(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭化珪素からなる前記原料粉末を昇華させて炭化珪素からなる前記種結晶上に再結晶させることにより、前記種結晶上に炭化珪素からなる前記単結晶を成長させるために用いられる、請求項1または2に記載の坩堝。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の坩堝は、原料粉末を昇華させて種結晶上に再結晶させることにより、当該種結晶上に単結晶を成長させるための坩堝である。この坩堝は、上記種結晶を保持すべき保持部と、当該保持部から上記単結晶の成長方向に沿って延在する空間である第1領域と、当該第1領域から上記単結晶の成長方向に沿って上記保持部とは反対側に延在する空間である第2領域と、当該第2領域から上記単結晶の成長方向に沿って上記第1領域とは反対側に延在し、上記原料粉末を保持すべき空間である第3領域と、を備える。上記第1領域を取り囲む壁部である第1壁部において、互いに対向する第1壁部間の距離は一定または上記保持部から離れるにしたがって大きくなる。上記第2領域を取り囲む壁部である第2壁部において、互いに対向する第2壁部間の距離は上記第1領域から離れるにしたがって大きくなる。上記第2壁部の内壁面と上記単結晶の成長方向とのなす角である角度βは、上記第1壁部の内壁面と上記単結晶の成長方向とのなす角である角度α以上である。そして、上記第1壁部の内部には、断熱材が上記単結晶の成長方向に垂直な方向に積層されるように配置されている。
【0011】
昇華法による単結晶の製造に用いられる坩堝は、原料粉末が昇華して形成された原料気体を集約して種結晶上に供給する観点から、単結晶の成長方向に垂直な方向における内部空間の断面積が、種結晶を保持する領域に比べて原料粉末を保持する領域において大きくなる構造を有することが好ましい。しかし、このような構造を採用した場合でも、坩堝内で形成される単結晶に欠陥が発生する場合がある。その結果、得られる単結晶の品質が低下するという問題が発生する。
【0012】
本発明者らは、この問題を抑制するための坩堝の構造について検討した。その結果、上記坩堝の構造を採用することにより、この問題を抑制できることが明らかとなった。より詳細に説明すると、本願の坩堝においては、上記第1領域において単結晶が成長する。そして、第1壁部の内部には断熱材が配置されている。これにより、第1壁部内における熱伝導率が低下する。特に、本願の坩堝においては、第1壁部内に配置される断熱材は、単結晶の成長方向に垂直な方向に積層されている。これにより、単結晶の成長方向に垂直な方向における断熱性が一層向上する。そのため、第1壁部から第1領域への輻射熱の影響が抑制され、第1領域内において結晶の成長方向に垂直な方向における温度差を低減することができる。その結果、単結晶の成長時における単結晶の径方向端部と中央部との厚みの差を小さくすることが可能となる。これにより、単結晶内の歪みを低減し、欠陥の少ない高品質な単結晶を成長させることができる。このように、本願の坩堝によれば、高品質な単結晶を製造することが可能となる。
【0013】
上記坩堝において、角度αは30°以下であってもよい。これにより、単結晶の成長にしたがって単結晶の径が拡大する割合が抑制される。その結果、単結晶の成長にしたがって単結晶内に蓄積する歪みが小さくなり、欠陥や割れの発生が抑制される。
【0014】
上記坩堝は、炭化珪素からなる上記原料粉末を昇華させて炭化珪素からなる上記種結晶上に再結晶させることにより、上記種結晶上に炭化珪素からなる上記単結晶を成長させるために用いられるべきものであってもよい。本願の坩堝は、炭化珪素単結晶の製造に好適である。
【0015】
本願の単結晶の製造方法は、坩堝内に原料粉末および種結晶を配置する工程と、上記原料粉末を昇華させて上記種結晶上に再結晶させることにより、上記種結晶上に単結晶を成長させる工程と、を備える。そして、上記原料粉末および上記種結晶を配置する工程では、上記本願の坩堝内の上記保持部に上記種結晶が配置されるとともに、上記第3領域に上記原料粉末が配置される。
【0016】
このように、本願の単結晶の製造方法においては上記本願の坩堝が用いられることにより、高品質な単結晶を製造することが可能となる。
