(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記本接合工程の終了後、前記本接合用回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の伝熱板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、伝熱板の流路をベース部材の深い位置に設ける場合、蓋溝の深さを大きくするとともに、蓋板の厚さを大きくする必要がある。このような場合には、摩擦攪拌接合で用いる回転ツールの攪拌ピンの長さ及び外径を大きくする必要があり、さらには、この攪拌ピンの大型化に伴って、ショルダ部の外径も大きくする必要がある。ところが、ショルダ部の外径を大きくすると、ベース部材及び蓋板とショルダ部との摩擦が大きくなるため、摩擦攪拌装置にかかる負荷が大きくなるという問題がある。これにより、伝熱板の深い位置に流路を形成することが困難になっていた。
【0005】
また、例えば、板状の金属部材同士を重ね合わせて形成された重合部に対して、金属部材の表面から垂直に回転ツールを挿入し、金属部材同士を摩擦攪拌接合する場合がある。このような場合であっても、金属部材の板厚が大きく重合部が深い位置にある場合、摩擦攪拌接合が困難になるという問題がある。
【0006】
また、ベース部材又は金属部材の表面側から回転ツールを挿入して摩擦攪拌接合を行うと、塑性化領域の熱収縮によって伝熱板又は接合された金属部材同士の表面側が凹状となるように変形してしまうという問題がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、伝熱板の深い位置を容易に摩擦攪拌接合することができるとともに伝熱板の平坦性を高めることができる伝熱板の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、重ね合わせた金属部材の重合部が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができるとともに接合された金属部材の平坦性を高めることができる摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明は、ベース部材の表面に開口する凹溝の周囲に形成された蓋溝に、蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って攪拌ピンを備えた本接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、矯正用回転ツールを用いて前記ベース部材の裏面から摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含み、
前記蓋板は前記ベース部材の前記蓋溝の断面と略同じ矩形断面を呈し、前記本接合用回転ツールの前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを左回転させ、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、ベース部材の表面に開口する蓋溝の底面に形成された凹溝に、熱媒体用管を挿入する熱媒体用管挿入工程と、前記蓋溝に蓋板を挿入する蓋溝閉塞工程と、前記蓋溝の側壁と前記蓋板の側面との突合部に沿って攪拌ピンを備えた本接合用回転ツールを相対移動させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、矯正用回転ツールを用いて前記ベース部材の裏面から摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含み、
前記蓋板は前記ベース部材の前記蓋溝の断面と略同じ矩形断面を呈し、前記本接合用回転ツールの前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを左回転させ、前記本接合工程において、回転した前記攪拌ピンを前記突合部に挿入し、前記攪拌ピンのみを前記ベース部材及び前記蓋板に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0010】
かかる方法によれば、本接合用回転ツールのうちの攪拌ピンのみがベース部材及び蓋板に接触することになるので、従来の製造方法に比べて接合するベース部材及び蓋板と本接合用回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、突合部の深い位置を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板の深い位置に流路を容易に形成することができる。また、突合部の深い位置まで摩擦攪拌できるため、伝熱板の水密性及び気密性を高めることができる。さらに、ベース部材の裏面に摩擦攪拌を行うことで、ベース部材の裏面側にも熱収縮が発生するため、伝熱板の平坦性を高めることができる。
また、螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンの先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(ベース部材及び蓋板)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0011】
また、前記本接合工程の前に、前記突合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の突合部の目開きを防止することができる。
【0012】
また、本発明は、ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、ベース部材の表面に
