【実施例】
【0016】
(実施例1)
上記粒子状物質検出装置にかかる実施例について
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示すごとく、粒子状物質検出装置1は、被堆積部22に粒子状物質6が堆積することによる電気的特性の変化に応じて電気信号の出力を変化させる粒子量検出手段2と、排ガスの温度を検出する温度検出手段3と、粒子状物質6の堆積量を判定するコントロールユニット4と、被堆積部22を加熱する加熱手段24とを備えている。
【0017】
図2に示すごとく、粒子量検出手段2は、内燃機関5から排出される排ガスに含まれる粒子状物質6の一部を堆積させる被堆積部22と、被堆積部22上に互いに離れて配置された一対の対向電極23とを備えている。コントロールユニット4は、粒子量検出手段2によって出力された電気信号を基に、被堆積部22における粒子状物質6の堆積量を判定すると共に、温度検出手段3によって検出された排ガスの温度に関する情報を受信する。また、コントロールユニット4は、温度検出手段3によって検出される排ガス温度が100℃以下となる内燃機関5の冷間始動時において、加熱手段24によって、被堆積部22を300℃〜800℃に加熱する制御を行う。
【0018】
以下、さらに詳細に説明する。
図1に示すごとく、粒子状物質検出装置1は、自動車に搭載された内燃機関5から、排気管53を通じて排出される排ガスに含まれる粒子状物質6を検出するためのものである。本例の内燃機関5は、過給器51を搭載したディーゼルエンジンである。また、内燃機関5に接続された排気管53には、酸化触媒521(DOC)及びパティキュレートフィルタ522(DPF)を備えた浄化システム52が設けられている。
【0019】
粒子状物質検出装置1は、排ガスに含まれる粒子状物質6の量を検出する粒子量検出手段2と、排気管53を流通する排ガスの温度を検出する温度検出手段3と、粒子量検出手段2から出力された電気信号及び温度検出手段3から出力された温度情報を受信するコントロールユニット4とを備えている。
【0020】
温度検出手段3は、排気管53における浄化システム52の上流側に設けてある。温度検出手段3は、感温素子を備えた温度センサからなり、排気管53を流通する排ガスの温度を検出可能に構成されている。尚、本例においては、温度検出手段3によって、排ガスの温度を検出したが、排気管53の温度を検出してもよい。
【0021】
図2及び
図3に示すごとく、粒子量検出手段2は、排気管53における浄化システム52の下流側に設けてある。粒子量検出手段2は、粒子状物質6の量を検出するPMセンサであり、粒子状物質6の一部を捕集する捕集部21と、捕集部21を加熱する加熱手段24とを備えている。
【0022】
捕集部21は、排ガス中の粒子状物質6を堆積させる被堆積部22と、被堆積部22上に互いに離れて配置された一対の対向電極23とを備えている。被堆積部22は、略長方形の板状をなしており、電気絶縁性を備えたセラミックス材料によって形成されている。セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ベリリア、ムライト、窒化珪素等を用いることができる。また、被堆積部22における表面粗度は、10点平均粗さにおいて、2.0μmとした。本例において、10点平均粗さの基準長さは、200μmとした。また、基準長さは、JIS B 0633に準ずるものであってもよい。
【0023】
一対の対向電極23は、導電性材料からなり、被堆積部22の表面に形成されている。一対の対向電極23は、被堆積部22における長手方向と平行に形成された電極基部231と、電極基部231から長手方向と直交して延設された複数の櫛歯部232とをそれぞれ有している。各対向電極23は、電極基部231が互いに向かい合うように配置されると共に、一方の対向電極23における櫛歯部232の間に、他方の対向電極23における櫛歯部232が入り込むように配置されている。
【0024】
