特許第6248957号(P6248957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6248957
(24)【登録日】2017年12月1日
(45)【発行日】2017年12月20日
(54)【発明の名称】コアシェル触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/34 20060101AFI20171211BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20171211BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20171211BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20171211BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20171211BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20171211BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20171211BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20171211BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20171211BHJP
【FI】
   B01J37/34
   B01J37/06
   B01J37/02 301Z
   B01J35/08 B
   B01J23/44 M
   H01M4/88 K
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   !H01M8/10
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-12726(P2015-12726)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-137425(P2016-137425A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】堀 喜博
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−032790(JP,A)
【文献】 特開2013−239331(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0135359(US,A1)
【文献】 特表2014−512252(JP,A)
【文献】 特開2013−188644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
H01M4/86−4/98,8/00−8/02,8/08−8/24
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒の製造方法であって、
パラジウム含有粒子の表面に銅が被覆されてなる銅被覆パラジウム含有粒子を分散させた、銅被覆パラジウム含有粒子分散液を準備する工程と、
白金イオン含有溶液を準備する工程と、
前記銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、前記白金イオン含有溶液を、マイクロリアクター内で混合することによって、前記銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅を白金に置換し、前記シェルを形成する置換工程と、
前記置換工程後、得られたシェル被覆パラジウム含有粒子に対して、酸性溶液中で、0.05V(vs.RHE)以上、1.2V(vs.RHE)以下の電位範囲で、電位走査を行う工程と、を有することを特徴とするコアシェル触媒の製造方法。
【請求項2】
前記パラジウム含有粒子が担体に担持されている、請求項1に記載のコアシェル触媒の製造方法。
【請求項3】
前記置換工程後、前記電位走査工程前に前記シェル被覆パラジウム含有粒子を洗浄する工程をさらに有する、請求項1又は2に記載のコアシェル触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電極触媒として、白金等の貴金属の使用量を低減することを目的としたコアシェル触媒が知られている。
例えば、特許文献1には、銅アンダーポテンシャル析出(Cu−UPD)を応用した置換メッキにより、コアシェル触媒を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−239331号公報
【特許文献2】特開2013−127869号公報
【特許文献3】特開2013−188644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、Cu−UPD処理後の銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅と白金との置換反応は、反応容器内に収容した銅被覆パラジウム含有粒子を分散させた分散液(以下、銅被覆パラジウム含有粒子分散液ということがある)に、白金イオン含有溶液を滴下する方法(以下、滴下法ということがある)により行われていた。
滴下法による銅と白金との置換反応は、銅被覆パラジウム含有粒子を均一に分散させた分散液中に滴下された白金イオン含有溶液が、滴下された位置近傍に偏在した状態で起こりやすい。結果として、パラジウム含有粒子表面に白金を含むシェルが偏在して形成される。そのため、パラジウム含有粒子表面に白金を含むシェルを均一に形成し、コアシェル触媒の白金の単位質量当たりの触媒活性(以下、白金質量活性ということがある)を高めるためには、銅被覆パラジウム含有粒子分散液を攪拌しながら白金イオン含有溶液をゆっくり滴下する必要がある。
また、滴下法では、滴下した白金イオン含有溶液を瞬時に反応容器内で均一化することはできず、白金イオン含有溶液の濃度が不均一のまま、銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅と白金との置換反応が任意に起こるため、あるパラジウム含有粒子は被覆されすぎたり、あるいは逆に被覆が足りなかったりして各粒子間で被覆状態がばらつき、コアシェル触媒の白金質量活性が不十分になるという問題がある。
さらに、滴下法では、銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅と白金との置換反応を十分に進行させるためには、白金イオン含有溶液の滴下後、反応溶液を長時間攪拌する必要があり、特に大量合成時には稼働費が増大するという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、本発明者は、マイクロリアクターを用いたコアシェル触媒の製造方法を見出した。マイクロリアクターを用いることによって、銅被覆パラジウム含有粒子と白金イオン含有溶液の接触速度や接触頻度を精度よくコントロールすることが可能となり、反応場での濃度勾配を抑えることができる。したがって、各パラジウム含有粒子間の白金を含むシェルの被覆状態のばらつきを少なくでき、且つ、パラジウム含有粒子表面に白金を含むシェルを均一に形成することができるため、白金質量活性の高いコアシェル触媒を製造することができる。
