特許第6248844号(P6248844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248844
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】可変容量型ピストンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/22 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   F04B1/22
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-145926(P2014-145926)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-23548(P2016-23548A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐規
(72)【発明者】
【氏名】横町 尚也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 力
(72)【発明者】
【氏名】宇野 峰志
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−121781(JP,U)
【文献】 特開平08−004658(JP,A)
【文献】 特開平05−133321(JP,A)
【文献】 特開平08−100759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体的に回転するシリンダブロック内のピストンが、斜板の傾角に応じたストロークの往復動をおこなって、作動流体の吸入および吐出をおこなう可変容量型ピストンポンプであって、
前記斜板は、前記ピストンの一端部がシューを介して摺接する摺接面を有するとともに、前記ピストンのストロークを規定する傾角を変更可能とするように回動中心周りに回動可能に配置され、
前記斜板の摺接面に対して一側に配置され、前記一側から前記斜板の被押圧部を押圧して、前記斜板の傾角を前記作動流体の吐出容量が最大となる最大傾角と前記作動流体の吐出容量が最小となる最小傾角との間で調整し、一方向に沿って押圧力を作用させる押圧部と、
前記斜板の摺接面に対して他側に配置され、前記斜板の前記被押圧部を前記摺接面の一側の向きに付勢する斜板復帰バネと、
を備え、
前記被押圧部は、前記斜板の傾角が前記最大傾角であるときに前記押圧部の押圧力が作用する位置である第1の作用位置と、前記斜板の傾角が前記最小傾角であるときに前記押圧部の押圧力が作用する位置である第2の作用位置とを有し、
前記押圧部の押圧力が作用する方向に対して平行であり、且つ、前記斜板の回動中心を通る直線を平行基準線とし、前記平行基準線と直交し、且つ、前記斜板の前記回動中心を通る直線を垂直基準線としたときに、前記第1の作用位置と前記第2の作用位置との間を、前記垂直基準線が通過する位置関係を有し、
前記第1の作用位置と前記第2の作用位置との中点を、前記垂直基準線が通過する位置関係を有する、可変容量型ピストンポンプ。
【請求項2】
前記押圧部は、前記回転軸に対して平行に配置されている、請求項1に記載の可変容量型ピストンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型ピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の可変容量型ピストンポンプとして、例えば特許文献1に記載されているように、油圧回路の油圧発生源として用いられ、斜板の傾角を調整することにより吐出容量が変更される可変容量型ピストンポンプが知られている。
【0003】
上記特許文献1に記載の可変容量型ピストンポンプは、斜板を押圧するコントロールピストンと、コントロールピストンとは反対側から斜板を付勢する斜板復帰バネと、を備えている。コントロールピストンは、その制御圧を変えることで斜板に対する押圧力の大きさが変わり、押圧力の大きさを制御することによって斜板の傾角が調整される。具体的には、コントロールピストンの押圧力を小さくすると、斜板復帰バネの付勢力によって斜板の傾角が大きくなり、コントロールピストンの押圧力を大きくすると、斜板の傾角が小さくなる。斜板は、傾角が変わる際に、ある回動中心周りに回動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、斜板の傾角が変わると、コントロールピストンの押圧力と回動中心との距離(すなわち、コントロールピストンの押圧力の回動中心周りのモーメントの腕の長さ)が変化する結果、斜板の傾角に関する制御性の悪化を招くということを見出した。
