(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、以下では昇圧コンバータとして、昇降圧機能を有する昇降圧コンバータの場合を説明するが、単に昇圧のみの機能を有する構成としてもよい。以下では全ての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態の制御システムを搭載するハイブリッド車両の概略構成を示している。ハイブリッド車両10は、制御システム12と、減速機14と、駆動軸16に連結された駆動輪(例えば前輪)18とを備える。制御システム12は、エンジン20と、第1モータジェネレータ22と、第2モータジェネレータ24と、動力分割機構25と、PCU26と、蓄電部であるバッテリ28と、制御装置であるECU32とを含む。ハイブリッド車両10は、エンジン20及び第2モータジェネレータ24の少なくとも一方を駆動源として走行する。以下では、第1モータジェネレータ22は第1MG22と記載し、第2モータジェネレータ24は第2MG24と記載する。
【0013】
エンジン20は、ECU32からの制御信号Si1により制御される。エンジン20には、クランク軸の回転数Neを検出するエンジン回転数センサ34が取り付けられる。本明細書において、「回転数」とは単位時間当たり、例えば毎分の回転数を意味する。
【0014】
第1MG22は、バッテリ28に接続され、基本的にエンジン20により駆動され発電する発電機能と、を有する3相同期発電機である。第1MG22は、エンジン20を始動するモータ機能も有する。第1MG22が発電機として用いられる場合、エンジン20からのトルクの少なくとも一部が、後述する動力分割機構25を介して第1MG22の回転軸に伝達される。第1MG22で発生した電力は、PCU26を介してバッテリ28に供給され、バッテリ28が充電される。第1MG22には、第1MG22の回転軸の回転角度または回転数Nw1を検出する第1回転センサ36が取り付けられる。
【0015】
第2MG24は、バッテリ28に接続され、基本的に走行モータとして用いられ、バッテリ28から供給される電力で駆動される3相同期モータである。第2MG24の駆動によって、駆動輪18が駆動され車両の駆動力が発生する。第2MG24は、車両減速時に回生制動を行う際の電力回生用の発電機としての機能も有する。第2MG24で発生した電力も、PCU26を介してバッテリ28に供給され、バッテリ28が充電される。第2MG24には、第2MG24の回転軸の回転角度または回転数Nw2を検出する第2回転センサ38が取り付けられる。第1MG及び第2MGとして、誘導モータ、または別の電動モータを用いてもよい。
【0016】
エンジン回転数センサ34、第1回転センサ36、及び第2回転センサ38の検出値Ne、Nw1、Nw2を表す信号はECU32に送信される。
【0017】
動力分割機構25は遊星歯車機構により形成される。例えば、遊星歯車機構は、サンギヤと、複数のピニオンギヤと、キャリアと、リングギヤとを含み、サンギヤは、第1MG22の中空の回転軸の端部に連結される。複数のピニオンギヤは、リングギヤとサンギヤとの両方に噛合され、キャリアを介してエンジン20の駆動軸に接続される。各ピニオンギヤは、キャリアの端部にキャリアの中心軸を回転中心とする公転と自転とを可能に連結される。リングギヤは、出力軸40に接続され、出力軸40は第2MG24の回転軸に連結される。出力軸40は、図示しない別の遊星歯車機構を含む減速機構を介して第2MG24の回転軸に連結してもよい。出力軸40は、
図1に示す減速機14を介して駆動輪18に連結された駆動軸16に接続される。動力分割機構25は、エンジン20からの動力を、出力軸40への経路と、第1MG22への経路とに分割する。
【0018】
これによって、動力分割機構25は、エンジン停止状態で第2MG24の回転数が上昇する場合に第1MG22の回転数も上昇するように、エンジン20、第1MG22及び第2MG24の間を接続する。動力分割機構25のリングギヤを第1MG22に接続し、サンギヤを第2MG24に接続してもよい。
【0019】
図2は、エンジン停止状態で駆動輪18がスリップした状態を示す図であって、2つの第1MG22、第2MG24及びエンジン20の回転数の関係を示す共線図である。エンジン20、第1MG22及び第2MG24の間が遊星歯車機構で接続されるので、
