(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維径0.01〜10μmの極細繊維を主体とする繊維絡合体と弾性重合体を構成成分として備え、前記極細繊維がポリエステルを構成成分として含み、前記ポリエステルがジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールを共重合成分として含み、さらに前記ポリエステル中に1,2−プロパンジオール由来の成分が15〜500ppm含有されていることを特徴とする人工皮革用基体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の人工皮革用基体における極細繊維を形成するポリエステルは、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体(以下、ジカルボン酸成分ともいう。)とジオールとの反応により得られ、前記ポリエステルは1,2−プロパンジオール由来の成分を15〜500ppm、より好ましくは、45〜400ppmの範囲で含有する。得られるポリエステル中の1,2−プロパンジオール由来の成分の含有量は上記範囲より多いと、かえって耐熱性は悪化し、少ないと耐熱性改善効果はない。
【0016】
なお、ここでいう、「1,2−プロパンジオール由来の成分」とは、ポリエステルを分解して分析した際に検出される1,2−プロパンジオールの総量であって、ポリマー鎖中に共重合されている1,2−プロパンジオール由来構造からなる1,2−プロパンジオール、およびポリマー間に混在している1,2−プロパンジオールの総量を表す。すなわち、この1,2−プロパンジオールは、ポリエステル主鎖中に一部共重合されていてもよく、共重合されずに単体として含有されていてもよい。
【0017】
本発明のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸)、ジフェニルジカルボン酸(例えば、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸)、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸およびドデカン二酸などの脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸塩(5−スルホイソフタル酸リチウム塩、5−スルホイソフタル酸カリウム塩、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩など)などの芳香族ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などが挙げられる。本発明でいう「エステル形成性誘導体」とは、これらジカルボン酸の低級アルキルエステル、酸無水物、アシル塩化物などを意味し、例えば、メチルエステル、エチルエステル、ヒドロキシエチルエステルなどが好ましく用いられる。本発明のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体としてより好ましい態様は、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルである。
【0018】
また、テレフタル酸および/またはそのジメチルエステルは、バイオマス資源由来であってもよい。バイオマス資源由来テレフタル酸を得る方法としては特に限定されず、どのような方法が用いられてもよいが、例えばユーカリ属の植物から得られるシネオールからp−シメンを合成し(日本化学会誌、(2)、P217−219;1986参照)、その後p−メチル安息香酸を経て(Organic Syntheses,27;1947参照)、テレフタル酸を得る方法が挙げられる。さらに別の方法としてフランジカルボン酸とエチレンからディールスアルダー反応によってテレフタル酸を得る方法が挙げられる(WO2009−064515号公報参照)。このようにして得られたバイオマス資源由来テレフタル酸は、さらにエステル形成性誘導体に変換されてもよい。
【0019】
本発明のジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、分子量が500〜20000のポリオキシアルキレングリコール(ポリエチレングリコールなど)、ビスフェノールA−エチレンオキサイド付加物のようなジオール成分などが挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましい。さらに、エチレングリコールとしては、バイオマス資源由来のエチレングリコールには、1,2−プロパンジオールが含まれていることが多いため、精製により含有量を調整したバイオマス資源由来のエチレングリコールを用いるのがより好ましい。
【0020】
バイオマス資源由来のエチレングリコールを得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば、とうもろこし、さとうきび、小麦または農作物の茎などのバイオマス資源から得る方法が挙げられる。これらバイオマス資源は、まずでんぷんに転化され、でんぷんは水と酵素でグルコースに転化され、続いて水素添加反応にてソルビトールに転化され、ソルビトールは引続き一定の温度と圧力で触媒存在下、水素添加反応にて各種のグリコールの混合物となり、これを精製してエチレングルコールを得る方法がある。
【0021】
本発明において、バイオマス資源由来の炭素の割合を「バイオ化率」ともいう。バイオマス資源由来原料を用いた場合、得られるポリエステルのバイオ化率は、
14C濃度(pMC)を測定することにより求めることが可能である。
【0022】
放射性炭素
14Cの濃度は以下の放射性炭素濃度測定法により測定することができる。放射性炭素濃度測定法とは、加速器質量分析装置(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)により、分析する試料に含まれる炭素の同位体(
12C,
13C,
14C)を原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体原子それぞれの存在量を計測する方法である。炭素原子は通常
12Cであり、同位体である
13Cは約1.1%存在している。
14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は約5370年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。地球の高層大気中では宇宙線が継続的に照射され続けており、微量ではあるが、絶えず
14Cが生成され放射壊変とバランスし、大気中では
14Cの濃度はほぼ一定値(炭素原子の約一兆分の一)となっている。この
14Cは直ちに二酸化炭素の
12Cと交換反応をおこし、
14Cを含んだ二酸化炭素が生成する。植物は大気中の二酸化炭素を取り込み光合成により成長するため、
