特許第6248626号(P6248626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248626
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】副変速機付き無段変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20171211BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20171211BHJP
   F02D 17/02 20060101ALI20171211BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
   F02D17/02 S
   F02D29/00 C
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-272960(P2013-272960)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127561(P2015-127561A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河本 脩平
【審査官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−225463(JP,A)
【文献】 特開2006− 44582(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/088875(WO,A1)
【文献】 特開昭62−137238(JP,A)
【文献】 特開2008−309175(JP,A)
【文献】 特開昭62−181928(JP,A)
【文献】 特開昭62−152930(JP,A)
【文献】 特開2004−116627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ての気筒で駆動する全筒駆動モードと、特定な一部の気筒で駆動する減筒駆動モードとのいずれかの駆動モードで駆動するエンジンと、該エンジンからの動力を変速する副変速機としての有段変速機を備えた無段変速機と、が搭載された車両に設けられた副変速機付き無段変速機の変速制御装置において
前記変速制御装置は、前記エンジンが最適な燃費で駆動する目標回転速度に前記エンジンの機関回転速度が近づくように前記有段変速機または前記無段変速機を変速させる変速制御部を備え、
前記駆動モードが前記全筒駆動モードから前記減筒駆動モードあるいは前記減筒駆動モードから前記全筒駆動モードに切り替えられたことを条件として、前記変速制御部は、前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度に近づけるように前記有段変速機の変速比を変更させ、前記有段変速機の変速比が変更された後に、前記有段変速機によって変速された前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度にさらに近づけるように前記無段変速機の変速比を変更させることを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記変速制御部は、前記駆動モードが前記全筒駆動モードから前記減筒駆動モードに切り替えられた場合には、前記有段変速機が変速された後の前記エンジンの機関回転速度である到達回転速度が前記目標回転速度以下となることを条件に、前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度に近づけるように前記有段変速機の変速比を変更させ、前記駆動モードが前記減筒駆動モードから前記全筒駆動モードに切り替えられた場合には、前記到達回転速度が前記目標回転速度以上となることを条件に、前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度に近づけるように前記有段変速機の変速比を変更させることを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記変速制御部は、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させたときの前記エンジンの機関回転速度と前記目標回転速度との差の絶対値が規定値未満となる場合には、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させ、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させたときの前記エンジンの機関回転速度と前記目標回転速度との差の絶対値が規定値未満とならない場合には、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させないことを特徴とする請求項1に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副変速機付き無段変速機の変速制御装置に関し、詳しくは、エンジンの一部の気筒の燃焼を休止させてエンジンを駆動する気筒休止機能を備えた車両に設けられた副変速機付き無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関型のエンジンを有する車両において、エンジンの一部の気筒の燃焼を休止させることができる気筒休止機能を備え、一部の気筒の燃焼を一時的に休止することで、燃費の向上を図るものがある。
【0003】
このような気筒休止機能を備えたものとして、特許文献1には、稼動気筒数が変更可能な気筒数制御エンジンにおいて、稼動気筒数が変わる場合に、無段変速機の変速比の変更と、モータジェネレータによるトルク調整とを併用することによって、エンジンを最適な燃費で駆動するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−67591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されたものは、モータジェネレータ及びモータジェネレータによって発電された電力を充電するためのバッテリ等が必要となるため、車両の製造コスト及び重量が増加してしまうといった課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、車両の製造コスト及び重量を増加させることなく、エンジンを最適な燃費で駆動させることができる副変速機付き無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、全ての気筒で駆動する全筒駆動モードと、特定な一部の気筒で駆動する減筒駆動モードとのいずれかの駆動モードで駆動するエンジンと、該エンジンからの動力を変速する副変速機としての有段変速機を備えた無段変速機と、が搭載された車両に設けられた副変速機付き無段変速機の変速制御装置において前記変速制御装置は、前記エンジンが最適な燃費で駆動する目標回転速度に前記エンジンの機関回転速度が近づくように前記有段変速機または前記無段変速機を変速させる変速制御部を備え、前記駆動モードが前記全筒駆動モードから前記減筒駆動モードあるいは前記減筒駆動モードから前記全筒駆動モードに切り替えられたことを条件として、前記変速制御部は、前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度に近づけるように前記有段変速機の変速比を変更させ、前記有段変速機の変速比が変更された後に、前記有段変速機によって変速された前記エンジンの機関回転速度を前記目標回転速度にさらに近づけるように前記無段変速機の変速比を変更させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第2の態様として、変速制御部は、駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられた場合には、有段変速機が変速された後のエンジンの機関回転速度である到達回転速度が目標回転速度以下となることを条件に、エンジンの機関回転速度を目標回転速度に近づけるように有段変速機の変速比を変更させ、駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられた場合には、到達回転速度が目標回転速度以上となることを条件に、エンジンの機関回転速度を目標回転速度に近づけるように有段変速機の変速比を変更させるようにしてもよい。
【0010】
本発明の第3の態様として、前記変速制御部は、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させたときの前記エンジンの機関回転速度と前記目標回転速度との差の絶対値が規定値未満となる場合には、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させ、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させたときの前記エンジンの機関回転速度と前記目標回転速度との差の絶対値が規定値未満とならない場合には、前記エンジンの機関回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記有段変速機を変速させないようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
このように、上記の第1の態様は、エンジンの駆動モードが切り替えられたことを条件として、エンジンの機関回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機を変速させるため、モータジェネレータ及びモータジェネレータによって発電された電力を充電するためのバッテリ等を必要としない。したがって、上記の第1の態様は、車両の製造コスト及び重量を増加させることなく、エンジンを最適な燃費で駆動させることができる。
【0012】
上記の第1の態様は、エンジンの機関回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機を変速させるだけでなく、エンジンの機関回転速度が目標回転速度に近づくように無段変速機を変速させるため、エンジンを最適な燃費で駆動させることができる。
【0013】
上記の第2の態様は、駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられた場合には、有段変速機が変速された後のエンジンの機関回転速度である到達回転速度が目標回転速度以上となることを条件に、エンジンの機関回転速度を目標回転速度に近づけるように有段変速機の変速比を変更させ、駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられた場合には、到達回転速度が目標回転速度以下となることを条件に、エンジンの機関回転速度を目標回転速度に近づけるように有段変速機の変速比を変更させるため、エンジンの機関回転速度のオーバーシュートを抑制しつつ、エンジンの機関回転速度を目標回転速度に近づけることができる。
【0014】
上記の第3の態様は、有段変速機を変速させることによって、エンジンの機関回転速度が目標回転速度から規定値以上離れてしまう場合には、有段変速機の変速を禁止するため、エンジンの駆動モードが切り替えられたことによる変速にかかる時間の短縮が見込めない場合には、有段変速機の無駄な変速を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る変速制御装置を搭載した車両の要部を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る変速制御装置によって参照される動作マップを示す概念図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る変速制御装置の変速制御動作を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る変速制御装置の作用を説明するためのタイミングチャートである。
図5図5は、本発明の実施の形態に係る変速制御装置の他の態様における変速制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る変速制御装置を搭載した車両1は、内燃機関型のエンジン2と、無段変速機(Continuously Variable Transmission、以下、「CVT」ともいう)3と、油圧制御装置4と、副変速機としての有段変速機5と、駆動軸6と、駆動輪7と、エンジン制御装置(以下、単に「EG−ECU」という)8と、変速機制御装置(以下、単に「TM−ECU」という)9とを含んで構成されている。
【0017】
エンジン2は、車両1を駆動するための動力を生成するようになっている。エンジン2には、複数の気筒が形成されている。各気筒には、ピストンが往復に移動できるように収納され、ピストンの頭頂部上に燃焼室が画成される。各気筒には、各気筒の燃焼室に向けて燃料を噴射するインジェクタ10が設けられている。
【0018】
エンジン2は、ピストンが気筒を2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うとともに、圧縮行程及び膨張行程の間に、インジェクタ10によって噴射された燃料を含む混合気に点火する4サイクルのエンジンによって構成されている。
【0019】
