特許第6248769号(P6248769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248769
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】成形時の金型への凝着部位の予測方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/00 20060101AFI20171211BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B21D22/00
   B21D22/20 E
   B21D22/20 H
   B21D22/20 Z
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-79757(P2014-79757)
(22)【出願日】2014年4月8日
(65)【公開番号】特開2015-199098(P2015-199098A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−298906(JP,A)
【文献】 特開2011−198305(JP,A)
【文献】 特開2013−198927(JP,A)
【文献】 特開2010−207910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00
B21D 22/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたアルミニウムめっき鋼板を、金型を用いてプレス成形し、前記金型内で冷却して成形品に加工するホットスタンプに際し、前記鋼板のアルミニウムめっきが前記金型へ凝着する部位を予測する方法であって、
当該予測方法は、熱解析と構造解析を連成させた解析により、前記ホットスタンプ時のプレス成形および冷却の過程における前記鋼板の温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を求める解析ステップと、
前記面圧分布および前記面内圧縮応力の分布に基づき、前記面圧と前記面内圧縮応力との積の分布を演算する結果処理ステップと、
前記面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づき、前記ホットスタンプにおける前記アルミニウムめっきの前記金型への凝着発生状態を判定する判定処理ステップとを含む、凝着部位の予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の凝着部位の予測方法であって、
前記判定処理ステップでは、前記面圧と面内圧縮応力との積が、前記温度分布に基づいた前記鋼板の温度における前記鋼板の降伏応力を2乗した値を超える場合に、凝着発生有りと判定する、凝着部位の予測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の凝着部位の予測方法であって、
前記判定処理ステップでは、前記面圧と面内圧縮応力との積Pσ(MPa2)の分布から下記(1)式を用いてプレス回数判定値Npの分布を算出し、前記プレス回数判定値Npが所定の閾値を超える場合に、凝着発生有りと判定する、凝着部位の予測方法。
Np=(kp×tb)/(tc×Pσ) ・・・(1)
ただし、変換係数をkp(回/MPa2)、金型表面の限界凝着膜厚をtb(mm)、アルミニウムめっき鋼板のアルミニウムめっき層の厚みをtc(mm)とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムめっき鋼板をホットスタンプする際に、アルミニウムめっきの金型への凝着が進行しやすい部位を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板のプレス成形工法の一つに、ホットスタンプがある。ホットスタンプは、ホットプレスや熱間プレス、ホットフォーミング、ウォームフォーミング、ダイクエンチとも呼ばれる。ホットスタンプは、例えば、以下の手順により、行うことができる。
(1)加熱工程で、素材である鋼板をオーステナイト域まで加熱する。
(2)成形工程で、加熱された鋼板に金型を用いてプレス成形を施すことにより、所望の形状とする。
(3)冷却工程で、所望の形状とした鋼板を金型内で保持して冷却することにより、その鋼板に焼入れを施し、成形品を得る。
【0003】
冷間でのプレス成形は、素材が高強度鋼板である場合に形状凍結性が問題となるのに対し、上述のホットスタンプは、素材が高強度鋼板であっても形状凍結性に優れる。加えて、ホットスタンプは、焼入れで強度を向上させることによって強度を確保することができる。このため、金型を用いるプレス成形でホットスタンプの適用が拡大しつつある。
【0004】
ホットスタンプでは、高温でプレス成形を施すことから、非めっきの鋼板をホットスタンプする場合は、加熱時の酸化スケールの発生が問題となっていた。このため、プレス成形後にスケール除去処理が必要となり、生産性の向上が課題となっていた。これに対し、酸化スケールの発生を防止しながら成形品の耐食性を向上させるため、近年、素材鋼板として亜鉛系めっき鋼板やアルミニウムめっき鋼板をはじめとするめっき鋼板を採用することが進展しつつある。亜鉛系めっき鋼板を用いた技術としては例えば特許文献1があり、アルミニウムめっき鋼板を用いた技術としては特許文献2および3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−74464号公報
