特許第6248870号(P6248870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248870
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20171211BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 19/52 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20171211BHJP
   D21H 23/56 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   B41M5/52 110
   D21H19/38
   D21H19/52
   D21H27/00 Z
   D21H19/58
   D21H23/56
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-177601(P2014-177601)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-49744(P2016-49744A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2016年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅野 晋一
(72)【発明者】
【氏名】清水 陵
(72)【発明者】
【氏名】南茂 進
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 和夫
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−058492(JP,A)
【文献】 特開2007−313905(JP,A)
【文献】 特開2011−207094(JP,A)
【文献】 特開2007−015253(JP,A)
【文献】 特開平07−144466(JP,A)
【文献】 特開2006−076828(JP,A)
【文献】 特開2004−268525(JP,A)
【文献】 特表2010−511543(JP,A)
【文献】 特開2011−028200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
D21H 19/00 − 19/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙の少なくとも一方の面に、顔料、バインダーおよびインクジェット用インク定着剤を含有する塗工層を片面あたり1g/m以上8g/以下塗被したインクジェット印刷用塗工紙において、該塗工層に顔料として、顔料100質量部に対し針状軽質炭酸カルシウムが40質量部以上80質量部以下、該針状軽質炭酸カルシウム以外の吸油度80ml/100g以上の吸油性顔料が20質量部以上60質量部以下含まれ、且つカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有し、前記塗工層のバインダーの一部としてTg点が10℃以上60℃以下のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有することを特徴とするインクジェット印刷用塗工紙。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースナトリウムの1%溶解液(温度25℃)のB型粘度が50mPa・s以上500mPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷用塗工紙。
【請求項3】
基紙の少なくとも片面に、顔料、バインダー、インクジェット定着剤、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有し、該顔料が針状軽質炭酸カルシウムと該針状軽質炭酸カルシウム以外の吸油度80ml/100g以上である吸油性顔料であり、前記バインダーの一部としてTg点が10℃以上60℃以下のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有する塗工液をサイズプレスで塗工することを特徴とするインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項4】
前記サイズプレスがゲートロールコーターもしくはシムサイザーコーターであることを特徴とする請求項記載のインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項5】
前記塗工液のB型粘度(温度25℃)が500mPa・s以上4000mPa・s以下であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用塗工紙に関し、詳しくは高速・連続印刷するインクジェット商業印刷機の印刷適性を有するインクジェット印刷用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いて印刷するインクジェット印刷の用途は、フォトプリント、端末PC用プリンター、ファックスまたは複写機に留まらず、多品種小ロット印刷、可変情報印刷を可能とする、いわゆるオンデマンド印刷分野でも実用化が進んでいる。近年、印刷速度および画質の向上が図られるようになり、印刷ロットあたりの印刷部数が5000部以下となるオフセット印刷にも広がりを見せている。このほか、従来グラビア印刷で印刷されていた領域についても、インクジェット商業印刷の適応が検討されている。
【0003】
インクジェット方式は、各種の方法により射出させたインクの微小液滴を、紙などの用紙に付着させて画像や文字を形成させる方式である。この方式は、高速化、フルカラー化が容易である上、出力時の騒音が低く、装置が低価格であるため、多方面で利用されている。特に、インクジェット商業印刷においては、高速、連続印刷を行なう必要があるため、インクジェットインクを射出するインクジェットヘッドにラインヘッド方式が採用され、広がっている。
【0004】
末端PC用プリンター等において用いられることが多いシリアル型ヘッドは、用紙の搬送を止め印刷を行なう必要があるため、用紙を連続的に搬送することができない。これに対し、ライン型ヘッドは、用紙を連続的に搬送させながら印刷を行えるため、輪転方式のインクジェット商業印刷に適している。最近のインクジェット商業印刷市場では、60m/min以上、更に高速では200m/minを超えるインクジェット商業印刷機が登場している。
【0005】
このインクジェット商業印刷機は、インクジェットヘッドからインク液滴を用紙表面に射出し、画像を形成させた後、乾燥装置により印刷物を乾燥させる。この乾燥装置としては、いろいろな種類の乾燥方式が採用されているが、UVランプ、ハロゲンランプ、LEDランプ、熱風乾燥装置の他、表面を熱した搬送ロール(ヒートロール)に用紙を搬送させ乾燥させるものがある。乾燥の際の温度は、印刷スピード、印刷されるインク量によって最適な温度に調整される。
【0006】
このように高速化が進むインクジェット印刷機用の印刷用塗工紙としては、高いインク吸収性が求められるが、このインク吸収性が不十分であるとすると、印刷面に吸収ムラや、異なる色の境界線ににじみが発生し、印刷品質の低下が発生する。また、用紙表面へのインクの定着が進まず、印刷直後に印刷面を擦るとインクの脱落が発生したりもする。
【0007】