【0006】
たとえば、コントロールピストンが斜板を押圧して斜板の傾角を小さくする際に、斜板の傾角が小さくなるほど上記モーメントの腕の長さが短くなる場合には、コントロールピストンの押圧力の回動中心周りのモーメントが減少し、斜板が回転しにくくなる。この場合、コントロールピストンの押圧力に対する斜板の傾角の応答性が悪くなり(たとえば、応答速度が遅くなり)、斜板の傾角が適切に制御されないことが起こり得る。
【0007】
逆に、コントロールピストンが斜板を押圧して斜板の傾角を小さくする際に、斜板の傾角が小さくなるほど上記モーメントの腕の長さが長くなる場合には、コントロールピストンの押圧力の回動中心周りのモーメントが増加し、斜板が回動しやすくなる。この場合、コントロールピストンの押圧力に対する斜板の傾角の応答が過剰に敏感となり(たとえば、応答速度が過剰に速くなり)、やはり斜板の傾角が適切に制御されないことが起こり得る。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、斜板の傾角の制御性向上が図られた可変容量型ピストンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可変容量型ピストンポンプは、回転軸と一体的に回転するシリンダブロック内のピストンが、斜板の傾角に応じたストロークの往復動をおこなって、作動流体の吸入および吐出をおこなう可変容量型ピストンポンプであって、斜板は、ピストンの一端部がシューを介して摺接する摺接面を有するとともに、ピストンのストロークを規定する傾角を変更可能とするように回動中心周りに回動可能に配置され、斜板の摺接面に対して一側に配置され、一側から斜板の被押圧部を押圧して、斜板の傾角を作動流体の吐出容量が最大となる最大傾角と作動流体の吐出容量が最小となる最小傾角との間で調整し、一方向に沿って押圧力を作用させる押圧部と、斜板の摺接面に対して他側に配置され、斜板の被押圧部を摺接面の一側の向きに付勢する斜板復帰バネと、を備え、被押圧部は、斜板の傾角が最大傾角であるときに押圧部の押圧力が作用する位置である第1の作用位置と、斜板の傾角が最小傾角であるときに押圧部の押圧力が作用する位置である第2の作用位置とを有し、押圧部の押圧力が作用する方向に対して平行であり、且つ、斜板の回動中心を通る直線を平行基準線とし、平行基準線と直交し、且つ、斜板の回動中心を通る直線を垂直基準線としたときに、第1の作用位置と第2の作用位置との間を、垂直基準線が通過する位置関係を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る可変容量型ピストンポンプでは、斜板の傾角が最大傾角であるときに押圧部の押圧力が被押圧部に作用する位置である第1の作用位置と、斜板の傾角が最小傾角であるときに押圧部の押圧力が被押圧部に作用する位置である第2の作用位置との間を、垂直基準線が通過する位置関係を有する。押圧部の押圧力が被押圧部に作用する位置が垂直基準線上または垂直基準線の近傍では、押圧部による押圧力のモーメントの腕の長さがほとんど変化しない。本発明に係る可変容量型ピストンポンプでは、第1の作用位置と第2の作用位置とが垂直基準線を挟むように位置しているので、押圧部の押圧力が被押圧部に作用する位置が垂直基準線上または垂直基準線の近傍となる。よって、斜板の傾角が最大傾角から最小傾角まで変化しても、押圧力のモーメントの腕の長さがほとんど変化しないので、斜板の傾角によらず押圧力のモーメントの変動量を抑制することができる。その結果、斜板の傾角の制御性を向上することができる。
【0011】
本発明に係る可変容量型ピストンポンプにおいて、第1の作用位置と第2の作用位置との中点を、垂直基準線が通過する位置関係を有してもよい。この場合、斜板の傾角が最大傾角であるときのモーメントの腕の長さと、斜板の傾角が最小傾角であるときのモーメントの腕の長さとを等しくすることができる。よって、斜板の傾角が最大傾角から最小傾角まで変位する間に押圧力のモーメントの腕の長さが変化する量を最小とすることができるので、斜板の傾角の変位に応じた押圧力のモーメントの変動量を最も抑制することができる。その結果、斜板の傾角の制御性をさらに向上することができる。
【0012】
本発明に係る可変容量型ピストンポンプにおいて、押圧部は、回転軸に対して平行に配置されていてもよい。この場合、可変容量型ピストンポンプの設計が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、斜板の傾角の制御性向上が図られた可変容量型ピストンポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る可変容量型ピストンポンプを示した概略断面図である。