【特許文献2】特開2000−38640号公報
【特許文献3】国際公開WO2010/79995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホットスタンプでアルミニウムめっき鋼板を用いる場合、アルミニウムめっきが金型に凝着しやすい傾向がある。金型を繰り返して用いると、凝着の累積により、成形品への転写痕あるいは金型および成形品への擦り疵が発生する。
【0007】
繰り返してホットスタンプで成形品を製造する場合、このアルミニウムめっきの金型への凝着は、成形工程でプレス成形中に金型と鋼板とが強く接触する部位で進行しやすい。この金型と鋼板とが強く接触する部位は、成形品の形状からある程度予測可能である。しかしながら、成形工程で金型と鋼板とが強く接触する部位のみでなく、冷却工程のように接触状態が大きく変化しない状況でも、アルミニウムめっきの凝着が進行する場合がある。また、アルミニウムめっきの金型への凝着は、金型と鋼板とが強く接触する部位に限られず、金型と鋼板との接触が比較的弱い部位であっても凝着が進行する場合がある。
【0008】
これらのことから、金型と鋼板との接触状態だけでは、疵に繋がるような凝着が進行しやすい部位(以下、単に「凝着部位」ともいう)を予測して特定することができない。このため、凝着による金型損傷等の防止対策を部品(成形品)設計段階で検討し、根本的に解決することができない。したがって、部品(成形品)の試作を繰り返し行い、凝着部位を特定するといった対処療法しか、アルミニウムめっきの金型への凝着に対する改善方法がない状態であった。
【0009】
常温でのプレス成形では、成形性の改善のために通常は潤滑油が使用され、この潤滑油は同時に金型の損傷防止にも有効な手段である。ホットスタンプにおいても潤滑油を使用することで同じ効果は得られるが、高温での油の焼付き等を避けるため、成形性の点で不利であるが一般に潤滑油を使用しない。このように、現状は、ホットスタンプにおける凝着に起因する疵や凝着部位の予測や対処方法について十分に配慮されていない。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、アルミニウムめっき鋼板をホットスタンプする際に、アルミニウムめっきの金型への凝着が進行しやすい部位を予測可能な凝着部位の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、次の通りである:
【0012】
(1)加熱されたアルミニウムめっき鋼板を、金型を用いてプレス成形し、前記金型内で冷却して成形品に加工するホットスタンプに際し、前記鋼板のアルミニウムめっきが前記金型へ凝着する部位を予測する方法であって、当該予測方法は、熱解析と構造解析を連成させた解析により、前記ホットスタンプ時のプレス成形および冷却の過程における前記鋼板の温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を求める解析ステップと、前記面圧分布および前記面内圧縮応力の分布に基づき、前記面圧と前記面内圧縮応力との積の分布を演算する結果処理ステップと、前記面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づき、前記ホットスタンプにおける前記アルミニウムめっきの前記金型への凝着発生状態を判定する判定処理ステップとを含む、凝着部位の予測方法。
【0013】
(2)上記(1)に記載の凝着部位の予測方法であって、前記判定処理ステップでは、前記面圧と面内圧縮応力との積が、前記温度分布に基づいた前記鋼板の温度における前記鋼板の降伏応力を2乗した値を超える場合に、凝着発生有りと判定する、凝着部位の予測方法。
【0014】
(3)上記(1)に記載の凝着部位の予測方法であって、前記判定処理ステップでは、前記面圧と面内圧縮応力との積Pσ(MPa2)の分布から下記(1)式を用いてプレス回数判定値Npの分布を算出し、前記プレス回数判定値Npが所定の閾値を超える場合に、凝着発生有りと判定する、凝着部位の予測方法。
Np=(kp×tb)/(tc×Pσ) ・・・(1)
ただし、変換係数をkp(回/MPa2)、金型表面の限界凝着膜厚をtb(mm)、アルミニウムめっき鋼板のアルミニウムめっき層の厚みをtc(mm)とする。
【0015】
本発明において「面圧」とは、アルミニウムめっき鋼板と金型とが接触する際に、アルミニウムめっき鋼板の板厚方向(法線方向)に作用する荷重により発生する圧力(MPa)を意味する。この面圧は、アルミニウムめっき鋼板の板厚方向の圧縮応力を用いることができる。
【0016】
また、「面内圧縮応力」とは、アルミニウムめっき鋼板の板厚方向と直交する平面上に作用する圧縮応力を意味する。解析ステップで使用する面内圧縮応力として、平面応力状態における最小主応力を代表値として用いることができる。
【0017】
