特許第6248849号(P6248849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248849自動車の車体傾斜検出装置、および車体傾斜検出方法、ならびに自動車の走行制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248849
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】自動車の車体傾斜検出装置、および車体傾斜検出方法、ならびに自動車の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/06 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   G01C9/06 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-148770(P2014-148770)
(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公開番号】特開2016-24080(P2016-24080A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 保
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−201661(JP,A)
【文献】 特開平08−233574(JP,A)
【文献】 特開平07−063555(JP,A)
【文献】 特開平06−185906(JP,A)
【文献】 特開2007−176419(JP,A)
【文献】 特開2009−303342(JP,A)
【文献】 特開昭51−031823(JP,A)
【文献】 特開平09−061161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 9/00− 9/36
B60G 1/00−99/00
B60L 1/00− 3/12
7/00−13/00
15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面に対する車体の傾斜角度を検出する自動車の車体傾斜検出装置であって、
複数のサスペンション部分のうちの少なくとも2箇所にそれぞれ取り付けられ、前記サスペンション部分における前記車体の路面に対する車高の変化を検出するための相互に噛合う歯車形状部を有する複数の変位センサと、
前記複数の変位センサからの信号に基づいて前記車体の傾斜角度を算出する演算装置と、
を備え
前記変位センサは、
車体側およびタイヤ側のうちの一方の側に回転自在に固定され、外周面に複数の歯部を有するディスクと、
車体側およびタイヤ側のうちの他方の側に固定され、前記複数の歯部と噛合う複数の歯部を直線部に有する部材と、
前記一方の側に固定され、前記ディスクの回転変位量を検出する変位検出手段と、
を備え、
前記演算装置は、前記変位検出手段からの信号に基づいて前記車体の傾斜角度を算出する、車体傾斜検出装置。
【請求項2】
請求項に記載の車体傾斜検出装置において、
前記ディスクには、当該ディスクの回転方向に延在するように円弧形状の貫通孔が設けられており、
前記変位検出手段は、前記ディスクの両側に対向して配置される発光素子と受光素子とを備える複数のフォトカプラであり、
前記演算装置は、前記発光素子から前記受光素子へ前記貫通孔を通過して光が到達することによりONしている前記フォトカプラの数から前記ディスクの回転変位量を特定する、車体傾斜検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複数の変位センサと、
請求項1または2に記載の演算装置の機能が組み込まれ、前記複数の変位センサは少なくとも車体の前側と後側とに1つずつ設けられており、前記複数の変位センサからの信号をもとに、登坂路走行の状態であるか降坂路走行の状態であるかを判別し、登坂路走行時には駆動輪の出力トルクを平坦路走行時の場合よりも大きくし、降坂路走行時には駆動輪の出力トルクを平坦路走行時の場合よりも小さくするように制御する制御装置と、
を備える、自動車の走行制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複数の変位センサと、
