特許第6248811号(P6248811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248811インクジェットヘッド及びダンパー部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248811
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】インクジェットヘッド及びダンパー部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20171211BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B41J2/14
   B41J2/14 603
   B41J2/16
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-109140(P2014-109140)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-223737(P2015-223737A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】比江島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 正人
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−118312(JP,A)
【文献】 特開平09−314863(JP,A)
【文献】 特開2014−054796(JP,A)
【文献】 特開2006−347163(JP,A)
【文献】 特開2010−162862(JP,A)
【文献】 特開平03−284949(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0143796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2列以上配列された圧力室と、
前記圧力室のインク入口を介して前記圧力室と連通する共通インク室と、
前記共通インク室内にダンパー部材と、を有し、
前記ダンパー部材は、ダンパーフレームと可撓膜とを有し、前記ダンパーフレームの少なくとも前記インク入口に対向する面が前記可撓膜によって形成され、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力が負圧であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク入口と前記可撓膜との間の離間距離が、当該インク入口と、当該インク入口に連通する前記圧力室を含む列の隣りの前記圧力室の列における前記インク入口との間の距離よりも小さくなる位置に配置されることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記インク入口と前記可撓膜との間の離間距離が、当該インク入口と、当該インク入口に連通する前記圧力室を含む列の隣りの前記圧力室の列における前記インク入口との間の距離よりも小さくなる位置に配置される前記インク入口の数の割合は、全ての前記インク入口の数の90%以上であることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記可撓膜の厚みは、10μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力は、常温において50kPa以上大気圧未満となるように減圧されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記インク入口が存在する面に垂直な方向から前記ダンパー部材を投影したときに、該ダンパー部材が全ての圧力室の前記インク入口を包含していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記ダンパー部材の前記可撓膜は、前記共通インク室内のインクを吐出する使用温度にあるときに、平坦面又は凹んだ面を形成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記ダンパー部材の前記可撓膜は、常温において平坦面又は凹んだ面を形成していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記ダンパーフレームは、少なくとも一部が金属で形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
2列以上配列された圧力室と、
前記圧力室へのインク入口を介して前記圧力室と連通する共通インク室と、
前記共通インク室内のダンパー部材とを有し、
前記ダンパー部材は、ダンパーフレームと可撓膜とを有し、前記ダンパーフレームの少なくとも前記インク入口に対向する面が前記可撓膜によって形成されるインクジェットヘッドにおける前記ダンパー部材の製造方法であって、
前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力を負圧にする負圧形成工程を有することを特徴とするダンパー部材の製造方法。
【請求項11】
前記負圧形成工程は、所定の圧力に減圧された減圧チャンバー内で、前記ダンパーフレームに前記可撓膜を貼り合せることにより、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力を負圧にすることを特徴とする請求項10記載のダンパー部材の製造方法。
【請求項12】
前記負圧形成工程は、前記ダンパーフレームに前記可撓膜を接着剤層を介して貼り合せた後、前記接着剤層に中空の管部材を差し込み、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の気体を前記管部材を通して引き込むことによって、該内部の圧力を負圧にすることを特徴とする請求項10記載のダンパー部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッド及びダンパー部材の製造方法に関し、詳しくは、クロストークに起因する圧力室の列間の影響を低減することのできるインクジェットヘッド及びこれに用いられるダンパー部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、駆動によって発生する圧力波が原因で射出性能が不均一になることがある。駆動によって圧力室内に発生した圧力波が、共通インク室によって連通する他の圧力室に伝播し、その圧力波が伝播した圧力室の射出特性に変動を生じさせるいわゆるクロストークを発生させるためである。
【0003】