「金型表面の限界凝着膜厚」とは、金型表面上でアルミニウムめっきが凝着した部位の膜厚であって、凝着に起因する疵が形成されないと判断される最大膜厚を意味する。このように金型表面の限界凝着膜厚を規定するのは、めっきが金型に凝着しても、その膜厚が薄ければ疵の形成には繋がらないが、凝着が進行して膜厚が厚くなると疵の形成に繋がることによる。金型表面の限界凝着膜厚は、例えば、操業実績に基づく経験則や予備実験等から設定できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の凝着部位の予測方法は、ホットスタンプの解析結果から面圧と面内圧縮応力との積の分布を求め、その分布に基づいてアルミニウムめっきの金型への凝着発生状態を判定する。これにより、金型と鋼板とが強く接触する部位(面圧が高い部位)のみならず、金型と鋼板との接触が比較的弱い部位(面圧が比較的弱い部位)についても、凝着の発生を判定して予測できる。このため、ホットスタンプによって作製される部品の設計段階で、凝着の軽減または防止対策を施すことが可能となり、検討工数や費用削減などの効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の凝着部位の予測方法による処理ステップ例を表すフロー図である。
図2図2は、本発明の凝着部位の予測方法に使用可能な予測解析装置の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、結果処理ステップによって求めた面圧と面内圧縮応力との積の分布の一例を説明する上面図であり、同図(a)は面圧の分布、同図(b)は面内圧縮応力の分布、同図(c)は面圧と面内圧縮応力との積の分布をそれぞれ示す。
図4図4は、実施形態1による判定処理の結果の一例を説明する図である。
図5図5は、実施例において、鋼板の形状、温度分布および面圧と面内圧縮応力との積が経時変化する様子を示す斜視図である。
図6図6は、実施例において、実施形態1の判定処理を行った結果を示す図である。
図7図7は、繰り返し回数20回の場合のプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す図である。
図8図8は、実施例において、実施形態2の判定処理を行った結果を示す図である。
図9図9は、繰り返し回数100回の場合のプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態の事例に用いた自動車用部品の端部形状を模式的に示す斜視図である。
図11図11は、実施例に用いたモデル部品の形状を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の凝着部位の予測方法について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
[予測解析装置の構成例]
図2は、本発明の凝着部位の予測方法に使用可能な予測解析装置の構成例を示すブロック図である。同図に示す予測解析装置1は、例えば、プログラムの実行により演算処理を行うことが可能なパーソナルコンピュータと、演算処理を行うための命令が記述されたプログラムとを利用して構成できる。
【0022】
同図に示す予測解析装置1は、表示装置2、入力装置3、記憶装置4および演算処理装置5を備える。演算処理装置5には、表示装置2と入力装置3と記憶装置4が接続され、演算処理装置5との信号送受により、接続された各装置が機能する。
【0023】
表示装置2は計算結果の表示等に用いられ、例えば、液晶モニターやプリンター等で構成される。入力装置3はオペレータからの入力等に用いられ、例えば、キーボードやマウス等で構成される。記憶装置4は演算処理装置5で使用するデータの保存や演算等に用いられ、例えば、RAMやハードディスク等で構成される。演算処理装置5は、入力された命令を実行することによって演算処理を行い、例えば、CPU等によって構成される。その演算処理装置5では、解析手段6と、結果処理手段7と、判定処理手段8とが実行される。これらの手段は、演算処理装置5のCPU等が所定のプログラムを実行することによって実現される。これらの手段について以下に説明する。
【0024】
解析手段6は、ホットスタンプについて解析を行う。具体的には、加熱工程で加熱された鋼板の温度分布をオペレータの入力に応じて鋼板の初期温度分布として設定し、成形工程および冷却工程について熱解析と構造解析(弾塑性解析)を連成させて(関連付けて)解析を行う。これにより、ホットスタンプの成形工程および冷却工程における形状情報(例えば鋼板の各位置の変位量)、温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を演算して取得する。
【0025】
結果処理手段7は、解析手段6によって得られた形状情報、温度分布および応力分布に基づき、成形品の各位置で面圧と面内圧縮応力との積を演算し、面圧と面内圧縮応力との積の分布を求める。求めた面圧と面内圧縮応力との積の分布は、例えば、位置情報(例えば座標値)およびその位置における温度情報とともに保存する。なお、位置情報は、形状情報から算出できる。
【0026】
判定処理手段8は、結果処理手段7によって得られた面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づき、アルミニウムめっきの金型への凝着発生状態を判定する。この判定は、例えば、面圧と面内圧縮応力との積と所定の閾値とを比較することによって行う。その所定の閾値は、一定値とすることもできるが、解析による温度情報に基づいて設定する形態を採用することができる(実施形態1)。また、面圧と面内圧縮応力との積から前記(1)式を用いてプレス回数判定値Npを算出し、そのプレス回数判定値Npと所定の閾値(例えば手入れまでのプレス回数)とを比較することによって行う形態を採用することもできる(実施形態2)。
