(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248939
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 163/00 20060101AFI20171211BHJP
C10M 169/06 20060101ALI20171211BHJP
C10M 159/06 20060101ALN20171211BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20171211BHJP
C10M 135/18 20060101ALN20171211BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20171211BHJP
C10M 159/08 20060101ALN20171211BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20171211BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20171211BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20171211BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20171211BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20171211BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20171211BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M169/06
!C10M159/06
!C10M135/10
!C10M135/18
!C10M115/08
!C10M159/08
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:04
C10N50:10
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-539852(P2014-539852)
(86)(22)【出願日】2013年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2013077138
(87)【国際公開番号】WO2014054797
(87)【国際公開日】20140410
【審査請求日】2016年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-223388(P2012-223388)
(32)【優先日】2012年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
【審査官】
牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−150579(JP,A)
【文献】
特開2011−037950(JP,A)
【文献】
特開2006−096949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M163/00、101/02、115/08、135/10、
135/18、159/06、159/08、159/24
C10N10/04、10/12、30/00、30/06、40/04、
50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)〜(e)を含有し、3核モリブデン化合物を含有しない等速ジョイント用グリース組成物:
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モンタンワックス、
(d)亜鉛スルホネート、及び
(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン。
【請求項2】
成分(b)の増ちょう剤が次式で表されるジウレア系増ちょう剤である、請求項1記載のグリース組成物。
R3−NH−CO−NH−C6H4−p−CH2−C6H4−p−NH−CO−NHR4
(R3及びR4は、独立して、炭素数8〜20のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基及び炭素数6〜12のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
さらに(f)炭素数C18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂を含有する請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
さらに(g)硫黄−リン系極圧添加剤を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
全組成物中における、(c)モンタンワックスの含有量が0.1〜15質量%であり、(d)亜鉛スルホネートの含有量が0.1〜15質量%であり、(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が0.1〜10質量%である、請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項6】
等速ジョイントが摺動型等速ジョイントである、請求項1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は等速ジョイント(CVJ)用グリース組成物に関する。潤滑される等速ジョイント部分には、極めて高い面圧が発生し、ジョイント部分は、複雑なころがりすべり作用を受ける。このため、異常振動がしばしば発生する。本発明は、このような等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦係数を低減して振動の発生を防止し得る等速ジョイント用グリース組成物に関する。また、潤滑部の摩耗を抑制することで等速ジョイントの耐久性の向上を可能としたグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車工業においては、車両の環境対策(CO
