特許第6248851号(P6248851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6248851流体試料測定装置及び流体試料測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248851
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】流体試料測定装置及び流体試料測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20171211BHJP
【FI】
   G01N21/65
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-151542(P2014-151542)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-29343(P2016-29343A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠堀 貴秀
(72)【発明者】
【氏名】寺本 晃
(72)【発明者】
【氏名】田窪 健二
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−163368(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0030800(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/031896(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00、01
03−15
17−74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 内部を流体試料が流通する筒状部と、
b) 前記筒状部の側壁面に設けられ、該筒状部の内部と外部の圧力差に応じた負荷がかかる領域の厚さが7.8mm〜25mmである石英ガラスからなる窓部材と、
c) 励起光が照射される前記筒状部の内部の点であって、前記窓部から6mm〜45mm離れた測定点において流体試料から前記励起光の光路の上流側に向かう測定光を、前記窓部を通じて受光し検出器の受光面上に集光する受光光学系と、
d) 前記集光された光を検出する検出器と、
を備えることを特徴とする流体試料測定装置。
【請求項2】
前記負荷がかかる領域の面積が1.6cm2〜13.5cm2であることを特徴とする請求項1に記載の流体試料測定装置。
【請求項3】
前記流体試料が気体であり、その圧力が大気圧以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体試料測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の流体試料測定装置と、
励起光が照射された流体試料からの光を波長分離して検出することにより得られた測定データを処理する装置であって、
d) 前記流体試料に含まれることが想定される1乃至複数の含有物質と、前記励起光の光路上あるいは前記測定光の光路上に存在することが想定される1乃至複数の妨害物質のそれぞれについて、該物質から発せられる波長ごとの光の強度に関する参照データが保存された記憶部と、
e) 前記含有物質及び前記妨害物質の参照データに対してそれぞれ異なる係数を乗じて加算することにより近似データを作成する近似データ生成部と、
f) 前記近似データが前記測定データを再現するように前記係数を決定する係数決定部と、
を備える流体試料測定データ処理装置
を有する流体試料測定システム。
【請求項5】
前記含有物質に関する参照データが、該物質の定量値と対応付けられており、
d) 前記係数決定部が決定した係数のうち、前記含有物質に関する係数から該含有物質の定量値を求める定量値算出部
を備えることを特徴とする請求項4に記載の流体試料測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体試料に励起光を照射し、該流体試料からの測定光を検出する流体試料測定装置、及び該測定装置により得られたデータを処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体試料や液体試料といった流体試料に含まれる成分の特定や定量のために用いられる装置の一つにラマン分光測定装置がある。特許文献1には、高炉ガス(BFG: Blast Furnace Gas)等の低圧ガスからのラマン散乱光を測定するラマン分光測定装置が記載されている。
【0003】
図1に、従来用いられているラマン分光測定装置の構成の一例を示す。
このラマン分光測定装置は、励起光を発するレーザ光源13、レーザ光源13から発せられた励起光を配管12の側壁面に設けられた窓部15の方向に反射するミラー14、配管12の側壁面に配置された励起光除去部材16、配管12の内部の測定点Mにおける試料からのラマン散乱光のうち窓部15から出射した光を受光する受光光学系17、及び該受光光学系17により受光された光を検出する検出器18を備えている。受光光学系17は、第1集光レンズ17a及び第2集光レンズ17bから構成されている。測定点Mは第1集光レンズ17aの焦点に位置しており、該第1集光レンズ17aは、窓部15から出射した測定点Mからの光を受光して平行光に変換する。検出器18の受光面は第2集光レンズ17bの焦点に位置しており、該第2集光レンズ17bは第1集光レンズ17aによって平行光に変換された測定点Mからの光を検出器18の受光面に集光する。