従来、クロストークに起因する圧力室間の影響を低減する技術として、圧力室のインク入口とインク出口とを結ぶ直線の延長線に対して交叉する壁面部材を、体積弾性率40GPa以下の材質によって形成する技術(特許文献1)、共通インク室に面して弾性変形するダンパー壁を形成する技術(特許文献2)、共通インク室内に空気が充填されたダンパー室を有するダンパー部材を別部材として配置する技術(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−168185号公報
【特許文献2】特開2012−106513号公報
【特許文献3】特開2007−118312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インクジェットヘッドは、より高速で高精細な画像記録を行うことができる性能が求められている。このため、複数の圧力室が配列された圧力室の列を複数列並設することによって、高密度な画像記録を行うことができるようにしたインクジェットヘッドが提案されている。
【0006】
ところが、本発明者が確認したところ、複数の圧力室の列を有するインクジェットヘッドを駆動すると、1列の圧力室を有するインクジェットヘッドに比べて、クロストークの影響が大きくなり、射出特性の変動の問題が顕著に見られることがわかった。
【0007】
すなわち、圧力室が複数の列によって構成され、列間の圧力室のインク入口が共通インク室によって連通する構造を有するインクジェットヘッドは、1つの圧力室の列を駆動したことによって圧力室内に発生した圧力波は、共通インク室を介して他の列の圧力室に伝播し、他の列の圧力室の射出特性に影響を与える。
【0008】
そこで、音響クロストークを抑制するために、特許文献1、2に記載の技術は、圧力波を減衰させる機能を有する部材を共通インク室の壁面に使用することが知られている。しかしながら、例えば、音響クロストークを抑制するために共通インク室の壁面を共通インク室内に開口するインク入口に近接させることが必要な場合、それだけ共通インク室が狭小となって、必要量のインクを貯留させるだけの容積を確保することができなくなる問題がある。
【0009】
一方、特許文献3に記載の技術は、共通インク室内にダンパー部材を別部材として配置する構成であるため、ダンパー部材を自由に配置でき、共通インク室の容積も確保できる利点がある。しかし、ダンパー室に空気が充填されたダンパー部材は、多くの場合、ダンパー面に可撓性の膜が用いられるため、インクジェットヘッドの駆動によって発生する熱や、例えばゲルUVインクやセラミックインク等のように吐出のためにヒーター等によって高温にする必要があるインクを使用する場合では、その高温のインクの熱によって、ダンパー室の空気が膨張してダンパー面を圧力室方向へ突出させてしまう。上述したダンパー面の突出によって圧力室へのインク流路を狭めてしまい、円滑なインク供給を妨げてしまうおそれがある。
【0010】
この特許文献3には、ダンパー部材内の気圧を大気圧以上にする記載がある。また、使用環境下で空気の温度が高くなるほど、空気の膨張によってダンパー室の容積が大きくなると共にダンパー部材内の気圧が上昇して大気圧よりも大きくなり、減衰特性が向上する、と記載されている。従って、特許文献3は、ダンパー部材の膨張によりインク流路を狭めてしまうことを全く考慮していない。
【0011】
ダンパー室の空気の膨張によってインク流路を狭めてしまうことを防止するため、ダンパー面を構成する膜の厚みを厚くして、膨張時の突出量を抑えることも考えられるが、厚みを厚くすると圧力波減衰の効率低下を招き、ダンパー効果が損なわれてしまう問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、ダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面が圧力室方向に突出してインク流路を狭めてしまうことのないダンパー部材を搭載したインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
また、本発明は、ダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面が圧力室方向に突出してインク流路を狭めてしまうことのないダンパー部材を容易に製造することのできるダンパー部材の製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0016】
1.
2列以上配列された圧力室と、
前記圧力室のインク入口を介して前記圧力室と連通する共通インク室と、
前記共通インク室内にダンパー部材と、を有し、
前記ダンパー部材は、ダンパーフレームと可撓膜とを有し、前記ダンパーフレームの少なくとも前記インク入口に対向する面が前記可撓膜によって形成され、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力が負圧であることを特徴とするインクジェットヘッド。
【0017】
2.
前記インク入口と前記可撓膜との間の離間距離が、当該インク入口と搬送方向における隣りの前記圧力室のある列における前記インク入口との間の距離よりも小さくなる位置に配置されることを特徴とする前記1記載のインクジェットヘッド。
【0018】
3.
前記インク入口と前記可撓膜との間の離間距離が、当該インク入口と搬送方向における隣りの前記圧力室の列の前記インク入口との間の距離よりも小さくなるように配置される前記インク入口の数の割合は、全ての前記インク入口の数の90%以上であることを特徴とする前記2記載のインクジェットヘッド。
【0019】
4.
前記可撓膜の厚みは、10μm以上150μm以下であることを特徴とする前記1、2又は3記載のインクジェットヘッド。
【0020】
5.
前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力は、常温において50kPa以上大気圧未満となるように減圧されていることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0021】
6.
前記インク入口が存在する面に垂直な方向から前記ダンパー部材を投影したときに、該ダンパー部材が全ての圧力室の前記インク入口を包含していることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0022】
7.
前記ダンパー部材の前記可撓膜は、前記共通インク室内のインクを吐出する使用温度にあるときに、平坦面又は凹んだ面を形成していることを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0023】
8.
前記ダンパー部材の前記可撓膜は、常温において平坦面又は凹んだ面を形成していることを特徴とする前記1〜7のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0024】
9.