図3に示すごとく、被堆積部22に粒子状物質6が堆積し、一対の対向電極23の間が粒子状物質6によって導通されることで、一対の対向電極23間の電気抵抗値が低減する。一対の対向電極23の間には電圧が印加されており、一対の対向電極23間の電気抵抗値の変化に伴い、対向電極23間を流れる電気信号としての電流量が変化する。これにより、粒子量検出手段2からコントロールユニット4へと出力される電流値が変化する。つまり、粒子量検出手段2から出力される電流値は、被堆積部22における粒子状物質6の堆積量に応じて変化するものであり、粒子状物質6の堆積量に関する情報を有するものである。コントロールユニット4は、シャント抵抗を備えており、出力された電流値とシャント抵抗の積で算出される電圧をECU(エンジンコントロールユニット)へと出力する。
【0025】
図2に示すごとく、加熱手段24は、電源から供給される電流を流通することで発熱する熱線241と、熱線241が配設された絶縁性材料からなる加熱基部242とを有している。加熱手段24は、被堆積部22における一対の対向電極23が配置された側と反対側に、被堆積部22と積層して配置されている。加熱手段24は、内燃機関5の冷間始動時に被堆積部22を加熱する予備加熱と、捕集部21に捕集された粒子状物質6を除去するための高温加熱とを行うように構成されている。
【0026】
予備加熱の温度は、300℃〜800℃に設定することができる。本例においては、予備加熱の温度を500℃とした。予備加熱は、温度検出手段3によって検出された排ガスの温度が100℃以下の状態において行われる。
【0027】
また、高温加熱の温度は、800℃に設定してある。高温加熱は、粒子状物質6の堆積量を検出した後や、被堆積部22に粒子状物質6が十分堆積せずに内燃機関5の運転が停止した場合等に、新たに粒子状物質6を堆積させる前のタイミングにおいて行われる。
【0028】
本例のコントロールユニット4は、加熱手段24による加熱の制御と、電気信号の出力に基づいて被堆積部22における粒子状物質6の堆積量及び、捕集時間中に排出された粒子状物質6の総排出量の算出を行う。
【0029】
図4に示すごとく、本例において、コントロールユニット4による加熱手段24の制御は、温度検出手段3によって検出された温度情報を利用して行われる。
図4は、横軸を内燃機関の運転時間として、縦軸を加熱手段24における加熱温度としたグラフである。内燃機関5の始動時(ts)、温度検出手段3によって内燃機関5から排出される排ガスの温度を検出する。このとき、排ガスの温度が100℃以下であった場合、コントロールユニット4は、冷間始動と判断し、加熱手段24を予備加熱状態とする。そして、内燃機関5の始動から所定の運転時間t1を超えるまでの間、加熱手段24による被堆積部22の予備加熱を継続する。本例においては、所定の運転時間t1を600秒とした。所定の運転時間t1が600秒を超えた際に、加熱手段24の予備加熱を終了する。本例においては、予備加熱が終了した後、加熱手段24を高温加熱状態として、被堆積部22上に堆積した粒子状物質6を燃焼除去する。運転時間t2において、被堆積部22の粒子状物質6の燃焼除去が完了すると、加熱手段24は加熱を終了し、捕集部21への粒子状物質6の補修を開始する。
【0030】
また、コントロールユニット4は、電気信号の出力と被堆積部22における粒子状物質6の堆積量との関係を示した堆積量関係データと、被堆積部22における粒子状物質6の堆積量と排ガスに含まれる粒子状物質6の総排出量との関係を示した排出量関係データとを記憶している。堆積量関係データ及び排出量関係データは、内燃機関5において確認試験を実施し、予め求めたものである。コントロールユニット4は、電気信号の出力を基に堆積量関係データを用いて粒子状物質6の堆積量を算出する。そして、算出された堆積量を基に排出量関係データを用いて粒子状物質6の総排出量を算出することができる。これにより、算出された粒子状物質6の総排出量が、コントロールユニット4に出力される。
【0031】
次に本例の作用効果について説明する。
粒子状物質検出装置1においては、内燃機関5の冷間始動時に、加熱手段24によって、被堆積部22を300℃〜800℃に加熱する制御を行う。そのため、粒子量検出手段2における被水割れ及び凝集水の付着を抑制することができる。すなわち、被堆積部22を300℃〜800℃の間に加熱すると、被堆積部22と凝集水との間において、ライデンフロスト現象を生じさせることができる。
【0032】