2削減)を目的とした軽量化かつ居住空間の確保の点から、FF車が急激に増加し、これに不可欠な等速ジョイント(CVJ)が広く用いられている。このCVJの中で、プランジング型等速ジョイント、特にトリポート型等速ジョイント(TJ)、ダブルオフセット型等速ジョイント(DOJ)等は、ある角度の付いた状態で、回転時に複雑なころがりすべり運動を行うため、軸方向にスライド抵抗を生じ、これがアイドリング時の振動、発進及び加速時の車体の横揺れ、特定速度での車内でのビート音、又はこもり音の起振源となっている。この問題の解決のため、種々の等速ジョイント(CVJ)の構造の改良もなされているが、ジョイントの占めるスペース、重さ、及びコスト面でその改良は難しく、振動低減性能に優れたグリースが要求されている。
【0003】
このようなグリースとして、基油、ウレア系増ちょう剤、二硫化モリブデン、及び酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、サリシレートのカルシウム塩、フェネートのカルシウム塩、酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、サリシレートの過塩基性カルシウム塩、及びフェネートの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する等速ジョイント用グリース組成物(特開平9−194871号公報参照)や、さらにこれらの成分に加え、金属を含まない硫黄−リン系極圧剤、及びモリブデンジチオカーバメートを含有する等速ジョイント用グリース組成物(特開平9−324189号公報)が提案されている。また、基油、ジウレア系増ちょう剤、二硫化モリブデン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、石油スルホン酸のカルシウム塩、硫黄−リン系極圧剤、および植物性油脂を含有する等速ジョイント用組成物も提案されている(特開2006−96949号公報参照)。また、近年は更なる静粛性が求められていることから、基油、ジウレア系増ちょう剤、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、亜鉛スルホネート、硫黄−リン系極圧剤、及び植物性油脂を含有する等速ジョイント用組成物も提案されている(特開2011−37950号公報参照)。
近年、自動車の高出力化や高性能化がますます進み、車の乗り心地の向上や静粛性の要求が大きくなり、等速ジョイントから発生する振動の低減や経時的な振動の低減がより求められる傾向にある。しかし、現行の等速ジョイント用グリース組成物では、経時的な振動の低減に対しては要求を満足できないという問題があり、さらなる持続的な静粛性が求められている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦係数を低減して振動の発生を防止するだけではなく、さらには潤滑部の摩耗を低減し、金属疲労によるフレーキングの発生を抑制することで等速ジョイントの耐久性を向上させたグリース組成物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者等は、等速ジョイントの摩擦を低減し、振動を防止するグリース組成物の開発研究を種々行い、振動の発生し易い潤滑条件下で便用するグリースの性能評価を、振動摩擦摩耗試験機として知られるSRV試験機を用いて行った。その結果、等速ジョイントを起振源とした振動と、SRV試験機で測定した特定の振動条件下の摩擦係数に特別な関係があることを見いだした。さらに、本発明者等が鋭意検討した結果、下記成分を有するグリース組成物が、振動の発生を顕著に防止しただけでなく、等速ジョイントの耐久寿命を向上させることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記のグリース組成物を提供するものである。
1.下記の成分(a)〜(e)を含有するグリース組成物:
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モンタンワックス、
(d)亜鉛スルホネート、及び
(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン。
2.成分(b)の増ちょう剤が次式で表されるジウレア系増ちょう剤である、上記1記載のグリース組成物。
R
3−NH−CO−NH−C
6H
4−p−CH
2−C
6H
4−p−NH−CO−NHR
4
(R
3及びR
4は、独立して、炭素数8〜20のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基及び炭素数6〜12のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、同一であっても異なっていてもよい。)
3.さらに(f)炭素数C
18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂を含有する上記1又は2記載のグリース組成物。
4.さらに(g)硫黄−リン系極圧添加剤を含有する上記1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
5.全組成物中における各成分の含有量が、
(a)基油 37〜97.25質量%、
(b)増ちょう剤 1〜25質量%、
(c)モンタンワックス 0.1〜5質量%、
(d)亜鉛スルホネート 0.1〜15質量%、
(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン 0.1〜10質量%、
(f)炭素数C
18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂0.1〜5質量%、及び
(g)硫黄−リン系極圧添加剤 0.05〜3質量%
である上記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
6.グリース組成物が等速ジョイント用である、上記1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物。
7.等速ジョイントが摺動型等速ジョイントである、上記6記載のグリース組成物。
【0007】
本発明のグリース組成物は、等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦係数を低減し、振動の発生を顕著に防止し得る。また、潤滑部の摩耗を抑制することで等速ジョイントの耐久寿命を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のグリース組成物について詳述する。
本発明のグリース組成物は、下記成分(a)〜(e)を含有する:
(a)基油、
(b)増ちょう剤、
(c)モンタンワックス、
(d)亜鉛スルホネート、及び
(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン。
【0009】