また、マイクロリアクターを用いることによって、銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅と白金との置換反応を短時間(すなわち、マイクロリアクター内での銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液の混合後、当該混合液がマイクロリアクター外へ排出されるまでの時間)で行うことができる。
【0006】
しかし、マイクロリアクターを用いて得られたコアシェル触媒は、触媒粉の状態での回転ディスク電極(RDE)による電気化学測定で得られる白金質量活性に相当する発電性能が、膜電極接合体では得られないという問題がある。
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、白金質量活性が高く、且つ、膜電極接合体の発電性能を向上させることができるコアシェル触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のコアシェル触媒の製造方法は、パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒の製造方法であって、
パラジウム含有粒子の表面に銅が被覆されてなる銅被覆パラジウム含有粒子を分散させた、銅被覆パラジウム含有粒子分散液を準備する工程と、
白金イオン含有溶液を準備する工程と、
前記銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、前記白金イオン含有溶液を、マイクロリアクター内で混合することによって、前記銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅を白金に置換し、前記シェルを形成する置換工程と、
前記置換工程後、得られたシェル被覆パラジウム含有粒子に対して、酸性溶液中で、0.05V(vs.RHE)以上、1.2V(vs.RHE)以下の電位範囲で、電位走査を行う工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のコアシェル触媒の製造方法において、前記パラジウム含有粒子が担体に担持されていることが好ましい。
本発明のコアシェル触媒の製造方法において、前記置換工程後、前記電位走査工程前に前記シェル被覆パラジウム含有粒子を洗浄する工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、白金質量活性が高く、且つ、膜電極接合体の発電性能を向上させることができるコアシェル触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)は、電位走査工程前のシェル被覆パラジウム含有粒子のイメージを示す図である。(B)は、電位走査工程後のシェル被覆パラジウム含有粒子のイメージを示す図である。
図2】本発明のコアシェル触媒の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明に用いることができるマイクロリアクターの一例を示す概略構成図である。
図4】本発明に用いることができる合流部の内部構造の一例を示す斜視図である。
図5】切頭八面体形を示す図である。
図6】実施例1、比較例1〜3で得られた電流密度−電圧曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコアシェル触媒の製造方法は、パラジウムを含むコアと、白金を含み且つ前記コアを被覆するシェルと、を備えるコアシェル触媒の製造方法であって、
パラジウム含有粒子の表面に銅が被覆されてなる銅被覆パラジウム含有粒子を分散させた、銅被覆パラジウム含有粒子分散液を準備する工程と、
白金イオン含有溶液を準備する工程と、
前記銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、前記白金イオン含有溶液を、マイクロリアクター内で混合することによって、前記銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅を白金に置換し、前記シェルを形成する置換工程と、
前記置換工程後、得られたシェル被覆パラジウム含有粒子に対して、酸性溶液中で、0.05V(vs.RHE)以上、1.2V(vs.RHE)以下の電位範囲で、電位走査を行う工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明者は、マイクロリアクターを用いたコアシェル触媒の製造工程において、置換工程後、電位走査工程を行うことによって、白金質量活性が高く、且つ、膜電極接合体の発電性能を向上させることができるコアシェル触媒を製造することができることを見出した。
図1(A)は、電位走査工程前のシェル被覆パラジウム含有粒子のイメージを示す図である。図1(B)は、電位走査工程後のシェル被覆パラジウム含有粒子のイメージを示す図である。
図1に示すように、電位走査工程を行うことによって、シェル被覆パラジウム含有粒子表面に露出したパラジウムが溶出し、パラジウム含有粒子表面に緻密なシェルを形成させることができると推察される。シェルが緻密に形成されていることにより、コアシェル触媒を用いた膜電極接合体の発電時に、シェルからのパラジウムの溶出が減少し、コアシェル触媒の白金質量活性に相当する膜電極接合体の発電性能が得られると推察される。
【0013】
本発明において、シェルがコアを被覆するとは、コアの全表面がシェルによって覆われている形態のみならず、コアの表面の一部がシェルによって被覆され、コアの表面の一部が露出している形態も含まれる。さらに、シェルは、単原子層であっても、原子が2原子以上積層した多原子層であってもよいが、白金質量活性向上の観点から、単原子層であることが好ましい。
【0014】
以下、本発明のコアシェル触媒の製造方法について詳しく説明する。
図2は、本発明のコアシェル触媒の製造方法の一例を示すフローチャートである。
本発明のコアシェル触媒の製造方法は、(1)銅被覆パラジウム含有粒子分散液準備工程、(2)白金イオン含有溶液準備工程、(3)置換工程、及び、(5)電位走査工程を有し、必要に応じ、置換工程の後、且つ、電位走査工程の前に(4)洗浄工程を有し、電位走査工程の後に(6)乾燥工程等を有する。また、(1)〜(2)の工程は、いずれを先に実施してもよく、同時に実施してもよい。
以下、各工程について、順に説明する。
【0015】
(1)銅被覆パラジウム含有粒子分散液準備工程
コアシェル触媒のコアとなるパラジウム含有粒子としては、パラジウム粒子及びパラジウム合金粒子から選ばれる少なくとも一方の粒子を用いることができる。