【0017】
上記本願の単結晶の製造方法において、上記単結晶を成長させる工程では、上記単結晶の成長が上記第1領域内において完結してもよい。このようにすることにより、より確実に高品質な単結晶を製造することが可能となる。
【0018】
上記本願の単結晶の製造方法において、上記坩堝内に上記原料粉末および上記種結晶を配置する工程では、炭化珪素からなる上記原料粉末および上記種結晶が上記坩堝内に配置され、上記種結晶上に上記単結晶を成長させる工程では、上記種結晶上に炭化珪素からなる上記単結晶を成長させてもよい。このようにすることにより、高品質な炭化珪素単結晶を製造することが可能となる。
【0019】
[本願発明の実施形態の詳細]
(実施の形態1)
次に、本発明にかかる坩堝および当該坩堝を用いた単結晶の製造方法の一実施の形態である実施の形態1を、炭化珪素の単結晶が製造される場合を例に、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0020】
図1を参照して、本実施の形態における坩堝1は、原料粉末を昇華させて種結晶上に再結晶させることにより、種結晶上に単結晶を成長させるための坩堝である。坩堝1は、一方の端部に底部を有し、他方の端部に開口部を有する中空円筒状の本体部20と、本体部20の上記他方の端部に形成された開口部を閉塞する円盤状の蓋部10とを備えている。蓋部10および本体部20は、たとえばカーボン(グラファイト)からなっている。蓋部10は、本体部20に対して着脱自在となっている。蓋部10の外周に形成された蓋結合面12と本体部20の内周に形成された本体部結合面21とが接触することにより、蓋部10は本体部20に対して固定される。蓋結合面12および本体部結合面21には、たとえばらせん状のねじ溝が形成されていてもよい。蓋部10の一方の主面には、当該主面の中央部から突出する保持部11が形成されている。蓋部10を本体部20に取り付けた状態において、保持部11は、円筒状の形状を有する本体部20の中心軸Aを含むように位置する。中心軸Aは、単結晶の成長方向に沿って延びる。保持部11の先端には、種結晶を保持する保持面11Aが形成されている。
【0021】
坩堝1は、保持部11から単結晶の成長方向(中心軸Aの延びる方向)に沿って延在する空間である第1領域30を備える。この第1領域30は、本体部20の内周面から中心軸Aに向けて突出するように形成された第1壁部32により取り囲まれた空間である。互いに対向する第1壁部32間の距離、すなわち互いに対向する第1壁部32の内壁面32A同士の距離は、保持部11から離れるにしたがって徐々に大きくなっている。別の観点から説明すると、中心軸Aに垂直な断面における第1領域30の断面積は、保持部11から離れるにしたがって徐々に大きくなっている。そして、中心軸Aを含む断面において、第1壁部32の内壁面32Aと単結晶の成長方向(中心軸Aの延在方向)とがなす角は、角度αである。
【0022】
坩堝1は、第1領域30から単結晶の成長方向(中心軸Aの延びる方向)に沿って保持部11とは反対側に延在する空間である第2領域40を備える。この第2領域40は、本体部20の内周面から中心軸Aに向けて突出するように形成された第2壁部42により取り囲まれた空間である。中心軸Aに垂直な方向において互いに対向する第2壁部42間の距離、すなわち互いに対向する第2壁部42の内壁面42A同士の距離は、第1領域30から離れるにしたがって徐々に大きくなっている。別の観点から説明すると、中心軸Aに垂直な断面における第2領域40の断面積は、第1領域30から離れるにしたがって徐々に大きくなっている。そして、中心軸Aを含む断面において、第2壁部42の内壁面42Aと単結晶の成長方向(中心軸Aの延在方向)とのなす角である角度βは上記角度α以上である。
【0023】
坩堝1は、第2領域40から単結晶の成長方向(中心軸Aの延びる方向)に沿って第1領域30とは反対側に延在し、原料粉末を保持すべき空間である第3領域50を備える。この第3領域50は、本体部20の側壁である第3壁部52により取り囲まれた空間である。互いに対向する第3壁部52間の距離、すなわち互いに対向する第3壁部52の内壁面52A同士の距離は中心軸Aの延在方向において一定である。別の観点から説明すると、中心軸Aに垂直な断面における第3領域50の断面積は、中心軸Aの延在方向において一定である。第3壁部52と第2壁部42とは全周にわたって隙間なく接続されている。