また、エンジン2は、気筒休止エンジンを構成し、EG−ECU8の制御に応じて、全ての気筒で駆動する全筒駆動モードと、特定な一部の気筒(以下、単に「特定気筒」という)で駆動する減筒駆動モードとのいずれかの駆動モードで駆動するようになっている。すなわち、エンジン2は、減筒駆動モードにおいて、特定気筒を除く他の気筒(以下、単に「休止気筒」という)の駆動を休止することができるようになっている。
【0020】
エンジン2には、EG−ECU8の制御に応じて休止気筒に対する吸気ポート及び排気ポートを吸気バルブ及び排気バルブによってそれぞれ全閉状態にすることができる可変バルブコントローラ11が設けられている。
【0021】
全筒駆動モードにおいて、エンジン2は、EG−ECU8の制御によって、全ての気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射が許可され、全ての気筒に対する吸気バルブ及び排気バルブがエンジン2の行程に応じたタイミングで開閉するように可変バルブコントローラ11が制御される。
【0022】
一方、減筒駆動モードにおいて、エンジン2は、EG−ECU8の制御によって、特定気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射が許可され、特定気筒に対する吸気バルブ及び排気バルブがエンジン2の行程に応じたタイミングで開閉するように可変バルブコントローラ11が制御される。
【0023】
すなわち、減筒駆動モードにおいて、エンジン2は、EG−ECU8の制御によって、休止気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射が禁止され、休止気筒に対する吸気ポート及び排気ポートが全閉状態になるように可変バルブコントローラ11が制御される。
【0024】
CVT3は、エンジン2によって生成された動力を変速するようになっている。CVT3は、プライマリプーリ20と、セカンダリプーリ21と、ベルト22とを有している。ベルト22は、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ21にそれぞれ形成されたV溝に巻き掛けられている。CVT3は、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ21のV溝の内壁部とベルト22との間の摩擦力によって動力を伝達するようになっている。
【0025】
プライマリプーリ20には、TM−ECU9によって制御された油圧で駆動するプライマリソレノイド23が設けられている。プライマリソレノイド23は、TM−ECU9による制御に応じて、プライマリプーリ20のV溝の幅を変化させることにより、プライマリプーリ20におけるベルト22の巻き掛け径を変更するようになっている。
【0026】
セカンダリプーリ21には、TM−ECU9によって制御された油圧で駆動するセカンダリソレノイド24が設けられている。セカンダリソレノイド24は、TM−ECU9による制御に応じて、セカンダリプーリ21のV溝の幅を変化させることにより、セカンダリプーリ21におけるベルト22の巻き掛け径を変更するようになっている。
【0027】
このように、CVT3は、プライマリプーリ20及びセカンダリプーリ21におけるベルト22の巻き掛け径をそれぞれ変更することにより、動力を伝達するギヤ比を無段階に変化させることができるようになっている。
【0028】
油圧制御装置4は、油圧回路と、複数のソレノイド弁とを有し、有段変速機5を制御するようになっている。油圧制御装置4は、TM−ECU9によって制御される複数のソレノイド弁により、有段変速機5に供給する作動油の流路を切り替えるとともに、作動油の油圧を調整するようになっている。
【0029】
有段変速機5は、CVT3によって変速された動力を更に変速させるようになっている。有段変速機5は、複数の遊星歯車機構と、クラッチ及びブレーキを構成する複数の摩擦係合要素とを有する自動変速機によって構成される。
【0030】
有段変速機5は、TM−ECU9によって制御された油圧制御装置4から供給される作動油に応じて、各摩擦係合要素の掴み変えを行うことにより、所望の変速段を形成するようになっている。
【0031】
本実施の形態において、有段変速機5は、1速及び2速の2つの前進変速段および1つの後進変速段のうちいずれかの変速段を形成するものとする。有段変速機5によって変速された動力は、ファイナルギヤ機構27を介して駆動軸6に伝達され、駆動輪7を回転させる。
【0032】
EG−ECU8は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートと、ネットワークモジュールとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0033】
ネットワークモジュールは、TM−ECU9等の他のECU(Electronic Control Unit)とCAN(Controller Area Network)を介して通信を行うことができるようになっている。なお、本実施の形態において、EG−ECU8及びTM−ECU9は、CANを介して通信を行うものとして説明するが、フレックスレイ等の他の規格に準拠したネットワークを介して通信を行うようにしてもよい。
【0034】
EG−ECU8のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをEG−ECU8として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、EG−ECU8において、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、EG−ECU8として機能する。
【0035】
本実施の形態において、EG−ECU8の入力ポートには、アクセルペダル30の操作量を表すアクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ31と、車速を検出する車速センサ32と、エンジン2の機関回転速度(以下、単に「エンジン回転速度」という)を検出するエンジン回転速度センサ33とが接続されている。
【0036】
一方、EG−ECU8の出力ポートには、インジェクタ10及び可変バルブコントローラ11に加えて、スロットルバルブ40の開度を変化させるスロットルバルブアクチュエータ41が接続されている。
【0037】
EG−ECU8は、アクセルポジションセンサ31によって検出されたアクセル開度に基づいてエンジン2の負荷を推定し、エンジン2の負荷が予め定められた第1閾値以上となったことを条件として、全筒駆動モードをとるようにエンジン2を制御し、エンジン2の負荷が予め第1閾値未満に定められた第2閾値未満となったことを条件として、減筒駆動モードをとるようにエンジン2を制御するようになっている。
【0038】