請求項1または2に記載の演算装置の機能が組み込まれ、前記複数の変位センサは少なくとも車体の前側と後側とに1つずつ設けられており、前記複数の変位センサからの信号をもとに降坂路走行の状態を判別し、且つ降坂路走行時、車体の傾斜角度が大きい程、より大きな回生制動トルクを与えるように制御する制御装置と、
を備える、自動車の走行制御装置。
【請求項5】
路面に対する車体の傾斜角度を検出する自動車の車体傾斜検出方法であって、
複数のサスペンション部分のうちの少なくとも2箇所における前記車体の路面に対する車高の変化を、相互に噛合う歯車形状部を有する請求項1または2に記載の複数の変位センサでそれぞれ検出し、
前記複数の変位センサからの信号に基づいて前記車体の傾斜角度を算出する、車体傾斜検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体傾斜検出装置、および車体傾斜検出方法、ならびに自動車の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体傾斜検出装置に関する技術として、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1に記載の自動車用傾斜検出装置は次のようなものである。前輪と後輪の各サスペンションのコイルばねの2点に磁気式による距離センサをそれぞれ装着し、コイルばねの長さLF,LRを一定時間間隔で定期的に計測する。そして、コイルばねの長さLF,LRに基づいて、車体11の前後方向の傾斜角度θを検知する。距離センサは、コイルばねの一部に設置された磁石と、コイルばねの伸縮に応じて磁石に対し離接するように配置されたホール素子とで構成される。
【0004】
この構成により、高価な超音波方式の距離センサを使用して車両の傾斜を検知する必要がない、と特許文献1に記載されている。なお、特許文献1に記載の自動車用傾斜検出装置は、自動車のヘッドランプの光軸調整を行うなどの目的のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−201661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の自動車用傾斜検出装置には次のような問題点がある。サスペンションのコイルばねは、その全ての箇所において均等に縮むとは限らない。コイルばねの各部における縮む量にはバラツキがあるからである。そのため、縮んだコイルばねのある一箇所で測定したホール素子と磁石との間の距離にコイルばねの巻き数を乗じたものが、そのときのコイルばねの全長を正確に示しているとは限らない。コイルばねの全長を正確に(精度良く)測定できていないのであれば、その測定結果から算出される車両の傾斜角度の精度は低い。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、自動車の車体の傾斜角度を従来よりも精度良く検出することができる車体傾斜検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、路面に対する車体の傾斜角度を検出する自動車の車体傾斜検出装置である。この車体傾斜検出装置は、複数のサスペンション部分のうちの少なくとも2箇所にそれぞれ取り付けられ、前記サスペンション部分における前記車体の路面に対する車高の変化を検出するための相互に噛合う歯車形状部を有する複数の変位センサと、前記複数の変位センサからの信号に基づいて前記車体の傾斜角度を算出する演算装置と、を備えている。
【0009】
なお、本発明を、路面に対する車体の傾斜角度を検出する自動車の車体傾斜検出方法と把握することもできる。当該車体傾斜検出方法は、複数のサスペンション部分のうちの少なくとも2箇所における前記車体の路面に対する車高の変化を、相互に噛合う歯車形状部を有する複数の変位センサでそれぞれ検出し、前記複数の変位センサからの信号に基づいて(検出した2箇所それぞれでの車高の変化量から)車体の傾斜角度を算出する、という車体傾斜検出方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、本発明の構成要件、特に、相互に噛合う歯車形状部を有する変位センサを採用することにより、当該変位センサの相互に噛合う歯車形状部における相対的な変位量に車高の変化がそのまま直接的に現れる。そのため、当該変位センサの測定結果から算出される車体の傾斜角度はその精度が従来よりも高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】自動車の概略の側面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る車体傾斜検出装置を示す図である。