また、無版印刷方式でもあるインクジェット印刷機は、可変情報を取り扱えるため、顧客情報を取り扱うドキュメントプロセッシングサービス(DPS)やダイレクトメール(DM)に広く広がっている。この用途では、可変情報の他、インク打ち込み量が多くなる写真画像や図柄の印刷も実施される。また、得られる印刷物に高い宣伝効果を求められるため、印刷会社では、より高い印刷効果が得られる印刷用塗工紙への印刷を要望している。しかしながら、現状の印刷用塗工紙は、非塗工の印刷用紙よりもインクジェットインクの吸収性が劣るため、印刷会社では、高い印刷効果は得られない非塗工タイプの印刷用紙を用いてインクジェット印刷を行ったり、高い印刷効果を重視し印刷用塗工紙を選択し、インク打ち込み量の多い写真や図柄をオフセット印刷機で印刷した後、可変情報のみをインクジェット印刷機で印刷する、所謂、コンポジット印刷を行なったり、インクジェット印刷機で生産性を落として、超低速印刷を行ったりして、使いこなしているのが現状である。
【0008】
従来のフォトプリント用、端末PC用プリンター向けのインクジェット専用用紙では、多孔質顔料を用いたインク受容層を採用しているため、高いインク吸収性を有している。しかし、多孔質顔料を用いたために印刷部の光沢性等の印刷効果が低く所謂マット調となっていた。多孔質顔料を塗布した後に、クロムメッキ加工をした金属ロールに密着させる所謂キャスト加工した光沢インクジェット記録専用紙や、原紙表面にポリエチレン樹脂を塗工した上に、多孔質顔料を塗布して光沢性を発現させた所謂RCベースの光沢インクジェット記録専用紙等があるが、どちらも加工費用が高く、現状の生産性をおとしながら使用されている印刷用塗工紙の代替品とならない。
【0009】
これまで、インクジェット印刷適性を有する印刷用塗工紙としては、様々な研究がなされている。例えば、特許文献1では、オフセット印刷用紙であって、高速・連続印刷するインクジェット印刷適性を併せ持つ印刷用塗工紙において、支持体に隣接する塗工層の接着剤の質量比率とスムースター透気度の範囲を規定している。この発明では、インクジェット適性のインク吸収性は向上し、主に文字情報である可変情報のインクジェット印刷機での印刷は可能となるものの、インク打ち込み量が多い写真画像や図柄の印刷が可能となるようなインク吸収性レベルを満足できるには至らない。
【0010】
特許文献2では、原紙の少なくとも一方の面に顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、その塗工層に塩化カルシウムすることを提案しているが、印刷部のムラや定着性は改善傾向にあるものの、インク吸収性が十分でないため、使用に耐えるレベルとならないと考えられる。
【0011】
特許文献3では、表層の塗工層と基材(原紙)に炭酸カルシウム以外のカルシウム化合物を含有することならびにカルシウム化合物の含有量を規定している。しかし、印刷部ムラおよびインク定着性の向上傾向は認められるもののインクジェット商業印刷に求められるインク吸収性レベルとならないため、結果として使用に耐える印刷物が得られない。
【0012】
特許文献4では、顔料とバインダーを主成分とする塗工層を設けた印刷用塗工紙において、原紙にカルシウム化合物を含有し、そのカルシウム化合物の含有量を規定している。しかし、インクジェット印刷時の印刷部ムラおよびインク定着性の向上傾向は認められるもののインクジェット商業印刷に求められるインク吸収性レベルとならないため、結果として使用に耐える印刷物が得られない。
【0013】
特許文献5では、塗工層に用いる顔料種として炭酸カルシウムを規定し、その比率、および最適米坪量および表面電気抵抗値範囲を規定することにより、オフセット印刷、電子写真印刷、インクジェット印刷、いずれの印刷方式でも良好な印刷物が得られるとしている。しかし、高速インクジェット商業印刷において、高いインク吸収性が求める写真画像印刷において、十分とならない。
【0014】
特許文献6では、インクジェット記録方式及び電子写真記録方式共用の用紙において、カルボン酸の含有させることを規定しているが、印字ムラやニジミを改善するものの、インク吸収性が十分なレベルでないと考える。
【0015】
特許文献7では、平均2次粒子径を規定した凝集軽質炭酸カルシウムを含有させ、その最適添加量を規定したものであるが、高速印刷対応する以前の端末PC用プリンターでのインク吸収性レベルは満たすものの、ラインヘッドを搭載されたインクジェット商業印刷機に求められるインク吸収性レベルには不十分である。
【0016】
特許文献8では、主に各種シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、アルミナシリケート、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、ゼオライト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント等の一般の塗工分野で公知公用の各種顔料の単独系あるいは数種類の混合系で使用している、その粘度調整剤としてセルロース誘導体、高分子多糖類から選ばれた少なくとも1種類を粘度アップのために用いているが、サイズプレス塗工に絞った場合効果が不十分でロール塗工特有のロール上で発生するリング状の塗料ムラ(所謂リングパターン)が発生し、良好な塗工面が得られない。
【0017】
特許文献9では、シリカ、クレー、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、リトポン、アルミナ、ゼオライト等の白色系無機顔料を1種類以上用いている。しかし、サイズプレス(ロールコーター)での塗工適性とインクジェット適性を両立するには特性の異なる顔料種の特定、その部数の規定が必要でありこの部分の考慮がないなかどちらの特性も不十分である。また、上記の白色系無機顔料の結合剤として用いる水溶性高分子の一例としてカルボキシルメチルセルロースが挙げられるが、この薬品を用いて得られる塗料粘度調整効果についての記載はない。また適切な塗工適性改善効果が得られるカルボキシルメチルセルロースナトリウムを特定できておらず十分な効果が得られない。
【0018】
特許文献10では、少なくとも芳香族ビニル系単量体及び共役ジエン系単量体を含む2種類以上の単量体を、アルコール性水酸基を含む水溶性高分子の存在下で共重合して得られる水性エマルジョンと顔料を含有した塗工液にて塗工紙を製造する方法を記載している。このような水溶性エマルジョンと顔料を含有した塗工液では、トランスファーロールコーターのロール上で発生するリング状の塗料ムラ(所謂リングパターン)が発生し、良好な塗工面が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2011−246838号公報
【特許文献2】特開2012−77395号公報
【特許文献3】特開2012−77393号公報
【特許文献4】特開2012−77392号公報
【特許文献5】特開2008−297679号公報
【特許文献6】特開2005−8993号公報
【特許文献7】特開2005−8992号公報
【特許文献8】特開2007−15253号公報
【特許文献9】特開平成8−104057号公報
【特許文献10】特開2005−290579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、高速・連続印刷するインクジェット商業印刷機の印刷適性を有するインクジェット印刷用塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者等は、従来からのオフセット印刷で用いられている印刷用塗工紙並みの表面性と印刷効果を持ち、インク吸収性、インク定着性といったインクジェット印刷適性に優れる顔料塗工紙を提供すべく、顔料塗工層の組成について研究を重ねた。その結果、基紙上の少なくとも一方の面に、顔料、バインダーおよびインクジェット用インク定着剤を含有する塗工層をサイズプレスして片面あたり1g/m以上8g/m以下塗被したインクジェット印刷用塗工紙であり、該塗工層の顔料として、針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料の含有比率にを特定の範囲に規定し、且つカルボキシメチルセルロールナトリウムが含有されることが重要な技術要素であることを見出した。