【0027】
判定処理の結果は、オペレータが視覚的に比較可能なように表示装置2に表示される。結果表示は、例えば、判定処理手段8が表示装置2に鋼板の形状を表示し、その表示上で凝着発生有りと判定された位置を強調表示することで行うことができる。その際、温度情報や面圧と面内圧縮応力との積、プレス回数判定値Npを併せて表示してもよい。
【0028】
[凝着部位の予測方法]
本発明の凝着部位の予測方法は、アルミニウムめっき鋼板のホットスタンプで、アルミニウムめっきが金型へ凝着する部位を予測する方法であり、上述の予測解析装置1を用いて実施することができる。具体的には、解析手段6、結果処理手段7および判定処理手段8がそれぞれの処理を順次実行することによって実施できる。
【0029】
すなわち、本発明の凝着部位の予測方法は、解析ステップと、結果処理ステップと、判定処理ステップとを含む。解析ステップは、例えば、解析手段6を用いることができ、熱解析と構造解析を連成させた解析により、ホットスタンプ時のプレス成形および冷却の過程(成形工程および冷却工程)における鋼板の温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を求める。結果処理ステップは、例えば、結果処理手段7を用いることができ、面圧分布および面内圧縮応力の分布に基づき、面圧と面内圧縮応力との積の分布を演算する。判定処理ステップは、例えば、判定処理手段8を用いることができ、面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づき、ホットスタンプにおけるアルミニウムめっきの金型への凝着発生状態を判定する。
【0030】
解析ステップでは、熱解析と構造解析を連成させた解析を行い、熱解析と構造解析とで相互に各々の計算値を参照しながら解析を行う。例えば、熱解析では、ホットスタンプの成形工程における鋼板の温度分布を演算する。その演算では、加熱された鋼板から雰囲気への熱伝達や、金型との隙間での熱伝達、金型との接触部での熱伝達等を考慮する。
【0031】
一方、構造解析では、ホットスタンプの成形工程における応力分布や各位置の変位等を、ヤング率やポアソン比、線膨張係数、降伏応力、応力−歪線図、比熱、熱伝導率等のパラメータを用いて演算する。このように構造解析で演算する際に、ヤング率やポアソン比、線膨張係数、降伏応力、応力−歪線図、比熱、熱伝導率等のパラメータを、熱解析によって演算された温度分布に対応して変化させる。
【0032】
熱解析と構造解析を連成させた解析は、汎用の数値解析ソフトウェアを用いて行うことができる。汎用の数値解析ソフトウェアとして、例えば、LS−DYNAを用いることができる。
【0033】
このような本発明の凝着部位の予測方法について、フロー図を参照しながら以下に説明する。また、以下の説明では、ホットスタンプによって自動車用部品をフォーム成形(曲げ成形)する事例を適宜参照する。
【0034】
図1は、本発明の凝着部位の予測方法による処理ステップ例を表すフロー図である。図中のS1〜S3は処理ステップを表す。
図10は、本発明の実施形態の事例に用いた自動車用部品の端部形状を模式的に示す斜視図である。同図には、自動車部品9を示す。また、ハッチングを施した領域10は、実際のホットスタンプでアルミニウムめっきの金型への凝着が疵形成に繋がる程度で発生した部位と対応する領域である。
【0035】
解析ステップ(S1)では、ホットスタンプについて解析を行う。具体的には、加熱工程で加熱された鋼板の温度分布をオペレータの入力に応じて鋼板の初期温度分布として設定し、ホットスタンプの成形工程および冷却工程について熱解析と構造解析(弾塑性解析)を連成させて(関連付けて)解析を行う。これにより、ホットスタンプの成形工程における形状情報、温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を演算して取得する。
【0036】
鋼板の初期温度分布の設定例について以下に説明する。ホットスタンプの実操業では、鋼板を電気加熱炉やガス加熱炉、赤外線加熱炉、誘導加熱装置等でオーステナイト域まで均一に加熱した後、ロボット等の搬送装置でプレス機に搬送してプレス成形を行う。そこで、初期温度分布を、実際の鋼板の加熱を想定し、全体に均一な温度(例えば750℃)に設定することができる。もちろん、計算結果をより正確にするため、加熱炉内での温度分布(加熱ばらつき)や、加熱後に搬送する際の雰囲気への抜熱を考慮して熱解析を行い、その結果に基づいて初期温度分布を設定してもよい。また、特殊な加熱形態、例えば鋼板の一部のみを加熱するような場合には、加熱形態に応じた不均一な温度分布を与えてもよい。
【0037】
ここで、実際のホットスタンプの冷却工程では、例えば、成形下死点で鋼板(成形品)を金型内で一定時間保持した状態で、冷却速度を30℃/秒以上にして急冷却する。これにより、マルテンサイト変態を安定して生じさせ、強度確保と形状凍結性とを両立する。アルミニウムめっきの金型への凝着には成形過程(成形工程)の影響が大きいが、冷却過程(冷却工程)のわずかな収縮変形が影響する場合もある。このため、解析ステップにおいては、成形過程のみならず冷却過程についても、熱解析と構造解析を連成させた解析を行う。
【0038】
