特許第6248925号(P6248925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6248925-R−T−B系焼結磁石の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248925
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】R−T−B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20171211BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20171211BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20171211BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171211BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20171211BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20171211BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   B22F3/24 K
   C22C38/00 303D
   C22C28/00 A
   C22C33/02 H
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-507582(P2014-507582)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2013055411
(87)【国際公開番号】WO2013146073
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-79305(P2012-79305)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】小幡 徹
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−233554(JP,A)
【文献】 特開2009−200180(JP,A)
【文献】 特開2007−329250(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/004867(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/008426(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/043061(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/102391(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117、7/00−7/02、
H01F 41/00−41/04
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、5/00−25/00、
C22C 27/00−28/00、30/00−30/06
C22C 33/02、35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金、ただし、重希土類元素RHは、DyおよびTbの少なくとも一種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)とを、高融点金属から形成された網を介して交互に配置し、前記網が前記RH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石体に接触している積層体を構成する工程と、
前記積層体を処理容器内に配置する工程と、
前記処理容器内の圧力を2.0Pa以上50Pa以下、温度を800℃以上950℃以下でRH供給拡散処理を行う工程(A)と、
前記処理容器内の圧力を150Pa以上2kPa以下、温度を800℃以上950℃以下でRH拡散処理を行う工程(B)と、
を含み、
前記工程(A)と前記工程(B)を交互に2回以上繰り返す工程と、