【0022】
本発明は、以下の発明を含む。
(1)基紙の少なくとも一方の面に、顔料、バインダーおよびインクジェット用インク定着剤を含有する塗工層を片面あたり1g/m以上8g/以下塗被したインクジェット印刷用塗工紙において、該塗工層に顔料として、顔料100質量部に対し針状軽質炭酸カルシウムが40質量部以上80質量部以下、該針状軽質炭酸カルシウム以外に、吸油度80ml/100g以上の吸油性顔料が20質量部以上60質量部以下含まれ、且つカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有し、前記塗工層のバインダーの一部としてTg点が10℃以上60℃以下のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有するインクジェット印刷用塗工紙。
(2)カルボキシメチルセルロースナトリウムの1%溶解液(温度25℃)のB型粘度が50mPa・s以上500mPa・s以下である(1)記載のインクジェット印刷用塗工紙。
)基紙上の少なくとも片面に、顔料、バインダー、インクジェット定着剤、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含有し、該顔料が針状軽質炭酸カルシウムと該針状軽質炭酸カルシウム以外の吸油度80ml/100g以上である吸油性顔料であり、前記バインダーの一部としてTg点が10℃以上60℃以下のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含む塗工液をサイズプレスで塗工するインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
)前記サイズプレスがゲートロールコーターもしくはシムサイザーコーターである()記載のインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
(5)前記塗工液のB型粘度(温度25℃)が500mPa・s以上4000mPa・s以下であることを特徴とする(3)又は(4)に記載のインクジェット印刷用塗工紙の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のインクジェット印刷用塗工紙は、オフセット印刷用塗工紙に匹敵する表面光沢を有し、インクジェット商業印刷機でのインク吸収性やインク定着性といったインクジェット印刷適性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[塗工層]
本発明のインクジェット印刷用塗工紙は、基紙上の少なくとも一方の面に、顔料、バインダー及びインクジェット用インク定着剤を含有する塗工層をサイズプレスにて片面あたり1g/m以上8g/m以下塗被したインクジェット印刷用塗工紙であって、該塗工層の顔料として、針状軽質炭酸カルシウムが40質量部以上80質量部、針状軽質炭酸カルシウム以外の吸油性顔料が20質量部以上60質量部以下含まれ、且つカルボキシメチルセルロールナトリウムが含有することを特徴とする。
【0025】
インクジェット塗工紙として、インクの吸収性、白紙および印字部分の光沢性、インクの発色性などにおいて良好な品質を得るためには、インク定着剤の使用の他、顔料として針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料が必要となるが、インク定着剤とこれらの顔料を併用すると塗料の高粘度化、保水性の低下が発生し、良好な塗工面が得られず、結果としてインクジェット適性も低下する。この保水性を良化するために塗料濃度を下げると、今度は必要な塗工量が得られず結果として、良好な塗工面やインク吸収性が得られず目的のインクジェット塗工紙が得られない。この状況を改善するために、インク定着剤や針状軽質炭酸カルシウム、吸油性顔料とともに、カルボキシメチルセルロースナトリウムを使用すると、塗料濃度を低くすることなく良好な保水性確保を行え、結果として、良好な塗工面とインク吸収性の両立できたインクジェット塗工紙が得られる。
【0026】
[顔料]
(軽質炭酸カルシウム)
本発明では、塗工層で顔料として、針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料を含有し、針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料の比率が40質量部:60質量部から20質量部:80質量部で使用する。
軽質炭酸カルシウムの形状は、針状、立方状、紡錘状、柱状等があるが、本発明で求める効果であるインクジェットインクの吸収性や発色性、定着性に優れ、且つ表面の白紙光沢にも優れる品質を得るためには、針状の軽質炭酸カルシウムがよい。その理由としては定かではないが、針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料が塗工層中にあると、針状軽質炭酸カルシウムの形状により塗工層表面および塗工層中において配向ムラが生じ難いこと、針状軽質炭酸カルシウムが混在することにより塗工層中において適度な空隙を有しインクジェットインクが表面に付着した際、瞬時に吸収される所謂毛管現象による吸収速度アップ効果が得られると思われる。また、塗工層に針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料が混在することにより、吸油性顔料の保水力に加えて顔料と顔料の空間率が高まり、塗工層中に吸収したインクを保持する力所謂インク吸収容量の向上効果が得られると考えられる。このため、針状形状の軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料を併用すると瞬時に塗工層に吸収されたインクが塗工層中に保持され、且つ表面の光沢性に優れるインクジェット用紙が得られると考える。
【0027】
針状軽質炭酸カルシウムは、X線透過式沈降法粒度分布装置レーザー回折装置で測定された粒子径が0.3μm以上0.9μm以下であると、より優れたインクジェット商業用印刷機でのインク吸収性やインク発色性、インク定着性に優れ、且つ表面の白紙光沢にも優れるインクジェット商業印刷用塗工紙を提供することが可能となる。粒子径が0.9μm以下とすることにより、インク吸収性や白紙光沢性を高めることができ、0.3μm以上とすることにより、塗工層強度が低下や、ギロチン断裁の紙粉などによる加工適性の低下やインクジェット印刷機内の用紙搬送用ロールへの塗工層の付着等を防ぐことができる。0.3μm以下となると顔料間の十分な空隙が減少し、インク吸収性が低下する。X線透過式沈降法粒度分布装置レーザー回折装置で測定された粒子径において、更に0.4μm以上0.6μm以下になると各種品質は向上し望ましい。なお、本発明でいう、X線透過式沈降粒度分布装置レーザー回折装置で測定される粒子径とは、50体積%粒子径(D50)である。
【0028】
本発明で用いる針状軽質炭酸カルシウムを得る方法については、特に限定せず、従来公知の製造方法、例えば、水酸化カルシウム(消石灰)と炭酸ガスを反応させる方法、塩化カルシウムと炭酸ナトリウム無水物(ソーダ灰)を反応させる方法、消石灰とソーダ灰を反応させる方法等によって得られる。
