特許第6248810号(P6248810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248810
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】乗物用シートのスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/08 20060101AFI20171211BHJP
   B60N 2/44 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B60N2/08
   B60N2/44
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-107877(P2014-107877)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-223854(P2015-223854A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 正之
(72)【発明者】
【氏名】溝端 洋志
(72)【発明者】
【氏名】瀧谷 浩司
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−335092(JP,A)
【文献】 実開昭56−010517(JP,U)
【文献】 特開2005−022475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/08
B60N 2/06
B60N 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物のフロア側に組み付けられる左右のロアレールと、左右のロアレールに対してスライド可能に乗物用シート側に組み付けられる左右のアッパレールと、左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドをロック可能なロック機構と、を備えた乗物用シートのスライド装置であって、このロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作と、をパワーまたはマニュアルで行うことができるようにパワーの駆動を伝達または遮断できるクラッチ機構を備えており、ロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作と、をパワーで行う電動機構を備えており、電動機構は、1つのモータと、この1つのモータの駆動によって回転可能な1つのねじと、この1つのねじに螺合する1つのナットと、この1つのナットをスライド可能に収容し1本のワイヤを巻き取り可能な1つの巻取部材と、この1つのナットがスライドするとガイドピンによってロック機構を解除可能な1つのロック解除ブロックと、を備えており、ロック解除ブロックには、ロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作とをマニュアルで行うときでも、ガイドピンを逃がし可能な凹みが形成されており、
1本のワイヤの一端側は、左右のロアレールの略真ん中における左右のロアレールのスライド方向の一方側に掛け留めされ、
1本のワイヤの他端側は、左右のロアレールの略真ん中における左右のロアレールのスライド方向の他方側に掛け留めされていることを特徴とする乗物用シートのスライド装置。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートのスライド装置であって、
クラッチ機構は、パワーの駆動源の回転を伝達する軸部材と、この軸部材の回転をアッパレールのスライドの動作に伝達または遮断する受部材と、から構成されており、
軸部材には、多角軸と、丸軸と、が形成されており、
受部材には、多角軸に噛み合う多角部と、丸軸を案内する円部と、が形成されており、
軸部材の多角軸と受部材の多角部とが噛み合い状態になっていると、クラッチ機構はパワーの駆動を伝達できる状態となっており、
軸部材の多角軸と受部材の多角部とが噛み合いが解消された状態になっていると、クラッチ機構はパワーの駆動を遮断できる状態となっていることを特徴とする乗物用シートのスライド装置。
【請求項3】
請求項2に記載の乗物用シートのスライド装置であって、
軸部材の多角軸と受部材の多角部との噛み合いが解消された状態になっていても、軸部材の丸軸が受部材の丸部に対して案内された状態になっていることを特徴とする乗物用シートのスライド装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の乗物用シートのスライド装置であって、
操作レバーを備えており、