14Cが常に一定濃度で含まれることになる。これに対して化石資源である石油、石炭、天然ガスにおいては当初は含まれていた
14Cが長い年月をかけて既に崩壊しており、ほとんど含まれていない。よって、
14Cの濃度を測定することにより、バイオマス資源由来炭素をどの程度含んでいるのか、化石資源由来炭素をどの程度含んでいるのかを判別することができる。現在では、1950年代の自然界における循環炭素中の
14C濃度を100%とする基準を用いることが通常おこなわれ、標準物質としてシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)が用いられ、下式のように表される値が求められる。この割合の単位としてはpMC(percent Modern Carbon)が用いられる。
pMC=(
14Csa/
14C50)×100
14C50:標準物質の
14C濃度(1950年代の自然界における循環炭素中の
14C濃度)
14Csa:測定サンプルの
14C濃度。
【0023】
2011年時点で測定される大気中の
14C濃度は105pMC(percent Modern Carbon)であることがわかっているため、仮に100%バイオマス資源由来の物質であれば、ほぼ同じ105pMC程度の値を示すことが知られている。一方、化石資源の
14C濃度(pMC)は0pMCであることから、バイオ化率としては、100%を105pMC、0%を0pMCに割り当てることによって計算できる。測定値X(pMC)のバイオ化率Y(%)は以下の式より求められる。
105:100=X:Y
【0024】
本発明から得られるポリエステルのバイオ化率が10%以上であることが好ましく、環境負荷の低減の観点から、15%以上であることがより好ましい。
【0025】
本発明の人工皮革用基体の製造に用いるポリエステルとしては、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分(以下、ジカルボン酸成分と略す場合がある。)としてテレフタル酸および/またはそのジメチルエステル、ジオール成分としてエチレングリコールを用いて得られるポリエチレンテレフタレートが好ましく、主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体であると耐熱性の改善度合がより顕著となる。
【0026】
また、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、分子量が500〜20000のポリオキシアルキレングリコール(ポリエチレングリコールなど)、ジエチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ビスフェノールA−エチレンオキサイド付加物のようなジオール成分が挙げられる。
【0027】
本発明の人工皮革用基体の製造に用いるポリエステルの共重合成分としては、下記の成分から誘導される構造単位を含んでいてもよい。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸およびドデカン二酸などの脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸およびイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸塩(5−スルホイソフタル酸リチウム塩、5−スルホイソフタル酸カリウム塩、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩など)などの芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位を含むことができる。
【0028】
なかでも、5−スルホイソフタル酸リチウム塩、5−スルホイソフタル酸カリウム塩、5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩のような5−スルホイソフタル酸塩およびそのエステル形成性誘導体や、分子量が500〜20000のポリオキシアルキレングリコールがより好ましい。ポリオキシアルキレングリコールとしてはポリエチレングリコールが好ましく、分子量が500〜10000のポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0029】
5−スルホイソフタル酸塩は、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分を基準として0.1〜10モル%共重合されているのが好ましく、分子量が500〜30000のポリオキシアルキレングリコールは、得られるポリエステルの重量を基準として0.1〜10.0重量%共重合されているのが好ましい。
【0030】
これら共重合成分は単独でもよいが、2種類以上を組み合わせて共重合されている時には、耐熱性の改善度がより顕著となるため好ましい。
前記共重合成分が含まれるポリエステルは、例えば、海島型複合繊維の海成分(溶出成分)として好適に用いられるが、極細繊維を形成する島成分におけるのと同様に、1,2−プロパンジオール由来の成分が含まれることで、結晶性の阻害効果などにより、通常のポリエステル対比溶解性が向上することから、より好適に用いることができる。
【0031】
本発明の人工皮革用基体で用いられる極細繊維の平均繊維径は、0.01〜10μmとすることが重要である。平均繊維径を10μm以下、好ましくは5μm以下とすることにより、スエード調人工皮革とした場合に良好なタッチを得ることが可能となる。一方、平均繊維径を0.01μm以上、好ましくは0.5μm以上とすることにより、優れた繊維強度および剛性を維持することができる。
【0032】
本発明で用いられるポリエステルからなる極細繊維を構成するポリエステル系ポリマーには、粒子、難燃剤および帯電防止剤などの添加剤を含有させても良い。
【0033】
本発明で用いられる繊維絡合体としては、織編物や不織布などを用いることができる。中でも、極細繊維の束(極細繊維束)が絡合してなる不織布が、表面の均一性、シート強力などの観点から好ましく用いられる。
【0034】
極細繊維束の形態としては、極細繊維同士が多少離れていてもよいし、部分的に結合していてもよいし、極細繊維同士が凝集していてもよい。
【0035】
本発明の人工皮革用基体に用いられる不織布としては、短繊維をカードやクロスラッパーを用いて積層ウェブを形成させた後に、ニードルパンチやウォータジェットパンチを施して得られる短繊維不織布、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布、および抄紙法で得られる不織布などを採用することができる。中でも、短繊維不織布やスパンボンド不織布は、厚み均一性などが良好なものが得られるため、好ましく用いられる。
【0036】