図2に示すように、第1MG22、エンジン20、及び第2MG24の回転数は一直線上に結ばれる関係にある。共線図において、第1MG22、エンジン20、及び第2MG24の回転数間の長さの比は、リングギヤ及びサンギヤの歯数の比から定められる。
【0020】
例えば駆動輪18にスリップが発生して、
図2に矢印R1で示すように、リングギヤに接続される第2MG24の回転数が正方向(+方向)に上昇した場合、サンギヤに接続される第1MG22の回転数は矢印R2で示すように負方向(−方向)に大きく変化する。この場合、第1MG22に正方向にトルクを発生させることでエンジン20を始動させることができるが、その場合には第1MG22の回転数に見合った大きい電圧を第1MG22に加える必要がある。
【0021】
また、本例では、後述するように、駆動輪18のスリップが検出された場合に、昇圧コンバータ46の出力電圧VHが過大となることを防止するために、出力電圧VHを低下させる場合がある。この場合、第1MG22に接続される第1インバータ42も昇圧コンバータ46に接続されるので、第1MG22に加えられる電圧が不足して、エンジン20の始動性が低下する場合がある。本例はこのような不都合を防止するために、後述のように、エンジン停止状態で第2MG24を駆動して車両走行を行うEV走行中において、スリップが検出された場合に昇圧コンバータ46から出力される昇圧電圧を、スリップ検出前に対して同じ大きさに維持または上昇させるように、ECU32によって昇圧コンバータ46を制御する。
【0022】
PCU26は、第1MG22及び第2MG24とバッテリ28との間に接続される。PCU26は、第1インバータ42及び第2インバータ44と、昇圧コンバータ46とを含む。昇圧コンバータ46は、ECU32からの制御信号Si2により制御され、各インバータ42,44は、ECU32からの制御信号Si3により制御される。昇圧コンバータ46は、2個直列に接続されたスイッチング素子と、各スイッチング素子に対し逆方向電流を流すように並列に接続された2個のダイオードと、各スイッチング素子の間に一端が接続されたリアクトルとを含む。スイッチング素子として、IGBTなどのトランジスタが用いられる。昇圧コンバータ46は、バッテリ28と各インバータ42,44との間に接続され、ECU32によって昇圧指令で制御される場合に、バッテリ28から入力された直流電圧を昇圧して、各インバータ42,44に昇圧電圧を出力する機能を有する。また、昇圧コンバータ46は、ECU32によって降圧指令で制御される場合に、出力側(電圧VH側)の直流電圧を降圧して、バッテリ28に直流電圧を出力する機能も有する。これによって、バッテリ28が充電される。
【0023】
第1インバータ42は、昇圧コンバータ46から入力された直流電圧を交流電圧に変換して第1MG22に出力し、第1MG22を駆動する。第1インバータ42は、第1MG22がエンジン20の駆動に伴って発電した場合に、その発電により得られた交流電圧を直流電圧に変換し、直流電圧を昇圧コンバータ46に出力する機能も有する。
【0024】
第2インバータ44は、昇圧コンバータ46から入力された直流電圧を交流電圧に変換して第2MG24に供給し、第2MG24を駆動する。第2インバータ44は、ハイブリッド車両10の回生制動時に、第2MG24により発電した交流電圧を直流電圧に変換し、直流電圧を昇圧コンバータ46に出力する機能も有する。
【0025】
第1インバータ42及び第2インバータ44は、それぞれU,V,Wの各相の上アーム、下アームのそれぞれに設けられるスイッチング素子を含み、各スイッチング素子のスイッチングがECU32からの制御信号Si2により制御される。第1インバータ42のU,V,Wの各相の上アームと下アームとの間と第1MG22の各相の入力端子は動力線で接続されており、各相の動力線のうち、U相、V相の動力線に、モータ電流を検出する電流センサ48u、48vが取り付けられている。W相の動力線には電流センサは取り付けられていないが、3相交流では各相の電流の合計はゼロとなるので、W相の電流値はU相、V相の電流値から計算で求められる。第2インバータ44と第2MG24とを接続するU相、V相の動力線にも、同様に電流センサ49u、49vが取り付けられる。各電流センサ48u、48v、49u、49vの検出値を表す信号はECU32に送信される。