を含むR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記の厚さが0.1mm以上4mm以下である請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)と前記工程(B)を交互に2回以上繰り返した後、処理容器内の温度を1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で500℃まで冷却する、請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う、請求項1から3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R−T−B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「R−T−B」のRは希土類元素のうち少なくとも一種である。また、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む。Bは硼素である。ここで希土類元素とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を意味する。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車載用モータ等の各種モータに使用されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する)が低下し、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高いHcJを維持することが要求されている。
【0005】
近年、R−T−B系焼結磁石のHcJ向上を目的として、R−T−B系焼結磁石表面に蒸着手段を用いてDy、Tb等の重希土類元素RHを供給し、その重希土類元素RHを磁石内部へ拡散することによって、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」と記載する)の低下を抑制しつつ、HcJを向上させる方法(以下、「蒸着拡散処理方法」と記載する。)が提案されている。
【0006】
特許文献1は、蒸着拡散処理方法において、R−T−B系焼結磁石と重希土類元素RHを含有するバルク体とを、Nb網とスペーサ部材により離間して配置し、これらを所定温度に加熱することにより、前記バルク体から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石の内部に拡散させる方法を開示している。
【0007】
特許文献2は、蒸着拡散処理方法において、処理容器内にR−T−B系焼結磁石体と重希土類元素RHを含有するRH拡散源とを高融点金属からなる支持部材と支柱により離間して配置し、前記処理容器内を所定温度に加熱することにより、前記RH拡散源から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させるRH供給工程(A)と、R−T−B系焼結磁石体の加熱状態を維持したまま、RH拡散源から焼結磁石体への重希土類元素RHの供給を中断し維持するRH拡散工程(B)とを含み、工程(A)及び工程(B)を2回以上繰り返す方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/102391号
【特許文献2】特開2011−233554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、蒸着拡散処理方法により、R−T−B系焼結磁石の主相外殻部に重希土類元素RHの濃縮層を形成する。その際、重希土類元素RHが、R−T−B系焼結磁石の表面から当該R−T−B系焼結磁石の内部に拡散すると同時に、前記R−T−B系焼結磁石の内部に含まれている軽希土類元素RL(RLは、NdおよびPrの少なくとも一種)を主体とする液相成分が、前記R−T−B系焼結磁石の表面に向かって拡散する。この様に、前記重希土類元素RHが、前記R−T−B系焼結磁石の表面から内部へ、前記軽希土類元素RLが、前記R−T−B系焼結磁石の内部から表面へと相互に拡散が起こることにより、R−T−B系焼結磁石表面に、軽希土類元素RLを主体とする溶出部分が形成される。この部分は、R−T−B系焼結磁石を支持するNb網と固着(以下、「溶着」と記載する)してしまう可能性がある。
【0010】
特許文献2に開示されている方法では、RH供給工程(A)において、特許文献1に開示されている方法と同様の蒸着拡散処理が実施される。そのため、特許文献1に開示されている方法と同様に、支持部材とR−T−B系焼結磁石とが溶着してしまう可能性がある。
【0011】
重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多となると、上記のような相互拡散が多く起こり、溶着が多発する。そのため、特許文献1,2においては、重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石への供給が過多とならないように、R−T−B系焼結磁石を載せたNb網(特許文献2の保持部材に相当)とバルク体(特許文献2のRH拡散源に相当)との間及びバルク体を載せたNb網とR−T−B系焼結磁石との間にスペーサ部材(特許文献2の支柱に相当)を配置して空間を持たせている。しかし、その結果、多量のR−T−B系焼結磁石を処理するときに、一回の処理量を増加させることができないという問題があった。
【0012】
