【課題を解決するための手段】
【0010】
メインパネル上にパッチパネルを接着した構成を有するパネル部材は、例えば、プレス成形によって所定の形状に成形された後、輸送機器の構成部材として使用される。例えば車両の構成部材としてパネル部材を用いた場合には、エンジン作動中および走行中に車体に振動が生じるので、パネル部材に面外変形を伴う振動が生じる。このとき、パッチパネルとメインパネルとの間の接着剤層には、パッチパネルの慣性運動によって、引張応力および圧縮応力が繰り返し作用する。この引張応力の作用によって、パッチパネルと接着剤層との界面においてき裂が発生する場合がある。その結果、パッチパネルがメインパネルから剥離する場合がある。なお、このような剥離は、プレス成形時(張り出しおよび深絞り等の加工時)にも発生する場合がある。
【0011】
上記のような剥離の発生態様を解明するために、本発明者らは、振動発生時のパネル部材の変形挙動およびき裂の発生状況を詳細に調べた。以下、具体的に説明する。
【0012】
図1は、変形挙動およびき裂の発生状況を調べるために用いたパネル部材1の一例を示す図であり、(a)はパネル部材1の外観斜視図、(b)はパネル部材1の側面図である。
【0013】
図1に示すパネル部材1は、金属製のメインパネル2、樹脂製の接着剤層3、および金属製のパッチパネル4を有する。メインパネル2、接着剤層3およびパッチパネル4はそれぞれ、平面視において長方形状を有する。
図1(b)に点線で示すように、本発明者らは、パネル部材1に面外変形を伴う振動を生じさせた。その結果、以下のことが分かった。
【0014】
図2は、パネル部材1に振動を生じさせた場合のメインパネル2、接着剤層3およびパッチパネル4の状態を模式的に示した側面図である。なお、
図2には、パネル部材1のうちパッチパネル4の角部近傍の部分(
図1(a)において点線で囲んだ部分)を示している。
【0015】
上述したように、パネル部材1に面外変形を伴う振動を発生させた場合、パッチパネル4の慣性運動によって接着剤層3に圧縮応力および引張応力が繰り返し作用する。接着剤層3のヤング率はメインパネル2およびパッチパネル4よりも低いので、接着剤層3に引張応力が作用している場合には、接着剤層3は厚さを増すように変形した。このとき、
図2に模式的に示すように、接着剤層3は、厚さ方向に直角な方向(横方向)に縮むようにも変形した。これらの変形に伴い、接着剤層3とパッチパネル4との界面5は、端部5aに近づくほど接着剤層3側に撓んだ。また、界面5ほどでは無いが、メインパネル2と接着剤層3との界面6も、端部6aに近づくほど接着剤層3側に撓んだ。そして、面外変形の振幅を増大させてパネル部材1に繰り返し振動を与えた結果、界面5からき裂が発生してパッチパネル4が剥離した。なお、界面6からき裂が発生する場合もあったが、界面5からき裂が発生する場合に比べてき裂発生までの時間が長かった。すなわち、界面6からき裂が発生したパネル部材1では、界面5からき裂が発生したパネル部材1に比べて、パッチパネル4の剥離を抑制できていた。
【0016】
さらに本発明者らは、メインパネル2、接着剤層3およびパッチパネル4の形状を変えた種々のパネル部材1を作製し、パネル部材1の変形挙動およびき裂の発生状況を調べた。その結果、接着剤層3とパッチパネル4との界面5の撓みを小さくすることによって、界面5におけるき裂の発生を抑制できることが分かった。
【0017】
そこで、本発明者らは、パネル部材1の各部の形状と界面5の撓みとの関係を調べた。
図3は、パネル部材1の各部の形状と界面5の撓みとの関係を調べる際に用いたパネル部材1の一例を示す側面図である。
【0018】