パラジウム合金としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀及び金からなる群より選ばれる金属材料とパラジウムとの合金が挙げられ、パラジウム合金を構成するパラジウム以外の金属は1種でも2種以上でもよい。
パラジウム合金は、合金全体の質量を100質量%としたときのパラジウムの含有割合が80質量%以上であることが好ましい。パラジウムの含有割合が80質量%以上であることにより、均一な白金含有シェルを形成することができるからである。
【0016】
パラジウム含有粒子の平均粒径は、特に限定されないが、10nm以下であることが好ましい。パラジウム含有粒子の平均粒径が10nmを超える場合、白金の質量あたり表面積が小さくなり、必要な活性を得るには多くの白金が必要となるためコストがかかる。パラジウム含有粒子の平均粒径が小さ過ぎると、パラジウム自体が溶けやすくなり触媒の耐久性が低下するため、パラジウム含有粒子の平均粒径は3nm以上であることが好ましい。
本発明に使用される粒子の平均粒径の算出方法は以下の通りである。すなわち、走査型電子顕微鏡(TEM)を用いて1,000,000倍のTEM写真をとり、粒子の平面上への投影面積と同一面積を有する真円の直径(円相当粒子径)を粒子の粒径とみなす。このような写真観察による粒径の測定を、同じ種類の500個の粒子について行い、これらの粒子の粒径の平均を平均粒径とする。なお、写真端部に観察される切れた粒子は解析から除外する。
【0017】
パラジウム含有粒子は、担体に担持されていることが好ましい。担体としては、特に限定されないが、本発明のコアシェル触媒を燃料電池の電極触媒層に使用した際、電極触媒層に導電性を担保する観点から、導電性担体を用いることが好ましい。
パラジウム含有粒子を担持する担体として使用できる材料の具体例としては、ケッチェンブラック(商品名:ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)、バルカン(商品名:Cabot社製)、ノーリット(商品名:Norit社製)、ブラックパール(商品名:Cabot社製)、アセチレンブラック(商品名:Chevron社製)等の炭素粒子や炭素繊維等の導電性炭素材料、金属粒子や金属繊維等の金属材料、ペリレンレッド等の有機顔料等の非導電性材料が挙げられる。
【0018】
担体の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.01〜数百μm、より好ましくは0.01〜1μmである。担体の平均粒径が上記範囲未満であると、担体が腐食劣化する場合があり、当該担体に担持されるパラジウム含有粒子が経時的に脱落してしまうおそれがある。また、担体の平均粒径が上記範囲を超える場合、比表面積が小さく、パラジウム含有粒子の分散性が低下するおそれがある。
【0019】
担体の比表面積は、特に限定されないが、好ましくは50〜2000m/g、より好ましくは100〜1600m/gである。担体の比表面積が上記範囲未満であると、担体へのパラジウム含有粒子の分散性が低下し、十分な電池性能が発現しないおそれがある。また、担体の比表面積が上記範囲を超える場合、パラジウム含有粒子の有効利用率が低下し、十分な電池性能が発現しないおそれがある。
【0020】
担体によるパラジウム含有粒子担持率[{(パラジウム含有粒子質量)/(パラジウム含有粒子質量+担体質量)}×100%]は特に限定されず、一般的には、20〜60%の範囲であることが好ましい。パラジウム含有粒子の担持量が少なすぎると、触媒機能が十分に発現しないおそれがある。一方、パラジウム含有粒子の担持量が多すぎると、触媒機能の観点からは特に問題は生じないかもしれないが、必要以上のパラジウム含有粒子を担持させても、製造コストの上昇に見合った効果が得られにくくなる。
パラジウム含有粒子を担体に担持する方法としては、従来から用いられている方法を採用することができる。例えば、担体を分散させた担体分散液に、パラジウム含有粒子を混合し、ろ過、洗浄して、エタノール等に再分散した後、真空ポンプ等で乾燥する方法が挙げられる。乾燥後、必要に応じて、加熱処理してもよい。なお、パラジウム合金粒子を使用する場合には、合金の合成とパラジウム合金粒子の担体への担持が同時に行われてもよい。
【0021】
パラジウム含有粒子の表面に銅を被覆する方法としては、従来から用いられている方法を採用することができ、Cu−UPD法を用いることが好ましい。
Cu−UPD法は、具体的には、銅イオン含有電解液中において、パラジウム含有粒子に銅の酸化還元電位よりも貴な電位を印加する方法である。
銅イオン含有電解液としては、Cu−UPDによってパラジウム含有粒子の表面に銅を析出させることができる電解液であれば特に限定されない。銅イオン含有電解液は、通常、溶媒に銅塩を所定量溶かしたものから構成されるが、特にこの構成に限定されず、銅イオンの一部又は全部が液中に解離して存在している電解液であればよい。
銅イオン含有電解液に用いられる溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられるが、パラジウム含有粒子の表面への銅の析出を妨げないという観点から、水が好ましい。
銅イオン含有電解液に用いられる銅塩としては、具体的には、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、亜塩素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅等が挙げられる。
電解液中において、銅イオン濃度は、特に限定されないが、10〜1000mmol/Lであることが好ましい。
銅イオン含有電解液には、上記溶媒及び銅塩の他にも、例えば、酸等を含んでいてもよい。銅イオン含有電解液に添加できる酸としては、具体的には、硫酸、硝酸、塩酸、亜塩素酸、過塩素酸、シュウ酸等が挙げられる。なお、銅イオン含有電解液中の対アニオンと、酸中の対アニオンとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
また、電解液は、予め、不活性ガスをバブリングしておくことが好ましい。パラジウム含有粒子の酸化を抑制し、白金含有シェルによる均一な被覆が可能となるからである。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等を用いることができる。
【0022】
パラジウム含有粒子は、粉末状態で電解液に添加することによって電解液に浸漬、分散させてもよいし、予め、溶媒に分散させてパラジウム含有粒子分散液を調製し、該パラジウム含有粒子分散液を電解液に添加することによって電解液に浸漬、分散させてもよい。パラジウム含有粒子分散液に用いられる溶媒は、上述の銅イオン含有電解液に用いられる溶媒と同様のものを用いることができる。また、パラジウム含有粒子分散液は、上述の銅イオン含有電解液に添加可能な上記酸を含有していてもよい。
また、導電性基材上や作用極上にパラジウム含有粒子を固定し、導電性基材や作用極のパラジウム含有粒子固定面を、電解液に浸漬してもよい。パラジウム含有粒子を固定する方法としては、例えば、電解質樹脂(例えばナフィオン(登録商標)等)と、水やアルコール等の溶媒とを用いて、パラジウム含有粒子ペーストを調製し、導電性基材や作用極の表面に塗布する方法が挙げられる。