本発明で用いられる不織布は、強度を向上させるなどの目的で、不織布に織物や編物を積層し、裏張りしてもよい。不織布と織編物をニードルパンチで積層一体化する場合、織編物を構成する繊維のニードルパンチによる損傷を防ぐため、織編物の糸条を強撚糸とすることが好ましい。糸条の撚数は、500T/m〜4500T/mが好ましい範囲である。また、織編物の繊維径は、極細繊維不織布の繊維径と同じ、もしくはさらに細いものを用いても良い。
【0037】
本発明の人工皮革用基体は、前記した不織布などの繊維絡合体が弾性重合体を含有していることが重要である。弾性重合体のバインダー効果により極細繊維が人工皮革用基体から抜け落ちるのを防止することができるだけでなく、適度なクッション性を付与することが可能となる。
【0038】
本発明では、弾性重合体として、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマーおよびスチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができるが、柔軟性とクッション性の観点からポリウレタンが好ましく用いられる。
【0039】
ポリウレタンとしては、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、あるいはポリエステルポリエーテルジオールなどのポリマージオールなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族系、イソホロンジイソシアネートなどの脂環族系およびヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系のジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネートと、エチレングリコール、ブタンジオール、エチレンジアミンおよび4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどの2個以上の活性水素原子を有する少なくとも1種類の低分子化合物とを、所定のモル比で反応させて得られたポリウレタンおよびその変性物が挙げられる。
【0040】
また、本発明の弾性重合体には、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、およびエチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていても良い。
【0041】
また、本発明で用いられる弾性重合体には、必要に応じて、カーボンブラックなどの顔料、染料酸化防止剤、酸化防止剤、耐光剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤および防臭剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0042】
また、本発明の弾性重合体は、有機溶剤中に溶解していても、水中に分散していてもどちらでもよい。
【0043】
本発明の弾性重合体の含有率は、極細繊維束が絡合してなる繊維絡合体に対し、5〜100質量%であることが好ましい。弾性重合体の含有量によって、人工皮革用基体の表面状態、クッション性、硬度および強度などを調節することができる。弾性重合体の含有率を5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上とすることで、繊維脱落を少なくすることができる。一方、弾性重合体の含有率を100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下とすることにより、極細繊維がシート表面上に均一分散した状態を得ることができる。
【0044】
本発明の人工皮革用基体の目付は、100〜500g/m
2であることが好ましい。目付が100g/m
2以上、より好ましくは150g/m
2以上とすることで、人工皮革用基体に十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、目付が500g/m
2以下、より好ましくは300g/m
2以下とすることで、十分な柔軟性が得られる。
【0045】
本発明の人工皮革用基体の厚さは、0.1〜10mmであることが好ましい。厚さを0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上とすることで、十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、厚さを10mm以下、より好ましくは5mm以下とすることで十分な柔軟性が得られる。
【0046】
本発明の人工皮革用基体は、少なくとも片面に立毛処理が施されていることが好ましい。このようにすることで、スエード調人工皮革としたときに、緻密なタッチが得られる。
【0047】
次に、本発明の人工皮革用基体、およびそれを構成するポリエステル繊維を製造する方法について説明する。
本発明で用いるポリエステルの製造方法は、(A)テレフタル酸とアルキレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、(B)ジメチルテレフタレートとアルキレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスが好ましく用いられる。
【0048】
また、本発明で用いるポリエステルは、安定剤としてリン化合物が添加されることが好ましい。具体的にはリン酸、リン酸トリメチル、ジエチルホスホノ酢酸エチルなどが好ましい。さらに、下記化学式(1)で表される、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン(PEP−36:旭電化社製)又は下記化学式(2)で表される、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト(GSY−P101:大崎工業社製)などの3価リン化合物が色調や耐熱性改善の面からより好ましい。前記リン化合物の添加量は、特に限定されないが、ポリマーに対してリン原子換算で10ppm〜500ppmであることが好ましい。
【化1】
【化2】
【0049】
また、本発明で用いるポリエステルには、必要に応じて、色調調整剤として樹脂などに用いられる染料が添加されてもよい。特に、COLOR INDEX GENERIC NAMEで具体的にあげると、SOLVENT BLUE 104やSOLVENT BLUE 45などの青系の色調調整剤、SOLVENT VIOLET 36などの紫系色調調整剤が装置腐食の要因となりやすいハロゲンを含有せず、高温での耐熱性が比較的良好で発色性に優れるため好ましい。これらは単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明で用いるポリエステルには、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤又はその他の添加剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0051】