図2図1に示す斜板の斜視図である。
図3図1に示す斜板を摺接面側から見た側面図である。
図4図1に示す斜板を摺接面とは反対側から見た側面図である。
図5】斜板の摺接面と斜板の回動中心との位置関係を模式的に示す図である。
図6】ピストン部の押圧力の作用位置の変動を示す模式図である。
図7図6の場合に加え、本実施形態の比較例としてのピストン部の押圧力の作用位置の変動を示す模式図である。
図8図6とは異なる位置のピストン部の押圧力の作用位置の変動を示す模式図である。
図9】変形例に係る斜板を示す斜視図である。
図10】変形例に係る可変容量型ピストンポンプの要部を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
まず、本実施形態に係る可変容量型ピストンポンプ(以下、単にポンプと称す)について、図1を参照しつつ説明する。ポンプ1は、ポンプハウジング10と、回転軸20と、シリンダブロック14とを備えている。
【0017】
ポンプハウジング10は、フロントハウジング10a、センタハウジング10b、リヤハウジング10cを接合することによって構成されており、その内部にクランク室12を有する。
【0018】
回転軸20は、その大部分がポンプハウジング10のクランク室12内に収容されており、一方の端部のみがポンプハウジング10から突出している。回転軸20は、クランク室12内において、ベアリングにより回転可能に保持されている。ポンプハウジング10から突出する回転軸20の端部は、図示しない動力取出装置に連結されており、エンジンにより回転軸20全体が回転駆動される。
【0019】
シリンダブロック14も、ポンプハウジング10のクランク室12内に収容されている。シリンダブロック14は、回転軸20と一体的に回転するように、回転軸20にスプライン嵌合されている。シリンダブロック14には、回転軸20の突出する端部の側に開口を有する複数のシリンダボア14aが設けられており、複数のシリンダボア14aはシリンダブロック14における回転軸20周りに所定角度間隔で配置されている。そして、複数のシリンダボア14a内にはそれぞれ、回転軸20の突出する端部の側にヘッドが突出するピストン16が収容されている。
【0020】
ポンプハウジング10のクランク室12には、さらに、斜板30が収容されている。以下、図2図4を参照して、斜板30の構成について説明する。図2は、図1に示す斜板30の斜視図である。図3は、図1に示す斜板30を摺接面側から見た側面図である。図4は、図1に示す斜板30を摺接面とは反対側から見た側面図である。
【0021】
図2図4に示されているように、斜板30は、本体部31と、一対の摺動部32と、被押圧部33とを有している。
【0022】
本体部31は、略板状であり、その中央部に、上述の回転軸20が挿通される貫通孔31aが設けられている。一対の摺動部32は、本体部31を両側から挟む位置に、本体部31と一体的に設けられている。
【0023】
本体部31および摺動部32の前面側は、図3に示すように平坦面30aとなっており、この面が後述する摺接面である。一方、本体部31および摺動部32の背面側は、図2、4に示すように、摺動部32が本体部31に対して突出する形状となっている。摺動部32は、その断面が半月状(D字状)であり、背面側に凸となるように所定の曲率で湾曲した摺動面32aを有している。
【0024】
また、本体部31には、本体部31から上側に延びる被押圧部33が設けられている。被押圧部33には、その前面側に収容孔33aが形成されており、この収容孔33aに、後述する円筒部材33bが配置されている。なお、円筒部材33bは、回動できないように固定された状態で配置されてもよく、回動自在に配置されてもよい。また、被押圧部33には、その背面側に、後述する斜板復帰バネ60の先端部によって付勢される位置に、斜板復帰バネ60の先端部が係合する突起部33c及び平面部33dが形成されている。
【0025】
図1に戻って、斜板30は、その背面側に配置された斜板受部材34によって、その位置が保持されている。斜板受部材34は、上述した斜板30の摺動部32の摺動面32aと略同一の曲率を有する支持面34aを有する。斜板30は、摺動部32の摺動面32aが斜板受部材34の支持面34aに接するように配置され、それにより、斜板受部材34により上記曲率に沿って揺動可能に支持される。より詳しくは、斜板30は、斜板受部材34の支持面34aの曲率中心Xを基準に回動する(傾転するともみなせるし、回転するともみなせる)ことが可能である。この曲率中心Xは、斜板30の摺動部32の摺動面32aの曲率中心でもある。そして、この曲率中心Xは、斜板30の回動位置によらず、摺接面30aからの距離(最短距離)が一定である点と定義することができる。以下の説明では、この曲率中心を回動中心Xと称す。なお、図1においては、回動中心Xを点で示しているが、実際には回動中心Xの線は奥行方向(紙面に垂直な方向)に延びている。
