(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管のねじ継手を始めとする種々のねじ付き部材のうちフック状フランク部を有するねじ付き部材を対象としたねじ形状の測定に用いる、フック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状測定装置及び方法に関する。
【0002】
前記フック状フランク部とは、ねじ部においてロードフランク面(軸方向の引張力に対し負荷のかかる側のフランク面)がねじ山の先端部から基端部に行くに従ってねじ山中央部に近づく(ねじ山の基端部から先端部にかけてオーバーハング状態となっている)ねじ部分を云う。
【0003】
ねじ形状の測定は、ねじ軸方向のねじ形状プロフィールを求めるものであり、このねじ形状プロフィールに基づき、ねじ要素が測定される。ねじ要素には、例えば油井管ねじの場合、以下のような項目が含まれる。
・スタンドオフ:管に設けられた雄ねじと継手に設けられた雌ねじとの嵌め合わせ部の管軸方向寸法のことである。
・ねじ径:管端からの基準距離位置におけるねじ底の径(管径方向寸法)であり、この径と公称径(図面上の径)との差はすなわちスタンドオフの偏差になる。
・ノーズ外径:管端平行部の外径のことである。
・ねじリード:ねじ1回転当たりのねじ軸方向の進行距離(=ねじピッチ×ねじ条数)のことである。
・ねじテーパ:ねじ軸方向の単位長さ当たりのねじ半径変化量のことである。
・ねじ高さ:ねじ底からねじ頂までのねじ半径方向寸法のことである。
・ねじ幅:ねじ底とねじ頂の中間点におけるねじ谷のねじ軸方向寸法のことである。
【背景技術】
【0004】
油井管のねじ継手を始め種々のねじ付き部材を対象とした、従来のねじ形状の測定技術には、以下のものがある。
(C1) 従来技術C1は、平行光を照射して、ねじ面を通過する光を検出してねじ形状を測定する光学式センサを管軸方向にスキャンさせることによってねじ要素を測定する方法および装置である(特許文献1参照)。
(C2) 従来技術C2は、平行光を、角度可変の反射鏡と受像軸と画角との関係が比例関係となるf−θレンズを通して、ねじ管径方向に対する一次元画像を順次検出し、2次元画像を生成することを特徴とするねじ形状測定方法および装置である(特許文献2参照)。尚、光学系を管周方向に回転させれば3次元ねじ形状測定も可能である。
(C3) 従来技術C3は、平行光をねじ付き管のねじ部に向けて照射し、ねじ形状を測定する光学式センサを管軸方向にスキャンさせ、ねじフランク面の測定に関わらない第1ねじ要素を測定する光学式センサと、3次元移動可能な接触プローブを備え、ねじフランク面に接触プローブを接触させ、接触時における当該接触プローブの空間座標を検出することにより、ねじフランク面の測定に関わる第2ねじ要素を測定する接触式センサと、前記光学式センサから得られた第1ねじ要素及び前記接触式センサから得られた第2ねじ要素を合成してねじ要素を演算する演算処理手段とを有することを特徴とするねじ要素測定方法および装置である(特許文献3参照)。これにより、フック形状を持ったねじの形状が測定可能である。
(C4) 従来技術C4は、ねじ軸を検出するねじ軸検出工程と、スリット状のレーザ光を出射する光源と、該光源の光軸とは異なる方向の視軸を有する撮像手段を用いてねじのフック形状を非接触で取得する方法(光切断法)である(特許文献4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
平行光をねじに照射させる測定原理(従来技術C1、C2)では、
図10(a)のように平行光をねじ螺旋の接線方向に照射しても、平行光路は直線状であって螺旋状ではないから、
図10(b)のように、平行光で捉えたねじ形状プロフィールは、ねじ奥行き方向の後側から前側にかけてフック状フランク部の断面領域が重なっていくため、太線で示した様な、実際とは異なるプロフィールとなる。そのため、フック状フランク部を持ったねじ形状の測定(特にねじ幅、リードの測定)は不可能であった。
【0007】