この操作レバーを操作すると、ロック機構のロック解除と、クラッチ機構の遮断と、を行うことができるように構成されていることを特徴とする乗物用シートのスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートのスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車等のシートのスライド装置において、人力によってロアレールに対するアッパレールをスライドさせることができるマニュアルタイプのものが既に知られている。また、これとは異なり、モータの駆動力によってねじとナットとを相対移動させてロアレールに対するアッパレールをスライドさせることができるパワータイプのものが既に知られている。ここで、下記特許文献1には、パワータイプのスライド装置において、モータの駆動力によって巻取部材に巻装されたワイヤを巻き取ることでロアレールに対するアッパレールをスライドさせることができる技術が開示されている。これにより、ロアレールが長尺といったロングスライドであっても、ねじを長くする必要がない。したがって、ねじの軸ズレに伴うナットからの異音の発生を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4016107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、自動車の電源が喪失してしまうと、モータを駆動させることができないため、例えば、この特許文献1の技術を、シートが3列存在する自動車(例えば、ミニバン等)の2列目に適用した場合、3列目のシートの乗員の乗降がし難くなるという問題が発生していた。そのため、パワーだけでなく、マニュアルでもスライドさせることができるようにすることが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、ロアレールに対するアッパレールのスライドをロックするロック爪のロック解除と、このロック解除状態におけるロアレールに対するアッパレールのスライドをパワーだけでなく、マニュアルでも行うことができる乗物用シートのスライド装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、乗物のフロア側に組み付けられる左右のロアレールと、左右のロアレールに対してスライド可能に乗物用シート側に組み付けられる左右のアッパレールと、左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドをロック可能なロック機構と、を備えた乗物用シートのスライド装置である。このスライド装置には、このロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作と、をパワーまたはマニュアルで行うことができるようにパワーの駆動を伝達または遮断できるクラッチ機構を備えている。また、このスライド装置には、ロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作と、をパワーで行う電動機構を備えている。この電動機構は、1つのモータと、この1つのモータの駆動によって回転可能な1つのねじと、この1つのねじに螺合する1つのナットと、この1つのナットをスライド可能に収容し1本のワイヤを巻き取り可能な1つの巻取部材と、この1つのナットがスライドするとガイドピンによってロック機構を解除可能な1つのロック解除ブロックと、を備えている。ロック解除ブロックには、ロック機構のロック解除の動作と、このロック解除後の左右のロアレールに対する左右のアッパレールのスライドの動作とをマニュアルで行うときでも、ガイドピンを逃がし可能な凹みが形成されている。1本のワイヤの一端側は、左右のロアレールの略真ん中における左右のロアレールのスライド方向の一方側に掛け留めされている。1本のワイヤの他端側は、左右のロアレールの略真ん中における左右のロアレールのスライド方向の他方側に掛け留めされている。
【0007】
請求項1の発明によれば、マニュアルによるスライド動作を行うとき、ロアレールとアッパレールとの間に生じる抵抗は、これらの摩擦抵抗(スライド抵抗)のみとなる。すなわち、これらの間にモータや減速機の抵抗が生じることがない。したがって、ロック解除状態におけるロアレールに対するアッパレールのスライドをパワーだけでなく、マニュアルでも行うことができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の乗物用シートのスライド装置であって、クラッチ機構は、パワーの駆動源の回転を伝達する軸部材と、この軸部材の回転をアッパレールのスライドの動作に伝達または遮断する受部材とから構成されている。軸部材には、多角軸と、丸軸とが形成されている。受部材には、多角軸に噛み合う多角部と、丸軸を案内する円部とが形成されている。軸部材の多角軸と受部材の多角部とが噛み合い状態になっていると、クラッチ機構はパワーの駆動を伝達できる状態となっている。軸部材の多角軸と受部材の多角部とが噛み合いが解消された状態になっていると、クラッチ機構はパワーの駆動を遮断できる状態となっている。
【0009】
請求項2の発明によれば、クラッチ機構を簡素な構造で実施できる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の乗物用シートのスライド装置であって、軸部材の多角軸と受部材の多角部との噛み合いが解消された状態になっていても、軸部材の丸軸が受部材の丸部に対して案内された状態になっている。
【0011】
