特許第6248607号(P6248607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6248607電線の劣化判定方法、電線の劣化判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248607
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】電線の劣化判定方法、電線の劣化判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   G01N23/223
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-261334(P2013-261334)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-118002(P2015-118002A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大原 久征
(72)【発明者】
【氏名】中村 剛裕
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−24803(JP,A)
【文献】 特開2005−181188(JP,A)
【文献】 特開平6−331576(JP,A)
【文献】 特開平9−45137(JP,A)
【文献】 米国特許第4659437(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の劣化判定方法であって、
前記電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する第1工程と、
主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データと、前記第1工程で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とに基づいて、前記電線の劣化度合いを判定する第2工程と、
を備える電線の劣化判定方法。
【請求項2】
前記第2工程は、
前記第1工程で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データとに基づいて、
表面における亜鉛元素の含有量の減少又は鉄元素の含有量の増加に伴って引張強度が減少する第1劣化状態から、表面における亜鉛元素の含有量の減少又は鉄元素の含有量の増加に伴って引張強度が減少する度合が前記第1劣化状態よりも大きい第2劣化状態に至っているかを判定する工程である
ことを特徴とする請求項1に記載の電線の劣化判定方法。
【請求項3】
前記電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量は、測定した箇所の表面を構成する元素のうち、亜鉛元素又は鉄元素が占める割合である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電線の劣化判定方法。
【請求項4】
前記主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線は、亜鉛めっき鋼より線である
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の電線の劣化判定方法。
【請求項5】
前記第1工程は、蛍光X線分析により行う
ことを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の電線の劣化判定方法。
【請求項6】
主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の劣化判定装置であって、
前記電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する測定部と、
主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データと、前記測定部で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とに基づいて、前記電線の劣化度合いを判定可能に提示する提示部と、
を備える電線の劣化判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の劣化判定方法、電線の劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電線で用いられる亜鉛めっき鋼より線等、主成分として鉄を含有する材料は、鉄が腐食しやすいため、腐食防止膜として亜鉛めっきをして一般的に用いられる。しかし、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきを行っても、劣化すると、表面の亜鉛めっきが剥がれ、素地の鉄が発錆・減肉し、断線に至ることから、定期的に保守点検を行っている。
【0003】
上記の保守点検は、双眼鏡等により目視で、電線に生じた発錆の有無を確認しており、断線に直結する錆の進行状況についても、発錆の色から目視で判断している状況である。また、他の保守点検の方法として、X線を用いて電線の透視画像を撮影する方法(特許文献1参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−181188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、双眼鏡等により目視で発錆の進行状況を判断する場合、亜鉛めっき鋼より線等の主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線は、茶褐色の錆が生じてからもしばらくの間は内部腐食が進行せず、電線としては使用することが可能であり、断線直前の錆の状態と判別することは、熟練者でなければ困難である。