斯様な問題点を解決するために、平行光では測定できないフック状フランク部を接触式プローブで測定し、平行光で測定できる他部のプロフィールと重ね合わせる方法(従来技術C3)や、フック状フランク部をフランク面角度測定に適した角度に傾斜させる光切断法を用いる方法(従来技術C4)が提案されている。
【0008】
しかし、従来技術C3のような方法では、接触式プローブを順次移動させ、先端に取り付けられた球状の接触子をフランク面に接触させて測定を行うため、必然的に測定時間が長くなる上、測定点数が十分に得られないことからフランク面の角度を精度良く測定できないと云う問題があった。また、接触子との接触で製品に疵をつけてしまうという問題があった。また、接触子が所定の寸法を有するため、ねじ底曲面部の曲率を精度良く測定することも困難であった。
【0009】
又、従来技術C4のような方法は、非接触の測定方法である光切断法(2次元三角測距方式)を用いることによって接触式の問題点を解消しているが、(ア)演算誤差が±0.04mm超と非常に大きいため、ねじ寸法公差を±0.04mm以内とする項目もあるねじ付き部材の測定が困難である、(イ)ねじ全長に亘る測定をするのに時間がかかる、と云った問題点があった。
【0010】
尚、光切断法(2次元三角測距方式)の演算誤差が大きいのは、検出素子配列の寸法バラツキ範囲が0.01〜0.05mmであることや、レーザ光多重反射の影響を受けた測定値(ノイズ)の除去による値漏れによるものと推測される。
【0011】
そこで本発明は、上述した従来技術の問題点(ア)、(イ)に鑑み、フック状フランク部を有するねじ形状の設計値と測定値の差で評価される測定精度が±0.02mm以内である精密測定がねじ部全長に亘って簡易に且つ能率よく実行できるねじ形状測定装置及び方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討し、その結果、光切断法(2次元三角測距方式)を用いるのではなく、1次元三角測距方式のレーザ変位計を用いることで、演算誤差を±0.02mm以内に向上でき、ねじ全長に亘る測定に要する時間も短縮でき、また、レーザ光多重反射の影響を受けた測定値(ノイズ)と光多重反射の影響を受けない測定値(シグナル)とをより正確に区別でき、ノイズ除去による値漏れを低減できると云う知見を得た。
【0013】
本発明は、上述の知見に基づいて成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) フック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状を測定する装置であって、
1つの1次元三角測距方式のレーザ変位計が1つ又は複数のうちの各1つの支軸の軸線上を移動し前記軸線からの光線傾斜角90°±10°で前記ねじ付き部材のねじ部を走査してねじ部の1次プロフィール情報を取得する構成とした第1の光学手段と、
もう1つの1次元三角測距方式のレーザ変位計が前記第1の光学手段と同じ支軸の軸線上を移動し前記軸線からの光線傾斜角50°±10°で前記ねじ部を走査してねじ部の1次プロフィール情報を取得する構成とした第2の光学手段と、
ねじ軸線を光学的に探索するねじ軸探索手段と、
探索したねじ軸線に前記支軸の軸線からの光線傾斜角の定義平面を位置合わせするセンタリング手段と、
前記ねじ付き部材の先端位置情報を光学的に取得する先端位置検出手段と、
前記第2の光学手段のレーザ変位計の照射光がねじ部で多重反射することによって当該レーザ変位計の撮像素子に検出される多重反射光ピークを除去し、前記第2の光学手段からの1次プロフィール情報から2次プロフィール情報を生成する信号処理手段と、
前記第1の光学手段で取得した1次プロフィール情報、および前記第2の光学手段で取得した1次プロフィール情報を前記信号処理手段で信号処理して生成した2次プロフィール情報、および前記先端位置検出手段で取得した管端位置情報に基づいてねじ要素を演算するねじ要素演算手段と
を有することを特徴とするフック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状測定装置。
(2) 前記ねじ要素演算手段は、