また、本発明においてさらに高分子量のポリアルキレンテレフタレートを得るため、上記の方法で得られたポリアルキレンテレフタレートについて、さらに固相重合を行ってもよい。固相重合は、装置・方法は特に限定されないが、窒素などの不活性ガス雰囲気下または減圧下で加熱処理されることで実施される。
【0052】
本発明にて得られるポリエステルはバッチ重合、半連続重合、連続重合で生産することができ、通常のポリエステル同様、乾燥、紡糸、延伸およびその他通常この分野で実施される種々の後加工を行ってもよい。
【0053】
本発明の人工皮革用基体は、例えば次の工程を組み合わせることにより得られる。すなわち、(a)平均繊維径0.01〜10μmの前記ポリエステルを主構成成分とする極細繊維発生型繊維(複合繊維)を複合紡糸し、複合繊維ウェブを作成する工程、(b)前記複合繊維ウェブに絡合処理を施して繊維絡合体を作製する工程、(c)前記複合繊維から複合繊維を構成している易溶性ポリマーを溶解除去あるいは物理的または化学的作用により剥離・分割し、極細繊維化する前および/または後に、ポリウレタンを主成分とした弾性重合体を不織布(繊維絡合体)に付与し、弾性重合体を実質的に凝固し固化させる工程、(d)および起毛処理を施し表面に立毛を形成する工程である。さらに、(c)の易溶性ポリマーの溶解除去あるいは物理的または化学的作用による剥離・分割工程は、(a)工程、(b)工程を経て、ポリウレタンを主成分とした弾性重合体を不織布(繊維絡合体)に付与し、弾性重合体を実質的に凝固し固化させる工程、(d)および起毛処理を施し表面に立毛を形成する工程の後に行うこともできる。
【0054】
本発明において、極細繊維束が絡合してなる不織布を得る手段としては、海島型繊維などの極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維から直接不織布を製造することは困難であるが、極細繊維発生型繊維から不織布を製造し、この不織布における極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させることにより、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0055】
極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分に用い、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。
【0056】
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する混合紡糸繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物(繊維絡合体)の強度にも資する点から、海島型複合繊維が特に好ましく用いられる。
【0057】
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合させた共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができる。特に、5−ナトリウムイソフタル酸を共重合させたポリエステルを好適に用いることができる。
【0058】
海成分の溶解除去は、弾性重合体を付与する前、付与した後、起毛処理後のいずれの段階で行ってもよい。
【0059】
不織布を得る方法としては、前述のとおり、繊維ウェブをニードルパンチやウォータジェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法、および抄紙法などを採用することができ、なかでも、前述のような極細繊維束の態様とする上で、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの処理を経る方法が好ましい。
【0060】
不織布は、織編物を積層一体化させてもよく、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどにより一体化する方法が好ましく用いられる。
【0061】
ニードルパンチ処理において、バーブの本数は1〜9本であることが好ましい。本数を1本以上とすることで、効率的な繊維の絡合が可能となる。一方、本数を9本以下とすることで、繊維損傷を抑えることができる。バーブに引っかかる極細繊維発生型繊維の本数は、バーブの形状と極細繊維発生型繊維の直径によって決定される。極細繊維発生型繊維を3〜10本引掛けるために、ニードルパンチ工程で用いられる針のバーブ形状は、キックアップ0〜50μm、アンダーカットアングル0〜40°、スロートデプス40〜80μm、スロートレングス0.5〜1.0mmのものが好ましく用いられる。
【0062】
パンチング本数は、1000〜7500本/cm
2であることが好ましい。パンチング本数を1000本/cm
2以上とすることで、緻密性が得られ高精度の仕上げを得ることができる。一方、パンチング本数を7500本/cm
2以下とすることで、加工性の悪化、繊維損傷および強度低下を防ぐことができる。
【0063】
また、織編物と極細繊維発生型繊維不織布を積層一体化する場合、積層時のニードルパンチのニードルのバーブ方向は、シートの進行方向に対して直行する90±20°とすることにより、損傷しやすい緯糸を引掛けにくくなる。
【0064】
また、ウォータジェットパンチ処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。具体的には、直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで水を噴出させると良い。
【0065】
ニードルパンチ処理あるいはウォータジェットパンチ処理後の極細繊維発生型繊維不織布の見掛け密度は、0.15〜0.30g/cm
3であることが好ましい。見掛け密度を0.15g/cm
3以上とすることで、人工皮革用基体が十分な形態安定性と寸法安定性が得られる。一方、見掛け密度を0.30g/cm
3以下とすることで、弾性重合体を付与するための十分な空間を維持することができる。
【0066】
このようにして得られた極細繊維発生型繊維不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらにロールなどで厚み方向に圧縮することにより、さらに高密度化することが好ましい。
【0067】
極細繊維発生型繊維から易溶解性ポリマー(海成分)を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレンやポリスチレンなどのポリオレフィンであればトルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶媒を用いることができ、海成分がポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、極細繊維発生加工(脱海処理)は、溶剤中に極細繊維発生型繊維からなる不織布を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