このように解析ステップで、ホットスタンプの成形工程における鋼板の形状情報や温度分布、面圧分布、面内圧縮応力の分布等を求め、これらのデータは次ステップの結果処理ステップに引き渡される。
【0039】
結果処理ステップ(S2)では、解析ステップで求めた面圧分布および面内圧縮応力の分布に基づき、面圧と面内圧縮応力との積の分布を演算する。求めた面圧と面内圧縮応力との積の分布は、例えば、位置情報(座標値)およびその位置における温度情報とともに保存する。このように結果処理ステップ(S2)で面圧と面内圧縮応力との積の分布を求める理由を、図3を用いて説明する。
【0040】
図3は、結果処理ステップによって求めた面圧と面内圧縮応力との積の分布の一例を説明する上面図であり、同図(a)は面圧の分布、同図(b)は面内圧縮応力の分布、同図(c)は面圧と面内圧縮応力との積の分布をそれぞれ示す。同図は、成形下死点、より具体的には冷却工程完了時での分布を示す。同図(c)の破線で囲んだ部分は、実際のホットスタンプでアルミニウムめっきの金型への凝着が発生した部位を示す。同図では、面内圧縮応力の代表値として、平面応力状態における最小主応力を用いた。
【0041】
同図(a)および(c)より、面圧が高い領域(100MPaを超える領域)、すなわち、金型と鋼板とが強く接触する部位は、凝着が発生した部位と一致する部分もあるが、面圧が高い領域は、凝着が発生した部位よりもかなり広い領域となっていることが確認される。また、同図(b)および(c)より、面内圧縮応力が高い領域(100MPaを超える領域)は、凝着が発生した部位と一致する部分もあるが、面圧が高い領域は、凝着が発生した部位より狭い領域となっていることが確認される。
【0042】
これに対し、面圧と面内圧縮応力との積が高い領域(15000MPa2を超える領域)は、凝着が発生した部位とほぼ一致することが確認される。このため、面圧および面内圧縮応力のいずれか一方のみの評価では、凝着が発生する部位を予測することができないが、面圧と面内圧縮応力との積を評価すれば、凝着が発生する部位を予測することが可能となる。
【0043】
このように面圧および面内圧縮応力の両方を評価することにより、凝着部位の予測が可能となるのは、金型と鋼板とが強く接触する部位のみならず、面内圧縮応力が高い部位、すなわち、めっき層が圧壊し剥離を生じる部位が考慮されることによると推察される。
【0044】
なお、図3(a)の面圧は、鋼板の下面、すなわち、下金型と接触する面における面圧を示し、図3(c)の破線で囲んだ部分は下金型で凝着が発生した部位を示す。鋼板の上面についても、面圧分布から面圧と面内圧縮応力との積の分布を求めれば、上金型で凝着が発生する部位を予測できる。
【0045】
判定処理ステップ(S3)は面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づき、アルミニウムめっきの金型への凝着発生状態を判定する。この判定は、例えば、面圧と面内圧縮応力との積と所定の閾値とを比較することによって行う。その所定の閾値は、一定値とすることもできるが、解析による温度情報に基づいて設定する形態を採用することができる(実施形態1)。また、面圧と面内圧縮応力との積から前記(1)式を用いてプレス回数判定値Npを算出し、そのプレス回数判定値Npと所定の閾値(例えば手入れまでのプレス回数)とを比較することによって行う形態を採用することもできる(実施形態2)。
【0046】
前述した面圧と面内圧縮応力との積あるいはそこから算出されるプレス回数判定値Npを、表示装置2に表示してもよい。例えば、判定処理手段8が解析ステップで求めた形状情報に基づいて鋼板の形状を表示し、その表示上に面圧と面内圧縮応力の積等の分布を例えば色分けして表示する。あるいは、この分布を、閾値で(段階的に)区分した形で表示させてもよい。オペレータは、表示結果から凝着発生状態を判定する。
【0047】
本発明の凝着部位の予測方法は、面圧と面内圧縮応力を用いて凝着の発生を判定(予測)している。そこで、例えば、凝着が発生すると判定された部位で成形時の流入抵抗を下げることで、凝着の発生を未然に防止できる。成形時の流入抵抗を下げる方法として、例えば、金型の断面における肩部のRや稜線の曲率といった幾何形状を緩和する方法を採用できる。また、鋼板の初期形状(素材形状)を変更する方法も採用できる。
【0048】
このように本発明の凝着部位の予測方法によれば、解析に基づき、実際のホットスタンプでアルミニウムめっきの金型への凝着が発生する部位を予測することができる。このため、凝着の軽減または防止対策を施すことが可能となり、具体的には、金型形状の緩和や成形時の摺動性改善等を行うことが可能となる。したがって、ホットスタンプによって作製される部品の設計段階で、検討工数や費用削減などの効果を得ることができる。
【0049】
解析ステップでは、ホットスタンプ時のプレス成形および冷却の過程における鋼板の温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を求める(出力する)。この面圧分布等のデータを用いて結果処理ステップで面圧と面内圧縮応力との積の分布を演算し、判定処理ステップで面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づいて凝着発生状態を判定する。これらの処理を行うホットスタンプ上のタイミングは、成形品の形状や金型の構造、成形方法(フォーム成形またはドロー成形)に応じて適宜設定することができる。
【0050】