ここで、EG−ECU8は、全筒駆動モードをとるようにエンジン2を制御する場合には、全ての気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射を許可し、全ての気筒に対する吸気バルブ及び排気バルブがエンジン2の行程に応じたタイミングで開閉するように可変バルブコントローラ11を制御するようになっている。
【0039】
また、EG−ECU8は、減筒駆動モードをとるようにエンジン2を制御する場合には、特定気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射を許可し、特定気筒に対する吸気バルブ及び排気バルブがエンジン2の行程に応じたタイミングで開閉するように可変バルブコントローラ11を制御するとともに、休止気筒に対応するインジェクタ10による燃料の噴射を禁止し、休止気筒に対する吸気ポート及び排気ポートが全閉状態になるように可変バルブコントローラ11を制御するようになっている。
【0040】
また、EG−ECU8は、エンジン2の駆動モードに関わらず、エンジン2の出力を変化させずに、エンジン2が最適な燃費で駆動するように、エンジン回転速度と、エンジン2の出力トルク(以下、単に「エンジントルク」という)を調整するようになっている。
【0041】
図2に示すように、EG−ECU8のROMには、エンジン2が最適な燃費で駆動するエンジン回転速度とエンジントルクとの関係を最適燃費線として表す動作マップが格納されている。
【0042】
なお、図2に示す動作マップは、横軸がエンジン回転速度を表し、縦軸がエンジントルクを表し、全筒駆動モードにおける最適燃費線60と、減筒駆動モードにおける最適燃費線61と、エンジン2の出力を表す等出力線62とが示されている。
【0043】
図2に示すように、エンジン2の駆動モードが切り替えられた場合には、全筒駆動モードにおける最適燃費線60と、減筒駆動モードにおける最適燃費線61とが異なる。このため、EG−ECU8は、エンジン2の駆動モードを切り替える場合には、最適燃費線60と等出力線62との交点63に該当するエンジン2の駆動状態と、最適燃費線61と等出力線62との交点64に該当するエンジン2の駆動状態との間で、エンジン2の駆動状態が遷移するように、エンジン回転速度及びエンジントルクを調整するようになっている。
【0044】
例えば、EG−ECU8は、スロットルバルブアクチュエータ41を介してスロットルバルブ40の開度を変化させることにより、エンジントルクを調整するようになっている。なお、EG−ECU8は、エンジン2の点火タイミングを調整することにより、エンジントルクを調整するようにしてもよい。
【0045】
また、EG−ECU8は、TM−ECU9にCVT3及び有段変速機5のギヤ比を変更させることにより、エンジン回転速度を調整するようになっている。このため、EG−ECU8は、車速センサ32によって検出された車速と、エンジン2の駆動モードと、エンジン回転速度センサ33によって検出されたエンジン回転速度と、エンジン2の駆動モードの切り替え先に対応する目標回転速度とを表す制御信号をTM−ECU9に送信するようになっている。
【0046】
例えば、図2において、目標回転速度は、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられる場合には、交点63の横軸に対応するエンジン回転速度となる。また、目標回転速度は、エンジン2の駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられる場合には、交点64の横軸に対応するエンジン回転速度となる。
【0047】
TM−ECU9は、CPUと、RAMと、ROMと、フラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートと、ネットワークモジュールとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。ネットワークモジュールは、EG−ECU8等の他のECUとCANを介して通信を行うことができるようになっている。
【0048】
TM−ECU9のROMには、各種制御定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをEG−ECU8として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、TM−ECU9において、CPUがROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータユニットは、TM−ECU9として機能する。
【0049】
本実施の形態において、TM−ECU9の入力ポートには、シフトコントローラ51になされたシフト操作を検出するシフトセンサ52が接続されている。一方、TM−ECU9の出力ポートには、プライマリソレノイド23、セカンダリソレノイド24及び油圧制御装置4が接続されている。
【0050】
TM−ECU9は、シフトセンサ52によって検出されたシフト操作並びにEG−ECU8から送信された制御信号が表す各種情報に応じて、プライマリソレノイド23、セカンダリソレノイド24及び油圧制御装置4を制御し、CVT3及び有段変速機5のギヤ比を変更させるようになっている。
【0051】
詳細には、TM−ECU9は、現在のシフトレンジがドライブレンジ等の前進用レンジであることを条件として、EG−ECU8から送信された制御信号が表すエンジン回転速度が目標回転速度に近づくように、プライマリソレノイド23、セカンダリソレノイド24及び油圧制御装置4を制御し、CVT3及び有段変速機5のギヤ比を変更させるようになっている。
【0052】
本実施の形態において、TM−ECU9は、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させる変速制御部を構成する。
【0053】
TM−ECU9は、有段変速機5を変速させた後のエンジン回転速度の到達回転速度を算出するようになっている。詳細には、TM−ECU9のROMには、車速、有段変速機5のギヤ比及びCVT3のギヤ比の組み合わせに対して、到達回転速度が対応付けられたマップが格納されている。
【0054】
TM−ECU9は、ROMに格納されたマップを参照して、到達回転速度を算出するようになっている。なお、TM−ECU9は、車速、有段変速機5のギヤ比及びCVT3のギヤ比を入力パラメータとする関数によって到達回転速度を算出するようにしてもよい。
【0055】
TM−ECU9は、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことにより、有段変速機5を変速させるにあたって、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度を通り越さないことを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させるようになっている。
【0056】