、表面及び裏面が平坦な蓋板を重ね合わせる閉塞工程と、前記蓋板の表面から攪拌ピンを備えた本接合用回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記本接合用回転ツールを相対移動させる本接合工程と、矯正用回転ツールを用いて前記ベース部材の裏面から摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含み、
前記本接合用回転ツールの前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを左回転させ、前記本接合工程では、前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記蓋板のみに接触させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、ベース部材の表面に開口する凹溝又は凹部を覆うように、ベース部材の表面に
、表面及び裏面が平坦な蓋板を重ね合わせる閉塞工程と、前記ベース部材の裏面から攪拌ピンを備えた本接合用回転ツールを挿入し、前記ベース部材の表面と前記蓋板の裏面との重合部に沿って前記本接合用回転ツールを相対移動させる本接合工程と、矯正用回転ツールを用いて前記蓋板の表面から摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含み、
前記本接合用回転ツールの前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを左回転させ、前記本接合工程では、前記攪拌ピンのみを前記ベース部材と前記蓋板の両方、又は、前記ベース部材のみに接触させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0014】
かかる方法によれば、本接合用回転ツールのうちの攪拌ピンのみがベース部材又は蓋板、若しくは、ベース部材と蓋板の両方に接触することになるので、従来の製造方法に比べて本接合用回転ツールとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、深い位置にある重合部を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板の深い位置にも容易に流路を形成することができる。さらに、ベース部材の裏面に摩擦攪拌を行うことでベース部材の裏面側にも熱収縮を発生させるか、又は、蓋板の表面に摩擦攪拌を行うことで蓋板の表面側にも熱収縮を発生させることで、伝熱板の平坦性を高めることができる。
また、螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンの先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(ベース部材及び蓋板)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0015】
また、前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、本接合工程の際の重合部の目開きを防止することができる。
【0016】
また、前記本接合工程の終了後、前記本接合用回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことが好ましい。かかる製造方法によれば、伝熱板をきれいに成形することができる。
【0017】
また、本発明は、攪拌ピンを備えた本接合用回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する
内部に流路を設けない複合板の製造方法であって、一方の前記金属部材の表面と他方の前記金属部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成する重合部形成工程と、他方の前記金属部材の表面から
回転した前記本接合用回転ツールを挿入し、
一方の前記金属部材の表面と他方の前記金属部材の裏面との前記重合部
に沿って前記本接合用回転ツールを相対移動させる本接合工程と、矯正用回転ツールを用いて一方の金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う矯正工程と、を含
み、前記本接合用回転ツールの前記攪拌ピンは、基端部から離間するにつれて先細りになっており、前記攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを右回転させ、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成する場合は、前記本接合用回転ツールを左回転させ、前記本接合工程では、前記攪拌ピンのみを一方の前記金属部材と他方の前記金属部材の両方、又は、他方の前記金属部材のみに接触させた状態で前記重合部の摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0018】
かかる方法によれば、本接合用回転ツールのうちの攪拌ピンのみが金属部材の両方又は片方に接触することになるので、従来の製造方法に比べて本接合用回転ツールと金属部材との摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本発明によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、深い位置にある重合部を容易に摩擦攪拌接合することができる。さらに、一方の金属部材の裏面に摩擦攪拌を行うことで、一方の金属部材の裏面側にも熱収縮が発生するため、接合された金属部材の平坦性を高めることができる。