【0029】
なお、炭酸化開始の際の消石灰スラリー温度は、生成物である軽質炭酸カルシウムの結晶形状に影響を及ぼすため、調整する必要がある。炭酸化開始温度が20℃未満であると、炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスを吹き込んだ際、微細な針状結晶が凝集したものになり、一方、30℃を超えると徐々に針状から紡錘状の比率が高まってくる。針状を得るためには消石灰スラリー温度を30から50℃に調整する必要がある。
【0030】
炭酸ガスまたは炭酸ガス含有ガスの吹き込み量は、特に制限はないが、結晶形状の点から、反応開始前の消石灰1Kg当たり100%炭酸ガス(1気圧、20℃換算)の流量調整が必要である。針状を得るには5L/min以下とすることが好ましく、この流用が増えると紡錘状など他の形状となる。
【0031】
また、針状を得るためには、反応槽に攪拌機を備え、攪拌しながら炭酸化を行なう必要がある。これにより、炭酸ガスが微細になり、消石灰スラリーとの接触が良くなり、反応が均一かつ効率的に行なわれ、針状が得られる。攪拌機の攪拌周速としては、2.0m/s以上であるのが好ましく、更に好ましいのは2.5m/s以上である。攪拌機としては、一軸または二軸型のタンク用攪拌機、コーレスミキサ、高速攪拌式ディスパーザーなどを用いることができる。さらに反応槽中に邪魔板を設置することで、消石灰スラリーのせん断力を高めることができる。
【0032】
なお、軽質炭酸カルシウムを本発明範囲の粒径とするために脱水工程後に分散工程および粉砕工程を設けることが好ましいが、分散処理後の平均粒子が所望の平均粒径の範囲にある場合、粉砕を行なわずに、そのまま使用してもよい。
【0033】
また、針状軽質炭酸カルシウムともに用いられる吸油性顔料とは、無定形シリカ、微粒子シリカ、アルミナ、焼成カオリンを指し、これらの顔料から1種もしくは複数種の顔料が使用される。これらの顔料の吸油性は高くなるほどインク吸収性が向上し好ましい。吸油性を示す指標として吸油度が用いられるが、80ml/100g以上を超えるとインク吸収性が向上するが認められ、良い。
ただし、吸油性顔料を用いると、ロールコーターのロール上から塗料を紙に塗布した後塗料が乾燥しやすくなり乾燥した塗料がロール上に汚れとして残り、連続的な塗工が困難になる。このようにロール汚れが発生すると良好な塗工面が得られず、結果としてインクジェット品質が低下する。このようなロール汚れを抑制するために、塗料の保水性を向上させるために各種保水剤を処方することが一般的に行われている。保水剤としては、合成系保水剤として、ポリカルボン酸系共重合体や天然系保水剤のカルボキシメチルセルロースナトリウムやポリエチレングリコール、澱粉、カゼインなどが知られているが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、澱粉、カゼイン等以外の保水剤はインク定着剤との相溶性がよくなく凝集してしまう物が多い。特殊な混合方法を用いて凝集せずに用いることができたとしても、インク吸収性の低下が発生する。澱粉、カゼインは、インク定着剤との相溶性は良好であり塗料作製は容易であるが、ロール汚れ抑制に十分な添加量を加えると、インク吸収性が低下してしまう。これに対して、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、ロール汚れ抑制効果が得る添加量を添加した場合でも、インク吸収性の低下は軽微であり市販で求められるインクジェット適性として良好なものが得られる。また、カルボキシメチルセルロースナトリウムは、塗工層強度を向上させることができるため、塗工層強度が向上したぶんバインダーとして用いている薬品の添加量を調整(減少)するとさらに優れた品質の塗工紙が得られる。
【0034】
カルボキシメチルセルロールナトリウムの1%溶解液(温度25℃)の粘度が50mPa・s以上500mPa・s以下になるような特性をもつものを用いると、高いロール汚れ抑制効果と良好なインクジェット適性のバランスに優れた塗工紙が得られる。このようにカルボキシルメチルセルロースナトリウムの1%溶解液(温度25℃)の粘度を規定することにより優れた品質となる理由は明らかではないが、50mPa・s以下では塗料の保水力が弱くロール上で塗料が乾き易くなり十分なロール汚れ抑制効果が得られない。また、500mPa・s以上では、ロールから原紙に塗工された塗工層を乾燥させる際、バインダー成分が表面に保持されてしまい結果としてインク吸収性が低下し優れたインクジェット用塗工紙とならないと推定する。
カルボキシメチルセルロースナトリウムは、塗工液のB型粘度(25℃)が500mPa・s以上4000mPa・s以下になる添加量が好ましい。より好ましくは1500mPa・s以上2500mPa・s以下となるような添加量がより好ましい。塗工液のB型粘度(25℃)で500mPa・s以下となるような添加量では、ロール上の塗料にリングパターン上のムラ発生し易くなる。これに対して、塗工液のB型粘度(25℃)が4000mPa・s以上になるとインクジェットの吸収性が低下する傾向が見られる。
【0035】
本発明では、インク定着剤と針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料およびカルボキシメチルセルロールナトリウム、バインダーを塗工層に用いるが、インクジェット印刷用塗工紙が塗工層を2層以上有する場合、最表面塗工層、最表面塗工層より下の塗工層(下塗り塗工層)のどちらに含有させてもよい。
これらの材料を最表面塗工層に含有させることで、インクジェットインクのインク定着性、インク吸収性、あるいは白紙の光沢性を向上させることができる。
また、これらの材料を下塗り塗工層に含有させることで、インクジェットインクのインク吸収性、最表面塗工層の表面光沢を向上させることができる。
これらの材料を含有させサイズプレスにて塗工する場合全ての層の塗工においてロール汚れが抑制される。
塗工層の複数層有する場合、針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料は、全塗工層の顔料100質量部に対し、90質量%以上含有することが好ましい。
なお、塗工層は基紙の片面のみに存在しても良いし、両面に存在しても良い。
【0036】
(併用可能な顔料)
塗工層に使用する顔料としては、本発明で規定する針状軽質炭酸カルシウムと吸油性顔料以外に、カオリン、重質炭酸カルシウム、凝集炭酸カルシウム、本発明以外の軽質炭酸カルシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、有機中空顔料、複合顔料、表面にシリカ粒子を複合させた炭酸カルシウムアルミノ珪酸マグネシウム、微粒子状珪酸カルシウム、微粒子状炭酸カルシウム、サチンホワイト、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂、スチレン・アクリル共重合樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、並びにこれらの微小中空粒子や貫通孔型の有機材料からなる有機顔料粒子等が挙げられる。カオリン、有機顔料粒子等を併用する場合は、白紙光沢性向上効果がある。
【0037】
[バインダー]