本開示の実施形態は、R−T−B系焼結磁石と保持部材とが溶着せずに1回あたりの処理量を増加させ、生産効率を向上させる、R−TB系焼結磁石の製造方法の提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示によるR−T−B系焼結磁石の製造方法は、RH拡散源(重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金。ただし、重希土類元素RHは、DyおよびTbの少なくとも一種)とR−T−B系焼結磁石体(Rは希土類元素のうち少なくとも一種、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種であり、Feを必ず含む)とを開口部を有する平板状の保持部材を介して交互に配置し、積層体を構成する工程と、前記積層体を処理容器内に配置する工程と、前記処理容器内の圧力を2.0Pa以上50Pa以下、温度を800℃以上950℃以下でRH供給拡散処理を行う工程(A)と、前記処理容器内の圧力を150Pa以上2kPa以下、温度を800℃以上950℃以下でRH拡散処理を行う工程(B)とを含み、前記工程(A)と前記工程(B)を交互に2回以上繰り返す、ことを特徴とする。
【0014】
ある実施形態において、前記保持部材の厚さが0.1mm以上4mm以下である。
【0015】
ある実施形態においては、前記工程(A)及び前記工程(B)を交互に2回以上繰り返した後、処理容器内の温度を1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で500℃まで冷却する。
【0016】
ある実施形態においては、前記処理容器内をロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプを用いて真空排気処理を行う。
【発明の効果】
【0017】
本開示の実施形態は、2.0Pa以上50Pa以下という圧力でRH供給拡散処理を行う工程と、150Pa以上2kPa以下の圧力でRH拡散処理を行う工程とを交互に2回以上繰り返すことにより、重希土類元素RHが一気にR−T−B系焼結磁石体へ供給されることを抑制し、重希土類元素RHの供給過多を防ぐことができる。これにより、R−T−B系焼結磁石体と保持部材との溶着が起こらない。そのため、開口部を有する平板状の保持部材を介してR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源を直接、積層させることができ、RH供給拡散処理およびRH拡散処理1回あたりのR−T−B系焼結磁石体の処理量を増加させ、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示における積層体の構成の一例を示す説明図である。
図2】本開示における積層体の構成の一例を示す説明図である。
図3】保持部材へのR−T−B系焼結磁石体の配置状況の一例を示す説明図である。
図4】保持部材へのRH拡散源の配置状況の一例を示す説明図である。
図5】RH供給拡散処理を行う工程(A)とRH拡散処理を行う工程(B)の繰り返し例を示す説明図であり、(a)は、工程(A)と工程(B)を繰り返さない(1サイクル)例を示し、(b)は、工程(A)と工程(B)を3回繰り返す(3サイクル)例を示し、(c)は、工程(A)と工程(B)を6回繰り返す(6サイクル)例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の実施形態では、上述したような特定の圧力範囲でRH供給拡散処理を行う工程(A)の後に前記圧力範囲より高い圧力範囲でRH拡散処理を行う工程(B)を行い、(A)と(B)の工程を交互に2回以上繰り返す。すなわち工程(A)では、処理容器内を2.0Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行うことにより、RH拡散源からR−T−B系焼結磁石体への重希土類元素RHの供給過多を抑制することができる。しかし、RH供給拡散時に、重希土類元素RHの供給が抑えられていても、所望の磁気特性を得るために必要な重希土類元素RHの供給が継続されると、徐々に供給が過多となっていき、結果として溶着が発生することになる。本開示は、所望の磁気特性を得るために必要な重希土類元素RHの供給を、RH供給拡散処理を複数回に分けて行い、かつRH拡散処理をそれぞれのRH供給拡散処理の後に実行することで、「供給拡散」と「拡散」を繰り返す。これにより、供給が過多となることを防止することができる。なお、RH供給拡散処理を行う工程で重希土類元素RHの供給過多が抑制されていないと、単に、RH供給拡散処理を行う工程とRH拡散処理を行う工程を2回以上繰り返しても、溶着が発生してしまう。「供給拡散」と「拡散」を繰り返すだけでは、溶着を低減できる効果は少ない。すなわち、本開示は、前記の通り、RH供給拡散処理において特定の圧力範囲にした上で、RH供給拡散処理を行う工程とRH拡散処理を行う工程を2回以上繰り返すことで、溶着をなくすことを可能としている。
【0020】
本開示において、RH拡散源より重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる処理を「RH供給拡散処理」という。また、RH拡散源から重希土類元素RHを供給せず、R−T−B系焼結磁石体内部への拡散のみを行う処理を「RH拡散処理」という。さらに、RH供給拡散処理とRH拡散処理を2回以上繰り返した後に、R−T−B系焼結磁石の磁気特性向上を目的として行う熱処理を単に「熱処理」という。
【0021】