【0026】
バッテリ28は、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池または他の形式の二次電池である。バッテリの代わりにキャパシタを用いてもよい。バッテリ28と昇圧コンバータ46との間に図示しないシステムリレーが設けられ、システムリレーは、ECU32によりオンオフ動作が制御される。昇圧コンバータ46とバッテリ28との間、及び、昇圧コンバータ46と各インバータ42,44との間に、平滑化用のコンデンサをそれぞれ接続してもよい。
【0027】
電圧センサ50は、昇圧コンバータ46の低圧側電圧VLを検出し、電圧VLを表す信号をECU32に送信する。電圧センサ52は、昇圧コンバータ46の高圧側電圧VHを検出し、高圧側電圧VHを表す信号をECU32に送信する。
【0028】
アクセル位置センサ54は、アクセルペダルのアクセル位置APを検出し、アクセル位置APを表す信号をECU32に送信する。駆動輪回転センサ56は、駆動輪18の回転角度または回転数Hsを検出し、検出値Hsを表す信号をECU32に送信する。ECU32は、検出値Hsに基づいて推定車速を算出する。ECU32は、第2MG24の回転角度または回転数Nw2の検出値に基づいて推定車速を算出してもよい。車速センサ58は、車両の実車速を検出する。車速センサ58は、例えば図示しない従動輪(例えば後輪)の回転角度または回転数Vsを検出する回転センサの検出値から車速を算出する構成としてもよい。車速センサ58の検出値Vsを表す信号はECU32に送信される。
【0029】
ECU32は、CPU、メモリを有するマイクロコンピュータを含む。図示の例では、ECU32として1つのECU32のみを図示しているが、ECU32は適宜複数の構成要素に分割して、互いに信号ケーブルで接続する構成としてもよい。ECU32は、昇圧コンバータ46の動作を制御するコンバータ制御部60と、各インバータ42,44の動作を制御するインバータ制御部62とを有する。ECU32は、EV走行判定部66及びスリップ検出部68も有するが、これら2つについては後で説明する。
【0030】
ECU32は、走行駆動制御時に、アクセル位置AP、または車速及びアクセル位置APに基づいて、車両目標トルクTr*とエンジン目標出力Pe*とを算出し、予め設定されたマップから、エンジン20の目標回転数Ne*及び目標トルクTe*を算出する。ECU32は、目標回転数Ne*と第2MG24の回転数Nw2及び第1MG22の回転数Nw1とから、第1MG22の目標回転数Nw1*及び目標トルクTr1*と、第2MG24の目標トルクTr2*とを算出する。このような目標回転数Ne*、目標トルクTe*、目標回転数Nw1*、目標トルクTr1*及び目標トルクTr*は、アクセル位置APまたはアクセル位置APと車速とに基づいて、図示しない記憶部に予め記憶させたマップから算出してもよい。
【0031】
ECU32は、算出されたエンジン20の目標回転数Ne*及び目標トルクTe*が得られるように、制御信号Si1でエンジン20を制御する。また、ECU32は、算出された第1MG22の目標回転数Nw1*及び目標トルクTr1*と、第2MG24の目標トルクTr*とが得られるように、コンバータ制御部60及びインバータ制御部62によって、制御信号Si2、Si3で昇圧コンバータ46及び各インバータ42,44を制御する。インバータ制御部62は、後述のようにモータ回転状態または車両走行状態に応じて制御モードの切替を行いながら各インバータ42,44を制御する。
【0032】
ECU32は、図示しないバッテリ電流センサ及び電圧センサ50の一方または両方からの検出値に基づいてバッテリ28の充電量であるSOC(State Of Charge)を算出する。SOCの算出値は、後述のEVモード及びHVモードの切替の制御に用いられる。
【0033】
また、ECU32は、EV走行モードであるEVモードとHVモードとの間でモード切替を行いながら車両を走行させるように、エンジン20、第1MG22及び第2MG24を制御する。「EVモード」は、エンジン停止状態で、第2MG24を駆動し、第2MG24を駆動源として車両走行を行うモードである。「HVモード」は、少なくともエンジン20を駆動させて車両を駆動し走行させるモードである。この場合、エンジン20の駆動によって第1MG22が発電する。EVモードとHVモードとの切替は、予め設定した所定条件が成立したか否かに応じて行われる。例えば、EVモードの実行中にSOCの算出値が所定下限値以下になることでHVモードへの切り替えが行われる。HVモードの実行中では、運転者が