【0068】
また、極細繊維発生加工には、連続染色機、バイブロウォッシャー型脱海機、液流染色機、ウィンス染色機およびジッガー染色機などの公知の装置を用いることができる。また、極細繊維発生加工は、立毛処理前に行ってもよいし立毛処理後に行ってもよい。
【0069】
弾性重合体の繊維絡合体(不織布など)への付与は、極細繊維発生加工の前に付与してもよいし、極細繊維発生加工の後に付与してもよい。
【0070】
弾性重合体としてポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドなどが好ましく用いられる。また、ポリウレタンを水中にエマルジョンとして分散させた水分散型ポリウレタン液としてもよい。
【0071】
繊維絡合体(不織布)を、溶媒に溶解した弾性重合体溶液に浸漬するなどして前記弾性重合体を前記繊維絡合体(不織布)に付与し、その後、乾燥することによって弾性重合体を実質的に凝固し固化させる。溶剤系のポリウレタン溶液の場合は、非溶解性の溶剤に浸漬することにより凝固させることができ、ゲル化性を有する水分散型ポリウレタン液の場合は、ゲル化させた後乾燥する乾式凝固方法などで凝固させることができる。乾燥にあたっては、繊維絡合体および弾性重合体の性能が損なわれない程度の温度で加熱してもよい。
【0072】
本発明の人工皮革用基体は、少なくとも片面が立毛されていても良い。立毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて行うことができる。特に、サンドペーパーを用いることにより、均一かつ緻密な立毛を形成することができる。さらに、人工皮革用基体の表面に均一な立毛を形成させるためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには、例えば、バフ段数を3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手を、JIS規定の120番〜600番の範囲とすることがより好ましい態様である。
【0073】
本発明の人工皮革用基体は、例えば、染料、顔料、柔軟剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤および耐候剤などの機能性薬剤を含んでいてもよい。
【0074】
本発明の人工皮革用基体は、染色を施しスエード調人工皮革とすることもできる。染色手段としては、シートを染色すると同時に揉み効果を加えて柔軟化できることから、液流染色機が好ましく用いられる。染色温度は、ポリエステル繊維に対しては、100〜150℃の温度が好ましい。染料は、酸性染料、含金染料および反応染料などが好ましく用いられる。また、染色後に還元洗浄を行っても良い。
【0075】
また、染色の均一性を向上させる目的で、染色時に染色助剤を用いることが好ましい。さらに、シリコーンなどの柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤および耐光剤などの仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理は、染色後でも染色と同浴で行ってもよい。
【0076】
本発明の人工皮革用基体は、環境配慮型素材を用いているだけでなく、耐熱性に優れるため、衣料用途、雑貨用途、CD、DVDカーテン、研磨パッド用基材、各種研磨布およびワイピングクロスなどの工業資材用途などとして好適に用いられる。
【実施例】
【0077】
次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。
【0078】
[重合に用いた原料]
・バイオマス資源由来エチレングリコール:長春大成集団製
(エチレングリコール=98.138重量%、1,2−プロパンジオール=5410ppm、1,2−ブタンジオール=2390ppm、2,3−ブタンジオール=6310ppm、1,4−ブタンジオール=4510ppm)。
・化石資源由来エチレングリコール:三菱化学社製。
(エチレングリコール=99.989重量%、1,2−プロパンジオール<15ppm(検出されず)、ジエチレングリコール=110ppm)
・テレフタル酸:三井化学社製高純度テレフタル酸(1,2−プロパンジオール<15ppm(検出されず))
・テレフタル酸ジメチル:SKケミカル社製(1,2−プロパンジオール<15ppm(検出されず))
【0079】
[測定方法および評価用加工方法]
(1)ポリエステルの固有粘度(IV)
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
【0080】
(2)熱安定性指標(ΔIV)
事前に150℃×20hr×真空下(133Pa以下)で乾燥した試料(固有粘度(IVa))6.0gを、宝工業(株)製メルトインデクサー(MX−101B)を使用し、以下の設定条件で押出した。
荷重 1000g、オリフィス内径 2.092mmφ、測定距離 25.4mm
シリンダー部温度×保持時間 295℃×60分
なお、溶融時の固有粘度低下の指標となる熱安定性指標(ΔIV)は、上記295℃×60分で保持した後、押出し開始後、測定開始から測定終了までに採取したポリマーをチップ化したものを混合し、その固有粘度(IVb)から下式より求めた。
ΔIV=(IVa)−(IVb)
【0081】
(3)融点
パーキンエルマー社(Perkin Elmaer)製DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分で、サンプル量は10mgとした。測定は2回行い、その平均値を融点とした。
【0082】
(4)メルトフローレイト(MFR)
試料ペレット4〜5gを、MFR計電気炉のシリンダーに入れ、東洋精機製メルトインデクサー(S101)を用いて、荷重2160gf、温度285℃の条件で、10分間に押し出される樹脂の量(g)を測定した。同様の測定を3回繰り返し、平均値をMFRとした。
【0083】
(5)ポリマーのジエチレングリコール(DEG)の含有量
2−アミノエタノールを溶媒とし、内部標準物質である1,6−ヘキサンジオールを加えて260℃で分解した。冷却後、メタノールを加えたのち酸で中和し、析出物をろ過した。ろ液をガスクロマトグラフィ(島津製作所社製、GC−14B)にて測定した。
【0084】
(6)ポリマーの1,2−プロパンジオール由来の成分の含有量
始めに1,2−ブタンジオールの1490μg/ml水溶液を調製し、内部標準液Aとした。試料0.1gをバイアルに秤量し、内部標準液Aを0.015ml、アンモニア水1mlを加え密栓し、150℃で3時間加熱した後室温まで放冷した。続いて、メタノール2ml、テレフタル酸2.0gを加えた後、15分間振とうし、4000Gで3分間遠心分離した。上澄み液を取り出し、ガスクロマトグラフ(Hewlett Packard社製5890 seriesII、注入口:スプリット/スプリットレス注入口、検出器:水素炎イオン化検出器)にて以下の設定条件で測定し、後述する検量線を用いて含有量を求めた。
