特許第6248888号(P6248888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248888
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20171211BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20171211BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20171211BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M2/16 P
   H01M2/02 K
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-209890(P2014-209890)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-81635(P2016-81635A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼子 曜
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−017965(JP,A)
【文献】 特開2009−080999(JP,A)
【文献】 特開2012−038425(JP,A)
【文献】 特開2009−266589(JP,A)
【文献】 今村 健夫,プラスチック・データブック,日本,株式会社 工業調査会,1999年12月 1日,第1版,pp.54-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/04
H01M 10/06−10/34
H01M 6/00− 6/52
H01M 2/02− 2/08
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層が積層されている全固体電池であって、
前記セパレーター層が、固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子同士を結着しているポリマーバインダーとを有し、
前記全固体電池の周縁に配置されている周縁部材を有し、かつ前記ポリマーバインダーの熱膨張率が、前記周縁部材の熱膨張率よりも大きそれによって前記全固体電池が昇温した際に、前記セパレーター層の面方向への膨張を前記周縁部材が抑制して、前記セパレーター層を積層方向に膨張させる、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層が積層されている全固体電池に関する。さらに詳しくは、本発明は、全固体電池が昇温した際に、正極及び負極活物質層の間を効率的に絶縁し、電池の昇温を防止することができる、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解液を固体電解質に置換した全固体電池が注目されている。電解液を用いる二次電池と比較して、全固体電池は、電解液を用いないことから、過充電に起因する電解液の分解等を生じることなく、更に、高いサイクル耐久性及びエネルギー密度を有している。
【0003】
しかしながら、全固体電池の過充電又は放電等による自己発熱により、全固体電池のサイクル耐久性の劣化、並びに全固体電池及びその周辺部材の劣化が促進されてしまう問題がある。そのため、かかる課題の解決が望まれていた。
【0004】
特許文献1の電気化学デバイスは、正極又は負極と固体電解質層との間に、シャットダウン機構を備えたセパレーター層を有するとされている。
【0005】
特許文献2の二次電池は、正極、電解質層、及び負極を含む電極体の周縁部を絶縁材料で被覆することにより、電解質層の面方向への拡大を規制するとされている。
【0006】
特許文献3の電極体は、少なくとも正極及び負極活物質層の周縁部を絶縁材料で被覆することにより、周縁部における活物質層の変形や脱落等の発生を抑制するとされている。
【0007】
特許文献4の電池は、正極と無機固体電解質との間に多孔質材料を有することにより、無機固体電解質の劣化を抑制し、電池性能の低下を防止するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−92141号公報
【特許文献2】特開2008−84851号公報
【特許文献3】特開2012−38425号公報
【特許文献4】特開2009−224296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、全固体電池が昇温した際に、正極及び負極活物質層の間を効率的に絶縁し、電池の昇温を防止することができる、全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記のとおりである。
〈1〉正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層が積層されている全固体電池であって、
前記セパレーター層が、固体電解質粒子と、前記固体電解質粒子同士を結着しているポリマーバインダーとを有し、
前記全固体電池の周縁に配置されている周縁部材を有し、
前記ポリマーバインダーの熱膨張率が、前記周縁部材の熱膨張率よりも大きい、
