特許第6248740号(P6248740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248740電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及び電力ケーブルのオンライン劣化診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248740
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及び電力ケーブルのオンライン劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20060101AFI20171211BHJP
   G01R 31/02 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   G01R31/12 B
   G01R31/02
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-63468(P2014-63468)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-184250(P2015-184250A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】末長 清佳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳起
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−35767(JP,A)
【文献】 特開平5−256894(JP,A)
【文献】 実開平1−118377(JP,U)
【文献】 特開平2−122284(JP,A)
【文献】 特開平1−257279(JP,A)
【文献】 特開昭51−29173(JP,A)
【文献】 特開平6−331665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルの遮蔽導体の接地線に流れる漏れ電流Ieを検出する電流検出手段と、
基準信号を発生させる基準信号発生手段と、
基準信号の位相θを調整する位相調整手段と、
基準信号発生手段によって発生された基準信号と、電流検出手段で検出された漏れ電流Ieとを入力し、漏れ電流Ieのうち基準信号と同一の周波数成分の電流の絶対値|I|を出力する特定周波数成分抽出手段と、
を有し、
診断対象の電力ケーブルをオンラインの状態としたまま、前記電力ケーブルの絶縁体の水トリーによる絶縁劣化を診断する電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
【請求項2】
充電電流Icと損失電流Irからなる漏れ電流Ieから、損失電流Irを抽出する制御装置を備えた請求項1に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
【請求項3】
制御装置は、
基準信号発生手段を用いて、基準信号の周波数を、電力ケーブルに流れる電流の基本波成分と同一周波数に設定すると共に、位相調整手段を用いて、基準信号の位相θを、特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|I|が最大|Ic|となる位相θcに調整し、
基準信号の位相θを、位相θcから90°遅れた位相θrに調整し、このときの特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|Ir|に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う請求項2に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
【請求項4】
制御装置は、|Ir|と|Ic|の関係に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う請求項3に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
【請求項5】
電流検出手段は、着脱式貫通型の計測用交流器である請求項1乃至4のうちいずれかに記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
【請求項6】
診断対象の電力ケーブルをオンラインの状態としたまま、前記電力ケーブルの絶縁体の水トリーによる絶縁劣化を診断する電力ケーブルのオンライン劣化診断方法であって、
電力ケーブルの遮蔽導体の接地線に流れる漏れ電流Ieを検出し、
基準信号と、検出された漏れ電流Ieとを入力し、漏れ電流Ieのうち基準信号と同一の周波数成分の電流の絶対値|I|を出力する特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|I|が最大|Ic|となるように、基準信号の位相θを位相θcに調整し、
基準信号の位相θを、位相θcから90°遅れた位相θrに調整し、このときの特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|Ir|に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う電力ケーブルのオンライン劣化診断方法。
【請求項7】