【0023】
パラジウム含有粒子に電位を印加する方法は、特に限定されず、例えば、銅イオン含有電解液中に、作用極、対極及び参照極を浸漬させ、作用極に電位を印加する方法が挙げられる。
作用極、対極、参照極、電位制御装置としては、後述する電位走査工程で用いるものと同様のものを用いることができる。
印加する電位は、パラジウム含有粒子の表面に銅を析出させることができる電位、すなわち、銅の酸化還元電位よりも貴な電位であれば、特に限定されないが、例えば、0.35〜0.7V(vs.RHE)の範囲内であることが好ましく、0.37V(vs.RHE)であることが特に好ましい。
電位を印加する時間は、特に限定されないが、60分以上行うことが好ましく、反応電流が定常となり、ゼロに近づくまで行うことがより好ましい。
【0024】
Cu−UPD処理は、パラジウム含有粒子の表面の酸化防止や銅の酸化防止の観点から、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
また、Cu−UPD処理において、銅イオン含有電解液は、必要に応じて適宜攪拌することが好ましい。例えば、作用極を兼ねる反応容器を用い、該反応容器内の銅イオン含有電解液にパラジウム含有粒子を浸漬、分散させた場合、銅イオン含有電解液を攪拌することで、各パラジウム含有粒子を作用極である反応容器の表面に接触させ、各パラジウム含有粒子に均一に電位を印加させることができる。この場合、攪拌は、Cu−UPD処理中、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。
【0025】
パラジウム含有粒子は、Cu−UPD処理の前に酸化物除去処理を行うことが好ましい。
酸化物除去処理により、パラジウム含有粒子の表面から不純物であるパラジウム酸化物を除去し、パラジウム含有粒子に対し、白金含有シェルを均一に被覆することができる。
酸化物除去は、例えば、パラジウム含有粒子を含む電解液中において、パラジウム含有粒子に所定の電位を印加することにより行うことができる。
パラジウム含有粒子に電位を印加する方法は、Cu−UPD処理で行われる方法と同様の方法をとることができ、電位制御装置は、後述する電位走査工程で用いられる装置と同様のものを用いることができる。
酸化物除去処理に使用できる電解液としては、当該電解液中において適宜電位を走査することにより酸化パラジウムを溶出することができる溶液であれば、特に限定されない。
電解液の具体例としては、酸含有溶液が挙げられる。酸化物除去処理に使用できる酸としては、具体的には、銅イオン含有電解液に使用できる酸と同様の酸が使用できる。
なお、酸化物除去処理と、Cu−UPD処理とを、同じ反応容器内で行う場合には、酸化物除去処理に使用した電解液に、銅イオン含有電解液を加えてもよい。例えば、酸化物除去処理の電解液として硫酸を使用した場合には、使用後の硫酸に硫酸銅水溶液を加えて、Cu−UPD処理を行ってもよい。なお、酸化物除去処理において用いる電解液中の対アニオンと、Cu−UPD処理において用いる銅イオン含有電解液の対アニオンとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
電解液中の酸素を可能な限り除去し、酸化物除去を速やかに進行させることができるという点から、電解液中には、窒素をバブリングさせることが好ましい。
酸化物除去を速やかに進行させるという観点から、一定の電位範囲において、電位を複数回往復させることが好ましい。電位印加信号パターンは、特に限定されないが、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。
酸化物除去処理における電位範囲は、特に限定されないが、0.05〜1.2V(vs.RHE)であることが好ましい。
電位印加信号パターンが矩形波の場合の酸化物除去処理は、0.05V(vs.RHE)で15〜60秒ホールド、1.2V(vs.RHE)で15〜60秒ホールドを1サイクルとし、電位のサイクル数は、1000〜10000サイクル行うことが好ましい。
一方、電位印加信号パターンが三角波の場合の酸化物除去処理は、電位のサイクル数は、1000〜10000サイクルであることが好ましく、電位の走査速度は、例えば、5〜100mV/秒とすることができる。
【0026】
Cu−UPD処理後のCu−UPD処理済み溶液は、Cu−UPD処理済み溶液中に含まれる銅被覆パラジウム含有粒子を当該溶液中に分散させることにより、銅被覆パラジウム含有粒子分散液として、置換工程に用いることができる。なお、Cu−UPD処理で使用した酸は、銅被覆パラジウム含有粒子分散液中に残存していてもよい。
また、銅被覆パラジウム含有粒子分散液は、予め、不活性ガスをバブリングしておくことが好ましい。銅被覆パラジウム含有粒子の酸化を抑制し、白金含有シェルによる均一な被覆が可能となるからである。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等を用いることができる。
銅被覆パラジウム含有粒子を溶媒中に分散させる方法は特に限定されず、超音波ホモジナイザーを用いる方法等が挙げられる。
銅被覆パラジウム含有粒子分散液中のパラジウム含有粒子の質量濃度は、特に限定されない。パラジウム含有粒子が担体に担持されている場合は、パラジウム含有粒子担持体の質量濃度は0.5〜5g/Lであることが好ましい。
パラジウム含有粒子の表面を被覆する銅は、銅単原子層であっても、原子が2原子以上積層した多原子層であってもよいが、質量活性向上の観点から、銅単原子層であることが好ましい。
【0027】
(2)白金イオン含有溶液準備工程
白金イオン含有溶液は、少なくとも白金イオンを含有するものであれば特に限定されない。
白金イオン含有溶液に用いられる白金塩は、例えば、KPtCl、KPtCl等を用いることができ、また、([PtCl][Pt(NH])等のアンモニア錯体を用いることもできる。
白金イオン含有溶液中において白金イオン濃度は特に限定されないが、0.0005〜0.04mol/Lであることが好ましく、0.001〜0.01mol/Lであることが特に好ましい。
白金イオン含有溶液に用いることができる溶媒は、上述した銅イオン含有電解液に用いられる溶媒と同様とすることができる。
また、白金イオン含有溶液には、上記溶媒及び白金塩の他にも、例えば、酸等を含んでいてもよい。酸としては、上述した銅イオン含有電解液に用いられる酸と同様とすることができる。
白金イオン含有溶液は、十分に攪拌し、パラジウム含有粒子の表面の酸化防止や、銅の酸化防止の観点から、当該溶液中には予め窒素をバブリングさせることが好ましい。
【0028】
(3)置換工程
置換工程は、前記銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、前記白金イオン含有溶液を、マイクロリアクター内で混合することによって、前記銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅を白金に置換し、前記シェルを形成する工程である。
銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、白金イオン含有溶液とを混合することによって、イオン化傾向の違いにより、銅被覆パラジウム含有粒子表面の銅と白金とを置換することができる。
【0029】
本発明においてマイクロリアクターとは、2以上の反応原料流体を、異なる入口から微小空間内に高速で注入し、各反応原料流体を高速注入の推進力によって微小空間内で瞬時のうちに均一に混合しながら当該微小空間を通過させ、この微小空間内での過程でフロー型反応を行うための、フロー型反応容器の総称をいう。
本発明に用いることができるマイクロリアクターは、従来公知のものを用いることができ、例えば、ナノヴェイタL−ED015(吉田機械興業株式会社製)等を用いることができる。
図3は、本発明に用いることができるマイクロリアクターの一例を示す概略構成図である。図3に示すように、マイクロリアクター100は、第1の供給流路10と、第2の供給流路20と、第1の供給流路10、第2の供給流路20にそれぞれ設けられたポンプ30、40と、第1の供給流路10及び第2の供給流路20が合流する合流部50(微小空間)と排出流路60を有する。
図4は、本発明に用いることができる合流部50(ノズル)の内部構造の一例を示す斜視図である。図4中に示す矢印は、流体の流れ方向を示している。図4に示すように合流部50の内部で、2つの流体が合流し、当該合流点において連続的に反応が進行する。
上記図3に示したマイクロリアクター100を用いた場合、2以上の反応原料流体が流体ごとに異なる供給流路を流通し、合流部50(微小空間)内に送液圧によって高速で注入され、各反応原料流体が高速注入の推進力によって合流部50内で瞬時のうちに均一に混合されながら当該合流部50を通過し、この合流部50内での過程でフロー型反応が進行する。合流部50内の反応生成液は、排出流路60へと排出され、外部に回収される。排出流路60の通過過程、及び、回収容器内で、反応を熟成させてもよい。
第1の供給流路10、第2の供給流路20、排出流路60は、真直ぐであっても、湾曲していてもよい。また、供給流路の数は、2以上の流体を混合するために少なくとも2つ以上設けられていれば、特に限定されない。さらに、流路の直径(流れ方向に対して垂直方向の幅)または相当直径(流路の断面が円形でない場合)及び流路の流れ方向の長さは、特に限定されない。
送液圧を負荷するポンプ30、40としては、具体的には、シリンジポンプ、プランジャーポンプ等が挙げられる。ポンプ30、40により、合流部50で混合する流体の量を常時最適な範囲に制御することができ、合流部50にかかる圧力も制御することができる。
合流部50としては、具体的には、ノズルが挙げられる。ノズルとしては、クロスノズル、ストレートノズル等が挙げられ、クロスノズルが好ましい。
ノズルの流れ方向の長さは、特に限定されないが、100〜200μmであることが好ましい。
ノズルの直径(流れ方向に対して垂直方向の幅)または相当直径(ノズルの断面が円形でない場合)は、特に限定されないが、1mm以下、特に500μm以下、さらに100μm以下であることが好ましい。
ノズルの材質は特に限定されず、人工ダイヤモンド等が挙げられる。
【0030】
本発明におけるシェルには、白金及び白金合金が含まれる。
白金合金としては、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、ニッケル及び金からなる群より選ばれる金属材料との合金等が挙げられ、白金合金を構成する白金以外の金属は1種でも2種以上でもよい。
白金合金は、合金全体の質量を100質量%としたときの白金の含有割合が90質量%以上であることが好ましい。白金の含有割合が90質量%未満であるとすると、十分な触媒活性及び耐久性が得られないからである。
【0031】
置換工程の一例を、図3に示すマイクロリアクター100を用いて説明する。
マイクロリアクター100を用いることにより、ポンプ30により所定の圧力をかけて第1の供給流路10から銅被覆パラジウム含有粒子分散液を、ポンプ40により所定の圧力をかけて第2の供給流路20から白金イオン含有溶液を、それぞれ別の注入口から合流部50に供給し、銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液とを混合することができる。合流部50で混合した混合液は排出流路60を流れてマイクロリアクター100外に排出される。排出流路60から排出された混合液は、回収容器に回収される。
それぞれの供給流路から供給される銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、白金イオン含有溶液にかける圧力は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。圧力を異ならせることにより、合流部50に供給される銅被覆パラジウム含有粒子分散液と、白金イオン含有溶液の体積を異ならせることができる。
マイクロリアクター100を用いた場合の置換反応時間は、合流部50で混合された混合液が排出流路60を流れてマイクロリアクター100外に排出されるまでの時間となる。
【0032】
置換工程において、マイクロリアクター内に銅被覆パラジウム含有粒子分散液及び白金イオン含有溶液を供給する際の、銅被覆パラジウム含有粒子分散液及び白金イオン含有溶液の液温は、特に限定されず、室温(25℃)であってもよい。
パラジウム含有粒子の表面の酸化防止や、銅の酸化防止の観点から、マイクロリアクター内に銅被覆パラジウム含有粒子分散液及び白金イオン含有溶液を供給する際に、銅被覆パラジウム含有粒子分散液及び白金イオン含有溶液が、大気に曝されないようにすることが好ましい。
銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液の混合時の合流部内の加圧条件は、特に限定されないが、5〜200MPaであることが好ましい。
混合時の銅被覆パラジウム含有粒子分散液及び白金イオン含有溶液の流量は、特に限定されないが、銅被覆パラジウム含有粒子分散液の合流部50の通過時の流量が3〜20mL/秒であることが好ましい。
混合時の銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液との体積比は、特に限定されず、銅被覆パラジウム含有粒子分散液中の銅被覆パラジウム含有粒子の質量濃度及び白金イオン含有溶液中の白金イオン濃度等によって適宜設定することができるが、例えば、1:1〜8:1であることが好ましい。
【0033】
銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液との混合液中の白金イオン濃度は、特に限定されないが、幾何学的パラジウム粒子表面を白金単原子膜で覆う理論物質量の1〜1.5倍であることが好ましい。
幾何学的パラジウム粒子表面を白金単原子膜で覆う理論物質量は、以下の方法で算出した。
まず、パラジウムの原子径をもつ球を面心立方格子になるように配列し、その配列した球の集合が図5に示すような切頭八面体になるようなモデル構造を考案した。図5に示す切頭八面体形は、八面体の一辺Lに対する、切頭された場合の切頭部分の一辺sの比s/L=0.2とした場合の構造である。