前記第1の光学手段による前記1次プロフィール情報と、前記第2の光学手段および前記信号処理手段による前記2次プロフィール情報とを夫々前記第1、第2の光学手段の光線傾斜角に基づき補正し、補正後プロフィール情報を生成する第1の演算手段と、
前記第1の演算手段で生成した前記補正後プロフィール情報を基に、全体プロフィール情報を生成する第2の演算手段と、
前記全体プロフィール情報からねじ要素を算出する第3の演算手段と
を有することを特徴とする上記(1)に記載のフック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状測定装置。
(3) 上記(1)に記載のねじ形状測定装置を用いてフック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状を測定する方法であって、
前記ねじ軸探索手段にてねじ軸線を光学的に探索する工程と、
前記探索したねじ軸線に前記支軸の軸線からの光線傾斜角の定義平面を前記センタリング手段にて位置合わせする工程と、
前記先端
位置検出手段にて前記ねじ部材の先端位置情報を取得する工程と、
前記第1、第2の光学手段にて前記1次プロフィール情報を取得する工程と、
前記信号処理手段にて前記第2の光学手段からの1次プロフィール情報から前記2次プロフィール情報を生成する工程と、
前記取得した1次プロフィール情報および前記生成した2次プロフィール情報に基づいて前記ねじ要素演算手段にてねじ要素を演算する工程と
を有することを特徴とするフック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ
形状測定方法。
(4) 前記ねじ要素演算手段にてねじ要素を演算する工程は、
前記第1の光学手段による前記1次プロフィール情報と、前記第2の光学手段および前記信号処理手段による前記2次プロフィール情報とを夫々前記第1、第2の光学手段の光線傾斜角に基づき補正し、補正後プロフィール情報を生成する第1の演算工程と、
前記第1の演算工程で生成した前記補正後プロフィール情報を基に、全体プロフィール情報を生成する第2の演算工程と、
前記全体プロフィール情報からねじ要素を算出する第3の演算工程と
を有することを特徴とする上記(3)に記載のフック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状測定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フック状フランク部を有するねじ付き部材のねじ形状の精密測定がねじ部全長に亘って簡易に且つ迅速に実行できると云う優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係るねじ形状測定装置の一例を示す概略図である。この
図1は、ねじ付き部材が管である場合における管側面図である。
図1において、1は管(ねじ付き部材)、1Aはねじ部、2は支軸、2Aは軸線、3は第1の光学手段、4は第2の光学手段、5はねじ軸探索手段、6はセンタリング手段、7は先端位置検出手段、8は信号処理手段、9はねじ要素演算手段、10はレーザ変位計(詳しくは、1次元三角測距方式のレーザ変位計)である。
【0017】
図2は、レーザ変位計10の測定原理を示す説明図である。レーザ変位計10は、光源11から出たレーザ光を投光レンズ12で集光して、測定対象物へ照射し、測定対象物からの拡散反射光の一部が受光レンズ13を通して撮像素子14上に光点(受光量が最大となる点)を結ぶ構成とされている。測定対象物(又はレーザ変位計10)が移動するごとに撮像素子14上の光点も移動するので、レーザ変位計10に対する測定対象物の変位量を知ることができる。前記変位量は0.001mm単位で計測可能である。尚、2つの測定対象点のうち光源11に近い側をNEAR側、遠い側をFAR側という。また、前記変位量は、光源11から測定対象物までの距離に対応する。
【0018】
レーザ変位計10を1つの支軸2当たりに1つだけ用いるのでは、ねじ部におけるフック状フランク部とフック状フランク部以外のねじ部分(非フック状フランク部とも云う)の双方の1次プロフィール情報を同時に高精度に取得することは困難である。そこで、本発明では、1つの支軸2当たりにレーザ変位計10を2つ用い、うち1つは第1の光学手段3の構成要素とし、もう1つは第2の光学手段4の構成要素とする。