また、螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンの先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0019】
また、前記本接合工程の前に、前記重合部を仮接合する仮接合工程を含むことが好ましい。かかる方法によれば、本接合工程の際の重合部の目開きを防止することができる。
【0020】
また、前記本接合工程の終了後、前記回転ツールの摩擦攪拌によって生じたバリを切除するバリ切除工程を含むことが好ましい。かかる方法によれば、接合した金属部材をきれいに成形することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る伝熱板の製造方法によれば、深い位置にある突合部を容易に摩擦攪拌接合することができるとともに伝熱板の平坦性を高めることができる。また、本発明に係る摩擦攪拌接合方法によれば、重ね合わせた金属部材の重合部が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができるとともに接合された金属部材の平坦性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び矯正用回転ツールについて説明する。
【0024】
本接合用回転ツールFは、
図1の(a)に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0025】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。本実施形態では、本接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝F3は、上から下に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0026】
なお、本接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F3を上から下に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。螺旋溝F3をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝F3によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(後記するベース部材2及び蓋板10)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0027】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W1が形成される。
【0028】
矯正用回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。矯正用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。矯正用回転ツールGは、本接合用回転ツールFよりも小型になっている。ショルダ部G1は、
図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0029】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0030】
図2の(b)に示すように、矯正用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダ部G1の下端を被接合金属部材に挿入しつつ移動させる。矯正用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W2が形成される。矯正用回転ツールGは、
図2の(b)における矯正用回転ツールGの摩擦攪拌時の入熱量は、
図1の(b)における本接合用回転ツールFの摩擦攪拌の入熱量よりも小さくなるようになっている。
【0031】
次に、本実施形態の伝熱板について説明する。
図3の(a)及び(b)に示すように、伝熱板1は、平面視矩形の板厚のベース部材2と、蓋板10と、熱媒体用管20とで主に構成されている。ベース部材2と蓋板10との突合部J1,J2は、それぞれ摩擦攪拌によって接合されている。
【0032】
ベース部材2は、熱媒体用管20に流れる熱媒体の熱を外部に伝達させる役割、あるいは、外部の熱を熱媒体用管20に流れる熱媒体に伝達させる役割を果たすものである。ベース部材2は、
図4の(a)及び(b)に示すように、平面視正方形を呈する直方体である。ベース部材2は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。ベース部材2の表面Zaには、蓋溝6が凹設されており、蓋溝6の底面の中央には、蓋溝6よりも幅狭の凹溝8が凹設されている。
【0033】
蓋溝6は、蓋板10が配置される部分であって、平面視略馬蹄状に一定の幅及び深さで連続して形成されている。蓋溝6は、断面視矩形を呈し、蓋溝6の底面6cから垂直に立ち上がる側壁6a,6bを備えている。
【0034】
凹溝8は、熱媒体用管20が挿入される部分であって、蓋溝6の底面6cの中央部分において、蓋溝6の全長に亘って形成されている。凹溝8は、上方が開口した断面視U字状の溝であって、下端には半円形の底面7が形成されている。凹溝8の開口部分の幅は、底面7の直径と略同等になっている。
【0035】
熱媒体用管20は、
図4の(a)及び(b)に示すように、断面視円形の中空部18を有する円筒管である。熱媒体用管20は、本実施形態では銅からなり、平面視馬蹄状を呈する。熱媒体用管20の外径は、凹溝8の幅及び凹溝8の深さと略同等に形成されているため、凹溝8に熱媒体用管20を配置すると、熱媒体用管20の下半部と凹溝8の底面7とが面接触するとともに、熱媒体用管20の上端が、蓋板10の下面12と接触する。