すなわち、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられる場合には、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度以上であることを条件として、有段変速機5に形成させる変速段を1速から2速に変更させるようになっている。
【0057】
一方、エンジン2の駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられる場合には、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度以下であることを条件として、有段変速機5に形成させる変速段を2速から1速に変更させるようになっている。
【0058】
また、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させた後、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させるようになっている。
【0059】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る変速制御装置による変速制御動作について図3を参照して説明する。なお、以下に説明する変速制御動作は、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことを条件としてスタートする。
【0060】
まず、TM−ECU9は、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられたか否かを判断する(ステップS1)。ここで、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられたと判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5が1速を形成しているか否かを判断する(ステップS2)。
【0061】
ここで、有段変速機5が1速を形成していないと判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。一方、有段変速機5が1速を形成していると判断した場合には、TM−ECU9は、到達回転速度を算出する(ステップS4)。
【0062】
次いで、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度以上であるか否かを判断する(ステップS5)。ここで、到達回転速度が目標回転速度以上でないと判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。
【0063】
一方、到達回転速度が目標回転速度以上であると判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5を2速に変速させ(ステップS6)、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。
【0064】
ステップS1において、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられていない、すなわち、エンジン2の駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられたと判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5が2速を形成しているか否かを判断する(ステップS7)。
【0065】
ここで、有段変速機5が2速を形成していないと判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。一方、有段変速機5が2速を形成していると判断した場合には、TM−ECU9は、到達回転速度を算出する(ステップS8)。
【0066】
次いで、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度以下であるか否かを判断する(ステップS9)。ここで、到達回転速度が目標回転速度以下でないと判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。
【0067】
一方、到達回転速度が目標回転速度以下であると判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5を1速に変速させ(ステップS10)、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS3)、変速制御動作を終了する。
【0068】
以上に説明した本実施の形態の作用について、図4を参照して説明する。図4において、横軸は時刻を表し、縦軸は、エンジン回転速度、CVT3のギヤ比、有段変速機5のギヤ比及びエンジン2の駆動モードを表している。
【0069】
また、図4において、実線は、本実施の形態における各値を示し、破線は、変速時にCVT3のギヤ比を有段変速機5のギヤ比より優先的に変更する従来の制御(以下、「従来制御」という)による各値を示している。
【0070】
まず、時刻t1において、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられると、時刻t1から時刻t2にかけて、エンジントルクがEG−ECU8によって調整されるとともに、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5が1速から2速に変速される。
【0071】
時刻t2から時刻t3にかけて、エンジン回転速度が目標回転速度に更に近づくようにCVT3が変速され、時刻t3で、エンジン2の駆動モードの切り替えによる変速動作が終了する。
【0072】
一方、従来制御では、時刻t1に、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3の変速が開始される。時刻t4において、CVT3のギヤ比が限界に達すると、時刻t4から時刻t5にかけて、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように、ギヤ比が上昇するようにCVT3が変速されるとともに、有段変速機5が1速から2速に変速され、時刻t5で、エンジン2の駆動モードの切り替えによる変速動作が終了する。
【0073】
このように、変速に時間がかかるCVT3によってエンジン回転速度を目標回転速度に近づけながらCVT3に連動させて有段変速機5を変速するよりも、有段変速機5によってエンジン回転速度を目標回転速度に近づけてから、CVT3によってエンジン回転速度を目標回転速度に近づけた方がエンジン2の駆動モードの切り替えによる変速動作が早く終了することが分かる。
【0074】