全固体電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明の全固体電池によれば、全固体電池が昇温してセパレーター層が膨張した際に、周縁部材がセパレーター層の面方向の膨張を抑制し、結果として、セパレーター層を積層方向に大きく膨張させることによって、正極及び負極活物質層の間を効率的に絶縁し、電池の昇温を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層を有する本発明の全固体電池の概略斜視図である。
図2図2は、図1で示す全固体電池の周縁に周縁部材を配置した状態の概略正面図である。
図3図3は、ポリマーバインダーの熱膨張率(A)を周縁部材の熱膨張率(B)で除した値(A/B)と、全固体電池の自己発熱による温度の変化量(ΔT/℃)との関係を示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
〈全固体電池〉
本発明の全固体電池では、正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層が積層されている。
【0015】
そして、本発明の全固体電池のセパレーター層は、固体電解質粒子と、固体電解質粒子同士を結着しているポリマーバインダーとを有している。また、本発明の全固体電池は、全固体電池の周縁に配置されている周縁部材を有し、セパレーター層のポリマーバインダーの熱膨張率は、周縁部材の熱膨張率よりも大きい。
【0016】
セパレーター層が、ポリマーバインダーを有していることにより、全固体電池が昇温した際に、セパレーター層又は少なくともセパレーター層のポリマーバインダーが膨張することができる。これによって、セパレーター層内の固体電解質粒子の間の固固界面の接触が断裂し、又は接触面積が小さくなり、イオン伝導抵抗が上昇する。このように、正極及び負極活物質層の間のイオン伝導が、セパレーター層で絶縁されるため、全固体電池の昇温を防止することができる。
【0017】
また、周縁部材が全固体電池の周縁に配置されていることにより、全固体電池が昇温した際に、セパレーター層の面方向への膨張を周縁部材が抑制し、結果として、セパレーター層を積層方向に大きく膨張させることが可能となり、正極及び負極活物質層の間を効率的に絶縁し、全固体電池の昇温を防止することができる。
【0018】
さらに、セパレーター層のポリマーバインダー及び周縁部材は、セパレーター層のポリマーバインダーの熱膨張率が、周縁部材の熱膨張率よりも大きくなるように選択される。したがって、全固体電池が昇温した際に、セパレーター層のポリマーバインダーは、周縁部材よりも大きく膨張するため、セパレーター層を積層方向へ確実に膨張させることができる。
【0019】
また、複数の全固体電池が積層されているとき、そのうちの一部の全固体電池が昇温した場合でも、昇温した一部の全固体電池のみが効率的に絶縁されるため、他の全固体電池は通常どおり作動することができる。
【0020】
なお、周縁部材は、単一の全固体電池の周縁に配置してもよいが、これに限定されることなく、例えば、
(1)周縁部材を配置した単一の全固体電池を複数個で積層してよく;
(2)積層されている複数の全固体電池の周縁全体に周縁部材を配置してよく:又は
(3)積層されている複数の全固体電池のうちの一部の全固体電池の周縁、例えば、熱が溜まり易い積層方向中心部の全固体電池の周縁に周縁部材を配置してもよい。
【0021】
図1及び図2を参照して、本発明の全固体電池を説明する。図1は、それぞれ、正極集電体層110、正極活物質層120、セパレーター層130、負極活物質層140、及び負極集電体層150を有する本発明の全固体電池100の概略斜視図である。図2は、図1で示す全固体電池100の周縁に周縁部材210を配置した状態の概略正面図である。全固体電池100の正極集電体層110及び負極集電体層150の端部には、それぞれ、正極集電タブ160及び負極集電タブ170が設けられている。
【0022】
(周縁部材)
周縁部材の構成材料としては、セパレーター層のポリマーバインダーの熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する任意の構成材料を用いることができる。このような構成材料としては、セラミックス材料、又はポリマー材料、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネイト、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリエチレン(PE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、塩素化ポリプロピレン、飽和ポリエステル、エポキシ樹脂(EP)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、アイオノマー、カルボン酸変性ポリエチレン、カルボン酸変性ポリプロピレン、カルボン酸変性エチレンビニルアセテート共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、若しくはポリスチレン(PS)又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これに限定されない。
【0023】