本発明においては、塗工層に使用するバインダーを特に規定するものではなく、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム系ラテックス、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン化澱粉、リン酸エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉系の澱粉、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白系、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの合成物、酢酸ビニル系共重合体、アクリル系共重合体等のビニルポリマー系等が使用可能である。これらのバインダーの中でもスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスバインダーは少量で高い塗工層強度が得られるため、良好なインク吸収性を発現できる。また、澱粉は、塗工層強度を発現するとともに塗工液の粘度調整する作用も有する。塗工液の粘度が適性範囲外となると白紙光沢性の低下を招く。このため、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスバインダーと澱粉の両方を用いると高いインク吸収性を保持したまま高い塗工層強度と塗工液の粘度調整が行えるためより良い。澱粉と同様な効果を持つものとしてカゼインも当てはまる。このスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの一部または全量のTg点を10℃以上60℃以下に調整するとインク吸収性の良化および白紙光沢性の向上があるためよい。このようにスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのTg点調整により品質が向上する理由については明らかではないが、塗工層中のバインダーのTg点を10℃以上とすることにより乾燥熱によりバインダーの一部のみが溶け皮膜化し一部粒状形状と保つことにより、適当な塗工層強度とインク吸収に必要な塗工層内の空孔の両立が行えると考える。Tg点が60度以上となるとインク吸収性が良好となるものの、適当な塗工層強度が得られない。
【0038】
バインダーとしては、上記に述べたものを用いることができるが、その中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。バインダーの添加量としては、使用するバインダーの種類にもよるが、P/B比が3以上40以下であるとよい。P/B比が3未満の場合、インクジェット印刷用塗工紙の光沢性及び塗工層強度は優れるものの、インク吸収性が低めとなる。インク吸収性がより優れるP/B比は6以下が好ましく、5以下が更によい。一方、P/B比が35を越えると、インクジェット記録適正は優れるものの、インクジェット印刷用塗工紙の光沢性や塗工層強度が望ましいレベルとならない。好ましくは35以下、より好ましくは30以下とすることにより、ギロチン断裁時の紙粉発生を防ぎ、各種加工適性を高めることができる。
【0039】
[カルボキシメチルセルロースナトリウム]
カルボキシメチルセルロースナトリウムは、原料パルプを粉砕機により粉砕処理した後に、得られた粉砕処理中のセルロースを、親水性溶媒中でモノハロ酢酸またはその塩及びアルカリ剤と反応させカルボキシメチルセルロースナトリウムを得る。
【0040】
この際、本発明に用いることができる原材料パルプとしては、コットンリンター、稲わらパルプ、木材パルプが挙げられ、具体的には、リンターパルプ、針葉樹材を主としたN材パルプ、広葉樹材を主としたL材パルプを用いることができる。原料のパルプの形状に特に限定はないが、原材料パルプの形状はチップ状が好ましい。
【0041】
モノハロ酢酸におけるハロゲン原子としては、反応性や汎用性及び取扱い易さの理由から、好ましくはヨウ素原子、臭素原子または塩素原子が使われ、更に好ましくは塩素原子である。モノハロ酢酸の塩を形成しうる金属としては、得られるカルボキシメチルセルロースの水溶性、高い水溶液粘度を発現する観点から、リチウム、カリウム、ナトリウムがつかわれるが、好ましくは、ナトリウムである。
【0042】
アルカリ剤としては、アルカリ金属水酸化物又は、アルカリ土類金属水酸化物が好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が上げられ、アルカリ土類金属水酸化物の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、が挙げられる。
【0043】
反応終了後、得られた反応物にメタノール等の親水性溶媒の水溶液を添加し、攪拌後にろ過することでNaCl等の塩類を除去することができる。カルボキシルメチルセルロースはろ過ケーキ分として、得られ、アセトン等で洗浄し、効率よく脱水することができる。
【0044】
モノハロ酢酸又はその塩と原料パルプとの混合性を良好にする観点から、粉砕処理工程及び/又は反応工程において親水性有機溶媒を用いても良い。親水性有機溶媒としては、イソプロパノール、tert−ブタノール等の2級又は3級の低級アルコール;1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のジグライム、トリグライム等のエーテル系溶剤、ジメチルスルホキシド等の親水性極性溶剤が上げられ、好ましくはイソプロパノール、tert−ブタノール等の2級又は、3級の低級アルコール、である。
【0045】
[インク定着剤]
インクジェット商業印刷機用インクは、水性顔料インクや水性染料インクが使われるが、これらの水性インクでの印刷物のインク定着性や発色性を向上させる目的で、塗工層にインク定着剤を含有させるとよい。インク定着剤としては、下記に列記したものから1種類もしくは複数種選択して使用することが出来る。片面あたり0.1g/m以上塗布されると効果が得られより好ましくは片面0.3g/m以上塗布されるとよい。片面あたりの塗布量が0.1g/m未満ではインク定着性や発色性の効果が薄まる。片面で2g/m以上塗布されるとインク吸収性がやや劣るほか、生産コストが高くなり費用対効果が低くなる。
また、原紙にもインク定着剤を含有させると更によいが、インクが打ち込まれる用紙の表層にインク定着剤が存在することが望ましく、原紙中よりも塗工層に含有させるほうが効果は大きくなる。因みに、基紙に内添する場合は、使用するパルプ100質量%に対して、0.1質量%以上1質量%以下の添加量が望ましい。原紙中に含有させる場合も、0.1質量%以上とすることにより、得られる効果を確実にすることができる。一方、下限値を下回ると、所望する効果が小さくなる。最適な上限値を超えると、インク定着剤の基紙表面のプロファイルムラが起因するインク吸収ムラを発生させる可能性がある。
【0046】
インク定着剤には、有機系と無機系がある。有機系インク定着剤としては、例えば、水溶性或いは水性エマルジョンタイプなどが使用される。例えば、ポリアルキレンポリアミン系樹脂、またはその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、ポリジアリルアミン系樹脂、ポリアミン系樹脂、ジシアンジアミド縮合物等のカチオン樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン、カチオン性ポリビニルピロリドン、ポリ−トリメチルアンモニウムメタクリレート、ビニルイミダゾリウムメタクロライド−ビニルピロリドン共重合体、ジアリルジメチル4級アンモニウム塩酸塩、ジシアンジアミド−ポリエチレンポリアミン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド共重合体、ポリアルコキシジアルキル第4級アンモニウム塩、モノアリルアミン−ジアルルアミン塩酸塩共重合体、ポリアリルアミン塩酸塩、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合体、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO2共重合体、ジアリルアミン塩・SO2共重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合体等が挙げられ、1種あるいは2種以上を併用しても良い。これらカチオン性樹脂の分子量は、特に限定するものではないが、高分子量となるとインク吸収性が低下するため、分子量30,000以下のものの使用が望ましい。