熱媒体用管20には、本実施形態においては、マイクロヒーターを挿通するが、他にも例えば、冷却水、冷却ガス、高温液、あるいは高温ガスなどの熱媒体を循環させて、熱媒体の熱をベース部材2及び蓋板10に、あるいは、ベース部材2及び蓋板10の熱を熱媒体に伝達させてもよい。
【0036】
なお、本実施形態においては、熱媒体用管20は、断面視円形としたが、断面視角形であってもよい。また、熱媒体用管20は、本実施形態においては、銅管を用いているが、他の材料の管を用いてもよい。また、熱媒体用管20は、必ずしも設ける必要は無く、凹溝8に直接熱媒体を流入させてもよい。
【0037】
蓋板10は、
図4の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2の蓋溝6の断面と略同じ矩形断面を形成する上面11、下面12、側面13a及び側面13bを有し、平面視略馬蹄状で形成されている。蓋板10は、本実施形態では、ベース部材2と同様の材料で形成されている。蓋板10の厚みは、蓋溝6の深さと略同等になっている。また、蓋板10の幅は、蓋溝6の溝幅と略同等に形成されているため、蓋板10を蓋溝6に配置すると、蓋板10の側面13a,13bは、蓋溝6の側壁6a,6bとそれぞれ面接触するか又は微細な隙間をあけて対向する。
【0038】
また、本実施形態においては、凹溝8と熱媒体用管20の下半部を面接触させ、かつ、熱媒体用管20の上端と蓋板10の下面12とを接触させたが、これに限定されるものではない。また、蓋溝6、凹溝8、蓋板10及び熱媒体用管20は、本実施形態では、平面視馬蹄状を呈するように形成したがこれに限定されるものではなく、伝熱板1の用途に応じて適宜設計すればよい。
【0039】
次に、伝熱板1の製造方法について説明する。本実施形態に係る伝熱板1の製造方法は、(1)溝形成工程、(2)熱媒体用管挿入工程、(3)蓋溝閉塞工程、(4)本接合工程、(5)矯正工程、(6)焼鈍工程を含むものである。
【0040】
(1)溝形成工程
溝形成工程では、
図5の(a)に示すように、ベース部材2の表面Zaに、所定の幅及び深さで蓋溝6及び凹溝8を形成する。溝形成工程は、例えば、公知のエンドミル等を用いて、切削加工により行う。
【0041】
(2)熱媒体用管挿入工程
熱媒体用管挿入工程では、
図5の(b)に示すように、溝形成工程で形成された凹溝8に熱媒体用管20を挿入する。
【0042】
(3)蓋溝閉塞工程
蓋溝閉塞工程では、
図5の(b)及び(c)に示すように、蓋溝6に蓋板10を配置して、蓋溝6を閉塞する。ここで、蓋溝6と蓋板10との突き合わせ面において、蓋溝6の側壁6aと蓋板10の側面13aとで突き合わされた部分を突合部J1とし、蓋溝6の側壁6bと蓋板10の側面13bとで突き合わされた部分を突合部J2とする。
【0043】
(4)本接合工程
接合工程では、突合部J1,J2に沿って、接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う。接合工程は、本実施形態では、突合部J1を摩擦攪拌する第一本接合工程と、突合部J2を摩擦攪拌する第二本接合工程とを含む。
【0044】
第一本接合工程では、
図6、
図7の(a)及び(b)に示すように、ベース部材2と蓋板10との突合部J1に沿って、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う。まず、ベース部材2の表面Zaの任意の位置に開始位置S
M1を設定し、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に挿入する。開始位置S
M1は、本実施形態では、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍に設定する。そして、突合部J1の始点s1に向かって本接合用回転ツールFを相対移動させる。さらに、
図7の(a)に示すように、始点s1に達したら、本接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J1に沿って移動させる。このとき、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(
図1の(a)参照)のみがベース部材2及び蓋板10に接触した状態で摩擦攪拌を行う。
【0045】
本接合用回転ツールFが突合部J1の終点e1に達したら、本接合用回転ツールFをそのまま開始位置S
M1側に移動させて、任意の位置に設定した終了位置E
M1で本接合用回転ツールFを離脱させる。なお、開始位置S
M1、始点s1、終了位置E
M1及び終点e1は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の近傍であり、かつ、突合部J1の近傍であることが好ましい。
【0046】
次に、第二接合工程では、
図7の(b)及び(c)に示すように、ベース部材2と蓋板10との突合部J2に沿って摩擦攪拌を行う。まず、ベース部材2の表面Zaの任意の地点hに開始位置S
M2を設定し、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2をベース部材2に挿入する。次に、突合部J2の始点s2に向かって本接合用回転ツールFを相対移動させる。次に、始点s2に達したら、本接合用回転ツールFを離脱させずに、そのまま突合部J2に沿って移動させる。このとき、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(
図1の(a)参照)のみがベース部材2及び蓋板10に接触した状態で摩擦攪拌を行う。
