(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記シール低圧側外壁面のうち前記低圧作動室の圧力が作用する部位の歯部突出方向の長さをL2、前記基板部と前記シール基板側外壁面との摩擦係数をμ、前記チップシールの幅寸法をXとしたとき、
L2>μ×Xであることを特徴とする圧縮機。
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記一対のスクロールのうち一方のスクロールの前記低圧側隙間における歯部渦巻き方向の断面積をS、前記一対のスクロールのうち他方のスクロールの前記収容溝高圧側内壁面と前記シール高圧側外壁面との間に形成される高圧側隙間(54)における歯部渦巻き方向の断面積をS1としたとき、
S<S1であることを特徴とする圧縮機。
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記歯部における巻き終わり部側の半径方向外側に、冷媒吸入圧力となる低圧雰囲気領域(15c、15d)を備え、
前記低圧側隙間は、前記低圧雰囲気領域に対応する部位にのみ形成されていることを特徴とする圧縮機。
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記収容溝低圧側内壁面は、歯部突出方向に沿って階段状になっていることを特徴とする圧縮機。
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記シール高圧側外壁面と前記収容溝高圧側内壁面との間に、前記シール高圧側外壁面と前記収容溝高圧側内壁面とが非接触となるような高圧側隙間(52)が形成されていることを特徴とする圧縮機。
平板状の基板部(111、121)から突設された渦巻き状の歯部(112、122)を有し、冷媒を圧縮する高圧作動室(15a)および低圧作動室(15b)を形成する一対のスクロール(11、12)と、
前記歯部に沿って配置され、前記高圧作動室と前記低圧作動室との間をシールするチップシール(16、17)とを備え、
前記歯部における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに前記チップシールが収容されるシール収容溝(114)が形成され、
前記シール収容溝は、前記シール収容溝の底部に位置する収容溝底部内壁面(114a)、前記高圧作動室側に位置する収容溝高圧側内壁面(114b)、および前記低圧作動室側に位置する収容溝低圧側内壁面(114c)を有し、
前記チップシールは、前記収容溝底部内壁面に対向するシール底部外壁面(161)、前記収容溝高圧側内壁面に対向するシール高圧側外壁面(162)、前記収容溝低圧側内壁面に対向するシール低圧側外壁面(163)、および前記基板部に対向するシール基板側外壁面(164)を有する圧縮機であって、
前記シール低圧側外壁面が前記収容溝低圧側内壁面に押圧された状態において、前記シール低圧側外壁面と前記収容溝低圧側内壁面との間に、前記低圧作動室の圧力が導入される低圧側隙間(53)が形成されており、
前記収容溝高圧側内壁面および前記収容溝低圧側内壁面のうち、前記収容溝低圧側内壁面のみが、歯部突出方向に対して傾斜していることを特徴とする圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、本発明の圧縮機を給湯機用のヒートポンプサイクル(図示せず)に適用したものである。
【0019】
ヒートポンプサイクルは、圧縮機、水冷媒熱交換器、減圧器、蒸発器および気液分離器等を順次配管で接続した蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。水冷媒熱交換器は、圧縮機の冷媒吐出口から吐出された冷媒と給湯水とを熱交換して給湯水を加熱する。減圧器は水冷媒熱交換器から流出した冷媒を減圧する。蒸発器は外気から吸熱して、減圧器で減圧された冷媒を蒸発させる。気液分離器は、蒸発器から流出した冷媒を液相冷媒と気相冷媒とに分離して余剰冷媒を液相冷媒として蓄えるとともに、気相冷媒を圧縮機の冷媒吸入口に供給する。なお、気液分離器は必須のものではない。
【0020】
本実施形態のヒートポンプサイクルは超臨界冷凍サイクルを構成している。具体的には、ヒートポンプサイクルの冷媒として二酸化炭素を採用し、圧縮機から吐出された高圧冷媒の圧力を冷媒の臨界圧力以上にしている。
【0021】
まず、
図1、
図2にて圧縮機の全体構成について説明する。なお、
図1中の上下の矢印は、圧縮機の設置状態における上下方向を示している。
【0022】
圧縮機は、スクロール型の電動圧縮機であり、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機部20とを上下方向(縦方向)に配置した縦置きタイプになっている。具体的には、圧縮機構部10が電動機部20の下方側に配置されている。
【0023】
圧縮機構部10および電動機部20はハウジング30に収容されている。ハウジング30の外側には、圧縮機構部10で圧縮された冷媒から潤滑油を分離する油分離器40が配置されている。ハウジング30および油分離器40は共に、上下方向に延びる縦長形状を有しており、油分離器40はハウジング30の側方に配置されている。
【0024】
ハウジング30は、上下方向に延びる筒状部材31と、筒状部材31の上端部を塞ぐ上蓋部材32と、筒状部材31の下端部を塞ぐ下蓋部材33とが接合されて構成された密閉容器である。
【0025】
具体的には、筒状部材31は鉄にて円筒状に形成されており、上蓋部材32および下蓋部材33は共に、鉄にて椀状に形成されている。上蓋部材32および下蓋部材33は、筒状部材31の内部に圧入されてから筒状部材31に対して溶接にて気密的に接合されている。