|Ir|と|Ic|の関係に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う請求項6に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体として架橋ポリエチレンを備えた電力ケーブルの絶縁劣化の状況をオンラインで劣化診断する電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及び電力ケーブルのオンライン劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場やビルなどの水分のある環境に、絶縁体として架橋ポリエチレンを備えた電力ケーブル(CVケーブル、国際的にはXLPEケーブルとも呼ばれる)が布設されると、電力ケーブルの絶縁体に水トリーと呼ばれる劣化が発生することが知られている。
【0003】
水トリーは、架橋ポリエチレンを備えた電力ケーブルの開発当初、架橋ポリエチレンの製造過程で湿式架橋を行っていた事が主な原因とされ、近年では、乾式架橋を行うことで、水トリーによる劣化は克服されたと言われてきた。しかしながら、乾式架橋で製造された電力ケーブルであっても、使用開始後数十年を経過すると、水トリーによる劣化が始まる事が明らかになった。そのため、水トリーによる絶縁体の劣化を診断する技術が求められている。
【0004】
電力ケーブルの水トリー劣化の診断技術としては、設備を停電させて、電力ケーブルをオフラインとした状態で診断を行う残留電荷法や、逆吸収電流法がある。
【0005】
しかしながら、このような方法では、診断にあたって設備を停電させて、電力ケーブルを電路から離線する工事が必要であり、診断に要する費用と時間が多大なものとなる。また、GIS等の設備に接続された電力ケーブルでは、容易に離線することができず、水トリー劣化の診断をすることができない。
【0006】
特許文献1には、診断対象の電力ケーブルの絶縁体の誘電損を測定し、測定された誘電損と正常な電力ケーブルの絶縁体の誘電損とを比較して電力ケーブルの劣化を診断する手法が開示されている。具体的には、特許文献1では、診断対象の電力ケーブルの絶縁体の誘電損を測定する際に、交流電圧を信号源とし、診断対象の電力ケーブルに流れる電流を測定信号として検出し、交流電圧に対して90°位相が遅れた逆加算信号を発生させて測定信号に加算し、交流電圧を参照信号とした特定周波数成分抽出手段に入力して、特定周波数成分抽出手段の出力が最小になるように逆加算信号の大きさを調整して、その出力の大きさから誘電損を算出している。
【0007】
特許文献2には、少なくとも2種類の電圧値の交流電圧を電力ケーブルに印加し、交流電圧及び交流電圧を電力ケーブルに印加したときに得られる損失電流に含まれる高調波成分の交流電圧基本波成分に対する重畳位相を測定し、少なくとも2種類の交流電圧を印加したときの損失電流に含まれる高調波成分の重畳位相の変化の程度を用いて、電力ケーブルの劣化を診断する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2535292号公報
【特許文献2】特開平11−6854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の手法では、診断対象の電力ケーブルに検出用抵抗を接続し、この検出用抵抗に流れる電流を測定信号として用いている。そのため、診断対象の電力ケーブルに検出用抵抗を接続する際には、電力ケーブルをオフラインとしなければならない。また、特許文献1の手法では、診断対象の電力ケーブルに与えられる交流電圧を参照電圧として特定周波数成分抽出手段に入力している。しかしながら、オンラインの電力ケーブルには、数千ボルトという高電圧が負荷されているため、オンラインの状態の交流電圧を、参照電圧としてそのまま用いることができない。そのため、特許文献1の手法では、診断時にも、電力ケーブルをオフラインとして、診断用の小さな交流電圧を参照電圧として用いる必要があり、電力ケーブルのオンライン診断を行うことができない。
【0010】
特許文献2の手法は、電力ケーブルに少なくとも2種類以上の交流電圧を印加しなければならず、一定電圧が印加されている電力ケーブルのオンライン劣化診断には適用することができない。また、特許文献2の手法では、試料(電力ケーブルの絶縁体)と標準コンデンサに交流電圧を印加し、ブリッジ回路により、試料に流れる電流から電源電圧位相より90°進んだ成分を除去し、損失電流を検出している。しかしながら、ブリッジ回路では、電流値が大きく異なる電源電圧位相より90°進んだ成分と損失電流とを精度よく分離することができない。
【0011】
本発明は、このような問題に対してなされたものであり、精度よく電力ケーブルのオンライン劣化診断が可能な電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及び電力ケーブルのオンライン劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような目的を達成するために、以下のような特徴を有している。
[1]電力ケーブルの遮蔽導体の接地線に流れる漏れ電流Ieを検出する電流検出手段と、
基準信号を発生させる基準信号発生手段と、
基準信号の位相θを調整する位相調整手段と、
基準信号発生手段によって発生された基準信号と、電流検出手段で検出された漏れ電流Ieとを入力し、漏れ電流Ieのうち基準信号と同一の周波数成分の絶対値|I|を出力する特定周波数成分抽出手段と、
を有する電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
[2]充電電流Icと損失電流Irからなる漏れ電流Ieから、損失電流Irを抽出する制御装置を備えた[1]に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
[3]制御装置は、