【0047】
本接合用回転ツールFが突合部J2の終点e2に達したら、本接合用回転ツールFをそのまま地点f側に移動させて、地点fに設定した終了位置E
M2で本接合用回転ツールFを離脱させる。なお、開始位置S
M2、及び終了位置E
M2は、本実施形態の位置に限定するものではないが、ベース部材2の外縁の隅部であることが好ましい。これにより、終了位置E
M2に抜け穴が残存する場合は、隅部を切削加工して除去することができる。
【0048】
図7の(c)に示すように、本接合工程によって、突合部J1及び突合部J2に沿って塑性化領域W1(W1a,W1b)が形成される。これにより、熱媒体用管20がベース部材2及び蓋板10によって密閉される。本接合工程における攪拌ピンF2の挿入深さは適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が蓋溝6の底面6cに達する位置(
図3の(b)参照)まで挿入する。これにより、突合部J1及び突合部J2の深さ方向の全体を摩擦攪拌することができる。
【0049】
ここで、
図8は、第一実施形態に係る伝熱板の製造方法において、本接合工程を行った後を示した図であって、(a)は斜視図であり、(b)は地点c及び地点fを結ぶ線の断面図である。伝熱板1には、本接合工程によって塑性化領域W1,W1が形成される。塑性化領域W1は、熱収縮によって縮むため、伝熱板1の表面Za側において、ベース部材2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、伝熱板1は表面Za側が凹となるように反りが発生する可能性がある。特に、伝熱板1の表面Zaに示す地点a〜地点jのうち、伝熱板1の四隅に係る地点a,c,f,hにおいては、その反りの影響が顕著に現れる傾向がある。なお、地点jは、伝熱板1の中心地点を示す。
【0050】
(5)矯正工程
矯正工程では、矯正用回転ツールGを用いてベース部材2の裏面Zbから摩擦攪拌を行う。矯正工程は、前記した接合工程で発生した反り(撓み)を解消するために行う工程である。矯正工程は、本実施形態では、タブ材を配置するタブ材配置工程と、ベース部材2の裏面Zbに対して摩擦攪拌を行う矯正摩擦攪拌工程と、を含む。
【0051】
タブ材配置工程では、
図9の(a)に示すように、後記する矯正摩擦攪拌工程の開始位置及び終了位置を設定するタブ材Tを配置する。タブ材Tは、本実施形態では直方体を呈し、ベース部材2と同等の材料からなる。タブ材Tは、ベース部材2の側面Zcの一部を覆い隠すようにして、側面Zcに当接させる。また、タブ材Tは、タブ材Tの両側面とベース部材2の側面Zcとを溶接によって仮接合する。タブ材Tの表面は、ベース部材2の裏面Zbと面一に形成することが好ましい。
【0052】
矯正摩擦攪拌工程では、
図9の(a)及び(b)に示すように、矯正用回転ツールGを用いて、ベース部材2の裏面Zbに対して摩擦攪拌を行う。矯正摩擦攪拌工程のルートは、本実施形態では、中心地点j’を囲み、かつ、矯正摩擦攪拌工程によって形成される塑性化領域W2が中心地点j’に対して放射状となるように設定する。なお、地点a’,地点b’・・・は、ベース部材2の表面Za側の地点a,地点b・・・(
図8参照)のそれぞれ裏面Zb側に対応する地点をいう。
【0053】
矯正摩擦攪拌工程では、
図9の(a)に示すように、まず、タブ材Tの表面に開始位置S
M2を設定し、矯正用回転ツールGの攪拌ピンG2をタブ材Tに挿入する。矯正用回転ツールGのショルダ部G1の一部がタブ材Tに接触したら、ベース部材2に向かって矯正用回転ツールGを相対移動させる。そして、ベース部材2の裏面Zbにおける地点f’、地点a’、地点c’及び地点h’付近で凸状となるとともに、地点g‘、地点d’、地点b’及び地点e’付近で凹状となるように矯正用回転ツールGを相対移動させて摩擦攪拌を行う。即ち、
図9の(b)に示すように、ベース部材2の中心線(一点鎖線)に対して線対称となるように塑性化領域W2が形成される。本実施形態では、開始位置S
M2と終了位置E
M2とをタブ材Tに設け、一筆書きの要領で摩擦攪拌を行う。これにより、摩擦攪拌を効率よく行うことができる。矯正摩擦攪拌工程が終了したら、タブ材Tを切除する。
【0054】
なお、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡、即ち、塑性化領域W2の形状が、中心地点j’を囲み、かつ、中心地点j’に対して略放射状となるように形成したが、これに限定されるものではない。矯正用回転ツールGの軌跡のバリエーションについては、後記する。
【0055】
また、本実施形態では、矯正用回転ツールGの軌跡の長さ(塑性化領域W2の長さ)は、本接合用回転ツールFの軌跡の長さ(塑性化領域W1の長さ)よりも短くなるように形成している。即ち、矯正工程における矯正用回転ツールGの加工度が、本接合工程における本接合用回転ツールFの加工度よりも小さくなるように設定している。これにより、伝熱板1の平坦性を高めることができる。ここで、加工度とは、摩擦攪拌によって形成された塑性化領域の体積量を示す。また、本実施形態では矯正工程において、タブ材を配置したが、矯正摩擦攪拌工程における摩擦攪拌のルートによっては、タブ材を設けなくてもいい。
【0056】
(6)焼鈍工程
焼鈍工程では、伝熱板1を焼鈍することにより、伝熱板1の内部応力を除去する。本実施形態では、熱媒体用管20に、例えば、マイクロヒーターを通電させて焼鈍を行う。これにより、伝熱板1の内部応力を除去することができ、伝熱板1の使用時の変形を防止することができる。
【0057】