図3図2に示す変位センサの動きを説明するための説明図である。
図4】変位センサを構成するディスクの変形例を示す図である。
図5】車体の傾斜角度と回生制動トルクとの関係を示すトルクマップ図である。
図6】路面の傾斜方向に応じたアクセル開度と出力トルクとの関係を示すトルクマップ図である。
図7】自動車の積載量に応じた車速と出力トルクとの関係を示すトルクマップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1に示すように、自動車100の前輪(前側のタイヤ2)および後輪(後側のタイヤ2)は、車体1(車両)に取り付けられたサスペンション(懸架装置、サスペンション部分3,4を参照)で支持されている。サスペンション(懸架装置)は、コイルばね5、ショックアブソーバー6(油圧ダンパー)、および図示を省略する骨組(アーム、ロッド、リンクなどと呼ばれる)で構成される。
【0014】
(車体傾斜検出装置の構成)
図2(a)は、本発明の一実施形態に係る車体傾斜検出装置を示す側面図である。図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。車体傾斜検出装置は、複数のサスペンション部分3,4のうちの少なくとも2箇所にそれぞれ取り付けられる変位センサ7と、ECU8(電子制御ユニット)とで構成される。複数の変位センサ7(具体的には、変位センサ7を構成するフォトカプラ10)からの信号に基づいて車体1の傾斜角度を算出する演算装置の機能がECU8に組み込まれている。なお、車体1の傾斜角度を算出するというECU8が有する一つに機能に着目すれば、ECU8のことを、演算装置と言ってもよい。
【0015】
変位センサ7は、例えば、車体1の前側のサスペンション部分3に1つ、後側のサスペンション部分4に1つ取り付けられる。この場合、車体1の左右方向のうちのいずれか片側のみ前後にそれぞれ1つずつ変位センサ7を取り付けてもよいし、車体1の対角線方向のサスペンション部分3,4にそれぞれ1つずつ変位センサ7を取り付けてもよい。なお、車体1の前後左右のサスペンション部分(四輪の場合、計4つのサスペンション部分がある)全てに変位センサ7を取り付けてもよい。また、車体1の前側のサスペンション部分3の左右両側にそれぞれ1つずつ変位センサ7を取り付けてもよい。
【0016】
<変位センサ>
変位センサ7は、サスペンション部分3,4における車体1の路面に対する車高の変化を検出するための相互に噛合う歯車形状部(歯部9aおよび歯部14a)を有するセンサである。この変位センサ7は、ディスク9(円板)と、直線形状部材14と、複数のフォトカプラ10とを有する。
【0017】
ディスク9の外周面には、その全周にわたって複数の歯部9a(歯車形状部)が設けられている。歯部9aの具体的な形状を図には示していないが、ディスク9は、例えるとすると歯車(ピニオンギヤ)のような形状となっている。また、ディスク9には、その回転方向に延在するように円弧形状の貫通孔9bがあけられている。貫通孔9bとして180度の円弧形状の貫通孔を例示しているが、180度の円弧形状の貫通孔でなくてもよい。
【0018】
ディスク9は、サスペンション部分3,4のうちのタイヤ2側(タイヤ2と一体的に動く部分)に、回転軸13を介して回転自在(回転自由)に固定される。例えば、ショックアブソーバー6のタイヤ2側の部品に回転軸13を介して回転自在(回転自由)にディスク9は固定される。なお、ショックアブソーバー6の車体1側(車体1と一体的に動く部分)の部品、または車体1の底面など車体側に、ディスク9を回転自在(回転自由)に固定してもよい。
【0019】
ディスク9の回転方向に沿って並ぶ多数のフォトカプラ10は、ディスク9の回転変位量を検出する変位検出手段である。フォトカプラ10は、ディスク9の両側に対向して配置される発光素子11と受光素子12とを有する。これらフォトカプラ10は、ディスク9と同様、例えば、ショックアブソーバー6のタイヤ2側の部品に固定される。なお、ディスク9は回転するが、フォトカプラ10は、固定されたタイヤ2側の部品に対して固定されたまま動かない。ここで、ディスク9が回転してその円弧形状の貫通孔9bがフォトカプラ10部分に到達したとき、発光素子11からの光が貫通孔9bを通過して受光素子12に到達するように、発光素子11および受光素子12の固定位置は決定される。