【0004】
上記装置では、窓部15を通して励起光を被測定ガスに照射するため、窓部15からも蛍光やラマン散乱光などの妨害光が発せられ、その一部は測定点Mからのラマン散乱光とともに受光光学系17に向かう。ラマン散乱光は本来的に微弱な光であるため、被測定ガスからのラマン散乱光の強度に比べて窓部15からの妨害光の強度が大きくなると、被測定ガスの成分や濃度を正確に分析することができなくなってしまう。
【0005】
特許文献1には、窓部15と受光光学系17の間の空間に、窓部15において励起光が照射される位置から第1集光レンズ17aに向かう光路を遮蔽する大きさの遮蔽部材19を配置することが提案されている。この構成では窓部15からの妨害光が遮蔽部材19によって遮断されるため、妨害光が検出されるのを防ぐことができる(図2(a)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/031316号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】メレスグリオ株式会社, "基礎光学", [online], [平成26年6月18日検索], インターネット<URL:http://www.cvimgkk.com/products/pdf/01-guide/cvimgkk-guide1_all.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構成では、測定点Mから第1集光レンズ17aに向かうラマン散乱光の一部も遮蔽部材19によって遮断される。そのため、検出されるラマン散乱光の強度が低下してしまう。特に、測定点Mと窓部15の距離が短いと、遮蔽部材19によってラマン散乱光の大半が遮断され、検出強度が大幅に低下する(図2(b)参照)。その結果、ノイズを低減した効果よりも被測定ガスからのラマン散乱光が遮断された影響の方が大きくなり、遮蔽部材19を配置したことにより、却ってS/N比が悪くなってしまう場合がある。
【0009】
また、特許文献1のラマン分光測定装置は、一般に0.1MPa〜0.2MPa程度であるBFGを測定する装置であり、高圧ガスを測定することを想定していないため、窓部等に耐圧性がない。そのため、例えば高圧で輸送される天然ガス等を高圧のままで測定することができない。高圧ガスを測定するためには、高圧ガスの一部をサンプリングして減圧処理を施さなければならず、測定の応答性が悪いという問題もあった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、励起光が照射された該流体試料からの散乱光や発光を測定することにより得られるデータのS/N比を向上することができる、流体試料測定装置及び流体試料測定データ処理装置を提供することである。また、高圧ガスを測定するために好適に用いることができる流体測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る流体試料測定装置は、
a) 内部を流体試料が流通する筒状部と、
b) 前記筒状部の側壁面に設けられ、該筒状部の内部と外部の圧力差に応じた負荷がかかる領域の厚さが7.8mm〜25mmである石英ガラスからなる窓部材と、
c) 励起光が照射される前記筒状部の内部の点であって、前記窓部から6mm〜45mm離れた測定点において流体試料から前記励起光の光路の上流側に向かう測定光を、前記窓部を通じて受光し検出器の受光面上に集光する受光光学系と、
d) 前記集光された光を検出する検出器と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
上記の、流体試料から励起光の光路の上流側に向かう測定光は、例えば流体試料からの後方ラマン散乱光と呼ばれる光である。
本発明に係る流体試料測定装置は、後述するように、本発明者が、測定光の検出強度を大きくしつつ、窓部からの散乱光の強度を測定光の強度よりも小さくする方法を検討した結果に基づく構成を有しており、S/N比が高い測定データを得ることができる。また、後述するように、本発明に係る流体試料測定装置はJIS規格に定められた圧力容器の要件を満たすように構成されているため、高圧ガスを減圧処理することなく高圧のままで測定することができる。
【0013】
また、本発明に係る流体試料測定データ処理装置は、励起光が照射された流体試料からの光を波長分離して検出することにより得られた測定データを処理する装置であって、
a) 前記流体試料に含まれることが想定される1乃至複数の含有物質と、前記励起光の光路上あるいは前記測定光の光路上に存在することが想定される1乃至複数の妨害物質のそれぞれについて、該物質から発せられる波長ごとの光の強度に関する参照データが保存された記憶部と、
b) 前記含有物質及び前記妨害物質の参照データに対してそれぞれ異なる係数を乗じて加算することにより近似データを作成する近似データ生成部と、