以上説明した本実施形態に係る製造方法によれば、本接合用回転ツールFのうちの攪拌ピンF2のみがベース部材2及び蓋板10に接触することになるので、従来の製造方法に比べて接合するベース部材2及び蓋板10と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、突合部J1,J2の深い位置を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板1の深い位置に流路を容易に形成することができる。また、突合部J1,J2の深い位置まで摩擦攪拌できるため、伝熱板1の水密性及び気密性を高めることができるとともに接合強度を高めることができる。
【0058】
また、本接合工程による熱収縮によって、伝熱板1が撓んでしまったとしても、ベース部材2の裏面Zbにも摩擦攪拌を行うことで、表面Zaに発生した反りを解消して伝熱板1の平坦性を高めることができる。即ち、ベース部材2の裏面Zbに形成された塑性化領域W2が、熱収縮により縮むため、伝熱板1の裏面Zb側において、ベース部材2の各隅部側から中心側に向かって圧縮応力が作用する。これにより、本接合工程によって形成された反りが解消されて、伝熱板1の平坦性を高めることができる。
【0059】
ここで、本接合工程では、
図10の(a)に示すように、架台Kの表面とベース部材2の裏面Zbとが面接触した状態で摩擦攪拌を行う。そのため、本接合工程の際に発生する摩擦熱は、矢印Qで示すようにベース部材2の裏面Zbの全体から抜熱される。
【0060】
しかし、本接合工程後は、ベース部材2の裏面Zb側が凸状となるように沿ってしまうため、
図10の(b)に示すように、ベース部材2を裏返した状態で架台Kに配置すると、ベース部材2の表面Zaと架台Kの表面とはベース部材2の四隅(四点)のみで当接する状態となる。したがって、矯正工程を行うと
図10の(b)の矢印Qに示すように、ベース部材2の四隅でしか抜熱されないため、本接合工程に比べて抜熱効率が低く、ベース部材2及び蓋板10の内部に熱が残りやすくなる。
【0061】
したがって、矯正工程における加工度を本接合工程における加工度と同等に設定すると、矯正工程の方がベース部材2及び蓋板10の内部に残留する熱が大きくなり、ベース部材2の裏面Zbが凹状となるように反ってしまうおそれがある。しかし、本実施形態によれば、矯正工程における加工度を、本接合工程における加工度よりも小さく設定しているため、裏面Zbが凹状となるような反りを防ぐことができる。これにより、伝熱板1の平坦性を高めることができる。
【0062】
また、本実施形態における矯正工程は、矯正用回転ツールGを一筆書きの要領で移動させるため、作業効率を高めることができる。
【0063】
以上本発明の第一実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。第一実施形態では、熱媒体用管20を挿入する形態としたが、熱媒体用管20を省略してもよい。この場合の第一実施形態の変形例では、(1)溝形成工程、(2)蓋溝閉塞工程、(3)本接合工程、(4)矯正工程、(5)焼鈍工程を含むものである。各工程については、第一実施形態と同等である。
【0064】
また、第一実施形態及び第一実施形態の変形例では、本接合工程を行う前に、仮接合工程を行ってもよい。仮接合工程では、小型の回転ツールを用いて突合部J1,J2に対して予備的に摩擦攪拌接合を行う。これにより、本接合工程の際のベース部材2と蓋板10との目開きを防ぐことができる。
【0065】
また、第一実施形態及び第一実施形態の変形例では、本接合工程及び矯正工程の後に、ベース部材2及び蓋板10に発生したバリを切除するバリ切除工程を行ってもよい。これにより、伝熱板1をきれいに成形することができる。
【0066】
また、第一実施形態及び第一実施形態の変形例では、矯正用回転ツールGを用いて矯正工程を行ったが、これに限定されるものではない。矯正工程は、例えば、本接合用回転ツールFを用いるとともに、挿入深さを小さくしたり、摩擦攪拌のルートを短く設定したりするなどしてもよい。このような形態であっても、伝熱板1の平坦性を高めることができる。
【0067】
また、本接合工程において、摩擦攪拌接合を行う際に、塑性流動化された金属が、凹溝8、蓋板10及び熱媒体用管20によって囲まれた空間に流入するように、蓋溝6、凹溝8及び蓋板10の幅を設定してもよい。これにより、熱媒体用管20の周囲の空隙が金属で充填されるため、より伝熱性を高めることができる。
【0068】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
図11に示すように、第二実施形態に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材31と蓋板32とを重ね合わせる点で、第一実施形態と主に相違する。
【0069】
第二施形態に係る伝熱板の製造方法では、準備工程と、凹溝閉塞工程と、仮接合工程と、本接合工程と、矯正工程とを行う。
【0070】
図12に示すように、準備工程は、ベース部材31及び蓋板32を用意する工程である。ベース部材31及び蓋板32は、板状を呈する金属部材である。準備工程では、ベース部材31の表面31aに凹溝40を形成する。凹溝40の断面形状及び平面形状は特に制限されないが、本実施形態では断面視及び平面視がいずれもU字状を呈するように形成する。
【0071】
図13の(a)に示すように、凹溝閉塞工程(閉塞工程)は、ベース部材31の表面31aに蓋板32を載置して凹溝40の上方を覆う工程である。凹溝閉塞工程では、ベース部材31の表面31aと蓋板32の裏面32bとが重ね合わされて重合部J3が形成される。
【0072】
仮接合工程は、重合部J3に対して予備的に接合を行う工程である。仮接合工程は、本実施形態では、ベース部材31及び蓋板32の側面から仮接合用回転ツールHを挿入し、重合部J3に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合工程によって、ベース部材31及び蓋板32の側面には、塑性化領域W0が形成される。