【0026】
電動機部20は、固定子をなすステータ21と、回転子をなすロータ22とを有している。ステータ21は、全体として上下方向に延びる円筒形状を有しており、ハウジング30の筒状部材31に固定されている。具体的には、ステータ21は、ステータコア211と、ステータコア211に巻き付けられたステータコイル212とを有している。
【0027】
ステータコイル212に対する電力の供給は給電端子23を介して行われる。給電端子23はハウジング30の上端部に配置されている。具体的には、給電端子23を貫通させた給電端子固定板24が、ハウジング30の上蓋部材32の中央部に形成された貫通孔を塞ぐように固定されている。
【0028】
ロータ22は永久磁石にて構成されており、ステータ21の内側に配置されている。ロータ22は上下方向に延びる円筒形状を有しており、ロータ22の中心孔には、上下方向に延びる駆動軸25が圧入により固定されている。ステータコイル212に電力が供給されるとロータ22に回転磁界が与えられてロータ22に回転力が発生し、駆動軸25がロータ22と一体に回転する。
【0029】
駆動軸25は円筒状に形成されており、その内部空間は、駆動軸25の摺動部に潤滑油を供給する給油通路251を構成している。給油通路251は、駆動軸25の下端面にて開口しており、駆動軸25の上端面においては閉塞部材26で閉塞されている。
【0030】
駆動軸25の下端側部位(圧縮機構部10側の部位)は、ロータ22よりも下方側に突出している。駆動軸25のうちロータ22よりも下方側に突出している部位には、水平方向(軸方向と直交する方向)に突出する鍔部252が形成されている。鍔部252にはバランスウェイト254が設けられている。なお、ロータ22の上下方向両側にもバランスウェイト221、222が設けられている。
【0031】
駆動軸25の上端側部位(圧縮機構部10と反対側の部位)は、ロータ22よりも上方側に突出している。駆動軸25のうちロータ22よりも上方側に突出している部位は、軸受部材27によって回転自在に支持されている。
【0032】
軸受部材27は、介在部材28を介してハウジング30の筒状部材31に固定されている。介在部材28は、水平方向に拡がる環状板の外周部を下方側に向かって屈曲させた形状を有しており、ハウジング30の筒状部材31に固定されている。
【0033】
軸受部材27の上端部には水平方向に突出する鍔部271が形成されており、鍔部271が介在部材28上に載せられている。そして、軸受部材27の鍔部271と介在部材28とがボルト(図示せず)によって締結固定されている。これにより、介在部材28に対する軸受部材27の水平方向位置(軸方向と直交する方向の位置)を調整可能にして、駆動軸25の芯出しを可能にしている。
【0034】
駆動軸25のうちロータ22と鍔部252との間の部位は、ミドルハウジング29に構成された軸受部291によって回転自在に支持されている。ミドルハウジング29は、上方側から下方側に向かって階段状に外径および内径が拡大する円筒形状を有しており、その最外周面がハウジング30の筒状部材31に当接した状態で固定されている。
【0035】
駆動軸25のうちロータ22よりも下方側の部位はミドルハウジング29の内部に位置しており、ミドルハウジング29のうち内径の最も小さい上方側部位が軸受部291を構成している。
【0036】
ミドルハウジング29の上下方向中間部、すなわち軸受部291よりも内径が拡大されている部位には、駆動軸25の鍔部252およびバランスウェイト254が収容されている。
【0037】
ミドルハウジング29のうち内径が最も大きい下方側部位には、圧縮機構部10の可動スクロール11が収容されている。可動スクロール11の下方側には、圧縮機構部10の固定スクロール12が配置されている。
【0038】
可動スクロール11および固定スクロール12は、円板状の基板部111、121を有している。両基板部111、121は互いに上下方向に対向するように配置されている。
【0039】
可動スクロール基板部111の中心部には、駆動軸25の下端部253が挿入される円筒状のボス部113が形成されている。駆動軸25の下端部253は、駆動軸25の回転中心に対して偏心した偏心部になっている。したがって、可動スクロール11には、駆動軸25の偏心部253が挿入されていることになる。
【0040】
可動スクロール11およびミドルハウジング29には、可動スクロール11が偏心部253周りに自転することを防止する自転防止機構(図示せず)が設けられている。このため、駆動軸25が回転すると、可動スクロール11は偏心部253周りに自転することなく、駆動軸25の回転中心を公転中心として公転運動(旋回)する。
【0041】
可動スクロール11とミドルハウジング29との間には、2枚のスラストプレート13、14が上下方向に積層されている。上方側(ミドルハウジング29側)のスラストプレート13はミドルハウジング29に固定されている。下方側(可動スクロール11側)のスラストプレート14は、可動スクロール11に固定されて、可動スクロール11と一体的に回転する。
【0042】
可動スクロール11には、基板部111から固定スクロール12側に向かって突出する渦巻き状の歯部112が形成されている。一方、固定スクロール12の基板部121は、ハウジング30の筒状部材31に固定されており、固定スクロール基板部121の上面(可動スクロール11側の面)には、可動スクロール11の歯部112と噛み合う渦巻き状の歯部122が形成されている。具体的には、固定スクロール基板部121の上面に渦巻き状の溝部が形成されており、渦巻き状の溝部の側壁が渦巻き状の歯部122を構成している。