図1に示すEV走行指示部69を操作し、EVモードが選択された場合に所定のEVモード前提条件を満たすことを条件として、EVモードに切り替えられる。また、HVモードの実行中において、SOCの算出値が所定上限値以上になった場合にもEVモードに切り替えられる。EV走行指示部69は、例えばEVモードを指示する押しボタンまたはスイッチである。
【0034】
EV走行判定部66は、現在の車両走行モードがEVモードであるか否かを判定する。スリップ検出部68は、現在の車両走行状態が駆動輪18のスリップが生じているか否かを検出する。
【0035】
スリップ検出部68は、駆動軸16の回転数または駆動軸16の回転数の時間変化率、または駆動輪18の回転数と従動輪の回転数との偏差であるスリップ関係値に基づいて、スリップ関係値が予め設定された閾値以上である場合に、スリップ状態であることを検出してもよい。駆動輪18の回転数の検出として、駆動輪回転センサ56の検出値を用いてもよい。
【0036】
後述の
図4(b)に示すように、車両が走行する路面70上に凸部72がある場合、その凸部72に駆動輪18が乗り上げることで路面抵抗が極度に低下して駆動輪18がほぼ空転して回転数が急上昇する。この状態がスリップ状態であり、スリップ後、
図4(c)に示すように駆動輪18が凸部72から外れて路面70に接触する場合、スリップが解消されてグリップ状態となる。
【0037】
コンバータ制御部60は、現在の車両の走行状態に応じて、昇圧コンバータ46の昇圧動作を制御する機能も有する。より具体的には、コンバータ制御部60は、スリップ検出部68によってスリップが検出された場合で、かつ、「EVモードの走行中でない」場合、すなわち「HVモードの走行中である」場合には、昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1を低下させるように、昇圧コンバータ46を制御する。
【0038】
また、コンバータ制御部60は、スリップが検出された場合で、かつ、「EVモードの走行中である」場合には、スリップ検出前に対して昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1が上昇されるか、または同じ大きさに維持されるように、昇圧コンバータ46を制御する目標電圧上昇維持モジュール74を有する。これによって、スリップ検出時でも昇圧コンバータ46の出力電圧が過大になることを防止でき、かつ、エンジン20の始動性の低下を防止できる。これについては後述する。
【0039】
インバータ制御部62は、モータ回転状態に応じて、3つの制御モード、すなわち正弦波PWM制御モードP1、過変調制御モードP2、矩形波制御モードP3を切り替えて、各インバータ42,44を制御する機能を有する。
【0040】
3つの制御モードの特性は、システム電圧としての高圧側電圧VHに対するモータ必要電圧の比である「変調率E」によって表すことができる。モータ必要電圧は、トルク指令値を含む算出値から決定されるもので、第1MG22または第2MG24に必要とされる線間電圧の実効値Jである。これによって、変調率Eは(J/VH)となる。
【0041】
正弦波PWM制御モードP1は、所定期間内で基本波成分が正弦波となるようにスイッチング素子のオンオフのデューティ比が制御される。この制御によりPWM制御モードでは、基本波成分の振幅をシステム電圧の0.61倍まで高めることができる。この場合、変調率Eは0.61である。
【0042】
過変調制御モードP2は、搬送波の振幅を縮小させて正弦波PWM制御モードと同様のPWW制御モードを行うものである。この制御により基本波成分が歪むことによって、変調率Eを0.61〜0.78の範囲に高めることができる。
【0043】
矩形波制御モードP3は、所定の期間内でスイッチング素子のオンとオフとの比が1対1の矩形波1パルス分を第1MG22または第2MG24に印加するものである。これによって、変調率Eを0.78まで高めることができる。
【0044】