【0047】
無機系インク定着剤としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットニウム、ジルコニウム、モリブデン、インジウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジミウム、ネオジミウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、ジスロプロシウム、エルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、タングステン、ビスマスから選択される金属塩または錯体が挙げられる。
【0048】
[助剤]
塗工層には、その他必要に応じて各種助剤を含有してもよい。
本発明に使用する助剤としては、ポリエチレンエマルジョン、脂肪酸の塩類やその誘導体、マイクロクリスタリンワックス等の離型剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、本特許で規定したカルボキシメチルセルロースナトリウム以外の保水性改善剤、着色剤、潤滑剤、耐水化剤等の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。
なお、塗工層は1層であっても、複数の層で形成しても良く、また基紙の片面のみに存在しても良いし、両面に存在しても良い。
【0049】
[基紙]
本発明に使用する基紙としては、シート状のものであればよく、例えば通常のインクジェット記録用紙、印刷用塗工紙、板紙に用いられる米坪30〜500g/m程度の紙支持体を基紙として好適に使用することができる。基紙として使用する紙支持体のパルプ原料も特に限定されるものではなく、脱墨パルプ、機械パルプ、化学パルプ等、通常の製紙方法で製造される紙のパルプ原料として一般的に用いられるパルプ原料の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。前記基紙を得る抄紙機についても特に限定されるものではなく、長網式抄紙機、短網式抄紙機、円網式抄紙機、オントップフォーマー抄紙機、ギャップフォーマー抄紙機、ヤンキー抄紙機等の従来公知の抄紙機で適宜抄紙することができる。紙層は、1層抄きでも多層抄きでも構わない。
【0050】
但し、経済的な効果も考えて塗工層のコート量を削減するためには、コップ吸水度(JIS P 8140 Cobb30)が50cc/m以上に調整された基材を使用するとよい。
【0051】
さらに、使用する紙支持体には、本特許で規定した塗工層を塗被する前に必要に応じてクリア塗工層を施して表面処理することもできる。前記紙支持体にクリア塗工層を施す場合、塗工装置としてはロッドメタリングサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、インラインドサイズプレスコーター、シムサイザー等の従来公知の装置を適宜使用することができる。
【0052】
このクリア塗工層は接着剤を主成分とするが、接着剤として、酸化澱粉、酵素変性澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉系、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白等の蛋白系、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール等の合成物、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム系、酢酸ビニル系共重合体、アクリル系共重合体等のビニルポリマー系の中から、1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。また、インク定着剤を用いるとインクジェット適性が向上し、更に好ましい。
【0053】
また、基紙として使用する紙支持体は、塗工液を塗工する前に、予めカレンダー処理を施して紙支持体の表面を平滑化しておくこともできる。
【0054】
[塗工および仕上]
塗工液は、固形分濃度を20〜60質量%程度に調製し、基紙上に乾燥質量で1〜8g/m、より好ましくは1〜5g/mになるように塗工、乾燥する。塗工層を形成する塗工装置としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、バーコーター、カーテンコーター、ロールコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、シムサイザー等の従来公知の塗工装置が上げられる。
この中でも、サイズプレスとして良く利用されるロールコーター、ゲートロールコーター、シムサイザーは、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーターなどが原紙に塗料を付着させた後掻きとる塗工方式よりも、インクジェット印刷時の印刷ムラが軽減され、塗工速度も上がり易いというメリットを持つためよい。印刷ムラが軽減される理由は定かではないが、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーターなどで原紙に塗料を付着させる際、原紙の地合の影響で、原紙への塗料の浸透が不均一になり、結果として塗工層ムラが発生するためだと推定する。また、サイズプレスとして良く利用される塗工方式の中でも、ロールや巻きバーなどで前軽量した塗料を、原紙に転移する方式であるゲートロールや、シムサイザー塗工装置を用いると得られる塗工紙の表面光沢性、インクジェット品質が優れ更によい。
【0055】
基紙上の湿潤塗工層を乾燥させる方法としては、熱風乾燥、蒸気乾燥、ガスヒーター乾燥、電気ヒーター乾燥、赤外線ヒーター乾燥等の従来公知の乾燥方法の中から適宜選択して使用することができる。また、塗工層をカレンダー処理により、平滑化しても良い。カレンダー処理装置としては、グロスカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダーなどが挙げられ、熱を加えながら平滑化処理する熱カレンダーを用いることもできる。
【0056】
本発明のインクジェット印刷用塗工紙は、従来よりも高速のインクジェットプリンターに対応可能で、インク量が多い写真や図柄などの画像である固定情報と可変情報の両方を、インクジェット印刷機で一度に印刷することを可能となる。もちろん固定情報をオフセット印刷し、可変情報をインクジェット印刷機で分けて印刷する方法にも利用できる。また、パッケージ分野や物流分野における箱や封筒等のインクジェット商業印刷にも適合できる。更に、印刷後表面に接着剤層を設けるダイレクト葉書(4面や6面等)用として使用することもできるし、裏面に各種の粘着剤層を設けたり、擬似接着層を設けたり、接着剤などにより別のシートとの張り合わせ積層体を形成したりすることなど、公知の加工を適宜行なうことができる。
【実施例】
【0057】
以下に、具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらによって制約を受けるものではない。なお、製造例、実施例、比較例において%および部とあるものはすべて質量%および質量部を示す。