【0043】
なお、以下の説明では、歯部112、122の突出方向を「歯部突出方向」という。換言すると、「歯部突出方向」は、両スクロール11、12の積層方向であり、或いはチップシール16、17(詳細後述)と基板部111、121との摺動面に対して垂直な方向である。さらに、歯部112、122の渦巻き方向を「歯部渦巻き方向」といい、歯部渦巻き方向に対して直交する方向を「半径方向」という。
【0044】
両スクロール11、12の歯部112、122は、2回転した渦巻きの形状に形成されている。換言すれば、両歯部112、122の巻き角は720°になっている。
【0045】
両スクロール11、12の歯部112、122同士が噛み合って複数箇所で接触することによって、三日月状の作動室15が複数個形成される。なお、
図1では図示の都合上、複数個の作動室15のうち1つの作動室のみに符号を付しており、他の作動室については符号を省略している。また、必要に応じて、作動室15のうち圧力が高い方の作動室を高圧作動室15a、作動室15のうち圧力が低い方の作動室を低圧作動室15bという。
【0046】
作動室15は、可動スクロール11が公転運動することによって外周側から中心側へ容積を減少させながら移動する。作動室15には、冷媒供給通路(図示せず)を通じて冷媒が供給されるようになっており、作動室15の容積が減少することによって作動室15内の冷媒が圧縮される。
【0047】
作動室15に冷媒を供給する冷媒供給通路(図示せず)は、具体的には、ハウジング30の筒状部材31に形成された冷媒吸入口(図示せず)と、固定スクロール基板部121の内部に形成された冷媒吸入通路(図示せず)とで構成されている。固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)は、固定スクロール基板部121の渦巻き状の溝部のうち最外周側の部位と連通している。
【0048】
そして、可動スクロール歯部112における巻き終わり部側の半径方向外側に、冷媒吸入圧力となる可動側低圧雰囲気領域15cが形成される。同様に、固定スクロール歯部122における巻き終わり部側の半径方向外側にも、冷媒吸入圧力となる固定側低圧雰囲気領域15dが形成される。
【0049】
可動側低圧雰囲気領域15cおよび固定側低圧雰囲気領域15dは、冷媒が圧縮されない領域である。本実施例では、両スクロール11、12は対称スクロールであるため、各低圧雰囲気領域15c、15dの範囲θ1、θ2は、各スクロール歯部112、122の巻き終わり部から歯部渦巻き方向に沿って略180°である。
【0050】
可動スクロール歯部112および固定スクロール歯部122には、作動室15の気密性を確保するためのチップシール16、17が装着されている。チップシール16、17は、ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂(PEEK)などの樹脂材料にて、歯部112、122の渦巻き方向に沿って延びる角柱状に形成されている。
【0051】
可動スクロール11側のチップシール16は、可動スクロール歯部112の下面(固定スクロール基板部121側の面)に形成されたシール収容溝(詳細後述)に嵌め込まれている。固定スクロール12側のチップシール17は、固定スクロール歯部122の上面(可動スクロール基板部111側の面)に形成されたシール収容溝(詳細後述)に嵌め込まれている。
【0052】
可動スクロール側チップシール16は、固定スクロール基板部121の渦巻き状の溝部の底面(摺動面)に密着して摺動し、固定スクロール側チップシール17は可動スクロール基板部111の下面(摺動面)に密着して摺動する。これにより、作動室15の気密性を確保して、作動室15から冷媒が洩れることを防止する。
【0053】
固定スクロール基板部121の中心部には、作動室15で圧縮された冷媒が吐出される吐出孔123が形成されている。固定スクロール基板部121内において吐出孔123の下方側には、吐出孔123と連通する吐出室124が形成されている。吐出室124は、固定スクロール12の下面に形成された凹部125と、固定スクロール12の下面に固定された区画部材18とによって区画形成されている。
【0054】
吐出室124には、作動室15への冷媒の逆流を防止する逆止弁をなすリード弁(図示せず)と、リード弁の最大開度を規制するストッパ19とが配置されている。
【0055】
吐出室124の冷媒は、冷媒吐出通路(図示せず)を通じてハウジング30外部へ吐出されるようになっている。冷媒吐出通路(図示せず)は、固定スクロール基板部121内に形成された冷媒吐出通路(図示せず)と、ハウジング30の筒状部材31に形成された冷媒吐出口(図示せず)とで構成されている。
【0056】
ハウジング30の冷媒吐出口(図示せず)は、油分離器40の冷媒流入口(図示せず)に、冷媒配管(図示せず)を介して接続されている。油分離器40は、ハウジング30から吐出された圧縮冷媒から潤滑油を分離し、分離された潤滑油をハウジング30内に戻す役割を果たす。
【0057】
油分離器40は、上下方向に延びる筒状部材41と、筒状部材41の上端部を塞ぐ上蓋部材42と、筒状部材41の下端部を塞ぐ下蓋部材43とを有している。筒状部材41は鉄にて円筒状に形成されており、上蓋部材42および下蓋部材43は共に鉄にて椀状に形成されている。上蓋部材42および下蓋部材43は、筒状部材41内に圧入されてから筒状部材41に対して溶接にて気密的に接合されている。
【0058】
油分離器40の筒状部材41は、ハウジング30の筒状部材31に対して、鉄で形成されたブラケット44を介して溶接で接合されている。これにより、油分離器40がハウジング30に固定されることとなる。