そのため、被堆積部22が被水したとしても、ライデンフロスト現象によって被堆積部22と凝集水とは接触することなく、被堆積部22から凝集水が滑り落ちる。したがって、被堆積部22における凝集水の付着を防止すると共に、凝集水が付着することによって被堆積部22が急冷されることを抑制できる。これにより、被堆積部22に、凝集水に含まれた種々の成分が残留物として付着すること、及び被堆積部22における被水割れを抑制することができる。
【0033】
また、粒子量検出手段2は、一対の対向電極23間における電気抵抗の変化に応じて電気信号の出力を変化させる。一対の対向電極23間における電気抵抗値の変化を利用する電気抵抗式の粒子量検出手段2は、他の形式の粒子量検出手段2と比べて粒子状物質6の検出精度が高く、ばらつきが少ない。したがって、粒子状物質6の堆積量の検出精度をより向上することができる。
【0034】
また、加熱手段24による被堆積部22の加熱は、内燃機関5の始動時tsから所定の運転時間t1を経過するまで継続する。そのため、排ガスにおいて凝集水が発生しなくなる所定の運転時間t1まで加熱を継続し、被堆積部22における凝集水の付着を確実に防止することができる。
【0035】
また、本例においては、加熱手段24による被堆積部22の予備加熱のタイミングを、運転時間によって制御したが、排ガス又は排気管の温度によって制御してもよい。このとき、内燃機関5の始動時から、温度検出手段3によって検出される排ガス温度が100℃を超えるまで、又は温度検出手段3によって検出される排気管53温度が60℃を超えるまで継続する。この場合には、排ガスにおいて凝集水が発生しなくなる温度まで排ガス又は排気管53の温度が上昇するまで加熱を継続するため、被堆積部22における被水割れ及び凝集水の付着を確実に防止することができる。
【0036】
また、被堆積部22は、セラミックス材料からなる。そのため、被堆積部22における耐熱性を向上すると共に、被堆積部22の加熱時における凝集水の付着をより防止することができる。
【0037】
また、被堆積部22の表面粗度Rzは、10点平均粗さにおいて、0.01μm≦Rz≦4.0μmである。そのため、被堆積部22における凝集水の付着をより確実に防止することができる。尚、表面粗度Rzが0.01μm未満の場合には、凝集水の付着を防止するためには有利であるが、加工により所望の表面粗度を得られない場合がある。また、表面粗度Rzが4.0μmを超える場合、凝集水と被堆積部22との接触角が大きくなり、濡れ性が増し、ライデンフロスト現象が発生しなくなる場合がある。
【0038】
以上のごとく、本例の粒子状物質検出装置1によれば、粒子量検出手段2における被水割れ及び残留物の付着を抑制することができる。
【0039】
(確認試験1)
本確認試験においては、加熱手段24による加熱温度を変更した際の残留物及び被水割れの有無の確認を行った。
残留物の確認試験は、実施例1に示した粒子量検出手段2において、加熱手段24の加熱温度を100℃〜900℃の間において100℃刻みで設定し、各温度に加熱された被堆積部22に凝集水を滴下する。尚、凝集水は、Mn(No
3)
2、MgSO
4等の不純物を約6wt%含むものである。凝集水の滴下量は、1μl及び2μlの2パターンとした。
【0040】
被堆積部22に凝集水を滴下した後、被堆積部22表面における成分分析を実施し、残留物の有無を確認した。表1における残留物に関する判定における「◎」は、1μl及び2μlのいずれにおいても残留物が検出されなかったことを示す。また、「○」は、1μlでは残留物が検出されず、2μlでは残留物が検出されたことを示す。また、「×」は、1μl及び2μlのいずれにおいても残留物が検出されたことを示す。
【0041】
被水割れの確認試験は、残留物の確認試験と同様に、実施例1に示した粒子量検出手段2において、加熱手段24の加熱温度を100℃〜900℃の間において100℃刻みで設定し、各温度に加熱された被堆積部22に凝集水を滴下する。凝集水の滴下量は、1μl及び1.5μlの2パターンとした。
【0042】