上記(a)成分の基油としては、鉱物油、エーテル系合成油、エステル系合成油及び炭化水素系合成油等の通常に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コストの点から、鉱物油を用いるのが好ましく、また、鉱物油を主成分とし、これに合成油を混合した基油を用いるのが好ましい。
上記基油の100℃における動粘度は、好ましくは5〜30mm
2/sであり、より好ましくは7〜20mm
2/sである。5mm
2/s未満では、等速ジョイント(CVJ)内で油膜を形成せず高速耐久性が不充分となる傾向があり、30mm
2/sを超えるとCVJ内の発熱のため高速耐久性が低下する傾向がある。
上記基油の含有量は、好ましくは37〜97.25質量%、より好ましくは70〜90質量%である。
【0010】
上記(b)成分の増ちょう剤として、グリース用増ちょう剤として知られている全ての増ちょう剤を使用することができる。このような増ちょう剤としては、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けんに代表される石けん系増ちょう剤、リチウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんに代表されるコンプレックス石けん系増ちょう剤、ジウレア、テトラウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、MCA、カーボンブラックに代表される有機系増ちょう剤、有機化クレイ、微細シリカに代表される無機系増ちょう剤等が挙げられる。好ましくは、下記の式で表されるジウレア系増ちょう剤が挙げられる。
R
3−NH−CO−NH−C
6H
4−p−CH
2−C
6H
4−p−NH−CO−NHR
4
(R
3及びR
4は、独立して、炭素数8〜20、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基、炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜7のアリール基及び炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜7のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、同一であっても異なっていてもよい。)
上記ジウレア系増ちょう剤は、例えば、所定のジイソシアネートと所定のモノアミンとを反応させることにより得ることができる。ジイソシアネートの好ましい具体例は、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートである。モノアミンとしては、脂肪族系アミン、芳香族アミン、脂環式アミン又はこれらの混合物が挙げられる。脂肪族系アミンとしては、炭素数8〜18のアルキルアミン、例えばオクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン及びオレイルアミンが挙げられる。芳香族アミンの具体例としては、アニリン及びp−トルイジンが挙げられる。脂環式アミンの具体例としては、シクロヘキシルアミンが挙げられる。上記ジイソシアネートとモノアミンとを反応させる方法には特に制限はなく、従来公知の方法により実施することができる。
オクチルアミン、アクタデシルアミン及びシクロヘキアミン又はこれらの混合物を用いて得られる成分(b)のジウレア系増ちょう剤が好ましい。
上記増ちょう剤の含有量は、好ましくは1〜25質量%、より好ましくは5〜15質量%である。1質量%未満であると、増ちょう効果が少なくなり、グリース化しにくくなる場合があり、25質量%を越えると、得られた組成物が硬くなりすぎ所期の効果が得られなくなる場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0011】
上記(c)成分のモンタンワックスは、褐炭を原料とし、これを精製・酸化して得られるモンタン酸をベースとする鉱物系ワックスの総称である。用途としては、電気絶縁剤、コーティング剤、カーボン紙、離形剤等の用途が挙げられる。市販品としては、クライアント社製のモンタンワックス、例えばLicowax U、Licowax S等の酸ワックス、Licowax E、Licowax WE40等のエステルワックス、Licowax OP、Licowax O等の部分ケン化エステルワックス等が挙げられる。
上記モンタンワックスの含有量は、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。0.1質量%未満であると、耐久寿命を向上させる効果を得ることが困難になる場合があり、15質量%、特に5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0012】
上記(d)成分の亜鉛スルホネートは、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として知られている、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる。これらの亜鉛スルホネートの塩基価は、好ましくは50mgKOH/g以下、さらに好ましくは40mgKOH/g以下である。好ましい亜鉛スルホネートとしては、例えば塩基価50mgKOH/g以下のジノニルナフタレンスルホン酸の亜鉛塩が挙げられる。
上記亜鉛スルホネートの含有量は、好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になる場合があり、15質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0013】
上記(e)成分の硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、次式で表される硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンが好ましい。
(R
1R
2N−CS−S)
2−Mo
2O
mS
n
(式中、R
1及びR
2は、独立して、炭素数1〜24、好ましくは炭素数2〜18のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
上記硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量は、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になる場合があり、15質量%、特に5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0014】
本発明のグリース組成物は、さらに成分(f)炭素数C
18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂を含有することが好ましい。炭素数C