前記ダンパーフレームは、少なくとも一部が金属で形成されていることを特徴とする前記1〜8のいずれかに記載のインクジェットヘッド。
【0030】

2列以上配列された圧力室と、
前記圧力室へのインク入口を介して前記圧力室と連通する共通インク室と、
前記共通インク室内のダンパー部材とを有し、
前記ダンパー部材は、ダンパーフレームと可撓膜とを有し、前記ダンパーフレームの少なくとも前記インク入口に対向する面が前記可撓膜によって形成されるインクジェットヘッドにおける前記ダンパー部材の製造方法であって、
前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力を負圧にする負圧形成工程を有することを特徴とするダンパー部材の製造方法。
【0031】

前記負圧形成工程は、所定の圧力に減圧された減圧チャンバー内で、前記ダンパーフレームに前記可撓膜を貼り合せることにより、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の圧力を負圧にすることを特徴とする前記1記載のダンパー部材の製造方法。
【0032】

前記負圧形成工程は、前記ダンパーフレームに前記可撓膜を接着剤層を介して貼り合せた後、前記接着剤層に中空の管部材を差し込み、前記ダンパーフレームと前記可撓膜によって画成される内部の気体を前記管部材を通して引き込むことによって、該内部の圧力を負圧にすることを特徴とする前記1記載のダンパー部材の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面が圧力室方向に突出してインク流路を狭めてしまうことのないダンパー部材を搭載したインクジェットヘッドを提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、ダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面が圧力室方向に突出してインク流路を狭めてしまうことのないダンパー部材を容易に製造することができるダンパー部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係るインクジェットヘッドの第1の実施形態の一例を示す分解斜視図
図2図1中の(ii)−(ii)線に沿って切断したインクジェットヘッドの断面図
図3】ダンパー部材の断面図
図4】隣り合う圧力室の列におけるインク入口間の距離を説明する図
図5】脚部を突設したダンパー部材の一態様を示す斜視図
図6】ダンパー部材の製造方法の一例を説明する図
図7】本発明に係るインクジェットヘッドの第2の実施形態の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0037】
(インクジェットヘッドの第1の実施形態)
図1は本発明に係るインクジェットヘッドの第1の実施形態の一例を示す分解斜視図、図2図1中の(ii)−(ii)線に沿って切断したインクジェットヘッドの断面図、図3はダンパー部材の断面図である。
【0038】
インクジェットヘッド1は、図1中の下から順に、ノズルプレート11、ヘッドチップ12、基板13、インクマニホールド14を有し、これらが互いに接合されることによって構成されている。インクマニホールド14の内部空間によって形成される共通インク室141の内部には、ダンパー部材15が配置されている。
【0039】
本実施形態に示すヘッドチップ12は六面体形状をしており、本発明における圧力室であるチャネル121が複数配列されている。各チャネル121は、ヘッドチップ12のノズルプレート11側の面と基板13側の面とに亘ってストレート状に貫通するように形成されている。複数のチャネル121は、図1中のX方向に沿って並設されることによって1列のチャネル列を形成している。そして、このチャネル列がX方向と交差するY方向に沿って複数並設されることによって、複数のチャネル列を形成している。
【0040】
ここでは7つのチャネル121でX方向に延びる1列のチャネル列が形成され、このチャネル列がY方向に4列並設されたヘッドチップを例示している。しかし、本発明において1列のチャネル121の数は問わない。
【0041】
なお、チャネル列(圧力室の列)とは、インクジェットヘッド1と被記録材との一方向の相対的な移動時に被記録材に所定の幅で記録される画像の記録幅を形成するチャネル121(圧力室)の集合のことである。
【0042】
記録幅は、例えば、インクジェットヘッド1が被記録材に対して固定配置され、被記録材を一方向に搬送させながら画像記録を行うものである場合、この被記録材の搬送時に形成される画像の幅である。インクジェットヘッド1におけるチャネル列の配列方向であるX方向は、この被記録材に形成される画像の記録幅の幅方向と平行な方向に限らず、記録幅に対して斜めに交差する方向でもよい。
【0043】
また、インクジェットヘッド1と被記録材との相対的な移動は、インクジェットヘッド1を固定配置させ、被記録材を搬送させる態様の他、例えば、インクジェットヘッド1を被記録材の幅方向に沿って走査移動させて画像記録を行い、一走査移動毎に被記録材をインクジェットヘッド1の走査移動方向と交差する方向に移動させる態様や、被記録材を固定配置させ、インクジェットヘッド1を被記録材の幅方向に沿って走査移動させて画像記録を行い、一走査移動毎にインクジェットヘッド1を走査移動方向と交差する方向に移動させる態様等であってもよい。
【0044】
本発明によれば、チャネル列の数が2列以上の場合に発生する1つのチャネル列で発生した圧力波が隣りのチャネル列に影響を与えるクロストークの影響を防止することができる。また、3列以上のチャネル列を有するインクジェットヘッドを使用する場合、1つのチャネル列で発生した圧力波がその両隣りのチャネル列に影響を与えることから、クロストークの影響がより顕著となる場合がある。上記の場合においても本発明を好適に使用することができる。
【0045】