インジェクタ温度:220℃、カラムヘッド圧:20psi、キャリアガス:ヘリウム
試料導入方法:分割(線流速 25ml/分)、隔壁パージ:ヘリウム 3.0ml/分
試料導入量:1.0μl、ディテクタ温度:220℃
ガス流量:水素40ml/分,空気400ml/分,窒素40ml/分
オーブン昇温開始温度:60℃(保持時間2分)、オーブン昇温停止温度:220℃(保持時間30秒)、オーブン昇温速度:20℃/分(直線傾斜)。
1,2−プロパンジオールの検量線は次の手順で作成した。1,2−プロパンジオールの2500μg/ml水溶液を調製し標準母液Bとした後、5mlメスフラスコ中に標準母液Bを0.003〜0.08ml、内部標準液Aを0.025ml加え、混合溶媒(メタノール:精製水=2:1、エチレングリコール1.1%含有)で定容してなる標準液Cを、標準母液Bの量を変化させて7種類調製した。調製した標準液Cをそれぞれガスクロマトグラフィにて前記の条件で測定した後、得られた1,2−プロパンジオールと内部標準物質のピーク面積比と標準液C中の1,2−プロパンジオールと内部標準物質の濃度比をグラフにプロットすることで、1,2−プロパンジオールの検量線を作製した。
【0085】
(7)エチレングリコールの1,2−プロパンジオールの含有量
エチレングリコール約0.15gを秤量し、5mlメスフラスコ中アセトンを用いて溶解、定容した。調製溶液をガスクロマトグラフ(Hewlett Packard社製5890 seriesII、注入口:スプリット/スプリットレス注入口、検出器:水素炎イオン化検出器)にて以下の設定条件で測定し、試料の代わりに1,2−プロパンジオールを用いて同様の操作で測定し作製した検量線を用いて含有量を求めた。
インジェクタ温度:250℃、カラムヘッド圧:15psi、キャリアガス:ヘリウム
試料導入方法:分割(線流速 50ml/分)、隔壁パージ:ヘリウム 3.0ml/分
試料導入量:1.0μl、ディテクタ温度:250℃
ガス流量:水素40ml/分,空気400ml/分,窒素40ml/分
オーブン昇温開始温度:50℃(保持時間3分)、オーブン昇温停止温度:250℃(保持時間1分)、オーブン昇温速度:15℃/分(直線傾斜)。
【0086】
(8)口金周りの堆積物と糸切れ頻度
繊維の紡出から100時間後の口金孔周辺の堆積物量を、長焦点顕微鏡を用いて観察した。堆積物がほとんど認められず、糸切れも発生せず、生産が可能である状態を◎(合格・良好)、堆積物が認められ、それに伴い、頻繁に糸切れが発生する状態を×(不合格)として判定した。
【0087】
(9)バイオ化率測定法
ASTM D6866に従いバイオ化率を求めた。
具体的には、サンプル(極細繊維)をサンドペーパーおよび粉砕機にて粉砕した後、酸化銅とともに加熱して完全に二酸化炭素まで酸化し、これを鉄粉でグラファイトまで還元することにより、炭素単一化合物に変換した。得られたグラファイトサンプルをAMS装置に導入し、
14C濃度を測定した。なお、標準物質であるシュウ酸(米国基準・科学技術協会NIST供給)の
14C濃度も同時に測定した。ここで、サンプルの
14Cと
12Cの比(
14C/
12C)を
14As、標準物質の
14Cと
12Cの比(
14C/
12C)を
14Arとし、次式)からΔ
14Cを求めた。
Δ
14C={(
14As−
14Ar)/
14Ar}×1000
このΔ
14Cから次式により、pMC(percent Modern Carbon)を求めた。
pMC=Δ
14C/10+100
米国材料試験規格(ASTM)のD6866に従って、このpMCに次式の通り0.95(=100/105)をかけることにより、バイオ化率を求めた。
バイオ化率(%)=0.95×pMC
【0088】
(10)極細繊維の平均繊維径
人工皮革用基体の極細繊維を含む厚み方向に垂直な断面を、走査型電子顕微鏡(SEM キーエンス社製VE−7800型)で、3000倍で観察し、30μm×30μmの視野内で無作為に抽出した50本の単繊維直径を測定した。これを3ヶ所で行い、合計150本の単繊維の直径を測定し、小数点以下を四捨五入して平均値を算出した。極細繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、当該断面を円形と見立てた場合の直径を算出することによって単繊維の直径を求めた。
【0089】
(11)製品摩耗評価(マーチンデール摩耗評価)
マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel 406を用い、標準摩擦布として同社のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、試料(人工皮革)に12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視で観察し、評価した。評価基準は、試料の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつ区切った。
【0090】
[参考例1]
入手した20kgバイオマス資源由来エチレングリコールを蒸留操作として、理論段数40段、圧力50mmHg、還流比10の条件で蒸留を実施し、塔底残留物として粗エチレングリコールを得た(1,2−プロパンジオール:3520ppm含有)。得られた粗エチレングリコールを設定温度190℃の加熱釜中で15時間加熱した後、室温まで冷却した。
一方、活性炭(二村化学工業株式会社製:太閤SGA)を軟水で洗浄後乾燥し、乾燥後の活性炭を活性炭処理設備中に充填した。活性炭層の厚さは300cm、空間速度は0.57hr
−1であり、上記で加熱後冷却したバイオマス資源由来エチレングリコールを活性炭層中に流した後収集した。最終的に1,2−プロパンジオールの含有量が220ppmのバイオマス資源由来エチレングリコール(精製品)を得た。
【0091】
[参考例2]
活性炭層の厚さを200cmとし、空間速度を0.86hr
−1とした以外は参考例1と同様にして、最終的に1,2−プロパンジオールの含有量が910ppmのバイオマス資源由来エチレングリコール(精製品)を得た。
【0092】
[参考例3]
蒸留操作後の粗エチレングリコールの加熱処理時間を30時間とし、活性炭層の厚さを500cmとし、空間速度を0.34hr
−1とした以外は参考例1と同様にして、最終的に1,2−プロパンジオールの含有量が50ppmのバイオマス資源由来エチレングリコール(精製品)を得た。
【0093】
[参考例4]
バイオマス資源由来エチレングリコールを設定温度190℃の加熱釜中で10時間加熱した後、室温まで冷却した。
一方、活性炭を軟水で洗浄後乾燥し、乾燥後の活性炭を活性炭処理設備中に充填した。活性炭層の厚さは150cm、空間速度は1.14hr