図3、
図4は夫々第1の光学手段3、第2の光学手段4の構成を示すねじ軸方向断面の模式図である。第1の光学手段3は、
図1、
図3に示すように、レーザ変位計10が1つの支軸2の軸線2A上を移動し、軸線2Aからの光線傾斜角θ1=90°±10°(80°〜100°の範囲内から選ばれる1つの角度値で、測定中は不変とする)で管1のねじ部1Aを走査してねじ部1Aの1次プロフィール情報を取得する構成とした。これにより、フック状フランク部以外のねじ部分(非フック状フランク部)の1次プロフィール情報が得られる。フック状フランク部には照射光が届かないため、フック状フランク部の1次プロフィール情報は得られない。
【0019】
一方、第2の光学手段4は、
図1、
図4に示すように、レーザ変位計10が第1の光学手段3と同じ支軸2の軸線2A上を移動し、軸線2Aからの光線傾斜角θ2=50°±10°(40°〜60°の範囲内から選ばれた1つの角度値で、測定中は不変とする)でねじ部1Aを走査してねじ部1Aの1次プロフィール情報を取得する構成とした。
【0020】
なお、レーザ変位計10の移動距離は0.001mm単位で制御可能である。
【0021】
これにより、ねじ部における非フック状フランク部とフック状フランク部の1次プロフィール情報を同時にかつ高精度に取得することが容易となる。第1の光学手段3の光線傾斜角θ1が90°±10°を外れると、非フック状フランク部の1次プロフィール情報を高精度に取得することが困難である。一方、第2の光学手段4の光線傾斜角θ2が50°±10°を外れると、フック状フランク部の1次プロフィール情報を高精度に取得することが困難である。
【0022】
また、この例では管周方向の4箇所を同時に測定できるように、第1、第2の光学手段3、4の支軸2は管1を囲む円の円周上の4箇所に1つずつ計4つ設けてある。但し、この4つに限定されるわけではない。
【0023】
前記管1を囲む円の中心軸をX軸とする。X軸は各支軸2と平行である。
【0024】
また、前記4箇所の位置を同じ円周方向において変更可能とすべく、前記4つの支軸2は1つの支持枠30に固定し、支持枠30は前記X軸の周りに回転可能としてある。
【0025】
そして、第1、第2の光学手段3、4の各光線傾斜角は、各軸線2Aと前記X軸との共通平面内で定義される。すなわち、各軸線2AとX軸との共通平面は各軸線2Aの光線傾斜角の定義平面である。
【0026】
ところで、ねじ要素は、ねじ軸方向断面内のプロフィール情報に基づいて算出される。それゆえ軸線2A及び軸線2Aからの光線は同一のねじ軸方向断面内にあることが必要である。そこで、本発明ではねじ軸線を光学的に探索するねじ軸探索手段5及び探索したねじ軸線に前記X軸を位置合わせするセンタリング手段6を設ける。X軸は、各光線傾斜角の定義平面に共通する直線であるから、ねじ軸線にX軸を位置合わせする事で、ねじ軸線に各光線傾斜角の定義平面を位置合わせする事ができる。
【0027】
ねじ軸探索手段5は、
図1に示すように、管長手方向の2箇所に設置する。2箇所のうち1つはねじ先端側の非ねじ部位(便宜上、A部位とする)であり、A部位に設置するものをねじ軸探索手段5Aとし、2箇所のうちもう1つはねじ基端側の非ねじ部位(便宜上、B部位とする)であり、B部位に設置するものをねじ軸探索手段5Bとする。
【0028】
ねじ軸探索手段5は、5A、5Bとも、
図5に示すように、相直交する管径方向であるy方向とz方向の各方向で管径両端点を光学的に検出し、y方向で検出した管径両端点P、Qを結ぶ直線と、z方向で検出した管径両端点R、Sを結ぶ直線との交点Cをねじ軸線上の1点と同定する。管長手方向の2箇所(A部位、B部位)でねじ軸線上の点が同定されるから、ねじ軸線上の2点が特定され、ねじ軸線が探索できたことになる。
【0029】
管径端点を光学的に検出する手段として、
図5では、投受光式の端検出器20を例示した。これは、投光部21からの平行光23を物体端部を含む視野領域に当てて該視野領域からの透過光を受光部22で受光して撮像してなる物体端部画像から、物体の端を検出するものである。斯かる投受光式の端検出器20を、