請求項3の発明によれば、軸部材の多角軸と受部材の多角部との噛み合いを戻すとき、この戻しを確実に行うことができる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3に記載の乗物用シートのスライド装置であって、操作レバーを備えており、この操作レバーを操作すると、ロック機構のロック解除と、クラッチ機構の遮断とを行うことができるように構成されている。
【0013】
請求項4の発明によれば、1つの操作で、2つの機構(ロック機構とクラッチ機構)の動作を行うことができる。したがって、操作の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例に係るシートの全体斜視図である。
図2図1のシートのスライド装置のみを拡大した図である。
図3図2のスライド装置の主要部を示す図である。
図4図3のIV−IV線の断面模式図である。
図5図3の分解図である。
図6図2のスライド装置において、パワーによるスライド動作を説明する縦断面模式図であり、スライド前の状態を示している。
図7図6において、前進スイッチが操作された状態を示している。
図8図7において、さらに、前進スイッチが操作されて、ロック爪のロックが解除された状態を示している。
図9図2のスライド装置において、マニュアルによるスライド動作を説明する縦断面模式図であり、スライド前の状態を示している。
図10図9において、ロック爪のロックが解除された状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜9を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、『乗物用シート』の例として、『シートが3列存在する乗物(例えば、ミニバン1)の2列目のシート(以下、単に、「シート2」と記す)』を説明することとする。また、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、ミニバン1の内部に配置した状態のシート2を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0018】
このミニバン1のフロア1aには、図1、4に示すように、後述する左右のロアレール10、10の略真ん中に前後方向に沿って凹溝1bが形成されている。この凹溝1bは、カーペット等(図示しない)で覆われており、このカーペットには、後述するワイヤ86を通過させることができるようにスリット1cが形成されている。この凹溝1bの前側と後側とには、後述するワイヤ86の一端86aと他端86bとを掛け留めるためのブラケット88、88がそれぞれ固着されている。
【0019】
まず、図1〜2を参照して、シート2の構成を説明する。このシート2は、そのアウタ側にスライドレバー3aを有するシートクッション3と、そのアウタ側の肩口にウォークインレバー4aを有するシートバック4とから構成されている。そして、このシート2は、スライド装置5によって、そのシートクッション3をフロア1aに対して前後にスライドさせることができるように構成されている。
【0020】
なお、このウォークインレバー4aには、ウォークインケーブル120が掛け留めされている。このウォークインケーブル120は、図2から明らかなように、その先端側で、第1のウォークインケーブル122と、第2のウォークインケーブル124と、に二股に分かれている。これらのうち、第1のウォークインケーブル122のインナケーブル122aは、後述する左のレバー102に掛け留めされている。また、第2のウォークインケーブル124のインナケーブル124aは、後述するスライダ56に掛け留めされている。
【0021】
これと同様に、このスライドレバー3aには、スライドケーブル130が掛け留めされている。このスライドケーブル130は、その先端側で、第1のスライドケーブル132と、第2のスライドケーブル134と、に二股に分かれている。これらのうち、第1のスライドケーブル132のインナケーブル132aは、後述する右のレバー104に掛け留めされている。また、第2のスライドケーブル134のインナケーブル134aは、後述するスライダ56に掛け留めされている。
【0022】
ここで、図1〜6を参照して、上述したスライド装置5について詳述すると、このスライド装置5は、主として、左右のロアレール10、10と、左右のアッパレール20、20と、左右のレッグ30、30と、電動機構Mと、ロック機構Rと、クラッチ機構Cとから構成されている。以下に、これら左右のロアレール10、10と、左右のアッパレール20、20と、左右のレッグ30、30と、電動機構Mと、ロック機構Rと、クラッチ機構Cとを個別に説明していく。
【0023】
はじめに、ロアレール10から説明していく。このロアレール10は、ミニバン1のフロア1aの前後方向に沿って左右に対を成すように埋め込まれている。なお、このロアレール10は、図1からも明らかなように、シート2を大きくスライドさせることができるように、長尺に形成されている。また、このロアレール10の上面は、樹脂製のシールド12によって覆われている。
【0024】