−1であり、上記で加熱後冷却したバイオマス資源由来エチレングリコールを活性炭層中に流した後収集した。最終的に1,2−プロパンジオールの含有量が2790ppmのバイオマス資源由来エチレングリコール(粗精製品)を得た。
【0094】
[参考例5]
入手した20kgバイオマス資源由来エチレングリコールを1回目の蒸留操作として、理論段数30段、圧力50mmHg、還流比5の条件にて蒸留を実施したところ、塔底残留物として粗エチレングリコールを得た(1,2−プロパンジオール:4180ppm含有)。続いて2回目の蒸留操作として、理論段数30段、圧力50mmHg、還流比5の条件で蒸留を実施した。最終的に塔底残留物として、1,2−プロパンジオールの含有量が3020ppmのバイオマス資源由来エチレングリコール(粗精製品)を得た。
【0095】
[参考例6]
1,2−プロパンジオールが検出されない(15ppm未満)化石資源由来エチレングリコール(三菱化学社製)。
【0096】
[実施例1]
実施例1で用いたエチレングリコールは全て参考例1で得られたバイオマス資源由来エチレングリコール(精製品)を用いた。
【0097】
テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールから得られたビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×100,000Paに保持されたエステル化反応槽にテレフタル酸82.5kgとエチレングリコール35.4kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物101.5kgを重縮合槽に移送した。
移送後、エステル化反応生成物に、得られるポリマーに対してアンチモン原子換算で240ppm相当の三酸化アンチモン、リン原子換算で18ppm相当のリン酸トリメチルをエチレングリコール溶液として添加した。さらに5分後に酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、得られるポリマーに対して酸化チタン粒子換算で0.1重量%相当添加した。その後、30rpmで撹拌しながら反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を250℃から280℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を110Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。得られたポリマーの特性を表1にまとめた。
【0098】
[実施例2]
実施例2で用いたエチレングリコールは全て参考例1で得られたバイオマス資源由来エチレングリコール(精製品)を用いた。
【0099】
得られるポリマーに対してマグネシウム原子換算で60ppm相当の酢酸マグネシウムとテレフタル酸ジメチル100kgとエチレングリコール58kgを、150℃、窒素雰囲気下で溶融後、攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応をおこない、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートを得た。これを重縮合槽に移送した。
移送後、得られるポリマーに対してアンチモン原子換算で250ppm相当の三酸化アンチモン、リン原子換算で40ppm相当のリン酸トリメチルを添加する30分前に別の混合槽にてエチレングリコール中で事前混合し、常温にて30分撹拌した後、その混合物を添加した。さらに5分後に酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、得られるポリマーに対して酸化チタン粒子換算で0.1重量%相当添加した。そしてさらに5分後に、反応系を減圧にして反応を開始した。反応器内を250℃から280℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を110Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の撹拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は3時間30分であった。得られたポリマーの特性を表1にまとめた。
【0100】
[実施例3、実施例4]
用いるエチレングリコールを表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0101】
[実施例5]
用いる重合触媒とその添加量、および酸化チタンの添加量、得られるポリマーを構成する全ジカルボン酸成分を基準として8mol%相当の5−スルホイソフタル酸ナトリウムジメチルエステルをエステル化反応物に添加した以外は、実施例2と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0102】
[実施例6]
得られるポリマーを構成する全ジカルボン酸成分を基準として5mol%相当の5−スルホイソフタル酸ナトリウムジメチルエステルをエステル化反応物に添加した以外は、実施例1と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0103】
[実施例7]
<原綿>
(島成分ポリマー)
実施例1で作製したポリエステルペレットを用いた。
(海成分ポリマー)
ビカット軟化点102℃、MFR67.8のポリスチレン(PSt)を用いた。
(織編物を構成する繊維ポリマー)
融点260℃、MFR98.5のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
(紡糸・延伸)
島成分ポリマーを用い、16島/ホールの海島型複合紡糸口金を用いて、紡糸温度285℃、島/海質量比率80/20、吐出量1.4g/分・ホール、紡糸速度1200m/分の条件で溶融紡糸した。
次いで、85℃の温度の液浴中でトータル倍率が2.8倍となるように2段延伸し、スタッフィングボックス型のクリンパーを用いて捲縮を付与した。得られた海島型複合繊維は、単繊維繊度が4.2dtexであった。この海島型複合繊維を繊維長51mmにカットして、海島型複合繊維の原綿を得た。
<不織布および織物の絡合体(シート基体)>
上記の海島型複合繊維からなる原綿を用い、カード工程とクロスラッパー工程により、積層繊維ウェブを形成し、17枚積層した。次いで、上記織編物を構成する繊維用のPETを用い、撚糸の単糸直径が経糸と緯糸が共に140μm(総繊度110dtex−288フィラメント)で、撚数が2000T/m、織密度が1インチ当たり80×66(タテ×ヨコ)の平織組織の織物で、前記の積層繊維ウェブを上下に挟み、織物/繊維ウェブ/織物の積層状態にして、トータルバーブデプス0.075mmのニードル1本を植込んだニードルパンチ機を用いて、針深度7mm、パンチ本数3000本/cm