図5のように、y方向、z方向で各2本ずつの平行光23が管1を井桁状に囲むように、合計4つ配置し、ねじ軸探索手段5A、5Bの構成としている。
【0030】
なお、
図5において、投受光式の端検出器20に代えて、エリアカメラ式の端検出器としてもよい。エリアカメラ式の端検出器を用いたねじ軸探索手段の構成は、
図5において、4つの投光部21と受光部22を削除し、受光部22を削除した跡の4つの箇所にエリアカメラを、該エリアカメラの視野に管径端部が入るように配置する構成になる。
【0031】
センタリング手段6は、ねじ軸探索手段5により同定したねじ軸線に前記X軸を一致させる手段であって、
図1に示すように、支持枠30を、X軸方向、およびX軸に直交する2軸方向すなわちY軸方向とZ軸方向に移動させる機構、ならびに、前記Y軸、Z軸の各軸周りに回転させる機構を具備した構成としてある。
【0032】
センタリング手段6による位置合わせ後のX軸がねじ軸線となす角度(0°に対する角度誤差)は、0.01°以内に収まる。
【0033】
したがって、ねじ軸探索手段5とセンタリング手段6を有することにより、軸線2A及び軸線2A上の光源からの光線をねじ軸方向断面内に容易にかつ高精度に配位でき、正確な1次プロフィール情報を取得できる。
【0034】
また、第1、第2の各光学手段3、4の取得した1次プロフィール情報を基にねじ部全体のプロフィール情報を取得するためには、ねじ部材の先端位置情報(この例では管の先端位置情報)が必要である。そこで、本発明では、先端位置検出手段7を設けた。先端位置検出手段7は、レーザ距離計からなる。このレーザ距離計は、X軸に平行な配向とした測距用レーザ光で管1の先端までの距離を計測し、管の先端位置情報を取得する。この距離計測の起点位置は、第1、第2の光学手段3、4夫々の待機位置との間隔が既知である。したがって、前記取得した管の先端位置情報を用いて、第1、第2の光学手段3、4の各移動距離値を、管の先端位置を原点とするX軸方向の座標値に変換することができる。
【0035】
また、光線傾斜角θ2=50°±10°のフック状フランク部を走査する第2の光学手段4のレーザ変位計10では、
図6に示すように、プロフィール情報の取得に用いる拡散反射光だけでなく、照射光がねじ部側面で正反射後、ねじ部底面で正反射してなる多重反射光も撮像素子14に入射して、受光量のピークを示す場合がある。この場合、撮像素子14には受光量がピークとなる受光位置が2つ現れる。2つのピークうち1つは多重反射光ピークであり、この多重反射光ピークを示す受光位置は真の測定対象点に対応しない。真の測定対象点に対応するのはもう1つのピークである拡散反射光ピークを示す受光位置である。そこで、多重反射光ピークは除去し、残った拡散反射光ピークの受光位置を測定対象点の位置とする信号処理手段8を設けることとした。これに先立ち、信号処理手段8の信号処理ロジックについて検討した結果、多重反射光ピークの受光位置(多重反射光ピーク位置とも云う)と拡散反射光ピークの受光位置(拡散反射光ピーク位置とも云う)を比べると、
図6のように多重反射光ピーク位置がFAR側、拡散反射光ピーク位置がNEAR側になっていることが分った。したがって、信号処理手段8は、撮像素子14の受光位置に受光量のピークが2つ現れたとき、ピーク位置がFAR側となっているピークを除去する信号処理ロジックを実行し、第2の光学手段における1次プロフィール情報から2次プロフィール情報を生成する構成とすればよい。
【0036】
なお、光線傾斜角θ1=90°±10°の第1の光学手段3では、多重反射光がレーザ変位計10に入射することはないので、1次プロフィール情報がそのまま使用できる。
【0037】
次に、
図1中のねじ要素演算手段9について説明する。ねじ要素演算手段9は、第1の光学手段3で取得した1次プロフィール情報、および第2の光学手段4で取得した1次プロフィール情報を信号処理手段8で信号処理して生成した2次プロフィール情報、および先端位置検出手段7で取得したX軸方向の管端位置情報に基づいてねじ要素を演算する手段である。