【0020】
ディスク9と同様、ショックアブソーバー6の車体1側の部品、または車体1の底面など車体側に、フォトカプラ10を固定してもよい。ディスク9が固定される側と、フォトカプラ10が固定される側とは同じである。
【0021】
車体1の底面に固定された直線形状部材14は、ディスク9の外周面に形成された複数の歯部9a(歯車形状部)と噛合う複数の歯部14a(歯車形状部)を有する部材である。直線形状部材14は、車体1の底面に対して直角方向に延びるように車体1の底面に固定されている。直線形状部材14の側面には、その上端から下端まで複数の歯部14a(歯車形状部)が設けられている。歯部14aの具体的な形状を図には示していないが、直線形状部材14は、例えるとするとラックのような形状となっている。なお、ディスク9の複数の歯部9a(歯車形状部)と噛合う複数の歯部14a(歯車形状部)を側面の直線部に有する部材であればよく、図2に示したような全体が直線形状をした直線形状部材14である必要はない。
【0022】
また、図2には、車体1の底面に直線形状部材14を取り付けているが、ショックアブソーバー6の車体1側の部品(例えばシリンダ)の外周面に、ディスク9の複数の歯部9a(歯車形状部)と噛合う複数の歯部14a(歯車形状部)を直線部に有する部材を取り付けてもよい。
【0023】
また、タイヤ2側に直線形状部材14を取り付けてもよい。この場合、例えば、ショックアブソーバー6のタイヤ2側の部品(例えばピストン)の外周面に、ディスク9の複数の歯部9a(歯車形状部)と噛合う複数の歯部14a(歯車形状部)を直線部に有する部材を取り付ける。
【0024】
すなわち、車体1側およびタイヤ2側のうちの、ディスク9およびフォトカプラ10を取り付ける側とは反対側に、図2に示すような直線形状部材14を取り付けたり、直線形状部材14のようなディスク9の複数の歯部9a(歯車形状部)と噛合う複数の歯部14a(歯車形状部)を側面の直線部に有する部材をショックアブソーバー6を構成する部品(シリンダまたはピストン)の外周面に取り付けたりする。
【0025】
(車体の傾斜検出)
車体1の前側のサスペンション部分3、および車体1の後側のサスペンション部分4にそれぞれ1つずつ変位センサ7が取り付けられているとして、車体1の傾斜検出について説明する。
【0026】
まず、図3を参照しつつ、各サスペンション部分における車体1の路面に対する車高の変化の検出について説明する。ここでの説明は、例として、車体1の後側のサスペンション部分4における車高の変化の検出としているが、車体1の前側のサスペンション部分3における車高の変化の検出についても、以下に記載する方法と全く同じである。
【0027】
自動車100が停止していたり、平坦路を走行していたりする場合の変位センサ7の状態の一例を図3中の左に示している。このとき、ディスク9の回転方向に沿って並ぶ多数のフォトカプラ10のほとんどが、発光素子11から受光素子12への方向でディスク9を見たときに円弧形状の貫通孔9bから見える状態にあるので、発光素子11から受光素子12へ貫通孔9bを通過して光が到達し、これによりほとんどのフォトカプラ10がONした状態となっている。
【0028】
ここで、図3中の右に示したように、車体1の後側が高さHrだけ沈み込んだとする。このとき、直線形状部材14はHrの距離だけ下に下がる。直線形状部材14とディスク9とは、歯部14aと歯部9aとで相互に噛合っているので、直線形状部材14が下に下がることで、ディスク9は図3中の右に示したように、直線形状部材14がHr下に下がった分だけ回転する。
【0029】
このとき、複数のフォトカプラ10のうちの一部の発光素子11から受光素子12への光は、ディスク9の貫通孔9bが無い部分で遮られる。これにより、ONしているフォトカプラ10の数が変化する。一方、ECU8には、ONしているフフォトカプラ10の数がいくつであれば、ディスク9の回転変位量がどれだけであり、そのため車体1がどれだけの距離沈み込んでいるか(下がっているか)のデータが予め入力されている。すなわち、ECU8は、発光素子11から受光素子12へ貫通孔9bを通過して光が到達することによりONしているフォトカプラ10の数でディスク9の回転変位量を特定し、特定したディスク9の回転変位量から車体1の沈み込み距離(Hr)を特定するようにデータ構成されている。