【0024】
坩堝1は、保持部11の外周側を取り囲む空間である第4領域60を備えている。第4領域60と第1領域30とは、チャネル空間61により接続されている。
【0025】
第1壁部32の内部には中空領域31が形成されている。中空領域31は、第1領域30を取り囲むように配置される環状の空間である。そして、この中空領域31内には、断熱材91が配置されている。つまり、第1壁部32の内部には断熱材91が配置されている。断熱材91としては、たとえばカーボンフェルトを採用することができる。本実施の形態では、帯状の断熱材91の両端を合わせて環状としたものを複数個(
図1では5個)積層することにより、中空領域31内が断熱材91により満たされている。これら複数の断熱材91は、単結晶の成長方向(中心軸Aの延在方向)に垂直な方向に積層されるように配置されている。なお、帯状の一の断熱材91を複数周巻き付けることにより、単結晶の成長方向(中心軸Aの延在方向)に垂直な方向に積層されるように断熱材91を配置してもよい。
【0026】
また、第2壁部42の内部には内壁41Aの各領域が空の空間を挟んで反対側の内壁41Aの領域に対向する中空領域41が形成されている。中空領域41は、第2領域40を取り囲むように配置される環状の空間である。中空領域41内には、断熱材は配置されない。中空領域41内は、空の状態となっている。
【0027】
次に、上記坩堝1を用いた炭化珪素単結晶の製造方法を説明する。
図2を参照して、本実施の形態における炭化珪素単結晶の製造方法では、まず工程(S10)として坩堝準備工程が実施される。この工程(S10)では、
図1に基づいて説明した坩堝1が準備される。
【0028】
次に、工程(S20)として原料粉末配置工程が実施される。この工程(S20)では、
図3を参照して、坩堝1の第3領域50内に、炭化珪素の粉末である原料粉末82が配置される。具体的には、蓋部10を取り外した状態で、本体部20内に原料粉末82を配置する。
【0029】
次に、工程(S30)として種結晶配置工程が実施される。この工程(S30)では、保持部11に種結晶81が配置される。具体的には、たとえば本体部20から取り外された蓋部10の保持部11に、種結晶81を貼り付ける。次に、蓋部10を本体部20に取り付ける。これにより、種結晶81は、坩堝1の中心軸Aと交差する領域に配置される。上記工程(S10)〜(S30)により、坩堝1内に原料粉末82および種結晶81が配置される。
【0030】
次に、工程(S40)として昇華−再結晶工程が実施される。この工程(S40)では、原料粉末82を昇華させて種結晶81上に再結晶させることにより、種結晶81上に単結晶を成長させる。具体的には、たとえば原料粉末82および種結晶81が内部に配置された坩堝1を、誘導加熱装置を備えた加熱炉(図示しない)内にセットする。そして、加熱炉による加熱を開始すると、
図4を参照して、炭化珪素の粉末である原料粉末82が昇華し、気体状態の炭化珪素である原料気体が生成する。この原料気体は、第3領域50を離脱し、第2領域40を通って第1領域30へと到達する。このとき、互いに対向する第2壁部42間の距離、すなわち互いに対向する第2壁部42の内壁面42A同士の距離は、第3領域50側から第1領域30側に近づくにしたがって徐々に小さくなっている。そのため、原料気体は中心軸Aに近づくように徐々に集約されて第1領域30に到達する。
【0031】
第1領域30に到達した原料気体は、種結晶81上に供給される。その結果、種結晶81上で原料気体が再結晶し、種結晶81上に炭化珪素の単結晶83が形成される。そして、この状態が維持されることにより、単結晶83は中心軸Aに沿った方向に成長する。そして、予め設定された加熱時間が経過することにより加熱が終了し、工程(S40)が完了する。
【0032】