【0006】
また、X線を用いた透視画像を撮影する方法の場合、最終的には透視画像をもとに目視で判断せざるを得ない。加えて、透視画像で判断する場合、実際に内部腐食に至らなければ、錆の進行状況を判断することができず、判断が遅れ、断線に至る場合もある。
【0007】
そこで、本発明は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の断線を防止するため、その劣化状況を定量的に測定する方法及び装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する主たる本発明は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の劣化判定方法であって、前記電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する第1工程と、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データと、前記第1工程で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とに基づいて、前記電線の劣化度合いを判定する第2工程と、を備える電線の劣化判定方法である。
【0009】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、点検者の熟練度等に依存しない、電線の劣化度合いの定量的判断が可能となる。また、内部腐食の進行する前に劣化状態を判断することが可能となるため、断線を確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における電線の保守点検方法を示す図である。
図2A】本発明の実施形態における測定装置の外観を示す図である。
図2B】本発明の実施形態における測定装置の外観を示す図である。
図3】本発明の実施形態における測定装置の内部構成を示す図である。
図4】本発明の実施形態における操作装置の内部構成を示す図である。
図5】蛍光X線分析の測定結果の一例を示す図である。
図6】蛍光X線分析の定量分析方法の一例を示す図である。
図7A】本発明の実施形態における電線の表面における鉄元素/亜鉛元素の含有率と引張強度の関係を示す図である。
図7B】本発明の実施形態における電線の表面における鉄元素/亜鉛元素の含有率と引張強度の関係を示す図である。
図8A】本発明の実施形態における電線の表面における鉄元素の含有率と引張強度の相関関係を示す図である。
図8B】本発明の実施形態における電線の表面における亜鉛元素の含有率と引張強度の相関関係を示す図である。
図9】本発明の実施形態における劣化判定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0013】
本発明は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線について、表面で測定される亜鉛元素の含有量がある一定値以下(鉄元素の含有量がある一定値以上)となると、その劣化状態が急速に進行するという現象の理解に基づくものである。そのため、予め主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料について、表面で測定される亜鉛元素又は鉄元素の含有量に応じた、劣化度合いの判断基準となる引張強度を基準データとして取得しておく。そして、保守点検の測定時には、測定された亜鉛元素又は鉄元素の含有量と当該基準データとを比較することによって、電線の劣化度合いを判断する方法を採用するものである。
【0014】
===劣化判定装置について===
以下、図1図5を参照して、本実施形態における劣化判定装置について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態における電線の劣化判定装置を用いて保守点検を行っている様子を示す図である。本実施形態の劣化判定装置は、測定装置100と操作装置200とから構成され、使用者が電線300の測定したい箇所に測定装置100を引っかけて固定し、操作装置200に指示することで、測定を行うものである。
【0016】
図2Aは、測定装置100を正面から見た外観を示す図であり、図2Bは、測定装置100を側面から見た外観を示す図である。測定装置100は、蛍光X線分析(XRF)を行って、電線300の測定箇所の表面を構成する元素の含有量を測定する装置である。これより、測定装置100は、X線の照射を行う照射部、及び蛍光X線の検知を行う検知器等から構成される測定部100Aを有している。また、測定装置100は、測定竿100Bの先端に装着されており、使用者が測定竿100Bを持つことにより、測定装置100を任意の測定箇所に設置させることができる。そして、測定装置100は、電線300の長手方向に沿って嵌まる凹部形状を有し、当該凹部形状に電線300を引っかけることで、電線300の測定箇所に固定可能となっている。
【0017】