【0059】
上蓋部材42は、外筒部材421と内筒部材422とで構成された二重筒構造になっている。外筒部材421および内筒部材422は上下方向に延びる円筒状の部材であり、内筒部材422は、外筒部材421のうち上方側の部位の内部に挿入されている。
【0060】
外筒部材421と内筒部材422との間には、上下方向に延びる円筒状空間43が形成されている。円筒状空間43には、油分離器40の冷媒流入口(図示せず)から流入した冷媒が導入される。油分離器40の冷媒流入口(図示せず)は、外筒部材421のうち円筒状空間43の側方部位に形成されている。
【0061】
円筒状空間43の上端部は内筒部材422によって閉塞されている。具体的には、内筒部材422の上端部が残余の部位よりも拡径されていて、外筒部材421の上端開口部421aを閉塞している。
【0062】
内筒部材422の上端開口部45は、潤滑油が分離された冷媒を油分離器40外部(換言すれば圧縮機外部)に吐出する冷媒吐出口を構成している。
【0063】
油分離器40のうち下方側部位は、冷媒から分離された潤滑油を貯める貯油タンクとしての役割を果たす。油分離器40の下蓋部材43には、貯められた潤滑油を油分離器40外部に流出させる油流出口431が形成されている。
【0064】
油流出口431には油配管46が接続されており、油配管46は、ハウジング30の筒状部材31に固定された配管接続部材34に接続されている。配管接続部材34は、ハウジング30の筒状部材31に形成された貫通孔を貫通し、固定スクロール基板部121の側面に形成された挿入穴126に挿入されている。
【0065】
固定スクロール基板部121の内部には、油分離器40からの潤滑油が流れる固定側導油通路127が形成されており、可動スクロール基板部111の内部には、固定側導油通路127と断続的に連通する可動側導油通路(図示せず)が形成されている。
【0066】
固定側導油通路127の一端部は挿入穴126に連通している。固定側導油通路127の他端部(図示せず)は固定スクロール基板部121の上面(可動スクロール基板部111側の面)に開口している。
【0067】
可動側導油通路(図示せず)の一端部(図示せず)は、固定側導油通路127の他端部(図示せず)と対向するように、可動スクロール基板部111の下面(固定スクロール基板部121側の面)に開口している。
【0068】
これにより、可動スクロール11の公転運動に伴って可動側導油通路の一端部(図示せず)が固定側導油通路127の他端部(図示せず)と重なったりずれたりすることとなるので、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と断続的に連通する。
【0069】
可動側導油通路の他端部(図示せず)は、可動スクロール11のボス部113の内面に開口している。このため、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と連通すると、油分離器40からの潤滑油がボス部113と駆動軸25の偏心部253との間の隙間に導入され、次いで駆動軸25の下端部側から駆動軸25の給油通路251に流入する。
【0070】
駆動軸25には、給油通路251からミドルハウジング29の軸受部291に向かって径方向外側に延びる貫通孔(図示せず)と、給油通路251から軸受部材27に向かって径方向外側に延びる貫通孔(図示せず)とが形成されている。このため、給油通路251に流入した潤滑油は、両貫通孔(図示せず)を通じて、駆動軸25と軸受部291との間、および駆動軸25と軸受部材27との間に供給される。
【0071】
駆動軸25と軸受部291との間に供給された潤滑油は、重力によってミドルハウジング29の中心孔を流下し、2枚のスラストプレート13、14の間に供給される。2枚のスラストプレート13、14の間に供給された潤滑油は、可動スクロール基板部111の外周側に形成された隙間(ミドルハウジング29の内周面との隙間)を流下し、次いで固定スクロール基板部121を上下方向に貫通する油流下通路(図示せず)を流下して、ハウジング30内の最下部に形成された貯油室35に至る。
【0072】
貯油室35は、固定スクロール12および区画部材18の下方側に形成されている。区画部材18には、上下方向に貫通する貫通孔181が形成されている。貫通孔181は、固定スクロール基板部121の内部に形成された上述の冷媒吸入通路(図示せず)と連通している。貫通孔181には、貯油室35に貯められた潤滑油を吸い上げるパイプ182が下方側(貯油室35側)から挿入されている。
【0073】
貯油室35の潤滑油は、パイプ182、区画部材18の貫通孔181、および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給される。
【0074】
次に、
図3にて、可動スクロール歯部112およびチップシール16の構成について説明する。なお、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状は
図3に示す可動スクロール歯部112およびチップシール16の具体的形状と同様である。したがって、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状に関する図示および説明を省略する。
【0075】
可動スクロール歯部112における突出方向の先端側には、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともにチップシール16が収容されるシール収容溝114が形成されている。
【0076】