このヘッドチップ12は、各チャネル列において隣り合うチャネル121、121の間を仕切る隔壁122の少なくとも一部が、分極処理された圧電素子によって形成されている。各隔壁122の両面には駆動電極(図示せず)が形成されている。隔壁122は、その両面の駆動電極に所定電圧の駆動信号が印加されることによってせん断変形する。これによって、一対の隔壁122、122に挟まれるチャネル121は、容積が膨張、収縮するように変化し、チャネル121内に供給されているインクに吐出のための圧力を付与する。
【0046】
ノズルプレート11には複数のノズル111が形成されている。各ノズル111は、チャネル121のインク出口121aと連通している。隔壁122の変形によって吐出のための圧力が付与されたチャネル121内のインクは、インク出口121aを通ってノズル111から吐出される。なお、インク出口121aは、ヘッドチップ12における図2中の下側のチャネル121の開口部である。
【0047】
基板13は、ヘッドチップ12との接合面よりも大きな面積を有する平板状の薄板であり、例えばガラス、セラミックス、シリコン、合成樹脂等によって形成されている。基板13のヘッドチップ12側の面に、該ヘッドチップ12の各駆動電極と電気的に接続される不図示の配線が形成されている。ヘッドチップ12から張り出した基板13の領域は、この配線と駆動回路(図示せず)との間を電気的に接続するFPC等の外部配線部材(図示せず)の接続部として機能している。
【0048】
また、基板13には、ヘッドチップ12が接合される領域内に、ヘッドチップ12のチャネル121に対応して貫通孔131が形成されている。本実施形態に示す基板13では、図1中のX方向に沿って7個の貫通孔131が並設されて1つの列が形成され、この列がY方向に沿って4列形成されている。
【0049】
チャネル121の内部は、それと対応する貫通孔131と連通している。貫通孔131のヘッドチップ12側の開口部は、チャネル121の開口部とほぼ同等の面積を有し、該チャネル121の開口部と同一形状となるように形成されている。
【0050】
インクマニホールド14は、一面が開口する箱型に形成され、この開口を塞ぐように基板13と接合されている。これにより、インクマニホールド14の内部に、インクを吐出させる全てのチャネル121に共通にインクを供給する共通インク室141が形成されている。共通インク室141内には、インク流入口(図示せず)から供給されるインクが貯留される。
【0051】
本発明において使用されるインクは特に問わないが、例えばゲルUVインクやセラミックインク等のように、ヒーター等の加温手段によってインクを所定温度まで加温し、インクの粘度を吐出に適した粘度まで低下させる必要のあるインクを使用することが好ましい。このようなインクは、使用時に昇温されて高温とされるため、後述するダンパー部材内の気体の膨張が発生し易く、インク入口131aへのインク流路を狭めてしまう問題があるため、本発明によって顕著な効果が得られるためである。
【0052】
基板13の各貫通孔131は、共通インク室141に向けて開口し、共通インク室141とチャネル121との間で、共通インク室141内のインクをチャネル121内に流入させる個別のインク流路を構成している。従って、各貫通孔131の共通インク室141側の開口部は、それに対応するチャネル121のインク入口131aを構成している。
【0053】
ダンパー部材15は、共通インク室141の内部に、基板13に近接して配置されている。このダンパー部材15は、図3に示すように、ダンパーフレーム151と、ダンパー面として機能する可撓膜152とを有している。なお、以下において、ダンパー部材15は共通インク室141の内部に1つを配置する構成を示しているが、1つに限定されず、複数のダンパー部材15を配置する構成としてもよい。例えばインク入口131aに対応して複数のダンパー部材を配置する構成としてもよい。
【0054】
ダンパーフレーム151は、剛性を有する部材によって、可撓膜152が形成される側の面が開口する薄い箱型に形成されている。可撓膜152が形成される面は、少なくともインク入口131aに対向する面にあればよい。ここでは六面体の面のうち、インク入口131aに対向する1つの面のみが開口し、該面に可撓膜152が形成されたダンパーフレーム151を例示しているが、ダンパー部材15は、可撓膜が形成される面を2つ以上有していてもよい。
【0055】
ダンパーフレーム151は、少なくとも一部が金属で形成されていることが好ましい。金属はダンパーフレーム151の一部の壁面に使用されていてもよいし、全ての壁面を形成するものでもよい。一般に、金属はインク(液体)よりも熱伝導率が高いため、共通インク室141内のインクの温度分布を素早く均一化することができる。
【0056】
金属としては、例えばアルミニウム、銅、ステンレス等の熱伝導率が良好な金属を好ましく使用することができる。このような金属は、共通インク室141内のインクと直に接するように、ダンパーフレーム151の表面に露出していることが好ましい。
【0057】
可撓膜152は、ダンパーフレーム151の開口している面を塞ぐように張り付けられている。そして、これらダンパーフレーム151と可撓膜152によって画成される内部空間によってダンパー室153が構成されている。ダンパー室153には例えば空気等の気体が封入されている。本発明においては、このダンパー室153の内部圧力は負圧に設定されている、若しくはインクを吐出する使用温度にあるときに、可撓膜152とインク入口131aとの最短の離間距離が70μm以上となるようにダンパー部材15が配置されている。これにより、ダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面が圧力室方向に突出してインク流路を狭めてしまうことがない。
【0058】
まず、以下においては、ダンパー室153の内部の圧力を負圧とする場合について詳述する。
【0059】