なお、図2Aの窓100Cは、X線を電線300に照射するための窓を表している。そして、蛍光X線分析を行うときは、測定部100Aの検知器が極力不純物な成分を検出しないように、窓100Cが電線と対向するように測定装置100を電線に固定した状態で測定を行う。そこで、測定装置100の凹部形状の表面には、図示しない緩衝部材を設け、測定装置100を電線300に固定する際の電線300から窓100Cへの衝突を吸収する構成となっている。
【0018】
図3に本実施形態の測定装置100の内部構成を示す。
【0019】
測定装置100は、制御部101、照射部102、検出器103、通信部104、記憶部105を有している。
【0020】
制御部101は、CPU等であり、バス等を介して、照射部102、検出器103、通信部104、記憶部105と接続されている。制御部101は、記憶部105に記憶されたコンピュータプログラムに基づいて、照射部102、検出器103、通信部104、記憶部105とデータ通信を行うとともに、それらの動作を制御する。照射部102は、X線源を備え、電線300の表面に対してX線を照射して、電線300の表面より蛍光X線を放出させる。検出器103は、電線300の表面から放出される蛍光X線を検出し、蛍光X線のエネルギーに比例した電気信号を計測してスペクトルを取得する。検出器103の検出素子としては、比例計数管や半導体検出器等を用いることができる。
【0021】
通信部104は、操作装置200とRS−232CやUSB等によるシリアル接続、SCSI等によるパラレル接続、有線や無線によるLAN接続等を利用して、操作指示や測定データ等の送受信を行う。記憶部105としては、揮発性メモリー(RAM)、不揮発性メモリー(フラッシュメモリー)等を採用してもよい。記憶部105には、測定装置100を制御するためのコンピュータプログラム、蛍光X線のエネルギーに基づいて試料中の測定する元素を特定するため元素データ、蛍光X線分析を行って取得した測定データ、測定条件の装置データ等が記憶されている。
【0022】
図4に本実施形態の操作装置200の内部構成を示す。
【0023】
操作装置200は、制御部201、入力部202、表示部203、通信部204、記憶部205を有している。
【0024】
制御部201は、CPU等であり、バス等を介して、入力部202、表示部203、通信部204、記憶部205と接続されている。制御部201は、記憶部205に記憶されたコンピュータプログラムに基づいて、入力部202、表示部203、通信部204、記憶部205とデータ通信を行うとともに、それらの動作を制御する。入力部202は、スイッチ、タッチパネル等であり、測定装置100に対する使用者の操作指示を受付ける。表示部203は、各種の情報を表示する液晶ディスプレイ等であり、測定結果等を表示する。通信部204は、測定装置100とRS−232CやUSB等によるシリアル接続、SCSI等によるパラレル接続、有線や無線によるLAN接続等を利用して、操作指示や測定結果等の送受信を行う。記憶部205としては、揮発性メモリー(RAM)、不揮発性メモリー(フラッシュメモリー)等を採用してもよい。記憶部205には、操作装置200を制御するためのコンピュータプログラム、測定装置100から受信した測定データ、蛍光X線のスペクトル強度と表面の含有率に関する検量線データ、基準となる試料における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度の関係を示す基準データ等が記憶されている。
【0025】
次に、劣化判定装置の動作を説明する。
【0026】
使用者が操作装置200の入力部202に対して、測定開始の指示を入力した場合、操作装置200の通信部204は、測定装置100に対して操作指示を送信する。
【0027】
測定装置100の制御部101は、通信部104を介して、操作指示を受信すると、電線300の測定箇所の表面を構成する元素の含有量の測定を開始する。具体的には、照射部102はX線を電線300へ照射し、検出器103は電線300の表面からの蛍光X線を検出する。そして、検出器103は、元素データと比較することによって元素を特定するとともに、検出量より蛍光X線のスペクトルを取得して、記憶部105に測定データとして記憶する。そして、測定装置100は通信部104より、当該測定データを操作装置200に送信する。
【0028】
操作装置200の制御部201は、当該測定データを受信するに応じて、所定の画像処理を行って、劣化判定結果に関する画面を表示部203に表示させる。
【0029】
ここで、操作装置200の制御部201は、測定データの亜鉛元素又は鉄元素の蛍光X線強度に対して、検量線データに基づいて定量分析を行って、電線300の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有率を算出する。このとき、操作装置200の制御部201は、当該亜鉛元素又は鉄元素の含有率と、以下に説明する基準データに基づいて、所定の画像処理を行って、測定された亜鉛元素又は鉄元素の含有率と基準データとを比較可能に表示部203に表示させる。
【0030】
これによって、使用者が電線300の劣化状況を判断できるようになっている。すなわち、本劣化判定装置によって電線の劣化状態を判定する際、目視によることなく、定量的に判断することが可能となる。
【0031】
図5に、蛍光X線分析によって得た、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の表面の測定結果の一例を示す。
【0032】