また、本開示において、RH供給拡散処理とRH拡散処理とを繰り返し処理する前およびRH供給拡散処理中やRH拡散処理中のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石体」とし、RH供給拡散後とRH拡散処理を繰り返し処理した後のR−T−B系焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石」とし、それぞれ区別して表記する。
【0022】
[RH拡散源]
RH拡散源は、重希土類元素RHを80原子%以上含む金属または合金であり、前記重希土類元素RHは、Dy、Tbのうち少なくとも一種であり、例えば、Dyメタル、Tbメタル、DyFe合金、TbFe合金などである。Dy、Tb、Fe以外に他の元素を含んでも良い、RH拡散源は、重希土類元素RHを80原子%以上含むことが好ましい。重希土類元素RHの含有量が80原子%よりも少なくなると、RH拡散源からの重希土類元素RHの供給量が少なくなり、所望のHcJ向上効果を得るために処理時間が非常に長くなる為、好ましくない。
【0023】
RH拡散源の形状は、例えば、板状、ブロック形状など任意であり、大きさも特に限定されない。ただし、RH供給拡散処理の処理量を高める為には、厚さ0.5〜5.0mmで板状のRH拡散源が好ましい。
【0024】
ここで、RH拡散源は、Dy、Tb以外に本開示の効果を損なわない限りにおいて、Nd、Pr、La、Ce、Zn、Zr、Sn、Co、Al、Fe、F、NおよびOからなる群から選択された一種を含有してもよい。
【0025】
[R−T−B系焼結磁石体]
R−T−B系焼結磁石体は、公知の組成、製造方法によって製造されたものを用いることができる。
【0026】
[積層体を構成する工程]
本開示は、RH供給拡散処理を行う工程の前に、まず、処理容器内に、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを、保持部材を介して交互に積層し、積層体5を構成する。具体的には、図1に示すように、処理容器1内の底部から保持部材4、RH拡散源3、保持部材4、R−T−B系焼結磁石体2、保持部材4、RH拡散源3、保持部材4、R−T−B系焼結磁石体2をこの順序で積層して、積層体5を構成する。保持部材4の厚さを調整することで、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を調整することができる。
【0027】
図2のように、処理容器1内に前記積層体5を複数個重ねることにより、1回に大量のR−T−B系焼結磁石体2をRH供給拡散処理およびRH拡散処理することが可能である。
【0028】
R−T−B系焼結磁石体2やRH拡散源3を保持する保持部材4は、開口部を有する平板状の部材である。保持部材4は、例えばNb網やMo網などであり得る。保持部材4は、厚さが0.1mm以上4mm以下であることが好ましい。0.1mm未満では、工業上製作することが難しく、また強度の面からもR−T−B系焼結磁石体2やRH拡散源3を保持できない恐れがある。また、平板上の保持部材4は、平板部分から直立する壁面や凸部を有していても良い。
【0029】
本開示は、処理容器1内を2.0Pa以上50Pa以下の圧力にてRH供給拡散処理を行うため、RH拡散源3から多量の重希土類元素RHが供給されることはない。従って、4mmを超えるとR−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離が離れすぎてしまい、RH拡散源3からR−T−B系焼結磁石体2への重希土類元素RHの供給量が少なく、RH供給拡散処理を十分に行うことができない恐れがある。保持部材4の開口率は、効率よくRH供給拡散処理ができるように、50%以上を有することが好ましく、さらに好ましくは70%以上である。
【0030】
処理容器1や保持部材4は、Nb、Mo、W、Taなどの高融点金属や窒化硼素、ジルコニア、アルミナ、イットリア、カルシア、マグネシアなどを含むセラミックス材料等、RH供給拡散処理時やRH拡散処理時に、変形や変質を発生し難い材料で構成することが好ましい。
【0031】
図3のように、保持部材4上に配置するR−T−B系焼結磁石体2は、隣り合うR−T−B系焼結磁石体2どうしがRH供給拡散処理によって溶出した軽希土類元素RLで溶着しないように、間隔をあけて配置することが好ましい。また、保持部材4上に配置するRH拡散源3は、R−T−B系焼結磁石体2と同様に間隔をあけて配置してもよいし、図4のように、間隔を開けずに配置してもよく、R−T−B系焼結磁石体2の配置に応じて適宜選定すればよい。なお、ある実施形態では、積層体の各層が一様な厚さを有するように複数の拡散源または複数の磁石体は略同じ高さを有するものが各層に配置される。
【0032】
[RH供給拡散処理を行う工程]
前記積層体を処理容器内に配置し、前記処理容器内を2.0Pa以上50Pa以下、800℃以上950℃以下の雰囲気にしてRH供給拡散処理を行う。すなわち、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源を加熱し、RH拡散源から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の内部に拡散させる。以下、RH供給拡散処理を行う工程を「工程(A)」という。