ダンパー部材15内のダンパー室153の内部圧力について説明する。ダンパー室153が負圧であるとは、常温(25℃)において大気圧と比較してダンパー部材15の内部圧力が負圧であることを示す。
【0060】
このようにダンパー部材15内のダンパー室153が負圧に設定されていることにより、共通インク室141内のインクが使用温度まで昇温されてダンパー室153内の気体が膨張した際、可撓膜152がインク入口131a側に突出することを防止することができる。このため、インクジェットヘッド1の駆動時においても、図2に示すように、ダンパー部材15の可撓膜152と基板13との間に、各インク入口131aにインクを流入させるためのインク流路141bを確保することができる。ダンパー部材15が各チャネル121へのインクの流入を阻害することはない。すなわち、ダンパー部材15は、高温のインク使用時でもダンパー効果を発揮しつつ、ダンパー面となる可撓膜152がチャネル121の方向に突出してインク流路を狭めてしまうことはない。
【0061】
ダンパー部材15内のダンパー室153の具体的な圧力は、内部に気体が封入された状態で上記の通り負圧になっていれば特に限定されるものではない。なお、常温(25℃)かつ1気圧の条件下で50kPa以上大気圧未満となるように減圧されていれば、ダンパー効果を発揮しつつ、可撓膜152がインク流路を狭めてしまうことのない効果を良好に得る観点で好ましい。また、上述における大気圧とは、常温(25℃)かつ1気圧の条件下で測定した際に1気圧となる気圧である。
【0062】
なお、ダンパー部材15内のダンパー室153の具体的な圧力の測定方法としては、種々の手法を用いることができるが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0063】
圧力計の先に注射針のような細い管を取り付け、この管をダンパー部材15の可撓膜152に内部の気体が漏れ出さないように差し込み、該管の内部をダンパー室153の内部と連通させる。そして、このとき管の内部を通って圧力計に作用する気体の圧力を直接測定する。この方法によれば、大気圧とダンパー室153の内部圧力との差圧が小さくても、圧力計によって内部圧力を細かく測定することができる。なお、ダンパー部材15の可撓膜152に上述した細い管を差し込む際に、可撓膜152が裂けてしまい、内部の気体が漏れ出す場合がある。その際には、あらかじめ差し込む場所を接着剤等の樹脂で周りを囲むように可撓膜152上に付与した後、上述した細い管を差し込むことによって可撓膜152の裂けを抑制することができる。
【0064】
次に、以下においては、インクを吐出する使用温度にあるときに、可撓膜152とインク入口との最短の離間距離が70μm以上となるようにダンパー部材153が配置される場合について詳述する。
【0065】
共通インク室141からインク入口131aに良好にインクを供給する観点で、インクを吐出する使用温度において少なくとも一つのインク入口131aとダンパー部材15の可撓膜152との間の最短の離間距離D(図2参照)が70μm以上となるようにダンパー部材が配置される。上述した構成により、共通インク室141内のインクが使用温度まで昇温されてダンパー室153内の気体が膨張した際、可撓膜152がインク入口131a側に突出しても少なくとも一つのインク入口131aとダンパー部材15の可撓膜152との間の最短の離間距離D(図2参照)を70μm以上とすることができる。このため、インクジェットヘッド1の駆動時においても、図2に示すように、ダンパー部材15の可撓膜152と基板13との間に、各インク入口131aにインクを流入させるためのインク流路141bを確保することができる。従って、高温のインク使用時でもダンパー部材15が各チャネル121へのインクの流入を阻害することはない。
【0066】
また、インクを吐出する使用温度とは、ノズル111からインクを射出する際の共通インク室141内のインクの温度のことであり、常温(25℃)よりも高い温度である。共通インク室141内のインクを使用温度にする手段としては、例えば、図示しないが、マニホールド14の表面又は共通インク室141内にヒーターを設け、共通インク室141内のインクを直接加温する手段、インクタンク内のインクをヒーターによって加温し、加温されたインクタンク内のインクを共通インク室141に供給する手段、インクジェットヘッド1にインクを供給する供給管にヒーターを設け、インクの供給過程で加温されたインクを共通インク室141に供給する手段のいずれかの手段又は2つ以上の手段を組み合わせることが挙げられる。
【0067】
上述したようにインクを加温する手段を設けなくても、インクジェットヘッド1は圧電素子の駆動によって少なからず発熱するため、この熱によってインクは昇温する。従って、この圧電素子の発熱によって共通インク室141内のインクが使用温度とされる場合もある。
【0068】
可撓膜152は合成樹脂製フィルム等を用いることができる。合成樹脂としては、例えばPI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等等が挙げられる。可撓膜152の厚みは、特に限定されるものではないが、可撓膜152によるダンパー効果を効果的に発揮させる観点から、50μm以上150μm以下とすることが好ましい。
【0069】
ダンパー部材15は、可撓膜152が張り付けられた面が基板13と対面するように共通インク室141内に配置されている。これにより、ダンパー部材15の可撓膜152は、基板13に開口する貫通孔131のインク入口131aと対向している。
【0070】
このダンパー部材15の平面形状は矩形状に形成されているが、円形状、楕円形状、多角形状等任意である。ダンパー部材15の大きさは、インクマニホールド14の開口面積よりも小さい。このため、図2に示すように、ダンパー部材15の周囲と共通インク室141の内壁面との間に、インク入口131aへのインク流路141aが形成されている。