基準信号発生手段を用いて、基準信号の周波数を、電力ケーブルに流れる電流の基本波成分と同一周波数に設定すると共に、位相調整手段を用いて、基準信号の位相θを、特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|I|が最大|Ic|となる位相θcに調整し、
基準信号の位相θを、位相θcから90°遅れた位相θrに調整し、このときの特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|Ir|に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う[2]に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
[4]制御装置は、|Ir|と|Ic|の関係に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う[3]に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
[5]電流検出手段は、着脱式貫通型の計測用交流器である[1]乃至[4]のうちいずれかに記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断装置。
[6]電力ケーブルの遮蔽導体の接地線に流れる漏れ電流Ieを検出し、
基準信号と、検出された漏れ電流Ieとを入力し、漏れ電流Ieのうち基準信号と同一の周波数成分の電流の絶対値|I|を出力する特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|I|が最大|Ic|となるように、基準信号の位相θを位相θcに調整し、
基準信号の位相θを、位相θcから90°遅れた位相θrに調整し、このときの特定周波数成分抽出手段から出力される絶対値|Ir|に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う電力ケーブルのオンライン劣化診断方法。
[7]|Ir|と|Ic|の関係に基づいて電力ケーブルの劣化診断を行う[6]に記載の電力ケーブルのオンライン劣化診断方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電力ケーブルの劣化診断装置及び電力ケーブルの劣化診断方法によれば、診断対象の電力ケーブルをオンラインの状態としたまま、水トリーによる絶縁劣化を精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】診断対象となる電力ケーブルの構成を示す図である。
図2】水トリー劣化が発生するメカニズムを示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電力ケーブルのオンライン劣化診断装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
はじめに、本発明の原理について説明する。
【0017】
図1は、診断対象の電力ケーブルの構成を示す図である。導体1の外周には、順に、絶縁体2、遮蔽導体3、被覆材4が設けられている。絶縁体2は、架橋ポリエチレンにより構成されている。絶縁体2には、水トリーによる劣化が発生する。遮蔽導体3は、接地されている。この接地線に流れる電流を、漏れ電流Ieとする。このように構成された電力ケーブルの導体1には、例えば、数千ボルトといった高電圧が負荷される。
【0018】
図2は、水トリー劣化が発生するメカニズムを示す図である。電力ケーブルが地下に埋設されるなど、周囲に水分のある環境に布設されると、絶縁体2に水が浸透する。絶縁体2に水が浸透すると、絶縁体2に数μm程度の空洞5が発生する。
【0019】
空洞5は、時間の経過とともに樹枝状に成長する。この樹枝状の空洞は、水トリー6と呼ばれる。この劣化が進むと、例えば使用開始後約30年で絶縁破壊に至る。
【0020】
本発明では、このように発生する水トリーによる劣化の程度を、電力ケーブルに高電圧を負荷したままオンラインで診断することができる、電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及びオンライン劣化診断方法を提案する。
【0021】
遮蔽導体3に流れる漏れ電流Ieは、静電容量成分から漏れた電流Ic(以下、充電電流Ic)と抵抗成分から漏れた電流Ir(以下、損失電流Ir)の合成電流として表すことができる。充電電流Icは、導体1の電圧に対して90°位相が進んで流れ、損失電流Irは、導体1の電圧と同位相で流れる。
【0022】
Ie=Ic+Ir
導体1と遮蔽導体3との間には、絶縁体2が挟まれており、導体1、遮蔽導体3及び絶縁体2によって、一種のコンデンサが形成されていると考えることができる。導体1の電圧によって、このコンデンサを介して充電電流Icが流れる。そのため、漏れ電流Ieの主な成分は充電電流Icである。
【0023】
電力ケーブルの絶縁体2が水トリーにより劣化すると、損失電流Irが大きくなることが知られている。この損失電流Irは、非線形性を有している。そのため、接地線に流れる漏れ電流Ieから、損失電流Irの成分を抽出することで、電力ケーブルの劣化診断を行うことができる。しかしながら、損失電流Irの大きさは、充電電流Icの100分の1以下であり、漏れ電流Ieから、損失電流Irを精度よく抽出しなければならない。
【0024】
本発明に係る実施の形態では、以下のような装置を用いて、漏れ電流Ieから、主な成分である充電電流Icを取り除き、微小な損失電流Irを抽出している。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態に係る電力ケーブルのオンライン劣化診断装置の構成を示す図である。
【0026】