3つの制御モードの切り替えは例えば第1MG22または第2MG24のモータ回転数に応じて行うことができる。この場合、インバータ制御部62は、回転センサ36(または38)の検出値に応じて、モータ回転数が低い領域では滑らかな回転が可能な正弦波PWM制御モードP1を選択し、モータ回転数が上昇するのにしたがって過変調制御モードP2、矩形波制御モードP3の順に移行するようにモード切替を行う。インバータ制御部62は、モータ回転数が低下する場合にはその逆に制御モードが順に切り替わるようにモード切替を行う。
【0045】
インバータ制御部62は、車両の走行状態に応じて、矩形波制御モードP3、過変調制御モードP2を切り替える緊急切替を行う機能も有する。「緊急切替」は、矩形波制御モードP3の実行中に、スリップ及びグリップが発生して第2MG24のモータ電流に乱れが生じてモータ回転が乱れる場合に、矩形波制御モードP3から過変調制御モードP2へ、さらに過変調制御モードP2から正弦波PWM制御モードP1へ切り替えることである。
【0046】
例えば、インバータ制御部62は、電流センサ48u、48vの検出値、及び第2MG24の回転角度の検出値からdq軸平面上におけるd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。インバータ制御部62は、d軸電流Idに対して、矩形波制御モードP3で予め設定されるq軸電流Iqの閾値を超えるか否かで、緊急切替条件が成立するか否かを判定する。ここで、dq軸平面とは、第2MG24の動作点を互いに直交するd軸及びq軸で規定するためのものである。d軸電流Idは第2MG24を形成するロータの磁極方向の電流成分であり、q軸電流Iqはロータの磁極方向に対し直交する方向の電流成分である。緊急切替条件が成立した場合には、矩形波制御モードP3から過変調制御制御モードP2への切替を行う。車両がスリップ状態となる場合、インバータ42の消費電力が急激に増加することによって出力電圧VHが低下し、スリップ状態からグリップ状態に移行してモータ消費電力が低下することで昇圧コンバータ46の出力側がエネルギ過多状態となり、昇圧コンバータ46の出力電圧VHが高くなる。この場合に第2インバータ44から第2MG24に流れるモータ電流のq軸電流Iqが閾値を超える。そして後述の
図4(A3)の時間t2Aで緊急切替条件が成立するので、制御モードが矩形波制御モードP3から過変調制御モードP2に切り替わる。これによって、第2MG24の回転数の変化幅が大きい緊急時に応答性の良い制御に切り替わるので制御破たんを防止できる。
【0047】
図3は、本実施形態の制御システム12を用いて昇圧コンバータ46の昇圧を制御する方法を示すフローチャートである。
図4は、本実施形態において、スリップ検出時の昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1を説明するための動作波形(a)と、駆動輪18のスリップ状態(b)及びグリップ状態(c)とを示している。
【0048】
ECU32は、まずスリップ検出部68によってスリップを検出したか否かを判定し(S10)、スリップが検出された場合にはEV走行判定部66によってEV走行中であるか否かを判定する(S12)。例えば、
図4(a)の時間t1で(b)に示すスリップ状態となったことが検出された場合、
図4の(A1)で示すように第2MG24の回転数Nw2は急上昇する。
【0049】
図3のS12で「EV走行中でない」場合、すなわちエンジン20の運転中である「HV走行中である」場合には、
図4の(A4)で示すようにコンバータ制御部60は、昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1を現在の目標値V0から予め設定した電圧αだけ低下させて、V1=V0−αとして、昇圧コンバータ46を制御する。
【0050】
一方、
図3のS12で「EV走行中である」場合には、
