(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248817
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】金属板屋根構造、金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構及び建築物
(51)【国際特許分類】
E04D 3/30 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
E04D3/30 M
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-117401(P2014-117401)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229894(P2015-229894A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 茂則
【審査官】
坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−138930(JP,U)
【文献】
特開平11−227881(JP,A)
【文献】
特開昭63−011752(JP,A)
【文献】
特開昭56−151685(JP,A)
【文献】
特開2013−108263(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0107173(US,A1)
【文献】
米国特許第01410945(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 1/00− 3/40
E04D 13/00−15/07
E04H 7/04
B65D 88/00−90/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根を構成する金属板の少なくとも一部の長手方向と幅方向に、金属板製の複数のU字状伸縮機構を設けると共に、
該U字状伸縮機構の交差部に、
前記長手方向と幅方向のU字状伸縮機構と接続されるU字状接続部と、
該U字状接続部の交差部と、
該交差部と前記U字状接続部の間に設けられた屈曲部と、
を有する金属板製の十字型伸縮機構を設けたことを特徴とする金属板屋根構造。
【請求項2】
前記十字型伸縮機構が、折り畳み傘状とされていることを特徴とする請求項1に記載の金属板屋根構造。
【請求項3】
前記十字型伸縮機構を構成する金属板が、前記屋根を構成する金属板と同じ材料とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属板屋根構造。
【請求項4】
長手方向と幅方向のU字状伸縮機構と接続されるU字状接続部と、
該U字状接続部の交差部と、
該交差部と前記U字状接続部との間に設けられた屈曲部と、
を有することを特徴とする金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構。
【請求項5】
前記十字型伸縮機構が、折り畳み傘状とされていることを特徴とする請求項4に記載の金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構。
【請求項6】
前記十字型伸縮機構を構成する金属板が、前記屋根を構成する金属板と同じ材料とされていることを特徴とする請求項4又は5に記載の金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金属板屋根構造を備えたことを特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板屋根構造、金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構及び建築物に係り、特に、角形配水池のステンレス鋼板製屋
根に用いるのに好適な、金属板屋
根の表面温度変化による変形及び変形音の発生を抑制することが可能な金属板屋根構造、そのための金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構、及び、前記金属板屋根構造を用いた建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
貯留水の水質保持を目的として、配水池には屋根が設けられることがある。この屋根は、直射日光の影響により表面温度が変化し、熱伸縮による歪みや変形が発生する。又、変形に伴い太鼓の打撃音のような音も発生する。特に、配水池の気相部に設けられる屋根や側板上部を構成する金属板には、塩素減菌された水道水から発生した塩素ガスの濃縮による厳しい環境に耐えるため、一般的には高耐食性に優れたSUS329J4Lなどの二相系ステンレス鋼が用いられるが、高価であるため薄板にロールなどの曲げ加工をしたり、リブによって補強するなどの設計が行われる。