【0038】
ねじ要素演算手段9は、以下に述べる第1、第2、第3の演算工程を夫々実行する第1、第2、第3の演算手段を有することが好ましい。
【0039】
なお、管端位置情報を用いた第1、第2の光学手段3、4夫々のX軸方向の座標値の導出は第1の演算工程に先立って実行済みである。
【0041】
第1の演算工程では、前記第1の光学手段3による前記1次プロフィール情報と、前記第2の光学手段4および前記信号処理手段8による前記2次プロフィール情報とを夫々前記第1、第2の光学手段3、4の各光線傾斜角θ1、θ2に基づき補正し、補正後プロフィール情報を生成する。
【0042】
前記1次プロフィール情報は、第1の光学手段に関するものであって、管先端位置を原点とする光源位置のX軸方向の座標値(X1と記す)と当該光源位置からの距離計測値(S1と記す)の組を、測定順に配列したデータからなる。このデータは、iを配列順番、i番目のX1、S1を夫々X1
i、S1
iとし、(X1
i,S1
i)と表す。また、前記2次プロフィール情報は、第2の光学手段に関するものであって、管先端位置を原点とする光源位置のX軸方向の座標値(X2と記す)と当該光源位置からの距離計測値(S2と記す)の組を、測定順に配列したデータからなる。このデータは、jを配列順番、j番目のX2、S2を夫々X2
j、S2
jとし、(X2
j,S2
j)と表す。
【0043】
前記補正後プロフィール情報は、
図7に示すように、測定対象点が光線傾斜角90°で測定されたとしたときのプロフィール情報であり、全てのi、jについて次式で算出する。なお、補正後のデータの記号は、補正前の記号の頭にAを付したものとした。
【0044】
AX1
i=X1
i−S1
i×cosθ1
AS1
i=S1
i×sinθ1
AX2
j=X2
j−S2
j×cosθ2
AS2
j=S2
j×sinθ2
次に、第2の演算工程について説明する。
【0045】
第2の演算工程では、前記第1の演算工程で生成した前記補正後プロフィール情報である第1の光学手段のデータ(AX1
i,AS1
i)、及び第2の光学手段のデータ(AX2
j,AS2
j)を基に、全体プロフィール情報を生成する。
【0046】
第2の演算工程には、第1、第2の光学手段間の機差による距離計測値のずれを修正する前処理工程と、該前処理工程後の第1、第2の光学手段の各データ同士を結合する結合工程とがある。
【0047】
まず、前処理工程では、全てのjについて、次式で、BS2
jを算出する。
【0048】
BS2
j=AS2
j−ΔS
ここで、ΔSは、
図8に示すように、ねじ先端側の非ねじ部における、第1の光学系の距離計測値の代表値(DS1と記す)を基準として、この基準からの第2の光学系の距離計測値の代表値(DS2と記す)のずれ、すなわちΔS=DS2−DS1、である。このDS1、DS2は、例えば次のように算出する。すなわち、ねじ先端側の非ねじ部長さの設計値をLとして、L/3〜2×L/3の範囲内の、AX1
iに係るiの範囲と、AS2
jに係るjの範囲とを夫々求め、求めたiの範囲に係るAS1
iの平均値を算出してDS1とし、一方、求めた
jの範囲に係るAS2
jの平均値を算出してDS2とする。第1の光学手段の方を基準としたのは、基準測定対象とした非ねじ部への光線の入射角がより0°に近い第1の光学手段の方が、より真値に近い距離値を示すからである。
【0049】
次に、結合工程では、データ(AX1
i,AS1
i)とデータ(AX2
j,BS2
j)とを結合する。結合の方法は、データ(AX1
i,AS1
i)の中のフック状フランク部測定値を含む区域を被置換部とし、データ(AX2
j,BS2
j)中の対応する区域である置換部にて置換するものとする。この置換の仕方について
図9を用いて以下に説明する。
(a)まず、被置換部を決める(
図9(a)参照)。決め方は、全てのiについてデータ(AX1
i,AS1
i)の中から、隣接するiのAS1
i同士の差が閾値(例えば、ねじ山高さの設計値の1/2)以上になる、隣接するiの値m、m+1を求める。そして、データ(AX1
m,AS1
m)、(AX1
m+1,AS1