c) 前記近似データが前記測定データを再現するように前記係数を決定する係数決定部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る流体試料測定データ処理装置では、測定により得られたデータが1乃至複数の物質に関するデータに分離される。従って、ノイズ成分が除去された、S/N比が高い被測定試料のデータを抽出することができる。
【0015】
また、本発明に係る流体試料測定データ処理装置は、前記含有物質に関する参照データが、該物質の定量値と対応付けられており、
d) 前記係数決定部が決定した係数のうち、前記含有物質に関する係数から該含有物質の定量値を求める定量値算出部
を備えることが望ましい。これにより、測定により得られたデータを含有物質と妨害物質のデータに分離すると同時に流体試料中の含有物質を定量することができる。
【0016】
以下、本発明に係る流体試料測定装置について詳しく説明する。
図1に示した従来のラマン分光測定装置において、測定点Mを窓部に近づけ、第1集光レンズの開口数を大きくすると、第1集光レンズの焦点に位置する測定点Mからのラマン散乱光をより多く受光光学系に導入することができ、信号強度を高めることができる。しかし、測定点Mが窓部に近すぎると、窓部で発生した散乱光のうち受光光学系を通して検出器の受光面に到達する光量が増加し、窓部から検出器に到達する散乱光の強度が大きくなり、S/N比が悪化する。
そこで、本発明者は、流体試料からの測定光を多く取り込みつつ、窓部から検出器に取り込まれる散乱光の量を抑える方法を検討した。
【0017】
図3は、ラマン分光測定装置の測定点Mから検出面上の集光点Dまでの光路を拡大したものである。図1と同様に、受光光学系17は、2枚の集光レンズ17a、17bで構成されている。このように2枚のレンズを組み合わせた光学系は1枚の合成レンズ17cに近似することができる(非特許文献1)。
【0018】
ここでは、説明を簡単にするために、2枚の集光レンズ17a、17bを同じレンズとする。両集光レンズのレンズ焦点距離をf、両集光レンズの間隔をLとすると、合成レンズ17cの焦点距離fsは、次の公式で表される。
【数1】
【0019】
また、一方の集光レンズ17aから合成レンズ17cの第1主点までの距離(=他方の集光レンズ17bから合成レンズ17cの第2主点までの距離)zは次の公式で表される。
【数2】
【0020】
上式(2)の両辺にfを加えると
【数3】
となることから、これと上式(1)より
【数4】
となる。
【0021】
また、図3と上式(4)から
【数5】
であり、ここで、集光レンズ17a、17bのF値(F)と、合成レンズ17cのF値(Fs)が
【数6】
であることから、
【数7】
となる。
【0022】
次に、単レンズの受光光学系において、測定点Mから距離Dn離れて位置する窓部から受光光学系に導入され検出面に到達する光について、図4を参照して説明する。ここでは、測定点Mが位置する物面から合成レンズ17cの第1主点までの距離をs、合成レンズ17cの第2主点から像面(検出面)までの距離をtとする。また、窓部から合成レンズ17cの第1主点までの距離をsn、合成レンズ17cの第2主点と窓部からの光が合成レンズ17cによって結像する位置までの距離をtnとする。
【0023】
測定点Mが位置する物面から窓部までの距離(シフト量)を
【数8】
とし、像面(検出面)から窓部の光が結像する位置までの距離(シフト量)を
【数9】
とする。レンズの公式から
【数10】
であるため、
【数11】
となる。
【0024】
このとき、窓部からの光が像面(検出面)において形成する像の径は
【数12】
である。また、合成レンズ17cの実効F値(Feは、合成レンズ17cの倍率を用いて
【数13】
で表され、倍率
【数14】
であることから、像の径δは
【数15】
となる。式(15)に式(9), (11)を代入すると
【数16】
となり、さらに式(8)を代入すると
【数17】
が得られる。
【0025】
式(17)に上述した合成レンズ17cによる受光光学系を適用すると、
【数18】
となる。ここで、s=t=2fsであることから、
【数19】
が得られる。
【0026】
また、窓部からの光のうち、受光部の径がdの検出面で検出される光の割合(収率φ)は、
【数20】
となる。
【0027】
以下、流体試料測定装置における標準的な光学系のパラメータ(f=75mm、F=1.5、L=25mm、d=1mm)を用いて収率φを求める。上式(1), (7)にこれらの値を代入するとfs=45mm、Fs=0.75が得られる。また、これらを上式(19)に代入すると、
【数21】
が得られ、上式(20)から
【数22】
となる。
【0028】
続いて、流体試料からの測定光に対する窓部から発生する散乱光の強度の割合を考慮する。被測定ガスの圧力を5Mpaと想定して、典型的な材料である石英ガラスからなる窓部からのラマン散乱光の強度に対する、被測定ガスからのラマン散乱光の強度の比を求める。ガス分子密度と石英分子密度はそれぞれ、
【数23】
【数24】
であり、これらの比は
【数25】