【0073】
図13の(b)に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて重合部J3に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本実施形態では、蓋板32の表面32aから垂直に挿入し、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2の先端をベース部材31に入り込ませる。そして、凹溝40の両側において、凹溝40に沿って本接合用回転ツールFを相対移動させる。このとき、攪拌ピンF2のみがベース部材31及び蓋板32に接触するように摩擦接合を行う。
【0074】
次に、矯正工程では、ベース部材31及び蓋板32を裏返し、ベース部材31の裏面31b側から矯正用回転ツールGを用いて摩擦攪拌を行う。矯正工程は、第一実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0075】
以上説明した第二実施形態によっても、本接合用回転ツールFのうち攪拌ピンF2のみがベース部材31及び蓋板32に接触することになるので、従来の製造方法に比べて本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、摩擦攪拌装置への負荷を小さくすることができるため、深い位置にある重合部J3を容易に摩擦攪拌接合することができる。これにより、伝熱板1Aの深い位置にも容易に流路を形成することができる。
【0076】
また、ベース部材31の裏面31bに摩擦攪拌を行ってベース部材31の裏面31b側にも熱収縮を発生させることで、伝熱板1Aの平坦性を高めることができる。
【0077】
また、本接合工程を行う前に仮接合工程を行うことにより、本接合工程の際のベース部材31と蓋板32の目開きを防ぐことができる。
【0078】
以上本発明の第二実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、本接合工程において攪拌ピンF2の先端がベース部材31に達するように設定したが、攪拌ピンF2が蓋板10のみに接触し、少なくとも塑性化領域W1がベース部材31に達するように攪拌ピンF2の挿入深さを設定してもよい。
【0079】
また、第二実施形態の本接合工程では、蓋板32の表面32aから攪拌ピンF2を挿入して摩擦攪拌接合を行ったが、これに限定されるものではない。本接合工程では、ベース部材31の裏面31bから攪拌ピンF2を挿入して重合部J3に対して摩擦攪拌接合を行ってもよい。この場合は、ベース部材31の裏面31bから攪拌ピンF2を挿入して摩擦攪拌接合を行う本接合工程を行い、蓋板32の表面32aから矯正工程を行う。このようにしても、第二実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、この場合であっても、本接合工程において、攪拌ピンF2のみをベース部材31及び蓋板32の両方又はベース部材31のみに接触させた状態で摩擦攪拌を行ってもよい。
【0080】
[第二実施形態の変形例]
次に、第二実施形態の変形例について説明する。第二実施形態の変形例に係る伝熱板の製造方法は、ベース部材31に大きな窪みを備えた凹部41が形成されている点で第二実施形態と相違する。
【0081】
第二実施形態に係る変形例では、準備工程と、凹部閉塞工程と、仮接合工程と、本接合工程と、矯正工程とを行う。
【0082】
図14の(a)に示すように、準備工程は、ベース部材31を用意する工程である。ベース部材31の表面31aに凹部41を形成する。凹部41は、凹溝40よりも十分に広い窪みとなっている。
【0083】
凹部閉塞工程(閉塞工程)は、ベース部材31の表面31aに蓋板32を載置して凹部41の上方を覆う工程である。凹部閉塞工程では、ベース部材31の表面31aと蓋板32の裏面32bとが重ね合わされて重合部J3が形成される。
図14の(b)に示すように、仮接合工程、本接合工程及び矯正工程は、第三実施形態と同等であるため、詳細な説明は省略する。これにより、伝熱板1Bが形成される。
【0084】
第二実施形態に係る変形例では、第二実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、第二実施形態の変形例によれば、凹溝40よりも大きな凹部41を備えるとともに板厚の大きい蓋板32を載置する場合であっても、伝熱板1Bを容易に形成することができる。
【0085】
なお、本実施形態では、攪拌ピンF2の先端が、ベース部材31達する位置まで押し込むように設定したが、ベース部材31に達しないように設定する、つまり、攪拌ピンF2と蓋板32のみとが接触する位置まで押し込み、重合部J3を摩擦攪拌するように設定してもよい。このような場合は、攪拌ピンF2と蓋板32との接触によって生じた摩擦熱で、ベース部材31及び蓋板32が塑性流動化されることにより、重合部J3が接合される。
【0086】
また、本実施形態では、蓋板32の表面32aから本接合用回転ツールFを挿入したが、ベース部材31の裏面31bから本接合用回転ツールFを挿入して、重合部J3を摩擦攪拌するようにしてもよい。この場合であっても、攪拌ピンF2は、ベース部材31及び蓋板32の両方と接触する位置まで押し込んでもよいし、ベース部材31のみと接触する位置まで押し込んで、摩擦攪拌するように設定してもよい。
【0087】
また、第二実施形態及び第二実施形態の変形例における仮接合工程、本接合工程及び矯正工程の後に、各工程で発生したバリを除去するバリ切除工程を行ってもよい。
【0088】
〔第三実施形態〕