【0030】
なお、自動車100が停止していたり、平坦路を走行していたりしているときのONしているフォトカプラ10の数を基準値として、ONしているフォトカプラ10の数が基準値からいくつ変化したのかから、車体1の沈み込み距離(Hr)を特定するようにECU8での計算が構成されていてもよい。
【0031】
車体1の沈み込み距離(Hr)(車高の変化量)の測定精度は、ディスク9の回転方向における隣り合うフォトカプラ10の間隔に依存する。小さなフォトカプラ10を採用して隣り合うフォトカプラ10の間隔を狭くすれば、その分、測定精度は向上する。
【0032】
車体1の後側のサスペンション部分4における車高の沈み込み距離をHrとしたのに対し、もう1つの変位センサ7からの信号に基づいて算出された車体1の前側のサスペンション部分3における車高の沈み込み距離をHfとする。また、車体1の前側のサスペンション部分3における測定位置と、車体1の後側のサスペンション部分4における測定位置との間の距離をL(≒ホイールベース)とする。このとき、車体1の前後方向の傾斜角度θは、次の式(1)によって表され、ECU8にて算出される。
θ=tan-1((Hf−Hr)/L) ・・・・・式(1)
【0033】
(ディスクの変形例)
図4は、図2に示したディスク9の変形例を示す図である。ディスク9では、その回転方向に延在する形態で1つの円弧形状の貫通孔9bがディスク9にあけられている。これに対して図4に示すディスク21では、その回転方向に並ぶ形態で且つ一定の間隔をあけて複数の円形の貫通孔21bがディスク9にあけられている。その全周にわたって複数の歯部21a(歯車形状部)が設けられている点、その中心に回転軸13が設けられる点などは、ディスク21とディスク9とで同じである。
【0034】
図2に示したディスク9では、ディスク9の両側に対向して発光素子11と受光素子12とを複数、配置する(フォトカプラ10を複数配置する)が、本変形例では、ディスク21の両側に対向して1組の発光素子11と受光素子12とを配置する(フォトカプラ10を1つ配置する)。ディスク9の場合と同様、ディスク21は回転するが、フォトカプラ10は固定されたまま動かない。
【0035】
車体1の車高が変化することでディスク21が回転すると、発光素子11から受光素子12への光は、貫通孔21b部分では通過し、隣り合う貫通孔21bの間部分では遮られる。これにより、フォトカプラ10はONとOFFとを繰り返す。自動車100が停止していたり、平坦路を走行していたりしているときを基準として、その状態からフォトカプラ10が何回ON、OFFしたかでディスク21の回転変位量をECU8は特定する。特定したディスク21の回転変位量から車体1の車高の変化量をECU8は特定する。
【0036】
また、車高が変化したときにフォトカプラ10が何回ON、OFFしたかECU8は記憶しているので、その状態からさらに車高の変化があったときは、その状態からのフォトカプラ10のON・OFFの回数で、ECU8は、ディスク21の回転変位量を特定する。
【0037】
車体1の車高の変化量の測定精度は、ディスク21の回転方向における隣り合う貫通孔21bの間隔および貫通孔21bの径に依存する。小さなフォトカプラ10を採用して、隣り合う貫通孔21bの間隔および貫通孔21bの径を小さくすれば、その分、測定精度は向上する。
【0038】
(車体の傾斜角度に基づく回生制御)
図5は、車体1の傾斜角度と回生制動トルクとの関係を示すトルクマップ図である。ECU8(制御装置)は、複数の変位センサ7(具体的にはフォトカプラ10)からの信号に基づいて、自動車100が平坦路走行の状態であるか登坂路走行の状態であるか降坂路走行の状態であるかを車体1の路面に対する傾斜角度から判別する。
【0039】
複数の変位センサ7からの信号に基づいてECU8にて算出された車体1の路面に対する傾斜角度が所定の傾斜角度よりも小さいときは、自動車100が平坦路走行の状態であるとECU8は判別する。より具体的には、自動車100が停止しているときの車体1の路面に対する傾斜角度をECU8は記憶しており、この状態を基準として、車体1の路面に対する傾斜角度が所定の傾斜角度よりも小さいときは、自動車100が平坦路走行の状態であるとECU8は判別する。自動車100に荷物などを積んでいる場合は、ECU8はその状態を基準として路面状態を判別する。
【0040】