【0033】
工程(A)において、処理容器内の圧力は、2.0Pa未満であるとR−T−B系焼結磁石体と保持部材とが溶着しやすくなる。また、50Paを超えると重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給を十分に確保できず、所望のHcJ向上効果を得られない恐れがある。
【0034】
工程(A)において、処理容器内の温度は、800℃未満であると重希土類元素RHのR−T−B系焼結磁石体への供給が十分に確保できない恐れがある。また、950℃を超えると処理容器内の圧力が2.0Pa以上50Pa以下であってもR−T−B系焼結磁石体と保持部材とが溶着してしまう。
【0035】
[RH拡散処理を行う工程]
工程(A)の後、処理容器内の圧力を重希土類元素RHの蒸気圧よりも高い150Pa以上2kPa以下に上昇させRH拡散処理を行う。すなわち、RH拡散源からの重希土類元素RHの供給を抑制し、R−T−B系焼結磁石体内部へ拡散のみを行う。以下、このRH拡散処理を行う工程を「工程(B)」という。
【0036】
工程(B)において、処理容器内の圧力は、150Pa未満であると重希土類元素RHの供給を十分に抑制できない恐れがある。処理容器内の圧力の上限は2kPa以下としているが、これは(A)工程と(B)工程の繰り返しを円滑に行い、量産性を向上させるためであり、量産性を考慮しない場合は2kPaを超えても(例えば大気圧)かまわない。
【0037】
工程(B)は、必ずしも重希土類元素RHの供給を完全に中断する必要はない。RH拡散源からの重希土類元素RHの供給が十分に抑制されていれば、本開示の効果を得ることは可能である。
【0038】
工程(B)において、処理容器内の温度は、必ずしもその前に行った工程(A)の温度と同じ温度で行う必要はなく、800℃以上950℃以下の範囲で行えばよい。ただし、生産効率の点からは、工程(A)の温度と同じ温度で行うことが好ましい。ここでいう同じ温度とは、両者の温度差が20℃以内にあることを意味するものとする。
【0039】
[工程(A)と工程(B)を交互に2回以上繰り返す工程]
次に、RH供給拡散処理を行う工程(A)とRH拡散処理を行う工程(B)を交互に2回以上繰り返し行う。図5は、重希土類元素RHとしてDyを用いた場合の工程(A)と工程(B)の繰り返し例を示す説明図である。図5(a)は、工程(A)3時間と工程(B)6時間を1回のみ行う、すなわち繰り返し行わない(1サイクル)従来例を示している。図5(b)は、工程(A)1時間と工程(B)2時間とを3回繰り返す(3サイクル)本開示の例を示し、図5(c)は、工程(A)0.5時間と工程(B)1時間とを6回繰り返す(6サイクル)本開示の例を示している。図5(a)〜(c)いずれも繰り返し回数(サイクル数)が増加しても、工程(A)の合計処理時間は3時間であり、工程(B)の合計処理時間は、図5(a)〜(c)いずれも6時間である。なお、工程(A)では、処理容器内の圧力を2.0Paに制御し、工程(B)では、処理容器内の圧力を500Paにしている。また、工程(A)および工程(B)の処理温度は、一定(900℃)に保持しており、圧力を制御することにより、Dyの供給を断続的に繰り返している。
【0040】
図5(b)および図5(c)の例は、図5(a)の従来例と対比するため、工程(A)および工程(B)の合計処理時間を3時間および6時間に設定し、各工程における処理時間も一定にしているが、本開示は、このような例に限定されない。サイクル毎に工程(A)および/または工程(B)の処理時間を変化させても良い。また、合計処理時間は、供給すべきDy量やR−T−B系焼結磁石体の形状および大きさに応じて適宜設定すればよい。また、処理温度も常に一定に保持される必要はない。例えば、6サイクルの処理工程を繰り返す場合、最初の3サイクルは、900℃、残りの3サイクルは、850℃に保持させても良い。
【0041】
工程(A)や工程(B)それぞれの合計処理時間は、20分〜20時間で処理することが好ましい。合計処理時間が20分未満であると、所望のHcJ向上効果が得られない恐れがある。他方、20時間を超えると、処理時間が長すぎる為、製造コストの増加を招く恐れがある。また、工程(A)や工程(B)それぞれの1回の処理時間は3分〜3時間で処理することが好ましい。1回の処理時間が3分未満であると、工程(A)と工程(B)との圧力の切り替え回数が多くなり、製造コストの増加を招く恐れがある。他方、3時間を超えると、処理時間が長すぎる為、製造コストの増加を招く恐れがあり、さらに、工程(A)においては溶着の恐れもある。但し、上記時間外であっても、処理時間は、R−T−B系焼結磁石体およびRH拡散源の挿入量、形状、処理圧力、処理温度などによって適宜選定すればよい。
【0042】
工程(A)と工程(B)を交互に2回以上繰り返した後、処理容器内の温度を1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で500まで冷却することにより、さらにHcJを向上させることができる。1℃/分未満であると、冷却時間が長すぎる為、製造コストの増大を招く恐れがある。15℃/分を超えると冷却速度によるHcJ向上効果が得られない恐れがある。