【0003】
しかしながら、底板及び側壁との全溶接構造であり拘束が多いため、屋根板が拘束状態となり、気温の上昇や日射によって過度に熱膨張すると飛び移り座屈が発生し、この変形によって太鼓の打撃音のような音が発生する。これは、屋根板の熱で膨張した部分が、蒲鉾状の屋根のアーチ形状と逆の方向に変形したことによる発生音と考えられる。
【0004】
近年、大規模なステンレス鋼板製角形配水池(ステンレス配水池と称する)が建設されるようになったが、屋根面積が大きくなることから、屋根板の熱膨張による変形や、これによる変形音が無視できなくなってきている。
【0005】
従来は、屋根板の厚みを大きくしたり、補強部材を取り付けて剛性を高めることによって、熱による変形や歪みを防止する対策が行われてきたが、鋼材使用量が多くなることで、材料費及び加工、据付手間が増え、工期短縮やコスト縮減の懸念となっている。
【0006】
なお、本願と同様に、熱膨張による伸縮を吸収する技術として、特許文献1に、内圧を受ける縦型円筒形タンクの球殻形屋根において、周方向及び放射方向に樹脂製の伸縮継手(交差部は蛇腹形)を設けることによって、内圧の変動による屋根の伸縮を吸収し、球殻形状の安定を図るようにしたタンク構造が記載されている。
【0007】
又、出願人は、特許文献2で、屋根の一方向に、金属板をU字状にプレス加工した伸縮機構を設けることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−151685号公報
【特許文献2】特開2013−108263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のような伸縮継手を用いて伸縮を解消できれば、薄板でも変形や音を軽減できるものと考えられるが、配水池は換気が可能な大気開放型のタンクであり、屋根は内圧を受けないため、特許文献1のような内圧で屋根を支える構造とすることは困難である。
【0010】
又、特許文献2の技術は、一方向の変形に対する伸縮構造であり、
図1に鉛直方向変位コンターの数値シミュレーション結果を例示する如く、局部的に変異が発生し、
図2にエキスパンション部の幅方向応力分布のシミュレーション結果を例示する如く、特に、U字形状の付け根に応力が集中して、変形を上手く吸収できないという問題点を有していた。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたもので、樹脂製の伸縮継手を用いることなく、温度変化時の応力集中を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、金属板屋根構造において、屋
根を構成する金属板の少なくとも一部の長手方向と幅方向に、金属板製の複数のU字状伸縮機構を設けると共に、該U字状伸縮機構の交差部に、
前記長手方向と幅方向のU字状伸縮機構と接続されるU字状接続部と、該U字状接続部の交差部と、該交差部と前記U字状接続部の間に設けられた屈曲部と、を有する金属板製の十字型伸縮機構を設けることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
ここで、前記十字型伸縮機構を、折り畳み傘状とすることができる。
【0015】
又、前記十字型伸縮機構を構成する金属板を、前記屋
根を構成する金属板と同じ材料とすることができる。
【0016】
本発明は、又、長手方向と幅方向のU字状伸縮機構と接続されるU字状接続部と、該U字状接続部の交差部と、該交差部と前記U字状接続部の間に設けられた屈曲部と、を有することを特徴とする金属製の金属板屋根用の十字型伸縮機構を提供するものである。
【0017】
ここで、前記十字型伸縮機構を、折り畳み傘状とすることができる。
【0018】
又、前記十字型伸縮機構を構成する金属板を、前記屋
根を構成する金属板と同じ材料とすることができる。
【0019】
本発明は、又、前記の金属板屋根構造を備えたことを特徴とする建築物を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属板製の十字型伸縮機構を用いて、金属板屋根に二方向の伸縮性を持たせることによって、応力集中を解消することが可能となる。従って、樹脂製の伸縮継手を用いることなく、ステンレス配水池の金属板屋根の表面温度変化による変形や変形音の発生を抑制することができる。特に、住宅地に建設されるステンレス配水地においては、変形音に対する近隣住民からの苦情も多く、音響対策の一つとして有効な技術である。
【0021】
又、特許文献1では、樹脂製の伸縮構造を示しているが、本発明によれば、金属製であるので、従来の溶接や検査方法が適用でき、屋根と同様の耐食性強度を有する構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】特許文献2に記載の技術を採用した場合で温度が上昇した時に配水池屋根に生じる鉛直方向変位コンターのシミュレーション結果を示す図