次に、工程(S50)として単結晶採取工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において坩堝1内に成長した単結晶が、坩堝1から取り出される。具体的には、工程(S40)における加熱終了後、加熱炉から坩堝1が取り出される。その後、坩堝1の蓋部10が本体部20から取り外される。そして、蓋部10から単結晶83が採取される。以上の工程により、本実施の形態における単結晶の製造方法は完了する。採取された単結晶は、たとえばスライスされて基板に加工され、半導体装置の製造などに使用される。
【0033】
ここで、上述のように、本実施の形態の坩堝1においては、第1壁部32の内部に断熱材91が配置されている。これにより、第1壁部32内における熱伝導率が低下する。特に、坩堝1においては、第1壁部32内に配置される断熱材91は、単結晶83の成長方向に垂直な方向(中心軸Aに垂直な方向)に積層されている。これにより、単結晶83の成長方向に垂直な方向における断熱性が一層向上する。そのため、第1壁部32から第1領域30への輻射熱の影響が抑制され、第1領域30内において中心軸Aに垂直な方向(単結晶83の径方向)における温度差を低減することができる。その結果、単結晶83の成長時における単結晶の径方向端部と中央部との厚みの差を小さくする(たとえば3mm以下とする)ことが可能となり、歪みおよび欠陥の少ない高品質な単結晶83を成長させることができる。
【0034】
また、単結晶83の成長方向に垂直な方向(中心軸Aに垂直な方向)において、坩堝1の内部空間の中央部付近(坩堝1の内部空間を取り囲む壁部から離れた領域、すなわち中心軸A付近)の原料粉末82上に接触するように、再結晶により形成された結晶塊が形成される場合がある。この結晶塊は原料粉末82の昇華を阻害する。その結果、種結晶81への原料気体の供給速度が低下し、単結晶83の成長速度が低下するという問題が発生する場合がある。
【0035】
このような問題に対応するため、坩堝1の上記第2壁部42の内部には内壁41Aの各領域が空の空間を挟んで反対側の内壁41Aの領域に対向する中空領域41が形成されている。すなわち、坩堝1の上記第2壁部42の内部には、断熱材が配置されない空の状態の中空領域41が形成されている。これにより、第2壁部42内における熱伝導率が高くなる。そのため、第2壁部42から坩堝1の内部空間の中央部付近(中心軸A付近)の原料粉末82への輻射熱が大きくなる。その結果、当該中央部付近の温度低下が抑えられ、当該領域において再結晶による結晶塊の形成が抑制される。
【0036】
また、坩堝1においては、第3壁部52と第2壁部42とが隙間なく接続されている。そのため、第3領域50を離脱した原料気体が確実に第2領域40を通って第1領域30へと供給される。その結果、単結晶83の成長速度を大きくすることができる。さらに、坩堝1においては、角度βは角度α以上とされる。これにより、広い領域の原料気体を集約して第1領域30へと供給することが可能となり、単結晶83の成長速度を大きくすることができる。
【0037】
また、坩堝1は第4領域60を備えている。これにより、正常な成長に寄与しなかった原料気体がチャネル空間61を通って第4領域60へと流入する。第4領域60へと流入した原料気体は第4領域60内において再結晶する。これにより、正常な成長に寄与しなかった原料気体が単結晶83の側面等において再結晶し、単結晶83に付着する多結晶となることが抑制される。その結果、高品質な単結晶83を成長させることができる。
【0038】
以上のように、本実施の形態の坩堝1を用いることにより、成長速度を大きくしつつ高品質な単結晶83を製造することが可能となる。
【0039】
また、角度αは、30°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。また、角度αは0°であってもよい。すなわち、互いに対向する第1壁部32間の距離は一定であってもよい。このようにすることにより、単結晶83の成長にしたがって単結晶83の径が拡大する割合が抑制される。その結果、単結晶83の成長にしたがって単結晶83内に蓄積する歪みが小さくなり、欠陥や割れの発生が抑制される。
【0040】
また、坩堝1においては、角度βは70°以下とされることが好ましい。これにより、第2壁部42の内壁面42Aからの輻射熱が効率よく坩堝1の内部空間の中央部付近(中心軸A付近)の原料粉末82へと与えられる。そのため、当該中央部付近の温度低下が抑えられ、当該領域において再結晶による結晶塊の形成が抑制される。その結果、単結晶83の成長速度を大きくすることができる。