次に、アッパレール20を説明する。このアッパレール20は、ロアレール10に対してスライド可能に形成されている。そのため、このアッパレール20も、左右に対を成すように形成されている。このアッパレール20には、後述するロック爪24を枢着させるブラケット22が組み付けられている。
【0025】
次に、レッグ30を説明する。このレッグ30は、アッパレール20にシートクッション3のクッションフレームのサイドフレーム(図示しない)を組み付けるためのものである。そのため、このレッグ30は、ボルト等(図示しない)によって、アッパレール20に固着されている。なお、シートクッション3のクッションフレームのサイドフレームは、左右に対を成すように形成されているため、このレッグ30も、左右に対を成すように形成されている。
【0026】
また、この左右のレッグ30、30には、互いを橋渡すように薄板状のメインブラケット40が固着されている。このメインブラケット40には、3つのサブブラケット(略コ字状の第1のサブブラケット42、第2のサブブラケット44、略コ字状の第3のサブブラケット46)が固着されている。この第2のサブブラケット44には、その前後に2個のプーリ(前プーリ44a、後プーリ44b)が掛け留めされている。
【0027】
この第3のサブブラケット46の内面には、後述するロック解除ブロック90を挟み込んで前後にズレ動くことを規制するガイド46aが4個(図5では、3個のみ記載)形成されている。これにより、この第3のサブブラケット46に対するロック解除ブロック90の昇降を案内できる。また、この第3のサブブラケット46には、ロック解除ブロック90の第3のアーム98を検出可能な検出スイッチ46bが組み付けられている。これにより、この第3のサブブラケット46に対してロック解除ブロック90が上昇したことを検出できる。
【0028】
次に、電動機構Mを説明する(図3、5〜6参照)。この電動機構Mは、主として、ギヤードモータ50と、連結部材60と、スライド部材70、ローラ80と、ロック解除ブロック90と、から構成されている。
【0029】
ギヤードモータ50は、モータ50aと、モータ50aの回転軸(図示しない)の回転を減速する減速機50bとから構成されたサブアッシである。このモータ50aの回転軸の回転が伝達される減速機50bの駆動軸52は、その一端側が丸軸52aを成している(図6参照)。この丸軸52aの基端側が六角軸52bを成している。この駆動軸52は、その他端側が後述するベアリング54に支持されている。なお、このギヤードモータ50は、第1のサブブラケット42に対してビス(図示しない)を介して固着されている。
【0030】
そのため、このギヤードモータ50の駆動軸52は、第1のサブブラケット42の略コ字を橋渡す格好となっている。また、このギヤードモータ50は、ECU等の制御装置(図示しない)に対して電気的に接続されている。この制御装置には、スライドの前進スイッチ、スライドの後退スイッチ、スライドの停止スイッチ(いずれも図示しない)と、上述した検出スイッチ46bと、が電気的に接続されている。
【0031】
連結部材60は、ギヤードモータ50の駆動軸52が挿し込まれる円筒材62と、この円筒材62に対して一体を成すねじ64と、から構成されている。円筒材62は、その内部の断面がギヤードモータ50の駆動軸52の丸軸52aと六角軸52bとに対応する円形(円形の内面62a)と六角形(六角形の内面62b)とを成すように形成されている。なお、この連結部材60は、第2のサブブラケット44に対して枢着されている。
【0032】
スライド部材70は、ねじ64に螺合するナット72と、このナット72に対して一体を成すシャフト74と、同スライダ76と、から4本のビス(図示しない)を介して組み付けられて構成されている。これらナット72とシャフト74には、後述するローラ80の長溝80aに嵌め合い可能な傘72a、74aが形成されている。また、スライダ76も、この長溝80aに嵌め合い可能に形成されている。これにより、これら傘72a、74aおよびスライダ76が長溝80a内をスライドできる。
【0033】
なお、このシャフト74は、ブロック78に対して回転可能に貫通した状態となっている。また、このブロック78は、一対のワッシャ78aを介してシャフト74に対する軸方向の移動が規制されている。なお、このシャフト74は、第3のサブブラケット46の略コ字を橋渡すように、この第3のサブブラケット46に対して枢着されている。
【0034】
ローラ80は、第1の半割体82と、第2の半割体84とを2本のビス(図示しない)を介して組み合わされて構成されている。このように構成されるローラ80は、その内部に鍵状の長溝80aが形成されている。また、このローラ80の外周面には、溝80bが形成されている。そして、この溝80bには、ワイヤ86が巻装されている。このワイヤ86の一端86aは、前プーリ44aを介して前側のブラケット88に対してねじ部材88aと、このねじ部材88aに螺合するナット部材88bとを介して掛け留めされている。
【0035】
これにより、ナット部材88bの螺合の度合いを調整すると、ワイヤ86のテンションも調整できる。これらのことは、ワイヤ86の他端86bにおいても同様である。このようにワイヤ86が巻装されているため、例えば、このローラ80を正転させると、ワイヤ86の一端86a側を巻き取ることができる。