以上のように、本実施の形態は、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させるため、モータジェネレータ及びモータジェネレータによって発電された電力を充電するためのバッテリ等を必要としない。したがって、本実施の形態は、車両1の製造コスト及び重量を増加させることなく、エンジン2を最適な燃費で駆動させることができる。
【0075】
また、本実施の形態は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させるだけでなく、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させるため、エンジン2を最適な燃費で駆動させることができる。
【0076】
また、本実施の形態は、エンジン回転速度が目標回転速度を通り越さない範囲で近づくように有段変速機5を変速させるため、エンジン回転速度のオーバーシュートを抑制しつつ、エンジン回転速度を目標回転速度に近づけることができる。
【0077】
なお、本実施の形態において、有段変速機5は、前進変速段として1速及び2速の2つ変速段を形成するものとして説明したが、有段変速機5は、前進変速段として3つ以上の変速段を形成するものでもよい。
【0078】
この場合には、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度を通り越さないことを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に最も近づくように有段変速機5を変速させるように構成される。
【0079】
すなわち、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードと全筒駆動モードとの間で切り替えられた場合では、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度以上であることを条件として、到達回転速度と目標回転速度との差の絶対値が最も小さい変速段を有段変速機5に形成させるように構成される。
【0080】
また、本実施の形態において、TM−ECU9は、到達回転速度が目標回転速度を通り越さないことを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させるものとして説明した。
【0081】
これに対し、TM−ECU9は、到達回転速度と目標回転速度との差の絶対値が規定値未満となることを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させるようにしてもよい。ここで、規定値は、実験的に予め定められた定数である。
【0082】
このように構成することにより、本実施の形態は、有段変速機5を変速させることによって、エンジン回転速度が目標回転速度から規定値以上離れてしまう場合には、有段変速機5の変速を禁止するため、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことによる変速にかかる時間の短縮が見込めない場合には、有段変速機5の無駄な変速を防止することができる。
【0083】
以下、有段変速機5は、前進変速段として3つ以上の変速段(例えば、1速〜6速)を形成し、TM−ECU9は、到達回転速度と目標回転速度との差の絶対値が規定値未満となることを条件として、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくように有段変速機5を変速させた場合の変速制御動作について図5を参照して説明する。なお、以下に説明する変速制御動作は、エンジン2の駆動モードが切り替えられたことを条件としてスタートする。
【0084】
まず、TM−ECU9は、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられたか否かを判断する(ステップS21)。ここで、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられたと判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5が最高変速段(例えば、6速)を形成しているか否かを判断する(ステップS22)。
【0085】
ここで、有段変速機5が最高変速段を形成していると判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS23)、変速制御動作を終了する。一方、有段変速機5が最高変速段を形成していないと判断した場合には、TM−ECU9は、現変速段より高い各変速段における到達回転速度を算出する(ステップS24)。
【0086】
次いで、TM−ECU9は、到達回転速度と目標回転速度との差の絶対値dNeが最小となる変速段を選択する(ステップS25)。次いで、TM−ECU9は、絶対値dNeが規定値未満であるか否かを判断する(ステップS26)。
【0087】
ここで、絶対値dNeが規定値未満でないと判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS23)、変速制御動作を終了する。
【0088】
一方、絶対値dNeが規定値より未満である判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5をステップS25で選択した変速段に変速させ(ステップS27)、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS23)、変速制御動作を終了する。
【0089】
ステップS21において、エンジン2の駆動モードが減筒駆動モードから全筒駆動モードに切り替えられていない、すなわち、エンジン2の駆動モードが全筒駆動モードから減筒駆動モードに切り替えられたと判断した場合には、TM−ECU9は、有段変速機5が最低変速段(例えば、1速)を形成しているか否かを判断する(ステップS28)。
【0090】
ここで、有段変速機5が最低変速段を形成していると判断した場合には、TM−ECU9は、エンジン回転速度が目標回転速度に近づくようにCVT3を変速させ(ステップS23)、変速制御動作を終了する。
【0091】
一方、有段変速機5が最低変速段を形成していないと判断した場合には、TM−ECU9は、現変速段より低い各変速段における到達回転速度を算出する(ステップS29)。そして、TM−ECU9は、変速制御動作をステップS25に移す。
【0092】
以上、本発明の実施の形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が特許請求の範囲に記載された請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0093】
1 車両
2 エンジン
3 CVT(無段変速機)
5 有段変速機(副変速機)
9 TM−ECU(変速制御部)
図1
図2
図3
図4
図5