【0041】
さらに、坩堝1において、上記角度βは20°以上であることが好ましい。これにより、一層広い領域の原料気体を集約して第1領域30へと供給することが可能となり、単結晶83の成長速度を大きくすることができる。
【0042】
また、坩堝1において、上記角度βと上記角度αとの差は50°以下とすることが好ましい。上記角度βと上記角度αとの差が50°を超える場合、第2領域40と第1領域30との接続部付近において原料気体の流れの乱れが大きくなる。その結果、第2領域40と第1領域30との接続部付近の坩堝1の内壁において原料気体が再結晶し、当該内壁に多結晶が付着する場合がある。このように第2領域40と第1領域30との接続部付近に付着した多結晶は、単結晶83と一体化し、単結晶83に異種のポリタイプが混入する原因となる。これに対し、上記角度βと上記角度αとの差は50°以下とすることにより、第2領域40と第1領域30との接続部付近における多結晶の付着を抑制することができる。その結果、より高品質な単結晶83を得ることが容易となる。
【0043】
さらに、本実施の形態における単結晶の製造方法において、単結晶83を成長させる工程である工程(S40)では、単結晶83の成長を第1領域30内において完結させることが好ましい。単結晶83の径方向における温度差を低減可能な第1領域30内において単結晶83の成長を完結させることにより、単結晶83内の歪みが小さくなる。その結果、より確実に高品質な単結晶83を製造することができる。
【0044】
(実施の形態2)
次に、他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2における坩堝1は、実施の形態1の場合と基本的には同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2における坩堝1は以下の点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0045】
図5を参照して、実施の形態2における坩堝1の第2壁部42の内部には中空領域が形成されていない。すなわち、実施の形態2における坩堝1の第2壁部42の内部は中実となっている。第2壁部42の内部を中実とした場合、内部に中空領域を形成する場合に比べると第2壁部42内における熱伝導率は低くなるものの、内部に断熱材を配置した場合に比べると高い熱伝導率を確保することができる。これにより、第2壁部42の内部に断熱材を配置した場合に比べて第2壁部42内における熱伝導率が高くなる。そのため、第2壁部42から坩堝1の内部空間の中央部付近(中心軸A付近)の原料粉末82への輻射熱が大きくなる。その結果、当該中央部付近の温度低下が抑えられ、当該領域において再結晶による結晶塊の形成が抑制される。
【0046】
また、第2壁部42の内部を中実とすることにより、坩堝1の構造を簡素なものとすることができる。そのため、実施の形態2における坩堝1の構造を採用することにより、坩堝1の製造コストを低減することができる。なお、実施の形態2における坩堝1を用いて、実施の形態1の場合と同様の手順により単結晶(たとえば炭化珪素からなる単結晶)を製造することができる。
【0047】
(実施の形態3)
次に、さらに他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3における坩堝1は、実施の形態1の場合と基本的には同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態3における坩堝1は以下の点において実施の形態1の場合とは異なっている。
【0048】
図6および
図1を参照して、実施の形態1における坩堝1においては、第2壁部42の内壁面42Aが単一の面で構成されている。これに対し、実施の形態3における坩堝1においては、第2壁部42の内壁面42Aが、複数の面が階段状に接続されて構成されている。坩堝1の作製における第2壁部42の加工に際し、内壁面42Aを単一の面で構成することが難しい場合、本実施の形態の構造を採用することにより、坩堝1の作製を容易なものとすることができる。
【0049】