自動車100が登坂路走行の状態であるとき、自動車100の重心は後ろに移動する。これにより、車体1の前側のサスペンション部分3は伸び、後側のサスペンション部分4は縮む。その結果、車体1は後ろのめりに傾く(車体1の後部が前部よりも下がった状態となる)。車体1が後ろのめりに傾く(車体1の後部が前部よりも下がった状態となる)ことで、自動車100が登坂路走行の状態であるとECU8は判別する。
【0041】
自動車100が降坂路走行の状態であるとき、自動車100の重心は前に移動する。これにより、車体1の前側のサスペンション部分3は縮み、後側のサスペンション部分4は伸びる。その結果、車体1は前のめりに傾く(車体1の前部が後部よりも下がった状態となる)。また、自動車100が降坂路走行の状態であるときに運転者がブレーキをかけても車体1は前のめりに傾く(車体1の前部が後部よりも下がった状態となる)。車体1が前のめりに傾く(車体1の前部が後部よりも下がった状態となる)ことで、自動車100が降坂路走行の状態であるとECU8は判別する。
【0042】
ここで、図5にトルクマップを示したように、自動車100が降坂路走行時、車体1の傾斜角度(車体1の前側が下がった時のその傾斜角度)が大きい程、より大きな回生制動トルクを車輪に与えるようにECU8は発電機を制御する。
【0043】
自動車100の重心が前にあるほど、車体1は前のめりに傾く。すなわち、車体1の前側が下がった時のその傾斜角度が大きいほど、傾斜がおおきな降坂路を自動車100が走行しているということである(車体1の傾斜角度と、路面の傾斜角度とのこの関係に関しては、自動車100が登坂路を走行しているときも同様のことが言える)。そのため、自動車100が降坂路走行時、車体1の傾斜角度(車体1の前側が下がった時のその傾斜角度)が大きい程、より大きな回生制動トルクを車輪に与えるようにECU8が制御することで、降坂路の傾斜による自動車100の加速を抑えることができる。降坂路の傾斜が大きい程、回生制動トルクによるブレーキが強くかかるので、降坂路の傾斜の程度に応じて、自動車100の速度の出過ぎを抑えることができる。
【0044】
(車体の傾斜角度に基づく出力トルク制御)
図6は、路面の傾斜方向に応じたアクセル開度と出力トルクとの関係を示すトルクマップ図である。
【0045】
図6にトルクマップを示したように、同じアクセル開度であっても、自動車100が登坂路走行時には駆動輪の出力トルクを平坦路走行時の場合よりも大きくし、降坂路走行時には駆動輪の出力トルクを平坦路走行時の場合よりも小さくするようにECU8は駆動系を制御する。ECU8によるこの制御によると、路面の傾斜の向きによる自動車100の速度変化が抑えられるので、登坂、降坂の変化が激しい山道などで走行する際などにおいて、運転者は、自動車100の速度を大きく変化させることなく自動車100を走行させることができる。登坂路走行時には小さなアクセル開度で自動車100を前方に進めることができ、降坂路走行時には自動車100の速度の出過ぎを抑えることができる。
【0046】
(自動車の積載量に基づく出力トルク制御)
図7は、自動車の積載量に応じた車速と出力トルクとの関係を示すトルクマップ図である。
【0047】
図5、6を参照しつつ説明した制御は、いずれも、異なるサスペンション部分3,4に取り付けられた少なくとも2つの変位センサ7からの信号に基づいて車体1の傾斜角度を検出し、検出された車体1の傾斜角度に基づいて制御を行うというものである。すなわち、図5、6を参照しつつ説明した制御においては、車体1の傾斜角度を検出する必要があるので、変位センサ7は少なくとも2つ必要である。これに対して、以下に記載する、図7を参照しつつ説明する制御では、車体1の傾斜角度を検出する必要は必ずしもなく、車高の変化量を変位センサ7で検出すれば、その検出結果に基づいて制御を行うことができる。
【0048】
すなわち、少なくとも1つの変位センサ7と、ECU8とで、自動車100の車高変化検出装置を構成すると把握することができる。ECU8は、変位センサ7からの信号に基づいて路面に対する車体1の車高を算出する演算装置と把握することもできるし、当該演算装置の機能が組み込まれてなる自動車の制御装置として把握することもできる。
【0049】
変位センサ7からの車高信号をもとに、ECU8は、自動車100の車高の変化を検出し、検出した車高の変化(車高の変化量、または変化後の車高)から、そのときの自動車100の積載量を算出する。そして図7にトルクマップを示したように、自動車100が最大積載量の荷を積んでいるときは、50%積載時の場合よりも出力トルクを大きくし、空荷のときは、50%積載時の場合よりも出力トルクを小さくするようにECU8は駆動系を制御する。また、ECU8は、車速が小さいときほど出力トルクを大きく変化させている。
