(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248913
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】クロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置
(51)【国際特許分類】
B21B 15/00 20060101AFI20171211BHJP
B66D 1/26 20060101ALI20171211BHJP
B66D 1/54 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
B21B15/00 C
B66D1/26 D
B66D1/54 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-244820(P2014-244820)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-107284(P2016-107284A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】岡本 明彦
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】喜多 由忠
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭49−001383(JP,Y1)
【文献】
特開平09−010612(JP,A)
【文献】
実開昭49−130129(JP,U)
【文献】
実開昭60−145341(JP,U)
【文献】
特開平11−139778(JP,A)
【文献】
実開昭54−064141(JP,U)
【文献】
米国特許第04895079(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 15/00−15/02
B21B 39/00−41/12
B66B 15/00−19/06
B66C 13/00−15/06
B66D 1/00− 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロップカーに接続された複数のワイヤーを巻き上げて、クロップカーを斜面に沿って移動させる傾斜巻き上方式のクロップ排出装置に設置されるクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置であって、
それぞれのワイヤーが架け渡されるワイヤーシーブに負荷される荷重を検知するロードセルと、
ワイヤーの巻き上げ異常が生じていると判断しない不感時間後、複数のワイヤーシーブに設けられたロードセル間の差荷重に基づいて、ワイヤーの巻き上げに異常が生じているか否かを検知する制御装置と、を有するクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
【請求項2】
制御装置は、複数のワイヤーシーブに設けられたロードセル間の差荷重の絶対値が、予め定めた差荷重閾値よりも大きい場合には、ワイヤーの巻き上げに異常が生じていると判断する請求項1に記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
【請求項3】
制御装置は、複数のワイヤーシーブに設けられたロードセルの和荷重が、予め定めた和荷重閾値よりも大きく、かつ、差荷重の絶対値が予め定めた差荷重閾値よりも大きい場合に、ワイヤーの巻き上げに異常が生じていると判断する請求項1または2に記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
【請求項4】
ロードセルは、ワイヤーシーブの回転軸を支持する台座に設置されている請求項1乃至3のうちいずれかに記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生を防止することができるクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延工程や、一部の熱間圧延工程では、圧延材の非定常部である先後端部が切断され、先行材の後端と後行材の先端が順次溶接されて、連続した鋼帯として連続的に圧延処理が行われる。切断された圧延材の先後端は、クロップとして、クロップシュートを介しクロップカーに回収される。クロップが回収されたクロップカーは、クロップ排出装置によって、熱間圧延ラインの工場建屋外に移動させる。従来より、クロップカーを移動させるクロップ排出装置については、種々提案されている。例えば、クロップ排出装置としては、クロップカーの進行方向に対して後端に、左右1本ずつワイヤーを接続し、このワイヤーを巻き上げて、クロップカーを傾斜面に沿って引き上げるものがある(特許文献1の第2頁左欄)。
【0003】
このような傾斜巻き上方式のクロップ排出装置においては、従来から、熱間圧延工程で発生したクロップを、クロップシュートへ円滑に排出する手法が種々提案されている。
【0004】
特許文献2には、クロップの切断装置の近傍に振動音検出器等を設け、クロップのクロップシュートへの落下ミスを検出し、落下ミスが検出された際には、直ちに警報を発生させることが開示されている。
【0005】