この切頭八面体形を用いて、粒径の異なるパラジウム粒子に含まれる全原子数及び表面原子数をそれぞれ算出した。そして、全原子数に対する表面原子の割合から、幾何学的パラジウム表面を白金単原子膜で覆うために必要な理論物質量を算出した。パラジウム粒子の粒径は、切頭八面体の粒子を真上から見たときの投影形状において対向する2辺間の距離とみなした。
なお、パラジウム粒子の粒径が4nm(理論計算上、正確には4.2nm)の場合の、幾何学的パラジウム表面を白金単原子膜で覆うために必要な理論物質量は、パラジウム1モルに対し白金0.364モルである。
【0034】
マイクロリアクター内から排出される銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液との混合液は、大気雰囲気下で回収してもよいし、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で回収してもよいが、未反応の銅と白金とを置換させる観点から、不活性ガス雰囲気下で回収することが好ましく、必要に応じ、不活性ガス雰囲気下で攪拌することが好ましい。不活性ガス雰囲気下での攪拌時間は特に限定されず、1〜90分であることが好ましい。
【0035】
(4)洗浄工程
洗浄工程は、前記置換工程後、前記電位走査工程前に前記シェル被覆パラジウム含有粒子を洗浄する工程である。
本発明においては、シェル被覆パラジウム含有粒子表面に銅を析出させない観点から、洗浄工程を行うことが好ましい。置換工程後、電位走査工程前に洗浄工程を行うことにより、反応系内から銅等の不純物を排除することができる。反応系内から銅を排除することにより、その後の電位走査工程において、銅の酸化還元電位よりも卑な電位と、銅の酸化還元電位よりも貴な電位と、を含む電位範囲で電位走査を行った場合でも、反応系内で銅の溶解及び析出が起こらず、シェル被覆パラジウム含有粒子表面に銅が析出することを防ぐことができる。なお、本発明において反応系内とは、反応に用いられる領域(例えば、反応容器、装置等)内及び当該領域内に収容されている気体、液体、固体を含む概念である。
洗浄方法は、特に限定されず、置換工程後、銅被覆パラジウム含有粒子分散液と白金イオン含有溶液との混合液をろ過し、その後、ろ過して得たシェル被覆パラジウム含有粒子を水中に分散させて洗浄する方法等が挙げられる。シェル被覆パラジウム含有粒子を水中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、超音波ホモジナイザー、マグネチックスターラー、攪拌羽つきモーター等を用いて分散させる方法等が挙げられる。
【0036】
(5)電位走査工程
電位走査工程は、前記置換工程後、得られたシェル被覆パラジウム含有粒子に対して、酸性溶液中で、0.05V(vs.RHE)以上、1.2V(vs.RHE)以下の電位範囲で、電位走査を行う工程である。電位走査工程を行うことにより、シェル被覆パラジウム含有粒子表面に露出したパラジウムを選択的に溶出し、パラジウム含有粒子が小さくなることにより、シェル被覆パラジウム含有粒子のシェル欠陥部位がシェルで被覆され、コアシェル触媒の白金質量活性を向上させ、且つ、膜電極接合体の発電性能を向上させることができる。
シェル被覆パラジウム含有粒子に対して電位走査を行う方法は、特に限定されず、例えば、酸性溶液中に、作用極、対極及び参照極を浸漬させ、作用極に電位を印加する方法が挙げられる。
作用極としては、例えば、チタン、白金メッシュ、白金板、金板等の金属材料、グラッシーカーボン、カーボン板等の導電性炭素材料等の導電性が担保できる材料を用いることができる。なお、反応容器を上記導電性材料で形成し、作用極としても機能させることもできる。金属材料の反応容器を作用極として用いる場合、反応容器の内壁には、腐食を抑制する観点から、RuOをコーティングすることが好ましい。炭素材料の反応容器を作用極として用いる場合は、コーティング無しでそのまま使用することが可能である。
対極としては、例えば、白金メッシュに白金黒をめっきしたもの及び導電性炭素繊維等を用いることができる。
参照極としては、可逆水素電極(reversible hydrogen electrode;RHE)、銀−塩化銀電極及び銀−塩化銀−塩化カリウム電極等を用いることができる。
電位制御装置としては、ポテンショスタット及びポテンショガルバノスタット等を用いることができる。
電位走査工程における電位印加信号パターンは、特に限定されないが、矩形波、三角波、台形波等が挙げられる。
電位走査工程における電位範囲は、0.05V(vs.RHE)以上、1.2V(vs.RHE)以下であれば特に限定されない。
電位走査時間は、特に限定されないが、膜電極接合体の発電性能を向上させる観点から、600分以上であることが好ましく、1000分以上であることが特に好ましい。また、電位走査時間は、稼働費を低減する観点から、5000分以下であることが好ましい。
電位サイクル数は、特に限定されないが、電位範囲、電位走査速度等を考慮して、電位走査時間が600分以上になるように、電位サイクル数を決定することが好ましい。ここで、電位サイクル数は、設定した電位範囲における、下限電位と上限電位との間を往復する電位走査を1サイクルとする。
電位印加信号パターンが三角波の場合の電位走査速度は、特に限定されないが、0.1mV/秒以上であることが好ましく、6mV/秒以上であることが特に好ましい。また、電位走査速度は、120mV/秒以下であることが好ましい。
酸性溶液に用いる溶媒としては、水等が挙げられる。
酸性溶液に用いる酸としては、硝酸、硫酸、過塩素酸、塩酸、次亜塩素酸等が挙げられ、パラジウムを溶解できるのに十分な酸化力を持つという観点から、硫酸が好ましい。
酸性溶液に用いる酸として硫酸を用いる場合には、硫酸の濃度は、0.0001〜2mol/L、特に0.001〜1mol/L、さらに0.01〜0.1mol/Lであることが好ましい。
【0037】
(6)乾燥工程
乾燥工程は、電位走査工程後、ろ過、洗浄等して得られたコアシェル触媒を乾燥させる工程である。
コアシェル触媒の乾燥は、溶媒等を除去できる方法であれば特に限定されず、例えば、不活性ガス雰囲気下、50〜100℃の温度を6〜12時間保持させる方法等が挙げられる。
コアシェル触媒は必要に応じて粉砕してもよい。粉砕方法は、固形物を粉砕できる方法であれば特に限定されない。当該粉砕の例としては、不活性ガス雰囲気下、或いは大気下における乳鉢等を用いた粉砕や、ボールミル、ターボミル、ジェットミル等のメカニカルミリングが挙げられる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
まず、市販の平均粒径4nmのパラジウム粒子がカーボン粒子に担持されたパラジウム担持カーボン(Pd/C)(Pd担持率30質量%)を用意した。
Pd/C20gを、反応容器に入れ、さらに超純水を10L加え、超音波ホモジナイザーで2時間Pd/Cを分散させ、その後、硫酸を投入し、Pd/C分散液を調製した。Pd/C分散液中の硫酸濃度は0.05mol/Lとなるようにした。Pd/C分散液の総量は40Lとなるようにした。すなわち、Pd/C分散液中のPd/Cの質量濃度が0.5g/Lとなるように調製した。