このシール収容溝114は、シール収容溝114の底部に位置する収容溝底部内壁面114a、高圧作動室15a側に位置する収容溝高圧側内壁面114b、および低圧作動室15b側に位置する収容溝低圧側内壁面114cを有する。
【0077】
収容溝底部内壁面114aは、歯部突出方向に対して垂直な平面であり、換言すると、チップシール16と基板部121との摺動面に対して平行な平面である。収容溝高圧側内壁面114bは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びる面である。
【0078】
収容溝低圧側内壁面114cは、歯部突出方向に対して傾斜している。より詳細には、収容溝低圧側内壁面114cは、収容溝底部内壁面114a側よりも収容溝底部内壁面114aとは反対側(基板部121に近い側)が、半径方向外側に位置するように、歯部突出方向に対して傾斜している。
【0079】
チップシール16は、断面形状が矩形であり、収容溝底部内壁面114aに対向するシール底部外壁面161、収容溝高圧側内壁面114bに対向するシール高圧側外壁面162、収容溝低圧側内壁面114cに対向するシール低圧側外壁面163、および基板部121に対向するシール基板側外壁面164を有する。
【0080】
次に、作動を説明する。電動機部20のステータコイル212に電力が供給されてロータ22および駆動軸25が回転すると、可動スクロール11が駆動軸25に対して公転運動(旋回)する。これにより、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122との間に形成された三日月状の作動室15が外周側から中心側へ容積を減少させながら移動する。
【0081】
このとき、外周側に位置する作動室15に対して冷媒および貯油室35の潤滑油が供給される。具体的には、圧縮機外部の冷媒がハウジング30の冷媒吸入口(図示せず)および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給されると同時に、貯油室35の潤滑油がパイプ182、区画部材18の貫通孔181および固定スクロール基板部121の冷媒吸入通路(図示せず)を通じて作動室15に供給される。
【0082】
作動室15に供給された冷媒は、作動室15の容積の減少に伴って圧縮される。作動室15で圧縮された冷媒は、固定スクロール12の吐出孔123、吐出室124、ハウジング30の冷媒吐出口(図示せず)を通じてハウジング30外部に吐出され、次いで冷媒配管(図示せず)を通じて油分離器40の冷媒流入口(図示せず)に流入する。
【0083】
油分離器40の冷媒流入口に流入した冷媒は、油分離器40内の円筒状空間43に導入される。そして、円筒状空間43において冷媒に旋回流れを生じさせ、冷媒の旋回流れによって生じる遠心力の作用によって、冷媒から潤滑油が分離される。
【0084】
潤滑油が分離された冷媒は、油分離器40の冷媒吐出口45から、圧縮機の吐出冷媒として吐出される。一方、冷媒から分離された潤滑油は、重力によって油分離器40内部を流下して油分離器40内の下部に貯められる。油分離器40内に貯められた潤滑油は、駆動軸25の給油通路251に断続的に供給される。
【0085】
具体的には、上述のごとく可動スクロール11の公転運動に伴って可動スクロール11の可動側導油通路(図示せず)が固定スクロール12の固定側導油通路127と断続的に連通することによって、油分離器40内に貯められた潤滑油が、油配管46、配管接続部材34、固定側導油通路127、および可動側導油通路(図示せず)を通じて、可動スクロール11のボス部113と駆動軸25の偏心部253との間の隙間に導入され、次いで駆動軸25の下端部側から駆動軸25の内部の給油通路251に流入する。
【0086】
なお、可動側導油通路(図示せず)が固定側導油通路127と連通していない場合には、駆動軸25の給油通路251への潤滑油の供給が遮断される。
【0087】
駆動軸25の給油通路251に供給された潤滑油は、駆動軸25の貫通孔(図示せず)を通じて駆動軸25と軸受部291との間、および駆動軸25と軸受部材27との間に供給される。これにより、駆動軸25の摺動部で潤滑性を良好に維持できる。
【0088】
駆動軸25と軸受部291との間に供給された潤滑油は、重力によってミドルハウジング29の中心孔を流下し、2枚のスラストプレート13、14の間に供給される。これにより、スラストプレート13、14同士の摺動部で潤滑性を良好に維持できる。
【0089】
2枚のスラストプレート13、14の間に供給された潤滑油は、可動スクロール基板部111の外周側に形成された隙間(ミドルハウジング29の内周面との隙間)を流下し、次いで固定スクロール基板部121を上下方向に貫通する油流下通路(図示せず)を流下して、ハウジング30内の最下部に形成された貯油室35に至る。
【0090】
上記のように冷媒を圧縮して吐出する際、
図3に示すように、チップシール16は、シール底部外壁面161に作用する高圧作動室15aの圧力P
Hにより基板部121に押し付けられる(押圧される)とともに、シール高圧側外壁面162に作用する高圧作動室15aの圧力P
Hにより収容溝低圧側内壁面114cに押し付けられる(押圧される)。
【0091】
このとき、シール底部外壁面161と収容溝底部内壁面114aとの間に底部側隙間51が形成され、シール高圧側外壁面162と収容溝高圧側内壁面114bとの間に高圧側隙間52が形成される。なお、この高圧側隙間52の寸法を、高圧側隙間寸法δ1とする。
【0092】