次に、本発明の第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第三実施形態では、凹溝や凹部等の流路を備えていない金属部材同士を接合する点で他の実施形態と相違する。
【0089】
第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、準備工程と、重ね合わせ工程(重合部形成工程)と、仮接合工程と、本接合工程と、矯正工程とを行う。
【0090】
図15の(a)に示すように、準備工程は、金属部材51,52を用意する工程である。金属部材51,52は、板状の金属部材である。金属部材51,52の種類は、摩擦攪拌可能な金属から適宜選択すればよい。
【0091】
重ね合わせ工程(重合部形成工程)は、金属部材51,52を重ね合わせる工程である。重ね合わせ工程では、金属部材51の表面51aに、金属部材52の裏面52bを重ね合わせて、重合部J4を形成する。
【0092】
仮接合工程は、重合部J4に対して予備的に接合を行う工程である。仮接合工程は、本実施形態では、金属部材51,52の側面から仮接合用回転ツールHを挿入し、重合部J4に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合工程後、金属部材51,52の側面には塑性化領域W0が形成される。
【0093】
本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて重合部J4に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。本実施形態では、金属部材52の表面52aから垂直に本接合用回転ツールFを挿入し、攪拌ピンF2の先端が金属部材51に入り込むように設定する。また、本接合工程では、攪拌ピンF2のみが金属部材51,52に接触するように設定するとともに、連結部F1を金属部材52に接触させない状態で摩擦攪拌を行う。
【0094】
矯正工程では、金属部材51,52を裏返し、金属部材51の裏面51bに、例えば、矯正用回転ツールGを挿入して摩擦攪拌を行う。矯正工程は、第一実施形態と同等である。これにより、複合板1Cが形成される。
【0095】
第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法によれば、内部に流路を設けない複合板1Cが容易に形成される。特に、金属部材52の板厚が大きく、重合部J4が深い位置に位置している場合であっても、攪拌ピンF2のみが金属部材51,52に接触するように設定しているため、従来の製造方法に比べて金属部材51,52と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。これにより、重合部J4が深い位置にある場合であっても、容易に摩擦攪拌接合することができる。
【0096】
また、矯正工程を行うことで複合板1Cの平坦性を高めることができる。また、仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に、金属部材51,52間の目開きを防ぐことができる。
【0097】
また、
図15の(b)に示すように、本接合工程を行う際に、攪拌ピンF2の先端が金属部材51に達しないようにする、つまり、攪拌ピンF2が金属部材52のみと接触するように設定して摩擦攪拌を行ってもよい。このような場合は、塑性化領域W1と重合部J4とを接触させることで、金属部材51,52同士を接合することができる。つまり、攪拌ピンF2と金属部材52との接触によって生じた摩擦熱で、金属部材51,52が塑性流動化されることにより、重合部J4を接合することができる。
【0098】
また、仮接合工程、本接合工程及び矯正工程を行った後に、各工程で発生したバリを切除するバリ切除工程を行ってもよい。
【0099】
[矯正工程の変形例]
矯正工程に係る摩擦攪拌のルートは、第一実施形態で説明した形態に限定されるものではなく、以下の形態でもよい。
図16は、伝熱板の裏面側の平面図であって、(a)は第一変形例を示し、(b)は第二変形例を示し、(c)は第三変形例を示し、(d)は第四変形例を示し、(e)は第五変形例を示し、(f)は第六変形例を示す。
【0100】
図16の(a)及び(b)に示す第一変形例及び第二変形例の矯正用回転ツールの軌跡(塑性化領域W2)は、いずれもベース部材2の中心地点j’を囲むように形成されていることを特徴とする。また、第一変形例は、ベース部材2の外形形状に対して相似になるように形成されている。また、
図16の(b)に示す第二変形例のように、格子状に形成してもよい。
【0101】
図16の(c)及び(d)に示す第三変形例及び第四変形例の矯正用回転ツールの軌跡(塑性化領域W2)は、いずれもベース部材2の中心地点j’を通過して放射状となるように形成されていることを特徴とする。
図16の(c)に示す第三変形例は、中心地点jを始点・終点とするループを複数含み、中心地点j’に対して点対称となるように形成されている。また、第三変形例は、一筆書きの要領で形成することができるため、作業効率を高めることができる。
図16の(d)に示す第四変形例は、中心地点j’を通過するとともに、ベース部材2の対角線に対して平行となるように形成されている。
【0102】
図16の(e)及び(f)に示す第五変形例及び第六変形例の矯正用回転ツールの軌跡(塑性化領域W2)は、中心地点j’を通る直線で区分けした領域に、同形状の4つの軌跡がそれぞれ独立して形成されるとともに、中心地点j’を挟んで斜めに対向する軌跡が点対称となるように形成されている。4つの軌跡の形状は、同形状であれば、どのような形状であっても構わない。当該矯正工程の変形例では、第一実施形態を例示して説明したが、当該矯正工程の変形例は、第二、第三実施形態にも適用可能である。