m+1)を被置換部とする。このようなmは1つのねじ山毎に1つずつ求まる。
(b)次に、置換部を決める(
図9(b)参照)。決め方は、全てのjについてデータ(AX2
j,BS2
j)の中から、データ(AX1
m,AS1
m)、(AX1
m+1,AS1
m+1)に夫々最も近いデータを求める。求まったデータが、i=mに対してはj=pのデータ(AX2
p,BS2
p)、i=m+1に対してはj=qのデータ(AX2
q,BS2
q)であるとする。そして、j=pからj=qまでのデータ(AX2
p,BS2
p)〜(AX2
q,BS2
q)を置換部とする。置換部のデータ個数(=q−p+1)は10個以上はある。
(c)最後に、被置換部を置換部で置換する(
図9(c)参照)。この置換に際し、i、jの二系列であったデータ配列順番を一元化して、図示のようにK系列とする。また、AX、ASと記していたのを夫々単純化して、X、Sと記す。また、記号X1、X2は記号Xに統一し、記号S1、S2も記号Sに統一する。かくして得られた全てのKについてのデータ(X
K,S
K)が、全体プロフィール情報である。尚、図中のK=Mに係るMは、i=1からi=m−1までの間で行われたいくつかの置換毎の置換部のデータ個数を全て合算してm−1に加算した値になる。
【0050】
次に、第3の演算工程について説明する。
【0051】
第3の演算工程は、全体プロフィール情報である前記データ(X
K,S
K)からねじ要素を算出する。ところで、ねじ要素には、ねじ半径方向寸法に関係するねじ形状項目が含まれている(前述の定義参照)が、データ(X
K,S
K)はねじ半径方向寸法情報を含んでいない。そこで、データ(X
K,S
K)を、ねじ半径方向寸法情報を含むデータ(X
K,r
K)に変換する。ここで、r
KはX軸(ねじ軸と位置合わせ済みである)からねじ部外面の測定対象点までの距離である。一方、S
Kは支軸2の軸線2Aから同じ測定対象点までの距離であり、支軸2の軸線2AからX軸までの距離(Rと記す)は既知である。従って、r
K=R−S
Kであり、データ(X
K,r
K)にはねじ半径方向寸法が含まれている。すなわち、全てのKにわたるデータ(X
K,r
K)は、ねじ半径方向寸法情報を含んだ全体プロフィール情報であり、これを用いれば、ねじ形状項目の算出に必要なデータを容易に抽出できて、ねじ要素を容易に算出することができる。
【0052】
本発明に係るねじ形状測定装置を用いた好ましい測定方法は、以下のとおりである。
(i) 前記ねじ軸探索手段にてねじ軸線を光学的に探索する。
(ii) 前記探索したねじ軸線に前記支軸の軸線からの光線傾斜角の定義平面を前記センタリング手段にて位置合わせする。
(iii) 前記第1、第2の光学手段にて前記1次プロフィール情報を取得する。
(iv) 前記信号処理手段にて前記第2の光学手段からの1次プロフィール情報から前記2次プロフィール情報を生成する。
(v) 前記取得した1次プロフィール情報および前記生成した2次プロフィール情報に基づいて前記ねじ要素演算手段にてねじ要素を演算する。
【0053】
また、前記ねじ要素演算手段にてねじ要素を演算する工程では、前記第1、第2、第3の演算工程をこの順に実行することが好ましい。
【実施例】
【0054】
本発明に係るねじ形状測定装置を、
図1に示した実施形態で、ねじ形状検査工程に使用し、油井管用ねじ継手のピンねじ部のねじ形状測定を100本行い、本発明例とした。このピンねじ部はテーパねじであり、ロードフランク部がフック状フランク部となっている。また、前記従来技術(C4)の方法で同じピンねじ部のねじ形状測定を100本行い、比較例とした。なお、レーザ変位計10としては、KEYENCE:LK−G30(登録商標)を使用した。
【0055】
その結果、ピンねじ部の円周方向4箇所で全長を同時に測定する場合において、測定の開始からねじ要素を算出するまでの、1本当たりに均した所要時間が、本発明例では、比較例と比べて約30%短縮した。
【0056】
また、ねじ幅の設計値と測定値の差の範囲が、比較例では±0.04mm以内であるが±0.02mm以内ではなくて不十分な測定精度であったが、本発明例では、±0.02mm以内であり、十分な測定精度であった。