周縁部材を全固体電池の周縁に形成する方法としては、周縁部材がポリマー材料で構成されている場合、ポリマー材料について一般に採用されている成形方法を任意に用いてよく、例えば、モールド成形などの射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形、インサート成形、又はプレス成形法等を挙げることができる。ポリマー材料で構成されている周縁部材を全固体電池の周縁に形成する方法としては、上記の中でも特に、モールド成形が好ましい。
【0024】
(正極及び負極集電体層)
正極又は負極集電体層としては、任意の集電体層を用いることができ、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、又はチタン等の各種金属の集電体層を用いることができる。
【0025】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質、並びに随意に導電助剤、バインダー、及び固体電解質粒子を含有している。
【0026】
正極活物質としては、マンガン、コバルト、ニッケル及びチタンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属及びリチウムを含む金属酸化物、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、及びニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li1+xNi1/3Co1/3Mn1/3)等を挙げることができる。
【0027】
なお、正極活物質は、任意選択的な緩衝膜を有してもよい。緩衝膜は、正極活物質と固体電解質との間の化学反応によって生じる電気抵抗が大きい金属硫化物の生成を抑制し、又はリチウムイオン欠乏層(空間電荷層)の成長を抑制し、全固体電池の出力を向上させることができる。緩衝膜は、電子絶縁性及びイオン伝導性を示し、且つカチオン拘束力が強いアニオン種を有することが好ましい。緩衝膜としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)等の酸化物固体電解質粒子が挙げられるが、これに限定されない。
【0028】
導電助剤としては、VGCF(気相成長法炭素繊維、Vapor Grown Carbon Fiber)、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンナノ繊維等の炭素材並びに金属材等を挙げることができる。
【0029】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、若しくはカルボキシメチルセルロース(CMC)等の材料又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これに限定されない。高温耐久性の観点から、バインダーは、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル、又はカルボキシメチルセルロース等が好ましい。
【0030】
固体電解質粒子としては、全固体電池の固体電解質として利用可能な材料を用いることができる。例えば、8LiO・67LiS・25P、LiS、P、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P若しくはLiI−LiS−B等の硫化物系非晶質固体電解質粒子、LiO−B−P若しくはLiO−SiO等の酸化物系非晶質固体電解質粒子、又はLi1.3Al0.3Ti0.7(PO若しくはLi1+x+yTi2−xSi3−y12(Aは、Al又はGa、0≦x≦0.4、0<y≦0.6)等の結晶質酸化物等を用いることができる。硫化物系非晶質固体電解質粒子が、優れたリチウムイオン伝導性を有する点で好ましく用いられる。
【0031】
(セパレーター層)
セパレーター層は、固体電解質粒子及び固体電解質粒子同士を結着しているポリマーバインダーを含有している。一般に、ポリマーバインダーは、固体電解質粒子よりも大きい熱膨張率を有する。固体電解質粒子及びポリマーバインダーの配合は、セパレーター層を膨張させる観点から、好ましくは1:99〜99:1の質量比で、更に好ましくは50:50〜99:1の質量比で、特に好ましくは80:20〜99:1の質量比でよい。
【0032】
セパレーター層の固体電解質粒子としては、正極活物質層に関して挙げた材料を用いることができる。
【0033】
ポリマーバインダーとしては、周縁部材の熱膨張率よりも大きい熱膨張率を有する任意の材料を用いることができる。このような材料としては、周縁部材に関して挙げた材料を用いることができる。
【0034】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質、並びに随意に導電助剤、バインダー、及び固体電解質粒子を含有している。
【0035】
負極活物質としては、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵・放出可能であれば特に限定されないが、例えば、Li、Sn、Si若しくはIn等の金属、リチウムとチタン、マグネシウム若しくはアルミニウムとの合金、又はハードカーボン、ソフトカーボン若しくはグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。
【0036】
負極活物質層の導電助剤、バインダー、及び固体電解質粒子としては、正極活物質層に関して挙げた材料を用いることができる。