図4の(A5)で示すようにコンバータ制御部60は、昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1が現在の目標出力電圧と同じ大きさに維持される(B1)か、または現在目標出力電圧から所定レートで上昇される(B2)ように、昇圧コンバータ46を制御する。S12で目標出力電圧V1を維持するか上昇させるかは予め設定される。なお、S12で現在目標出力電圧がシステム最大電圧V0(例えば650V)に達している場合に目標出力電圧V1を維持し、それ以外で所定レートで上昇させてもよい。「システム最大電圧」は、部品保護の面から予め設定される目標出力電圧の上限である。「所定レート」は、インバータ42,44への過電流防止のために予め設定される電圧の所定割合または所定量である。
【0051】
なお、
図3のS10でスリップ検出がされない場合、スリップ検出からグリップ移行後、所定時間内か否かを判定する。例えばスリップ検出部68によってスリップ検出がされなくなってから所定時間を経過していない場合、S12に移行する。これによって、グリップ中で昇圧コンバータ46の出力電圧がまだ高い場合で、かつ、EV走行中でない場合に、S18において目標出力電圧V1が低下される。
【0052】
S14でスリップ検出からグリップ移行後の時間が所定時間を超えている場合、昇圧コンバータ46は第1MG22の目標回転数及び目標トルクと、第2MG24の目標トルク及び回転数とから、予め設定されたマップまたは関係式を用いて算出される目標出力電圧V1で、昇圧コンバータ46の「通常昇圧」である昇圧制御を行う。この場合も、目標出力電圧V1を上昇させる場合には、S16で説明した場合と同様、所定レートで上昇させる。S16,S18,S20の処理が終了した場合にはS10に戻る。
【0053】
図4では、スリップ状態からグリップ状態に移行した場合に、時間t2Aで制御モードが矩形波制御モードP3から過変調制御モードP2に切り替わることも示している。
【0054】
上記の制御システム12によれば、スリップが検出された場合で、かつ、EV走行中である場合に、スリップの検出前に対して昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1が上昇されるか、または同じ大きさに維持される。このため、第1MG22を用いてエンジン20が始動されHV走行に移行する場合に、第1MG22を駆動する第1インバータ42の入力電圧を高くできるので、スリップ検出時でもエンジン20の始動性の低下を防止できる。
【0055】
例えばEV走行中に、スリップが検出された場合にSOCの算出値が所定下限値以下になる場合、またはEV走行指示部69の操作によりEVモードの選択が解除されることによって、スリップ発生と、第1MG22を用いたエンジン20の始動とが同じタイミングで生じる場合がある。この場合に本例では第1MG22を駆動する第1インバータ42の入力電圧を高くできるので、エンジン20の始動性の低下を防止できる。
【0056】
図5は、本実施形態において、スリップ検出時の車両の動作を説明するための動作波形図を示している。第1インバータ42の入力電圧は、昇圧コンバータ46の出力電圧VHで定まる。一方、EV走行中にスリップが検出された場合、例えば
図5(A4、A5)のW1で示すように目標出力電圧V1が650Vで一定である場合に、(A6)のW2で示すように出力電圧VHが変化する。具体的には、時間t1でスリップによって第2MG24の回転数Nw2が急上昇し(A1)、かつ、第2MG24のトルクが一定に制御されている場合、第2MG24の消費電力Pm(A7)が急上昇する。この場合、第2インバータ44の消費電力も増大するので、昇圧コンバータ46の出力電圧VHが低下する。コンバータ制御部60は、出力電圧VHの低下を回復させるように昇圧コンバータ46を制御するので、一旦低下した出力電圧VHは再び650Vに戻る。時刻t2においてグリップ状態に移行すると、第2MG24の回転数Nw2は急減少するので、第2MG24の消費電力Pmも低下する。この結果、昇圧コンバータ46の出力側においてエネルギ過多の状態となり、時刻t2からt2Aで出力電圧VHが650Vを超えた状態となる。この場合、(A7)で示す第2MG24の消費電力Pmから(A8)で示す第1MG22の発電量Pgを減算して得られ、昇圧コンバータ46を通過する電力量(Pm−Pg)は、(A9)に示すW3となる。この場合、エンジン停止によってPg=0であるので、力行状態でW3は比較的大きくなり、バッテリ28に戻す電力が小さいか、または発生しない。このため、昇圧コンバータ46の出力側のエネルギ過多の状態が緩和されて、出力電圧VHの上昇を抑制できるので、出力電圧VHが過大になることを防止できる。したがって、(A6)のW2で示すように、EV走行中の出力電圧VHが予め部品保護の面から設定されるVH上限値を超えることがないので、各インバータ42,44の過電圧を防止できる。このようなEV走行中では、後述のHV走行中の場合に比べて出力電圧VHを低下させる必要性は低い。