【0071】
なお、ダンパー室153の内部圧力は負圧に設定されている場合、若しくは、インクを吐出する使用温度において可撓膜152とインク入口131aとの最短の離間距離Dが70μm以上となるようにダンパー部材153が配置されている場合のいずれ場合においても、ダンパー部材15の可撓膜152と基板13との間に、各インク入口131aにインクを流入させるためのインク流路141bを確保し、ダンパー部材15が各チャネル121へのインクの流入を阻害することを良好に防止する観点で、ダンパー部材15の可撓膜152は、共通インク室141内のインクを吐出する使用温度にあるときに、平坦面又はインク入口131aと反対の方向に凹んだ面を形成していることが好ましい。また、よりダンパー部材15が各チャネル121へのインクの流入を阻害することを良好に防止する観点で、常温(25℃)において平坦面又はインク入口131aと反対の方向に凹んだ面を形成していることがより好ましい。
【0072】
また、ダンパー部材15は、共通インク室141内において、少なくとも一つのインク入口131aとダンパー部材15の可撓膜152との間の離間距離Dが、当該インク入口131aと、当該インク入口131aに連通するチャネル121を含むチャネル列の隣りのチャネル列におけるインク入口131aとの間の距離よりも小さくなる位置に配置されることがより好ましい。隣りのチャネル列とは、図1のY方向に隣り合うチャネル列のことである。
【0073】
また、この離間距離Dは、インク入口131aからダンパー部材152の可撓膜152に向けた垂直の距離である。この離間距離Dは、搬送方向において隣り合うチャネル列におけるインク入口131a間の距離をそれぞれd1、d2、d3(図4参照)とするとき、D<d1、且つ、D<d2、且つ、D<d3であることが好ましい。
【0074】
すなわち、ダンパー部材15は、離間距離Dが、隣り合うチャネル列のインク入口131a、131a間の距離d1、d2、d3のいずれとの比較でも、その距離d1、d2、d3よりも小さくなるように共通インク室141内に配置されていることが好ましい。このとき、インク入口131aからダンパー部材15を見た場合、隣りのチャネル列のインク入口131aまでの距離よりもダンパー部材15の可撓膜152までの距離の方が近くなる。
【0075】
なお、上記距離d1、d2、d3は、一つのチャネル列内のインク入口(これをインク入口Aとする。)と、その隣りのチャネル列内においてインク入口Aに最も近接したインク入口(これをインク入口Bとする。)との間の最短距離である。この距離d1、d2、d3は、一般には、図4に示すように、隣り合うチャネル列のインク入口A、B間に形成される列間間隙の幅となる。距離d1、d2、d3は同一の値でなくてもよい。
【0076】
このようにダンパー部材15が共通インク室141内に配置されることにより、チャネル121からインク入口131aを通って共通インク室141内に伝播した圧力波のうち、ダンパー部材15に向けて直進する成分を直ちに可撓膜152に衝突させてダンパー効果を発揮することができる。可撓膜152に衝突した圧力波は、ダンパー室153に封入されている気体の圧縮によって、可撓膜152が撓み変形することによって吸収される。このとき、離間距離Dによって規定されるインク入口131aから可撓膜152までの直線距離は、隣りの列のインク入口131aまでの距離よりも近いので、インク入口131aから共通インク室141内に伝播した圧力波は、隣りの列のインク入口131aに到達する前に可撓膜152によって吸収される。
【0077】
従って、タンパー部材15は、インク入口131aから共通インク室141内に伝播した圧力波を、隣りのチャネル列のインク入口131aに到達する前に吸収して低減し、共通インク室141を介して連通している隣り合うチャネル列のチャネル121に与えるクロストークの影響を低減することができる。
【0078】
本実施形態に示すインクジェットヘッド1は、図2中に破線で示す直線Lのように、インク入口131a、インク出口121a及びノズル111が一直線上に配置され、この直線Lがダンパー部材15と交差している。この構成によれば、チャネル121内で発生してインク入口131aに向かう圧力波の成分をダンパー部材15で直接吸収できるため、圧力波の吸収効果が最も高く、クロストークの影響を低減する効果が顕著に得られるために好ましい。
【0079】
ダンパー部材15をインク入口131aから所定の離間距離Dをおいて配置させる手段は特に問わない。例えば図5に示すように、ダンパー部材15の可撓膜152側の面に適宜数の脚部154を突設しておくことが挙げられる。この脚部154を基板13に当接させれば、脚部154の突出高さによって離間距離Dを容易に規定することができる。脚部はダンパーフレーム151の側面に設けてもよいし、基板13側に突設してもよい。
【0080】
その他、図示しないが、ダンパー部材15と共通インク室141の内壁面との間に支柱を架け渡して、ダンパー部材15を基板13から所定の離間距離Dとなるように支持してもよい。
【0081】
ところで、本実施形態に示すダンパー部材15は、可撓膜152によって、基板13に形成されている全ての貫通孔131のインク入口131aを覆うことができる大きさに形成されている。すなわち、図1に示すように、インク入口131aが存在する基板13の面13aに垂直な方向からダンパー部材15を該面13aに対して投影したとき、ダンパー部材15がインク入口131aの全てを包含している。これにより、全てのチャネル121からの圧力波をダンパー部材15によって減衰させることができる。また、チャネル121毎に圧力波の吸収性能がばらつくことを低減できる。このため、クロストークの影響や温度分布の影響の低減効果を各チャネル121間で均一化できるために好ましい態様である。
【0082】
このときのダンパー部材15は、可撓膜152が平坦面であると仮定した場合に、該可撓膜15が基板13の面13aと平行であると、全てのチャネル121に対して均等にダンパー効果を発揮することができるためにさらに好ましい。
