場合と同様にして行った。
図20を参照し、かつ高次モードのエネルギー集中度が98%以下を満足するように、この関係を設定し、
図19と同様にして、関係式を算出した。そして、高音速膜の音速Vh[m/s]を場合分けして、それぞれの高音速膜の音速Vhにおける、高次モードの音速V2と、弾性表面波の波長λ[m]で規格化された高音速膜の膜厚Thとの関係を算出した。結果を以下に示す。
【0080】
・Vh<4200の場合;
V2≧197.8×Th
2−158.0×Th+4128.5
・4200≦Vh<4400の場合;
V2≧−119.5×Th
2+523.8×Th+3992.7
・4400≦Vh<4600の場合;
V2≧−274.0×Th
2+908.9×Th+3924.2
・4600≦Vh<4800の場合;
V2≧−372.3×Th
2+1162.9×Th+3910.9
・4800≦Vh<5000の場合;
V2≧−573.4×Th
2+1573.9×Th+3852.8
・5000≦Vh<5200の場合;
V2≧−443.7×Th
2+1411.0×Th+4000.5
・5200≦Vh<5400の場合;
V2≧−557.0×Th
2+1679.2×Th+3964.2
・5400≦Vh<5600の場合;
V2≧−581.0×Th
2+1840.1×Th+3951.6
・5600≦Vh<5800の場合;
V2≧−570.7×Th
2+2054.7×Th+3908.8
・5800≦Vh<6000の場合;
V2≧−731.1×Th
2+2408.0×Th+3857.0
【0081】
図14において、高音速膜の音速が5800m/秒の場合について、高音速膜の膜厚とメインモード及び高次モードの音速との関係を
図15に示す。
図15の実線がメインモード、破線が高次モードが漏洩を開始する音速を示す。
図15から明らかなように、高音速膜の膜厚を0.6λ以上とすることによりメインモードを効果的に閉じ込めることができる。また、0.85λ以下とすることにより、高次モードを充分に漏洩させることができる。従って、好ましくは、高音速膜の膜厚は0.6λ〜0.85λの範囲とすることが望ましい。また、他の構造や材料を用いた場合にも
図14を参照することにより最適膜厚を設定することができる。これにより、
図12の条件よりも、高次モードの影響をより一層抑制することができる。
【0082】
なお、
図15は高音速膜の音速が5800m/秒の場合につき説明したが、高音速膜の音速が他の場合の値においても同様であることが本願発明者により確かめられている。
【0083】
図1に示した弾性表面波デバイス1では、好ましくは、支持基板2の音速が、遅いことが望ましい。それによって、より多くの高次モードのエネルギーを支持基板2側へ漏洩させることができる。従って、好ましくは、支持基板2の音速は、高音速膜3の音速よりも遅いことが望ましい。
【0084】
図1に示した弾性表面波デバイス1では、支持基板2の上面2aが粗面であることにより、上記支持基板2の粗面に到達したバルク波は粗面の凹凸により散乱する。よって、上記支持基板上面2aが平滑である場合と比較して、より一層高次モードの影響を抑制することができる。
【0085】
図21は、支持基板の表面粗さRaと位相maxとの関係を示す図である。なお、本明細書における表面粗さRaは、JIS B 0601において定義されている値である。
図21において、位相maxが大きい程、高次モードの強度は大きい。
【0086】
図21に示すように、支持基板の表面粗さRaが1nm以上であると高次モードの強度を小さくできる。
【0087】
従って、支持基板の表面粗さRaは、好ましくは1nm以上であることが望ましい。
【0088】
支持基板の表面粗さRaが25nm以上においては、支持基板の表面粗さRaの変化に対し、高次モードの強度の変動は小さい。よって、支持基板の表面粗さRaがばらついたとしても、高次モードの強度が変動し難い。
【0089】
従って、支持基板の表面粗さRaは、より好ましくは25nm以上であることが望ましい。
【0090】
支持基板の表面粗さRaが80nmよりも大きい場合、粗面の凹凸を吸収するために、支持基板と接する層の厚みを大きくする必要があり、かつ平坦化の追加工程が必要となる。
【0091】
従って、支持基板の表面粗さRaは、さらにより好ましくは25nm以上、80nm以下であることが望ましい。
【0092】
上記第1の実施形態では、支持基板2としてガラス基板を用いたが、ガラスに代えてアルミナを用いてもよい。
【0093】
また、支持基板として、高抵抗なシリコンを用いてもよい。この場合、基板との容量結合を小さくすることができ、弾性表面波デバイスの挿入損失が改善されるため、シリコン支持基板の抵抗率は100Ωcm以上であることが好ましい。さらには、シリコン支持基板の抵抗率が1000Ωcm以上であれば、デバイスとしてアルミナやガラスと同等の挿入損失を得ながら、加工性が向上するので、製造プロセスの自由度が増して、より好ましい。さらには、抵抗率が4000Ωcmであれば、弾性表面波デバイスのフィルタ特性をより改善できるため、より好ましい。
【0094】
(第2の実施形態)
図16は、本発明の第2の実施形態としての弾性表面波デバイスの模式正面断面図である。
【0095】
図16に示すように、高音速膜3と支持基板2との間に媒質層9を積層してもよい。媒質層9としては、上記低音速膜4と同様の材料を用いることができる。本実施形態では、媒質層9は酸化ケイ素からなる。酸化ケイ素を用いた場合には、周波数温度係数TCFの絶対値を低め、温度特性を改善することもできる。
【0096】
上記媒質層9を配置した場合、上記媒質層9は上記圧電膜5を伝搬するバルク波音速よりも上記媒質層9を伝搬するバルク波音速は低速である第2の低音速膜となる。このため、上記媒質層9に高音速膜3側から高次モードを効果的に漏洩させることができる。従って、アルミナのように高音速の支持基板材料を用いて支持基板2を構成した場合であっても、高次モードを高音速膜3より下方に漏洩させることができる。従って、上記媒質層9を用いた場合には、支持基板2を構成する材料の選択の自由度を高めることができる。
【0097】
LiTaO
3単結晶やLiNbO
3単結晶などを用いた場合には、イオン注入及びイオン注入部分からの剥離法を用いるプロセスにより、厚みの薄い圧電薄膜を容易に得ることができる。
【0098】
(第3及び第4の実施形態)
上述してきた各実施形態では弾性表面波デバイスにつき説明したが、本発明は、弾性境界波デバイスなどの他の弾性波デバイスにも適用することができ、その場合であっても同様の効果を得ることができる。
図22は、第3の実施形態としての弾性境界波デバイス43を示す模式的正面断面図である。ここでは、圧電膜5の下方に、上から順に低音速膜4/高音速膜3/支持基板2が積層されている。この構造は、第1の実施形態と同様である。そして、弾性境界波を励振するために、圧電膜5と圧電膜5上に積層された誘電体44との界面にIDT電極6が形成されている。
【0099】
また、
図23は、第4の実施形態としてのいわゆる三媒質構造の弾性境界波デバイス45の模式的正面断面図である。ここでも、圧電膜5の下方に低音速膜4/高音速膜3/支持基板2が積層されている構造に対し、圧電膜5と誘電体46との界面にIDT電極6が形成されている。さらに、誘電体46上に誘電体46よりも横波音速が速い誘電体47が積層されている。それによって、いわゆる三媒質構造の弾性境界波デバイスが構成されている。
【0100】
弾性境界波デバイス43,45のように、弾性境界波デバイスにおいても、第1の実施形態の弾性表面波デバイス1と同様に、圧電膜5の下方に、低音速膜4/高音速膜3からなる積層構造を積層することにより、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。