【0043】
[熱処理]
工程(A)と工程(B)を交互に2回以上繰り返す工程の後に、R−T−B系焼結磁石の磁気特性向上を目的として行う熱処理を施してもよい。この熱処理は、公知のR−T−B系焼結磁石体の製造方法において、焼結後に実施される熱処理と同様である。熱処理雰囲気、熱処理温度などは、公知の条件を採用すればよい。
【0044】
[処理装置]
RH供給拡散処理やRH拡散処理を行うための処理装置は、公知のバッチ式の熱処理炉や連続式の熱処理炉で行うことができる。本開示では、2.0Pa以上の比較的高い圧力でRH供給拡散処理やRH拡散処理を行うことができるので、10−2Pa以下の低い圧力を発生させるクライオポンプや油拡散ポンプなどの高価なポンプは必要なく、ロータリーポンプまたはロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプといった安価なポンプで実施することができる。
【0045】
[加工、表面処理]
工程(A)と工程(B)を交互に2回以上繰り返す工程の後のR−T−B系焼結磁石に、寸法調整のための加工を行っても良い。このような工程を経ても、磁気特性向上効果はほとんど変わらない。寸法調整のための加工量は、1〜300μm、より好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは、10〜30μmである。また、工程(A)と工程(B)を交互に2回以上繰り返す工程の後のR−T−B系焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、公知の表面処理で良く、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗装などの表面処理を行うことができる。表面処理を行う前に、サンドブラスト処理、バレル研磨処理、機械研磨、酸洗浄等の公知の前処理を行っても良い。
【0046】
(実施例1)
Nd22.3%、Pr6.2%、Dy4.0%、B1.0%、Co0.9%、Cu0.1%、Al0.2%、Ga0.1%、残部Fe(単位は質量%)の組成を有するR−TB系焼結磁石体を作製した。熱処理後の磁気特性は、Br=1.35T、HcJ=1730kA/mであった。
【0047】
R−T−B系焼結磁石体を厚さ5mm×幅40mm×長さ60mmに加工した。RH拡散源は、厚さ3mm×幅27mm×長さ270mmのDyメタルを準備した。保持部材は、厚さ2mm×幅300mm×長さ400mm、4メッシュの平板形状のMo製網を準備した。保持部材の厚さを2mmとすることで、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との距離を2mmに設定した。
【0048】
図1のように、保持部材4を介して、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3を積層した。処理容器の寸法は、高さ60mm×幅320mm×長さ420mmであった。
【0049】
処理容器1内を、900℃になるまで昇温した後、RH供給拡散処理0.5時間とRH拡散処理1時間とを6サイクル行った。RH供給拡散処理は、処理容器内の圧力を3.0Paに制御し、RH拡散処理は、処理容器内の圧力を1.5kPaに制御した。RH供給拡散処理は、ロータリーポンプおよびメカニカルブースターポンプ、RH拡散処理は、ロータリーポンプをそれぞれ使用した。
【0050】
RH供給拡散処理とRH拡散処理を6サイクル行った後、処理容器内の温度を900℃から500℃までガス冷却(80℃/分)により急冷した。その後、熱処理(圧力2Pa、500℃で60分)を行い、R−T−B系焼結磁石を作製した。
【0051】
(実施例2)
RH供給拡散処理1時間とRH拡散処理2時間とを3サイクル行ったこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0052】
(実施例3)
RH供給拡散処理とRH拡散処理を繰り返し行った後の処理容器内の温度を900℃から500℃までガス冷却(80℃/分)により急冷することを、処理容器内の温度を900℃から500まで3℃/分の冷却速度で冷却し、500℃から室温までガス冷却(80℃/分)により急冷することへ変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を製作した。
【0053】
(比較例1)
RH供給拡散処理3時間とRH拡散処理6時間とを1サイクル行ったこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0054】
(比較例2)
RH供給拡散処理時の処理容器内の圧力を3.0Paから、油拡散ポンプを用いて10−3Paへ変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を製作した。
【0055】
(比較例3)
RH供給拡散処理時の処理容器内の圧力を3.0Paから、油圧拡散ポンプを用いて10−3Paへ変更したこと、および、RH供給拡散処理3時間とRH拡散処理6時間とを1サイクル行ったこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0056】