また、クロップシュートから円滑にクロップをクロップカーに排出する機構についての提案も少数ながらされており、例えば、特許文献3には、両端にサイドガイドプレートを設けられ、サイドガイド間に平坦な滑降面を有するクロップシュートを介して、ライン直角方向のクロップバッグへ排出する機構において、クロップシュートの滑走面の全面を、ライン直角方向だけでなくライン方向にも傾斜させることにより、クロップがライン方向傾斜下流側のサイドガイドプレートのみにガイドされ滑走し、クロップの流れが一様になることでクロップ落下時の引っ掛りを回避すると共にクロップの排出形態を一様にする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平8−18050号公報
【特許文献2】特開昭51−3076号公報
【特許文献3】特許第4767609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2において提案された技術によって、クロップが確実にクロップシュートに落下し、かつ、特許文献3において提案された技術によって、クロップがサイドガイドにガイドされてクロップカーに回収されたとしても、クロップがランダムな位置にクロップカーに回収されることにより、クロップカーに均等に積載されない場合がある。また、クロップがクロップカーからはみ出して積載される場合もある。
【0008】
特に、クロップカーの移動を傾斜巻き上方式により行うクロップ排出装置においては、クロップの不均一な積載や、クロップのはみ出しが発生すると、クロップカーを左右1本ずつのワイヤーで牽引する場合には、片ワイヤーへ荷重が集中するのと共に、他方のワイヤーに巻き緩みが生じ、クロップカーを片吊り状態で引き上げてしまう。この結果、荷重集中したワイヤーが切断されて、ワイヤー張替えやクロップカーの脱線が発生する場合がある。このように、ワイヤー張替えやクロップカーの脱線が発生した場合には、トラブル復旧に長時間を要してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題に対してなされたものであり、クロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生を事前に検知することができるクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような目的を達成するために、以下のような特徴を有している。
[1] クロップカーに接続された複数のワイヤーを巻き上げて、クロップカーを斜面に沿って移動させる傾斜巻き上方式のクロップ排出装置に設置されるクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置であって、
それぞれのワイヤーが架け渡されるワイヤーシーブに負荷される荷重を検知するロードセルと、
複数のワイヤーシーブに設けられたロードセル間の差荷重に基づいて、ワイヤーの巻き上げに異常が生じているか否かを検知する制御装置と、を有するクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
[2] 制御装置は、複数のワイヤーシーブに設けられたロードセル間の差荷重の絶対値が、予め定めた差荷重閾値よりも大きい場合には、ワイヤーの巻き上げに異常が生じていると判断する[1]に記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
[3] 制御装置は、複数のワイヤーシーブに設けられたロードセルの和荷重が、予め定めた和荷重閾値よりも大きく、かつ、差荷重の絶対値が予め定めた差荷重閾値よりも大きい場合に、ワイヤーの巻き上げに異常が生じていると判断する[1]または[2]に記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
[4] ロードセルは、ワイヤーシーブの回転軸を支持する台座に設置されている請求項[1]乃至[3]のうちいずれかに記載のクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ロードセルによりクロップカーを巻き上げるワイヤーの片吊り状態を検知することができる。これにより、クロップの不均一積載やはみだし等が発生した場合にも、ワイヤーの切断、若しくは、クロップカーが脱線する前に、ワイヤーの巻き上げを自動停止させることができ、クロップカーの脱線およびワイヤーのたるみないしは切断によるワイヤーの張替えトラブルを未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置が適用されるクロップ排出装置の構成を示す図である。
【
図2】傾斜巻き上方式のクロップ排出装置を上から見た図であり、左図は、クロップカーを正常に引き上げている状態を示し、右図は、クロップカーの引き上げに片吊りが発生している状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明に係るクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置は、
図1に示すような傾斜巻き上方式のクロップ排出装置に適用される。
【0015】
熱間圧延工程等では、圧延材の非定常部である先後端が切断される。切断された先行端部はクロップとして、クロップシュート1を介しクロップカー2に回収される。傾斜巻き上方式のクロップ排出装置では、クロップカー2に複数のワイヤー3が接続されており、それぞれのワイヤーが、ワイヤーシーブ6に架け渡されている。