【0039】
[酸化物除去処理]
続いて、上記反応容器に、作用極(グラッシーカーボン)、対極(白金メッシュ)、参照極(銀−塩化銀)をPd/C分散液に浸るように設置した。
反応容器を密閉し、Pd/C分散液を窒素ガスでバブリングし、酸素を脱気した。
そして、ポテンショスタットを作用極、対極及び参照極に接続し、0.05〜1.2V(vs.RHE)の電位範囲において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、電位走査速度20mV/秒で、1000サイクル実施し、パラジウム粒子表面に存在するパラジウム酸化物や不純物の除去を行った。なお、銀−塩化銀電極の電位はRHEへ換算して記載した。
【0040】
[Cu−UPD処理]
反応容器内のPd/C分散液を窒素でバブリングしながら、硫酸銅5水和物を反応溶液に加え、Pd/C分散液中の銅イオン濃度が0.05mol/Lになるように調整した。
そして、ポテンショスタットにより、作用極の電位を0.37V(vs.RHE)に固定し、パラジウム粒子表面に銅を析出させた。時々、攪拌子で反応容器内を攪拌した。電位の印加は、反応電流が定常となり、ゼロに近づくまで行った。
【0041】
[銅被覆パラジウム含有粒子分散液準備工程]
その後、得られた銅被覆パラジウム粒子を、反応容器内で、超音波ホモジナイザーで分散させ、銅被覆パラジウム粒子分散液を40L準備した。銅被覆パラジウム粒子分散液中のPd/C質量濃度は0.5g/Lとなるようにした。
[白金イオン含有溶液準備工程]
白金イオン含有溶液として0.001mol/LのKPtCl溶液を20L準備した。
【0042】
[置換工程]
マイクロリアクターとしてナノヴェイタL−ED015(吉田機械興業株式会社製)を準備した。
マイクロリアクター内に、第1の供給流路から銅被覆パラジウム粒子分散液を、第2の供給流路から白金イオン含有溶液を、それぞれ、酸素に触れないように供給し、マイクロリアクター内の合流部にかかる圧力が25MPa、銅被覆パラジウム粒子分散液の合流部通過時の流量が7mL/秒となるようにして、パラジウム粒子表面の銅を白金に置換した。
銅被覆パラジウム粒子分散液と白金イオン含有溶液のマイクロリアクター内への供給量は、合流部における混合時の体積比が2:1となるように、すなわち、Pd/C質量濃度と白金イオン濃度の比が1(g/L):0.001(mol/L)となるように調整した。
銅被覆パラジウム粒子分散液と、白金イオン含有溶液のマイクロリアクター内への供給時の温度は、それぞれ25℃になるようにした。
銅被覆パラジウム粒子分散液40Lが、合流部を通過するのに要した時間は約100分だった。
混合後の銅被覆パラジウム粒子分散液と白金イオン含有溶液との混合液は、排出流路の下流端に配置した回収容器に回収し、窒素雰囲気下、90分間攪拌した。
【0043】
[洗浄工程]
置換工程後、回収容器内の混合液を減圧ろ過し、ろ過して得たスラリー状粉末を純水4L中に分散させて洗浄した。その後、スラリー状粉末を純水中に分散させて得た分散液をろ過し、触媒ケーキを得た。
【0044】
[電位走査工程]
洗浄後の触媒ケーキを回収し、酸性溶液として0.05mol/Lの硫酸溶液40Lを収容した反応容器中に触媒ケーキを投入した。そして、触媒ケーキを超音波ホモジナイザーにより分散させ、硫酸分散液を調製した。
反応容器に、作用極(グラッシーカーボン)、対極(白金メッシュ)、参照極(銀−塩化銀)を硫酸分散液に浸るように設置した。
反応容器を密閉し、硫酸分散液を窒素ガスでバブリングし、酸素を脱気した。
そして、ポテンショスタットを作用極、対極及び参照極に接続し、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度60mV/秒で、3000サイクル実施した。
その後、硫酸分散液をろ過し、ろ液が中性になるまで純水による洗浄を繰返した。
[乾燥工程]
洗浄後の触媒ケーキを60℃で10時間、減圧乾燥炉で乾燥し、約5%以下の含水率になるまで乾燥した粉末試料を、市販のナイフカッターを用いて粉砕し、コアシェル触媒を得た。
【0045】
(実施例2)
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度6mV/秒で、300サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0046】
(実施例3)
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度120mV/秒で、6000サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0047】
(実施例4)
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度12mV/秒で、1500サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0048】
(実施例5)
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.05〜1.2V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度100mV/秒で、3000サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0049】
(実施例6)
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.05〜1.2V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度12mV/秒で、1500サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0050】
(実施例7)
下記以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
洗浄工程を行わず、電位走査工程において、置換工程で得られた、銅被覆パラジウム粒子分散液と白金イオン含有溶液との混合液を収容した回収容器に、作用極(グラッシーカーボン)、対極(白金メッシュ)、参照極(銀−塩化銀)を当該混合液に浸るように設置した。そして、ポテンショスタットを作用極、対極及び参照極に接続し、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度60mV/秒で、3000サイクル実施した。
【0051】
(実施例8)
下記以外は実施例7と同様にコアシェル触媒を製造した。
電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度120mV/秒で、6000サイクル実施した。
【0052】
(比較例1)
電位走査工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0053】
(比較例2)