(比較例4)
RH供給拡散処理時の処理容器内の圧力を3.0Paから、油圧拡散ポンプを用いて10−3Paへ変更したこと、RH供給拡散処理3時間とRH拡散処理6時間とを1サイクル行ったこと、保持部材の厚さを8mmとし、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を2mmから8mmへ変更したこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を製作した。
【0057】
(比較例5)
RH供給拡散処理時の処理容器内の圧力を3.0Paから40000Paに変更したこと、RH供給拡散処理3時間とRH拡散処理6時間とを1サイクル行ったこと以外は、実施例1と同じ条件でR−T−B系焼結磁石を作製した。
【0058】
実施例1〜3、比較例1〜5の結果を表1に示す。「RH供給拡散処理圧力」は、RH供給拡散処理時の処理容器内の圧力を示す。「距離」は、R−T−B系焼結磁石体2とRH拡散源3との距離を示す。「RH供給拡散処理合計時間」は、RH供給拡散処理の合計の時間を示す。「RH拡散処理合計時間」は、RH拡散処理の合計の時間を示す。「サイクル数」は、RH供給拡散処理の後、RH拡散処理を行うことを1回とカウントする。「処理数」は、実施例1〜3、比較例1〜5それぞれに使用した、R−T−B系焼結磁石体2の数を示す。「HcJ」は、処理後のR−T−B系焼結磁石のHcJを示す。「Br」は、処理後のR−T−B系焼結磁石のBrを示す。「溶着の数」は、R−T−B系焼結磁石を保持部材4より取り外した時に溶着跡が発生した磁石の数を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す通り、RH供給拡散処理の圧力を3.0Paとした実施例1〜3は、高いHcJが得られ、Brの低下がなく、溶着跡の発生もなかった。比較例1のように、RH供給拡散処理の圧力が3.0Paであっても、サイクル数が1回では、一部に溶着跡の発生(15個)が見られた。一方、RH供給拡散処理の圧力を10−3Paとした比較例2〜4では、比較例2のようにサイクル数が6回であっても溶着跡の発生(148個)が見られ、比較例3のようにサイクル数が1回では、溶着によってR−T−B系焼結磁石が保持部材から剥がれなかった。保持部材の厚さを8mmとし、R−T−B系焼結磁石とRH拡散源との距離を離した比較例4は、溶着跡の発生は、比較例2、3に比べ減少したが、距離を離したため、処理数が大幅に減った(168個→126個)。さらに、RH供給拡散処理の圧力を40000Paとした比較例5は、溶着跡の発生はなかったが、高いHcJが得られなかった。
【0061】
以上の結果から分かるように、実施例1〜3が量産に適した方法であり、R−T−B系焼結磁石体と保持部材とが溶着せずに、1回あたりのRH拡散処理量を増やすことができる。なお、900℃から500℃までガス冷却(80℃/分)した実施例1の場合と冷却条件が900℃から500まで3℃/分の冷却速度で冷却し、500℃から室温までガス冷却(80℃/分)により急冷した実施例3の場合とでは、実施例3の方が高いHcJが得られた。
【0062】
(実施例4)
表2は、実施例1と同じ条件で、RH供給拡散処理とRH拡散処理とを繰り返し6回処理した後の処理容器内の各冷却条件を示す。表2中の(1)〜(9)の「冷却条件」は、RH供給拡散処理とRH拡散処理とを繰り返し6回処理した後の処理容器内の温度(900℃)から500℃までの冷却速度を示す。いずれの場合も500℃から室温まではガス冷却(80℃/分)により急冷した。本開示における室温とは、20℃±15℃の範囲をいう。「HcJ」は、(1)〜(9)の冷却条件でそれぞれ冷却処理した後のR−T−B系焼結磁石のHcJを示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2のように、処理容器内の温度を900℃から500℃まで80℃/分で急冷した(9)よりも、処理容器内の温度を900℃から500℃まで20℃/分〜1℃/分で冷却した(1)〜(8)の方が高いHcJの向上効果が得られた。さらに、15℃/分以下(表2中(2)〜(8))の冷却条件の方がより高いHcJ向上効果が得られた。よって、RH供給拡散処理後の処理容器内の温度(800℃以上950℃以下)から500℃までの冷却を、1℃/分以上15℃/分以下の冷却速度で冷却することが望ましい。また、2℃/分(表2中(7))と1℃/分(表2中(8))との冷却条件ではほとんどHcJ向上効果に差が無かった。そのため、HcJ向上効果、生産効率を考慮すると、2℃/分〜5℃/分がさらに好ましく、最も好ましくは、2℃/分〜3℃/分である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示のR−T−B系焼結磁石の製造方法は、各種モータに好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0066】
1 処理容器
2 R−T−B系焼結磁石体
3 RH拡散源
4 保持部材
5 積層体
図1
図2
図3
図4
図5