【0057】
一方、スリップ状態で第2MG24の回転数が上昇すると、
図2で示した第1MG22及び第2MG24の関係から、第1MG22の回転数が負方向に大きく変化する。この場合、第1MG22の回転数に応じたトルク上限の関係は、出力電圧VHに応じて変化し、出力電圧VHが高いほど、回転数が高い場合でもトルク制限がされない場合がある。本例の場合、EV走行中にスリップ検出の場合でも、時間t1からt2の間で昇圧コンバータ46の出力電圧VHが後述のHV走行中のW5(A6)よりも高くなる。このため、第1MG22のトルクを高くできるので、第1MG22を用いたエンジン始動性の低下を防止できる。
【0058】
一方、HV走行中にスリップが検出された場合、例えば
図5(A4、A5)のW4で示すように目標出力電圧V1が650Vから600Vに低下して、(A6)のW5で示すように出力電圧VHが変化する。この場合、EV走行中の場合と同様に、スリップによって第2MG24の回転数が急上昇し、第2MG24の消費電力が急上昇する。この場合、時刻t2においてグリップ状態に移行した場合に出力電圧VHが上昇する。
【0059】
また、エンジン駆動によって第1MG22が発電するので、第2MG24の消費電力Pmから第1MG22の発電量Pgを減算した電力量(Pm−Pg)が(A9)にW6で示すように変化し、力行から回生に移行するように大きく低下して、バッテリ28に戻す電力が大きくなる。しかしながら、本例の場合、スリップの検出によって出力電圧VHは時間t1以降でEV走行の場合よりも低く推移するので、グリップ状態に移行しても出力電圧VHの上限がVH上限値に達することがなく、各インバータ42,44の過電圧を防止できる。
【0060】
図6は、本発明の実施形態の制御システム12を用いて昇圧コンバータ46の昇圧を制御する方法の別例を示すフローチャートである。
図6の別例では、S30,S32でスリップが検出され、EV走行中であると判定された場合に、昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1を予め設定されるシステム最大電圧V0(例えば650V)まで上昇させるか、またはシステム最大電圧V0に維持するように、昇圧コンバータ46の制御が行われる。
図7のS30からS34の処理、及び、S38からS40の処理は、
図3のS10からS14の処理、及び、S18からS20の処理と同様である。
【0061】
上記構成によれば、
図4(A5)を参照して、EV走行中のスリップ検出前の状態で昇圧コンバータ46の目標出力電圧V1がシステム最大電圧V0よりも低い場合(B2)でも、スリップ検出によって矢印βで示すように目標出力電圧V1をシステム最大電圧V0まで迅速に上昇させることができる。上記の
図1から
図5で示した構成の場合では、EV走行中において、スリップ検出前の目標出力電圧V1は、第2MG24の回転数及びトルクから、
図3のS20の通常昇圧と同様に成行きで決定されるので、目標出力電圧V1が低い電圧(例えば500V)である場合がある。この場合、スリップの検出で目標出力電圧V1を上昇させる場合でも、所定レートでその上昇が制限されることにより、目標出力電圧V1の上昇が遅い場合がある。本例の構成ではこのような不都合を防止できる。このため、スリップ検出時のエンジン始動性を向上できる。その他の構成及び作用は、
図1から
図5の構成と同様である。
【0062】
なお、上記の各例では、「EV走行」として、EV走行指示部69によってEV走行が選択されない場合でも、SOCの上昇によってHV走行モードから切り替えられる場合を含むEV走行の場合で、かつスリップ検出の場合に、スリップ検出前に対して昇圧コンバータの目標出力電圧が上昇されるか、または同じ大きさに維持される場合を説明した。ただし、EV走行指示部69によってEV走行が選択された場合に限定し、かつ、スリップ検出の場合に、スリップ検出前に対して昇圧コンバータの目標出力電圧が上昇されるか、または同じ大きさに維持されるようにしてもよい。