【
図2】同じく、エキスパンション部の幅方向応力分布のシミュレーション結果を示す図
【
図3】本発明が適用される配水池の全体構成を示す平面図
【
図4】同じく、要部を拡大して示す立面図及び断面図
【
図6】本発明の実施形態の構成を示す、屋根板の左半分を示す斜視図
【
図7】同じく、長手方向と幅方向の一方向のU字状伸縮機構を示す(A)斜視図、(B)平面図及び(C)
図7(B)のC−C線に沿う横断面図
【
図8】同じく、交差部の十字型伸縮機構を示す(A)平面図、(B)
図8(A)のB−B線に沿う横断面図及び(C)斜視図
【
図9】前記実施形態で温度が上昇した時に配水池屋根に生じる鉛直方向変位コンターのシミュレーション結果を示す図
【
図10】同じく、エキスパンション部の幅方向応力分布のシミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0024】
本発明が適用される配水池の全体構成の平面図を
図3に、同じく立面図及び断面図を
図4に、同じく屋根板全体の斜視図を
図5に示す。
【0025】
本発明の対象となる配水池は、
図3に示すような長方形を有し、
図4に示す如く、底板10及び側壁上部12Uと側壁下部12Lでなる側壁12に対して、例えばアーチ状の屋根板14が溶接で接合されている。図において、16は屋根支柱、18は内部引張材である。
【0026】
ここで、液相部となる前記底板10及び側壁下部12Lは、例えばSUS316又はSUS304ステンレス鋼板製とされ、塩素ガスの濃縮による厳しい環境に耐える必要がある気相部となる屋根板14と側壁上部12Uは、例えばSUS329J4Lステンレス鋼板製とされている。
【0027】
本実施形態は、
図6に屋根板の左半分を示す如く、前記屋根板14のエキスパンション14E等の部分の長手方向及と幅方向に、
図7(A)(斜視図)、(B)(平面図)及び(C)(
図7(B)のC−Cに沿う横断面図)に示す如く、屋根板14と同じ又は類似のステンレス(例えばSUS316L)鋼板を略U字形状にプレス加工したU字状伸縮機構26を設けると共に、その交差部に、
図8(A)(平面図)、(B)(
図8(A)のB−B線に沿う横断面図)及び(C)(斜視図)に示すような、屋根板14と同じ又は類似のステンレス(例えばSUS316L)鋼板を略折り畳み傘状にプレス加工した十字型伸縮機構28を配設したものである。
【0028】
前記十字型伸縮機構28は、
図8に示した如く、長手方向と幅方向のU字状伸縮機構26と接続されるU字状接続部28Aと、該U字状接続部28Aの交差部28Bと、該交差部28Bと前記U字状接続部28Aとの間に設けられた屈曲部28Cとを有する折り畳み傘状とされ、ひだの部分が伸縮することにより、長手方向と幅方向の二方向の変形に追従し、二方向の熱膨張を共に吸収できるようにされている。
【0029】
ここで、前記交差部28Bの高さは、前記U字状接続部28Aの高さよりも高くされている。
【0030】
又、前記交差部28Bの頂点28Dは、剛性を付与するため凹状に形成されている。
【0031】
この十字型伸縮機構28は、一枚のステンレス板をプレス加工して作ることができ、例えばプレス加工により亀裂が入った部分は溶接にて盛ることができる。
【0032】
前記伸縮機構26及び28は共に屋根板14に溶接される。
【0033】
前記伸縮機構26及び28は、配水池に収容される水道水に対する耐食性を確保するため、屋根板14と同じ又は類似の高耐食鋼を使用することで、屋根板14と同等の耐食性を有するようにされている。
【0034】
前記伸縮機構26及び28は、例えば側板や仕切板近傍の拘束度が高い位置に入れることができる。
【0035】
この構造により、屋根板14の熱膨張に対して伸縮機構26及び28が二方向に変形するため、応力集中を防いで飛び移り座屈の発生を抑制することで、屋根の変形による音の発生を軽減させることができる。
【0036】
図9に、本実施形態で
図1と同様に温度が上昇した時に配水池屋根に生じる鉛直方向変位コンターのシミュレーション結果を示す。
図1で発生していた局部的な変位が解消していることが分かる。
【0037】
図10に、本実施形態で
図2と同様にエキスパンション部の幅方向応力分布をシミュレーションした結果を示す。
図2に比べて応力集中が緩和していることが分かる。
【0038】
前記実施形態においては、本発明が長方形の角形配水池屋根に適用されていたが、配水池の形状は長方形に限定されず、正方形や六角形等、他の形状であってもよい。又、金属板の材質もステンレスに限定されない。
【0039】
更に、本発明の適用対象も配水池に限定されず、金属板製の建築物一般の屋根板に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
10…底板
12…側壁
14…屋根板
14E…エキスパンション
26…U字状伸縮機構
28…十字型伸縮機構
28A…U字状接続部
28B…交差部
28C…屈曲部