2でニードルパンチ処理を行い、目付が710g/m
2、見掛け密度が0.245g/cm
3の織物と海島型複合繊維からなる不織布が積層絡合一体化したシート基体を作製した。
<人工皮革用基体>
上記のシート基体を98℃の温度の熱水で収縮させた後、5%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を含浸し、温度120℃の熱風で10分間乾燥することにより、シート基体の質量に対するPVA質量が6質量%のシート基体を得た。このシート基体をトリクロロエチレン中に浸漬して海成分を溶解除去し、極細繊維からなる不織布と織物が絡合してなる脱海シートを得た。このようにして得られた極細繊維からなる不織布と織物とからなる脱海シートを、固形分濃度12%に調整したポリカーボネート系ポリウレタンのDMF(ジメチルホルムアミド)溶液に浸漬し、次いでDMF濃度30%の水溶液中でポリウレタンを凝固させた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、110℃の温度の熱風で10分間乾燥することにより、島成分からなる前記極細繊維と前記織物の合計質量に対するポリウレタン質量が27質量%の人工皮革を得た。その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁により厚み方向に半裁し、半裁面をJIS#180番のサンドペーパーを用いて3段研削し、立毛を形成させて人工皮革用基体を作製した。極細繊維の繊維径は、4.4μmであった。
<人工皮革>
さらに、サーキュラー乾燥機を用いて分散染料により染色を行い、人工皮革(製品)を得た。得られた人工皮革の品位は、緻密で良好であった。製品摩耗は4.5と良好であった。結果を表2に示す。
【0104】
[実施例8]
島成分ポリマーとして、実施例2で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0105】
[実施例9]
島成分ポリマーとして、実施例3で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0106】
[実施例10]
島成分ポリマーとして、実施例4で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0107】
[実施例11]
<原綿>
(島成分ポリマー)
実施例1で作製したポリエステルペレットを用いた。
(海成分ポリマー)
実施例5で作製したポリエステルペレットを用いた。
(織編物を構成する繊維ポリマー)
実施例1で作製したポリエステルペレットを用いた。
<原綿>
海成分ポリマーに上記のポリエステルペレットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が4.2dtexで、繊維長が51mmの海島型複合繊維の原綿を得た。
<不織布および織物の絡合体(シート基体)>
上記の海島型複合繊維の原綿を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシート基体を得た。
<水分散型ポリウレタン液>
非イオン系強制乳化型ポリウレタンエマルジョン(ポリカーボネート系)に、感熱ゲル化剤として硫酸ナトリウムをポリウレタン固形分対比3質量%添加し、ポリウレタン液濃度が10質量%となるようにして、水分散型ポリウレタン液を調整した。
<人工皮革用基体>
上記のシート基体を、98℃の温度で3分間熱水収縮処理し、100℃の温度で5分間乾燥させた。その後、得られたシート基体に上記の水分散型ポリウレタン液を付与し、乾燥温度125℃で5分間熱風乾燥して、ポリウレタンの付着量がシート基体の島成分に対して34質量%であるポリウレタン付シート基体を得た。
上記のポリウレタン付シート基体を90℃の温度に加熱した濃度20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、30分間処理し、海島型複合繊維から海成分を溶解除去した。その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機により厚み方向に半裁し、半裁面をJIS#150番のサンドペーパーを用いて3段研削し、立毛を形成させて人工皮革用基体を作製した。極細繊維の繊維径は、4.4μmであった。
<人工皮革>
上記の人工皮革用基体を、実施例1と同様にしてサーキュラー乾燥機を用いて分散染料により染色を行い、人工皮革を得た。得られた人工皮革(製品)の品位は、緻密で良好であった。製品摩耗は4.0と良好であった。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例12]
海成分ポリマーとして、実施例6で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0109】
[比較例1]
用いるエチレングリコールを表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0110】
[比較例2]
用いるエチレングリコールを表1に示した通り変更した以外は、実施例5と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0111】
[比較例3、4]
用いるエチレングリコールを表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーペレットを得た。結果を表1にまとめた。
【0112】
[比較例5]
島成分ポリマーとして、比較例1で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0113】
[比較例6]
島成分ポリマーとして、比較例3で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0114】
[比較例7]
島成分ポリマーとして、比較例4で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0115】
[比較例8]
島成分ポリマーとして、比較例1で作製したポリエステルペレットを、海成分ポリマーとして、比較例2で作製したポリエステルペレットを用いた以外は、実施例7と同様にして、人工皮革を作製した。結果を表2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1中、EGはエチレングリコール、TPAはテレフタル酸、DMTはテレフタル酸ジメチル、SSIAは5−スルホイソフタル酸ナトリウム、DEGはジエチレングリコール、1,2−PDは1,2−プロパンジオール、TMPAはリン酸トリメチルを意味する。
【0118】
【表2】
【0119】
実施例7〜12では、製造時の口金周りに堆積物はほとんど認められず、糸切れも発生しなかった。しかし、比較例5〜8では、製造時の口金周りに堆積物が認められ、それに伴って頻繁に糸切れが発生した。