蛍光X線分析は、試料の表面にX線を照射することで空孔を生じさせ、外殻の電子が当該空孔に遷移する際に放出する蛍光X線を分析することで、測定箇所の表面を構成する元素組成を分析するものである。そして、このとき得られる蛍光X線スペクトルの強度を測定することにより、測定箇所の表面を構成する元素の含有量を定量的に測定することが可能である。図5では、亜鉛(Zn)のピークと、鉄(Fe)のピークが強く表れていることが分かる(元素記号末尾のKαは、K殻の空孔がL殻からの電子によって埋められて生じる蛍光X線を表す)。
【0033】
また、本実施形態で、元素の含有率を算出する際、検量線法を用いた。検量線法は、図6に示すように、表面を構成する元素に占める鉄元素等の含有率が既知の標準試料を用いて、元素含有率とスペクトル強度との関係線を作成しておくことで、未知試料を測定したときのスペクトル強度から当該未知試料の元素含有率を求めるものである。尚、定量分析は、検量線法に代えて、ファンダメンタルパラメータ法等、他の方法を用いてもよい。
【0034】
===劣化判定のための基準データついて===
本発明は、上述したとおり、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線について、表面に測定される亜鉛元素の含有量がある一定値以下(鉄元素の含有量がある一定値以上)となると、その劣化状態が急速に進行するという理解に基づくものである。そのため、予め主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面において測定される亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、引張強度の関係を示す基準データを取得しておく点に特徴がある。
【0035】
ここで、断線に直結する劣化度合い(内部腐食の進行度合い)を定量的に表すことは一般に困難であるため、引張強度を基準データとして採用している。尚、引張強度とは、材料に引張応力(荷重/断面積)を与えていったときに、材料が破断するときの応力を意味する。
【0036】
次に、基準データを取得する方法について説明する。
【0037】
以下は、本実施形態で取得した基準データの一例を示す。基準データの取得に用いる試料は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされたものであり、保守点検の対象となる電線と同一規格の亜鉛めっき鋼より線(JIS G3537 素線数/素線径:7/2.60、鋼より線計算断面積:37.2mm、引張強度:44kN)を用いた。また、当該試料の主成分として鉄を含有する材料及び亜鉛めっき膜は、保守点検の対象となる電線と同一の材料が用いられている。
【0038】
本実施形態では、蛍光X線分析の測定条件は、X線管:Moターゲット、測定時間:200sec、励起条件:40kV、1mA、測定視野:φ3mmで行った。また、本実施形態では、引張試験の試験条件は、引張速度:500mm/分、標線間距離:25mm、温度:23℃で行った。そして、表面を構成する鉄元素の含有率が3%、50%、78%、90%、95%となっている試料について、各3点を引張試験で測定し、それらの平均値を求めた。尚、表面を構成する鉄元素の含有率が3%、50%、78%、90%、95%となっている試料のいずれについても、各3点の引張強度は、平均値と大きくはずれた結果は見られなかった。
【0039】
図7A図7Bに、試料の鉄元素又は亜鉛元素の含有量と引張強度の測定結果を示す。試料A、試料B、試料Cは、上記試料のうち、表面を構成する鉄元素の含有率が3%、78%、95%の試料に対応し、順に電線が劣化した状態を示している。ここで、図中の色は試料を目視で観察した場合の色を意味し、元素含有率は、測定箇所を構成する元素のうち、亜鉛元素又は鉄元素の割合を意味する。図7Bは、当該試料A、試料B、試料Cを目視で確認したときの外観を示す写真である。
【0040】
尚、本実施形態では、電線の引張強度が、例えば20kNより下回ったとき、自重等による破断のおそれがあり、取り替えが必要と判断している。
【0041】
試料Aは、電線の劣化が小さいときを示し、電線の表面は亜鉛でほぼ完全に被覆された状態である。これより、電線の表面を構成する元素も、亜鉛元素の割合が高く、鉄元素の割合が低くなっている。鉄元素が測定されるのは、傷等により、亜鉛めっきが一部剥離しているためと考えられる。また、試料Aの表面が白色になっているのは、表面の亜鉛が酸化しているためである。このとき、引張強度は、初期状態(44kN)とほとんど変化はなく、電線は破断のおそれはないため、取替は不要である。
【0042】
試料Bは、電線の劣化が試料Aよりも進んだ状態を示す。試料Bは、表面にめっきした亜鉛の多くは消失しており、電線の表面を構成する元素も、亜鉛元素の割合が低下し、鉄元素の割合が高くなっている。試料Bの表面が茶褐色になっているのは、酸化した鉄(Fe)が析出しているためと考えられる。しかし、このとき、引張強度は、初期状態(44kN)から多少低下しているものの、電線が破断するほどは低下しておらず、取替は不要である。一般的に鉄は一旦酸化すると加速度的に内部腐食が進行するが、試料Bは、外見上は茶褐色となって鉄の酸化物(Fe)が発生しているにも関わらず、内部腐食が進行していない。
【0043】
試料Cは、電線の劣化が試料Bよりも進んだ状態を示す。試料Cは、表面にめっきした亜鉛はほぼ消失しており、電線の表面を構成する元素も、95%は鉄元素となっている。試料Cの表面は、試料Bよりも黒ずんだこげ茶色となっている。これは、鉄の酸化物として、Feに加え、Feも析出しているためと考えられる。このとき、引張強度は、初期状態(44kN)の20分の1以下まで急激に低下しており、断線の危険があるため、取り替える必要がある。ここで、引張強度が急激に低下したのは、試料Bの状態から急激に内部腐食が進行したためと考えられる。