となる。ラマン散乱光の強度は分子密度に比例することから、窓部からのラマン散乱光の強度に対する、被測定ガスからのラマン散乱光の強度の比も0.061となる。窓部からのラマン散乱光の強度を被測定ガスからのラマン散乱光の強度以下に抑えれば被測定ガスからのラマン散乱光を検出して得たデータを解析することが可能であるため、φが0.061以下となるようにDnを設定する。即ち、以下の条件を満たすようにDnを設定する。
【数26】
上式(26)から、本発明に係る流体試料測定装置における、測定点から窓部までの距離Dnの下限値は6mmとなる。
【0029】
次に、高圧ガス等の測定に好適に用いるための構成について説明する。上述したJIS規格には窓材の肉厚Tが次式を満たすことが規定されている。
【数27】
上式(27)において、Pは設計圧力(MPa)、Aは圧力を受ける部分(窓部)の面積(cm2)である。また、σaは窓材の許容曲げ応力であり、窓材として広くに用いられる石英ガラスのσaは6.5N/mm2である。
【0030】
図5に、高圧ガス容器の要件を満たす流体試料測定装置の窓部近傍の構成例を示す。図1及び図2では記載を省略したが、窓部15は、通常、Oリング15aを介して配管12の側壁面に取り付けられる。以下の説明では、測定点Mから窓部15の内側の面までの距離をK(上述のDnに相当)、窓部15の厚さをT、窓部15の内側の面において測定点Mから受光光学系に向かう光が通る領域の径をd、窓部15において内側からの圧力を受ける面の内径をd'とする。内径d'はOリング15aの径と同じである。また、一般的に使用されるOリング15aの太さ、及び該Oリング収容部の配置等を考慮してd'=d+10mmとする。また、以下の計算において、レンズのF値は上記同様にF=1.5(従って、NA=1/2F=0.33)とする。ただし、高圧ガス容器として十分な安全性を担保する必要があることを考慮して設計圧力は上述の計算で用いた5MPaよりも高い10MPaとする。
【0031】
まず、上述したDnの下限値6mmの場合について説明する。この場合には、NA=0.33からd=4.2mmが得られ、d'=14.2mmとなる。また、面積A=(d')2=1.6cm2であることから、上式(27)よりT≧7.8mmとなる。
また、測定点Mから窓部までの距離K(=Dn)、窓部の厚さT、及びレンズの焦点距離f(=75mm)にはK+T<fの条件がある。さらに、励起光を窓部の方向に反射させるための部材などを配置するために少なくとも5mmは必要である、即ちK+T≦70mmを満たす必要があることを考慮して、上式(27)からK, Tの上限値を求めると、K(=Dn)の上限値は45mm、Tの上限値は25mmとなる。このとき、面積Aは13.5 cm2となる。
本発明に係る流体試料測定装置は、以上の検討結果から得られた。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る流体試料測定装置や流体試料測定データ処理装置を用いると、励起光が照射された該流体試料からの散乱光や発光を波長分離し測定することにより得られるデータのS/N比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】一般的なラマン分光測定装置の構成について説明する図。
図2】ラマン分光測定装置に遮蔽部材を配置した場合に受光光学系に導入されるラマン散乱光の光量を説明する図。
図3】ラマン分光測定装置の受光光学系の拡大図。
図4】2枚の集光レンズを近似した1枚の合成レンズについて説明する図。
図5】本発明に係る流体試料測定装置の一例における窓部付近の拡大図。
図6】本発明に係る流体試料測定装置の一例の要部構成図。
図7】本発明に係る流体試料測定データ処理装置の一実施例であるラマン分光測定データ処理装置の要部構成図。
図8】本実施例における測定データであるラマンスペクトル。
図9】本実施例のラマン分光測定データ処理装置による成分分離後のラマンスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明に係る流体試料測定装置及び流体試料測定データ処理装置の実施例である、ラマン分光測定装置及びラマン分光測定データ処理装置について説明する。
【0035】
本実施例のラマン分光測定装置10は、図5及び図6を用いて上述した流体試料測定装置と同様の構成を有している。即ち、本実施例のラマン分光測定装置10は、励起光を発するレーザ光源13、レーザ光源13から発せられた励起光を配管12の側壁面に設けられた窓部15の方向に反射するミラー14、配管12の側壁面に配置された励起光除去部材16、配管12の内部の測定点Mにおける試料からのラマン散乱光のうち窓部15から出射した光を受光する受光光学系17、及び該受光光学系17により受光された光を検出する検出器18を備えている。窓部15は石英ガラスであり、Oリング15aを介して配管12の側壁面に取り付けられ、フランジ15bにより固定されている。
【0036】
受光光学系17は、第1集光レンズ17a及び第2集光レンズ17bから構成されている。第1集光レンズ17aと第2集光レンズ17bは同一の集光レンズであり、その焦点距離fは75mm、F値は1.5である。測定点Mは第1集光レンズ17aの焦点に位置しており、該第1集光レンズ17aは、窓部15から出射した測定点Mからの光を受光して平行光に変換する。検出器18の受光面は第2集光レンズ17bの焦点に位置しており、該第2集光レンズ17bは第1集光レンズ17aによって平行光に変換された測定点Mからの光を検出器18の受光面に集光する。