【0036】
これとは逆に、このローラ80を逆転させると、ワイヤ86の他端86b側を巻き取ることができる。なお、このローラ80は、スライド部材70の傘72a、74aおよびスライダ76を長溝80aに収容される格好で、既に説明したように、その第1の半割体82と、第2の半割体84とが2本のビスを介して組み付けられている。
【0037】
ロック解除ブロック90は、その板厚方向を貫通するようにV字状の案内溝92が形成されたプレートから構成されている。この案内溝92には、そのV字の屈曲部位に対して対向する部位に凹み92aが形成されている。また、このロック解除ブロック90には、その右側に向かって上下に張り出す第1のアーム94と、第2のアーム96と、その左側に向かって張り出す第3のアーム98と、が形成されている。
【0038】
次に、ロック機構Rを説明する。このロック機構Rは、主として、左右に対を成すロック爪24、24と、ロッド100と、から構成されている。
【0039】
この左右のロック爪24、24は、左右のアッパレール20、20に固着されているブラケット22、22に対してばね部材(図示しない)によってロック方向に付勢された状態でそれぞれ枢着されている。これにより、常時、左右のロック爪24、24の先端が左右のロアレール10、10のロック孔と左右のアッパレールのロック孔とに嵌まり込んだ状態(ロック状態)となっているため、左右のロアレール10、10に対して左右のアッパレール20、20のスライドをロックできる。
【0040】
なお、この左のロック爪24は、そのアーム24aが、回転した左のレバー102のアーム102aによって押し当てられるように、左のアッパレール20のブラケット22に対して枢着されている。また、この右のロック爪24も、そのアーム24aが、下降したロック解除ブロック90の第1のアーム94によって押し当てられるように、右のアッパレール20のブラケット22に対して枢着されている。
【0041】
ロッド100は、上述した左右のロック爪24、24の動きを同期させるためのものである。このロッド100の両端には、左右のレバー102、104が固着されている。この左のレバー102は、右のレバー104のアーム104aがロック解除ブロック90の第1のアーム94を押し当てて上昇させるように、トーションばね106によって付勢されている。また、このロッド100の左側には、アーム112を有するブロック110が固着されている。なお、このロッド100の両端は、第1のサブブラケット42と右のレッグ30に固着されているブラケット32とに枢着されている。
【0042】
最後に、クラッチ機構Cを説明する。このクラッチ機構Cは、主として、上述したギヤードモータ50の駆動軸52と、上述した連結部材60と、スライダ56と、から構成されている。なお、これらギヤードモータ50の駆動軸52と連結部材60とは、既に説明済みのため、ここでは、スライダ56のみを説明する。
【0043】
スライダ56は、既に説明したギヤードモータ50のベアリング54に固着されている。なお、このスライダ56には、第1のサブブラケット42との間に2本の引っ張りばね58、58が掛け留めされている。そのため、上述した第2のウォークインケーブル124のインナケーブル124aまたは第2のスライドケーブル134のインナケーブル134aが引っ張られると、この2本の引っ張りばね58、58の付勢力に抗してスライダ56と共に、ギヤードモータ50の駆動軸52が引っ張られる。
【0044】
これら左右のロアレール10、10と、左右のアッパレール20、20と、左右のレッグ30、30と、電動機構Mと、ロック機構Rと、クラッチ機構Cとからスライド装置5は構成されている。
【0045】
続いて、図6〜10を参照して、上述したスライド装置5の動作を説明する。なお、この動作の説明にあたって、パワーによるスライド動作と、マニュアルによるスライド動作とを個別に説明する。
【0046】
はじめに、図6〜8を参照して、パワーによるスライド動作から説明する。図6に示すスライド前の状態から、例えば、前進スイッチを操作すると、モータ50aの回転軸が回転するため、減速機50bの駆動軸52も回転する。このとき、この駆動軸52の六角軸52bと連結部材60の円筒材62の六角形の内面62bとが噛み合っている(機械的に連結した状態となっている)ため、この円筒材62と共にねじ64が回転する。
【0047】
そのため、このねじ64に螺合するナット72が、例えば、右にスライドしていく(図7参照)。したがって、ナット72と共にシャフト74を介してブロック78も右にスライドするため、ガイドピン90aもロック解除ブロック90の案内溝92の右側の斜面を右にスライドしていく。
【0048】
すると、このスライドがトーションばね106の付勢力に抗してロック解除ブロック90を下降させるため、この下降したロック解除ブロック90の第1のアーム94が右のレバー104のアーム104aと右のロック爪24のアーム24aとを押し当てる。これにより、右のレバー104と右のロック爪24とが回転するため、右のロック爪24が付勢力に抗してロック解除していくと共に、左のロック爪24もロッド100を介した同期によって付勢力に抗してロック解除していく。
【0049】