なお、本実施の形態において、角度βは、中心軸Aを含む断面において内壁面42Aの階段状の突出部の各先端を含む面と単結晶の成長方向(中心軸Aの延在方向)とのなす角と定義される。また、実施の形態3における坩堝1を用いて、実施の形態1の場合と同様の手順により単結晶(たとえば炭化珪素からなる単結晶)を製造することができる。
【0050】
なお、上記実施の形態1〜3における坩堝1の構造は、本願の坩堝の構造における具体例であって、本願の坩堝の構造はこれらに限られるものではない。したがって、たとえば上記実施の形態1〜3において説明した構造を適宜組み合わせた構造を採用してもよい。また、上記実施の形態においては、炭化珪素からなる単結晶が製造される場合について説明したが、本願の坩堝および単結晶の製造方法により、昇華法により作製可能な他の単結晶、たとえば窒化アルミニウムからなる単結晶を製造することも可能である。
【実施例】
【0051】
上記角度αおよび角度βを変化させた坩堝を準備して炭化珪素からなる単結晶を製造し、当該単結晶の品質、成長速度等を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0052】
上記実施の形態1における坩堝1と同様の構造において、角度αを0°〜40°、角度βを20°〜80°の範囲で変化させた坩堝を準備した。そして、実施の形態1の場合と同様の手順により炭化珪素からなる単結晶を成長させた。その際、得られた単結晶における割れの発生、第1領域30と第2領域40との接続部における多結晶の付着、原料粉末82の上部における結晶塊の生成、単結晶83の成長速度を調査した。実験の結果を表1および
図7に示す。
図7において、横軸は角度βの値を示しており、縦軸は単結晶の成長速度(単結晶の成長方向における1時間あたりの単結晶の厚みの増加量)を示している。
【0053】
【表1】
表1を参照して、単結晶における割れの発生は、角度αが大きい条件において発生することが分かる。そして、角度αを30°以下とすることにより、割れの発生をわずかなものとすることができる。したがって、角度αは30°以下とすることが好ましいといえる。さらに、角度αを20°以下とした場合、割れの発生が確認されなかった。このことから、角度αは20°以下とすることがより好ましいといえる。なお、単結晶における割れの発生を抑制する観点からは、角度αは小さいほど好ましいものと考えられ、5°以下とすることがより好ましく、0°とすることがさらに好ましい。
【0054】
また、第1領域30と第2領域40との接続部における多結晶の付着に関しては、角度βと角度αとの差(β−αの値)が50°を超えると明確な多結晶の付着が確認された。したがって、角度βと角度αとの差は50°以下とすることが好ましいといえる。さらに、角度βと角度αとの差を40°以下とした場合、多結晶の付着は確認されなかった。このことから、角度βと角度αとの差は40°以下とすることがより好ましいといえる。
【0055】
また、原料粉末82の上部における結晶塊の生成は、角度βが大きい条件において発生することが分かる。そして、角度βを70°以下とすることにより、結晶塊の生成をわずかなものとすることができる。したがって、角度βは70°以下とすることが好ましいといえる。さらに、角度βを60°以下とした場合、結晶塊の生成は確認されなかった。このことから、角度βは60°以下とすることがより好ましいといえる。
【0056】
また、表1および
図7を参照して、結晶の成長速度の観点からは、角度βには適切な範囲があることが分かる。これは、以下のような理由によるものと考えられる。角度βが大きくなると、上述のように結晶塊が生成し、成長速度が低下する。そのため、上述のように角度βは70°以下とすることが好ましく、60°以下とすることがより好ましい。一方、角度βが小さすぎると、広い領域の原料気体を集約して第1領域30へと供給することができなくなり、成長速度が低下する。そのため、成長速度を大きくするためには、角度βは20°以上とすることが好ましく、30°以上とすることがより好ましい。また、角度βを40°以上とすることにより、より成長速度を大きくすることができる。
【0057】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。