【0037】
本実施例のラマン分光測定装置は、上式(1)〜(27)に基づいて窓部15の大きさ、及び測定点Mから窓部15までの距離Kが設定されている点に特徴を有する。これらの値の関係を表1に示す。
【表1】
【0038】
ここで、dは窓部15の表面のうち配管12内部に露出している部分の径、d'(=d+10mm)は窓部15を配管12に固定するために用いられるOリングの径、A(=d2×π×1/4)は配管の内外の圧力差に応じた負荷がかかる領域の面積、Tは窓部15の厚さである。また、ZはK+Tであり、合成レンズ17cの焦点距離fsとの間にfs>Zの関係がある。なお、表1の値は、標準的なラマン分光測定装置の構成(f=75mm、F=1.5、L=25mm、d=1mm)において、標準的な測定系(被測定ガスの圧力5MPa、分析装置の設計圧力10MPa)を想定した値であり、ラマン分光測定装置の構成や測定系に応じて適宜に値は異なる。装置の構成や測定系が異なる場合には、上式(1)〜(27)に基づいて窓部15の大きさ(配管の内外の圧力差に応じた負荷がかかる領域の面積Aと厚さT)、及び測定点Mから窓部15までの距離Kを求めることができる。
【0039】
次に、本実施例のラマン分光測定データ処理装置40について、図7を参照して説明する。このラマン分光測定データ処理装置40は、ラマン分光測定装置10に接続されており、該装置10により得られた測定データを処理する。ラマン分光測定データ処理装置40は、記憶部41のほか、機能ブロックとして測定実行部42、近似データ生成部43、係数決定部44、及び定量値算出部45を備えている。ラマン分光測定データ処理装置40の実体は汎用のコンピュータであり、機能ブロック43〜45(破線で囲んだ部分)は、該コンピュータのCPUによって測定データ処理プログラム46を実行することにより具現化される。また、ラマン分光測定データ処理装置40には、液晶ディスプレイ等からなる表示部50と、入力操作を行うための入力部60が接続されている。
【0040】
記憶部41には、被測定ガスに含まることが想定される物質(本発明における含有物質に相当)である、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、酸素(O2)、窒素(N2)、メタン(CH4)、エチレン(C2H4)、エタン(C2H6)、プロピレン(C3H6)、プロパン(C3H8)等のラマン散乱光強度が保存されている。これらの物質のラマン散乱光強度は、当該成分の濃度が単位濃度αであるときの強度である。また、記憶部41には、窓部15の材料である石英、及び窓部15のコーティング材等(本発明における妨害物質に相当)のラマン散乱光強度も保存されている。
【0041】
使用者が入力部60により所要の操作を行って測定開始を指示すると、測定実行部42は、ラマン分光測定装置10の各部を動作させて被測定ガスからのラマン散乱光を測定する。測定が完了すると、測定実行部42は、得られたデータを記憶部41に保存するとともに、ラマンスペクトルを生成して表示部50に表示する(図8参照)。
【0042】
続いて、近似データ生成部43が、記憶部41に保存されている、各物質のラマン散乱光の強度データを読み出し、各物質の強度データに異なる係数Xn(nは含有物質あるいは妨害物質を特定する記号)を乗じて加算して近似データを生成する。各成分のラマン散乱光強度は、それぞれの成分に特徴的な波長で大きな強度を有する。従って、例えば、測定により得られたラマンスペクトルにおいてピークが位置する波長と各成分のラマン散乱光強度データにおいてピークが位置する波長とを照合しつつ、近似データを生成することができる。
【0043】
近似データが生成されると、係数決定部44は、測定データと近似データを比較し、近似データが測定データを再現するまで、近似データ生成部43に繰り返し係数Xnを変更させて近似データを生成させる。そして、測定データの差が予め決められた値以下となる近似データを決定し、各物質にの係数Xnを決定する。また、物質毎に、該物質のラマン散乱光強度データに決定した係数を乗じて得られるラマンスペクトル(即ち、測定により得られたラマンスペクトルを各成分のラマンスペクトルに成分分離したもの)を生成して表示部50に表示する(図9参照)。さらに、定量値算出部45は、各物質について、係数決定部44により決定された係数Xnと、記憶部41に保存されているラマン散乱光強度データを照合して各物質の濃度α×Xnを決定する。
【0044】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例では、気体試料からのラマン散乱光を測定するために用いる装置について説明したが、液体試料からの蛍光を測定する場合にも用いることもできる。
【符号の説明】
【0045】
10…ラマン分光測定装置
12…配管
13…レーザ光源
14…ミラー
15…窓部
16…励起光除去部材
17…受光光学系
17a…第1集光レンズ
17b…第2集光レンズ
17c…合成レンズ
18…検出器
40…ラマン分光測定データ処理装置
41…記憶部
42…測定実行部
43…近似データ生成部
44…係数決定部
45…定量値算出部
50…表示部
60…入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9