【0026】
斜板30は、ピストン16のストロークを規定する傾角を変更可能とするように回動中心X周りに回動可能に配置されている。傾角は、たとえば、回転軸20の軸線に直交する直線を基準とする角度として定義することができる。本実施形態において、傾角は、回転軸20の軸線に直交する直線に対する摺接面30aの角度として定義される。
【0027】
斜板30は、その前面側の摺接面30aが、シリンダブロック14側を向いている。摺接面30aには、シリンダブロック14から突出する各ピストン16のヘッド(一端部)が、シュー36を介して摺接している。ピストン16のヘッドそれぞれに取り付けられたシュー36は、シュー36が貫挿される孔を有する円板状のリテーナ35によって保持されている。回転軸20とともにシリンダブロック14が回転すると、各ピストン16は、シュー36を介して摺接面30aを摺接しつつ、回転軸20周りに回転する。
【0028】
斜板30が回動中心X周りに回動して傾斜することにより、シリンダブロック14に収容された各ピストン16は、そのヘッド側の端部(図1の左端部)がシュー36を介して押接され、また、シリンダブロック14はリヤハウジング10cの内端壁面に止着されたバルブプレート40に押接される。
【0029】
そして、シリンダブロック14が回転軸20と一体的に回転されることにより、各ピストン16が斜板30の傾角により規定されたストロークを往復動されるとともに、シリンダボア14aがバルブプレート40に透設された円弧状をなす吸入ポート40aおよび吐出ポート40bと交互に連通される。これにより作動油が吸入ポート40aからシリンダボア14a内に吸入され、シリンダボア14a内の作動油はポンプ作用により吐出ポート40bから吐出される。なお、吸入通路10d及び吐出通路10eはリヤハウジング10cに形成され、それぞれ吸入ポート40aおよび吐出ポート40bと連通されている。
【0030】
ポンプ1は、さらに斜板30の前面側、すなわち、シリンダブロック14側に配置されたコントロールピストン50を備えている。コントロールピストン50は、ポンプハウジング10のセンタハウジング10bの側部に設けられており、クランク室12に連通するハウジング52と、ハウジング52内を往復動するピストン部58とを有する。ピストン部58が斜板30の被押圧部33に対向するように、ハウジング52は、回転軸20に対して傾いた方向に延在する略円筒状の形状を有している。
【0031】
ハウジング52の開口のうち、斜板30から遠い方の開口は、ネジ54によって塞がれている。これにより、ハウジング52内にはピストン収容室56が画成され、このピストン収容室56にピストン部58が収容されている。
【0032】
ピストン部58は、円柱状の外形を有している。ピストン部58の径は、ピストン収容室56の内壁面との間に隙間がないように、かつ、ピストン収容室56においてピストン部58が摺動できるように設計される。ピストン部58の斜板30側の端面は、平面状であり、斜板30の被押圧部33における円筒部材33bに接触する位置まで移動可能である。図1に示すように、押圧部であるピストン部58の斜板30側の端面は、斜板30の被押圧部33の円筒部材33bに接しており、所定の押圧力で円筒部材33bを常に押圧している。
【0033】
ピストン収容室56のうち、ピストン部58とネジ54との間の空間は、作動油が流入する制御室56aとして機能する。制御室56a内の圧力(以下、制御圧と称す)は、作動油の流入により変化する。コントロールピストン50は、この制御圧の変化によってピストン部58を摺動させ、斜板30をシリンダブロック14側から押圧する。これにより、コントロールピストン50は、斜板30の傾角を作動油の吐出容量が最大となる最大傾角と作動油の吐出容量が最小となる最小傾角との間で調整する。
【0034】
ポンプ1は、さらに斜板30の背面側に、一方向に延びる円筒螺旋状のバネ(コイルバネ)である斜板復帰バネ60を備えている。すなわち、斜板復帰バネ60は、斜板30の摺接面30aに対してコントロールピストン50と反対側に配置されている。具体的には、斜板復帰バネ60は、ポンプハウジング10のフロントハウジング10aに形成されたバネ室70内に、その基端部が収容されている。
【0035】