【0037】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0038】
〈正極集電体層及び正極活物質層の作製〉
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、固体電解質粒子としての硫化物系非晶質粒子(8LiO・67LiS・25P)、及びバインダーとしてのブタジエンゴム(BR)を65:30:5の質量比で混合し、そこにヘプタンを溶媒として添加して正極合材スラリーを得た。このスラリーを正極集電体層としてのアルミ箔上に塗布して正極活物質層を作製した。なお、正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム粒子は、前もってニオブ酸リチウムで表面処理を施して7nmの緩衝膜で被覆した。
【0039】
〈負極集電体層及び負極活物質層の作製〉
負極活物質としてのカーボン、上記の固体電解質粒子、及び上記のバインダーを65:30:5の質量比で混合し、そこにヘプタンを溶媒として添加して負極合剤スラリーを得た。このスラリーを負極集電体層としての銅箔上に塗布して負極活物質層を作製した。
【0040】
〈セパレーター層の作製〉
上記の固体電解質粒子及びポリマーバインダーを90:10の質量比で混合し、そこにヘプタンを溶媒として添加することにより、セパレーター層用のスラリーを得た。このスラリーをアルミ箔上に塗布することにより、セパレーター層を作製した。
【0041】
なお、ポリマーバインダーとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)(実施例1)、ポリエチレン(PE)(実施例2)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(実施例3及び5、並びに比較例3)、ポリエチレンテレフタレート(PET)(実施例4)、高密度ポリエチレン(HDPE)(比較例1)、及びポリプロピレン(PP)(比較例2)を用いた。
【0042】
〈全固体電池の作製〉
上記の正極集電体層、正極活物質層、セパレーター層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で積層させ、複数の全固体単電池を作製した。さらに、これら複数の全固体単電池の正極集電体層同士及び負極集電体同士が重なるようにして、全固体単電池を20個積層させた。このとき、正極集電体層を、超音波接合により厚さ200μmの集電タブと接合させ、負極集電体層にも同様の処理を施した。そして、この積層されている全固体単電池の周縁に、ポリマー材料を用いてモールド成形することにより、周縁部材を形成して、全固体電池(50×50×3mm)を作製した。
【0043】
なお、周縁部材のためのポリマー材料としては、高密度ポリエチレン(HDPE)(実施例1)、ポリスチレン(PS)(実施例2及び3)、ポリプロピレン(PP)(実施例4)、エポキシ樹脂(EP)(実施例5)、低密度ポリエチレン(LDPE)(比較例1)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)(比較例2)を用いた。
【0044】
〈評価条件〉
上記の全固体電池を4.1Vで満充電し、この電池に既存の手法でARC測定(Accelerating Rate Calorimeter)を行い、250℃付近における全固体電池の自己発熱による温度変化量(ΔT/℃)を読み取った。なお、ARC測定は、断熱状態で全固体電池の周辺環境の温度を段階的に上昇させることにより、全固体電池を自己発熱させ、その温度変化を測定する方法である。
【0045】
〈結果〉
実施例及び比較例の条件の概要を下記の表1に示す。なお、表1において「A/B」はポリマー部材の熱膨張率(A)を周縁部材の熱膨張率(B)で除した値である。また、「A/B」と温度変化量(ΔT/℃)との関係を図3に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
上記の表1において、「A/B」が1超であることは、セパレーター層のポリマーバインダーの熱膨張率が、周縁部材の熱膨張率よりも大きいことを意味し、また、この値が1未満であることは、セパレーター層のポリマーバインダーの熱膨張率が、周縁部材の熱膨張率よりも小さいことを意味する。
【0048】
表1及び図3からは、「A/B」が1未満である比較例1〜3と比較して、「A/B」が1超である実施例1〜5では、温度変化量(ΔT/℃)が小さいことが分かる。これは、実施例1〜5では、ARC測定時に、周縁部材がセパレーター層の面方向への膨張を抑制することにより、セパレーター層の積層方向への膨張を促進し、ひいては、正極及び負極活物質層の間を効率的に絶縁して、電池の昇温を防止したことによると考えられる。
【0049】
本発明の好ましい実施形態を詳細に記載したが、特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明で使用される全固体電池、セパレーター層、ポリマーバインダー、及び周縁部材の配置及びタイプについて変更が可能であることを当業者は理解する。
【符号の説明】
【0050】
100 全固体電池
110 正極集電体層
120 正極活物質層
130 セパレーター層
140 負極活物質層
150 負極集電体層
160 正極集電タブ
170 負極集電タブ
200 周縁部材が配置された全固体電池
210 周縁部材
図1
図2
図3