また、収容溝低圧側内壁面114cは歯部突出方向に対して傾斜しているため、シール低圧側外壁面163におけるシール底部外壁面161側の端部が収容溝低圧側内壁面114cに接触し、シール低圧側外壁面163と収容溝低圧側内壁面114cとの間に低圧側隙間53が形成される。この低圧側隙間53は、チップシール16における歯部渦巻き方向の全域に渡って形成されている。なお、この低圧側隙間53の最大寸法を、低圧側最大隙間寸法δ2maxとする。
【0093】
この低圧側隙間53には、低圧作動室15bの圧力P
Lが導入されるため、シール低圧側外壁面163の全面に低圧作動室15bの圧力P
Lが作用する。
【0094】
そして、チップシール16における歯部渦巻き方向の単位長さをa、チップシール16における歯部突出方向の長さをL1とすると、シール高圧側外壁面162に加わる荷重はP
H×L1×a、シール低圧側外壁面163に加わる荷重はP
L×L1×aとなり、チップシール16を収容溝低圧側内壁面114cに押し付ける力である半径方向荷重Frは、Fr=(P
H−P
L)×L1×aとなる。すなわち、半径方向荷重Frは、必要にして十分な荷重(すなわち、Fr=(P
H−P
L)×L1/2×a)以上が安定して確保される。
【0095】
したがって、シール低圧側外壁面163と収容溝低圧側内壁面114cとの接触部の良好なシール性が確保されるため、底部側隙間52の圧力が高圧作動室15aの圧力P
Hまで確実に高められる。その結果、シール基板側外壁面164を基板部121に押し付ける力である歯部突出方向荷重Ftが安定して確保されて、チップシール16と基板部121との摺動面の良好なシール性が確実に確保される。
【0096】
ところで、低圧側隙間53は、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122とが密着していない領域(
図3参照)における半径方向の洩れに対して有効である。
【0097】
一方、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122とが密着している領域では(
図4参照)、
図2に矢印Dで示すように、高圧作動室15aの冷媒が低圧側隙間53を通って低圧作動室15bに洩れ易い。すなわち、低圧側隙間53を設けたことにより、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122とが密着している領域における歯部渦巻き方向の洩れが増加する。
【0098】
また、可動スクロール歯部112と固定スクロール歯部122とが密着している領域では、高圧作動室15aの冷媒が固定スクロール歯部122内の高圧側隙間54(
図4参照)を通って低圧作動室15bに洩れるが、その洩れ量は従来と同等である。
【0099】
実際の洩れは、歯部渦巻き方向の洩れよりも半径方向の洩れが多いため、低圧側隙間53の歯部渦巻き方向の断面積Sを、高圧側隙間54の歯部渦巻き方向の断面積S1以下に抑えておけば(すなわち、S<S1とすれば)、低圧側隙間53を通る歯部渦巻き方向の洩れを許容範囲に抑えることができる。具体的には、δ2max=2×δ1、とすればよい。
【0100】
また、各低圧雰囲気領域15c、15dは、冷媒が圧縮されない領域であるため、上記のような低圧側隙間53を通る歯部渦巻き方向の洩れを考慮する必要がない。したがって、各低圧雰囲気領域15c、15dの近傍では、低圧側隙間53の歯部渦巻き方向の断面積Sを小さくする必要はない。
【0101】
そこで、低圧側隙間53を、各低圧雰囲気領域15c、15dに対応する領域(換言すると、各低圧雰囲気領域15c、15dと半径方向に重なる領域)にのみ形成してもよい。
【0102】
この場合、低圧側隙間53を通る歯部渦巻き方向の洩れを考慮する必要がないため、チップシール16、17やスクロール歯部112、122の加工精度をラフにすることができ、加工コストを低減することができる。
【0103】
なお、各低圧雰囲気領域15c、15dに対応する領域の範囲は、各低圧雰囲気領域15c、15dの範囲θ1、θ2と等しい180°がベストである。但し、各低圧雰囲気領域15c、15dは、閉じ込み時には各スクロール歯部112、122の巻き終わり部から歯部渦巻き方向に沿って略360°の範囲が冷媒吸入圧力となるため、各低圧雰囲気領域15c、15dに対応する領域の範囲は、360°まで拡げてもよい。
【0104】
以上述べたように、本実施形態によると、半径方向荷重Frを安定して確保することができ、その結果歯部突出方向荷重Ftが安定して確保されて、チップシール16、17と基板部111、121との摺動面の良好なシール性が確保される。
【0105】
また、二酸化炭素を冷媒とする冷凍サイクルは差圧が大きいため、チップシール16、17と基板部111、121との摺動面のシール性が特に重要である。したがって、本実施形態は、二酸化炭素を冷媒とする冷凍サイクルの圧縮機に好適である。
【0106】
なお、本実施形態においては、収容溝高圧側内壁面114bは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びる面であったが、
図5に示す第1実施形態の変形例のように、収容溝高圧側内壁面114bを歯部突出方向に対して傾斜させて、シール収容溝114の断面形状が対称形状になるようにしてもよい。これによると、シール収容溝114をエンドミルにて加工することができる。
【0107】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状は
図6に示す可動スクロール歯部112およびチップシール16の具体的形状と同様である。したがって、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状に関する図示および説明を省略する。
【0108】