本実施形態において、バネ室70は回転軸20に対して平行に形成されており、斜板復帰バネ60はバネ室70から斜板30に向かって延びている。その結果、斜板復帰バネ60は、その軸線方向が回転軸20に対して平行となるように配置されている。斜板復帰バネ60の先端部は、上述した斜板30の被押圧部33の背面に当接し、かつ、背面に形成された突起部33c及び平面部33dと係合している。斜板復帰バネ60は、バネ室70及び斜板30と固定されておらず、バネ室70と被押圧部33との間に挟み込まれた状態でその位置及び姿勢が保持されている。
【0036】
換言すると、斜板復帰バネ60は、その座面(バネの端面)に関しては、基端部の座面60aがバネ室70の底壁と当接し、先端部の座面60bが斜板30の被押圧部33と当接する。これにより、斜板復帰バネ60は、圧縮され、斜板30を摺接面30aに対してシリンダブロック側に付勢する。なお、斜板復帰バネ60は、例えばSWP−B等の金属製の線材を加工して形成された線バネである。
【0037】
次に、図5図7を参照して、押圧部であるピストン部58の押圧力が被押圧部33に作用する位置である作用位置について詳細に説明する。ここで、ピストン部58の押圧力が被押圧部33に作用する位置とは、例えばピストン部58の斜板30側の端面が、斜板30の被押圧部33の円筒部材33bに接し、所定の押圧力で円筒部材33bを押圧する位置である。以下、ピストン部58の斜板30側の端面が、斜板30の被押圧部33の円筒部材33bに接し、所定の押圧力で円筒部材33bを押圧する位置を、ピストン部58の押圧力の作用位置と称す。
【0038】
まず、ピストン部58の押圧力の作用位置を示すための各基準(回動中心X、垂直基準線、及び平行基準線)について説明する。図5は、斜板30の摺接面30aと斜板30の回動中心Xとの位置関係を模式的に示す図である。なお、図5において、回動中心Xを点で示しているが、回動中心Xの線は奥行方向(紙面に垂直な方向)に延びている。
【0039】
図5に示されているように、「Max」で示した最大傾角のときの斜板30の摺接面30aから回動中心Xまでの距離dと、「Min」で示した最小傾角のときの斜板30の摺接面30aから回動中心Xまでの距離dとは一定である。すなわち、回動中心Xは、摺接面30aからの距離が斜板30の傾角によらずに一定である。また、断面において、最大傾角のときの斜板30の摺接面30aと最小傾角のときの斜板30の摺接面30aとに接する仮想円Eは、回動中心Xの任意の点を中心とした円として描かれる。すなわち、回動中心Xは、斜板30の傾角によらずに斜板30の摺接面30aと接する仮想円Eを断面とする円柱の軸線である。
【0040】
平行基準線Yは、ピストン部58の押圧力が作用する方向に対して平行であり、且つ、回動中心Xを通る直線である。この平行基準線Yと直交し、且つ、回動中心Xを通る直線を、垂直基準線Zと定義する。
【0041】
図6は、コントロールピストン50のピストン部58の押圧力の作用位置の変動を示す模式図である。図6でも、図5に示した平行基準線Y、垂直基準線Zおよび回動中心Xを示している。図6では、さらに、ピストン部58の押圧力を押圧力F、斜板30の傾角が最大傾角のときの押圧力Fの作用線を作用線S1、斜板30の傾角が最小傾角のときの作用線を作用線S2として示している。なお、押圧力Fが作用する向きは、平行基準線Yに平行な向きである。
【0042】
図6では、本実施形態に係るポンプ1におけるピストン部58の押圧力の作用位置の変動が、両矢印Aで示されている。両矢印Aは、斜板30の傾角が最大傾角のときの押圧力Fの位置(以下、第1の作用位置と称す)A1と、斜板30の傾角が最小傾角のときの押圧力Fの位置(以下、第2の作用位置と称す)A2との間において、押圧力Fの作用位置が変動することを示している。斜板30の最大傾角と最小傾角との間の角度差はθで示している。図6に示すように、押圧力Fの作用位置は、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2との間を、回動中心Xを中心とする仮想円の円弧に沿って移動する。なぜなら、押圧力Fが作用する円筒部材33bと、回動中心Xとの距離が、傾角によらず常に一定であるためである。
【0043】
図6の両矢印Aで示されているように、本実施形態に係るポンプ1においては、例えば平行基準線Yおよび垂直基準線Zに平行な平面に垂直な方向(紙面に垂直な方向)から見て、斜板30の傾角が最大傾角のときの第1の作用位置A1と、斜板30の傾角が最小傾角のときの第2の作用位置A2との間を、垂直基準線Zが通過している。すなわち、斜板30の傾角が最大傾角のときの第1の作用位置A1と斜板30の傾角が最小傾角のときの第2の作用位置A2とに垂直基準線Zが挟まれている。
【0044】