置換工程を行う代わりに、下記の置換反応(滴下法による置換反応)を行い、その後の電位走査工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
5℃に維持したPd/C質量濃度0.5g/Lの銅被覆パラジウム粒子分散液40Lを反応容器に供給し、当該銅被覆パラジウム粒子分散液を攪拌しながら、白金イオン含有溶液として0.01mol/LのKPtCl溶液2Lにクエン酸を1mol/Lとなるように添加したものを、チューブポンプを用いて90分間かけて滴下し、その後、銅被覆パラジウム粒子分散液と白金イオン含有溶液とを混合した混合液を1600分(24時間)攪拌してパラジウム粒子表面の銅を白金に置換した。
【0054】
(比較例3)
置換工程を行う代わりに、上記比較例2と同様に、滴下法による置換反応を行い、その後の電位走査工程において、作用極に対して三角波信号パターンの電位印加を、0.4〜1.0V(vs.RHE)の電位範囲において、電位走査速度60mV/秒で、3000サイクル実施したこと以外は実施例1と同様にコアシェル触媒を製造した。
【0055】
[白金質量活性評価]
実施例1〜8、比較例1〜3で得られたコアシェル触媒をそれぞれ30mgずつ採取し、それぞれのコアシェル触媒を、5%ナフィオン(登録商標)分散液131μL、超純水30mL、及びイソプロパノール7.5mLの混合溶液に分散し、触媒インクを作製した。当該触媒インクを回転ディスク電極(RDE)のグラッシーカーボン電極上に塗布し、自然乾燥させた。
そして、それぞれのコアシェル触媒について酸素還元反応(ORR)測定を行った。
ORR測定条件を下記に示す。
・電解液:0.1mol/L 過塩素酸水溶液(事前に酸素ガスでバブリングし酸素飽和したもの)
・雰囲気:酸素雰囲気下
・走査速度:10mV/秒
・電位走査範囲:1.05〜0.05V(vs.RHE)
・回転数:1600rpm
ORR測定により得られた酸素還元波からそれぞれのコアシェル触媒における白金の単位質量当たりの触媒活性(MA)を算出した。
コアシェル触媒における白金の単位質量当たりの触媒活性(A/g−Pt)は、ORR測定により得られた酸素還元波において、1.05V(vs.RHE)→0.05V(vs.RHE)→1.05V(vs.RHE)の電位走査を1サイクルとする電位走査の、2サイクル目の0.05V(vs.RHE)から1.05V(vs.RHE)への電位走査時の0.9V(vs.RHE)の電流値を酸素還元電流(I0.9)、0.3V(vs.RHE)の電流値を拡散限界電流(Ilim)とし、次式(1)から活性化支配電流(Ik)を求め、グラッシーカーボン電極上に塗布したコアシェル触媒に含まれる白金量(g)でIk(A)を除することにより算出した。なお、コアシェル触媒に含まれる白金量(g)は、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)でコアシェル触媒の白金量(質量%)を測定しておき、上記触媒インクの塗布量から算出した。
[式(1)]
Ik=(Ilim×I0.9)/(Ilim−I0.9
上記式(1)において各符号の意味は次の通りである。
Ik:活性化支配電流(A)
lim:拡散限界電流(A)
0.9:酸素還元電流(A)
白金質量活性の測定結果を表1に示す。
【0056】
[発電性能試験]
実施例1〜8、比較例1〜3で得られたコアシェル触媒をそれぞれ採取し、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(商品名:Nafion、DuPont社製)と、エタノール、水を攪拌混合し、触媒インクを調製した。
パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜の両面に上記触媒インクをスプレー塗布した。そして、上記触媒インクを乾燥させ、触媒層を形成し、膜触媒層接合体を得た。
得られた膜触媒層接合体を、ガス拡散層用カーボンペーパーで挟持し、熱圧着して、膜電極接合体を得た。さらに、膜電極接合体を、2枚のセパレータ(カーボン製)で挟持し、燃料電池を作製した。
得られた燃料電池を、下記条件にて発電させた。
・アノードガス:相対湿度(RH)100%(バブラ露点80℃)の水素ガス
・カソードガス:相対湿度(RH)100%(バブラ露点80℃)の純酸素
・セル温度(冷却水温度):80℃
発電により電流密度−電圧曲線を得た。実施例1〜8、比較例1〜3における電流密度2.0A/cmの時の電圧を表1に示す。また、実施例1、比較例1〜3における電流密度−電圧曲線の結果を図6に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、コアシェル触媒の白金質量活性は、実施例1が720A/g−Pt、実施例2が700A/g−Pt、実施例3が710A/g−Pt、実施例4が710A/g−Pt、実施例5が700A/g−Pt、実施例6が720A/g−Pt、実施例7が720A/g−Pt、実施例8が720A/g−Pt、比較例1が750A/g−Pt、比較例2が670A/g−Pt、比較例3が650A/g−Ptであった。
また、表1に示すように、電流密度2.0A/cmの時の電圧は実施例1が665mV、実施例2が660mV、実施例3が660mV、実施例4が660mV、実施例5が655mV、実施例6が665mV、実施例7が660mV、実施例8が660mV、比較例1が610mV、比較例2が585mV、比較例3が595mVであることがわかった。
【0059】
[白金質量活性と発電性能の関係]
マイクロリアクターを用いた比較例1と滴下法を行った比較例2〜3とを比較すると、白金質量活性については、比較例1の方が、比較例2〜3よりも約12〜15%高いことがわかる。しかし、発電性能については、比較例1は比較例2〜3よりも約2〜4%しか高くないことがわかる。したがって、マイクロリアクターを用いたコアシェル触媒の製造方法では、電位走査工程を行わない場合、コアシェル触媒の白金質量活性に相当する発電性能が、膜電極接合体では得られないことがわかる。
また、滴下法を行った比較例2及び比較例3の電流密度2.0A/cmの時の電圧について比較すると、電位走査を行っていない比較例2と比較して、電位走査工程を行った比較例3は、発電性能が約2%しか向上しないことがわかる。
一方、マイクロリアクターを用い、且つ、電位走査工程を行った実施例1〜8と、マイクロリアクターを用いたが、電位走査工程を行っていない比較例1の電流密度2.0A/cmの時の電圧を比較すると、実施例1〜8は、比較例1と比較して、発電性能が約7〜9%も向上することがわかる。なお、実施例1〜8よりも比較例1の方が、白金質量活性が高いのは、実施例1〜8では、電位走査工程によりシェル被覆パラジウム粒子表面に露出したパラジウムが溶出したためであると推察される。
したがって、滴下法で得られたコアシェル触媒は、電位走査工程を行っても、発電性能をほとんど向上させることができないが、本発明においては、電位走査工程を行うことにより、コアシェル触媒の発電性能を向上させることができたことがわかる。
【符号の説明】
【0060】
10 第1の供給流路
20 第2の供給流路
30、40 ポンプ
50 合流部(微小空間)
60 排出流路
100 マイクロリアクター
図1
図2
図3
図4
図5
図6