【0044】
次に、試料の鉄元素又は亜鉛元素の含有量と引張強度の相関関係を示す。図8Aは、上記した試料の表面を構成する鉄元素の含有率が3%、50%、78%、90%、95%となっている試料の引張強度をグラフ上にプロットしたものである。試料の表面の鉄元素の含有率が増加するにつれて、引張強度が低下していることが分かる。引張強度が低下するのは、鉄の酸化、内部腐食等に起因するものである。そして、表面の鉄元素の含有率が約80%を超えたとき、急激に引張強度が低下していることが分かる。すなわち、電線が劣化する際、試料の表面で測定される鉄元素の含有率が80%程度を超えたとき、緩やかに劣化する(引張強度が低下する)第1劣化状態から、急速に劣化する第2劣化状態に移行することが分かる。
【0045】
また、図8Bは、上記した試料の表面を構成する鉄元素の含有率が3%、50%、78%、90%、95%となっているときの、亜鉛元素の含有率を同様に取得したものであって、当該亜鉛元素の含有率と引張強度をグラフ上にプロットしたものである。図8Aと同様に、試料の表面の亜鉛元素の含有率が増加するにつれて、引張強度が低下しており、試料の表面の亜鉛元素の含有率が約20%を下回ったとき、急激に引張強度が低下していることが分かる。
【0046】
尚、電線の表面における鉄元素の含有率の増加自体が、即引張強度の低下につながるわけではないため、複数回、基準データを取得するための試験を行ったとき、同じ鉄元素又は亜鉛元素の含有率を示す試料であっても多少のバラツキを生ずる場合もあった。しかし、第1劣化状態から第2劣化状態に至った場合、内部腐食の速度が著しく上昇するため、第1劣化状態から第2劣化状態に至る際に測定される鉄元素又は亜鉛元素の含有率は、所定値として基準データを取得することが可能であった。
【0047】
===劣化判定結果について===
図9に、使用者が劣化判定装置を用いて電線300の劣化判定を行ったときの結果の一例を示す。本実施形態では、使用者が劣化判定装置を用いて、電線300の表面の亜鉛元素の含有率を測定して、その際の測定結果と、基準データとに基づいて、劣化判定を行っている。
【0048】
上述したとおり、本実施形態では、使用者が操作装置200の入力部202に対して、測定開始の指示を入力した場合、測定装置100による測定が行われる。そして、測定装置100による測定後、測定装置100から操作装置200に対して、測定箇所における亜鉛元素の含有量に関する測定データが送信され、操作装置200の制御部201が、当該測定データと検量線データに基づいて、亜鉛元素の含有率を算出する。
【0049】
そして、操作装置200の制御部201は、当該亜鉛元素の含有率と基準データとに基づいて、図9に示す画面データを生成する。操作装置200の記憶部205には、当該測定箇所における前回の測定データも記憶されており、図9に示す画面データには、基準データ上に、前回の測定結果と今回の測定結果があわせて表示されている。劣化判定装置の使用者は、当該画面を参照して、電線を取り替えるか否かを判定することになる。
【0050】
このように、劣化判定結果は、測定した電線300の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、基準データに基づいて、測定装置の使用者が判定可能となるように、基準データと当該測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とを重ね合わせて提示するものであってもよいし、単に電線の取替が必要か不必要かを提示するものであってもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、基準データを参照して、画面データ等を出力する際、表面における亜鉛元素の含有率と、対応する引張強度のデータをすべて参照する態様となっている。しかしながら、本発明は、基準データの引張強度に基づいて決定された取替が必要か取替が不要かを特定する、表面における亜鉛元素(又は鉄元素)の含有率の規定値のみを参照してもよい。例えば、測定した表面における亜鉛元素の含有率が、20%より下回っているか否かのみを判定するものであってもよい。
【0052】
以上、本発明の劣化判定方法によれば、電線の表面を構成する亜鉛元素又は鉄元素の含有量に基づいて、定量的に電線の劣化度合いを判断することが可能となる。したがって、点検者の熟練度等に依存することなく、電線の保守点検等を実施することができる。
【0053】
また、X線等で電線の断面図を測定する方法では、実際に内部腐食が進行するまで、電線の劣化度合いを判断することができなかったが、本発明の劣化判定方法によれば、内部腐食の進行する前に劣化状態を判断することも可能となる。したがって、断線を確実に防止することができる。
【0054】
また、点検者は、測定した電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量から、基準データとの比較で、当該電線の正確な引張強度も把握することができる。
【0055】
尚、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0056】