第1の作用位置A1、第2の作用位置A2および垂直基準線Zがこのような位置関係を有する場合には、図6に示すように、押圧力Fの作用位置は、両矢印Aの範囲においてほぼ真横に移動し、図6の上下方向(すなわち、垂直基準線Zの方向)に関する変位はほとんどない。そのため、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで移動し、それに伴い、押圧力Fの作用位置が第1の作用位置A1から第2の作用位置A2まで移動したときでも、押圧力Fの作用位置の垂直基準線Zの方向に関する変位(平行基準線Yに対する各作用線S1,S2の高さ位置の変化)は、ほとんどない。
【0045】
このように、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで移動する間で、押圧力Fの作用位置が垂直基準線Zの方向に関してほとんど変位しないので、斜板30の傾角が最大傾角のときにおける押圧力Fと回動中心Xとの距離(すなわち、押圧力Fの回動中心X周りのモーメントの腕の長さ)Laと、斜板30の傾角が最小傾角のときにおける押圧力Fと回動中心Xとの距離Laとは、ほとんど変化しない。つまり、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで移動しても、押圧力Fの回動中心X周りのモーメントの腕の長さがほとんど変化しないので、斜板30の傾角の変化に応じた押圧力Fの回動中心X周りのモーメントの変動量を抑制することができる。
【0046】
図7は、図6の場合に加え、本実施形態の比較例としてのピストン部58の押圧力Fの作用位置の変動を示す模式図である。図7では、図6同様、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2との間を垂直基準線Zが通過している場合が両矢印Aで示されていることに加え、垂直基準線Zが第1の作用位置と第2の作用位置との間を通過していない場合が、両矢印B及び両矢印Cで示されている。なお、両矢印B、Cのいずれの場合も、最大傾角と最小傾角との間の角度差θは、上述した両矢印Aの角度差θと同じである。
【0047】
両矢印Bは、第1の作用位置B1および第2の作用位置B2がいずれも垂直基準線Zよりも斜板復帰バネ60側に位置している場合の押圧力Fの作用位置の変動を示している。図7に示すように、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで変化し、それに伴い、押圧力Fの作用位置が第1の作用位置B1から第2の作用位置B2まで移動したときに、押圧力Fの作用位置は下方向に漸次移動していき垂直基準線Zの方向に関して大きく変位する。このため、両矢印Bの場合においては、斜板30の傾角が最大傾角のときの押圧力Fのモーメントの腕の長さLbよりも、斜板30の傾角が最小傾角のときの押圧力Fのモーメントの腕の長さLbの方が短くなる。
【0048】
このように、斜板30の傾角が小さくなるほど押圧力Fのモーメントの腕の長さが短くなっていくと、押圧力Fのモーメントが減少し、斜板30が回転しにくくなる。このため、ピストン部58の押圧力Fに対する斜板30の傾角の応答性が悪くなり(たとえば、応答速度が遅くなり)、斜板30の傾角が適切に制御されなくなる。
【0049】
両矢印Cは、第1の作用位置C1および第2の作用位置C2がいずれも垂直基準線Zよりもコントロールピストン50側に位置している場合の押圧力Fの作用位置の変動を示している。図7に示すように、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで変化し、それに伴い、押圧力Fの作用位置が第1の作用位置C1から第2の作用位置C2まで移動したときに、押圧力Fの作用位置は上方向に漸次移動していき垂直基準線Zの方向に関して大きく変位する。このため、両矢印Cの場合においては、斜板30の傾角が最大傾角のときの押圧力Fのモーメントの腕の長さLcよりも、斜板30の傾角が最小傾角のときの押圧力Fのモーメントの腕の長さLcの方が長くなる。
【0050】
このように、斜板30の傾角が小さくなるほど押圧力Fのモーメントの腕の長さが長くなっていくと、押圧力Fのモーメントが増加し、斜板30が回転しやすくなる。このため、ピストン部58の押圧力Fに対する斜板30の傾角の応答が過剰に敏感となり(たとえば、応答速度が過剰に速くなり)、やはり斜板30の傾角が適切に制御されなくなる。
【0051】