図6に示すように、シール収容溝114の収容溝低圧側内壁面114cは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びている。
【0109】
また、収容溝底部内壁面114aと収容溝低圧側内壁面114cとの接続部には、直線またはR形状の面取り部114dが設けられている。そして、シール低圧側外壁面163におけるシール底部外壁面161側の端部が面取り部114dに接触し、シール低圧側外壁面163と収容溝低圧側内壁面114cとの間に低圧側隙間53が形成される。
【0110】
これによると、低圧側隙間53に低圧作動室15bの圧力P
Lが導入され、シール低圧側外壁面163の全面に低圧作動室15bの圧力P
Lが作用し、半径方向荷重Frは必要にして十分な荷重が確保されるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0111】
なお、本実施形態においては、収容溝底部内壁面114aと収容溝低圧側内壁面114cとの接続部に面取り部114dを設けたが、
図7に示す第2実施形態の変形例のように、収容溝底部内壁面114aと収容溝高圧側内壁面114bとの接続部にも面取り部114dを設けて、シール収容溝114の断面形状が対称形状になるようにしてもよい。これによると、シール収容溝114をエンドミルにて加工することができる。
【0112】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状は
図8に示す可動スクロール歯部112およびチップシール16の具体的形状と同様である。したがって、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状に関する図示および説明を省略する。
【0113】
図8に示すように、シール収容溝114の収容溝低圧側内壁面114cは、歯部突出方向に沿って階段状になっている。より詳細には、収容溝低圧側内壁面114cは、収容溝底部内壁面114a側に位置する収容溝低圧側第1内壁面114eと、収容溝低圧側第1内壁面114eよりも基板部121に近い側で且つ収容溝低圧側第1内壁面114eよりも低圧作動室15b側に位置する収容溝低圧側第2内壁面114fとからなる。また、収容溝低圧側第1内壁面114eおよび収容溝低圧側第2内壁面114fは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びる面である。
【0114】
そして、シール低圧側外壁面163のうちシール底部外壁面161側の一部が収容溝低圧側第1内壁面114eに押し付けられ、シール低圧側外壁面163と収容溝低圧側第2内壁面114fとの間に低圧側隙間53が形成される。この低圧側隙間53の寸法を、低圧側隙間寸法δ2とする。
【0115】
これによると、低圧側隙間53に低圧作動室15bの圧力P
Lが導入され、シール低圧側外壁面163のうち収容溝低圧側第1内壁面114eに当接する部位を除く面に低圧作動室15bの圧力P
Lが作用し、半径方向荷重Frは必要にして十分な荷重が確保されるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0116】
ここで、シール低圧側外壁面163のうち低圧作動室15bの圧力P
Lが作用する領域の歯部突出方向の長さをL2とする。なお、この長さL2は、収容溝低圧側第1内壁面114eと収容溝低圧側第2内壁面114fとの境界部から基板部121までの歯部突出方向の長さに相当する。
【0117】
そして、前述したように、Fr=(P
H−P
L)×L1/2×a以上が半径方向荷重Frの必要にして十分な荷重との考え方に基づけば、L2/L1≧0.5が望ましいものであるが、L2/L1<0.5であっても、半径方向荷重Frを安定して確保することができる。
【0118】
また、第1実施形態においては、低圧側隙間53を通る歯部渦巻き方向の洩れを許容範囲に抑えるために、δ2max=2×δ1、としたが、本実施形態においては、δ2=L1/L2×δ1、とすればよい。
【0119】
なお、本実施形態においては、収容溝低圧側第2内壁面114fは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びる面であったが、
図9に示す第3実施形態の変形例のように、収容溝低圧側第2内壁面114fは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して傾斜した面であってもよい。
【0120】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状は
図10に示す可動スクロール歯部112およびチップシール16の具体的形状と同様である。したがって、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状に関する図示および説明を省略する。
【0121】
図10に示すように、シール収容溝114の収容溝低圧側内壁面114cは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びている。
【0122】
また、シール低圧側外壁面163は、歯部突出方向に対して傾斜している。より詳細には、シール低圧側外壁面163は、シール底部外壁面161側よりもシール基板側外壁面164側が、半径方向内側に位置するように、歯部突出方向に対して傾斜している。
【0123】
そして、シール低圧側外壁面163は歯部突出方向に対して傾斜しているため、シール低圧側外壁面163と収容溝低圧側内壁面114cとの間に低圧側隙間53が形成される。
【0124】