この図7に示す状態から、引き続き、前進スイッチを操作すると、ねじ64に螺合するナット72が、さらに、右にスライドしていく。すると、さらに、ロック解除ブロック90がトーションばね106の付勢力に抗して下降するため、左右のロック爪24、24は付勢力に抗してロック解除状態に切り替わる(図8参照)。この切り替わりと同時または直前に、ナット72に固着しているシャフト74の傘74aがローラ80の長溝80aの内面を押し当てるため、この押し当てにともなってローラ80が回転(例えば、正転)し始める。
【0050】
これにより、ローラ80がワイヤ86の一端86a側を巻き取るため、左右のロアレール10、10に対して左右のアッパレール20、20が前にスライドしていく。すなわち、シート2が前進していく。やがて、所望する位置までシート2を前進させると、停止スイッチを操作する。すると、モータ50aの回転軸が逆回転するため、減速機50bの駆動軸52も逆回転する。これにより、シャフト74の傘74aのローラ80の長溝80aの内面に対する押し当てが解消されるため、ローラ80の回転が停止する。したがって、前進していたシート2が停止する。
【0051】
また、これにより、右にスライドしたナット72は、スライド前の状態に戻されるように左にスライドしていく(図7参照)。そのため、ロック解除ブロック90はトーションばね106の付勢力によって上昇していき、左右のロック爪24、24も付勢力によってロック状態(左右のロック爪24、24の先端が左右のロアレール10、10のロック孔と左右のアッパレールのロック孔とに嵌まり込んだ状態)に戻り始める。
【0052】
なお、このようにナット72が左にスライドしても、ワイヤ86にはテンションが掛かっているため、このテンションによってローラ80の回転が防止されている。やがて、ナット72がスライド前の状態に戻されると、ロック解除ブロック90も上昇した状態に戻される。このようにロック解除ブロック90が戻されると、左右のロック爪24、24もロック状態に戻される(図6参照)。また、このようにロック解除ブロック90が戻されると、ガイドピン90aも右にスライドする前の状態に戻される。
【0053】
なお、上昇した状態に戻されたロック解除ブロック90の第3のアーム98を検出スイッチ46bが検出すると、モータ50aの回転軸が停止するため、減速機50bの駆動軸52も停止する。一方、シート2を後退させる場合も、上述した説明と同様に、後退スイッチを操作すればよい。このようにして、パワーによるスライド動作を行うことができる。
【0054】
また、上述したパワーによるスライド動作の説明において、左右のロック爪24、24も付勢力によってロック状態に戻り始めるとき、この左右のロック爪24、24の先端が左右のロアレール10、10のロック孔に対する位置ズレによって嵌まり込むことができないときがある。いわゆる、ハーフロック状態になるときがある。
【0055】
このハーフロック状態が左側で生じると、トーションばね106の付勢力によって戻されているブロック110のアーム112が左のロック爪24のアーム24aに干渉する。これにより、右のレバー104の戻しが規制されるため、ロック解除ブロック90の上昇が規制されることとなる。そのため、ガイドピン90aとナット72の動きも規制されるため、このナット72と共にローラ80の回転が始まる。したがって、この左のロック爪24の先端が左のロアレール10のロック孔に嵌まり込む。結果として、左側で生じたハーフロック状態を解消できる。
【0056】
一方、このハーフロック状態が右側で生じると、上昇しているロック解除ブロック90の第2のアーム96が右のロック爪24のアーム24aに干渉する。これにより、ロック解除ブロック90の上昇が規制されることとなる。そのため、上述したようにハーフロック状態が左側で生じたときと同様に、ガイドピン90aとナット72の動きも規制されるため、このナット72と共にローラ80の回転が始まる。したがって、この右のロック爪24の先端が右のロアレール10のロック孔に嵌まり込む。結果として、右側で生じたハーフロック状態を解消できる。
【0057】
次に、図9〜10を参照して、マニュアルによるスライド動作を説明する。図9に示すスライド前の状態から、例えば、スライドレバー3aを操作すると、第1のスライドケーブル132のインナケーブル132aと第2のスライドケーブル134のインナケーブル134aとが引っ張られる。すると、この第1のスライドケーブル132のインナケーブル132aの引っ張りにより、右のレバー104が付勢力に抗して回転するため、この回転した右のレバー104のアーム104aが右のロック爪24のアーム24aを押し当てる。
【0058】
このとき、右のレバー104と共に左のレバー102も回転するため、この回転した左のレバー102のアーム102aも左のロック爪24のアーム24aを押し当てる。これにより、左右のロック爪24、24が同時に回転するため、ロック解除状態に切り替わる(図10参照)。このとき、ロック解除ブロック90は、自重によって下降するため、ガイドピン90aは案内溝92の凹み92aに逃げ込んだ状態となる。
【0059】
