【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る流体試料測定装置は、
a) 内部を流体試料が流通する筒状部と、
b) 前記筒状部の側壁面に設けられ、該筒状部の内部と外部の圧力差に応じた負荷がかかる領域の厚さが7.8mm〜25mmである石英ガラスからなる窓部材と、
c) 励起光が照射される前記筒状部の内部の点であって、前記窓部から6mm〜45mm離れた測定点において流体試料から前記励起光の光路の上流側に向かう測定光を、前記窓部を通じて受光し検出器の受光面上に集光する受光光学系と、
d) 前記集光された光を検出する検出器と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
上記の、流体試料から励起光の光路の上流側に向かう測定光は、例えば流体試料からの後方ラマン散乱光と呼ばれる光である。
本発明に係る流体試料測定装置は、後述するように、本発明者が、測定光の検出強度を大きくしつつ、窓部からの散乱光の強度を測定光の強度よりも小さくする方法を検討した結果に基づく構成を有しており、S/N比が高い測定データを得ることができる。また、後述するように、本発明に係る流体試料測定装置はJIS規格に定められた圧力容器の要件を満たすように構成されているため、高圧ガスを減圧処理することなく高圧のままで測定することができる。
【0013】
また、本発明に係る流体試料測定データ処理装置は、励起光が照射された流体試料からの光を波長分離して検出することにより得られた測定データを処理する装置であって、
a) 前記流体試料に含まれることが想定される1乃至複数の含有物質と、前記励起光の光路上あるいは前記測定光の光路上に存在することが想定される1乃至複数の妨害物質のそれぞれについて、該物質から発せられる波長ごとの光の強度に関する参照データが保存された記憶部と、
b) 前記含有物質及び前記妨害物質の参照データに対してそれぞれ異なる係数を乗じて加算することにより近似データを作成する近似データ生成部と、
c) 前記近似データが前記測定データを再現するように前記係数を決定する係数決定部と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る流体試料測定データ処理装置では、測定により得られたデータが1乃至複数の物質に関するデータに分離される。従って、ノイズ成分が除去された、S/N比が高い被測定試料のデータを抽出することができる。
【0015】
また、本発明に係る流体試料測定データ処理装置は、前記含有物質に関する参照データが、該物質の定量値と対応付けられており、
d) 前記係数決定部が決定した係数のうち、前記含有物質に関する係数から該含有物質の定量値を求める定量値算出部
を備えることが望ましい。これにより、測定により得られたデータを含有物質と妨害物質のデータに分離すると同時に流体試料中の含有物質を定量することができる。
【0016】
以下、本発明に係る流体試料測定装置について詳しく説明する。
図1に示した従来のラマン分光測定装置において、測定点Mを窓部に近づけ、第1集光レンズの開口数を大きくすると、第1集光レンズの焦点に位置する測定点Mからのラマン散乱光をより多く受光光学系に導入することができ、信号強度を高めることができる。しかし、測定点Mが窓部に近すぎると、窓部で発生した散乱光のうち受光光学系を通して検出器の受光面に到達する光量が増加し、窓部から検出器に到達する散乱光の強度が大きくなり、S/N比が悪化する。
そこで、本発明者は、流体試料からの測定光を多く取り込みつつ、窓部から検出器に取り込まれる散乱光の量を抑える方法を検討した。
【0017】
図3は、ラマン分光測定装置の測定点Mから検出面上の集光点Dまでの光路を拡大したものである。
図1と同様に、受光光学系17は、2枚の集光レンズ17a、17bで構成されている。このように2枚のレンズを組み合わせた光学系は1枚の合成レンズ17cに近似することができる(非特許文献1)。
【0018】
ここでは、説明を簡単にするために、2枚の集光レンズ17a、17bを同じレンズとする。両集光レンズのレンズ焦点距離をf、両集光レンズの間隔をLとすると、合成レンズ17cの焦点距離f
sは、次の公式で表される。
【数1】
【0019】
また、一方の集光レンズ17aから合成レンズ17cの第1主点までの距離(=他方の集光レンズ17bから合成レンズ17cの第2主点までの距離)zは次の公式で表される。
【数2】
【0020】
上式(2)の両辺にfを加えると
【数3】
となることから、これと上式(1)より
【数4】
となる。
【0021】
また、
図3と上式(4)から
【数5】
であり、ここで、集光レンズ17a、17bのF値(F)と、合成レンズ17cのF値(F
s)が
【数6】
であることから、
【数7】
となる。
【0022】
次に、単レンズの受光光学系において、測定点Mから距離D
n離れて位置する窓部から受光光学系に導入され検出面に到達する光について、