【0050】
自動車100の積載量が、空荷と50%積載との間にあるときは、空荷および50%積載のうちのいずれかに近い側にあるときの出力トルク制御となる。なお、図7に示したトルクマップでは、積載量を3段階に分けて、3段階の出力トルク制御としているが、積載量を4段階以上に分けて、4段階以上の出力トルク制御としてもよい。すなわち、自動車100の積載量が多い(積載している荷の総荷重が大きい)ほど、空荷の場合よりも出力トルクが大きくなるようにECU8は駆動系を制御する。
【0051】
ECU8によるこの制御によると、トルクの出し過ぎによる荷物の移動・破壊を防ぐことができる。また、荷物の積載前と積載後とで運転感覚の変化が少なくなるので自動車100を運転しやすい。なお、自動車の後部に荷物が載せられる車種では、後輪側のサスペンション部分4に取り付けた変位センサ7からの車高信号をもとに、自動車100の積載量を算出することが好ましいが、前輪側のサスペンション部分3も積荷により縮むので、前輪側のサスペンション部分3に取り付けた変位センサ7からの車高信号をもとに、自動車100の積載量を算出してもよい。
【0052】
(作用・効果)
本発明の車体傾斜検出装置は、例えば変位センサ7のように、相互に噛合う歯車形状部(9a,14a)を有する変位センサ7を有しており、異なるサスペンション部分に取り付けられた少なくとも2つの変位センサ7からの信号に基づいて車体1の傾斜角度を算出する。相互に噛合う歯車形状部(9a,14a)を有する変位センサ7を用いることにより、当該変位センサ7の相互に噛合う歯車形状部(9a,14a)における相対的な変位量に車高の変化がそのまま直接的に現れる。そのため、当該変位センサ7の測定結果から算出される車体の傾斜角度はその精度が従来よりも高いものとなる。
【0053】
ここで、本実施形態では、変位センサ7は、車体1側およびタイヤ2側のうちの一方の側に回転自在に固定され、外周面に複数の歯部9aを有するディスク9と、車体1側およびタイヤ2側のうちの他方の側に固定され、ディスク9の複数の歯部9aと噛合う複数の歯部14aを直線部に有する直線形状部材14と、前記一方の側に固定され、ディスク9の回転変位量を検出する変位検出手段(例えばフォトカプラ10)とを備えている。
【0054】
この構成によると、相互に噛合う歯車形状部(9a,14a)を有する変位センサを簡易な構造とすることができる。
【0055】
ここで、ディスク9には、当該ディスク9の回転方向に延在するように円弧形状の貫通孔9bが設けられており、変位検出手段は、ディスク9の両側に対向して配置される発光素子11と受光素子12とを備える複数のフォトカプラ10である。演算装置(ECU8)は、発光素子11から受光素子12へ貫通孔9bを通過して光が到達することによりONしているフォトカプラ10の数からディスク9の回転変位量を特定するように制御構成されている。
【0056】
このディスク9によると、そのときにONしているフフォトカプラ10の数のみから車体1の車高の変化量を検出することができる。これに対して、図4に示した変形例に係るディスク21では、自動車100が停止していたり、平坦路を走行していたりしているときを基準として、その状態からフォトカプラ10が何回ON、OFFしたかを特定する必要がある。そのため、もし仮に、その基準データが消えてしまったら、基準データを復活させないとディスク21では車高の変化量を検出することができなくなる。ディスク9を用いた車高の変化量の検出では、このような心配がないため、車体1の車高の変化量の検出が安定する。
【符号の説明】
【0057】
1:車体
2:タイヤ
3:サスペンション部分(前輪側)
4:サスペンション部分(後輪側)
5:コイルばね
6:ショックアブソーバー
7:変位センサ
8:ECU(演算装置の機能が組み込まれた電子制御ユニット)
9:ディスク
9a:歯部(歯車形状部)
9b:円弧形状の貫通孔
10:フォトカプラ(変位検出手段)
11:発光素子
12:受光素子
13:回転軸
14:直線形状部材(複数の歯部を直線部に有する部材)
14a:歯部(歯車形状部)
100:自動車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7