【0083】
しかし、本発明において、ダンパー部材15は、少なくとも一つのインク入口131aと可撓膜152との間の離間距離Dが、当該インク入口131aと、当該インク入口131aに連通するチャネル121を含むチャネル列の隣りのチャネル列におけるインク入口131aとの間の距離よりも小さくなる位置に配置されていれば、当該インク入口131aからの圧力波をダンパー効果によって減衰させ、隣接チャネル121へ与えるクロストークの影響を低減する効果を得ることができる。
【0084】
もちろん、ダンパー部材15によって隣りのインク入口131aに到達する前に圧力波が減衰されるインク入口131aの数が多い程好ましい。すなわち、インク入口131aとダンパー部材15の可撓膜152との間の離間距離Dが、隣りのチャネル列におけるインク入口131aとの間の距離よりも小さくなるように配置されるインク入口131aの数の割合が、全てのインク入口131aの数の90%以上となるように、ダンパー部材15が配置されることが、クロストークの影響を低減する観点からは好ましい。
【0085】
なお、ダンパー部材15の可撓膜152が、インクを吐出する使用温度の環境下でも凹んだ湾曲面を形成している場合、インク入口131aと可撓膜152との間の離間距離Dは、可撓膜152の最も凹んだ部位と、この部位に最も近いインク入口131aとの間の距離によって規定することが好ましい。これによって、どのインク入口131aでも、それと隣接するチャネル列のインク入口131aとの間の距離よりも可撓膜152までの距離の方が近くなり、隣接する列間のクロストークの影響を低減する効果をより顕著に得ることができる。
【0086】
(ダンパー部材の製造方法)
次に、内部の圧力が負圧となるダンパー部材15を製造する方法の一例について説明する。
【0087】
ダンパー部材15は、ダンパーフレーム151と可撓膜152によって画成される内部のダンパー室153の圧力を負圧にする負圧形成工程を経て製造される。
【0088】
この負圧形成工程の一例としては、図6に示すように、内部が所定の圧力(目的とするダンパー室153の圧力)となるように減圧された減圧チャンバー100内で、ダンパーフレーム151と平坦状の可撓膜152とを貼り合せる工程が挙げられる。
【0089】
すなわち、所定の圧力に減圧された減圧チャンバー100内で、ダンパーフレーム151の開口面151aに、該開口面151aを塞ぐように可撓膜152を貼り合せる。これにより、ダンパーフレーム151と可撓膜152によって画成される内部のダンパー室153に、減圧チャンバー100内の減圧された気体が封入され、内部の圧力が負圧となるダンパー部材15を得ることができる。
【0090】
可撓膜152は接着剤又は両面テープを用いて貼り合せることができる。接着剤によって接着する場合は、減圧状態の減圧チャンバー100内で接着剤を硬化させる。また、両面テープで貼着する場合は、貼り合せた後に減圧チャンバー100から取り出せばよい。
【0091】
減圧チャンバー100から大気圧下に取り出されたダンパー部材15は、ダンパー室153の圧力が負圧であることにより、可撓膜152が凹んだ湾曲面を形成する。このダンパー部材15がインクジェットヘッド1の共通インク室141内に配置された後、共通インク室141内のインクが使用温度まで昇温されると、ダンパー室153の気体は膨張する。膨張後の可撓膜152は、ダンパー室153の負圧の程度と可撓膜152の可撓性の程度に応じて突出し、平坦面又は凹んだ湾曲面を形成する。
【0092】
この方法によれば、ダンパー室153が所定の負圧に設定されたダンパー部材15を簡単に製造することができる。負圧は減圧チャンバー100内の圧力によって規定されるため、ダンパー部材15を大量生産する場合でも、ダンパー室153の圧力にバラツキのない均質なダンパー部材15を生産することができる。
【0093】
なお、負圧形成工程は、上記のように減圧チャンバー100を用いずに、大気圧下で行うこともできる。
【0094】
例えば、図示しないが、ダンパーフレーム151の開口面151aの周縁部に接着剤を塗布して接着剤層を形成した後、可撓膜152を貼り合せる。そして、接着剤層が硬化する前に、ダンパーフレーム151と可撓膜152との間の接着剤層に、注射針等の中空状の微細な管部材を差し込み、シリンジや吸引ポンプ等の適宜の減圧手段を用いて、ダンパーフレーム151と可撓膜152によって画成される内部の気体を、管部材を通して引き込む。これによりダンパー室153を負圧にすることができる。所定量の気体を引き込んだ後、管部材を引き抜けば、硬化前の接着剤層が流動して管部材による穴は塞がれ、ダンパー室153に負圧の気体が封入される。
【0095】
この方法によれば、減圧チャンバー等の大掛かりな装置を必要としないため、より簡易に製造することができる。
【0096】
(インクジェットヘッドの第2の実施形態)
図7は本発明に係るインクジェットヘッドの第2の実施形態の一例を示す断面図である。
【0097】
このインクジェットヘッド2は、ヘッド基板21と配線基板22とが接着樹脂層23によって積層一体化されている。配線基板22の上面には、上述したインクマニホールド14と同様の箱型形状のインクマニホールド24が接合されている。このインクマニホールド24と配線基板22との間で、内部にインクが貯留される共通インク室241が形成されている。そして、この共通インク室241内にダンパー部材25が配置されている。
【0098】
ヘッド基板21は、図中下層側から、Si(シリコン)基板によって形成されたノズルプレート211、ガラス基板によって形成された中間プレート212、Si(シリコン)基板によって形成された圧力室プレート213、SiO薄膜によって形成された振動板214と有している。ノズルプレート211には下面にノズル211aが開口している。
【0099】