一方、これと同時に行われる第2のスライドケーブル134のインナケーブル134aの引っ張りにより、スライダ56が引っ張りばね58、58の付勢力に抗してスライドする。これにより、このスライドと共にギヤードモータ50の駆動軸52もスライドする。そのため、この駆動軸52の六角軸52bと連結部材60の円筒材62の六角形の内面62bとの噛み合い(機械的な連結)が解消される。
【0060】
したがって、左右のロアレール10、10と左右のアッパレール20、20との間に生じる抵抗は、これらの摩擦抵抗(スライド抵抗)のみとなる。すなわち、これらの間にモータ50aや減速機50bの抵抗が生じることがない。なお、この噛み合い(機械的な連結)が解消された状態では、図10から明らかなように、駆動軸52の丸軸52aは円筒材62の円形の内面62aに挿し込まれたままの状態となっている。やがて、所望する位置までシート2を前進(後退)させると、スライドレバー3aの操作を解除すればよい。すると、トーションばね106の付勢力によって左右のレバー102、104の回転が戻されると共に、自身に作用する付勢力によって左右のロック爪24、24もロック状態に戻される。
【0061】
一方、これと同時に、2個の引っ張りばね58、58の付勢力によってスライダ56もスライドする前の状態に戻される。なお、ウォークインレバー4aを操作しても、上述した説明と同様の動作を行うことができる。このようにして、マニュアルによるスライド動作を行うことができる。
【0062】
本発明の実施例に係るスライド装置5は、上述したように構成されている。この構成によれば、スライド装置5は、主として、左右のロアレール10、10と、左右のアッパレール20、20と、左右のレッグ30、30と、電動機構Mと、ロック機構Rと、クラッチ機構Cとから構成されている。このクラッチ機構Cは、主として、ギヤードモータ50の駆動軸52と、連結部材60と、スライダ56とから構成されている。そして、パワーによるスライド動作を行うとき、この駆動軸52と連結部材60とが機械的に連結した状態となっている。一方、マニュアルによるスライド動作を行うとき、この駆動軸52と連結部材60との機械的な連結が解消した状態となっている。そのため、マニュアルによるスライド動作を行うとき、左右のロアレール10、10と左右のアッパレール20、20との間に生じる抵抗は、これらの摩擦抵抗(スライド抵抗)のみとなる。すなわち、これらの間にモータ50aや減速機50bの抵抗が生じることがない。したがって、ロック解除状態における左右のロアレール10、10に対する左右のアッパレール20、20のスライドをパワーだけでなく、マニュアルでも行うことができる。
【0063】
また、この構成によれば、クラッチ機構Cを説明する。このクラッチ機構Cは、主として、上述したギヤードモータ50の駆動軸52と、上述した連結部材60と、スライダ56と、から構成されている。モータ50aの回転軸の回転が伝達される減速機50bの駆動軸52は、その一端側が丸軸52aを成している(図6参照)。この丸軸52aの基端側が六角軸52bを成している。また、連結部材60は、ギヤードモータ50の駆動軸52が挿し込まれる円筒材62と、この円筒材62に対して一体を成すねじ64と、から構成されている。円筒材62は、その内部の断面がギヤードモータ50の駆動軸52の丸軸52aと六角軸52bとに対応する円形(円形の内面62a)と六角形(六角形の内面62b)とを成すように形成されている。そのため、このクラッチ機構Cを簡素な構造で実施できる。
【0064】
また、この構成によれば、駆動軸52の六角軸52bと連結部材60の円筒材62の六角形の内面62bとの噛み合い(機械的な連結)が解消された状態となっていても、この駆動軸52の丸軸52aは円筒材62の円形の内面62aに挿し込まれたままの状態となっている。そのため、この噛み合いを戻すとき、この戻しを確実に行うことができる。なぜなら、駆動軸52の丸軸52aが円筒材62の円形の内面62aから抜かれてしまうと、この抜かれた駆動軸52の丸軸52aを円筒材62の円形の内面62aに挿し込むことができなくなる恐れが生じるからである。
【0065】
また、この構成によれば、スライドレバー3aを操作すると、ロック機構Rのロック解除と、クラッチ機構Cの遮断とを行うことができる。そのため、1つの操作で、2つの機構(ロック機構Rとクラッチ機構C)の動作を行うことができる。したがって、操作の利便性を高めることができる。このことは、ウォークインレバー4aを操作しても同様である。
【0066】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
【0067】
実施例では、『乗物用シート』の例として、『助手席1』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『乗物用シート』は、各種の乗物のシート、例えば、『船舶のシート』、『飛行機のシート』、『鉄道車両のシート』等であっても構わない。
【符号の説明】
【0068】
1 ミニバン(乗物)
1a フロア
2 シート(乗物用シート)
5 スライド装置
50a モータ
10 ロアレール
20 アッパレール
C クラッチ機構
R ロック機構

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10