図3を参照して、本発明者らの研究の結果、パッチパネル4の角部近傍において、接着剤層3の上面3aの端部3bとパッチパネル4の下面4aの端部4bとの距離を適切に調整することによって、界面5の撓みを小さくできることが分かった。さらに、パッチパネル4の角部近傍において、界面5と接着剤層3の側面3cとのなす角を適切に調整することによって、界面5の撓みをさらに小さくできることが分かった。また、これらの調整とは別に、パッチパネル4の角部近傍において、界面5とパッチパネル4の側面4cとのなす角を適切に調整することによっても、界面5の撓みを小さくできることが分かった。
【0019】
なお、上述のパネル部材1では、パッチパネル4の外周縁が上記角部において屈曲しているが、
図4に示すように、パッチパネル4の外周縁が角部において湾曲している場合にも、上記と同様に接着剤層3およびパッチパネル4の形状を調整することによって、界面5の撓みを小さくできることが分かった。
【0020】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記のパネル部材を要旨とする。
【0021】
(1)下から上に順に積層された金属製のメインパネル、接着剤層、および金属製のパッチパネルを備え、
平面視において前記パッチパネルの下面は、その外周縁に少なくとも一つの角部を有し、
平面視において、前記角部を二等分する仮想直線を引き、前記直線と前記接着剤層の上面の外周縁との交点を第1点とし、前記角部の頂点を第2点とした場合に、前記第1点と前記第2点との距離dおよび前記接着剤層の厚さtが下記式(i)を満たす、パネル部材。
0.0(mm)≦d(mm)≦0.2t(mm) ・・・(i)
但し、第1点は、前記直線と前記接着剤層の前記外周縁との複数の交点のうち、第2点に最も近い交点のことである。距離dは、第1点が第2点よりも外側に位置する場合に正の値になり、第1点が第2点よりも内側に位置する場合には負の値になる。
【0022】
(2)平面視において前記直線に一致しかつ上下方向に延びる仮想平面で前記接着剤層および前記パッチパネルを切断した場合の前記接着剤層および前記パッチパネルの断面において、前記接着剤層および前記パッチパネルの界面と前記接着剤層の側面のうち前記第1点から下方に延びる部分とのなす角が90°〜135°である、上記(1)のパネル部材。
【0023】
(3)下から上に順に積層された金属製のメインパネル、接着剤層、および金属製のパッチパネルを備え、
平面視において前記パッチパネルの下面は、その外周縁に少なくとも一つの角部を有し、
平面視において、前記角部を二等分する仮想直線を引き、前記直線と前記接着剤層の上面の外周縁との交点を第1点とし、前記角部の頂点を第2点とした場合に、前記第1点と前記第2点との距離dが下記式(ii)を満たし、
平面視において前記直線に一致しかつ上下方向に延びる仮想平面で前記接着剤層および前記パッチパネルを切断した場合の前記接着剤層および前記パッチパネルの断面において、前記接着剤層および前記パッチパネルの界面と前記パッチパネルの側面のうち前記第2点から上方に延びる部分とのなす角が45°以下である、パネル部材。
0.0(mm)≦d(mm) ・・・(ii)
但し、第1点は、前記直線と前記接着剤層の前記外周縁との複数の交点のうち、第2点に最も近い交点のことである。距離dは、第1点が第2点よりも外側に位置する場合に正の値になり、第1点が第2点よりも内側に位置する場合には負の値になる。
【0024】
(4)前記角部が内角を有する屈曲部であり、
前記角部を二等分する仮想直線とは、平面視において前記角部の前記内角を二等分する直線である、上記(1)から(3)までのいずれかのパネル部材。
【0025】
(5)前記角部が湾曲部であり、
前記第2点は、平面視において前記湾曲部のうち曲率が最大となる部分に位置し、
前記角部を二等分する仮想直線とは、平面視において、前記第2点を通る前記湾曲部の接線を引いた場合に前記接線に垂直でかつ前記第2点を通る直線である、上記(1)から(3)までのいずれかのパネル部材。