上記実施形態では、亜鉛めっき鋼より線を用いたが、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線であれば、本発明の劣化判定方法は適用可能である。主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされている電線であれば、上記実施形態と同様に、表面に測定される鉄元素又は亜鉛元素の含有量が所定値となったときに第1劣化状態を経て第2劣化状態に移行する劣化プロセスを経るため、表面の鉄元素又は亜鉛元素の含有量に基づいて、劣化度合いを判定できるからである。
【0057】
また、このときの主成分として鉄を含有する材料は、純粋な鉄、鉄に炭素を含有させた鋼、鉄に他の金属を含有させた合金であってもよい。同様に、亜鉛めっきは、溶融めっき、電気めっき、化学めっき等の如何なるめっき法により形成されたものであってもよい。また、本発明は、主成分として鉄を含有する材料の下地等に他の材料が形成されている電線であっても、同様に適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、劣化判定に用いる測定データとして、表面を構成する亜鉛元素又は鉄元素の含有率とした。しかし、表面を構成する亜鉛元素又は鉄元素の含有率に代えて、測定箇所の亜鉛元素又は鉄元素の含有量であってもよい。これは、劣化プロセスが明らかとなっているため、測定箇所の亜鉛元素又は鉄元素の含有量だけで、定量的に劣化度合いの判定が可能だからである。
【0059】
また、上記実施形態では、基準データの取得に用いる試料として、保守点検の対象となる電線と、同一規格の亜鉛めっき鋼より線を用いた。しかし、基準データの取得に用いる試料と、保守点検の対象となる電線とは、必ずしも同一規格である必要はない。劣化プロセスは、表面を構成する亜鉛元素又は鉄元素の含有率、例えば、主成分として鉄を含有する材料と亜鉛めっきの間に介在する亜鉛元素と鉄元素の合金等に起因するもので、規格に依存するものではないからである。尚、規格の異なる試料で、保守点検の対象となる電線の主成分として鉄を含有する材料と略同一の材料に当該電線と略同一の亜鉛めっきがなされたものに対して、表面の亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度の基準データを取得したところ、第2劣化状態に移行するときに表面で測定される鉄元素の含有率は略80%、亜鉛元素の含有率は略20%であった。
【0060】
また、上記実施形態では、基準データの取得に用いる試料の主成分として鉄を含有する材料及び亜鉛めっき膜は、保守点検の対象となる電線と同一の材料が用いられたものとした。しかし、基準データの取得に用いる試料は、必ずしも保守点検の対象となる電線と同一の材料が用いられたものでなくともよい。具体的には、基準データの取得に用いる試料として、鉄を主成分として含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされたものを用いていれば、保守点検の対象となる電線と異なる合金材料を用いた場合、不純物を含有させた場合、亜鉛めっきのめっき条件が異なっている場合、いずれの場合であっても、第1劣化状況から第2劣化状況に至るときの表面で測定される鉄元素の含有率は略80%、亜鉛元素の含有率は略20%となっていた。これは、鉄を主成分として含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた場合、第1劣化状態から第2劣化状態に至るときの表面状態は、表面を構成する亜鉛元素又は鉄元素の含有率、例えば、主成分として鉄を含有する材料と亜鉛めっきの間に介在する亜鉛元素と鉄元素の合金等に主に起因しているためであると考えられる。
【0061】
また、上述実施形態では、電線の表面の亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定するために蛍光X線分析(XRF)を用いたが、電線の表面の亜鉛元素又は鉄元素の含有量を定量的に測定できれば、他の方法を用いてもよい。例えば、電子線プローブマイクロアナリシス(EMPA)や、オージェ電子分光法(AES)を用いてもよい。
【0062】
===結言===
以上より、本発明は、次のように記載できる。
【0063】
本発明は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線の劣化判定方法であって、電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する第1工程と、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データと、第1工程で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とに基づいて、電線(300)の劣化度合いを判定する第2工程と、を備える電線の劣化判定方法を開示するものである。
【0064】
これによって、定量的に電線の劣化度合いを判断することが可能となる。
【0065】
また、本発明の第2工程は、第1工程で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データとに基づいて、表面における亜鉛元素の含有量の減少又は鉄元素の含有量の増加に伴って引張強度が減少する第1劣化状態から、表面における亜鉛元素の含有量の減少又は鉄元素の含有量の増加に伴って引張強度が減少する度合が第1劣化状態よりも大きい第2劣化状態に至っているかを判定する工程であってもよい。
【0066】