一般的なプレス成形によるホットスタンプでは、プレス成形の完了時(冷却開始前)に面圧や面内圧縮応力が増大する傾向がある。このため、解析ステップで少なくともプレス成形の完了時についてデータを出力し、そのデータを用いて結果処理ステップで面圧と面内圧縮応力との積の分布を演算し、判定処理ステップで面圧と面内圧縮応力との積の分布に基づいて凝着発生状態を判定するのが望ましい。
【0051】
[実施形態1]
本発明の実施形態1は、判定処理ステップで、面圧と面内圧縮応力との積の分布に加えて温度分布に基づいて判定を行う。面圧と面内圧縮応力との積が温度分布に基づく鋼板の温度における鋼板の降伏応力を2乗した値を超える場合に、凝着発生有りと判定する。換言すると、面圧と面内圧縮応力との積が鋼板の温度における鋼板の降伏応力を2乗した値未満である場合に、凝着発生無しと判定する。
【0052】
図4は、実施形態1による判定処理の結果の一例を説明する図である。同図は、図3(c)に示す面圧と面内圧縮応力との積の分布を、面圧と面内圧縮応力との積が閾値を超える領域と、閾値未満の領域とで区分け(色分け)して示したものである。また、同図には、実際のホットスタンプでアルミニウムめっきの金型への凝着が発生した部位を、破線で囲んで示す。同図による判定処理では、温度分布から判定位置での鋼板の温度を所得し、その温度における鋼板の降伏応力を選択し、その降伏応力を2乗した値を閾値に設定した。
【0053】
同図より、面圧と面内圧縮応力との積が閾値を超える領域(黒塗りの領域)と、実際のホットスタンプでアルミニウムめっきの金型への凝着が発生した部位とがほぼ一致することが確認できる。このため、閾値を鋼板温度における降伏応力を2乗した値とすれば、凝着が発生する部位を予測することが可能となる。この場合、鋼板の温度を考慮して閾値が設定されるので、より正確な予測が可能となる。
【0054】
閾値を設定する際の鋼板の温度は、温度分布に基づいて適宜設定すればよい。例えば、図4の判定のように、判定位置での鋼板の温度とすることができる。また、鋼板の温度分布が一様な(ばらつきが小さい)場合は、温度分布から算出される平均温度とすることもできる。
【0055】
[実施形態2]
本発明の実施形態2は、判定処理ステップで、面圧と面内圧縮応力との積(MPa2)の分布から下記(1)式を用いてプレス回数判定値Npの分布を算出する。そのプレス回数判定値Npが所定の閾値を超える場合に、凝着発生有りと判定する。換言すると、プレス回数判定値Npが所定の閾値未満である場合に、凝着発生無しと判定する。
Np=(kp×tb)/(tc×Pσ) ・・・(1)
ただし、変換係数をkp、金型表面の限界凝着膜厚をtb(mm)、アルミニウムめっき鋼板のアルミニウムめっき層の厚みをtc(mm)とする。
【0056】
本発明の実施形態2では、例えば、解析ステップで求めた形状情報に基づいて鋼板の形状を表示し、そのプレス回数判定値Npの分布を区分けして表示すればよい。この場合、オペレータが、判定基準となる閾値(例えば、経験的に知られている金型手入れまでのプレス回数)と算出されたプレス回数判定値Npとを対比して判定を行うことができる。
【0057】
このようなプレス回数判定値Npを用いた判定では、凝着の発生によって金型が損傷等を受けやすい部分を、オペレータ、または、実際のホットスタンプの作業者が容易に認識することができる。判定は、面圧と面内圧縮応力との積に基づくことから、凝着の軽減および防止対策を講じる場合の指標としても有効に活用することができる。
【0058】
ただし、この判定指標は、変換のために鋼板側のめっきの状態に関するtcおよびkc、金型側の凝着状態に関するtbというパラメータを使用する。これらのパラメータは、測定や試験によって、予め求めておく必要がある。
【0059】
変換係数kpは、後述する実施例に示すように、ホットスタンプを複数回繰り返す試験を行うことによって求めることができる。具体的には、以下の手順によって求めることができる。
(a)アルミニウムめっき鋼板についてアルミニウムめっき層の厚みtc(mm)を測定する。
(b)そのアルミニウムめっき鋼板を用いて所定の回数N1に亘ってホットスタンプを繰り返して行う。
(c)金型表面のアルミニウムめっきが凝着した部位について、その膜厚t1(mm)を測定する。
(d)熱解析と構造解析を連成させた解析を行い、その結果から、アルミニウムめっきが凝着した位置における面圧と面内圧縮応力との積Pσを算出する。
(e)前記(1)式に、(a)のアルミニウムめっき層の厚みtcと、(d)の面圧と面内圧縮応力との積Pσとを代入するとともに、Npに(b)の所定の回数N1およびtbに(c)の膜厚t1を代入することにより、kpに関する方程式を得る。
(f)その方程式を解くことにより、kpを求める。
【0060】
このような変換係数kpは、成形品の形状や金型の構造、成形方法(フォーム成形またはドロー成形)に応じて適宜設定することができる。換言すると、成形品の形状や金型の構造、成形方法が同様であれば、変換係数kpも同程度となり、変換係数kpを求める作業を省略することができる。
【0061】
このような本発明の実施形態2によれば、アルミニウムめっきの金型への凝着発生状態を、より生産現場での評価に近い状態で判定(予測)できる。また、実際の凝着発生状態に基づきパラメータ(kp、tbおよびtc)が設定されるので、材料条件の変更や、加熱条件の変更によるアルミニウムめっきの状態変化にも対応できる。このため、単なる凝着部位の予測による金型設計や鋼板形状の対策検討に留まらず、金型手入れの頻度の見積もりや、実際のホットスタンプにおける金型メンテナンスの最適化等にも活用できる。すなわち、本発明の利用可能な領域が拡大するという効果が得られる。