図4を参照して説明する。ここでは、測定点Mが位置する物面から合成レンズ17cの第1主点までの距離をs、合成レンズ17cの第2主点から像面(検出面)までの距離をtとする。また、窓部から合成レンズ17cの第1主点までの距離をs
n、合成レンズ17cの第2主点と窓部からの光が合成レンズ17cによって結像する位置までの距離をt
nとする。
【0023】
測定点Mが位置する物面から窓部までの距離(シフト量)を
【数8】
とし、像面(検出面)から窓部の光が結像する位置までの距離(シフト量)を
【数9】
とする。レンズの公式から
【数10】
であるため、
【数11】
となる。
【0024】
このとき、窓部からの光が像面(検出面)において形成する像の径は
【数12】
である。また、合成レンズ17cの実効F値
(Fe)は、合成レンズ17cの倍率
Gを用いて
【数13】
で表され、倍率
Gが
【数14】
であることから、像の径δは
【数15】
となる。式(15)に式(9), (11)を代入すると
【数16】
となり、さらに式(8)を代入すると
【数17】
が得られる。
【0025】
式(17)に上述した合成レンズ17cによる受光光学系を適用すると、
【数18】
となる。ここで、s=t=2f
sであることから、
【数19】
が得られる。
【0026】
また、窓部からの光のうち、受光部の径がdの検出面で検出される光の割合(収率
φ)は、
【数20】
となる。
【0027】
以下、流体試料測定装置における標準的な光学系のパラメータ(f=75mm、F=1.5、L=25mm、d=1mm)を用いて収率
φを求める。上式(1), (7)にこれらの値を代入するとf
s=45mm、
Fs=0.75が得られる。また、これらを上式(19)に代入すると、
【数21】
が得られ、上式(20)から
【数22】
となる。
【0028】
続いて、流体試料からの測定光に対する窓部から発生する散乱光の強度の割合を考慮する。
被測定ガスの圧力を5Mpaと想定して、典型的な材料である石英ガラスからなる窓部からのラマン散乱光の強度に対する、被測定ガスからのラマン散乱光の強度の比を求める。ガス分子密度と石英分子密度はそれぞれ、
【数23】
【数24】
であり、これらの比は
【数25】
となる。ラマン散乱光の強度は分子密度に比例することから、窓部からのラマン散乱光の強度に対する、被測定ガスからのラマン散乱光の強度の比も0.061となる。窓部からのラマン散乱光の強度を被測定ガスからのラマン散乱光の強度以下に抑えれば被測定ガスからのラマン散乱光を検出して得たデータを解析することが可能であるため、
φが0.061以下となるようにDnを設定する。即ち、以下の条件を満たすようにDnを設定する。
【数26】
上式(26)から、本発明に係る流体試料測定装置における、測定点から窓部までの距離Dnの下限値は6mmとなる。
【0029】
次に、高圧ガス等の測定に好適に用いるための構成について説明する。上述したJIS規格には窓材の肉厚Tが次式を満たすことが規定されている。
【数27】
上式(27)において、Pは設計圧力(MPa)、Aは圧力を受ける部分(窓部)の面積(cm
2)である。また、σ
aは窓材の許容曲げ応力であり、窓材として広くに用いられる石英ガラスのσ
aは6.5N/mm
2である。
【0030】
図5に、高圧ガス容器の要件を満たす流体試料測定装置の窓部近傍の構成例を示す。
図1及び
図2では記載を省略したが、窓部15は、通常、Oリング15aを介して配管12の側壁面に取り付けられる。以下の説明では、測定点Mから窓部15の内側の面までの距離をK(上述のD
nに相当)、窓部15の厚さをT、窓部15の内側の面において測定点Mから受光光学系に向かう光が通る領域の径をd、窓部15において内側からの圧力を受ける面の内径をd'とする。内径d'はOリング15aの径と同じである。また、一般的に使用されるOリング15aの太さ、及び該Oリング収容部の配置等を考慮してd'=d+10mmとする。また、以下の計算において、レンズのF値は上記同様にF=1.5(従って、NA=1/2F=0.33)とする。ただし、高圧ガス容器として十分な安全性を担保する必要があることを考慮して設計圧力は上述の計算で用いた5MPaよりも高い10MPaとする。
【0031】
まず、上述したD
nの下限値6mmの場合について説明する。この場合には、NA=0.33からd=4.2mmが得られ、d'=14.2mmとなる。また、面積A=(d')
2=1.6cm
2であることから、上式(27)よりT≧7.8mmとなる。
また、測定点Mから窓部までの距離K(=D
n)、窓部の厚さT、及びレンズの焦点距離f(=75mm)にはK+T<fの条件がある。さらに、励起光を窓部の方向に反射させるための部材などを配置するために少なくとも5mmは必要である、即ちK+T≦70mmを満たす必要があることを考慮して、上式(27)からK, Tの上限値を求めると、K(=D
n)の上限値は45mm、Tの上限値は25mmとなる。このとき、面積Aは13.5 cm
2となる。
本発明に係る流体試料測定装置は、以上の検討結果から得られた。