18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂は金属表面に吸着して金属同士の接触を防ぎ、摩擦を緩和する。炭素数C
18脂肪酸グリセリドを70質量%以上含む油脂としては、ひまし油(炭素数C
18脂肪酸グリセリドの含有量:98.5質量%)、オリーブ油(炭素数C
18脂肪酸グリセリドの含有量:83.5質量%)、菜種油(炭素数C
18脂肪酸グリセリドの含有量:75.6質量%)、あまに油(炭素数C
18脂肪酸グリセリドの含有量:89.4質量%)等が挙げられ、特にひまし油が好ましい。
上記油脂の含有量は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。0.1質量%未満であると、所期の効果を得ることが困難になる場合があり、5質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので上記範囲内とすることが好ましい。
【0015】
本発明のグリース組成物は、さらに成分(g)硫黄−リン系極圧剤を含有することが好ましい。硫黄−リン系極圧剤として好ましいものは、硫黄分15〜35重量%及びリン分0.5〜3質量%のものであり、硫黄成分とリン成分の比率を調整することにより、優れた摩耗防止性能や焼き付き防止性能を発揮させることができる。硫黄成分が上記範囲より多いとジョイントが腐食し易くなり、リン成分が上記範囲より多いとジョイントの摩耗防止効果が得られ難くなる場合がある。また両者とも上記範囲より少ない場合は、目的とする摩耗防止性能や焼き付き防止性能を十分に発揮させることが困難になる場合がある。
上記硫黄−リン系極圧剤の含有量は、好ましくは0.05〜3質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。0.05質量%未満であると、耐摩耗性の効果を得ることが困難になり、1質量%を越えて含有させても効果の増大がない場合があるので、上記範囲内とすることが好ましい。
【0016】
本発明のグリース組成物には、上記(a)〜(g)成分に加え、更に各種潤滑油やグリースに一般的に用いられている油性剤、酸化防止剤、防錆剤、ポリマー添加剤を添加することができる。また、上記成分以外の極圧剤、摩擦緩和剤、耐摩耗剤及び固体潤滑剤等の添加剤を添加することができる。上記添加剤を添加する場合、その含有量は、グリース組成物の全質量中、好ましくは0.1〜10質量%である。
本発明のグリース組成物は、ちょう度が好ましくは220〜385であり、より好ましくは265〜340である。
なお、本発明のグリース組成物は、等速ジョイント、好ましくは摺動型等速ジョイント用グリース組成物として使用した場合にその性能を最も効果的に発揮するが、等速ジョイント以外の潤滑部位の潤滑に使用できることはいうまでもない。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
【実施例】
【0017】
実施例1〜6及び比較例1〜20
容器に基油455gとジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート43.6gをとり、混合物を70〜80℃に加熱した。別容器に基油455gとシクロヘキシルアミン27.6g及びステアリルアミン18.8gをとり、70〜80℃に加熱後、先の容器に加え、よく攪拌しながら、30分間反応させた。その後攪拌しながら、160℃まで昇温し、放冷後、ベースウレアグリースを得た。このベースグリースに、表1に示す配合で、添加剤を添加し、適宜基油を加え、得られる混合物を三段ロールミルにて、ちょう度No. 1 グレードに調整した。
グリースの基油として、以下の特性を有する鉱油を使用した。
粘度 40℃ 102mm
2/s
100℃ 11.2mm
2/s
粘度指数 88
【0018】
表1に実施例1〜6を示し、表2〜表5に比較例1〜20を示す。
比較例20は市販のMoDTCを含有するウレアグリースである(協同油脂製)。
なお、表中に示す各成分は以下のとおりであり、表中の数字は質量%を示す。
MoDTC:硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(((C
4H
9)
2N−CS−S)
2−Mo
2O
2S
2)
亜鉛スルホネート:ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛(塩基価2.8mgKOH/g)硫黄−リン系極圧添加剤:硫黄含有量31.5質量%、リン含有量1.7質量%
油脂A:ひまし油(炭素数C
18脂肪酸グリセリド:98.5%)
油脂B:なたね油(炭素数C
18脂肪酸グリセリド:75.6%)
油脂C:パーム油(炭素数C
18脂肪酸グリセリド:55.1%)
ワックスA:モンタンワックス
ワックスB:脂肪酸アミド系ワックス
ワックスC:ポリエチレンワックス
【0019】
上記等速ジョイント用グリース組成物につき、以下に示す試験方法で物性の評価を行った。
<ちょう度>
JIS K 2220.7 による。
<SRV摩擦摩耗試験>
テストピース ボール :直径17.5mm(SUJ2)
プレート:直径24mm×7.85mm(SUJ2)
試験条件 荷重 :200N
周波数 :50Hz
振幅 :0.8mm
時間 :30分
試験温度:40℃
測定項目 摩擦係数(μ)及び試験後の摩耗痕径
<CVJ試験>
強制力試験
下記条件にて実ジョイントでの強制力試験を行い、強制力を測定した。
試験条件 回転数:200rpm
トルク:700Nm
ジョイント角度:15°
運転時間:2min.
ジョイントタイプ:トリポート型等速ジョイント
測定項目 ジョイント強制力を測定し、市販グリースを基準として増減率(%)で評価した。
耐久寿命試験
試験条件 回転数:200rpm
トルク:1000Nm
角度:7°
ジョイントタイプ:トリポート型等速ジョイント
判定基準 インボードジョイント各部(外輪・トラニオン・ローラー・ニードル)のフレーキングの発生時間
○:500h以上
×:500h未満
【0020】
表1(実施例)
【表1】
【0021】
表2(比較例)
【表2】
【0022】
表3(比較例)
【表3】
【0023】
表4(比較例)
【表4】
【0024】
表5(比較例)
【表5】
【0025】
試験の効果について
本発明のグリース組成物は、(a)基油、(b)増ちょう剤、(c)モンタンワックス、(d)亜鉛スルホネート及び(e)硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンを含有しているため、実施例及び比較例の結果からもわかるように、SRV試験結果からは、摩擦係数が低く、耐摩耗特性を有しており、CVJ試験結果からは振動発生を防止し、耐久寿命が大幅に向上していることがわかる。