【実施例】
【0062】
本発明の効果を確認するため、本発明の凝着部位の予測方法により凝着部位を予測するとともに、実際にホットスタンプを行って凝着部位を確認した。
【0063】
図11は、実施例に用いたモデル部品の形状を模式的に示す斜視図である。同図には、モデル部品11を作製する際に素材となるアルミニウムめっき鋼板12の形状(初期形状)を破線で併せて示す。同図に示すモデル部品(成形品)11は、ホットスタンプによって作製される自動車用部品に基づき、その形状の特徴を模擬させたものである。モデル部品の形状を設定する際、ホットスタンプにおけるアルミニウムめっきの金型への凝着を短時間(少ないプレス回数)で評価できるように、面圧が高くなる形状を有する部位、および、面内圧縮応力が高くなる形状を有する部位を設けた。
【0064】
先ず、ホットスタンプ試験について説明する。素材として、一辺200mmの正方形形状で板厚1.4mmのホットスタンプ用アルミニウムめっき鋼板12を用いた。この鋼板を電気加熱炉にて950℃に加熱した後、搬送ロボットでプレス機に搬送してプレス成形を行った。プレスの成形開始時の温度は700℃とした。プレス成形方法は、フォーム成形とし、成形速度は約150mm/秒とした。下死点に達した後は、その状態を約10秒間保持して金型内で鋼板を冷却することにより、焼入れを行った。その後、鋼板を離型させて搬出し、室温まで空冷して成形品を得た。このホットスタンプを100回繰り返し、離型毎にアルミニウムめっきの金型表面への凝着を目視にて観察した。また、凝着が顕著に認められた部位を膜厚測定装置で測定することにより、膜厚の変化を観察した。
【0065】
次に、本試験の凝着部位の予測について説明する。凝着部位の予測では、前記図1を用いて説明した通り、解析ステップ、結果処理ステップおよび判定処理ステップを、その順に実施した。その際、前記図2に示す予測解析装置1を用いた。各ステップの詳細な条件を以下に説明する。
【0066】
解析ステップでは、解析手段5に必要なデータや条件を入力し、解析手段5を用いて熱解析と構造解析を連成させた解析を行い、ホットスタンプ時の成形工程および冷却工程における鋼板の温度分布、面圧分布および面内圧縮応力の分布を求めた。解析手段5として、汎用の数値解析ソフトウェアであるLS−DYNAを用いた。その際、入力したデータや条件についての概要を以下に示す。本解析では、面内圧縮応力の代表値として、平面応力状態における最小主応力を用いた。
【0067】
材料特性は、上記ホットスタンプ試験に用いた素材(アルミニウムめっき鋼板)と同じ鋼種のテスト材料について測定を行い、それによって得られたデータを入力した。具体的には、テスト材料を一度950℃まで加熱した後、試験開始温度まで冷却し、その後、各種試験を行った。これにより、試験開始温度における応力−ひずみ特性、比熱、空気層に対する熱伝導率、金型に対する熱伝達率、線膨張係数、ヤング率およびポアソン比を得た。試験開始温度は500〜800℃で数水準設定した。このようにして各試験開始温度における応力−ひずみ特性、比熱、熱伝導率、線膨張係数、ヤング率およびポアソン比を得て、解析手段に入力した。
【0068】
素材となる鋼板は、その初期形状に基づいてシェル要素でモデル化した。金型は、ホットスタンプ試験で用いた金型の表面形状に基づいてシェル要素でモデル化した。鋼板は弾塑性体とし、金型は剛体とした。要素サイズはいずれも2mm前後とした。なお、金型を剛体としたのはモデルの簡素化、計算時間の短縮が主な目的であり、弾塑性体でモデル化しても計算上の問題は生じない。
【0069】
熱解析においては、鋼板表面と金型表面とに隙間がある場合(接触圧が生じない場合)は、空気層に対する熱伝達率を適用し、接触圧を生じる場合は、金型に対する熱伝達率を適用した。また、解析における鋼板の初期温度はホットスタンプ試験と同じ700℃とし、金型の初期温度は80℃とした。
【0070】
解析では、ホットスタンプ時の成形工程について1×10-6秒間隔で合計300,000ステップの演算を行わせ、冷却工程について2.5×10-5秒間隔で合計400,000ステップの演算を行わせた。
【0071】
結果処理ステップでは、結果処理手段6を用い、解析ステップで求めた面圧分布および面内圧縮応力の分布に基づき、面圧と面内圧縮応力との積の分布を演算した。演算結果は、位置情報(座標値)およびその位置における温度情報とともに保存した。一般に有限要素法を用いたシミュレーションでは、データ(温度分布等)の出力タイミングは任意に設定することが可能であり、本シミュレーションでは成形開始から成形下死点まで3水準、成形下死点での冷却開始から冷却完了まで2水準のデータを出力して保存した。
【0072】
図5は、実施例において、鋼板の形状、温度分布および面圧と面内圧縮応力との積が経時変化する様子を示す斜視図である。同図の温度分布欄には、鋼板の形状上に等温線を付すことによって温度分布を示す。面圧と面内圧縮応力との積の分布欄には、鋼板の形状上に面圧と面内圧縮応力との積の分布を色分けによって示す。鋼板の形状は、形状情報(各要素の変位量)に基づいて計算したものである。
【0073】