実施例7、10および11は参考例である。

【0058】
実施例1
「顔料」
市販の針状軽質炭酸カルシウム(商品名:TP123CS、奥多摩工業製、平均粒子径=0.45μm)、焼成カオリン(商品名:アルファテックス、イメリスミネラルズジャパン製、平均粒子径=0.48μm)、カオリン(商品名:アマゾンプラス、CADEM製、平均粒子径=0.26μm)、
無定形シリカ(商品名:ファインシールX−45、トクヤマ製、平均粒子径=4.5μm)を得た。
【0059】
「顔料」の「粒径測定」
X線透過式沈降法粒度分布装置(SediGraph5100 マイクロメリテックス社製)による粒度分布を測定した。累積体積が10%、50%、90%に相当する粒径をD10、D50、D90として、50体積%(D50)の粒子径を平均粒子径とした。
【0060】
「基紙の作成」
LBKP(CSF450ml)90%、NBKP(CSF400ml)10%からなるパルプスラリーに、填料としてタルクを支持体灰分が7%となるように添加した後、パルプ固形分に対して硫酸アルミニウム0.95%、カチオン澱粉0.22%、アルキルケテンダイマーサイズ剤(商品名:サイズパインK−287、荒川化学工業製)0.1%、ポリアクリルアミド(商品名:リアライザーR−300、ソーマル製)0.05%を順次添加し、紙料を調製した。得られた紙料をオントップツインワイヤー抄紙機で抄紙し、さらにゲートロールサイズプレス装置で酸化澱粉(商品名:エースA、王子コーンスターチ製)を両面で2.0g/m(固形分)塗布・乾燥し、マシンカレンダーで平滑化処理を施して坪量81g/mの基紙を得た。
【0061】
「塗工液の調製」
前記「顔料」に示した針状軽質炭酸カルシウムTP−123CS 40部(固形分換算)、焼成カオリンアルファテックス60部(固形分換算)に、バインダーとして酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)2部(固形分)およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PB2407、日本エイアンドエル製、Tg点=40℃、粒子径=190nm)20部(固形分)、インク定着剤としてアミン・エピクロルヒドリン重合体(星光PMC製DK6810)を5部加え、固形分濃度が40%の塗工液を調製した。これに保水剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬製SGセロゲンWS−C、1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=200mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整した。
【0062】
「インクジェット印刷用塗工紙の作製」
前記基紙上にゲートロールコーターを用いて、片面の乾燥質量で4g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥した。この後、スーパーカレンダーを用いて、線圧60kg/cm、2ニップの条件で平滑化処理を施して、坪量89g/mのインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0063】
実施例2
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を70部、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)を30部に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0064】
実施例3
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を80部、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)を20部に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0065】
実施例4
実施例2の塗工層に用いる顔料の焼成カオリン(アルファテックス)30部(固形分換算)を無定形シリカ(ファインシールX−45)30部に変更する以外は、実施例2と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0066】
実施例5
実施例2の塗工層に用いる保水剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:SGセロゲンPR、第一工業製薬製)、1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=50mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整する以外は、実施例2と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0067】
実施例6
実施例2の塗工層に用いる保水剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:第一工業製薬製AGガム、第一工業製薬製)1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=400mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整する以外は、実施例2と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0068】
実施例7
実施例2の塗工層に用いるバインダースチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:PB2407、日本エイアンドエル製、Tg点=40℃、粒子径=190nm)20部(固形分)をスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:OJ3000N、JSR製、Tg点=−37℃、粒子径=90nm)20部(固形分)に変更する以外は、実施例2と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0069】
実施例8
実施例2の塗工量を片面の乾燥質量で4g/mから片面の乾燥質量で1g/mにして塗工、乾燥する以外は、実施例2と同様にして、坪量83g/mのインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0070】
実施例9
実施例2の塗工量を片面の乾燥質量で4g/mから片面の乾燥質量で7g/mにして塗工、乾燥する以外は、実施例2と同様にして、坪量96g/mのインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0071】
実施例10
実施例7の塗工液の調整において、保水剤 カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:SGセロゲンWS−C、第一工業製薬製)1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=200mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整するところを、塗料のB型粘度を450mPa・sに調整する以外は、実施例7と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0072】