【0016】
この例では、クロップカー2の進行方向に対して左右対称にワイヤー3が接続されているものとする。なお、ワイヤー3の本数、接続位置については任意に設定することができる。
【0017】
このように構成されたクロップ排出装置では、ワイヤー3が、ワイヤードラム5の回転により巻き取られることで、クロップカー2が、斜面に設置されたレール4に沿って移動する。
【0018】
本発明に係るクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置は、それぞれのワイヤー3が架け渡されているワイヤーシーブ6に負荷される荷重を検知するロードセル7と、複数のワイヤーシーブ6に設けられたロードセル7間の差荷重に基づいて、ワイヤーの巻き上げに異常が生じているか否かを検知する制御装置(図示せず)を有している。
【0019】
具体的には、ロードセル7は、ワイヤーシーブ6の回転軸を保持する台座に設置されている。
【0020】
制御装置には、それぞれのワイヤー3に対応して設けられたロードセル7によって検出された荷重が入力されている。制御装置は、ロードセル7間の差荷重を算出する。制御装置は、算出したロードセル7間の差荷重の絶対値と、予め設定された差荷重閾値とを比較し、算出したロードセル7間の差荷重の絶対値がこの差荷重閾値を越えた場合に、ワイヤー3の巻き上げに異常が発生していると判断する。そして、異常が発生していると検知した際には、クロップカー2に接続されるワイヤー3の巻き上げを自動停止させる。
【0021】
図2は、傾斜巻き上方式のクロップ排出装置を上から見た図である。
図2の左図は、クロップカー2を正常に引き上げている状態を示し、右図は、クロップカー2の引き上げに片吊りが発生している状態を示している。
【0022】
図2の左図に示すように、クロップカー2が正常に引き上げられている場合には、左右のワイヤー3に均等に荷重がかかるが、右図に示すように、クロップカー2が片吊り状態の場合には、左右のロードセル7で検知される荷重の差が大きくなる。本発明では、この差荷重を、制御装置を用いて検知することにより、ワイヤー3が正常に巻き上げられているか否かを検知することができる。
【0023】
ワイヤー3の巻き上げ当初では、一方のワイヤー3にゆるみが発生し、他方のワイヤー3にゆるみが生じていない状態では、その後、一方のワイヤー3が巻き上げられることにより、一方のワイヤー3のゆるみが解消し、左右のワイヤー3のアンバランスが解消することがある。そのため、差荷重のみに基づいて巻き上げの異常を検知すると、ワイヤー3の巻き上げ当初に差荷重の絶対値が差荷重閾値以上となり、巻き上げの異常を誤検出するおそれがある。そこで、このような巻き上げ開始直後の誤検出を避けるため、複数のワイヤーシーブ6に設けられたロードセル7の和荷重が予め定めた和荷重閾値よりも小さい場合には、差荷重の絶対値が差荷重閾値以上であっても、異常が生じていると判断しないように構成することが好ましい。
【0024】
具体的には、制御装置は、和荷重が所定の和荷重閾値以上であり、かつ、差荷重が所定の差荷重閾値以上となった場合にのみ、ワイヤー3の巻き上げに異常が発生していると判断することが好ましい。
【0025】
なお、差荷重に加えて和荷重を判定する他に、巻き上げ開始直後は、ワイヤー3の巻き上げに異常が発生していると判断しない時間(不感時間)を設けるように構成してもよい。
【実施例】
【0026】
図1に示すように、本発明を適用し、2本のワイヤー3を巻き上げる各ワイヤーシーブ6の回転軸を保持する台座に、ロードセル7を導入し、それぞれのワイヤー3への負荷を検出できるようにした。そして、制御装置によって、ロードセル7で検知された差荷重を算出し、クロップカー2が正常に吊り上げられているか検知した。
【0027】
図3に、実操業時(トラブル発生なし時)において、算出された和荷重および差荷重の値の推移を示す。クロップカー2の吊り上げ開始から10sec付近までは、ワイヤー3に初期緩み量があるため、和荷重および差荷重ともに0tonである。ワイヤー3が巻き上げられると、次第に和荷重が増大し、クロップカー2の上限位置付近で最大値となる。また、吊り上げ開始からクロップカー2の上限位置付近に至るまで、差荷重(絶対値)は、1ton未満であった。クロップカー2が上限位置に達すると、クロップがクレーン等で排出されるため、和荷重が減少した。クロップカー2が上限位置に達した後は、差荷重は拡大した。
【0028】
実施例では、ワイヤー3の巻き上げ開始時の異常が発生していない状態での誤検出を避けるため、差荷重閾値に加え、和荷重閾値を設定した。具体的には、
図3の傾向を参考に、和荷重閾値を3ton、差荷重閾値を2tonとし、和荷重および差荷重がともにそれぞれの閾値を超えた時間が1sec以上継続した際には、ワイヤー3の巻き上げに異常が発生していると判断し、ワイヤー3の巻き上げを自動停止させるように設定した。
【0029】
上記のように、本発明に係るクロップカーの脱線およびワイヤートラブルの発生検知装置を適用した結果、クロップカーの脱線およびワイヤートラブルに起因する復旧時間の削減効果として、ライン停止時間を月平均2.6時間削減することができるという良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0030】
1 クロップシュート
2 クロップカー
3 ワイヤー
4 レール
5 ワイヤードラム
6 ワイヤーシーブ
7 ロードセル