これによって、実際に内部腐食の進行する前に劣化状態を判断することも可能となるため、断線を確実に防止することができる。このとき、第1劣化状態よりも劣化速度が大きい第2劣化状態に至っているかを判定する工程は、測定した電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、基準データに基づいて、所定の画像処理等を行って、第2劣化状態に至っていることを提示するものであってもよいし、第2劣化状態に至る直前であることを提示するものであってもよい。
【0067】
また、本発明で測定する電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量は、測定した箇所の表面を構成する元素のうち、亜鉛元素又は鉄元素が占める割合(亜鉛元素又は鉄元素の含有率)であってもよい。
【0068】
これによって、電線の劣化状態のみならず、電線の表面の合金層の状態、又は測定箇所において鉄が露出している度合も把握することが可能となる。
【0069】
また、本発明の主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線は、亜鉛めっき鋼より線であってもよい。
【0070】
より線の場合、1本線よりも複雑な断面形状となるため、X線等の透過画像を撮影して、電線の劣化度合いを定量的に判定することが困難である。しかし、本発明は、電線の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定するものであるから、より線であるか1本線であるかによらず、電線の劣化度合いを定量的に判定することができる。
【0071】
また、本発明の第1工程は、蛍光X線分析により行ってもよい。
【0072】
大気中で表面の亜鉛元素又は鉄元素の含有量を定量的に正確に測定することは一般に困難であるが、蛍光X線分析であれば、定量的に正確に測定することができる。
【0073】
また、本発明は、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた電線(300)の劣化判定装置(上記実施形態では、測定装置100及び操作装置200から構成される)であって、電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する測定部(100A(上記実施形態では、測定装置100の照射部101、検知器102から構成される))と、主成分として鉄を含有する材料の表面に亜鉛めっきがなされた試料の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と引張強度との関係を示す基準データと、測定部(100A)で測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とに基づいて、電線300の劣化度合いを判定可能に提示する提示部(上記実施形態では、操作装置の制御部201及び表示部204から構成される)と、を備える電線の劣化判定装置を開示するものである。
【0074】
これによって、定量的に電線の劣化度合いを判断することが可能となる。
【0075】
また、本発明の劣化判定装置は、上記実施形態で記載したように、測定装置100と操作装置200を別装置とする複数の装置から構成されてもよいし、測定装置単体から構成されてもよい。
【0076】
また、本発明の劣化判定装置の測定部(100A)は、上記実施形態では蛍光X線分析を行うため、照射部101、検知器102から構成されるが、電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量を測定する機能を有していれば、他の機構より構成されてもよい。
【0077】
このとき、提示部は、測定した電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、基準データに基づいて、所定の画像処理等を行って、電線の取替が必要か不必要かを提示するものであってもよいし、劣化判定装置の使用者が判定可能となるように、基準データと当該測定した亜鉛元素又は鉄元素の含有量とを重ね合わせて提示するものであってもよい。また、提示部は、基準データのうち、取替必要か取替不要かを特定する、表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有率の規定値(例えば、表面における亜鉛元素の含有率が20%に至っているか、又は鉄元素の含有率が80%に至っているか)のみを参照して、取替必要か取替不要かを提示するものであってもよい。
【0078】
また、本発明の劣化判定装置の提示部は、上記実施形態では操作装置の制御部201及び表示部203から構成されるが、測定した電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、基準データに基づいて、電線の劣化度合いを判定可能に提示する機能は、測定装置が備えていてもよい。この場合、測定した電線(300)の表面における亜鉛元素又は鉄元素の含有量と、基準データに基づいて、上記実施形態の図9に対応する画像データを生成し、通信部104を用いて、操作装置(200)や、サーバ装置等に送信するものであってもよい。
【0079】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0080】
100-測定装置、100A-測定部、100B-測定竿、100C-窓、200-操作装置、300-電線
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9