以上で説明した通り、本実施形態に係るポンプ1では、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2とが垂直基準線Zを挟むように位置しているので、コントロールピストン50のピストン部58の押圧力Fが被押圧部33の円筒部材33bに作用する位置が垂直基準線Z上または垂直基準線Zの近傍となる。よって、斜板30の傾角が最大傾角から最小傾角まで変位しても、押圧力Fのモーメントの腕の長さがほとんど変化しないので、斜板30の傾角の変位に応じた押圧力Fのモーメントの変動量を抑制することができる。その結果、斜板30の傾角の制御性を向上することができる。
【0052】
なお、垂直基準線Zが、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2との間を通過する位置関係、すなわち、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2とが垂直基準線Zを挟む位置関係には、垂直基準線Zが第1の作用位置A1または第2の作用位置A2と重なる位置関係を含む。
【0053】
また、第1の作用位置A1および第2の作用位置A2と垂直基準線Zとの位置関係は、より好ましくは、図8の両矢印Aで示されているように、第1の作用位置A1と、第2の作用位置A2とを結ぶ直線を二等分する点である中点Pを、垂直基準線Zが通過する。つまり、この場合、垂直基準線Zが、第1の作用位置A1と第2の作用位置A2とを結ぶ直線の垂直二等分線と一致する。
【0054】
このとき、斜板30の傾角が最大傾角のときのモーメントの腕の長さLaと、斜板30の傾角が最小傾角のときのモーメントの腕の長さLaとを等しくすることができる。つまり、モーメントの腕の長さが、斜板30の傾角が最大傾角又は最小傾角のいずれかの場合に過剰に大きくなってしまうことがない。よって、斜板30の傾角の変位に応じたモーメントの変動量を最も小さくすることができるので、斜板30の傾角の制御性をさらに向上することができる。
【0055】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0056】
斜板30は、上記実施形態におけるものに限られない。例えば、斜板30の代わりに、図9に示すような形状の斜板130を採用することもできる。
【0057】
斜板130は、斜板30の一対の摺動部32の代わりに、一対の回転軸部132を有する。上述した斜板30は、摺動部32と斜板受部材34との協働により回動中心X周りを揺動する態様であるが、斜板130は、回動中心Xに沿って延在する円柱状の一対の回転軸部132がクランク室12内で回転可能に保持されることで、回動中心X周りを揺動可能である。斜板130も、上述した斜板30の本体部31と同様の機能を有する円板状の本体部131を有する。本体部131は、その前面側に摺接面30aと同様の摺接面130aを有し、また、その上部に被押圧部33と同様の被押圧部133を有する。図8に示した斜板130は、上述した斜板30と同一または同等の機能を備える。その上、斜板130は、一対の回転軸部132を備えるため、上述の斜板受部材34が不要となり、ポンプ1の構成の簡素化を図ることができる。
【0058】
また、図10は、変形例に係る可変容量型ピストンポンプの要部を示した概略断面図である。図10には、変形例に係る可変容量型ピストンポンプにおけるコントロールピストン50の周辺が拡大して示されている。
【0059】
図10に示すように、変形例に係る可変容量型ピストンポンプでは、コントロールピストン50のピストン部58が、回転軸20に対して平行に配置されている。ポンプ1は、一般に、回転軸20の軸線を基準に設計される。そのため、コントロールピストン50のピストン部58を回転軸20に対して平行に配置することで、コントロールピストン50やポンプハウジング10(特に、コントロールピストン50が設けられるセンタハウジング10b)の設計が容易となる。
【0060】
また、上述した実施形態のようにコントロールピストン50が回転軸20に対して斜めに配置される場合には、センタハウジング10bを、フロントハウジング10aやリヤハウジング10cよりも寸法(径寸法)が拡大してしまう。コントロールピストン50のピストン部58を回転軸20に対して平行に配置した場合には、そのような寸法の拡大が抑制され、その結果、可変容量型ピストンポンプの小型化を実現することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…可変容量型ピストンポンプ、14…シリンダブロック、16…ピストン、20…回転軸、30、130…斜板、30a…摺接面、33、133…被押圧部、58…ピストン部(押圧部)、60…斜板復帰バネ、X…回動中心、Y…平行基準線、Z…垂直基準線、A1…第1の作用位置、A2…第2の作用位置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10