電力ケーブルのオンライン劣化診断装置は、電流検出手段11、特定周波数成分抽出手段12、基準信号発生手段13、位相調整手段14を備えている。なお、図3では、電力ケーブルを構成する導体1を実線で、遮蔽導体3を点線で示している。
【0027】
電流検出手段11は、診断対象となる電力ケーブルの接地線に取り付けられ、漏れ電流Ieを検出する。電流検出手段11は、着脱式貫通型の交流用変流器を使用することができる。
【0028】
特定周波数成分抽出手段12は、電流検出手段11によって検出された漏れ電流Ieと、基準信号発生手段13から基準信号を入力する。特定周波数成分抽出手段12は、入力した漏れ電流Ieに含まれる、基準信号の周波数と同一周波数成分の電流の絶対値|I|を出力する。特定周波数成分抽出手段12としては、ロックインアンプを用いることができる。
【0029】
基準信号発生手段13は、任意の周波数の基準信号を発生させる。基準信号発生手段13には、位相調整手段14が接続されている。位相調整手段14は、基準信号の位相θを調整する。
【0030】
次に、このように構成された装置を用いた電力ケーブルのオンライン劣化診断方法について説明する。
【0031】
診断対象となる電力ケーブルの接地線に電流検出手段11を取り付け、図3の装置を電力ケーブルにセットする。
【0032】
基準信号発生手段13により、出力する基準信号の周波数を、診断対象の電力ケーブルが接続されている電力系統の周波数と同じ周波数に設定する(ステップ1)。例えば、診断対象の電力ケーブルが接続されている電力系統の周波数が60Hzであれば、基準信号の周波数を60Hzに調整する。
【0033】
これにより、特定周波数成分抽出手段12からは、漏れ電流Ieに含まれる、電力ケーブルの基本波成分の周波数と同一の周波数成分の電流の絶対値|I|が出力される。
【0034】
この状態で、特定周波数成分抽出手段12から出力される絶対値|I|が、最大になるように位相調整手段14の位相θを調整する。上述のように、漏れ電流Ieの主な成分は、充電電流Icであるため、絶対値|I|が最大となるように位相θを調整することで、充電電流Icの位相と、特定周波数成分抽出手段12から出力される信号の位相を一致させる(ステップ2)。位相を調整した後の、特定周波数成分抽出手段12から出力される周波数成分の絶対値|I|と、そのときの位相調整手段14の位相θを、絶対値|Ic|、位相θcとする。
【0035】
位相調整手段14を操作し、位相θcから90°遅れた位相に、基準信号の位相θを調整する(ステップ3)。このときに特定周波数成分抽出手段12から出力される絶対値|I|と、そのときの位相調整手段14の位相θを、絶対値|Ir|と位相θrとする。この絶対値|Ir|と位相θrは、損失電流Irに相当する。そして、絶対値|Ir|に基づいて、電力ケーブルの劣化診断を行う(ステップ4)。
【0036】
例えば、ステップ4においては、|Ir|/|Ic|を算出する。そして、|Ir|/|Ic|を予め設定したしきい値と比較し、|Ir|/|Ic|がこのしきい値よりも大きい場合には、診断対象の電力ケーブルの絶縁体2に、水トリーによる劣化が生じていると判断する。
【0037】
具体的には、IEEE Std 400−2001によると|Ir|/|Ic|が0.4%以上で要注意、1.0%で水トリーによる異常が発生していると判断することができるとされている。
【0038】
このような電力ケーブルの計測及び判断を3相のケーブルそれぞれに対して実施し、電力ケーブルの診断を行う。
【0039】
なお、上記の説明では、算出した|Ir|/|Ic|に基づいて水トリーによる劣化を判断したが、診断にあたっては、|Ic|を用いなくてもよい。例えば、絶対値|Ir|と電力ケーブルに流れる電流値によって定めたしきい値とを比較して水トリーによる劣化を判断してもよい。また、診断にあたって|Ic|を用いる場合であっても、|Ir|と|Ic|との関係に基づいていれば、どのような値を用いて電力ケーブルの診断を行ってもよい。
【0040】
このように、本実施の形態では、特定周波数成分抽出手段12を用いることで、漏れ電流Ieのうち充電電流Icを精度よく抽出し、その結果、損失電流Irを精度よく検出することができる。そのため、電力ケーブルがオンラインの状態において損失電流Irに重畳するノイズ(充電電流Ic)の影響を、精度よく除去することができる。
【0041】
また、漏れ電流Ieのうち、最も大きな電流成分である充電電流Icを基準として、その充電電流Icに対して90°位相が遅れて流れる損失電流Irを計測するため、電力ケーブルの導体1に流れる電圧信号を計測することなく、接地線に流れる漏れ電流Ieを計測するだけで、電力ケーブルの劣化診断を行うことができる。そのため、電力ケーブルを停電させる必要がなく、オンラインとした状態で電力ケーブルの診断を行うことができる。
【0042】
また、本実施の形態では、電流検出手段11として着脱式貫通型の計測用変流器を用いることにより、回路を開放することなく、安全に診断を行うことができる。
【0043】
なお、ステップ1〜ステップ4の処理は、人為的に行うように構成してもよく、オンライン劣化診断装置にコンピュータ(制御装置)を設け、ステップ1〜ステップ5のうちの任意の処理をコンピュータにより自動的に行うように構成してもよい。
【0044】
また、上記の説明では、電力ケーブルのオンライン劣化診断装置及び劣化診断方法として説明したが、電力ケーブルのオンライン劣化診断方法をコンピュータにより実行させるプログラムとして構成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 導体
2 絶縁体
3 遮蔽導体
4 被覆材
5 空洞
6 水トリー
11 電流検出手段
12 特定周波数成分抽出手段
13 基準信号発生手段
14 位相調整手段
図1
図2
図3