これによると、低圧側隙間53に低圧作動室15bの圧力P
Lが導入され、シール低圧側外壁面163の全面に低圧作動室15bの圧力P
Lが作用し、半径方向荷重Frは必要にして十分な荷重が確保されるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0125】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。以下、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。なお、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状は
図11に示す可動スクロール歯部112およびチップシール16の具体的形状と同様である。したがって、固定スクロール歯部122およびチップシール17の具体的形状に関する図示および説明を省略する。
【0126】
図11に示すように、シール収容溝114の収容溝低圧側内壁面114cは、歯部渦巻き方向に沿って延びるとともに歯部突出方向に対して平行に延びている。
【0127】
また、シール低圧側外壁面163は、シール底部外壁面161側に位置するシール低圧側第1外壁面163aと、シール低圧側第1外壁面163aよりもシール基板側外壁面164側に位置するシール低圧側第2外壁面163bとからなる。
【0128】
より詳細には、シール低圧側第1外壁面163aは、シール底部外壁面161側よりもシール基板側外壁面164側が、半径方向外側に位置するように、歯部突出方向に対して傾斜している。
【0129】
一方、シール低圧側第2外壁面163bは、シール底部外壁面161側よりもシール基板側外壁面164側が、半径方向内側に位置するように、歯部突出方向に対して傾斜している。
【0130】
そして、シール低圧側第1外壁面163aとシール低圧側第2外壁面163bとの境界部が収容溝低圧側第1内壁面114eに押し付けられ、シール低圧側第2外壁面163bと収容溝低圧側内壁面114cとの間に低圧側隙間53が形成される。
【0131】
これによると、低圧側隙間53に低圧作動室15bの圧力P
Lが導入され、シール低圧側第2外壁面163bに低圧作動室15bの圧力P
Lが作用し、半径方向荷重Frは必要にして十分な荷重が確保されるため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0132】
ところで、可動スクロール11と固定スクロール12の相対運動により、基板部121とシール基板側外壁面164の摺動面に摩擦力Fμが発生する。そして、これまで半径方向荷重Frは差圧に基づく荷重で説明してきたが、
図15に斜線矢印で示すように可動スクロールが半径方向に移動する状態のときに、その摩擦力Fμが差圧に基づく半径方向荷重Frに対抗して、実質的な半径方向荷重Frが減少し、シール性が低下してしまう。
【0133】
また、本実施形態では、シール低圧側第1外壁面163aに高圧作動室15aの圧力P
Hが作用するため、半径方向荷重Frは上記各実施形態よりも小さくなり、摩擦力Fμの影響によるシール性の低下が特に懸念される。
【0134】
さらに、摺動面の圧力分布は、理想的には、
図14に示すように高圧作動室930の圧力P
Hから低圧作動室940の圧力P
Lまで連続的に変化する形になるが、チップシール920のシール基板側外壁面の形状により、
図15に示すように、ほぼ全域で低圧作動室940の圧力P
Lとなる圧力分布も考えられる。
【0135】
ここで、従来例のチップシール920の幅寸法をX、チップシール920と基板部950との摩擦係数をμとすると、
図15に示す圧力分布の場合、Fμ(max)≒(P
H−P
L)×X×a×μとなる。
【0136】
一方、本実施形態においては、シール低圧側第2外壁面163bの歯部突出方向の長さをL2とすると、
図15に示すような圧力分布になった場合、Fr=(P
H−P
L)×L1×aとなる。
【0137】
そして、これらの式から、Fr−Fμが負にならない条件として、L2>μ×Xが導かれる。
【0138】
したがって、前述したように、Fr=(P
H−P
L)×L1/2×a以上が半径方向荷重Frの必要にして十分な荷重との考え方に基づけば、L2/L1≧0.5が望ましいものであるが、シール低圧側第2外壁面163bの長さL2を、L2>μ×Xに設定することにより、Fr−Fμが正になり、シール性を確保することができる。
【0139】
同様に、第3実施形態(
図8参照)においても、長さL2を、L2>μ×Xに設定することにより、Fr−Fμが正になり、シール性を確保することができる。
【0140】
なお、本実施形態においては、シール低圧側第1外壁面163aおよびシール基板側外壁面164側が歯部突出方向に対して傾斜しているが、
図12に示す第5実施形態の変形例のように、シール低圧側第1外壁面163aおよびシール基板側外壁面164側は、歯部突出方向に対して平行で且つ歯部突出方向に沿って階段状になっていてもよい。
【0141】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0142】
また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。
【0143】
また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0144】
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【0145】
また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。