実施例11
実施例7の塗工液の調整において、保水剤 カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:SGセロゲンWS−C、第一工業製薬製)1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=200mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整するところを、塗料のB型粘度を4500mPa・sに調整する以外は、実施例7と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0073】
実施例12
実施例2のインクジェット印刷用塗工紙の作製において、ゲートロールコーターを用いて、片面の乾燥質量で4g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥するところをシムサイザーコーターを用いて、片面の乾燥質量4g/mになるよう塗工液を両面に塗工する以外は実施例2と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0074】
実施例13
実施例2のインクジェット印刷用塗工紙の作製において、ゲートロールコーターを用いて、片面の乾燥質量で4g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥するところをエアーナイフコーターを用いて、片面の乾燥質量4g/mになるよう塗工液を両面に塗工する以外は実施例2と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0075】
実施例13
実施例2のインクジェット印刷用塗工紙の作製において、ゲートロールコーターを用いて、片面の乾燥質量で4g/mになるように前記塗工液を両面に塗工、乾燥するところをベントブレードコーターを用いて、片面の乾燥質量4g/mになるよう塗工液を両面に塗工する以外は実施例2と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0076】
比較例1
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を20部、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)を80部に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0077】
比較例2
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を100部、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)を0部(無添加)に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0078】
比較例3
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を0部(無添加)、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)を100部に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0079】
比較例4
実施例1の塗工層に用いる顔料として、針状軽質炭酸カルシウム(TP−123CS)40部(固形分換算)を70部、焼成カオリン(アルファテックス)60部(固形分換算)をカオリン(商品名:アマゾンプラス、CADEM社製、平均粒子径=0.26μm)30部に変更する以外は、実施例1と同様にしてインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0080】
比較例5
実施例2の塗工量を片面の乾燥質量で4g/mから片面の乾燥質量で0.5g/mにして塗工、乾燥する以外は、実施例2と同様にして、坪量82g/mのインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0081】
比較例6
比較例5の塗工量を片面の乾燥質量で0.5g/mから片面の乾燥質量で9g/mにして塗工、乾燥する以外は、実施例2と同様にして、坪量99g/mのインクジェット印刷用塗工紙を得た。
【0082】
比較例7
実施例7の塗工液の調整において、保水剤 カルボキシメチルセルロースナトリウム(商品名:SGセロゲンWS−C、第一工業製薬製)1%溶解液(温度25℃)のB型粘度=200mPa・s)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整するところを、カルボキシルメチルセルロースナトリウムを無添加にする以外は、実施例7と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。この時の塗工液のB型粘度は200mPa・sであった。
【0083】
比較例8
比較例7の塗工液の調整において、保水剤として酸化澱粉(商品名:エースA、王子コンスターチ社製)を添加して、塗料のB型粘度を2000mPa・sに調整する以外は、比較例7と同様にして、インクジェット印刷用塗工紙を得た。この時の最終的な酸化澱粉の添加量は、15部であった。
【0084】
実施例、比較例で得られたインクジェット印刷用塗工紙について、下記の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0085】
「インクジェット印刷適性」
(インク吸収性の評価)
得られたインクジェット印刷用塗工紙をラインヘッド搭載カラーラベルプリンター(LX−P5500顔料インクモデル、Canon製)でブラックベタ印刷と文字印刷を行ない。その印刷部分を目視評価した。
◎:ベタ印刷部分にムラなし。文字と白紙部にニジミなし。良好。
○:ベタ印刷部分にムラ、文字部から白紙部にインクのニジミが若干みられるが、使用上問題のないレ
ベル。
△:ベタ印刷部分にムラ、文字部から白紙部にインクのニジミが見られるレベル。
(使用するプリンターの設定を変更すれば使用可能なレベル)
×:ベタ印刷部分全面にムラ、文字そのものが潰れ文字の形状が判別できないレベル。
(使用するプリンターの設定を変更しても使用不能なレベル)
【0086】
「白紙光沢度」
JIS P8142に準拠して、75度における白紙面の光沢度を測定した。
【0087】
「塗工適性」
(ロール汚れ)
ゲートロールコーターで塗工し、塗料によるロール汚れを目視で確認した。
◎:ロール上の汚れなし。良好。
○:ロール上の汚れが若干みられるが、使用上問題のないレベル。
△:ロール上の汚れが若干見られるが、塗工面への影響が少なく使用上問題のないレベル。
×:ロール上の汚れが見られる。塗工面への影響も大きく使用上問題となるレベル。
【0088】
「塗工面の目視評価」
今回作製したインクジェット印刷用塗工紙の塗工面の状態を目視で観察し、表面の状態で下記の分類を行った。
◎:塗工ムラなし。良好。
○:塗工ムラが若干みられるが、使用上問題のないレベル。
△:塗工ムラが見られるレベル。
(使用するインクジェット印刷機の各種設定を変更すれば使用可能なレベル)
×:塗工ムラが見られ、ところによっては原紙面が見える部分もある。NGレベル。
(使用するプリンターの設定を変更しても使用不能なレベル。
【0089】
【表1】
【0090】
表1から明らかなように、本発明のインクジェット印刷用塗工紙は、インクジェット塗工適性(インクの吸収性)、白紙光沢に優れ、良好な塗工適性を持ち塗工面も良好なものであった。