判定処理ステップでは、判定処理手段7を用い、結果処理ステップで演算して保存した情報に基づき、実施形態1に従って凝着発生状態の判定を行った。すなわち、閾値として、温度分布に基づいた鋼板の温度における鋼板の降伏応力を2乗した値を用いた。判定処理は、成形下死点到達時(冷却開始時)を対象として行った。
【0074】
温度分布に基づいた鋼板の温度は、鋼板の平均温度とし、図5に示す成形下死点到達時の温度分布を用いて算出した。具体的には、温度分布に基づいた鋼板の温度を約670℃とした。この温度における降伏応力は、解析ステップでの入力値から選定し、具体的には150MPaとした。したがって、判定処理の閾値は、22500MPa2とした。
【0075】
図6は、実施例において、実施形態1の判定処理を行った結果を示す図である。同図では、ホットスタンプ試験において顕著な凝着の発生が確認された部位を矢印で指し示す。同図より、判定処理で凝着発生有りと判定された領域と、ホットスタンプ試験において顕著な凝着の発生が確認された部位とが一致することが確認できた。
【0076】
本試験では、実施形態2による凝着発生状態の判定も行った。すなわち、前記(1)式を用いて面圧と面内圧縮応力との積の分布からプレス回数判定値Npの分布を算出した。
【0077】
金型表面の限界凝着膜厚tbは、0.1mmに設定した。これは、前述のホットスタンプ試験と別のホットスタンプ試験を行い、その際に凝着が認められた部位の膜厚を測定するとともに、成形品への転写痕の形成を観察した結果に基づいて設定した。アルミニウムめっき鋼板のアルミニウムめっき層の厚みtcは、ホットスタンプ試験に用いたアルミニウムめっき鋼板について測定を行った結果、0.01mmに設定した。
【0078】
プレス回数変換係数kpは、前述のホットスタンプ試験で凝着が認められた部位の膜厚の測定結果を用いて設定した。
【0079】
図7は、繰り返し回数20回の場合のプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す図である。同図は、前述のホットスタンプ試験で凝着が最も顕著だった部位におけるプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す。同図より、プレス回数が20回で、膜厚が約0.0124mmとなることが確認される。一方、この部位における面圧と面内圧縮応力の積Pσは、解析ステップの演算結果より37500MPa2であった。
【0080】
プレス回数変換係数kpは、前記(1)式にプレス回数判定値Npとして20回、金型表面の限界凝着膜厚tbとしてプレス回数20回の膜厚である0.0124mm、アルミニウムめっき鋼板のアルミニウムめっき層の厚みtcとして測定結果の0.01mm、面圧と面内圧縮応力との積Pσとして演算結果の37500MPa2を代入し、その方程式を解くことにより算出した。具体的には、プレス回数変換係数kpは、6.0×105回/MPa2に設定した。
【0081】
図8は、実施例において、実施形態2の判定処理を行った結果を示す図である。同図には、プレス回数判定値Npの分布を色分けにより示す。同図では、ホットスタンプ試験において顕著な凝着の発生が確認された部位を矢印で指し示す。同図より、判定処理で凝着発生有りと判定された領域と、ホットスタンプ試験において顕著な凝着の発生が確認された部位とが一致することが確認できた。
【0082】
なお、実施形態2では、前記(1)式によるプレス回数判定値への変換で、面圧と面内圧縮応力との積Pσの逆数を用いる。このため、Pσの値が大きくなるのに伴い、プレス回数判定値Npの減少率は低下する。したがって、凝着が進行しやすいPσの値が大きい領域ではプレス回数判定値Npの変化幅が小さくなるため、等間隔の等高線で表示した場合、図8のようにプレス回数判定値Npが小さい部分が強調される。
【0083】
図9は、繰り返し回数100回の場合のプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す図である。同図は、前記図7と同様に、ホットスタンプ試験で凝着が最も顕著だった部位におけるプレス回数と凝着部位の膜厚との関係を示す。同図に示す凝着部位は、前記図8に示すプレス回数判定値Npが約160回であった。
【0084】
同図のプレス回数と凝着部位の膜厚との関係は、繰り返し回数100回までであり、プレス回数判定値Npが約160回に対して62.5%まで実施したこととなる。また、同図より、繰り返し回数100回での膜厚は、約0.06mmであり、限界凝着膜厚0.1mmに対して約60%であった。このことから、前記(1)式によって凝着の進行を予測可能なことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の凝着部位の予測方法は、ホットスタンプによる成形品の製造において、例えば、成形品の設計段階で、部品の形状、材料、金型を設計する際等に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1:予測解析装置、 2:表示装置、 3:入力装置、 4:記憶装置、
5:演算処理装置、 6:解析手段、 7:結果処理手段、 8:判定処理手段、
9:実施形態の事例に用いた自動車部品、
10:アルミニウムめっきの金型への凝着部位、
11:実施例のモデル部品(成形品)、
12:素材となるアルミニウムめっき鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11