試験試料は、各温度に10個ずつ用意し、被堆積部22に凝集水を滴下した後、被水割れの有無を確認した。表1の被水割れに関する判定における「◎」は、1μl及び1.5μlのいずれにおいても被水割れが確認されなかったことを示す。また、「○」は、1μlでは被水割れが確認されず、1.5μlでは1つ以上の試験試料において被水割れが確認されたことを示す。また、「×」は、1μl及び2μlのいずれにおいても1つ以上の試験試料において被水割れが確認されたことを示す。
【0043】
また、表1の総合判定について、「◎」は、残留物の判定及び被水割れの判定のいずれも「◎」であったことを示す。また、「○」は、残留物の判定及び被水割れの判定のいずれか一方が「◎」で他方が「○」であったことを示す。また、「×」は、残留物の判定及び被水割れの判定のいずれか一方が「×」であったことを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すごとく、残留物の確認試験においては、加熱手段24における加熱温度を300℃〜900℃とした場合には、1μlの凝集水を滴下しても残留物が確認されなかった。また、加熱手段24における加熱温度を400℃〜900℃とした場合には、2μlの凝集水を滴下しても残留物が確認されなかった。つまり、加熱手段24における加熱温度を300℃〜900℃とすることで残留物の付着を抑制できることが確認された。また、加熱手段24における加熱温度を400℃〜900℃とすることで、残留物の付着を抑制する効果が向上し、より多くの凝集水を滴下した場合にも、残留物の付着を抑制できることが確認された。
【0046】
また、残留物の確認試験においては、加熱手段24における加熱温度が100℃〜800℃の範囲では、1μlの凝集水を滴下しても被水割れが確認されなかった。また、加熱手段24における加熱温度が100℃〜700℃の範囲では、1.5μlの凝集水を滴下しても被水割れが確認されなかった。つまり、加熱手段24における加熱温度を100℃〜800℃とすることで被水割れの発生を抑制できることが確認された。また、加熱手段24における加熱温度を100℃〜700℃とすることで、被水割れの発生を抑制する効果が向上し、より多くの凝集水を滴下した場合にも、被水割れの発生を抑制できることが確認された。
【0047】
このように、加熱手段24における加熱温度を300℃〜800℃の範囲内に設定することで、残留物の付着の抑制効果と、及び被水割れの発生の抑制効果を得ることができる。また、加熱手段24における加熱温度を400℃〜700℃の範囲内に設定することで、残留物の付着の抑制効果と、及び被水割れの発生の抑制効果をさらに向上することができる。
【0048】
(確認試験2)
本確認試験においては、被堆積部22における表面粗度を変化させた際の残留物の有無の確認を行った。
残留物の確認試験は、表面粗度Rzを2.0μm、2.5μm、4.0μm、4.5μm、5.0μmとした粒子量検出手段を用いた。各粒子量検出手段は、加熱手段24の加熱温度を250℃〜500℃の間においては50℃刻みで、500℃〜800℃の間においては100℃刻みで設定し、各温度に加熱された被堆積部22に凝集水を滴下する。尚、凝集水は、Mnを約6wt%含むものである。凝集水の滴下量は、0.3μlとした。
【0049】
【表2】
【0050】
被堆積部22に凝集水を滴下した後、被堆積部22の表面における成分分析による残留物の有無の確認と、電極間における短絡の有無の確認を行った。表2は、各温度及び各表面粗度Rzにおける試験結果を示すものである。表2において、「○」は、残留物及び電極間の短絡のいずれも確認されなかったことを示す。また、「×」は、残留物及び電極間の短絡のいずれか一方又は両方が確認されたことを示す。
【0051】
加熱温度が350℃〜800℃の範囲においては、いずれの表面粗度Rzにおいても、残留物及び電極間の短絡は確認されなかった。また、加熱温度が300℃の場合には、表面粗度Rzが4.0μm以下において、残留物及び電極間の短絡は確認されなかった。また、加熱温度が250度の場合には、いずれの表面粗度Rzにおいても残留物及び電極間の短絡の少なくとも一方が生じた。
【0052】
このように、表面粗度Rzを4.0μm以下とすることにより、加熱温度を300℃〜800℃の範囲内において、残留物の付着の抑制効果をより確実に得ることができる。また、表面粗度Rzは、4.0μm以下でより小さいことが望ましいが、生産性の観点から0.01μm以上とすることが好ましい。