圧力室プレート213には、インクを収容する圧力室213aが形成されている。圧力室213aの上壁は振動板214によって構成され、下壁は中間プレート212によって構成されている。中間プレート212には、圧力室213aの内部とノズル211aとを連通する連通路212aが貫通形成されている。
【0100】
振動板214の上面には、各圧力室213aに1対1に対応してアクチュエータ215が積層されている。アクチュエータ215は、薄膜PZT等の圧電素子からなるアクチュエータ本体が、駆動電極としての上部電極と下部電極とで挟まれた構造をしており、その下部電極側が振動板214の上面に配置されている。
【0101】
配線基板22は、各アクチュエータ215に対して所定電圧の駆動信号を印加するための配線が形成された基板であり、その端部にFPC等の外部配線部材26がACF(異方性導電フィルム)によって電気的に接続されている。
【0102】
接着樹脂層23は、例えば熱硬化性の感光性接着樹脂シートによって形成され、ヘッド基板21と配線基板22との間に介在されることによって、両基板21、22を積層一体化している。この接着樹脂層23によって両基板21、22の間には該接着樹脂層23の厚み分の間隔が設けられている。接着樹脂層23は、アクチュエータ215及びその周囲に相当する領域が露光、現像によって除去されている。各アクチュエータ215は、この接着樹脂層23が除去された空間内にそれぞれ収容されている。
【0103】
接着樹脂層23には、上下に貫通する貫通孔231が各圧力室213aの数に対応して形成されている。各貫通孔231の一端(上端)は、配線基板22に形成されているインク供給路221と連通し、他端(下端)は、振動板214に形成された開口部214aを通して圧力室213aの内部と連通している。インク供給路221は配線基板22の上面に開口している。この開口部は共通インク室241内に対面しており、共通インク室241内のインクを各圧力室213a内に供給するインク入口221aとして機能している。
【0104】
このインクジェットヘッド2は、共通インク室241からインク入口221aを介して圧力室213a内にインクが供給される。そして、外部配線部材26からアクチュエータ215に駆動信号が印加されると、アクチュエータ215の変形動作によって振動板214が振動し、圧力室213a内に吐出のための圧力変化が付与され、該圧力室213a内のインクが連通路212aを通ってノズル211aから吐出される。
【0105】
このインクジェットヘッド2は、複数の圧力室213aが並設されることによって圧力室213aの列を形成し、その圧力室213aの列が複数配列されることによって複数列、好ましくは3列以上の圧力室213aを備えている。このため、各列の圧力室213aに対応するインク入口221aが共通インク室241内に臨んでいる。
【0106】
ダンパー部材25は、上述した第1の実施形態におけるダンパー部材15と同様に、ダンパーフレーム251と可撓膜252とを有し、これらダンパーフレーム251と可撓膜252とによって画成される内部によってダンパー室253が形成されている。このダンパー室253内の圧力は負圧に設定されている。その他のダンパー部材25の具体的構成は、上述したダンパー部材15と同一であるため、その詳細については第1の実施形態におけるダンパー部材15の説明を援用し、ここでは省略する。
【0107】
そして、このダンパー部材25は、上述したダンパー部材15と同様に、少なくとも一つのインク入口221aと可撓膜252との間の離間距離が、当該インク入口131aと、当該インク入口131aに連通するチャネル121を含むチャネル列の隣りのチャネル列におけるインク入口131aとの間の距離よりも小さくなる位置に配置することができる。
【0108】
また、ダンパー部材25は、上述したダンパー部材15と同様に、共通インク室241内のインクを吐出する使用温度にあるときに、可撓膜252とインク入口221aの離間距離が70μm以上となるように配置することもできる。
【0109】
このインクジェットヘッド2においても、アクチュエータ215を動作させると圧力室213a内に圧力波が発生し、その一部は、インク入口221aから共通インク室241内に伝播する。しかし、この共通インク室241内に伝播した圧力波が隣りの列のインク入口221aに到達する前に、ダンパー部材25によって吸収することができるため、この圧力波が隣り合う列の圧力室213aに影響を与えるクロストークの影響を低減することができる。このとき、ダンパー部材25内のダンパー室253の圧力は負圧であるため、第1の実施形態におけるインクジェットヘッド1と同様に、高温インク使用時でもダンパー効果を発揮しつつ、可撓膜252が圧力室213aの方向に突出してインク流路を狭めてしまうことがない効果が得られる。
【符号の説明】
【0110】
1:インクジェットヘッド
11:ノズルプレート
111:ノズル
12:ヘッドチップ
121:チャネル(圧力室)
121a:インク出口
122:隔壁
13:基板
13a:面
131:貫通孔
131a:インク入口
14:インクマニホールド
141:共通インク室
141a:インク流路
142:後部内壁面
15:ダンパー部材
151:ダンパーフレーム
151a:開口面
152:可撓膜
153:ダンパー室
154:脚部
2:インクジェットヘッド
21:ヘッド基板
211:ノズルプレート
211a:ノズル
212:中間プレート
212a:連通路
213:圧力室プレート
213a:圧力室
214:振動板
214a:開口部
215:アクチュエータ
22:配線基板
221:インク供給路
221a:インク入口
23:接着樹脂層
231:貫通孔
24:インクマニホールド
241:共通インク室
25:ダンパー部材
251:ダンパーフレーム
252:可撓膜
253:ダンパー室
26:外部配線部材
100:減圧チャンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7